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白百合女子大学 博士論文審査報告書 氏名

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Academic year: 2021

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白百合女子大学 博士論文審査報告書

氏 名 鈴木 宏枝 学 位 の 種 類 博士(文学)

学 位 記 番 号 乙第

17

学位授与年月日 平成

28

11

3

学位授与の要件 学位規則第

4

条第

2

項該当者

学 位 論 文 名 主 題 アフリカン・アメリカン児童文学におけるエンパワメント 副 題 可視化、受容、連接

論 文 審 査 委 員 委員長 教授 鈴木 忠 主 査 教授 白井 澄子 副 査

副 査 副 査

教授 井辻 朱美 教授 石井 直人

青山学院大学名誉教授 神宮 輝夫

論文内容の要旨

本論文は、アフリカン・アメリカン児童文学を「アフリカン・アメリカンの子どもを内包され た読者とする文学」として定義し、従来の、人種差別への抵抗や白人‐黒人の二項対立の文脈か らの議論から進み、アフリカン・アメリカン文化と連接した特質を探ることで研究に新たな面に 光を当てることを目的とする。

「はじめに」では、アフリカン・アメリカン児童文学が固定観念への反駁を軸に展開してきた 経緯を概観し、大人向けの文学とは異なる視点が必要とされることを確認する。その上で、本論 で援用する

Solomon

の用語「エンパワメント」について、アフリカン・アメリカンの子どもから 自己決定力や主体性を引き出す力と定義づける。 「エンパワメント」は、従前の

Heldig & Perkins

Bishop

の言説を踏まえているが、アフリカン・アメリカン文化の諸相に依拠していると見な

す点に新規性があり、その内的特質として、アフリカン・アメリカンの存在感や社会における声 を示す「可視化」、奴隷制にさかのぼるアイデンティティを肯定的に再獲得させる「受容」、アフ リカン・アメリカンの言語や音楽、特有の経験を通じて複数の人々を結びつける「連接」の

3

点 を挙げる。

「Ⅰ エンパワメントの土台‐

The Brownies’ Book

」では、1920 年代のハーレム・ルネッサン ス期に全米黒人地位向上協会から発行された子ども向けの月刊誌

The Brownies’ Book

(1920-21)

が読者としてのアフリカン・アメリカンの子どもを「可視化」し、アフリカや西インド諸島の文 化を紹介してルーツの「受容」を促し、モダニズムの影響を受けた挿絵や表紙絵により、アフリ カやヨーロッパとの「連接」を明示して、エンパワメントを包含し、編集長で黒人知識人の

W. E.

B. Du Bois

の個人的知性に大きく依拠しながらアフリカン・アメリカン児童文学の方向性を決定

づけたことを指摘する。

続くⅡ~Ⅳでは、20 世紀後半以降のアフリカン・アメリカン児童文学が「可視化」 「受容」 「連 接」の諸要素を併流・混淆させながらいかに豊穣化していったかを述べる。「Ⅱ 可視化の展開」

の「1. アフリカン・アメリカンの存在感」では、アフリカン・アメリカンの偉人を可視化する伝 記、アメリカの民衆文化に奥行きを与えるアフリカン・アメリカン民話、フォーク・ヒーローの

John Henry

を語るトール・テール(ほら話)がアメリカ人の多様性を示すテクストであると論

じる。「2. 抑圧への異議申し立て」では、Mildred Taylor の

Logan Saga

から、人種差別の不条

理を少女

Cassie

の目から見る

Roll of Thunder, Hear My Cry

(1976)、白人少年

Jeremy

の目か

ら人種差別の悲劇を見る

Mississippi Bridge

(1990)、開拓時代に白人農園主の父親と元奴隷の

母親の間に生まれた混血の青年

Paul-Edward

が困難を経て自分の土地を得、アメリカの開拓者

としての像を示す

The Land

(2001)を挙げ、アフリカン・アメリカンの可視化への意思を明ら

(2)

かにする。作品は同じ

Logan

一家を扱うシリーズで、

Paul-Edward

Cassie

の祖父である。ア フリカン・アメリカンの存在感を表出し、アメリカ人としての自画像を多様に描くことで、エン パワメントが構築されている。

「Ⅲ 受容の展開」では、 「1.『中間航路』の再受容」で、民族集団におけるアフリカの受容を 考える。「ⅰ. ハイチに見る夢」では、最初のアフリカン・アメリカン児童文学作品といわれる

