ドイツ刑事手続における被害者への付添い制度 : 専門的な被害者への付添いの必要性
著者 阿部 千寿子
雑誌名 同志社法學
巻 69
号 7
ページ 3333‑3367
発行年 2018‑02‑28
権利 同志社法學會
URL http://doi.org/10.14988/pa.2019.0000000322
( )ドイツ刑事手続における被害者への付添い制度同志社法学 六九巻七号一三〇五三三三三
ド イ ツ 刑 事 手 続 に お け る 被 害 者 へ の 付 添 い 制 度
――専門的な被害者への付添いの必要性――
阿 部 千 寿 子
Ⅰ はじめにⅡ ドイツの刑事手続における心理社会的な訴訟付添い 一 第三次被害者権利改正法の背景 二 第三次被害者権利改正法の概要 三 心理社会的な訴訟付添いの具体的内容 四 ドイツにおける心理社会的な訴訟付添いに関する評価Ⅲ わが国の刑事手続における専門的な被害者への付添いの必要性 一 証人への付添い(刑事訴訟法一五七条の二) 二 被害者参加人への付添い(刑事訴訟法三一六条の三九) 三 わが国の刑事手続における付添いの実施状況
( )同志社法学 六九巻七号一三〇六ドイツ刑事手続における被害者への付添い制度三三三四 四 専門的な被害者への付添いの必要性Ⅳ おわりに
Ⅰ はじめに わが国の刑事手続における被害者の保護・権利拡充の動きは、二〇〇〇年の犯罪被害者保護二法から始まり、二〇〇四年の犯罪被害者等基本法、二〇〇五年の犯罪被害者等基本計画を経て、二〇〇七年の刑事訴訟法改正により、被害者参加制度の導入にまで至った。その後も、二〇一一年に第二次犯罪被害者等基本計画(以下、﹁第二次基本計画﹂とする。)が策定され、二〇一六年には、第二次基本計画の見直しについて寄せられた要望意見および第二次基本計画の実施状況の評価等を踏まえて、第三次犯罪被害者等基本計画(以下、﹁第三次基本計画﹂とする。)が閣議決定された。第三次基本計画までに、刑事手続における被害者の関与拡充や保護に関する具体的施策については、着実に推進が図られ、一定の成果をあげたとの評価がなされた。被害者参加制度についても、制度導入五年目の二〇一三年一月から、﹁平成一九年刑事訴訟法改正に関する意見交換会﹂(以下、﹁意見交換会﹂とする。)が、法務省において開催され、最終的に、法務省としては、﹁同法律により導入された被害者参加制度等については、概ね適切かつ順調に運用され、制度として定着しつつあるものの、意見交換会における御意見・御指摘を踏まえ、検察における被害者参加制度等の運用のより一層の充実を図っていくべきである )1
(﹂として、被害者参加制度に関する法改正は行わないとの結論に達した。
わが国の刑事手続における被害者の保護・権利拡充の動きは、それまで刑事訴訟法上﹁忘れられた存在﹂や﹁証拠の一部﹂でしかなかった被害者が、法廷のバーの中に入り、直接訴訟に関与し、保護される存在になった点で、この数十
( )ドイツ刑事手続における被害者への付添い制度同志社法学 六九巻七号一三〇七三三三五 年で大きな前進を遂げた。これらの前進を鑑みると、今後、実務におけるよりきめ細やかな支援や配慮を充実させる必要性はあれど、刑事訴訟法上の改正を含む改善の必要性は高くなくなったかのようにも見える。確かに、さまざまな施策が進められ、被害者からすれば、﹁これまでとは比べものにならないほど、良くなった﹂とする声も大きい。しかし、それは、あくまで以前と比べてという話である。いくらこれまでよりよくなったからといえ、それまで法律や裁判などの刑事手続とは無縁だった被害者が、事件により急に刑事手続への関与を求められるのであり、まだまだ刑事手続というものが、被害者に不安や不信感を与えるものであることも少なくない。
他方、被害者参加制度のモデルの一つとなった訴訟参加制度があるドイツにおいては、二〇一五年一二月三一日に﹁刑事手続における被害者の権利を強化する法律 )2
(﹂(以下、﹁第三次被害者権利改正法﹂とする。)が成立・施行された。ドイツでは、EUの被害者保護の流れを受けて、二〇〇〇年代に入ってから、二〇〇四年、二〇〇九年など活発に刑事手続における被害者の権利に関する法改正を行ってきた。そして、今回のこの第三次被害者権利改正法は、連邦司法消費者保護省の大臣が法律案の報道発表において、﹁心理社会的な訴訟付添い )3
((
P sy ch os oz ia le P ro ze ss be gle itu ng
)に関する新たな規定は、今後の被害者保護の里程標となるだろう﹂と述べていたことからも、心理社会的な訴訟付添いが重要なポイントとなった改正であるとわかる )4(。
ただ、この被害者への付添いは、ドイツにおいても、一九八〇年代から、すでにいくつかの地域や多くの州の司法内部でも行われているものであった。それにもかかわらず、わが国よりも二〇年以上早く、刑事手続における被害者の保護・権利拡充に対して取り組み、近時頻繁に法改正を行ってきたドイツで、なぜ今、この心理社会的な訴訟付添いに関する法改正が行われたのだろうか。そこには、どのような目的、必要性があるのだろうか。この点で、心理社会的な訴訟付添いに関する二〇一五年のドイツ刑事訴訟法改正について、改正に至った経緯、その具体的な改正内容およびその
( )同志社法学 六九巻七号一三〇八ドイツ刑事手続における被害者への付添い制度三三三六
評価を分析・検討することは、今後のわが国の刑事手続における被害者の保護・権利拡充を考えていくうえで、一定の示唆を得られるものと考えられる。
そこで本稿においては、ドイツの刑事手続における心理社会的な訴訟付添いに関する改正について、その背景、内容、ドイツにおける評価を概観し、わが国の刑事手続における専門的な被害者への付添いの必要性について、ドイツ法との比較を通じて、若干の考察を加えて行きたいと思う。
