信 教 の 自 由 に 対 す る ﹁ 制 約
﹂ お よ び そ の 周 辺
安 西 文 雄
一 問題 の所 在 二 自由 に対 する
﹁制 約﹂ およ びそ の周 辺︱
︱試 論 三 世俗 の一 般的 規制 によ る負 担︱
︱概 論 四 世俗 の一 般的 規制 によ る負 担︱
︱ア メリ カの 場合 五 世俗 の一 般的 規制 によ る負 担︱
︱わ が国 の場 合 六 む す び 一
問題 の所 在
⑴ 人権 問題 が含 まれ る事 案に おい ては
、領 域に もよ るが 権利 に対 する 制約 の有 無が 重要 なポ イン トと なる こと が多 く、 それ によ って 事案 の扱 いが 異な る、 とす るの が通 例で
( )
ある
。制 約が あれ ば、 それ が正 当化 され るか 否か を めぐ って 合憲 性審 査の プロ セス に入 るが
、制 約が なけ れば それ 以上 検討 を加 える 必要 はな い。 この よう に制 約は
、審 査プ ロセ スに おい て重 要な 分岐 点で ある はず であ り、 かつ
、た いて いの 事案 にお いて
、そ の有 無は 比較 的明 瞭で ある
。
⑵ とこ ろが 信教 の自 由の 領域 にお い
( )
ては
、制 約の 有無 自体 が必 ずし も明 瞭で ない ケー スが みら れる
。た とえ ば、 エホ バの 証人 剣道 受講 拒否 事件
︵最 判平 成八 年三 月八 日民 集五
〇巻 三号 四六 九頁 で︶ ある
。 神戸 市立 高専 にお いて
、エ ホバ の証 人の 信者 であ る生 徒が
、そ の信 仰か らし て格 技で ある 剣道 を受 講で きず
、し たが って 体育 科目 の単 位を 取得 でき なか った
。同 様の こと が二 年続 けて 生じ
、各 年度 にお いて 原級 留置 処分 を受 け、 つい に退 学処 分に 付さ れた ので
、こ れら の処 分の 取消 しな どを 求め た事 案で ある
。 最高 裁は
、本 件各 処分 を違 法と した 控訴 審判 決を 支持 した が、 ここ にお いて 自由 に対 する 制約 の有 無に つき 微妙 な表 現を 用い る。
﹁本 件各 処分 は、 その 内容 それ 自体 にお いて 被上 告人
︵エ ホバ の証 人の 信者 であ る生 徒・ 筆者 注︶ に 信仰 上の 教義 に反 する 行動 を命 じた もの では なく
、そ の意 味で は、 被上 告人 の信 教の 自由 を直 接的 に制 約す るも の とは いえ ない
﹂。 そう 指摘 しつ つ、
﹁し かし
、被 上告 人が それ らに よる 重大 な不 利益 を避 ける ため に剣 道実 技の 履修 とい う自 己の 信仰 上の 教義 に反 する 行動 を採 るこ とを 余儀 なく させ られ ると いう 性質 を有 する もの であ った
﹂と 論 ずる
⑶ 。 本件 に関 して は、 まず 前提 とし て、 争点 とな った のが 剣道 履修 要請 その もの では なく
、退 学処 分、 原級 留置 処分 であ った こと が留 意さ
( )
れる
。し たが って 校長 の裁 量の 濫用
・逸 脱の 有無 に検 討の 目が 向け られ た。 しか し、 それ にし ても 判旨 にお いて
、本 件各 処分 はエ ホバ の証 人の 生徒 の﹁ 信教 の自 由を 直接 的に 制約 する もの とは いえ ない
﹂と する 部分 の意 味は
、つ かみ づら い。 直接 的な 制約 はな いと する ので ある から
、間 接的
・付 随的 制 約は ある とみ てい るの だろ
( )
うか
。そ れと も信 教の 自由 に関 して は、 直接 的に 加え られ たも のだ けが 制約 とな ると い う理 解を 前提 に、 本件 にお いて は制 約が そも そも ない
、と いっ てい るの だろ うか
。
⑷ ひる がえ って みて
、一 般に 信教 の自 由が 制約 され る場 合と し
( )
ては
、た とえ ば政 府が 宗教 信条 その もの を規 制 した り、 信仰 を告 白さ せた り、 ある いは 宗教 教義 の表 明行 為を 処罰 した り、 信仰 に基 づく 差別 を行 った りす るこ と
など が典 型と して
、あ るい は教 科書 的事 例と して あげ られ てい る。 こう いっ たこ とは 歴史 上み られ