Popo and Fifina

(Hughes & Bontemps, 1932)に西インド諸島への志向を見出し、 「ⅱ. アフリ カへの憧憬」では、逃亡奴隷のアレゴリーである民話“All the God’s Chillun Had Wings”につい て、子ども向けに再話されるときにアフリカへの憧憬という点が焦点化され、飛び去る者にも語 り継ぐ者にも同じ敬意が払われていることを指摘する。

「2. 家族史の受容」では、 「ⅰ. 正の受容」で

M. C. Higgins, the Great

(Hamilton, 1974)を 分析し、自己中心的な価値観で生きていた少年

M.C.が今の場所で生きていこうと心を決めるとき

に、逃亡奴隷だった先祖の過去がその決心を象徴的に援助することを指摘する。「ⅱ. 負の受容」

では、

Sweet Whispers, Brother Rush

(Hamilton, 1982)の少女

Tree

が幽霊の叔父と一緒に過 去にさかのぼり、民族集団特有の病気に苦しむ一族の歴史や母親の虐待の苦い過去を知った上で 次の段階に踏み出していくことを考える。

「3. アフリカン・アメリカン史の受容」の「ⅰ. 神話創造の試み」では、アフリカの神の子ど もがアフリカン・アメリカンになるという神話的ファンタジー

The Magical Adventures of Pretty Pearl

(Hamilton, 1984)を取り上げ、プロットそのものにルーツの肯定があり、主人公

Pearl

が新しい神話の語り部になることの大きな意味を明らかにする。 「ⅱ. 南部への回帰」で

は、

Toning the Sweep

(Johnson, 1993)で人種差別が激しく忌避されがちな深南部が、ある家 族にとって絆の原点として受容されるべきトポスであることを示していることを考察する。歴史 や過去を受容し、新たなに語り直して示すことで、子ども読者のアイデンティティ構築を援助で きる点で、エンパワメントとなっている。

「Ⅳ 連接の展開」では、アフリカン・アメリカンの文化や歴史に由来するネットワークがエ ンパワメントに結びつく例を考える。 「ⅰ. 『地下鉄道』というネットワーク」では、 「地下鉄道」

(奴隷の逃亡を幇助する人種を越えた秘密組織)に関与した実在の逃亡奴隷

Harriet Tubman

2

つの評伝を比較し、現代のアフリカン・アメリカン作家の語りにおいては、個人的な偉人性よ りも彼女を活かすネットワークが重視されることを指摘する。 「ⅱ. 『地下鉄道』がつなぐ過去と 現在」では、 「地下鉄道」を語る会で少女が過去と現在の連接に気づく

Time Pieces

(Hamilton,

2000)を分析する。

「2. 欠落による連接‐路上の人間関係」では、親の不在や虐待などの欠落を

抱えた者の連接を考える。 「ⅰ. 『新しい人類』の空想」では、奴隷制時代の奴隷小屋の「通 り

ストリート

」 に着想を得た

The Planet of Junior Brown

(Hamilton, 1971)にあるサバイバルへの意思を、 「ⅱ.

共同する場」では、ハーレム地区で困難の中に生きる人々のつながりを素描する

145th Street

(Myers, 2000)に内在する希望について述べる。

「3. 言葉による連接」では、「ⅰ. フラニ語と英語」で、言語による連接として、アフリカの 言葉であるフラニ語と独立宣言を書き記す英語をともに理解することで、主体性獲得の力に転換 した元奴隷の物語として

Second Daughter

(Walter, 1996)を分析する。 「ⅱ. ポエトリー・リー ディングの力」では、現代のヒップホップ文化に依拠したラップや詩作を通じて相互理解を深め る中学生を描く

Bronx Masquerade

(Grimes, 2002)を論じる。いずれの「連接」も、アフリカ ン・アメリカンの文化や経験から引き出されるネットワークと連接の力が子どもへのエンパワメ ントとなっている。