Ⅱ ドイツの刑事手続における心理社会的な訴訟付添い 一 第三次被害者権利改正法の背景 まず、二〇一五年一二月三一日に成立した第三次被害者権利改正法の背景について概観していく。 ドイツの刑事手続においては、一八七七年に制定されたライヒ刑事訴訟法のころから、ある程度、被害者のための制度が存在していたが、一九八〇年代半ばまで、刑事手続における被害者の権利強化という点については、あまり関心が向けられていなかった。しかし、徐々に被害者の保護という側面にスポットがあてられるようになり、一九八〇年代中ごろから﹁刑事手続における被害者のルネッサンス﹂と呼ばれる刑事法のパラダイムに転換を迫る動きを受けて、一九八六年に犯罪被害者保護法 )5
(が成立した。
この一九八六年被害者保護法が契機となり、その後も改正が進んでいく。特に、刑事手続における被害者のための改正としては、二〇〇四年第一次被害者権利改正法 )6
(、二〇〇九年第二次被害者権利改正法 )7
(、二〇一三年性的虐待の被害者の権利を強化するための法律 )8
(が挙げられ、これに続く形で、二〇一五年一二月三一日に第三次被害者権利改正法が成立
( )ドイツ刑事手続における被害者への付添い制度同志社法学 六九巻七号一三〇九三三三七 した。このように、二〇〇〇年代に入り、ドイツで、刑事手続における被害者のための大規模な改正が急速に進んだ背景には、EUにおける被害者保護水準の引き上げの流れがあった。
EUでは、二〇〇一年三月一五日にポルトガル政府の提案により、EU理事会が、EU構成国に対して、被害者の保護、損害回復、情報入手といった権利を実現させる方策を講じるように求めるEU大綱決定を採択した )9
(。このEU大綱決定は、被害者保護のヨーロッパ水準の最低基準を定義し、加盟国に、二〇〇六年三月までに法整備することを求めるものであった )₁₀
(。このEU大綱決定を契機として、成立したのが、二〇〇四年第一次被害者権利改正法であり、被害者保護の大きな改善を含むものであった。そして、この二〇〇四年第一次被害者権利改正法を引き継ぐ形で、学会や実務からの指摘なども取り入れ、被害者や証人の地位の強化に対する改正を行ったのが、二〇〇九年第二次被害者権利改正法である )₁₁
(。
EUにおける被害者保護に関する動きは、そこで終わることなく、二〇〇一年EU大綱決定後、二〇〇九年一二月に、理事会が開催された際に採択されたストックホルムプログラムにおいて、EU理事会は、EU委員会と各構成国に対して、被害者保護に関する具体的な支援のための立法および措置を改善するための手段を研究するように求めた。これを受け、二〇一一年、EU委員会は、被害者の権利に関して存在している国内法およびEU法の措置を強化するため、立法を提案し、また、理事会も決議でEUレベルにおいて被害者の権利および保護を強化するために措置を取ることが求められると宣言した )₁₂
(。
これらの流れを受けて、二〇〇一年の大綱決定において示された諸原則を見直し、刑事手続においてEU全体として被害者の保護に関する改善を実現するために、﹁被害者の権利、支援および保護に関する最低限の法規を定めた欧州議会および理事会の二〇一二年一〇月二五日の指令﹂(以下、﹁二〇一二年EU被害者保護指令﹂とする。)が制定され
( )同志社法学 六九巻七号一三一〇ドイツ刑事手続における被害者への付添い制度三三三八
た )₁₃
(。各構成国は、二〇一五年一一月一六日までに、本指令を国内法に置換するための措置を取らなければならないとしており )₁₄
(、これを受けて、二〇一二年EU被害者保護指令の最低基準を具体化するものとして成立・施行したのが、二〇一五年第三次被害者権利改正法である。
二 第三次被害者権利改正法の概要 二〇一五年第三次被害者権利改正法の主な内容は、以下の四点である )₁₅
(。
一点目は、証人に関する規定であるドイツ刑事訴訟法四八条に、新たに三項を付け加えて、警察や検察段階および公判段階において、被害者の尋問および証言の際に、被害者保護のための措置を実施するよう規定した点である。これは、被害者が、証人になる場合には、特に保護の必要性があるということを、明文をもって具体化したものであるとされる )₁₆
(。
二点目は、刑事手続において被害者が通訳や翻訳を利用できるようにした点である。ドイツ語を話せない被害者が、告発を行う際あるいは警察や検察による事情聴取の際に、通訳などの言語上の支援を付けることができるようにした。また、訴訟参加権限のある被害者に対して行う手続停止の通知や訴訟参加人の権利として訴訟参加に必要な証拠書類等の翻訳もすることができるとした。
三点目は、被害者の情報権を拡大した点である。ドイツ刑事訴訟法第四〇六条dの通知義務を拡大し、それとともに従来、同法四〇六条hにおいて規定していた被害者に対する関係官庁の告知義務の規定を、新たに同法四〇六条iから同法四〇六条lに分割して規定した。規定の内容は以下の通りである。①刑事手続における被害者の権限について告知(同法四〇六条i)、②刑事手続外の被害者の権限についての告知(同法四〇六条j)、③その他の情報(同法四〇六条k)、
( )ドイツ刑事手続における被害者への付添い制度同志社法学 六九巻七号一三一一三三三九 ④被害者の近親者や相続者の権限への告知(同法四〇六条l)。
そして、四点目が、心理社会的な訴訟付添いを法定化した点である。この心理社会的な訴訟付添いについては、改正前のドイツ刑事訴訟法四〇六条hにおいて規定されていた。この旧条文は、二〇〇九年第二次被害者権利改正法で規定されたものであり、そこでは、訴訟参加の可能性、訴訟参加人の補佐人、附帯私訴手続、被害者補償法、暴力保護法などに関して、関係官庁が被害者に情報の提供を行う義務について規定していたが )₁₇
(、それと並んで、心理社会的な訴訟付添いについては、同条一項五号に﹁例えば、相談や心理社会的な付添いなどの被害者支援施設による支援や援助を受けることができる﹂として被害者に告知すべき事項の一つとして規定されていたに過ぎなかった。これに対して、二〇一五年の改正では、同法旧四〇六条h一項五号にあった心理社会的な訴訟付添いを、新たに、同法四〇六条gに一つの条文として独立させ、より詳細に規定することとなった。