、し たが って 現在 にお いて も反 省し
、か つ再 発を 警戒 すべ きで ある
。し かし
、あ から さま な宗 教迫 害的 事例 は、 幸い にし て過 去の もの とな りつ つあ る。 むし ろ、 制約 の有 無自 体が 必ず しも 明瞭 で はな い事 例、 とり わけ さき にあ げた エホ バの 証人 剣道 受講 拒否 事件 のよ うに
、世 俗の 一般 的義 務が
、結 果的 に特 定 宗教 の信 者に とり わけ 重い 負担 とな る場 合な ど、 より 微妙 な問 題が
、現 代的 争点 状況 とい える
。そ して そう いっ た もの に焦 点を 当て た考 究こ そが
、現 代に おけ る実 際的 課題 とな って いる ので ある
。教 科書 的事 例の 検討 は必 要で は ある が、 十分 では ない であ ろう
。
︵
︶ さし あた り、 松本 和彦
﹃基 本権 保障 の憲 法理 論﹄ 第一 部︵ 二〇
〇一
︶、 小山 剛﹃
﹁憲 法上 の権 利﹂ の作 法﹄
︵二
〇〇 九︶
、渡 辺康 行﹁ 憲法 訴訟 の現 状﹂ 公法 研究 七一 号一 頁以 下︵ 二〇
〇九
︶な どが 参考 にな る。
︵
︶ ここ では
、狭 義の 信教 の自 由の みを 検討 して おり
、政 教分 離は 念頭 にお いて いな い。
︵
︶ 川神 裕﹁ 判批
﹂最 高裁 判所 判例 解説 民事 編平 成八 年度
︵上
︶一 七四 頁以 下、 一八 四~ 一八 五頁
。
︵
︶ こう いっ た見 方を 示唆 する もの とし て、 宍戸 常寿
﹁﹃ 憲法 上の 権利
﹄の 解釈 枠組 み﹂ 安西 文雄 ほか
﹃憲 法学 の現 代的 論点
﹇第 二版
﹈﹄ 二三 一 頁以 下、 二四 九頁
︵二
〇〇 九︶
。
︵
︶ Se eE mp lo ym en tD iv is io nv .S mi th ,4 94 U. S. 87 2, 87 7︵ 19 90
︶.
二 自由 に対 する
﹁制 約﹂ およ びそ の周 辺︱
︱試 論
⑴ 憲法 の権 利保 障規 定は
、そ の基 礎に 一定 の憲 法的 価値 をも つは ずで
(( )
ある
。信 教の 自由 保障 規定 につ いて いう なら ば、 見解 にも よ
() )
るが
、各 人の 信教 の選 択、 実践 にお ける 自律 性と いう 価値 であ ろう
。こ れを もと にし て権 利保 障規 定の 保障 内容 など が解 釈上 明ら かに され てゆ く。
では
、い かな る公 的行 為が 信教 の自 由の 制約 と構 成さ れる ので あろ うか
。信 教の 自由 側に とっ てど れほ ど密 度の 濃い 保護 法益 が問 題に なっ てい るか
、そ れに 対し て
(* )
負担 を課 す公 的行 為の 性格 がい かな るも のか
、負 担自 体が どれ ほど 厳し いも のか
、な どの 判断 要素 を考 慮に
(+ )
入れ
、一 定の レヴ ェル を超 えた 場合
、制 約が ある とさ れる はず であ る。 比喩 的に 表現 する なら ば、 信教 の自 由保 障規 定が 基礎 にお く価 値に 対し て課 され る負 担が
、一 定の
( )
閾値 に達 し
10
た場 合に のみ
、制 約あ りと 把握 され るこ とと なる
。 たと えば
、各 人の 信教 の実 践に 対す る不 利な 影響 が、 ごく 軽微 な程 度に 及ぶ 場合
、こ れを もっ て制 約が ある とは なさ れな いで あろ う。 これ に対 し特 定の 宗教 の信 者で ある こと を理 由に 公務 員と して の採 用を 拒否 する など の場 合、 当該 公的 行為 が特 定宗 教を 狙い うち にす るも ので ある し、 負担 自体 重い
。こ うい った 点を 考慮 して
、制 約が 認 定さ れる こと とな ろう
。
⑵ 以上 の構 図で 考察 する なら ば、 自由 に対 する 制約 があ ると され る場 合で あっ ても
、厳 しい 制約 から 緩や かな 制約 まで
、そ の程 度は グラ デー ショ ンを なし て
( )
いる
。ま た、 自由 に対 する 制約 があ ると まで いえ ない 場合 であ って
11
も、 負担 とし ては 相当 程度
、あ るい は一 定程 度あ り、 自由 保障 規定 との 間で
