• 検索結果がありません。

Title 光触媒反応の教材の開発

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2022

シェア "Title 光触媒反応の教材の開発 "

Copied!
15
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

Title 光触媒反応の教材の開発

Author(s) 松橋, 博美; 菊地, 友佳子

Citation 北海道教育大学紀要. 自然科学編, 72(2): 1‑13

Issue Date 2022‑02

URL http://s‑ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/12250

Rights

(2)

北海道教育大学紀要(自然科学編)第72巻 第2号 令和4年2月 JournalofHokkaidoUniversityofEducation(NaturalSciences)Vol.72,No.2 February,2022

光触媒反応の教材の開発

松橋 博美・菊地友佳子

北海道教育大学函館校化学教室

北斗市立茂辺地中学校

DevelopmentofTeachingMaterialforPhotocatalyticReaction

MATSUHASHIHiromiandKIKUCHIYukako

DepartmentofChemistry,HakodateCampus,HokkaidoUniversityofEducation,Hakodate040-8567

HokutoMohejiJuniorHighSchool,Hokuto,049-0281

概 要

光触媒について,高等学校化学の教科書では発展内容として触れられている程度であり,光 触媒作用を確認する実験方法などは紹介されていない。本論文では,酸化チタンを用いて光触 媒作用を確認する簡単な実験方法の開発を目的として,ゾル-ゲル法を用いて酸化チタンを調 製し,メチレンブルーで酸化還元反応を確かめるという簡単な実験教材を開発した。実際に,

高校で50分1コマの授業を行い,アンケート調査により今回の授業内容や,実験方法が適当で あったか検討した結果,肯定的な意見が多く光触媒について興味・関心を持ってもらえたこと が明らかとなった。また,光触媒作用と関連させて最新の研究などの紹介を行ったことにより,

光触媒の有用性や将来性を実感してもらうことができた。

ABSTRACT

Photocatalysts and photocatalytic reactions are an advanced content in high school chemistrytextbooks.Previoushighschoolcurriculumguidelinesrecommendedconducting experimentstoconfirmthephotocatalysisoftitaniumoxide.However,noexperiments relatedtophotocatalysishaveyetbeenintroduced.Wedevelopedasimpleexperiment teachingmaterialtoconfirmthephotocatalyticactivityoftitaniumoxide.Titaniumoxide waspreparedusingsol-gelmethodandphotocatalyticreductionofmethyleneblueover titaniumoxide.Theteachingmaterialthusdevelopedwasappliedtoa50-minutehigh schoollecturewhichconfirmedthattheteachingmaterialwasusefulforunderstandingthe futurepotentialofphotocatalysts.

(3)

松橋 博美・菊地友佳子

序 論

光触媒は,酸化チタンコーティングとして近年空港の窓ガラスや車のバックミラーなど,身の回りの生活 の中で活用されている技術である。平成21年12月発行の高等学校学習指導要領解説 理科編 理数編(p.

68),「第5節「化学」⑶無機物質の性質と利用ア無機物質と人間生活について」において,『ここでは,ア で取り上げた物質のほか,人間生活に広く利用されている無機物質を扱う。代表的な金属,セラミックスな どについては,例えば,チタン,タングステン,白金,ステレンス鋼,ニクロム,ガラス,ファインセラミッ クス,酸化チタン(Ⅳ),などが考えられる。ここで扱う実験としては,例えば,様々な金属や合金の物理 的性質及び化学的性質を調べる実験,酸化チタン(Ⅳ)の光触媒作用を調べる実験などが考えられる。』と 記載されていた。このように高校化学の学習の中では重要な実験として位置付けられ,光触媒作用について 実験を通して生徒に教えることが薦められていた。しかしながら,当時の教科書すべてにおいて光触媒につ いての実験は紹介されていなかった。酸化チタンや光触媒について取り扱われていたとしても,発展内容と してや,光触媒・酸化チタンという用語だけを記載している会社の方が多数である。