三 心理社会的な訴訟付添いの具体的内容 以下では、心理社会的な訴訟付添いの具体的内容について見ていく )₁₈
(。
心理社会的な訴訟付添いについては、改正後のドイツ刑事訴訟法四〇六条gにおいて規定されているが、この刑事訴訟法の改正と並んで、二〇一五年、新たに﹁刑事手続における心理社会的な訴訟付添いについての法律(
G es et zü be r die p sy ch os oz ia le P ro ze ss be gle itu ng im S tr afv er fa hr en
)﹂(以下、﹁P sy ch P b
法﹂とする。)も制定された。なお、第三次被害者権利改正法自体は、二〇一五年一二月三一日に成立とともに施行されたが、心理社会的な訴訟付添いの刑事訴訟法上の規定とP sy ch P b
法については、ある程度準備期間が必要であるとして、二〇一七年一月一日からの施行とされた。( )同志社法学 六九巻七号一三一二ドイツ刑事手続における被害者への付添い制度三三四〇
⑴ 心 理 社 会 的 な 訴 訟 付 添 い の 原 則
心理社会的な訴訟付添いの原則については、P sy ch P b
法二条に規定されている。心理社会的な訴訟付添いとは、特に保護の必要性のある被害者に対して、公判の前、間、後において、刑事手続上の法律的ではない付添いを認めた特別の形式である。つまり、この心理社会的な訴訟付添いとは、裁判における公判の間だけの付添いを指すのではなく、起訴前の準備手続、中間手続(公判開始手続)、公判手続終了後など、刑事手続のすべての段階で、被害者に対して情報提供を行い、専門的知識をもって付添いや支援を行うことを指す。心理社会的な訴訟付添いの目的は、個々の被害者の負担を軽減し、被害者の二次被害を予防する点にある。心理社会的訴訟付添人は、刑事手続に対して中立性を保つ義務を負い、法律的な助言や被害者証人への干渉も禁止されている。これは、法的な助言は弁護士だけが行うことができる業務であり、心理社会的な訴訟付添いが、被害者弁護士による法的な被害者代理とは異なることを確認したものとされる )₁₉
(。また、心理社会的訴訟付添人の使命に、真相解明は含まれておらず、被害者に付き添う場合、できる限り真相解明について自ら話さず、事実を検討するようなこともするべきではないとされている )₂₀
(。
⑵ 心 理 社 会 的 訴 訟 付 添 人 の 適 性 と 認 定
心理社会的訴訟付添人の適性と認定については、P sy ch P b
法三条および同法四条に規定されている。心理社会的訴訟付添人には、専門的、人物的、そして学際的な適性が求められている。専門的な適性としては、①社会教育学、社会福祉活動、教育学、心理学などの範囲の高等教育機関を卒業しているか、あるいはそれらと同様の範囲の職業教育を完了していること、②州が認めた心理社会的訴訟付添人のための養成専門教育か技能訓練を終了し、被害者に付き添う範囲で実践的な職業経験があることなどが求められる。人物的な適性としては、特に助言能力、コミュニケーション能力、協力能力、人と衝突した時の処理能力、負担に耐える能力、組織に関す
( )ドイツ刑事手続における被害者への付添い制度同志社法学 六九巻七号一三一三三三四一 る能力等を持っているべきとされる。学際的な適性としては、付添う被害者の類型(性被害に特化しているなど)に関連して、医療心理学、被害者学、刑事犯罪学、法律等に関する基礎知識が必要とされるとしており、被害者の為に現場でどのような支援をすべきか知っていることも要求されている。また、心理社会的訴訟付添人は、自己の責任で、これらの基準に従った自己形成を常に継続し続けていかなければならない。
心理社会的訴訟付添人の認定については、それぞれの州が権限をもち、どのような人物が心理社会的訴訟付添人にふさわしいのか、具体的にどのような内容の職業教育や実践的な職業経験、技能訓練などを心理社会的訴訟付添人に要求していくのかについても、州が決めることができる。
⑶ 心 理 社 会 的 訴 訟 付 添 人 の 法 廷 で の 同 席
心理社会的訴訟付添人は、ドイツ刑事訴訟法四〇六条g一項において、被害者の尋問や公判の間、法廷において、被害者に同席することを許されている。ただし、同条四項では、審問の目的が侵害される場合に、被害者の尋問への同席が禁止されるとして、付添いを制限する場合についても規定している。また、同条三項では、同法一四二条の弁護人選定に関する規定を準用し、裁判長は、被害者が選んだ心理社会的訴訟付添人について、重大な理由がある場合には、認めないこともできるとする )₂₁(。なお、被害者証人の尋問の際に、心理社会的訴訟付添人は同席することができるが、証言拒絶権は認められていない(
P sy ch P b
法二条二項)。⑷ 無 料 の 心 理 社 会 的 な 訴 訟 付 添 い の 請 求 が で き る 被 害 者
基本的に心理社会的な訴訟付添い自体は、以前からドイツで実施されており、どんな被害者であっても付添いを求めることができた。しかし、今回の改正では、付添いの中でも、公判の前、間、後などの刑事手続で、特に保護の必要性の高い被害者に関しては、裁判所から法的に許可された付( )同志社法学 六九巻七号一三一四ドイツ刑事手続における被害者への付添い制度三三四二
添いとして、国家の費用によって無料で付添いをできるようにした。
同法四〇六条g三項では、訴訟参加人が国費によって弁護人を依頼することができる被害者の範囲を定めた同法三九七条aを準用して、無料の心理社会的な訴訟付添いを申請することができる被害者の範囲を定めている。心理社会的訴訟付添人を裁判所に申請できる被害者の範囲は大きく分けて二つに分かれる。
