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循環器病の診断と治療に関するガイドライン ( 年度合同研究班報告 ) 心室中隔欠損 (ventricular septal defect:vsd) 心房中隔欠損 (atrial septal defect:asd) 房室中隔欠損 (a

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循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007−2008年度合同研究班報告)

【ダイジェスト版】

先天性心疾患の診断、病態把握、治療選択のための検査法の選択ガイドライン

Guidelines for the clincal exmaninations for dicision making of diagnosis, pathophysiology, and therapy in congenital heart disease(JCS 2009)

目  次

合同研究班参加学会:日本循環器学会,日本胸部外科学会,日本外科学会,日本小児科学会,日本小児循環器学会,       日本心臓血管外科学会,日本心臓病学会,日本心電学会,日本超音波医学会 班 長 濵 岡 建 城 京都府立医科大学大学院医学研究科 小児循環器・腎臓学 班 員 石 川 司 朗 福岡市立こども病院循環器科 糸 井 利 幸 京都府立医科大学大学院医学研究科 小児循環器・腎臓学 越 後 茂 之 えちごクリニック 角   秀 秋 福岡市立こども病院心臓血管外科 黒 澤 博 身 榊原サピアタワークリニック 佐 野 俊 二 岡山大学大学院医歯学総合研究科心臓血管外科 長 嶋 正 實 あいち小児保健医療総合センター 中 西 敏 雄 東京女子医科大学心臓病センター循環器小児科 八木原 俊 克 国立循環器病センター心臓血管外科 康 井 制 洋 神奈川県立こども医療センター循環器科 山 岸 敬 幸 慶應義塾大学小児科 山 岸 正 明 京都府立医科大学大学院医学研究科 心臓血管外科・呼吸器機能制御外科学 協力員 石 川 友 一 福岡市立こども病院循環器科 市 田 蕗 子 富山大学小児科学 小 川   潔 埼玉県立小児医療センター循環器科 小 野 安 生 静岡県立こども病院循環器科 小 林 俊 樹 埼玉医科大学国際医療センター小児心臓科 篠 原 徳 子 東京女子医科大学循環器小児科 白 石 修 一 新潟大学大学院呼吸循環外科分野 中 野 俊 秀 福岡市立こども病院心臓血管外科 中 村 好 秀 大阪市立総合医療センター小児不整脈部 松 島 正 氣 社会保険中京病院小児循環器科 安河内   聰 長野県立こども病院循環器科 外部評価委員 尾 内 善四郎 介護老人保健施設・マムクオーレ 松 田   暉 兵庫医療大学 柳 澤 正 義 日本子ども家庭総合研究所 堀   正 二 大阪府立成人病センター (構成員の所属は2009年7月現在) Ⅰ.序 文………1188 1.ガイドライン作成の基本方針 ………1188 2.ガイドラインのポイント ………1188 Ⅱ.診断と病態理解のための基本的事項………1189 1.先天性心疾患の区分診断 ………1189 2.発達に伴う循環動態,症候の変化 ………1193 Ⅲ.各種検査法………1195 1.心電図 ………1195 2.胸部X線 ………1197 3.超音波検査(心エコー検査) ………1198 4.CT,MRI ………1199 5.心臓カテーテル検査・心血管造影検査 ………1200 6.血液検査 ………1200 Ⅳ.症候別検査計画………1200 1.心雑音 ………1200 2.循環不全(心不全) ………1200 3.チアノーゼ ………1202 各 論………1203

(2)

性も大きくクローズアップされつつある.このように, 先天性心疾患の医療は胎生期から成人期,そして次世代 へと長期にわたる治療計画が必要である.  本ガイドラインは,一般循環器内科医を主な対象に, 先天性心疾患の医療を行う上でのminimal requirement を基本とした内容としているが,一般内科,小児科・新 生児科のみならず産科医にも利用されることを想定して 作成されている.また,必要と思われる限り,最新の情 報を加えた.各疾患の手術適応とその検査法について網 羅された参考書はないので,治療選択の適応を決めるた めに必要な検査とそのタイミングを解説した.

