ドイツにおける経営罰の意義と構造(二・完) : 懲 戒処分法理の比較法的研究
著者 坂井 岳夫
雑誌名 同志社法學
巻 61
号 3
ページ 137‑200
発行年 2009‑07‑31
権利 同志社法學會
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000011785
ドイツにおける経営罰の意義と構造(二・完)―懲戒処分法理の比較法的研究一三七同志社法学 六一巻三号
ドイツにおける経営罰の意義と構造(二・完) ―懲戒処分法理の比較法的研究
坂 井 岳 夫
(一〇八七)
目 次はじめに
第一節 問題の所在
第二節 本稿の目的第一章 経営罰の法的性質
第一節 問題の所在
第二節 立法および学説・判例の展開
第三節 自主法規説
第四節 契約説
第五節 経営罰否定説
ドイツにおける経営罰の意義と構造(二・完)―懲戒処分法理の比較法的研究一三八同志社法学 六一巻三号
第六節 小 括
果効・件要の罰営経章二第 (以)号一巻一六上
第一節 自主法規説における経営罰の要件・効果
第二節 契約説における経営罰の要件・効果第三章 経営罰の形態
第一節 戒告・譴責
第二節 制裁金
第三節 人事上の措置
―
解雇を中心に第四節 小 括第四章 ドイツ法の総括と日本法への示唆
第一節 ドイツ法の総括
第二節 日本法への示唆と今後の課題むすびに代えて
(以上本号)
第二章 経営罰の要件・効果 第一節 自主法規説における経営罰の要件・効果 一 経営罰の要件 経営罰の要件については、経営罰の規制に関する理論的根拠を明確に提示する連邦労働裁判所一九六七年九月一二日
判決 (
が先例的意義を有している 127)(
e ch tli aa st ts ch re
治て、法(国家原則とし拠罰根判決は、経営の。規制に関する同 128)(一〇八八)
ドイツにおける経営罰の意義と構造(二・完)―懲戒処分法理の比較法的研究一三九同志社法学 六一巻三号
G ru nd sä tz e
)および事業所委員会の共同決定を援用している。同判決において、法治国家原則が、経営罰と労働者の基本権との抵触を回避するための前提として言及されていることは、第一章第三節四⑶⒝において指摘したとおりである。なお、ここで断っておかなければならないのは、同判決が経営罰の要件についての一般論を展開するものではないということである。しかし、法治国家原則の援用の下で経営罰の適法性について詳細な検討を行う判旨は、その背後に
ある経営罰の賦課に際して裁判所の要求するところの要件を窺い知るのに十分であるように思われる。実際、同判決の判示内容は、連邦労働裁判所判例集(BAGE)の判示事項として要件の形式で抽象化され、その後の学説においても
参照されるところとなっている。
すなわち、同判決からは、①経営罰規程が有効に制定され、周知されていること、②経営罰規程に、罰則(
B uß e
)の賦課の前提となる要件が定められ、許容される罰則が規定されていること、③法治国家的で正式な手続が定められ、遵守されていること、④法的な聴取が認められ、代理が許可されていること、⑤個々の罰則の賦課についても、事業
所委員会が共同決定という意味で関与させられていること、という経営罰の要件が導かれている (
照らその相当性を審査する判旨かはい、⑥経営罰が労働者の行動にてつまい項には含にていなれも裁のの金額制、の 。事示判の記上、たま 129)
らして相当なものであること、という要件を抽出することも可能と解される。学説の中にも、経営罰は種類および程度
において相当なものでなければならない、すなわち制裁の対象となる行動および労働者の過失と対比して不均衡があってはならない、と指摘するものがある (
。 130)
上記の要件のうち、①~④および⑥は、理論的には法治国家原則から導かれるものと解される。一方、⑤の要件は、事業所委員会の共同決定について定める事業所組織法八七条一項一号から導かれるものである。この点について若干補
足すると、事業所組織法八七条一項一号は、事業所委員会の共同決定の対象として、﹁事業所秩序および事業所におけ
(一〇八九)
ドイツにおける経営罰の意義と構造(二・完)―懲戒処分法理の比較法的研究一四〇同志社法学 六一巻三号
る労働者の行動に関する問題﹂を挙げている。この点、個々の事案における経営罰の賦課が﹁事業所秩序および事業所
における労働者の行動に関する問題﹂に該当するか否かについては、少なくともその文理からは一義的に明確とは言い難いため、解釈の余地が生じることになる。たしかに、個々の事案における経営罰の賦課は、労働者個人に関わる問題
である。しかし、そのような個々の事案について集団的な関連が問題とされなければならないのではなく、むしろ集団的な秩序に違反したということ自体に集団的な関連が見出されるという理由から、共同決定の対象になるものと解され
ている (
。 131)
続いては、経営罰の要件に関する連邦労働裁判所一九六七年九月一二日判決の判旨により、上記の要件の具体的な運
用の在り方について検討する。
二 判 例
―
連邦労働裁判所一九六七年九月一二日判決 (132)
⑴ 事 実 第一章第三節二⑵⒜を参照。
⑵ 判 旨(破棄差戻)一﹁当法廷が⋮⋮現行法上も経営罰の導入および賦課に関する規制が原則として許容されるという支配的見解を支持す
ることについて危惧を抱かないとしても、個々の事案における当該規制の有効要件として、一般的な法治国家原則の遵守も求められる。それは、とりわけ制裁が課される局面において、遵守されるべきである。それに加えて、事業所委員
会の共同決定に関する事業所組織法の規定も、遵守されるべきである。﹂
(一〇九〇)
ドイツにおける経営罰の意義と構造(二・完)―懲戒処分法理の比較法的研究一四一同志社法学 六一巻三号 二⑴﹁法治国家原則には、まず、経営罰規程の正式な開示が含まれる。⋮⋮原告の処分の時点で適用されていた⋮⋮就業規則は、有効に開示されていた。﹂
⑵﹁原告に対する経営罰は、被告において組織された秩序委員会(
O rd nu ng sa us sc hu ss
)での聴聞会の後に、事業所委員会の同意を得た上で課されたものであ︹り、︺⋮⋮経営罰の賦課について同数の委員による秩序委員会が組織され、本件において正式に組織された機関として運用されてもいた⋮⋮。﹂⑶﹁原告は⋮⋮秩序委員会の審議に召喚されていた。彼は、経営罰規程がそれを妨げていなかったことから、この審議