一つは、同法三九七条a一項四号および五号に該当する場合である。四号および五号は、主に、一定の犯罪により被害を受けた一八歳未満の者を対象としている )₂₂
(。四号および五号の場合には、裁判所は、必ず心理社会的な訴訟付添いの申請を許可しなければならない。四号および五号の罪としては、四号に、被保護者に対する性的虐待、地位や関係を利用した性的虐待、子ども(一四歳未満)に対する性的虐待、性的侵襲、性的強要、強姦、未成年者に対する性的虐待、性的いやがらせ、保護責任者による虐待があり、五号に、児童に対するネグレクト、重傷害罪、人身売買に関する罪、未成年者略取、強制結婚罪、ストーカー行為、逮捕監禁、犯情の重い強要罪、強盗に関する罪などが挙げられている。これらの暴力犯罪や性犯罪などの被害者で、児童や未成年である場合には、特に保護する必要性が高いとして、申請を受けて条件に該当する場合には、裁判所は裁量の余地なく、国費による付添いを許可すべきとしている )₂₃
(。
もう一つは、同法三九七条a一項一号から三号に該当する場合である。これらの場合は、前述した児童や未成年である場合とは異なり、裁判所は、申請した被害者が、特に保護する必要性があるかどうかを判断して許可することとなる。つまり、成人の場合には、裁判官には自由裁量の余地がある )₂₄
(。一号から三号の罪としては、一号に、性的侵襲、性的強要、強姦、人身売買に関する罪があり、二号に、謀殺未遂罪、故殺未遂罪、三号に、重傷害罪、未成年者略取、ストーカー行為、逮捕監禁、強盗に関する罪などが挙げられている。また、これらの犯罪の直接の被害者だけでなく、違法な行為により死亡した近親者にも、申請が認められている(同項二号)。この違法な行為により死亡した者の近親者には、
( )ドイツ刑事手続における被害者への付添い制度同志社法学 六九巻七号一三一五三三四三 生命に対する犯罪により被害者が死亡した場合だけでなく、結果的加重犯によって死亡した場合も含まれ、死亡した被害者の子ども、両親、兄弟姉妹、配偶者、生活上のパートナーも含まれている。これらの同法三九七条a一項一号から三号の場合、裁判所は、被害者の特に保護する必要性について判断しなければならないが、立法者は、人身に対する傷害や精神的な侵害を受けた被害者、性犯罪による被害者、身体的、精神的かつ経済的に重大な結果を伴う暴行による被害者、長期の犯行期間を伴う暴行による被害者、偏見に基づく暴力の被害者、憎悪犯罪による被害者、人身売買の被害者等を、特に保護する必要性がある被害者として想定している )₂₅
(。
無料の心理社会的な訴訟付添いを、すべての犯罪ではなく、これらの犯罪に限定した背景には、これらの犯罪の被害者が、特に保護する必要性があるというだけでなく、とりわけ財政上の理由もあるともされる )₂₆
(。ドイツにおいて、今回の改正により無料の心理社会的な訴訟付添いの対象となった犯罪の一つである児童の性的虐待による被害者の数は、二〇一三年は、一万五〇〇〇人から一万七〇〇〇人に及ぶとされており、法律施行後の対象犯罪の件数はかなり多くなることが予想される。そのため、心理社会的な訴訟付添いのための出費の予想は、州ごとで年間約九万ユーロ、ドイツ全土で一四〇万ユーロとされており、立法者はこれらの財政上の理由からも、すべての犯罪を対象とすることはできず、対象犯罪を限定したのではないかとの指摘もある )₂₇
(。
また、これらの犯罪に限定したもう一つの背景には、EU被害者保護指令の二二条において、人身に対する傷害や精神的な侵害を受けた被害者、性犯罪による被害者、身体的、精神的かつ経済的に重大な結果を伴う暴行による被害者、長期の犯行期間を伴う暴行による被害者、偏見に基づく暴力の被害者、憎悪犯罪による被害者、人身売買の被害者等の二次被害を防止するための配慮が必要とされると明記されたことも関係していると考えられる。
これらの特に保護すべきとされた被害者の範囲が、訴訟参加の対象犯罪と重なっている理由としては、立法者が、証
( )同志社法学 六九巻七号一三一六ドイツ刑事手続における被害者への付添い制度三三四四
人と同様、法廷内に入る被害者の二次被害の防止という点を重要視していることの現れとも考えられ、これらの無料の心理社会的な訴訟付添いの規定の新設により、訴訟参加資格のある被害者については、法廷において、心理社会的な訴訟付添いを行う必要性が高いということが示されたと見ることもできるだろう。
⑸ 心 理 社 会 的 訴 訟 付 添 人 の 報 酬
ドイツ刑事訴訟法四〇六条g三項において、心理社会的な付添いが法的に認められた場合、付添いを行った心理社会的訴訟付添人は、国庫からその任務を行うための報酬を受けとることができる。報酬の具体的内容については、P sy ch P b
法五条から同法一〇条に規定されている。具体的な報酬の額については、P sy ch P b
法六条において、手続段階ごとに以下のように規定している。①起訴前の準備手続については五二〇ユーロ。②第一審の公判手続については、三七〇ユーロ。③第一審の手続終了後については二一〇ユーロ。報酬の請求は、管轄の裁判所に対して行うこととしている。なお、同法一〇条によって、州が、この法律とは異なる報酬に関する規定を法令によって定めることもできるとしている。四 ドイツにおける心理社会的な訴訟付添いに関する評価
⑴ E U 被 害 者 保 護 指 令 の 要 求 に 対 す る 充 足 性
二〇一五年第三次被害者権利改正法は、二〇一二年EU被害者保護指令の最低基準を具体化するものとして成立・施行したものであるが、この心理社会的な訴訟付添いについては、二〇一二年EU被害者保護指令のどのような要求を充足するものとして、改正されたのだろうか )₂₈(。二〇一二年EU被害者保護指令では、第三章の一〇条から一七条において、刑事訴訟への参加に関する諸権利を規定しているが、その中でも一三条は、裁判において支援を受ける権利について規定している。そこでは、各構成国に、被害者が刑事訴訟において、