光触媒の教材化に関する先行研究としては,オーブン陶土に酸化チタンをコーティングしてアンモニアを 光触媒分解させる教材がある。これは,アンモニアを空気中の汚れと置き換えて,陶土に酸化チタンを塗っ たものと塗っていないもので吸光分析を行い,アンモニアが分解されていることを確かめる教材である。(佐 藤・井芹・木下,2005)環境浄化材料としての酸化チタンの酸化作用を用いて,メチレンブルーの脱色を行 う教材も研究されている。(木枝・伊藤,2003)また,環境教育教材として,酸化チタンの光触媒作用を活 用した教材も報告されている。(早藤・古林・高津戸・今倉,2005)これらは,光触媒が人間生活に広く利 用されている,または利用できることを生徒に実践的に教えることを目的に,50分間の授業時間内で演示実 験として行うことを想定している。

太陽電池についての興味や理解を高める目的で,酸化チタンの粉末を使用し色素増感太陽電池を作製し,

活用されている。小学生から高校生など幅広い世代に対し実際に授業を行って調査をし,研究成果を挙げて いる。(飯塚・本島,2014)しかしこの教材は,色素増感太陽電池を扱ったもので,光触媒ではない。

従来の多くの先行研究では,酸化チタンを調製せずに,実質的な標準試料とされるデグッサ社(現エボニ ク社)のP25などの入手経路が明らかでない酸化チタン(Ⅳ)を使用したり,試薬会社から購入するなどし て実験を行っている。また,紫外線を照射する時間が長時間となってしまうことや,演示実験に特別な器具 や試薬を必要とするなど,高校の授業内で行う場合には課題が多い。また,光触媒は身の回りのものに多く 利用されているが,その仕組みや能力に関してはブラックボックス化しており,働きが視覚的にわかりにく いという欠点がある。

本研究では,学校現場における様々な制約の中で,酸化反応と還元反応が同時に起こるという光触媒反応 の本質を紹介する教材の開発を目的として研究を行い,50分間で酸化チタンを調製し光触媒反応を観察でき る実験を考案した。実験としては,演示実験ではなくグループ単位で実験出来るように改良した。加えて,

酸化チタンの働き(光触媒分解反応)を生徒に効果的に紹介する実験とすることを考えた。この実験では,

チタンテトライソプロポキシドを加水分解して酸化チタンを作り,これを光触媒として酸化還元指示薬であ るメチレンブルーの還元反応を行った。教員・生徒の両方に負担が少なく,安全にできる,そして高価な器 具や試薬を使わずにできるものとすることとした。また,光触媒反応の機構をバンド理論で説明し,発光ダ イオードの発光機構と絡めて生徒に知ってもらえるような授業構成にした。同時に,酸化チタンが身の回り のものに使われていることを紹介し,光触媒だけでなく,化学に興味・関心をもってもらうこともねらいと した。実際に北海道釧路湖陵高校の1年の基礎化学の1コマ(50分)で授業を行い,今回の実験方法や授業

(4)

光触媒反応の教材の開発

内容が適当であるかアンケート調査により検討した。

今回の実験である光触媒反応は,次のように説明される。まず,酸化チタン(TiO2)の価電子帯にある 電子が光で励起され,Ti4+を還元してTi3+とし,さらにこの電子が反応物に供与されて還元反応が起こる。

電子が抜けた穴(ホール,あるいは正孔)が,他の反応物から電子を奪って酸化反応が起こる。光触媒では,

還元反応と酸化反応は同時に起こる。反応物質が水(H2O)である場合は,H+が還元されてH2が,H2Oが 酸化されてO2が生成する。ここにPtなどが存在すると,Ptに電子が集まりやすくなりH2の生成が促進される。

本論文の実験では,図1のようにチタンテトライソプロポキシド(Ti(OCH(CH324)を加水分解して 酸化チタンを作り,これを光触媒として図2の酸化還元指示薬であるメチレンブルーの還元反応を行った。