において代理人を立てることができた。彼が召喚に応じなかった以上、経営罰の賦課に対して、その限りにおいても法治国家における手続法的な危惧は存在しなかった。﹂
⑷﹁さらに、⋮⋮事業所委員会も本件において再度の聴取を受け、そしてとりわけ⋮⋮同意をしていることが必要である。⋮⋮使用者はすでにこの点を十分明らかにしていた。﹂
三⑴﹁原告は、度重なる怠惰な労務給付を理由に、経営罰を課されている。そのような違反について、経営罰規程は、経営罰を明確に定めている⋮⋮。同様に、制裁の要件は、明確に規定されている。いずれの労働者も、この規定によっ
て、労働時間を遵守すべきことを義務付けられている。﹂
⑵﹁︹制裁金に関する︺事後的審査の可能性は、法治国家の見地から、罰則の額にも妥当する。しかし、その点について、本件では、同様に危惧が申し立てられるべきではない。というのは、現在問題となっている経営罰が課されることにな
る前に、原告が、怠惰な労務給付についてのかつての事情を理由に、すでに警告を受けていたということに争いはないからである。その際に就業規則の意義における戒告が問題であったのかということ、および、それが正式に規定に置か
れていたのかということは、審査される必要がない。というのは、いずれにせよ被告の側から原告に対する非難が存在
(一〇九一)
ドイツにおける経営罰の意義と構造(二・完)―懲戒処分法理の比較法的研究一四二同志社法学 六一巻三号
し、それに基づいて、それが繰り返された場合に、本件において被告が行ったように、標準的な経営罰ではなく、最も
重い経営罰(交替制勤務手当︹相当分の制裁金
―
筆者注︺)を課すということには、正当性が認められるからである。﹂判旨は、以上の諸点について経営罰の効力を否定すべき事情が存しないと判断した。その上で、判旨は、就業規則に
定められた経営罰の要件に該当する事実の存否については被告が立証責任を負うものであるとし、この点についての立証責任を原告に負わせていた原判決を破棄し、差し戻している。
⑶ 検 討
⒜ 判旨一は、経営罰の要件を導く際の理論的根拠を提示するものであり、そこでは上記のとおり法治国家原則と事業所委員会の共同決定が援用されている。続いて、判旨二・三において経営罰の要件に関する具体的判断が行われている。
上記の要件のうち、要件①は判旨二⑴において、要件②は判旨三⑴において、要件③は判旨二⑵において、要件④は判旨二⑶において、要件⑤は判旨二⑷において、要件⑥は判旨三⑵においてそれぞれ判断がなされている。これらの判旨
のうち、本事案との関係で特に検討の意義があるのは、要件③についての判旨二⑵および要件④についての判旨二⑶である。
まず、判旨二⑵からは、本件において、労使同数の委員によって構成され経営罰の賦課について審議を行う秩序委員会が組織され、それが実質的に機能していたという点をもって、﹁法治国家的で正式な手続﹂の制定と遵守の要件が充
足されていることが読み取れる。なお、秩序委員会による手続は﹁法治国家的で正式な手続﹂の一例であり、その他の方法によって手続保障を図ることも可能と解される。また、判旨二⑶において、労働者が秩序委員会の召喚に応じずに
聴取の機会を逃したことについて手続的瑕疵を否定する判示は、この要件の手続保障としての意義を端的に示すもので
(一〇九二)
ドイツにおける経営罰の意義と構造(二・完)―懲戒処分法理の比較法的研究一四三同志社法学 六一巻三号 ある。
経営罰の要件についての裁判所のこのような態度は、一方で、経営罰の賦課に対する規制原理として掲げられている
法治国家原則からの論理的な帰結として理解することができる。すなわち、手続保障に関する基本規定との位置付けを与えられている(第一章第三節四⑶⒝ウ参照)基本法一九条四項を類推することで、経営罰の賦課に対する規制の指針
を得るという本判決の構成は、手続保障に重きを置いた規制手法と整合的だということである。他方で、手続保障に対する本判決の姿勢は、経営罰の法的性質に関する判例の理解とも密接に関連付けられるべきものである。すなわち、経
営罰を自主法規罰として把握し、そこに明確な制裁的性格を見出す自主法規説においては、その罰則権限の行使に際しての恣意性の排除が強く求められる。この点を重く見る本判決の態度は、人格の尊厳との関連において経営罰の許容性
そのものに疑義を投げかける議論に対して、法治国家原則の遵守を前提としてその許容性を論じるところからも看取することができる(第一章第三節四⑶⒝イ参照)。本判決は、自主法規罰の許容性と自主法規罰の賦課に際しての手続保
障とを不可分一体に捉え、その許容性から要件に至る論理を展開するものと言える。⒝ また、ここで検討した連邦労働裁判所一九六七年九月一二日判決のほかに、経営罰の要件に関わる理論的根拠を提 示する判例として連邦労働裁判所一九八九年一〇月一七日判決 (
格判性的裁制の罰営経、は決同。るきでがとこるげ挙を 133)
に鑑みて﹁法律によらずして刑罰なし﹂(
nu lla p oe na s in e le ge
)という原則を援用し、﹁あらゆる経営罰は、制裁を基礎付ける要件と課される制裁についての十分な明確性の要件を満たすところの、共同決定された経営罰規程の存在を要件とする﹂と述べている。
ただし、同判決においては共同決定の欠如を理由に経営罰の効力が否定されているために、この明確性の要件を事実
関係に適用する判断はされなかった。そのため、ここに言う明確性の要件と、連邦労働裁判所一九六七年九月一二日判
(一〇九三)
ドイツにおける経営罰の意義と構造(二・完)―懲戒処分法理の比較法的研究一四四同志社法学 六一巻三号
決において法治国家原則を根拠として導かれるところの﹁経営罰規程に、罰則の賦課の前提となる要件が定められ、許
容される罰則が規定されていること﹂という要件との関係、たとえばその厳格さの異同も明らかではない。⒞ BAGの提示する以上の要件に対しては、学説によって次のような批判が行われている。たとえば
K uh lm an n
は、 経営罰の要件は当事者の権利を守るための法的手続を保障するのみならず、さらに制裁が課されうる限界を画すものでなければならないと指摘している (判不審査の範囲等が明司確であるとの批法、営や体的には、経罰。を賦課する主体具 134)