( )ドイツ刑事手続における被害者への付添い制度同志社法学 六九巻七号一三一七三三四五 当事者としての身分を有するときには、裁判において被害者が支援を受けることができるように留意すべきとした。心理社会的な訴訟付添いについての改正は、これらを充足するためにも見えるが、ドイツでは、ドイツ刑事訴訟法三九五条において一定の犯罪の場合には、訴訟参加が認められており、そこでは、訴訟参加人は弁護士の代理人をつけることもできるので、EU被害者保護指令一三条は、すでに満たしているとの指摘がある )₂₉
(。
では、EU被害者保護指令のどの条文を満たすものなのだろうか。それについては、今回の心理社会的な訴訟付添いについての改正は、二〇一二年EU被害者保護指令の八条を充足するためと考えられる。二〇一二年EU被害者保護指令の八条は、被害者支援機関にアクセスする権利を規定している。そこでは、各構成国に、被害者がその要求に応じて、刑事訴訟の前後および刑事訴訟の進行中、十分な期間、無料で被害者支援機関にアクセスできることを留意すべきであり、被害者家族も、その要求および被害者に対して犯された犯罪事実から生じた被害の程度に応じてアクセスできるようにすべきとしていた。二〇一五年第三次被害者権利改正法の法律案の中でも、心理社会的な訴訟付添いについての改正理由として、新たに刑事訴訟法に規定を設けることにより、ドイツ刑事訴訟法における心理社会的な訴訟付添いの定着と同時に二〇一二年EU被害者保護指令の八条にあるような心理社会的な支援についての被害者支援機関の準備促進にも役立つとしている )₃₀
(。
しかし、今回の心理社会的な訴訟付添いに関する改正が、二〇一二年EU被害者保護指令の八条の要求を満たすものかどうかについては、疑問も提示されている )₃₁
(。これらの見解によれば、二〇一二年EU被害者保護指令の八条の要求は、﹁刑事手続の終了から十分な期間﹂としているのに対して、今回の改正では、公判の後の付添い期間について明確に規定しておらず、ただ、報酬の額を規定する
P sy ch P b
法六条において、﹁第一審手続終了後﹂としかしていない点で満たせていないとする。つまり、第一審手続終了後、控訴審手続等のその後の手続についてどの程度の期間、付添いが可能( )同志社法学 六九巻七号一三一八ドイツ刑事手続における被害者への付添い制度三三四六
なのかを明確にしていない点で不十分としているのである。また、ドイツでは、刑事犯罪学中央研究所が行った被害者支援機関の調査 )₃₂
(において、人口比率や犯罪発生件数を検討した結果、地域ごとに被害者支援機関による格差が確認されている点から、今回の改正によって、これらの地域格差が解消され、被害者が被害者支援機関にアクセスするための確保が十分に果たされているかは疑わしく、今後連邦レベルで、連携の充実および支援の品質保証を行っていかなければならないとする見解もある )₃₃
(。
⑵ 批 判 的 な 評 価
ドイツにおける心理社会的な訴訟付添いについては、批判的な評価もなされている )₃₄(。批判的な評価の内容としては、①二次被害防止の目的、②無罪推定の原則への抵触、③武器平等の原則と訴訟バランス、④証人の供述への影響、⑤被害者代理人との関係からの批判がなされている。
①二次被害防止の目的については、そもそも心理社会的な訴訟付添いに二次被害防止の効果が存在するかどうか疑わしいとする )₃₅
(。どの程度、どのぐらいの期間で二次被害を受けたと決定するのか、二次被害の概念自体が曖昧であり、刑事手続外でも被害者の具体的な生活事情や周辺環境、人間的な素質、メディア等によっても二次被害を受ける危険性があるため、心理社会的な訴訟付添いによって刑事手続内ですべての二次被害を防止することはできないとする。
②無罪推定の原則への抵触については、付添いを許可することで、刑事手続の早い段階で被害者であるかどうかを確認することになり、刑事手続が確定力を持つまで無罪であるとみなされているとする無罪の推定の原則に抵触するとする )₃₆
(。この見解の背景には、ドイツでは刑事訴訟法および今回の
P sy ch P b
法において、被害者の概念を明確に定義していないことへの批判も含まれている。この見解は、肯定的見解が心理社会的な訴訟付添いが必要であると裁判所から認められたとしても、それは、被疑者、被告人同様、﹁被害者と推定される者﹂という位置づけであり、付添いの許可自( )ドイツ刑事手続における被害者への付添い制度同志社法学 六九巻七号一三一九三三四七 体が、実際に被害を受けたとする罪責認定につながるものではないと主張していることを認めつつも、そもそも、広範な手続において無罪推定の原則に抵触するような危険があるものを、刑事訴訟上に定めることは好ましくないとする。被害者と無罪推定の原則の関係については、一九八六年の被害者保護法制定の時から、ドイツでは批判的な見解が主張されていた )₃₇
(。また、二〇〇〇年以降も無罪推定の原則については、被告人の罪責が裁判の形式によって証明されるまで、有罪として取り扱われてはならず、被害者保護を理由に、真実発見が被告人にとって不利益な方向で制限されてしまう恐れについて言及されている )₃₈
(。
③武器平等の原則と訴訟バランスについては、法廷で、被告人は、対峙する人数が増加することにより、数のうえで劣勢となるだけでなく、演出的にも訴追する者と訴追される者の権力落差を強くすることが問題であるとする )₃₉
(。被告人に武器平等の原則が認められているにも関わらず、心理社会的訴訟付添人によって、法廷において、今後、被告人の向かい側には、検察官だけでなく、訴訟参加人やその弁護士代理人、場合によっては、ドイツ刑事訴訟法四〇六条fで認められている証人の信頼できる人物が座り、それに加えて心理社会的訴訟付添人までもが座ることになり、これにより、訴訟における数のうえでのバランスを崩すとの指摘である。