﹁緊 張関 係﹂ を生 じ、 した がっ て自 由 保障 規定 の基 礎に ある 憲法 的価 値へ の配 慮が 求め られ る、 ある いは 配慮 が望 まし い場 合が あ
( )
ろう
。さ らに は、 負担
12
すら なく
、し たが って 配慮 も必 要で ない もの まで あり
、こ れま たグ ラデ ーシ ョン をな して いる とい える
。少 なく と も、 制約 があ るか 否か によ る二 分法 で割 り切 るこ とは
、問 題の 認識 とし て修 正を 要す るこ とと なろ う。
︵(
︶ Sc ho ck ,P er mi ss iv eD is cr im in at io na nd th eD ec li ne of Re li gi on Cl au se Ju ri sp ru de nc e: Th eW ea ri ng ou to ft he Jo in ts ,7 7U .CO
LO
.L .RE .V
22 9, 25 6
︵2 00 6︶ の記 述に ヒン トを 得て いる
。
︵)
︶ のち にみ るよ うに
、ア メリ カの 実質 的中 立性 論の 立場 では 本文 で述 べた よう な価 値論 にな ろう が、 形式 的中 立性 論で は異 なる
。こ の立 場は
平等 保護 の性 格を もつ もの とし て信 教の 自由 保障 規定 をと らえ てい る。
︵*
︶ 本稿 にお いて
﹁負 担﹂ とい う概 念は
、広 くと らえ てい る。 すな わち
、﹁ 制約
﹂に 該当 する 場合 も、 しな い場 合も
、と もに 包摂 する もの とし て扱 って いる
。
︵+
︶ Mc Co nn el l, Ac co mm od at io no fR el ig io n, 19 85 SU P. CT
.R
EV
.1 ,3 0の 記述 にヒ ント を得 てい る。
︵
︶ 小山
・前 出注
︵
︶三 六頁
。
︵ 10
︶ わが 国の 最高 裁は
、猿 払判 決︵ 最大 判昭 和四 九年 一一 月六 日刑 集二 八巻 九号 三九 三頁
︶に おい て、 直接 的制 約の ほか に間 接的
・付 随的 制約 が 11 ある とし て制 約の 類型 分け を行 って いる
。こ れは 制約 があ ると され る枠 の内 にお ける 分類 であ る。
︵
︶ もっ とも
、自 由に 対す る制 約が ある 場合 もな い場 合も
、自 由に 対す る何 らか の負 担が あれ ば、 自由 保障 規定 の基 礎に ある 憲法 的価 値へ の配 慮 12 が求 めら れる はず であ る。 しか し、 制約 があ ると され れば
、憲 法的 価値 への 配慮 の要 請は 強く
、合 憲性 審査 に付 すと いう 形で 具体 化さ れる
。 これ に対 し、 制約 がな いと され れば
、原 則と して 合憲 性審 査に 入ら ない ので
、そ れ以 外の 形態 での 配慮 とい うこ とに なろ う。 のち にみ るよ う に、 憲法 上許 容さ れる アコ モデ ーシ ョン はこ の配 慮を なす もの とし て位 置づ けら れる
。本 稿で はこ うい う理 解を 前提 とし つつ
、制 約が ない 場 合で も配 慮が 求め られ る場 合が ある
、と いう 表現 を用 いた
。
三 世俗 の一 般的 規制 によ る負 担︱
︱概 論
⑴ 先に 若干 言及 した よう に、 公権 力が 特定 宗教 を狙 いう ちに して 規制 を加 える 場合 は、 現代 にお いて はそ れほ ど多 くは ない
。む しろ 世俗 の一 般的 規制
・義 務賦 課行 為の 結果 とし て、 特定 の宗 教に 対し てと りわ け重 い負 担が 課 され るこ とに なる 場合
、そ れを 信教 の自 由の 制約 とみ るか 否か が、 より 実際 的で 重要 な問 題点 とし て浮 上し てい る。 わが 国に おい ても
、学 説は 比較 法的 知見 を組 み入 れて この 点に 対し 関心 を払 って いる
。そ の例 とし て講 座憲 法学 に掲 載さ れた 安念 潤司 論文
﹁信 教の
( )
自由
﹂を あげ るこ とが でき よう
。
13
同論 文に よれ ば、 二つ のア プロ ーチ が対 置さ れる
。一 方に は﹁ 平等 取扱 説﹂ があ る。 この 立場 は﹁ 法令 が、 明示