を行うとともに、個々の労働者にとって何よりも重要な問題は、事業所における制裁の賦課に対して抵抗するための手段が存在するのかということなのだと指摘している。手続的な要件に加え、実体的な要件を整備することの必要性を主
張する見解である。
この点、経営罰を賦課する主体については、判例の立場を前提に、事業所パートナーのほか、事業所組織法二八条に 基づいて権限の委任を受けた秩序委員会(
O rd nu ng sa us sc hu ß
)が、個々の事案における経営罰の賦課を決定しうると説く見解がある (組見ついて見解の一致をな課い場合には、事業所に賦所のた、使用者と事業委。員会との間で経営罰ま 135)
織法八七条二項に基づき、仲裁委員会(
E in ig un gs st ell e
)が決定を行いうるとの指摘もある (。 136)
一方、司法審査の範囲については、上記の①~⑥について具体的な審査を行った本判決は、経営罰の賦課が全面的な 司法審査に服するとの見解を採用したものであると解されている (
れ②面続手びよお)・の①(化確明の則で要ととこ。るいてっな心請中が)⑤~③(罰件規・罰程の制定周知による要 そのでこ内、もとっ法司容審査の具体的。は、経営も 137)
に対し、本判決が制裁金の額について審査している点については、経営罰の実体的相当性を要件の一つと位置付ける趣旨と解されるが、この点が連邦労働裁判所判例集(BAGE)の判示事項において経営罰の要件として明確に掲げられ
ていないことも、すでに指摘したとおりである。さらに、経営罰の相当性に関する具体的判断においては、制裁金の直
(一〇九四)
ドイツにおける経営罰の意義と構造(二・完)―懲戒処分法理の比較法的研究一四五同志社法学 六一巻三号 接の対象となった非違行為の軽重を検討することなく(この点については就業規則における経営罰の要件への該当性のみを要求して)、従前の勤務態度に問題があったこと、およびそれに対してすでに使用者から非難が加えられていたと
いうことのみを指摘して、制裁金の額が正当なものであるとの結論が導かれている。制裁金が典型的な経営罰の中にあってはもっとも重い措置であること(第三章第二節四参照)をも併せ考えると、BAGは、経営罰の実体的な要件、と
りわけその相当性に関して、積極的な審査を予定するものではないと評価すべきであろう。
これに対し、学説においては、経営罰の種類と程度は労働者の非違行為あるいは過失に照らして相当なものでなけれ ばならないという規範を提示する見解がある (
性のの罰営経、し対にた類っあで例事一たじ種にを程当相もていつに度のつそてしそ、もてい論性相のそていつに額当 けよは摘指なうおのこるけ本に説、る件にお。BAGの判断が制裁金の学 138)
が要求されるとの一般論を主張する点に積極的な意義が認められるべきものである(経営罰の実体的要件については、制裁金に固有の要件を検討する第三章第二節四も参照)。しかしやはり、このような抽象的な要件論を脱した詳細な議
論が展開されていないという点では、上記の学説にあっても、相当性の審査について必ずしも重要な位置付けを行っていないとの評価をせざるをえないように思われる。
このような判例および学説の態度の背景には、経営罰を自主法規罰と捉えた上でその賦課を第一次的には事業所パー
トナーの自治に委ねるという自主法規説の基本的発想があるものと思われる。そして、判例および多くの学説がそのような要件論を提示し、あるいは受け入れている背景には、上記の自治的な統制を制度的に担保しうる事業所組織法上の
共同決定制度の存在があるものと解される。以上を要するに、ドイツにおける経営罰の賦課は、自主法規説が提示する経営罰権限の根拠論に内在する経営罰規程の制定に関わる要件(①・②)と、事業所委員会の共同決定という制度的な
担保を中心に構成される手続保障に関わる要件(③~⑤)とを軸として正当性が担保されるものであり、経営罰の相当
(一〇九五)
ドイツにおける経営罰の意義と構造(二・完)―懲戒処分法理の比較法的研究一四六同志社法学 六一巻三号
性をはじめとする実体的な要件が担う役割は決して大きくはないと考えられるのである。
三 要件を欠く経営罰の効果 上記の要件を欠く経営罰は、無効(
un w irk sa m
)となる (るも価評と効有てっをれ意同な的後事のさう員てうじ生が論議はいるつに点ういとかの会委業事が罰営経たっなと所 定規つに程だ罰営経、していをの共同決。欠くために無効た 139)
が、学説・判例ともこれを否定的に解している。
自主法規説が承認する事業所パートナーの罰則権限とは、直接には経営罰規程を制定する権限を指している。決して、
事業所パートナーが個々の事案において当然に(経営罰規程なしに)経営罰を課す権限を有するという理解ではない。個々の事案における経営罰は、あくまで経営罰規程を根拠として課されるものなのである。そのため、共同決定を欠く
ために経営罰規程が有効に成立していないという場合には、そもそも経営罰を課すに当たっての具体的な権限が存在しないことになる。
さらに、上記とは異なる見地から、同様の結論を導いているのが連邦労働裁判所一九八九年一〇月一七日判決 (
第章一節三 (第三 140)
⑶
とて、書面による非難と対もに一定期間に渡るしに参案照)である。当該事に刻おいては、労働者の遅昇進の停止という措置が採られていた。これに対し、このような措置を受けた労働者が所属する従業員代表組織は、これらの措置が経営罰であり、共同決定を欠いているとして、主位的に、①当該非難の無効の確認と、②従業員代表組織
の同意(あるいはそれに代わる仲裁委員会の決定)によらない昇進停止措置の禁止を求め、予備的に、従業員代表組織に当該昇進停止措置に係る共同決定権が存することの確認を求めていた。
同判決は、上記の昇進停止措置を経営罰と評価し、従業員代表組織の共同決定を欠くことを理由にこれを無効とする
(一〇九六)
ドイツにおける経営罰の意義と構造(二・完)―懲戒処分法理の比較法的研究一四七同志社法学 六一巻三号 一方で、当該昇進停止措置に関する従業員代表組織の請求に関連して次のような判示を行っている。﹁﹃法律によらずして刑罰なし﹄という原則は、事業所の罰則権限およびそれに基づく経営罰に関しても妥当する。その結果、あらゆる経