④被害者証人の供述への影響については、たとえ、法律において、被害者証人に対しての干渉や証言の侵害が禁止されていたとしても、心理社会的訴訟付添人と被害者証人との関係性から、証言に影響を与えてしまうのではないかとの指摘がなされている )₄₀
(。心理社会的訴訟付添人は、手続や結果に対する中立性が前提となっているが、やはり、被害者の負担軽減のためには、被害者証人と心理社会的訴訟付添人が信頼関係を構築していく必要があり、そのためには心理社会的訴訟付添人が、被害者証人に対して感情を移入し、理解し、被害者の持つ不公平感に協調することが必要となる。そう考えると、心理社会的訴訟付添人が、被害者に対して、より感情的になることはやむを得ないことであるが、その
( )同志社法学 六九巻七号一三二〇ドイツ刑事手続における被害者への付添い制度三三四八
分、心理社会的訴訟付添人による被害者証人への影響の危険性が高まるとする。また、被害者証人の供述への影響については、法律案段階でも同様の指摘がなされており、専門的な知識を持った心理社会的訴訟付添人による指導が、供述準備になってしまい、影響を与えてしまう可能性があるとの指摘もある )₄₁
(。
⑤被害者代理人との関係については、そもそも今回の規定では、訴訟参加人が付添いを申請できることとしているが、経験豊かな弁護士による訴訟参加代理人でも、同様の効果を得ることができるのではないかと指摘である )₄₂
(。刑事手続の中での二次被害に関して、それを防止するための行為や助言については、それまでも、弁護士である訴訟参加代理人が業務として行っていた。弁護士とは別に刑事司法という未知の世界での不安の軽減を目的として心理社会的訴訟付添人を付けるならば、それは、被害者だけでなく、被疑者、被告人にも妥当するのであり、弁護士だけでは、それが果たせないとするのであれば、被疑者、被告人も心理社会的な訴訟付添いを要求することができることとなるのではないかとの疑問を呈している。
⑶ 実 務 に お け る 意 義
批判的な評価がある一方で、今回の改正については、実務における意義が大きいとの評価もある。今回の改正は、法律案の理由でも述べられているように )₄₃
(、ドイツにおける心理社会的な訴訟付添いの定着が大きな目的の一つとされている。心理社会的な訴訟付添いは、前述したように、被害者が利用できる権利の一つとして、二〇〇九年第二次被害者権利改正法でドイツ刑事訴訟法に明記されたものであった。この二〇〇九年の改正理由としては、﹁特に、重大な性的暴行やその他の暴力行為の被害者は、刑事訴訟法上の尋問の際に、問題が起こることがあり、被害者に可能な限り配慮した形式に整える為に、審理経過や機会を見ながら、特別に訓練された被害者保護団体の職員による付
( )ドイツ刑事手続における被害者への付添い制度同志社法学 六九巻七号一三二一三三四九 添いがなされるようにする。これによって、しばしば起こる二次被害も防止することができる。しかし、被害者の証言の内容に(意識的あるいは無意識的に)影響を与えるようなことがないように保障しなければならない )₄₄
(﹂としていた。二〇一五年と二〇〇九年の改正において心理社会的な訴訟付添いの目的自体は、変更していない。それにもかかわらず、今回わざわざ独立した条文として新たに規定化したのは、個々の州やいくつかの被害者支援機関で行われていた実務を、刑事訴訟法上の新たな規定で統合し、それとともに、被害者証人の証言を付添いによって安定させ、その他の手続関与者に対する法的安定性をもたらすという司法の利益も満たすためと法律案において説明されている )₄₅
(。
これらの立法上の目的に鑑み、実務上の意義が大きいとする理由としては、①刑事手続における被害者保護措置を明白に強化した点および②すべての州に対して、統一的な適性基準を保証する義務を負わせた点が挙げられる。
①は、立法者は、刑事訴訟法上に新たに心理社会的な訴訟付添いの規定を定めたことによって、刑事手続が、被害者にとって相当負担があるものということを改めて明示し、特に保護する必要性のある訴訟参加資格のある被害者に付添いの請求をできるようにした点を評価する )₄₆
(。
②は、今回の改正では、
P sy ch P b
法において、心理社会的訴訟付添人の適性およびその適性を満たす心理社会的付添人には十分な報酬を与えるべきということを規定したことにより、すべての州に対して心理社会的な訴訟付添いの提供を行う場合の基準を示し、ドイツにおける心理社会的な訴訟付添いの定着を促進させたとして評価する )₄₇(。実際に、法施行後、各州では、心理社会的訴訟付添人に関する情報をホームページや冊子などで紹介している。例えば、バイエルン州のホームページでは )₄₈
(、心理社会的な訴訟付添いの説明の他にも、州が認定した心理社会的訴訟付添人のリストを公表し、さらに、心理社会的訴訟付添人は弁護士やカウンセラーとは業務が区別され、法的な助言、心理療法(セラピー)やトラウマ治療などは行わないということも示しており、刑事手続上に、﹁心理社会的訴訟付添人﹂という新たな役割
( )同志社法学 六九巻七号一三二二ドイツ刑事手続における被害者への付添い制度三三五〇
を定着させるための各州における取り組みは早速促進されているように感じる。
Ⅲ わが国の刑事手続における専門的な被害者への付添いの必要性 わが国においては、民間の被害者支援団体等により、現在、警察、検察庁、裁判所、病院、市役所などの機関への付添い業務が行われている。刑事手続における付添いとしては、主に、法廷における付添いの形式として、刑事訴訟法上に、刑事訴訟法一五七条の二 )₄₉
(の証人への付添いと同法三一六条の三九の被害者参加人のための付添いが存在している。以下では、これらの二つの付添いの形式について、実施状況等も踏まえ検討し、わが国の刑事手続における専門的な被害者への付添いの必要性について若干の考察を加えたい。