メチレンブルーはH2を生成する手前の吸着水素で還元され,溶媒として用いたメタノールが酸化されてホ ルムアルデヒドとなる。

光触媒では,水の電気分解と同じ反応が可能である。水が分解して水素と酸素になるように,酸化チタン に紫外線を当てることで,酸化還元反応が起こり水素と酸素が発生する。本論文の実験のような簡便な方法 で合成した酸化チタンでは,水素が発生しているのを確認することはできないが,生徒には発生している様 子を,堂免一成氏提供の動画で紹介した。

実 験

1 試料調製

下に,酸化チタンの合成手順を示す。生徒が主にする作業としては「入れる・混ぜる・加熱する」という 単純なものだけである。吸引ろ過の装置が無ければ通常のろ過でも構わないが,ろ過とその後の焼成に時間 がかかる。

のものに使われていることを紹介し,光触媒だけでなく,化学に興味・関心をもってもらうこともねらいと した。実際に北海道釧路湖陵高校の

1

年の基礎化学の

1

コマ(

50

分)で授業を行い,今回の実験方法や授業 内容が適当であるかアンケート調査により検討した。

今回の実験である光触媒反応は,次のように説明される。まず,酸化チタン(

TiO

2)の価電子帯にある電 子が光で励起され,

Ti

4+を還元して

Ti

3+とし,さらにこの電子が反応物に供与されて還元反応が起こる。電子 が抜けた穴(ホール,あるいは正孔)が,他の反応物から電子を奪って酸化反応が起こる。光触媒では,還 元反応と酸化反応は同時に起こる。反応物質が水(

H

2

O

)である場合は,

H

+が還元されて

H

2が,

H

2

O

が酸化 されて

O

2が生成する。ここに

Pt

などが存在すると,

Pt

に電子が集まりやすくなり

H

2の生成が促進される。

本論文の実験では,図

1

のようにチタンテトライソプロポキシド(

Ti(OCH(CH

3

)

2

)

4)を加水分解して酸化 チタンを作り,これを光触媒として図

2

の酸化還元指示薬であるメチレンブルーの還元反応を行った。メチ レンブルーは

H

2を生成する手前の吸着水素で還元され,溶媒として用いたメタノールが酸化されてホルムア ルデヒドとなる。

1.

チタンテトライソプロポキシドの加水分解

酸化型(濃青色) 還元型(無色)

2.

メチレンブルーの光触媒反応

光触媒では,水の電気分解と同じ反応が可能である。水が分解して水素と酸素になるように,酸化チタン に紫外線を当てることで,酸化還元反応が起こり水素と酸素が発生する。本論文の実験のような簡便な方法 で合成した酸化チタンでは,水素が発生しているのを確認することはできないが,生徒には発生している様 子を,堂免一成氏提供の動画で紹介した。

実 実 験験

1

試料調製

下に,酸化チタンの合成手順を示す。生徒が主にする作業としては「入れる・混ぜる・加熱する」という 図1.チタンテトライソプロポキシドの加水分解

3

のものに使われていることを紹介し,光触媒だけでなく,化学に興味・関心をもってもらうこともねらいと した。実際に北海道釧路湖陵高校の1年の基礎化学の1コマ(50分)で授業を行い,今回の実験方法や授業 内容が適当であるかアンケート調査により検討した。

今回の実験である光触媒反応は,次のように説明される。まず,酸化チタン(TiO2)の価電子帯にある電 子が光で励起され,Ti4+を還元してTi3+とし,さらにこの電子が反応物に供与されて還元反応が起こる。電子 が抜けた穴(ホール,あるいは正孔)が,他の反応物から電子を奪って酸化反応が起こる。光触媒では,還 元反応と酸化反応は同時に起こる。反応物質が水(H2O)である場合は,H+が還元されてH2が,H2Oが酸化 されてO2が生成する。ここにPtなどが存在すると,Ptに電子が集まりやすくなりH2の生成が促進される。

本論文の実験では,図 1 のようにチタンテトライソプロポキシド(Ti(OCH(CH3)2)4)を加水分解して酸化 チタンを作り,これを光触媒として図2の酸化還元指示薬であるメチレンブルーの還元反応を行った。メチ レンブルーはH2を生成する手前の吸着水素で還元され,溶媒として用いたメタノールが酸化されてホルムア ルデヒドとなる。