営罰は、経営罰を基礎付ける要件と賦課される罰則の十分な明確性に関する要求を満たしている、共同決定を経た経営罰規程の存在を要件とする。そのような経営罰規程を欠く場合、経営罰は、事業所委員会の関与と同意の下においても
課されえない。﹂このような検討を基礎に、同判決は、従業員代表組織が具体的な昇進停止措置に同意し、またはそれについて仲裁委員会が決定を行うことによってその共同決定権が充足されるという見解(主位的請求②)は誤った理解
に基づくものであると指摘するのである。
第二節 契約説における経営罰の要件・効果 契約説は、通常、経営罰の形態として制裁金を想定している (
効金・件要のていつに課賦の裁制、はで下以、でこそ。 141)
果をとおして、経営罰の要件・効果に関する契約説の理解を確認することとする。
契約説も、制裁金の対象となる秩序違反行為は、あらかじめ定められていなければならないと解している (
。違約罰は 142)
債務者の遅滞が生じた場合(不作為債務の場合は、違反行為が生じた場合)に効力が生じるものであるところ(民法典
︹BGB︺三三九条)、経営罰の効力を生じさせるためには主たる義務の内容が確定されていなければならないとの理由による。この要件は、自主法規説が法治国家原則や﹁法律によらずして刑罰なし﹂という原則を援用しながら要求する
経営罰の対象の明確化の要請(本章第一節二⑶参照)を、違約罰の効力要件をもって基礎付けるものである。これに対して、制裁金の額があらかじめ定められている必要はなく、制裁金の範囲が事前に規定されていれば十分である (
。この 143)
場合の金額決定は、違約罰に関する合意に従って、使用者または第三者により行われることになる (
。このようにして決 144)
(一〇九七)
ドイツにおける経営罰の意義と構造(二・完)―懲戒処分法理の比較法的研究一四八同志社法学 六一巻三号
定された制裁金の額に対しては、民法典(BGB)三四三条 (
あるいは三一五条・三一七条 145)(
の規制が及ぶ。三四三条は、 146)
違約罰が不当に高額な場合に裁判所による減額を認める規定である(一項)。また、三一五条は、契約の一方当事者による給付内容の決定について公正な裁量(
bil lig es E rm es se n
)を求める規定であり、三一七条は、第三者による給付内容の決定について公正な裁量を求める規定である。いずれも、自主法規説が法治国家原則を根拠として要求している非違行為と経営罰の内容との均衡を、違約罰や給付内容の決定について民法典(BGB)が用意している法規制を根拠と
して実現するものと位置付けることができる。均衡を考慮するに当たっては、とりわけ、かつての立法によって採用されていた制裁金の上限についての基準(原則として賃金日額の半額を超えてはならず、重大な事案においても賃金日額
の全額を超えてはならない。第三章第二節四参照)が重要な意味を持つ (
。 147)
また、
R ic ha rd i
は、制裁金の決定がBAGの提示する経営罰の要件に服するものと解している (。すなわち、①経営 148)
罰規程が有効に制定され、周知されていること、②経営罰規程に、罰則(
B uß e
)の賦課の前提となる要件が定められ、許容される罰則が規定されていること、③法治国家的で正式な手続が定められ、遵守されていること、④法的な聴取が認められ、代理が許可されていること、⑤個々の罰則の賦課についても、事業所委員会が共同決定という意味で関与させられていることを要求するものである。
契約説と自主法規説との明確な相違は、制裁金の使途について現れる。契約説は、制裁金の使途を制約しない (
。にとする以上、それは当然使根用者に帰属するためである拠を事意金が使用者を一方当者とする違約罰に関する合 。裁制 149)
制裁金については、事業所委員会の共同決定権が及ぶ (
条七限権罰営経が号一項一拠八根法織組所業事、は説約契。の 15000)
になるという自主法規説の解釈を批判する一方で、事業所秩序への違反に対する制裁金が事業所委員会の共同決定に関
する規制 00に服するとの帰結を肯定するものである。具体的には、制裁金規定の制定、および、個々の事案における制裁
(一〇九八)
ドイツにおける経営罰の意義と構造(二・完)―懲戒処分法理の比較法的研究一四九同志社法学 六一巻三号 金の決定について、共同決定が行われなければならない (
れる解と効無、は金裁制たされ定決にず経を定決同共。さ 151)(
。 152)
第三章 経営罰の形態 経営罰とは、集団的な事業所秩序への違反に対して課されるところの、制裁的性格を伴う不利益措置を言うものであった。すでに触れてきたとおり、その典型は、戒告・譴責および制裁金である。また、非典型的な不利益措置について
も、それが経営罰に当たるのか否かという問題が生じることがある。この点をめぐっては、複数の判例があるため、以下の検討の中で適宜触れることとする。さらに、解雇や降格といった人事上の措置を経営罰として課すことができるか
否かについては見解の対立がある。以下では、戒告・譴責、制裁金、解雇を中心とする人事上の措置のそれぞれに関して生じる法律問題を検討していく。なお、本章では、自主法規説を前提として検討を進めることとする。
第一節 戒告・譴責 一 戒告・譴責と警告の区分 使用者によってなされる、日常的な用語で言えば非難から指導の範疇に属するような行為のうち、経営罰の一形態として許容されるものが、法的な意義における戒告および譴責である。それらは、秩序違反行為が繰り返された場合にも たらされる帰結(たとえば、労働関係の解消)についての言及を含むもの(
V er w eis
)と、それを含まないもの(V er w ar nu ng
)とに分けることができる (い戒当て、後者に告語の訳語を当ててを訳宜。責譴に者前、上の便、はで稿本 153)
る。
(一〇九九)
ドイツにおける経営罰の意義と構造(二・完)―懲戒処分法理の比較法的研究一五〇同志社法学 六一巻三号
戒告・譴責についての重要な問題は、これらの措置と、使用者が労働契約当事者(債権者)として行いうる警告との
区分である。経営罰たる戒告・譴責が事業所委員会の共同決定に服し、それを欠く場合には無効となるのに対し、警告は事業所委員会の共同決定を要件とはしないという点で、両者はその要件が大きく異なる。しかし一方で、戒告・譴責