一 証人への付添い(刑事訴訟法一五七条の二) 二〇〇〇年犯罪被害者保護二法が成立し、そのうち﹁刑事訴訟法および検察審査会の一部を改正する法律﹂により、刑事訴訟法一五七条の二に証人に対する付添いの規定が盛り込まれた )₅₀
(。この規定は、証人尋問手続における証人の精神的不安等を軽減させるための手続として新設され、この規定により、証人の不安や緊張を和らげるために、証言中、適当な者を証人に付き添わせることができることとした。また、この証人への付添いの規定は、被害者等の心情その他の意見陳述の規定である同法二九二条の二、六項において準用できるとされており、被害者等の心情その他の意見陳述の際にも、この規定による付添いが実施されている。
裁判所は、付添いの要件として、証人の年齢、証人の心身の状態、その他の事情を考慮し、証人が著しく不安または
( )ドイツ刑事手続における被害者への付添い制度同志社法学 六九巻七号一三二三三三五一 緊張を覚えるおそれがあるかどうかを総合的に判断して、付添いを認める。付添いを認める場合には、裁判所は、検察官および被告人または弁護人の意見を聴く。条文上は、裁判所が職権で措置をとることとされているが、実際上は、証人請求をした当事者から職権発動の申し出がなされることが多く、付添いを希望する被害者証人は、付添いを希望する旨を検察官か裁判官に伝える )₅₁
(。その場合には、通常当該証人に関して具体的な事情が示されるので、その点について、裁判所は、相手方当事者からも意見を聞くことになる。
付添人として認められる者としては、証人の不安または緊張を緩和するのに適当であり、かつ裁判官もしくは訴訟関係人の尋問や証人の供述を妨げ、その供述内容に不当な影響を与える恐れがないと認める者であることを要する。証人の傍らに同席することで、証人の不安または緊張を緩和するのに適当な者であれば、特に制限はない。その典型としては、心理カウンセラーや年少者の親等が考えられており、特別の公的資格等を要するものではない )₅₂
(。また、警察で被害者対策に従事している者についても,その者が当該事件の捜査に関与しているような場合には、不当な影響の有無等について慎重な判断が必要となるが )₅₃
(、警察の被害者支援を担当する警察職員(カウンセラー)などが付添いを許可されていることもある。ただし、付添人は、傍らで証人の様子を見る以上の言動は原則としてとれないので、被害者の選任した弁護士を法的助言者として付添人とすることは許されない )₅₄
(。
付添人の態様および禁止行為としては、付添人は、証人の傍らに着席して、証人の様子を見守ることとなるが、尋問や供述を妨げたり、供述内容に不当な影響を与える言動は禁じられる。供述することを促す行為も原則的には許されない )₅₅
(。児童が証人尋問している際に、付添人が分かりやすい言葉で言い換えるということも許されないと考えられる )₅₆
(。ただし、証言中に証人の体調が悪化したり、パニックに陥っているような場合に、その具合を尋ねたりすることは認められるとし )₅₇
(、実際の裁判では、証人の体調の悪化により、証言を続けるのが困難であるような場合には、付添人から、裁
( )同志社法学 六九巻七号一三二四ドイツ刑事手続における被害者への付添い制度三三五二
判長の方にその旨を伝えることもあるようである )₅₈
(。また、付添人が不安な証人に対して手を添える等の行為をすることができるかについては、証人の証言内容に示唆を与える恐れがある場合には許されないが、このような恐れがないと認められる場合で、証人の状況に応じて必要と思われる場合には否定されないと考えられ )₅₉
(、実際の裁判でも、必要性があれば手を添える行為ぐらいは認められているようである。なお、もし、付添人に不当な言動があった場合、裁判所は、訴訟指揮権に基づきその言動を制止し、これに従わない時は、付添いの措置の取消し等がなされることも考えられる )₆₀
(。
付添いの措置は、公判手続、公判期日外、第一回公判期日前、証拠保全手続、少年審判手続、逃亡犯罪人引き渡しに関する審理手続、国際捜査共助手続等の証人尋問手続すべてにおいて適用される )₆₁
(。
付添いの措置をとる決定は、証拠調べに関する決定であるから、同法三〇九条一項により、異議申立ての対象となるが、職権を発動しなかったことに対する不服申立ては認められない )₆₂
(。
二 被害者参加人への付添い(刑事訴訟法三一六条の三九) 二〇〇七年の刑事訴訟法の改正により、被害者参加制度が導入された際に、被害者参加に関する諸規程と並んで、刑事訴訟法三一六条の三九に被害者参加人への付添い・遮へいの措置に関する規定が盛り込まれた。ここでは、主に被害者参加人への付添いについて見ていく )₆₃
(。
この規定の趣旨は、被害者参加人が、一般に、刑事手続に精通していないことなどから公判期日に出席することに著しく不安や緊張を覚えるなど、精神的な圧迫を受け、その結果、円滑な出席や訴訟活動を行うことが困難になる場合を想定し、このような被害者参加人については、適当な者を付き添わせることにより、その不安や緊張を緩和し、精神的な圧迫を軽減する点にある。
( )ドイツ刑事手続における被害者への付添い制度同志社法学 六九巻七号一三二五三三五三 裁判所は、証人への付添いの要件と同様に、被害者参加人の年齢、被害者参加人の心身の状態、その他の事情を考慮し、被害者参加人が著しく不安または緊張を覚えるおそれがあるかどうかを総合的に判断して、付添いを認める。また、付添いを認める場合には、検察官および被告人または弁護人の意見を聴かなければならない点も証人への付添いと同様である。付添いを希望する被害者参加人は、その旨を検察官に伝え、裁判所からの許可を得るようにする )₆₄
(。