図1. チタンテトライソプロポキシドの加水分解

酸化型(濃青色) 還元型(無色)

図2. メチレンブルーの光触媒反応

光触媒では,水の電気分解と同じ反応が可能である。水が分解して水素と酸素になるように,酸化チタン に紫外線を当てることで,酸化還元反応が起こり水素と酸素が発生する。本論文の実験のような簡便な方法 で合成した酸化チタンでは,水素が発生しているのを確認することはできないが,生徒には発生している様 子を,堂免一成氏提供の動画で紹介した。

実 実 験験

1 試料調製

下に,酸化チタンの合成手順を示す。生徒が主にする作業としては「入れる・混ぜる・加熱する」という 図2.メチレンブルーの光触媒反応

(5)

松橋 博美・菊地友佳子

1.1 酸化チタンの合成

⑴ ビーカーに,水を20ml用意する。

⑵ ビーカーに,試料びんのチタンテトライソプロポキシド4mlを加える。

⑶ ガラス棒で適度にかき混ぜる。速やかに沈殿が生じる。

⑷ 沈殿をブフナーろう斗を用いた吸引ろ過で集め,ガラス棒で蒸発皿に移す。

⑸ 蒸発皿をるつぼばさみで保持し,ガラス棒でかき混ぜながらブンゼンバーナーを用いて加熱する。

⑹ 試料の周辺部がやや黄色味を帯びたら加熱を止め,放冷する。(あるいは,別の蒸発皿に移す。)

1.2 光触媒反応

調製した酸化チタンの光触媒としての作用を確かめるため,酸化還元指示薬であるメチレンブルー

(0.01%メタノール溶液,2ml)を加えて確認した。蒸発皿を20Wのブラックライトの直下に置き,紫外線 を照射し酸化型である青色から還元型である無色になることで光触媒作用を確認した。照射時間は,概ね5 分以内であった。

1.3 X線回折(XRD)

実際の授業で,北海道釧路湖陵高校の生徒が調製した酸化チタンの結晶構造を同定するために,XRDを測 定した。測定は,CuのKα線を用い,2θ=5〜80°の範囲で行った。

2 授業実践

2.1 学習目標

今回行った実験方法を通して,「光触媒の作用について実験を通して理解することができる。」「光触媒が 日常生活に利用されていることを自ら進んで知ろうとする。」を授業の目標とした。

2.2 対象学級

北海道釧路湖陵高等学校理数科1年生(男子30名,女子13名,計43名)。2014(平成26)年12月12日に授 業を実施した。

2.3 授業の展開

授業では,アンケート調査も含めて50分1コマの 授業で終わるように授業展開をした。授業展開の概 略を表1に示す。授業時間を有効に活用するため,

酸化チタンを放冷している時間や,ブラックライト で照射している時間に。酸化チタンについての説明 を行った。

結果と考察

3.1 アンケート結果

実際に授業を受けた生徒に対してアンケート調査

表1.授業展開の概略

授業時間 50分(実験,説明,アンケート)

授業展開

実験の説明 [10分]

酸化チタンの調製 [10分]

↓(試料を冷ます)

光触媒についての説明① [15分]

↓(紫外線照射)

光触媒についての説明② [5分]

↓ 反応確認

アンケート・感想記入 [5分]

(6)

光触媒反応の教材の開発

を行い,今回の授業の評価を行った。アンケートの質問と集計結果を表2に示す。アンケートでは,「化学 は好きですか。」という問に対し,「好き・どちらかと言えば好き・どちらかと言えば嫌い・嫌い」という選 択肢を用意し,表では「好き・どちらかと言えば好き」を肯定的,「どちらかと言えば嫌い・嫌い」を否定 的とした。

理数科で授業を行ったことから,もともと化学に興味・関心が高いことが推定されるが,化学系の職業に 就きたいと考えている生徒は約半数である。「光触媒の作用について実験を通して理解することができる。」

