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症例報告 関西理学 12: 61 68, 2012 階段降段時に右下肢の支持性低下を認めた右変形性膝関節症患者の一症例 右膝回旋不安定性に着目して 清水啓介 1) 井上隆文 2) 中道哲朗 1) A Patient with Osteoarthritis of the Right Knee Acco

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(1)

階段降段時に右下肢の支持性低下を認めた 右変形性膝関節症患者の一症例

―右膝回旋不安定性に着目して―

清水 啓介

1)

  井上 隆文

2)

  中道 哲朗

1)

A Patient with Osteoarthritis of the Right Knee Accompanied by Decreased Support of the Right Lower Limb While Walking Down Stairs:

Rotatory Instability of the Right Knee

Keisuke SHIMIZU, RPT1), Takafumi INOUE, RPT2), Tetsuro NAKAMICHI, RPT1)

Abstract

We performed physical therapy for a patient with osteoarthritis of the right knee accompanied by decreased support of the right lower limb while walking down stairs. The patient experienced increased rotation of the right crus with rapid right knee joint flexion in the right stance phase while walking down stairs. This was accompanied by pain in the lateral side of the right patellofemoral joint and the medial side of the right knee joint. In healthy subjects, electromyography detects muscle activity in the right medial hamstrings and vastus;

however, the same was not detected in this patient. Physical therapy evaluation suggested the presence of anteromedial rotatory instability of the right knee. In addition, shortening of the right lateral hamstrings and weakness in the right medial hamstrings were observed, suggesting excessive external rotation of the crus, which decreased the strength of the right medial vastus and subsequently caused rapid flexion of the right knee joint. We assumed that these events caused lateral deviation of the right patella. Moreover, compression of the lateral side of the patellofemoral joint and extension of the medial side of the right knee caused pain.

The patient’s physical therapy regimen included stretching of the lateral hamstrings, which increased the range of motion during extension of the right knee joint. Muscle strengthening exercises were performed for the right medial hamstrings and medial vastus. After 2 months of treatment, the strength of the medial hamstrings and vastus increased while shortening of the lateral hamstrings decreased. Electromyography revealed muscle activity in the medial hamstrings and vastus, similar to that observed in healthy subjects. Excessive external rotation of the crus improved, and slow flexion of the knee joint was achieved without pain while walking down stairs. These findings suggest that the medial hamstrings are involved in the control of excessive lateral rotation of the crus accompanied by anteromedial rotatory instability of the knee. To control abnormal knee joint movement accompanied by excessive rotation of the crus, it is useful to concentrate on rotatory instability of the crus and improve corresponding muscle activity.

Key words: anteromedial rotatory instability, external rotation of the crus, medial hamstrings

J. Kansai Phys. Ther. 12: 61–68, 2012

1) ポートアイランド病院 リハビリテーション科 2)楠葉病院 リハビリテーション科

受付日 平成24年4月7日 受理日 平成24年6月4日

Department of Rehabilitation, Port-island Hospital Department of Rehabilitation, Kuzuha Hospital

(2)

はじめに

今回、右膝の前内側回旋不安定性(Anterior medial rotatory instability: 以下、AMRI)1)により、階段降段時 に右下肢の支持性低下を認めた右変形性膝関節症患者 の理学療法を経験した。症例は階段降段時の右立脚相 で、急激な右膝関節屈曲が生じ、階段降段の安定性低下 を認めたため右下肢の支持性低下と判断した。この急激 な右膝関節の屈曲と同時に右下腿外旋が増大していた。

この時、右膝蓋大腿関節外側と右膝関節内側に疼痛が出 現した。理学療法評価から、AMRIによる下腿外旋の増 大が原因で、右内側広筋収縮の活動が低下し、急激な膝 関節屈曲や疼痛が生じていることが考えられた。そこで、

AMRIによる下腿外旋の増大について、表面筋電図を用 いて右内側ハムストリングスの筋活動に着目し、評価 ・ 治療を実施した。2ヵ月間の治療後、治療前後の階段降 段動作と表面筋電図評価を比較したので、それらの結果 に考察を加えて報告する。なお、本論文の作成に際し症 例に趣旨を説明し、同意を得た。