付添人として認められる者としては、裁判官もしくは訴訟関係人の尋問もしくは被告人に対する供述を求める行為もしくは訴訟関係人がする陳述を妨げ、その陳述内容に不当な影響を与える恐れがないと認める者であることが必要である。例えば、被害者参加人の近親者や心理カウンセラーなど被害者参加人の側にいて、安心感を与え、その不安や緊張を緩和するのに適当と認められる者と想定される )₆₅
(。ここでいう﹁訴訟関係人﹂とは、尋問、陳述を行うことができる、検察官、被告人、弁護人、被害者参加人はもとより、証人もこれに当たると解され、また、尋問、陳述を﹁妨げ﹂る行為としては、たとえば、大声を張り上げたり、尋問、陳述等をする者を威迫するなどにより、尋問、陳述等自体をさせないようにすることを意味し、﹁不当な影響を与える﹂とは、陳述自体はさせるものの、例えば、被害者参加人に働きかけてその内容が陳述をする者の真意とは異なるよう影響を与えることを意味すると解される )₆₆
(。
付添いの措置をできるのは、被害者参加人が公判期日または公判準備に出席する場合であり、公判期日に出席して裁判の推移を見守っている場合のみならず、被害者参加人による証人尋問、被告人質問、事実または法律の適用についての意見陳述を行う場合であっても、付添いの措置をとることができる。付添いの措置の決定は、職権でなされることになるが、例えば、審理が進むにつれ、付添人の感情が高ぶるなどにより、訴訟関係人の尋問等を妨げる恐れがあると認められるようになり、引き続き当該付添人を被害者参加人に付き添わせることが相当でないと判断される場合には、付添いの措置をとる旨の決定を取り消すこともある。裁判所による付添いの措置の決定や取消決定は、証人への付添いと
( )同志社法学 六九巻七号一三二六ドイツ刑事手続における被害者への付添い制度三三五四
は異なり、証拠調べに関するものではなく、裁判長の処分でもないことから、同法三〇九条一項による異議申立てはできない。また、被害者参加人はもとより、検察官および被告人または弁護人も、不服を申し立てることはできず、この決定は、﹁訴訟手続に関し判決前にした決定﹂に当たることから、抗告もすることはできない )₆₇
(。
三 わが国の刑事手続における付添いの実施状況
⑴ 証 人 へ の 付 添 い お よ び 被 害 者 の 心 情 そ の 他 の 意 見 陳 述 の 際 の 付 添 い
証人への付添いも被害者の心情その他の意見陳述での付添いも、二〇〇〇年の犯罪被害者保護二法によって導入された。そこで、導入以降現在まで、どの程度の付添いがなされているのかについて、その実施状況を見ていきたい(表1)。証人尋問の際に付添いの措置がとられた証人の延べ人数は、制度導入すぐの二〇〇一年は三八人であり、そこから増加していき、二〇〇四年から二〇〇九年までは、大体七〇人から八〇人前後で推移している。二〇一〇年からは、一〇〇人以上で推移しており、二〇一五年は制度導入から一番多い一四一人となっている。
被害者の心情その他の意見陳述において付添い措置をした被害者の延べ人数は、二〇〇一年は一名のみであったが、そこから増加し、二〇〇七年までは、大体一〇人から二〇人前後で推移している。その後、二〇〇八年以降から増加し、幅はあるが三〇人から七〇人程度となっている。
表1 証人尋問および意見陳述の際に付添いの措置がとられた証人および被害 者の人数
2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 証人尋問で付添い措
置した証人の数 38 68 51 87 68 77 70 86 79 102 136 121 116 112 141 意見陳述で付添い措
置した被害者の数 1 5 12 7 8 13 21 32 44 52 39 46 41 76 79
※ 裁判所ホームページにて公開している「犯罪被害者保護関連法に基づく諸制度の実 施状況(高・地・簡裁総数)」を参照し、作成したものであり、人数の数値は、延 べ人数である。
( )ドイツ刑事手続における被害者への付添い制度同志社法学 六九巻七号一三二七三三五五 別途、公判期日に心情その他の意見陳述を行った被害者全体の数を見ると、二〇〇七年から一〇〇〇人を越え、二〇〇八年は一〇六八人、二〇〇九年は一一一九人となり、その後、二〇一〇年から二〇一五年まで、およそ一一〇〇人から一二〇〇人前後で推移している )₆₈
(。心情その他の意見陳述を行った被害者の数自体が増加していることからも、二〇〇八年から増加した背景には、二〇〇七年に改正し二〇〇八年一二月から実施されている被害者参加制度があるのではないかと考える。被害者参加制度の導入によって、被害者参加制度を利用するのか、あるいは心情その他の意見陳述を利用するのか、あるいは両方を利用するのかという選択肢が増えることで、意見陳述を行う被害者の数自体が増え、同様に付添いを必要とする被害者が増えたのではないかと考える。
なお、統計上、付添い措置がとられた証人や心情その他の意見陳述の被害者の罪名別のデータがないため、どのような罪種において付添い措置が認められることが多いのかについては、明らかではない。
⑵ 被 害 者 参 加 人 へ の 付 添 い
被害者参加人への付添いについても、被害者参加制度実施後の二〇〇九年以降の実施状況を見ていきたい(表2)。通常第一審事件のうち被害者参加で付添いの措置がとられた被害者の総数は、二〇〇九年は二四人であり、二〇一三年までは、おおむね三〇人から四〇人前後で推移し、その後二〇一四年、二〇一五年は、一〇〇人近くまで増加している。これとは別で被害者参加を許可された被害者の総数について見てみると、二〇〇九年は五六〇人、二〇一〇年は八三九人、二〇一一年は九〇二人、二〇一二年は一〇〇二人、二〇一三年は一二九七人、二〇一四年は一二二七人で、二〇一五年は一三七七人と増加していっている )₆₉(。
また、被害者参加人への付添いが認められた人数を罪名別に見てみると、殺人、傷害、傷害致死などと、強制わいせつ、強制わいせつ致死、強姦、強姦致死傷などの性犯罪が多い。犯罪の直接の被害者だけでなく、死亡の結果を伴う犯