という学習目標と関係している主な質問項目に関して,「⑧今日の授業を通して酸化チタンや触媒の働きに ついて知ることができましたか?」では,圧倒的に肯定的な結果となった。実験については,すべての班が スムーズに行っているように見られたが,難易度に関する質問項目⑫では25人対17人で過半数の生徒は肯定 的であるものの,難易度は高いと感じたようである。「⑪光触媒の利用について興味や関心が深まりました か?」は圧倒的に肯定的な結果となり,強く興味・関心を持ってもらえたと言える。また,「⑨今日の光触 媒の実験は面白かったですか?」に対し,全員が「面白い」と感じていることから,生徒の興味を引きつけ る度合や満足度は,非常に高いと言える。

もう一つの学習目標である,「光触媒が日常生活に利用されていることを自ら進んで知ろうとする。」につ いては,以下のとおりである。質問項目⑤を見ると,酸化チタンの認知度はかなり低いと言える。しかし,

質問項目⑧を見ると,授業を受けることで酸化チタンや触媒への理解が高まったと判断できる。質問項目⑩ や⑪の興味・関心に関係する回答を見ると,今回の授業が生徒の今後の学習につながるのではないかと期待 できた。質問項目⑩や⑪がこのような結果になったのは,授業内で酸化チタンや光触媒の説明だけで終わる だけではなく,本多-藤嶋効果や発光ダイオードなどの,ノーベル賞レベルの高度な内容に触れたことが原 因と考えられる。

表2.アンケートの質問内容と集計結果

質問項目 肯定的 否定的

①化学は好きですか? 35人 7人

②将来は化学系の仕事に就きたいと思いますか? 21人 20人

③触媒について学習したことがありますか? 23人 19人

④触媒が身近な生活に使われていることを実感したことがありますか? 4人 37人

⑤酸化チタンについて知っていましたか? 2人 40人

⑥光触媒について知っていましたか? 29人 13人

⑦酸化チタンが身近な生活に使われていることを知っていましたか? 3人 39人

⑧今日の授業を通して酸化チタンや触媒の働きについて知ることができましたか? 40人 2人

⑨今日の光触媒の実験は面白かったですか? 42人 0人

⑩光触媒について更にしらべたいと思いますか? 38人 4人

⑪光触媒の利用について興味や関心が深まりましたか? 41人 1人

⑫今日の実験の難易度はどうでしたか? 25人 17人

3.2 X線回折

実際の授業で生徒が調製した酸化チタンを持ち帰って,X線回折によって結晶構造を調べた。また,比較 対象として,ブンゼンバーナーの火力を強火・弱火とした酸化チタンも調製した。一般に溶液から調製した

(7)

松橋 博美・菊地友佳子

酸化チタンは,加熱に従って無定形から低温安定型のアナタース型,高温安定型のルチル型に変化する。

本実験で用いた簡便な合成法で調製した試料を弱火で熱した場合,回折線は見られず無定形であった。こ の試料でもメチレンブルーの色の変化は観察され,実験に支障無いと思われるが,アナタース型やルチル型 の酸化チタンに比べて変色に時間がかかった。強火で長時間加熱を行った酸化チタンは,図に示す通りアナ タース型となり,色の変化は速かった。釧路湖陵高校の生徒が調製した酸化チタンのXRDの一例を図3に 示す。生徒が調製した酸化チタンでは,アナタース型に少量のルチル型が混合していたが,アナタース型の みのものも見られた。

酸化チタンでは,アナタース型の方がルチル型よりバンドギャップが若干小さいため,光触媒としての活 性が高いと言われるが,バンドギャップの大きさと反応速度は,基本的に無関係である。光触媒の世界的権 威である大谷文章氏の私信によれば,結晶形よりも他の要因,特に格子欠陥の有無の方が活性への影響が大 きいとのことである。格子欠陥が多い場合,励起電子とホールの再結合が促進されるため光触媒反応が起こ りにくくなる。今回,強火で熱した試料ほど青色から無色へのメチレンブルーの変色に要する時間が短くなっ たのは,強熱によってイオンの再配列が促進され,格子欠陥数が減じたためと考えられる。