2

ガイドラインのポイント

 先天性心疾患の診断,病態把握,治療選択のための検 査法の選択ガイドライン作成は我が国において新しい試

序 文

1

ガイドライン作成の基本方針

 先天性心疾患児は生産児の約1%の頻度で出生する. 近年の医療技術の進歩によって先天性心疾患患者全体の 死亡率は年々低下しており,特に新生児・乳児期での生 存率は飛躍的に向上している.それに伴い,成人期に達 した先天性心疾患患者数も増加し,既に現状では約40 万人と推定される.先天性心疾患はもはや小児のみの疾 患ではなく成人の疾患になりつつあり,社会環境での複 雑な問題がからみあい,成人先天性心疾患の医療の重要 Ⅴ.疾患別検査計画………1203

1.心室中隔欠損(ventricular septal defect:VSD) …1203 2.心房中隔欠損(atrial septal defect:ASD) …………1205

3.房室中隔欠損(atrioventricular septal defect:AVSD) ………1206

4.動脈管開存(patent ductus arteriosus:PDA) ……1208

5.大動脈縮窄・大動脈弓離断複合(coarctation of aorta: CoA, interruption of aortic arch: IAA) ………1210

6.大動脈狭窄・閉鎖不全(aortic stenosis: AS, aortic regurgitation: AR) ………1212

7.肺動脈狭窄(pulmonary stenosis: PS) ………1214

8.Ebstein病(Ebstein anomaly) ………1215

9.総肺静脈還流異常(total anomalous pulmonary venous return:TAPVR) ………1216

10.Fallot四徴症(tetralogy of Fallot:TOF) …………1217

11.肺動脈閉鎖(pulmonary atresia:PA) ………1219

12.両大血管右室起始(double outlet right ventricle: DORV) ………1221

13.完全大血管転位(transposition of the great arteries: TGA) ………1223

14.修正大血管転位(corrected transposition of the great arteries:cTGA) ………1225

15.総動脈幹遺残(persistent truncus arteriosus) ……1227

16.三尖弁閉鎖(tricuspid atresia:TA) ………1228

17.左心低形成症候群(hypoplastic left heart syndrome: HLHS) ………1230 18.無脾・多脾症候群(心房内臓錯位症候群) ………1232 Ⅵ.術後の検査計画………1234 1.姑息手術(palliative surgery) ………1234 2.二心室修復術 ………1235 3.Rastelli型手術 ………1236 4.大血管転換術:TGA,cTGA,DORV ………1236 5.右心バイパス手術(Fontan型手術,total cavopulmonary connection:TCPC) ………1238 (無断転載を禁ずる)

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みであり,国際的にも検査法に対するエビデンスレベル を検討した研究もほとんど存在しない.このため,我が 国における第一線の小児循環器専門医の中でコンセンサ スが得られている内容を中心に作成したが,可能な限り 多くの文献的検討に基づいたものを記載するよう心がけ た.また,十分なコンセンサスが得られていないと考え られる内容についてはそのことを明記した.基本方針で も述べたとおり,本ガイドラインは循環器内科医のみな らず,先天性心疾患患者に関わる種々の異なる専門領域 の臨床家にも参考となるように日常臨床で役に立つ内容 とし,小児循環器の専門的・先端的な内容については可 能であれば「up date」等の別項を設けて解説した.  本ガイドラインは先天性心疾患における検査法選択を 目的としているが,小児においては疾患の多様性に加え て年齢による病態の変化,検査法の工夫や問題点等成人 にはない特徴がある.そのため,本ガイドラインでは検 査法選択を前提とした総論として,先天性心疾患の診断 に必要な区分分析と病態把握,治療選択に考慮すべき年 齢によって変化する循環動態等の病態理解のための記述 をやや詳細に記載するとともに,検査法の特徴,症候の 特徴を充実させた.また,小児に対する検査は成人と異 なる施行方法と注意すべき点,評価法の違い等も総論で 解説した.一方,各疾患ごとの病態や検査に関する教科 書は多数あるので,各論では,検査項目の整理を行い, 内容をできるだけ簡略化する方針とし一目で分かるよう に可能な限り図やフローチャートを使用した.1つの疾 患でも年齢によって対応が異なる場合があり,本文ある いは図等で可能な限り分かりやすく表現できるよう工夫 をした.  今回のガイドライン作成にあたって,日本をはじめ国 際的にも先天性心疾患に関する検査法の大規模試験は実 施されていない.このため,今回は「エビデンスレベル」 の設定は行わないこととし,以下のような「クラス分類」 のみを採用した.なお,各論では,診断・病態把握・治 療選択に関して一般的に行われる検査(クラスⅠおよび クラスⅡa)の流れをフローチャートで示し,その解説 を本文に示した. クラス分類 クラスⅠ その検査法が有用かつ有効であるという データおよび/または一般的合意がある 場合 クラスⅡ その検査法の有用性に関して相反するデ ータおよび/または意見の相違のある状 態   Ⅱa 有用かつ有効であるというデータおよび /または意見が多い   Ⅱb 有用かつ有効であるという確証が少ない クラスⅢ その検査法が有用かつ有効でなく,場合 によっては有害であるというデータおよ び/または一般的合意がある状態