症例紹介

症例は平成X年に当院にて外側型の右変形性膝関節症 と診断された70歳代の女性である。現病歴として、X-10 年より明らかな受傷機転は認めないが右膝関節の疼痛が 徐々に増大し、X年に疼痛により階段降段動作に支障を きたしたため当院を受診した。主治医によるレントゲン 画像所見から、右膝関節はFTA170°で軽度の外反変形を 認めた。ADLは全て自立レベルであるが、症例が住んで いるマンションの9階にはエレベーターが停止せず、9

階から8階までの間、階段昇降動作が必要となることか

ら「階段を降りるとき、右膝で支えられず痛む」という 訴えがあった。このことから、ニードを「階段降段動作 の安定性向上」として、評価・治療を実施した。

理学療法評価

評価ではまず、階段降段動作を観察した。症例は階 段降段時の右立脚相における制御降下2)において、ゆっ くり右膝関節屈曲をさせながら左下肢を降段すること ができず、急激な右膝関節屈曲が起こるため支持性が 低下していた。また、急激に右膝関節屈曲が起こると同 時に右下腿外旋が増大し、右膝蓋大腿関節外側にVisual analog scale(以下、VAS)で8/10 cm、右膝関節内側に VAS3/10 cmの疼痛が出現していた(図1)。動作観察の結 果から、安静背臥位でのQ-angleが20°であることからも 下腿外旋が認められ、症例の抱える問題の1つとして考 えた。階段降段時には安静背臥位よりもさらに大きく下

腿外旋が生じていたことから、荷重位における右膝関節 屈曲時に伴って生じる下腿外旋をより詳細に評価する必 要があった。そこで、川野3)が考案したスクワッティン グテスト(knee-in & toe-out test)を実施し、下腿外旋を徒 手的に誘導することで生じる下肢のダイナミックアラ インメント変化の観察と、それに伴う痛みや不安定感と いった症状の再現を図った。その結果、右脛骨内側顆が 大腿骨内側顆に対して前方へ移動するように下腿外旋が 大きく増大し、それに伴い膝蓋骨も外側へ大きく移動し た。さらにこの時、階段降段時と同部位の疼痛と不安感 を認めた(図2)。以上の観察結果から、膝関節屈曲時に 生じる下腿外旋の増大に着目して検査測定をおこなった。

まず、スクワッティングテスト(knee-in & toe-out test)に おいて、脛骨内側顆が大腿骨内側顆に対して前方へ移動 するような下腿外旋の増大を認めたことから、Slocumら1) が考案したAMRI testを実施し、膝関節の回旋不安定性を 検査した。症例に背臥位にて右膝屈曲位をとらせ、下腿 を把持して右脛骨外側を固定し内側を前方へ引き出すよ うに検査を実施したところ、エンドポイントが認められ ず、AMRIは陽性であった(図3)。外反ストレステスト はgradeⅡであり、外反不安定性を認めた。このことから、

内側側副靭帯(以下、MCL)の膝外反、下腿外旋を制動 する機能が不十分であることが認められた。右膝蓋骨圧

図1 本症例の階段降段動作

症例は階段降段時の右立脚相における制御降下にお いて、ゆっくり右膝関節屈曲をさせながら左下肢を 降段することができず、急激な右膝関節屈曲が起こ るため支持性が低下していた。また、急激に右膝関 節屈曲が起こると同時に右下腿外旋が増大し、右膝 蓋大腿関節外側VASで8/10 cmレベル、右膝関節内 側にVAS3/10 cmレベルの疼痛が出現していた。

(3)

迫テストも陽性であり、右膝蓋大腿関節外側に疼痛を認 めた。次に、関節可動域(Range of motion: 以下、ROM)

検査においては、右膝関節の伸展他動運動では-15°と 制限され、外側ハムストリングスの短縮を認めた。この とき、下腿外旋が増大しないよう中間位に保持する必要 があった。下腿を中間位に保持せず右膝関節の伸展他