酸化チタンの加熱に関し,上の結果から実験の指示についての注意点として,バーナーの火力を強めにす るということを伝える必要があるということが挙げられる。強火で熱していると,褐色になったあとに急激 に橙色になる。そこで加熱を止めないで,橙色がもとの白色になり,さらに黄色になるまで続けることがコ ツである。この変化は原料に含まれる有機物の燃焼によるものと思われるが,変化が劇的であるため,歓声 を上げるグループも見られた。固体に含まれる有機物の燃焼は350℃前後で起こることから,この変化が見 られないうちは加熱不足であると判断できる。酸化チタンは,500 ℃前後まで熱すると黄色(レモンイエ ロー)となることから,こちらを加熱の目安とすべきである。黄色は,試料の加熱を止めると消失し,酸化 チタンは白色にもどる。

結論と今後の課題

今回は,高校の1コマ50分で行える光触媒反応の実験の開発を目指して授業を行った。時間短縮のために,

6 3.2 X

線回折

実際の授業で生徒が調製した酸化チタンを持ち帰って,

X

線回折によって結晶構造を調べた。また,比較 対象として,ブンゼンバーナーの火力を強火・弱火とした酸化チタンも調製した。一般に溶液から調製した 酸化チタンは,加熱に従って無定形から低温安定型のアナタース型,高温安定型のルチル型に変化する。

本実験で用いた簡便な合成法で調製した試料を弱火で熱した場合,回折線は見られず無定形であった。こ の試料でもメチレンブルーの色の変化は観察され,実験に支障無いと思われるが,アナタース型やルチル型 の酸化チタンに比べて変色に時間がかかった。強火で長時間加熱を行った酸化チタンは,図に示す通りアナ タース型となり,色の変化は速かった。釧路湖陵高校の生徒が調製した酸化チタンの XRD の一例を図に示す。

生徒が調製した酸化チタンでは,アナタース型に少量のルチル型が混合していたが,アナタース型のみのも のも見られた。

X

線回折の例,

(a)

強火で長時間加熱を行った酸化チタン, (b) 授業で生徒が調製した酸化チタン

酸化チタンでは,アナタース型の方がルチル型よりバンドギャップが若干小さいため,光触媒としての活 性が高いと言われるが,バンドギャップの大きさと反応速度は,基本的に無関係である。光触媒の世界的権 威である大谷文章氏の私信によれば,結晶形よりも他の要因,特に格子欠陥の有無の方が活性への影響が大 きいとのことである。格子欠陥が多い場合,励起電子とホールの再結合が促進されるため光触媒反応が起こ りにくくなる。今回,強火で熱した試料ほど青色から無色へのメチレンブルーの変色に要する時間が短くな ったのは,強熱によってイオンの再配列が促進され,格子欠陥数が減じたためと考えられる。

酸化チタンの加熱に関し,上の結果から実験の指示についての注意点として,バーナーの火力を強めにす るということを伝える必要があるということが挙げられる。強火で熱していると,褐色になったあとに急激 に橙色になる。そこで加熱を止めないで,橙色がもとの白色になり,さらに黄色になるまで続けることがコ ツである。この変化は原料に含まれる有機物の燃焼によるものと思われるが,変化が劇的であるため,歓声 を上げるグループも見られた。固体に含まれる有機物の燃焼は 350 ℃前後で起こることから,この変化が見 られないうちは加熱不足であると判断できる。酸化チタンは,500 ℃前後まで熱すると黄色(レモンイエロ ー)となることから,こちらを加熱の目安とすべきである。黄色は,試料の加熱を止めると消失し,酸化チ タンは白色にもどる。

0 10 20 30 40 50 60 70 80

A: Anatase R: Rutile

R A

R R

A AA A AA

2theta/degree

Intensity/a. u.