診断と病態理解のための

基本的事項

1

先天性心疾患の区分診断

 心臓の主要な骨組みは5階建ての建物にたとえられる (図1).  3つの部位診断   ● 心房位(内臓心房位)の診断   ● 心室位(心室ループ)の診断   ● 大血管の診断  2つの関係診断   ■ 心房心室結合   ■ 心室大血管関係  診断に際しては,各区分の正常と起こりうる異常形態 の知識を持って,理学所見,胸部X線,心電図,心臓超 音波,心臓カテーテル・心血管造影等を活用し,各区分 を1つずつ診断していくことが必要である(表1).  次に,各区分内の合併異常(中隔の異常,弁の異常, 血管の異常等)を診断し,調律異常,血行動態を考慮し て,適正な治療法を決定する. 図 1 区分診断のための主要な骨組み 大血管 (円錐動脈幹) 心室 (心室ループ) 心房 (内臓心房位) ● ● ● 心室大血管関係 心房心室結合 ■ ■

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1

心房位,心室位,大血管の診断

(区分決定のメルクマール)

2

区分表現法:心房位,心室位,

大血管の位置関係を表現する用語

①心房位 situs  右心房が脊柱の右側:心房正位 situs solitus  右心房が脊柱の左側:心房逆位 situs inversus  右心房の位置が決定できない(下大静脈欠損等):心 房非定位 situs ambiguous ②心室位(心室 loop)  右心室が左心室の右側:心室正位 d-loop  右心室が左心室の左側:心室逆位 l-loop ③大血管関係 左右位置  大動脈が肺動脈の右側:D  大動脈が肺動脈の左側:L

3

(心臓超音波を用いる方法)

区分診断法の実際

①ステップ 1:心房位の診断 ▷下大静脈が接続する心房を右心房として心房位を決 定する. ▷剣状突起下から下大静脈を描出する長軸断面(図2) と短軸断面を用いる. ▷通常,下大静脈は脊柱の右側,下行大動脈(脊柱の 左側)の反対側を走行する. ▷下大静脈と下行大動脈が脊柱の同側を走行する場 合:aortico-caval juxtapositionと呼ばれ,内臓錯位(特 に右側相同)に特徴的である. ▷下大静脈欠損の場合:奇静脈または半奇静脈接続の 可能性が高く,内臓錯位(特に左側相同)に特徴的 である. ②ステップ 2:心室位の診断 ▷心室内構造の違いにより左右心室を決定する. ▷傍胸骨からの心室短軸断面(図3)および心尖部か らの四腔断面(図4)を用いる. TV IVC LA RA S V 図 2 心房位の診断 表 1 診断有用性:*が多いほど特異性が高い 心房 右心房 左心房 診断有用性 下大静脈が流入する 下大静脈が流入しない ** 上大静脈が流入する 肺静脈が流入する * 心房中隔より前方 心房中隔より後方 心室 右心室 左心室 診断有用性 粗い肉柱形態 粗い肉柱形成なし ** 粗い心室中隔面 平滑な心室中隔面 ** 房室弁の低位付着 ** 自由壁から 2つの大きな乳頭筋 * 漏斗部を有する  三角形(おむすび型) 漏斗部を有しない 楕円形(フットボール型) * 大血管 肺動脈 大動脈 診断有用性 起始後ただちに分岐 起始後分岐しない ** 起始後弓 (arch) 形成なし 起始後弓 (arch) 形成あり **