「おわりに」では、以上の議論により、アフリカン・アメリカン児童文学が、 「可視化」 「受容」

「連接」の

3

つの要素のダイナミクスの中で展開し、エンパワメントを与えるテクストとなって

きたことをまとめる。また、

21

世紀の作品にもこれらの特質が引き継がれていることを明らかに

し、アフリカン・アメリカン以外の作者がアフリカン・アメリカン児童文学に参与する可能性に

も言及する。さらに、今後の展望として、エンパワメントの文学であるアフリカン・アメリカン

児童文学が、アメリカ児童文学の内側に入っていこうとするのではなく、むしろ、輪の一番外側

にいて多様な文化と結びつき、他地域の児童文学とつながる可能性を残しながら、アメリカ児童

文学の領域を広げるフロンティアになりうるのではないかという可能性を述べる。

(3)

論文審査の結果の要旨

本論文は、アメリカ児童文学におけるアフリカン・アメリカン児童文学について、その特質と アフリカン・アメリカン読者に与える力について論じたものである。論文の冒頭で、

20

世紀以前 の白人視点で書かれたアフリカン・アメリカンを扱った作品において、アフリカン・アメリカン の実情が捉えられていなかった事実を指摘したうえで、

20

世紀以降のアフリカン・アメリカン児 童文学の新しい動きと機能について論じている。

論文では、アフリカン・アメリカン児童文学がアフリカン・アメリカン読者に自己肯定力や自 己決定力などを持てるよう働きかける力を、B.B.Solomon が提唱した「エンパワメント」という キーワードを援用して捉えようとした。さらにエンパワメントに必要な要素として、①白人社会 の中で長く存在が無視されてきたアフリカン・アメリカンの存在を再認識させる可視化、②奴隷 という歴史的過去を受け入れ、さらに肯定的に自己を受け入れる受容、③アフリカン・アメリカ ン特有の言語や音楽などの文化を通してアフリカン・アメリカン同士だけでなく、広く様々な人々 との繋がりを可能にする連接という

3

つの要素に着目した点はオリジナリティがある。また、そ れぞれの要素と多数の作品を連動させて考察することで、単一の作品、あるいは単一の要素だけ を論じた場合には見えにくい、エンパワメントの大きなうねりが

20

世紀アフリカン・アメリカ ン児童文学に生まれ、21 世紀にはさらに広がりつつあることを指摘した。

もう一つ重要な点は、児童文学の特質がエンパワメントの重要な要素になっているとした点で ある。すなわち、アフリカン・アメリカン児童文学が大人の文学とは異なる視点を持ち、異なる 表現方法をとることで、大人の文学であれば悲劇性が前面に出て読者を落胆させるような奴隷制 時代を扱うテーマであっても、児童文学の特質である楽天性をもって書かれた作品は、子ども読 者のエンパワメントにつながると指摘した。

これまでアフリカン・アメリカン児童文学について書かれた研究書は、一人の作家や作品に ついて論じた作家論・作品論的なものや、教育的な視点から論じたものが主で、この論文のよ うにアフリカン・アメリカン児童文学をダイナミックな視野でとらえたものはない。奴隷とい う祖先をもち、今なお人種差別に苦しむアフリカン・アメリカンの子どもたちに、アフリカン・

アメリカン児童文学がいかに希望の力を与えうるのかについて明らかにした本論文の意義は大 きい。

また、論の締めくくりとして、児童文学の今後の展望についても触れ、アメリカ児童文学の 中にあって、エンパワメントの文学であるアフリカン・アメリカン児童文学がアメリカ児童文 学の流れを多彩にし、さらに多様な文化と結びつき、その領域を広げる可能性がすでに見えて いると指摘している。これは、今後のアメリカ児童文学の動きを見る上で、重要かつ新たな視 点を提供しているといえる。

質問として、エンパワメントというテーマから作品を読み解くために選ばれたのが、有名作 家の作品が多く、アフリカン・アメリカン児童文学の全体像はつかみにくくなっているのでは ないかとの指摘がなされたが、現代作品としてまだ知名度が高くはないが優れた作家も扱われ ているという回答があった。今後の研究のさらなる発展に期待したい。

なお、今回の論文は

2014

10

16

日に受理された論文「アフリカン・アメリカン児童文 学論―移動・文化・プラットホーム―」を審査委員会の意見をもとに加筆・修正したものであ る。修正により、題目が「アフリカン・アメリカン児童文学におけるエンパワメント-可視化、

受容、連接-」に変更されたが、アフリカン・アメリカン児童文学が読者に力を与える働きに ついて論じる基本的姿勢に変わりはない。

以上により、審査委員会は本論文が博士(文学)の授与に値するものと認めた。

参照

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