動運動をおこなうと、ROM制限は認めなかった。しか し、終末回旋運動が生じる最終伸展域よりも早期から伸 展とともに下腿外旋が増大し、それ以降、下腿外旋のさ らなる増大が認められた。さらに、徒手筋力検査(Manual

muscle test: 以下、MMT)において、下腿内旋の作用を

有する内側ハムストリングスの筋力について検査した。

その結果、右膝関節では下腿内旋位での膝関節屈曲にお いてMMT2であり筋力低下を認めた。また、下腿中間位 での膝関節屈曲では、外側ハムストリングス優位の膝関 節屈曲となり下腿外旋が増大していた(図4)。右膝関節 伸展はMMT3と判断した。

以上の検査結果から、右内側ハムストリングスの筋力 低下と外側ハムストリングスの短縮が影響して、AMRI による下腿外旋の増大が生じていることが考えられた。

この下腿外旋の増大と膝関節伸展MMTにて筋力低下を 認めたことから、膝関節伸展筋のなかでも内側広筋が収 縮できず、急激な膝関節屈曲や疼痛が生じていることが 考えられた。

図4 膝関節屈曲の評価

MMTにおいて、下腿内旋の作用を有する内側ハムストリン グスの筋力について検査した。その結果、右膝関節では下腿 内旋位での膝関節屈曲においてMMT2であり筋力低下を認め た。また、下腿中間位での膝関節屈曲では、外側ハムストリン グス優位の膝関節屈曲となり下腿外旋が増大していた。

図2 スクワッティングテスト

スクワッティングテスト(knee-in & toe-out test)を実施し、下 腿外旋を徒手的に誘導することで生じる下肢のダイナミック アラインメント変化の観察と、それに伴う痛みや不安定感と いった症状の再現を図った。 その結果、右脛骨内側顆が大腿 骨内側顆に対して前方へ移動するように下腿外旋が大きく増 大し、それに伴い膝蓋骨も外側へ大きく移動した。さらにこ の時、階段降段時と同部位の疼痛と不安感を認めた。

図3 AMRI test

症例に背臥位にて右膝屈曲位をとらせ、下腿を把持して右脛 骨外側を固定し内側を前方へ引き出すように検査を実施した ところ、エンドポイントが認められず、AMRIは陽性であった。

(4)

表面筋電図測定

筋電図はキッセイコムテック社製筋電計MQ−8を使用 し、対象筋は内側広筋、内側ハムストリングス、外側ハ ムストリングスの3筋とした。電極はキッセイコムテッ ク社製のディスポ電極レクロードNPを用い、貼付位置 は内側広筋を膝蓋骨底から5 cm近位部の筋腹上4)、内側 ハムストリングスを膝蓋裂隙より15 cm近位部の筋腹上4)、 外側ハムストリングスを坐骨結節と脛骨外顆を結ぶ線の

遠位1/4から外側1 cm5)とした。導出方法は双極導出法

で、電極間距離は2 cmとした。また、階段降段時の右立 脚相の周期を明確にする目的で、母趾球と踵部にフット スイッチを貼付した。運動課題は手すりを使用しない階 段降段とし、右立脚相の筋活動を記録した。対象は、整 形外科・神経学的に問題のない20代健常男性とした。筋 電図測定の結果、健常者における階段降段時の右立脚相 の筋活動は、内側広筋に関して、前方移動の相でほぼ一 定の筋活動を示すパターンとなり、その後制御降下の初 期にかけて増加するパターンとなった。内側ハムストリ ングス、外側ハムストリングスでは前方移動の初期から 制御降下の移行期にかけて、ほぼ一定の筋活動を示すパ ターンとなった。一方症例に関して、内側広筋では前方 移動の初期に活動が認められるものの、中期から後期に かけて筋活動が著明に低下するパターンとなった。内側