(a) (b)

図3 X線回折の例,⒜強火で長時間加熱を行った酸化チタン,⒝授業で生徒が調製した酸化チタン

(8)

光触媒反応の教材の開発

実験の待ち時間に酸化チタンの説明を行うなどを行ったが,すべての班でメチレンブルーの変色を確認でき た。アンケート結果からも,「手軽な方法で光触媒について,分かって良かった。」「あっという間だった。

続きをもっとうけたいと思った。」など授業に対して前向きな感想を得ることができた。また,酸化チタン の原理が水の電気分解と同じことや,発光ダイオードと同じことなどについては,「エネルギー部門への関 心が高まった。」「水素で電気を作る実験をしてみたい。」などの興味・関心が高まったという感想が多く得 られた。「酸化チタンが絵の具の白色に使われているということで,こんなにも身近にあるということを実 感した。」「普段の生活に活かされているものは他にどのようなものがあるのか気になった。」など,身の回 りの生活と関連づけて考える生徒もいた。生徒のワークシートの分かったことを書くフリースペースで,書 かれていた内容で多かったのは,光触媒作用が水素社会につながる研究ということや,身の回りに酸化チタ ンが使われていることなどがあった。

今後の課題としては,焼成の際の火加減の指示を明確に行う必要がある。生徒が加熱を行うとき,弱火に する傾向が見られる。実際,2020年9月に,北海道本別高校で遠隔で行った授業では,加熱不足のため多く の班で変色を確認できなかった。「強火で」や「バーナーの火は○cm」などの一言を入れる必要があった。

別の感想では,「h+(ホール,正孔)やνなどの式がよくわからなかった。」「初めて聞いた言葉が多かった。」

「難しかったが,将来につながる話だった。」など,授業の難易度に関しては難しいと感じた生徒もいた。

高校で行う場合,発達段階や学力の段階に合わせて授業内容を構成する必要があると思われる。

補助情報

以下に,使用した指導案,アンケート,およびワークシートを示す。

(9)

松橋 博美・菊地友佳子

(10)

光触媒反応の教材の開発

(11)

松橋 博美・菊地友佳子

(12)

光触媒反応の教材の開発

(13)

松橋 博美・菊地友佳子

(14)

光触媒反応の教材の開発

追 補

本報告は,触媒学会企画・教育委員会主催の公開講座「キャット・ケム実験室」で実績のある光触媒反応 を,高校の授業に合わせて再構築し実践した結果をまとめたもので,序論,XRDの測定,アンケートの分析,

指導案およびワークシートの作成は主に菊地友佳子が担当し,松橋が全般を総括したものである。

引用文献

飯塚正明・本島明典(2014)「色素増感太陽電池の作製教材の考察」『千葉大学教育学部研究紀要』,第62巻,367-370.

木枝暢夫・伊藤剛(2003)「酸化チタンコーティングと光触媒作用」『化学と教育』,第51巻,第1号,30-31.

佐藤成哉・伊芹正生・木下和登(2005)「酸化チタンの光触媒作用を効果的に演示するための教材開発」『化学と教育』,第53巻,

第4号,243-246.

早藤幸隆・古林伸浩・高津戸秀・今倉康宏(2005)「酸化チタンの光触媒作用を活用する環境教育教材の開発(Ⅰ)―ホルムア ルデヒドの定量分析と浄化」『化学と教育』,第53巻,第4号,231-234.

(松橋 博美 函館校教授)       

(菊地友佳子 北斗市立茂辺地中学校教諭)

(15)

参照

関連したドキュメント

In the survey, students were asked about (1) likes and dislikes about English, (2) negative feelings toward English, (3) reasons for learning English, (4) what they want to learn

まず光照射にメリーゴーランド法を用いて、ア セトニトリル溶媒での様々なカルボン酸の脱カル

[r]

The metal atom, which accepts some electrons from the halogen ligands and can be isoelectronic with the platinum group metals, catalyzed hydrogenation of alkenes

[r]

Besides these successful development of the catalytic conjugate addition of hydroxy groups in the presence of amino groups mentioned above, attempts were made

Besides these successful development of the catalytic conjugate addition of hydroxy groups in the presence of amino groups mentioned above, attempts were made to develop

[r]