と警告とはその形式・内容について類似あるいは共通する特徴を持つ。ここに両者の区分の必要性と困難さがあり、実際上の重要性がある。
二 警告の法的意義 経営罰としての戒告・譴責と警告との区分について論じる前提として、警告の意義、特にその機能・法的根拠・法的性質・対象・要件およびこれに対する法規制について概観しておきたい。
警告(
A bm ah nu ng
)とは、﹁使用者が、労働者において十分に明確に知りうる方法で給付の瑕疵を非難し、さらに、そのような非難にそれが繰り返された場合には労働関係の内容または存続が危ぶまれる旨の指摘を付加すること﹂を言う (
W un tio ku un nf ar d - gs un dig ün nk A n
して説あと)さ(明れ機厳でのもむ含を容内な格にる当相は能機告予の段後。能告ah n E rin ne ru ng s- un d E rm ng sfu nk tio nu
し告段は一般に警告の催告機能(の警と。)て説明され予に、後段は一般前 154)るが、それは一定の場合に警告が解雇の前提と位置付けられているためである。それを欠く使用者の非難は、解雇の前提とはなりえない単なる注意(
R üg e od er E rm ah nu ng
)と評価される。これらの機能に加えて、警告が書面によって行 われ、それが人事記録に記載される場合には、解約告知保護手続において労働者の義務違反行為や当該警告に関する説明として役立つという意味での記録機能(D ok um en ta tio ns fu nk tio n
)が指摘されている (。 155)
労働者の非違行為を警告する使用者の権利は、労働者に義務付けられた給付に関する限り、使用者の債権者たる地位
(一一〇〇)
ドイツにおける経営罰の意義と構造(二・完)―懲戒処分法理の比較法的研究一五一同志社法学 六一巻三号 から生じるものである (
iti se ht sg es ch äft s ge ein R ng ru klä er ns ille W ec
的方一律はいるあ)法し行てかし。いないれ為さ解はと)示((表思意、ら 直存の係関働労に接たが告続、は質性的法の警はまもかとこいなはでのす。ぼ及を響影に容内そ 156)一方で、解約告知を発する権利がしばしば警告に依存する以上、労働関係の当事者間における法律関係にとって重要な意義を持つものであり、準法律行為(
ge sc hä fts äh nli ch e H an dlu ng
)と解されている。そのため、警告には、意思表示 に関する規定が準用(en ts pr ec he nd e A nw en du ng
)される (。 157)
警告の対象となる労働契約上の義務違反には、個別契約上の義務違反のみならず、事業所秩序への違反も含まれる。 事業所秩序への違反も、労働契約上の付随義務違反として、労働契約への違反を構成するためである (
。 158)
警告の要件に関しては、その主体・形式・内容に言及しておく。まず、警告を発する主体は、労働者の契約違反行為
が使用者によって甘受されえない旨を表明するという警告の目的に鑑み、当該給付領域に関して権限を有する上司と解されている。より具体的には、警告を受けるべき労働者に対して、労働契約上義務付けられた労務給付に関し時間ある
いは方法を指示すべき立場にある労働者ということになる (
にるとも、書面よよこるとも可能であるこ ( 、に頭口くつなた、警告の形式にい。ての法律上の制約はま 159)
能る導が素要の欠可不てしら照に機れのそ、はていつに容内の告警。か 160)(
。す 161)
なわち、催告機能および予告機能に照らせば、警告は一義的かつ明確に行われる必要がある。具体的には、給付の瑕疵
および義務違反が繰り返された場合の労働契約の帰趨についての指摘が要求される。給付の瑕疵については、例えば遅刻を理由とした解雇であれば、その日時を指摘する必要があり、﹁時刻の不遵守﹂・﹁不十分な給付﹂といった概括的な
表現では不十分である。また、警告の有する記録機能に照らせば、非難の対象となっている行動と要求されている行動とが指摘されなければならない。
警告の対象となるべき義務違反が存在しない場合や警告の基礎にある労働者の行為に対する法的評価が不当な場合 (
、 162)
(一一〇一)
ドイツにおける経営罰の意義と構造(二・完)―懲戒処分法理の比較法的研究一五二同志社法学 六一巻三号
あるいは警告がきわめて些細な事柄に対して行われたために比例性の原則に反するような場合 (
には、当該警告は無効と 163)
なり (
をるがとこるす求請うよるす除削告き警該当らか録記事人は者働労、で 164)(
を関よび人格上の係留う正確に反映すお意よ義るれらめ求に務慮す配の者用使きべる ( 記上の根拠は、人事録。が労働者の職務そ 165)
。 166)
三 区分基準
⑴ 区分に際しての考慮要素 戒告・譴責と警告との本質的な違いはその目的(制裁的性格の有無)にあり、両者の区分もそれに従うことになる (
。 167)
すなわち、戒告・譴責は経営罰の一類型であるところ、それは集団的な事業所秩序への違反に対して課されるべき不利益措置であり、そこには制裁的性格が伴う。ただし、ここに挙げた経営罰の要素のうち、その対象(集団的な事業所秩
序への違反)は戒告・譴責と警告との区分に際して決定的な意義を持つものではない。すなわち、事業所秩序への違反は付随義務(
N eb en pf lic ht en
)違反として労働契約上の義務違反をも構成するところ、警告は、労働義務違反のみならず、このような付随義務違反をも対象としうるものである。したがって、労働者へのある非難が集団的な事業所秩序への違反を対象としていることのみをもって、それが経営罰としての戒告あるいは譴責と評価され、警告としての性質を否定
されることはないからである。これに対し、経営罰の性格(制裁的性格)は、戒告・譴責と警告との区分に際して決定的な意義を持つ。警告は、労働契約上の義務違反に対して労働者に契約に従った行動を求めるとともに将来の労働契約
の帰趨を予告するものであり、何ら制裁的性格を伴わないのに対し、戒告・譴責は、まさに事業所秩序の保持のために労働者に対する制裁を行うものだからである。したがって、両者の峻別に際しては、制裁的性格の有無が特に重要なメ
ルクマールとなる。
(一一〇二)