ハムストリングスに関しても、前方移動の初期で筋活動 が認められたが、初期以降の筋活動は認められなかった。

内側広筋、内側ハムストリングスの筋活動は、健常者で 認められた相での筋活動が症例で認められず、内側広筋、

内側ハムストリングスは筋活動低下と判断した(図5)。

外側ハムストリングスに関しては、前方移動の後期まで ほぼ一定の活動が認められ、健常者と近似するパターン を呈していたが、前方移動の後期以降は低下するパター ンとなった。また、症例の前方移動の初期から中期に注 目すると、外側ハムストリングスがほぼ一定の活動を示 すパターンを呈するのに対し、内側広筋、内側ハムスト リングスは前方移動の初期に著明に低下するパターンを 呈するという点で近似した。

問題点の要約

上記の結果から、外反ストレステストが陽性である

ことからMCLの大腿骨に対する脛骨内側顆の前方移動

を制御する機能と、膝外反を制御する機能が不十分で あることが認められた。さらに、膝外反変形も影響して、

AMRIが出現していたと考えられた。そのため、脛骨内 側顆が大腿骨内側顆に対して前方へ移動するような下腿 外旋が出現しやすいアラインメントを呈していたと考え られた。そして、階段降段時の制御降下の相では、急激 図5 健常者(a)と本症例(b)の表面筋電図波形の比較

内側広筋では前方移動の初期に活動が認められるものの、初期から中期にかけ て筋活動が著明に低下するパターンとなり、それ以降制御降下の相にかけて収 束するパターンを呈した。内側ハムストリングスに関しても、前方移動の初期 で筋活動が認められたが、初期以降の筋活動は認められなかった。内側広筋、内 側ハムストリングスの筋活動は、健常者で認められた相での筋活動が症例で認 められず、内側広筋、内側ハムストリングスは筋活動低下と判断した。

(5)

な右膝関節屈曲が起こると同時に、右下腿外旋が増大し ていた。これは、健常者で認められたような前方移動の 初期から制御降下への移行期にかけての内側ハムストリ ングスの持続的な筋活動が認められないことが原因で、

AMRIを制動できず、下腿外旋の増大が生じていると考 えられた。外側ハムストリングスの短縮による下腿外旋 の増大もまた、内側ハムストリングスと内側広筋の筋活 動低下を引き起こし、階段降段時の下腿外旋の増大に影 響したと考えられた。これらの結果、下腿外旋が増大す ることで、階段降段時にknee-in&toe-outのアラインメ ント不良を呈していたと考えられた。さらに、下腿を中 間位のままで保持できず下腿外旋が増大した状態で膝関 節を屈曲するため、内側広筋の遠心性収縮が充分に得ら れず、膝関節の急激な屈曲が生じてしまうと考えられた。

このように、下腿外旋が増大すると内側広筋の収縮が低 下して外側広筋の収縮が相対的に過剰となり、膝蓋骨は 膝蓋腱を介して外側へ変位するため、膝蓋大腿関節の外

側に圧縮ストレス、内側膝蓋支帯などの膝内側の軟部組 織に伸張ストレスが加わり、疼痛が出現する原因となっ ていると考えられた。治療ではまず、外側ハムストリン グスの短縮による下腿外旋を改善することで、内側ハム ストリングス、内側広筋の筋活動増大を図ることができ、

効率的に筋力強化練習を実施できると考えられた。その ため、外側ハムストリングスへのアプローチを最初にお こなった(図6)。

治 療

まず、膝関節伸展ROM制限を改善するために、腹臥 位にて外側ハムストリングスのダイレクトストレッチを 実施した。また、脛骨内側顆が大腿骨内側顆に対して前 方へ移動するような下腿外旋を制動する目的で、腹臥位 にて右膝関節軽度屈曲位から下腿内旋しながら屈曲させ、

内側ハムストリングスの筋力強化練習を徒手抵抗にて実 施した。外側ハムストリングスのダイレクトストレッチ、

内側ハムストリングスの筋力強化練習により、他動運動 と自動運動において下腿中間位での膝関節運動が獲得さ れた後、膝関節伸展筋力強化を目的に、下腿近位部への 徒手抵抗エクササイズ6)をおこなった。このとき膝関節 伸展の徒手抵抗の際に下腿内旋位を保持させておこなう ことで内側広筋の筋収縮を促通させた(図7)。