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③ステップ 3:大血管の診断 ▷肺動脈と大動脈をそれぞれの特徴から決定する. ▷傍胸骨からの大血管短軸断面を半月弁レベルから大 動脈レベルまで順次頭側に傾けて得られる断面(+1 ~+4レベル)と,胸骨上窩からの大血管長軸断面 を用いる. ▷最も低いレベル(+1)で後方の半月弁(通常,大 動脈弁)が観察され,次のレベル(+2)で前方の 半月弁(通常,肺動脈弁)が観察され,さらに上方 に傾けると(+3)肺動脈の左右への分岐が観察さ れ(図5),最後に(+4)大動脈の断面が後方へ伸 展して大動脈弓が形成される. ▷肺動脈と大動脈がそれぞれ決定されたら,両者の位 置関係を表現する(4区分診断の表記法 図8). ④ステップ 4:心房心室結合の診断 ▷心尖部四腔断面を用いる(ステップ2の図4). ▷心房心室結合には以下の5種類がある. 1)正常整列  右心房と右心室は正しく整列し,その間に 三尖弁が位置する.左心房と左心室は正しく 整列し,その間に僧帽弁が位置する.三尖弁 が僧帽弁よりやや低位に位置する.心室中隔 と心房中隔はほぼ同一線上に位置する. 2)房室弁交差 3)一側房室弁両室挿入 4)両房室弁同室挿入 5)一側房室弁口閉鎖 ⑤ステップ 5 心室大血管関係の診断 ▷肋骨弓下または心尖部からの四腔断面を順次頭側に 傾けて得られる断面(F1~F3)を用いて,心室と大 血管の接続を観察する(図6). ▷傍胸骨からの心室-大血管長軸断面を用いて,心室 と大血管の接続を観察する(図7). ▷半月弁と房室弁を同時に含む断面において,両者の 線維性連続の有無を観察する. ▷線維性連続ありの場合,大血管は左室起始,線維性 連続なしの場合,大血管は右室起始である可能性が 高い. 図 3 心室位の診断(短軸断面) RV LV PPM APM 図 4 心室位および心房心室結合の診断(四腔断面) RV LV LA RA 図 5 大血管の診断 Ao Ao RA +3 +2 +1 RA INF AoV RA PV LA LA LA PA DAo

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4

区分診断の表記法

 {心房位,心室位,大血管関係}の順に,分析した各 心血管区分を区分表現法の用語(略語)を用いて{ } 内に並べて表記すると,複雑な先天性心疾患でも主要心 血管構築を明確に示すことができる. *心房位:S,solitus(正位),I,inversus(逆位),A, ambiguous(非定位)  正常(S,solitus)では右心房が脊柱の右側 *心室位:D,d-loop(正位),L,l-loop(逆位)  正常(D,d-loop)では右心室が左心室の右側 *大血管関係  正常関係(図8-Ⅰ) N,normal 正位:大動脈(Ao)が右後,肺動脈(PA) が左前 IN,inverted normal 逆位:Aoが左後,PAが右前 M,malposition 心室大血管関係は正常でAo,PA の位置異常あり(1文字目;D,AoがPAの右側, L,AoがPAの左側) 大血管転位(図8-Ⅱ) RV RPA Ao LV LA 図 7 心室大血管関係の診断(2) 図 6 心室大血管関係の診断(1) RV RA RV LV Ao IVS RV LV PA LPA LA RPA IVS F1 F2 F3 LV PVe LA 図 8 区分診断の表記法 {S,D,N} {I,L,IN} RA RV LA LV Ao PA 1 LA LV RA RV 2 {S,L,N} {I,D,IN} RA LV LA RV 1 LA RV RA LV 2 {S,L,LT} {I,D,DT} RA LV LA RV 1 LA RV RA LV 2 {S,L,DM} {I,D,LM} RA LV LA RV 2 {S,D,LM} RA RV LA LV 1 1 RA RV LA LV LA RV RA LV 4 {I,L,DM} LA LV RA RV 3 {S,D,DT} {I,L,LT} 2 LA LV RA RV {S,L,LR} {S,D,DL} RA LV LA RV 3 RA RV LA LV 1 1 RA RV LA LV {S,D,DR} {S,D,LR} 2 RA RV LA LV Ⅰ.正常関係 A.正常心型 B.孤立性心室不一致 Ⅱ.大血管転位A.完全大血管転位 B.修正大血管転位 C.解剖学的修正 malposition Ⅲ.両大血管同室起始 A.右室起始 B.左室起始