ドイツにおける経営罰の意義と構造(二・完)―懲戒処分法理の比較法的研究一五三同志社法学 六一巻三号 不利益措置の制裁的性格を客観的に肯定することができる典型として、当該措置に使用者がその債権者としての地位に基づいて主張しうる内容を超える追加的な不利益が伴う場合を挙げることができる (
非務るす対に反違義、ばえとた。 168)
難に加えて、一定期間にわたる昇進停止の措置が採られる場合がその典型である(⑶で検討する連邦労働裁判所一九八九年一〇月一七日判決を参照)。これに対し、欠損金を生じさせた労働者に対し、当該行為への非難に加えて、その後
の検査を強化する旨を指摘することは、使用者が労働契約に基づいてそのような検査を命じる権限を有している限りにおいて、制裁的性格を基礎付けるものではない(⑵で検討する連邦労働裁判所一九七九年一一月七日判決を参照)。
一方、このような追加的な不利益が存在しない場合に不利益措置が戒告あるいは譴責と評価されるのかあるいは警告と評価されるのかという問題は、法的には当該措置に関する意思表示の解釈の問題と位置付けられることになる。この 点につき、連邦労働裁判所一九七五年一二月五日判決 (
と由定認、たっなと理れのとこう行を責さたがれ﹂るあできべるさあ慮考が情事るゆら譴︺用使、︹くなはでのく置者 に責釈解の文譴るよに書つに文いては、単は面だけを基礎に、﹁ 169)
述べている。さらに、解釈の重点については、﹁いかなる意思表示の動機が意思表示を行うことのきっかけになっていたかということが決定的ではない。重要なのはもっぱら、意思表示の中で認識しうる形で示されているところの、表意
者の意思である。﹂と指摘している。学説の中には、上記の判旨を受けて、使用者の動機が基準になるのではなく、意
思表示の文言があらゆる背景事情を考慮した上で基準になると指摘するものもある (
。 170)
このような解釈準則に従う場合、上記学説の指摘する﹁背景事情﹂としていかなる事実に着目するかが、戒告・譴責
と警告との区分基準を決することになる。この点、不利益措置の制度上の位置付けによって、その制裁的性格が基礎付けられることがある。すなわち、使用者による非難が経営罰規程に基づいて行われている場合には、経営罰規程への依
拠それ自体が当該非難の制裁的性格を基礎付けることになり、それが追加的な不利益を伴わない場合であっても、戒告
(一一〇三)
ドイツにおける経営罰の意義と構造(二・完)―懲戒処分法理の比較法的研究一五四同志社法学 六一巻三号
あるいは譴責と評価される (
と告難を、たとえば戒・る譴責・配転・解雇非す労対らに、使用者が働。者の非違行為にさ 171)
いう階層付けを行って制度化する場合にも、そこで挙げられた措置に制裁的性格が付与されうると述べる判例もある(⑵で検討する連邦労働裁判所一九七九年一一月七日判決を参照)。
一方で、不利益措置の名称および表現は、当該措置の意義を解釈するに当たって重要な意味を持ちえない (
こ罰れていることをもって経営で付あるとの性質決定がなされるさが責っ戒告あるいは譴称いとた経営罰に典型的な名 。、ちわなす 172)
とはないし、警告の中で侮辱的な表現が用いられた場合であっても、それを理由に経営罰との評価を受けるものではない(そのような場合には、契約法あるいは不法行為法による対処が採られることになる (
)。また、上記のとおり事業所 173)
秩序への違反は経営罰の対象であると同時に労働契約上の付随義務違反を介して警告の対象ともなるため、不利益措置が事業所秩序への違反を対象としているという事実は、当該措置が経営罰であるという評価にとって重要な意味を持つ
ものではない (
該影置の法的意義に響いを及ぼすもので措当な記。さらに、人事録、への記載の有無もは 174)(
。さへの記載が許れ記るためである録事にもと、も告警人 、。も責譴・告戒 175)
以下では、使用者による非難について、経営罰への該当性を判断した判例を概観することとする。第一の判例は経営罰への該当性を否定したものであり、第二の判例は経営罰への該当性を肯定したものである。
⑵ 判 例
―
連邦労働裁判所一九七九年一一月七日判決 (176)
⒜ 事 実 原告は、数年前から、被告において、車両職員として就労してきた。被告の車両職員は、常時、一〇八〇DMの持続
的な残高を、乗車券および現金によって携帯している。被告から、車両職員は、車両職員が自己検査によって確定した
(一一〇四)
ドイツにおける経営罰の意義と構造(二・完)―懲戒処分法理の比較法的研究一五五同志社法学 六一巻三号 欠損額の埋合せに費やすために、月々一〇DMの欠損金を受け取っている。被告によって制定された車掌業務についての服務規程によれば、車両職員は、常に、すべての乗車券の残高、販売収益および釣り銭を自由に取り扱うことになっ
ている。乗車券の残高、販売収益および釣り銭は、その都度、基礎準備額になっていなければならない。
乗車券および現金の残高管理の際に原告について残高の欠損が確認され、彼は以下の文書を受け取った。
﹁S殿
一九七五年一〇月一四日に予告なく行われたあなたの乗車券および現金の残高についての検査の際に、欠損額が三
〇・八五DMという額に確定された。この額をあなたはその間に弁償した。
我々はあなたをすでに一九七四年二月二一日において一九七四年二月一八日に確定された三五・五〇DMの欠損額を
理由として処分すべきであったので、あなたは、それと共に、譴責を受ける。
あなた自身の利益のために、我々は、あなたに、緊急に、乗車券および現金の残高を今後は整然と保持すべきことを
勧告する。
あなたは、今後、強化された検査を想定しなければならない。﹂
原告は、譴責の撤回を求めている。これに対し、原審は、原告の請求を棄却している。
⒝ 判 旨(上告棄却) のすの罰営経、はでり限る在課存に所業事が程規罰営賦に、る者用使。るきでもとこすつ意合と会員委所業事てい経し ﹁同違もに序秩所業事に時がす動行の反違約契の者働反労る告きでもとこるせま済で警場の上約契、は者用使、合る
非難の表明が、事業所委員会の共同決定がなければ許容されない経営罰を意味するのか、または警告を意味するのかは、
(一一〇五)
ドイツにおける経営罰の意義と構造(二・完)―懲戒処分法理の比較法的研究一五六同志社法学 六一巻三号
疑わしい場合には、解釈によって探究されなければならない。