結 果

治療実施2ヵ月後、ROMは右膝関節伸展0°まで改善し、

伸展時の下腿外旋の増大も減少した。MMTは下腿内旋 位での右膝関節屈曲の筋力が2から4へ向上し、右膝関 節屈曲時は他動運動と自動運動において下腿外旋の増大

図7 治療

外側ハムストリングスのダイレクトストレッチ、内側ハムストリングスの筋力強化練習により、

他動運動と自動運動において下腿中間位での膝関節運動が獲得された後、膝関節伸展筋力強化 を目的に、下腿近位部への徒手抵抗エクササイズをおこなった。このとき膝関節伸展の徒手抵抗 の際に下腿内旋位を保持させておこなうことで内側広筋の筋収縮を促通させた。

図6 問題点の要約

(6)

が減少した(図8)。伸展筋力は3から5へ向上した。2ヵ 月後の筋電図測定に関して、内側ハムストリングスでは 前方移動の相にかけてほぼ一定の筋活動を認めた。ま た、前方移動から制御降下への移行期の筋活動も認めら れ、健常者の筋活動パターンに近づいた。内側広筋では、

前方移動の中期から後期の筋活動が乏しかったが、治療 後、この相における筋活動が認められた(図9)。階段降 段動作では、治療前に生じていたような右膝関節の急激 な屈曲が消失し、下腿外旋の増大が減少した。また、膝 蓋骨外側、および膝関節内側の疼痛は共に消失し、VAS は0/10 cmに改善した(図10)。

考 察

本症例は階段降段時にAMRIによって下腿外旋が増大 し、急激な膝関節屈曲や疼痛が生じていた。症例は10年 前から、疼痛が徐々に出現したことから、変形性膝関節 症を罹患していたことが問診結果から推測される。その ため外反変形の影響を受け、頻回な外反ストレスが慢性

的にMCLに加わったことによりMCLの機能不全が生じ

たと考えられた。Slocumら1)はAMRIの原因の1つとし てMCL損傷を挙げている。MCLの機能として、とくに 浅層線維の走行は近位から遠位にかけて前方から後方 へと斜めに走行しているため、大腿骨内側顆に対する脛 骨内側顆の前方移動の制御に寄与していると考えられる。

したがってMCLの機能不全を認めた症例においても、大 図8 治療前(a)と治療後(b)の膝関節屈曲の比較

MMTは下腿内旋位での右膝関節屈曲の筋力が2から4へ向上 し、右膝関節屈曲時は他動運動と自動運動において下腿外旋 の増大が減少した。

図9 治療前(b)と治療後(c)の表面筋電図測定の比較

内側ハムストリングスでは前方移動の相にかけてほぼ一定の筋活動を認めた。また、前 方移動から制御降下への移行期の筋活動も認められ、健常者の筋活動パターンに近づい た。内側広筋では、前方移動の中期から後期の筋活動が乏しかったが、治療後、この相に おける筋活動が認められた。

(7)

腿骨内側顆に対する脛骨内側顆の前方移動を制御できず、

これがAMRIの要因になっていると考えられた。

階段降段時にAMRIによって下腿外旋が増大する原因 として、内側ハムストリングスの筋力低下と筋活動低下 が挙げられる。Eliasら7)は、半膜様筋が活動すると脛骨 は大腿骨に対して後方へ移動すると報告している。また、

Mullar8)によると、半膜様筋腱は膝後内側の安定化に働

き、膝関節屈曲位では下腿外旋を制動すると報告してい る。これらのことから、前方移動の相にかけての、内側 ハムストリングスの筋活動が増大したことにより、健常 者と近似する持続的に活動するパターンとなり、AMRI による下腿外旋の増大が改善したと考えられた(図11)。