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T,transposition Aoが右心室,PAが左心室から 起始(1文字目;D,AoがPAの右側,L,Aoが PAの左側) 両大血管同室起始(図8-Ⅲ) R,両大血管右室起始,L,両大血管左室起始(1 文字目;D,AoがPAの右側,L,AoがPAの左側)

2

発達に伴う循環動態,症候の

変化

1

出生前後の循環動態の変化――

胎児循環から肺循環への移行

 

胎児血行では,出生後のように肺循環が関与せず, 心内に卵円孔という心内短絡および動脈管と静脈管とい う2つの心外短絡を有することが特徴である(図9).  出生後肺循環が開始すると,肺血管抵抗と肺動脈圧の 低下とともに肺血流量は増加する.この変化は,肺血管 抵抗と体血管抵抗のバランスによって肺血流量や体血流 量が左右される左心低形成症候群等の先天性心疾患で は,心不全やショック等の循環動態の破綻を生じさせる ことがある.

2

先天性心疾患の基本的病態

①循環不全(心不全)  新生児期・乳児期早期に発症する先天性心疾患は,動 脈管での血流障害や心房間交通障害により肺循環や体循 環が確立できなかったり,酸素化血流が体循環にうまく 還流できずに低酸素血症を生じるものが多い(表2). また肺循環と体循環が並列(駆出心室から両循環が支持 されるもの:単心室や左心低形成症候群等)の場合には, 肺血管抵抗の低下に伴う肺血流量の増加とともに体血流 が低下し低心拍出となる.総肺静脈還流異常等の肺静脈 閉塞疾患では,肺うっ血から肺水腫,肺高血圧を生じる とともに,左心系への流入血流障害から低心拍出となる.  乳児期以後においては,左-右短絡による肺血流増加 疾患では多呼吸や喘鳴等の呼吸症状に加え体重増加不良 や運動時息切れや疲労感等の症状を生じる.逆に右-左 短絡による肺血流減少疾患では,肺高血圧がない場合に はチアノーゼやしゃがみこみ,低酸素発作等を生じ,肺 高血圧合併例では動悸,息切れ,運動時の失神発作,易 疲労性等を生じる.  重症大動弁狭窄では心室の収縮低下と心筋への冠還流 障害を伴う重大な低心拍出を生じる. ②チアノーゼ  チアノーゼは,皮膚粘膜下血の還元ヘモグロビンが 5g/dL以上,動脈血還元ヘモグロビンが3g/dL以上にな ると見られる青色症である.低心拍出時に見られる四肢 冷汗を伴う網状チアノーゼは,保温や循環不全の治療で 改善するため鑑別が可能である.  中枢性チアノーゼは,⑴低換気,⑵右-左短絡,⑶ヘ モグロビン異常により生じる.  上肢と下肢で酸素飽和度が10%以上異なるdifferential cyanosisを認めた場合には,体血圧と等圧以上の肺高血 圧と動脈管開存が必ず存在し,これに上下肢の血圧の差 や四肢の脈触知の差が伴えば大動脈縮窄や大動脈離断が 診断できる.  中枢性チアノーゼが持続すると,ばち状指を生じる. チアノーゼが改善しないまま思春期以後まで治療されず に過ごした先天性心疾患児では,多血症に伴う合併症と して過粘稠症候群による頭痛や血栓症,高尿酸血症によ る痛風,喀血,吐血等を生じる.また,さらに低酸素血 症に伴う運動能低下に加え低酸素血症によるチアノーゼ 性腎障害(タンパク尿や浮腫)や肝機能障害を生じるこ とが知られている.