当法廷は、典型的な懲戒権についての表現である﹁譴責﹂を用いたことが、被告が実際には経営罰を課す意図であったということを示してはいないのかという疑問を持っている。非難の制度化は、とりわけそれが﹁戒告・譴責・配転・
解雇﹂といった段階をもって定められている場合には、使用者の措置が制裁的性格を伴い、それゆえ事業所委員会の共同決定に服するということを示している。警告すること(
ab m ah ne n
)のみを意図している使用者は、非難を、もっぱら誤解を避けるために、そのように呼ぶべきである。
しかし、州労働裁判所が﹁用いられた名称にもかかわらず﹂一九七五年一〇月三〇日の文書を単に個別法上の警告
(
R üg e
)として理解していた場合は、それは、ここで与えられた状況の下で法律上の誤りを含むものではない。それはとりわけ、﹁戒告(V er w ar nu ng
)・譴責(V er w eis
)または注意(E rm ah nu ng
)﹂という警告(A bm ah nu ng
)の名称が、連邦労働裁判所の判決において、これまで意義を認められてこなかったことによる。原告について確定された欠損は、事業所秩序にほとんど抵触しない。州労働裁判所は、正当にも、被告が原告に対して労働契約から生じ服務規程によっ
て車掌について具体化された契約上の義務への違反を非難していたのだと判示している。通告された帰結は、強化された検査に限定されている。これは、制裁的措置(
St ra fm aß na hm e
)ではない。上告は、一九七五年一〇月三〇日の文書 の解釈を共同決定に服さない警告(A bm ah nu ng
)として攻撃してはいない。﹂以上のように述べて、判旨は原告の請求に理由がないものと判断し、上告を棄却している。
⒞ 検 討 本判決は、戒告・譴責と警告との区分は、使用者の意思表示の解釈によって決すべきものであると判断している。本
(一一〇六)
ドイツにおける経営罰の意義と構造(二・完)―懲戒処分法理の比較法的研究一五七同志社法学 六一巻三号 判決はまた、措置の制度化にも言及し、不利益措置が﹁戒告・譴責・配転・解雇﹂といった段階をもって定められている場合には制裁的性格を生じさせうるとの一般論を述べている。しかし一方で、措置の名称はその性質決定において意
味を持たないものであるとも判断している。なお、本判決においては、不利益措置の制裁的性格を基礎付けるような制度上の位置付けは認められていない。
続いて、本判決は、本件において問題とされている欠損金が事業所秩序にはほとんど抵触しないと述べている。上記のとおり、事業所秩序への違反は、付随義務違反を介して労働契約上の義務違反をも構成する。それゆえ、処分の対象
が集団的な事業所秩序への違反を対象としているということは、当該措置を経営罰と性格付ける論拠とはなりえない。他方で、処分の対象となっている行動がもっぱら労働契約上の義務の履行に関わるものであって事業所秩序との関連が
認められない場合は、経営罰としてそのような処分を行なうことは許されない。本件の判旨は、事業所秩序への抵触が希薄であることを指摘した上で、当該措置が労働契約から生じる契約上の義務への違反を非難するものであると述べる
ことで本件における非難の目的について判断し、経営罰としての性格を否定したものである。さらに、判旨は、﹁譴責﹂とともに通告された検査の強化という措置が制裁的措置とは評価されないことを指摘している。すなわち、検査の強化
は労働契約上の使用者の権限に基づいて根拠付けることのできる措置であり、経営罰に伴う制裁的性格を生じさせるよ
うな労働契約上の根拠に基づかない不利益措置を意味するものではないという判断である。
本件における措置は、名称に照らす限りでは、経営罰との評価を想起させるものであった。しかし、BAGは、その
目的(労働契約から生じ服務規程によって具体化された契約上の義務への違反を非難すること)と追加的な不利益の欠如を指摘して、経営罰への該当性を否定している。追加的な不利益を伴わないという意味での純然たる非難について、
その目的の解釈から経営罰への該当性が否定された一事例である。
(一一〇七)
ドイツにおける経営罰の意義と構造(二・完)―懲戒処分法理の比較法的研究一五八同志社法学 六一巻三号
なお、使用者による非難(
V or w ur f
)の法的性質について争われた近時の事案として、連邦労働裁判所二〇〇三年三 月六日判決 (bm ah nu ng A
非つに為行違の、かるた当に)(いの争るいてっなと点が確かのるま止に認て ( 警告る窃そ者働労、はでこ。けるきでがとこるげの盗をがおに義意的法、難に非の者用使るす対挙 177)。当該非難が経営罰に当たる 178)
か否かということが直接の争点となっているわけではないが、使用者による非難の法的性質を探求するに当たってのBAGの着眼点を探る上で有用な判例と思われるため、ここで紹介を行うこととする。同事案における非難は書面によっ
て行われ、﹁警告(
A bm ah nu ng
)﹂という名称が付されていた。その内容は三つの部分から成り、第一に﹁事実関係﹂という項目の下で﹁あなたは、二〇〇〇年一一月二四日に、不法に一袋の粉ミルクを盗難した。⋮⋮二〇〇〇年一一月二四日に、あなたはこの窃盗の事実をE氏に対して自白した。﹂との記載が、第二に﹁法的評価﹂という項目の下で﹁あなたは、当該行為により事業所における行動様式に著しく違反し、不当に事業所の財産を窃取した。﹂との記載が、第
三に﹁法的帰結﹂という項目の下で﹁あなたは、当該非違行為に関し適切に情報提供を受けた。当事業所は、今回の義務違反に基づくさらなる法的措置を留保する。﹂との記載がそれぞれなされていた。
判旨は、書面に﹁警告(
A bm ah nu ng
)﹂という名称が付されていることを指摘する一方で、使用者が非難によって実現しようとしていることは書面の内容によって明らかになるものであると述べることで、非難の法的性質をその内容に基づいて評価するという立場を明確にしている。そして、﹁事実関係﹂の項目においては単に事情そのものが描写されていること、﹁法的評価﹂の項目においては単に労働者が義務違反の責任を負った点が確認されていること、﹁法的帰結﹂
の項目においては労働者が非違行為に関して情報提供を受け、事業所が労働者の義務違反に基づくさらなる法的帰結を予定している点が確認されていることをそれぞれ指摘している。さらに判旨は、﹁すなわちそこからは、事実上および