内側ハムストリングスの筋活動低下が生じた理由として、

外側ハムストリングスの短縮が挙げられる。これにより 症例は右膝関節伸展位では下腿外旋が生じていた。その 結果、下腿外旋位では内側ハムストリングスの筋活動が 低下し、前方移動の初期に膝関節屈曲し始めるとさらに 下腿外旋が増大するため、AMRIの出現を助長していた と考えられた。このことから、内側ハムストリングスが AMRIの制御に前方移動の相から持続的に活動するため には、内側ハムストリングスの筋力強化だけでなく、外 側ハムストリングスの短縮改善に伴う内側ハムストリン グスの筋活動増大が必要であったと考えた。

上記の結果に加えて内側広筋は、筋力強化練習をおこ なったことにより筋力低下が改善し、治療前と比較して 前方移動の中期から後期にかけての筋活動が認められた。

小野ら9)は下腿内旋した状態での膝関節伸展では内側広 図10 治療前(a)と治療後(b)の階段降段動

作の比較

階段降段動作では、治療前に生じていたような右 膝関節の急激な屈曲が消失し、下腿外旋の増大が 減少した。また、膝蓋骨外側、および膝関節内側の 疼痛は共に消失し、VASは0/10 cmに改善した。

図11 治療前後の内側ハムストリングスの筋活動の比較

前方移動の相にかけての、内側ハムストリングスの筋活動が 増大したことにより、健常者と近似する持続的に活動するパ ターンとなり、AMRIによる下腿外旋の増大が改善したと考 えられた。

図12 治療前後の内側広筋の筋活動の比較 内側広筋の遠心性収縮が可能となったことで膝関節の急激 な屈曲が消失し、さらには下腿外旋の改善に関与し、外側広 筋と同時に収縮が可能となったことで膝蓋骨の外側変位の 改善にも影響したと考えられた。

筋の高い活動を示すと報告している。また、治療前の内 側ハムストリングスと内側広筋の筋活動パターンは、前 方移動の初期に著明に低下するパターンであるといっ た点で近似していた。このことから内側広筋は筋力低下 に加え、AMRIによる下腿外旋が増大することで筋活動 の低下も生じていることが考えられた。以上のことから、

(8)

膝関節屈曲が生じ始める前方移動の相からの内側ハム ストリングスの筋活動が増大したことで、AMRIによる 下腿外旋の増大が改善し、前方移動の中期から後期にか けての内側広筋の筋活動増大に至ったと考えられた。そ の結果、この相での内側広筋の筋活動パターンの改善に 至ったと考えられた。また、山内ら10)は内側広筋斜頭の 機能は下腿外旋・膝外反を制動する筋であると報告して いる。そのため、内側広筋の遠心性収縮が可能となった ことで膝関節の急激な屈曲が消失し、さらには下腿外旋 の改善に関与し、外側広筋と同時に収縮が可能となった ことで膝蓋骨の外側変位の改善にも影響したと考えられ た(図12)。

疼痛は、下腿外旋に伴って生じていた膝蓋大腿関節の 外側に圧縮ストレス、内側膝蓋支帯などの膝内側の軟部 組織に伸張ストレスがそれぞれ軽減したことにより、消 失したと考えられた。

本症例の疼痛を改善するためには、膝蓋骨の外側変 位を改善する目的で内側広筋の筋力強化が重要であっ た。しかし、内側広筋の筋活動パターンを改善するため にはAMRIによる下腿外旋の増大を改善する必要があっ た。AMRIを制動するために、内側ハムストリングスの 筋力改善と筋活動パターンの獲得が有用であったことか ら、関節不安定性に応じた筋活動パターンを評価 ・ 治療 することの重要性が示唆された。

おわりに

今回、階段降段時に右下肢の支持性低下を認めた右変 形性膝関節症患者を担当した。疼痛は、急激に右膝関節

屈曲が起こると同時に右下腿外旋が増大し、膝蓋骨が外 側に変位することによって生じていた。下腿外旋は、右 膝の前内側回旋不安定性と内側ハムストリングスの筋 力低下によって増大していた。内側ハムストリングスに よって下腿外旋が制動された結果、内側広筋の筋力が向 上し、右下肢の支持性低下が改善し疼痛が消失した。以 上より、関節不安定性に応じた筋活動パターンを評価 ・ 治療することの重要性が示唆された。

文 献

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参照

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