法律上の事情についての確認的な記述のみが読み取られるべきであり、終局的に認識される注意(
R üg e
)として読み(一一〇八)
ドイツにおける経営罰の意義と構造(二・完)―懲戒処分法理の比較法的研究一五九同志社法学 六一巻三号 取られたり、ましてや労働関係が危険にさらされるという将来に関する警告(
W ar nu ng
)が読み取られたりするべきではない。むしろ、書面はそれ自体として何らの制裁を含むものでもない。﹃法的帰結﹄という区分された項目を考慮したとしても、以上のことが妥当する。非違行為に関する情報提供は、非違行為についての対処という意味での帰結ではない。︹使用者︺は、義務違反に基づいて
―
情報提供と同時に―
まさにさらなる措置を留保しているのである。﹂と続けて、当該非難が非違行為についての確認に止まるとの判断に至っている (
。 179)
本件においては、﹁警告﹂という書面の名称はもとより、﹁法的帰結﹂という書面の中の項目立ても、非難の法的性質
を決する要素とは位置付けられていない。﹁法的帰結﹂という項目は警告の重要な要素である予告機能を想起させるものであるが、やはり法的評価に当たってはそのような項目の下で指摘されている具体的な内容が考慮されているのであ
る。そのような姿勢で当該非難を評価した結果、労働関係の帰趨についての言及を含まず、むしろ更なる労働契約上の措置を明示的に留保している当該書面は、それによって労働者を警告するという使用者の意図を示すものではなく、単
なる非違行為についての確認を行うという使用者の意図を示すものであると解釈されたのである。使用者による非難の法的性質を評価するに当たっては、非難の具体的内容に即して使用者の意思表示を解釈すべきであるという、BAGの
立場を端的に示している事案と言えよう。
⑶ 判 例
―
連邦労働裁判所一九八九年一〇月一七日判決 (180)
⒜ 事 実 客室乗務員の代表組織(
G ru pp en ve rtr et un g.
以下、﹁代表組織﹂とする)は、一九七二年一一月一五日の乗員についての従業員組織に関する協定に基づいて設立された使用者の客室乗務員による従業員代表である。
(一一〇九)
ドイツにおける経営罰の意義と構造(二・完)―懲戒処分法理の比較法的研究一六〇同志社法学 六一巻三号
航空会社である使用者は、労働契約上の義務違反とみなしている従業員の行為に対して、﹁注意(
E rm ah nu ng
)﹂・﹁警 告(R üg e
)﹂または﹁重度の警告(sc hw er w ie ge nd e R üg e
)﹂と題する書面によって対処していた。この書面は、従業員の人事管理書類に記録され、そこに三年間、重度の警告の場合は五年間、当該期間の経過前に新たな注意または警告がなされない限り、記載されることになる。このような書面はすべて、従業員は同じことを繰り返した場合にさらなる労働法上の措置を覚悟しなければならないという告知と結び付いている。その書面の﹁PS﹂には次のように書かれて
いる。﹁この書面は、業務管理についての見解を伝えるものである。それは、従業員代表の関与が求められることになる経営罰規程における秩序措置を意味するものではない。﹂
そのような実態に従って、使用者は、一九八六年九月五日に客室乗務員Fに対して以下のように書面で通知した。 ﹁い分にしか果たしていなと不言わなければならない十を我な々は、残念ながら、あた務に、その労働契約上の義理
由を持っている。我々に対して報告業務のFが伝えたように、あなたは、一九八六年八月二二日の︹使用者における︺勤務に一〇〇分の遅刻で出勤してきた。そのために、予備の要員が勤務しなければならなくなり、出勤することとなっ
た。
我々は、あなたの行為を、︹客室乗務員の服務規程︺に置かれている規定の無視とみなす。 我々はあなたをすでに一九八四年六月一四日に勤務懈怠を理由に警告しているはずであるところ、我々は、あなたに、それと共に、あなたが同じことを繰り返した場合にさらなる労働契約上の措置を覚悟しなければならないという告知を 付して、警告(
R üg e
)を行う。﹂書面は、通例の﹁PS﹂あるいは人事管理書類への書面の保存期間に関する告知を含んでいる。そのような書面につ
いて、使用者は、他のすべての同様の事案におけるように、代表組織を関与させていなかった。
(一一一〇)
ドイツにおける経営罰の意義と構造(二・完)―懲戒処分法理の比較法的研究一六一同志社法学 六一巻三号 原告である代表組織は、これらの措置が経営罰であり、共同決定を欠いているとして、主位的に、①当該非難の無効の確認と、②従業員代表組織の同意(あるいはそれに代わる仲裁委員会の決定)によらない昇進停止措置の禁止を
求め、予備的に、従業員代表組織に当該昇進禁止措置に係る共同決定権が存することの確認を求めている。これに対し、原審は、原告の請求を棄却している。
⒝ 判 旨(破棄自判) ﹁き働者に対して、期限付の該昇進の停止をもたらす労当使た用者によって告知され昇、進の阻止を伴う非難は。 昇進協定⋮⋮は、適格性のある複数の候補者に、公示された地位が、年齢順に割り振られると規定している。このよ
うな選抜に際して、使用者により実施された要領は、直近の年において警告を受け、または重要な書面による非難の原因をもたらした労働者を除外している。それは、警告あるいは非難をされた行動自体が、具体的事案において求められ
る候補者の能力に関係するか否かにかかわらず、適用される。たしかに、内部の秩序に違反したことを理由に警告を受けた労働者が割り振られるべき地位についてすでに当該理由によって客観的に適格性を持たないということは、個々の
事案について、または通常の事案においても、適正でありうる。しかし、そのような仮定は必然ではない。内部の秩序
への何らかの違反を理由に警告を受けた労働者は、それにもかかわらずいまだ昇進協定⋮⋮における適格性を持ちうる。
これに対し、昇進の年において、当該労働者が警告を受けた行為を考慮してもなお適格性のある候補者として考慮されるべきである事案についても、昇進の阻止を伴う非難が当該労働者を自動的に排除するという場合には、それは単な
る警告を超えるところの警告された行為に対する追加的な制裁を意味する。﹂
(一一一一)