3

先天性心疾患の発症時期

 主な心疾患の発症時期について図10に示す.重症な 先天性心疾患ほど新生児期・乳児早期に症状を発現する. 年齢による心疾患の初発症状は表3の通りである.肺高 血圧による肺血管閉塞性病変が進行するとチアノーゼや 運動時息切れ等の症状が発現しいわゆる「Eisenmenger 症候群」の症状を呈するようになる. 図 9 胎児循環と出生後の循環 動脈管 主肺動脈 大動脈 卵円孔 肺 右室 左室 右房 左房 右室 左室 右房 左房 胎児循環 出生後循環 胎児循環では,卵円孔という心内短絡と動脈管と静脈管という 2つの心外短絡が存在する.

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2 新生児期・乳児期発症の先天性心疾患の病態 病 態 疾 患 循 環 不 全 症 状 の 機 序 ① 肺 循 環 が 確 立 で き な い 三 尖 弁 閉 鎖 不 全 ( Eb ste in 奇 形 , 三 尖 弁 異 形 成 ) 動 脈 管 依 存 性 右 室 前 方 拍 出 不 全 右 室 低 形 成 静 脈 還 流 障 害 肺 動 脈 閉 鎖 + 動 脈 管 開 存 肺 血 流 低 下 − 低 酸 素 血 症 − 心 筋 収 縮 低 下 胎 児 循 環 遺 残 ② 体 循 環 が 確 立 で き な い 左 心 低 形 成 症 候 群 動 脈 管 依 存 性 低 心 拍 出 量 重 症 大 動 脈 弁 狭 窄 左 室 後 負 荷 不 適 合 大 動 脈 縮 窄 ・ 大 動 脈 離 断 動 脈 管 狭 窄 ・ 閉 塞 に 伴 う 下 半 身 血 流 低 下 − 腎 不 全 肺 高 血 圧 − 右 室 ポ ン プ 機 能 不 全 肺 血 流 量 増 加 − 体 血 流 量 低 下 ( 並 列 循 環 )                   − 左 室 容 量 負 荷 ③ 酸 素 化 血 液 の 体 循 環 へ の 移 行 障 害 完 全 大 血 管 転 位 心 房 間 交 通 障 害 ( 左 - 右 ) 低 酸 素 血 症 − 心 筋 収 縮 低 下 総 肺 静 脈 還 流 異 常 心 房 間 交 通 障 害 ( 右 - 左 ) 左 室 流 入 血 流 減 少 に よ る 低 心 拍 出 右 室 高 血 圧 に よ る ポ ン プ 不 全 ④ 必 須 の 心 房 間 交 通 に 障 害 が あ る 左 心 低 形 成 症 候 群 心 房 間 交 通 障 害 ( 左 - 右 ) 肺 静 脈 う っ 血 − 肺 水 腫 − 肺 高 血 圧 − 右 心 不 全 僧 帽 弁 閉 鎖 + 両 大 血 管 右 室 起 始 三 尖 弁 閉 鎖 心 房 間 交 通 障 害 ( 右 - 左 ) 静 脈 還 流 障 害 − 体 う っ 血 右 室 低 形 成 右 房 − 左 房 流 入 血 流 制 限 − 左 室 流 入 血 流 減 少 に よ る 低 心 拍 出 総 肺 静 脈 還 流 異 常 ⑤ 肺 血 管 抵 抗 低 下 に 伴 う 肺 血 流 量 の 増 加 心 室 , 大 血 管 レ ベ ル で の 大 欠 損 肺 血 流 増 加 − 左 室 容 量 負 荷 ( 心 室 中 隔 欠 損 , 動 脈 管 開 存 , 大 動 脈 肺 動 脈 開 窓 , 肺 高 血 圧 − 右 室 ポ ン プ 不 全 両 大 血 管 右 室 起 始 , 完 全 大 血 管 転 位 + 心 室 中 隔 欠 損 , 並 列 循 環 で の 肺 血 流 量 増 加 − 体 血 流 量 低 下 三 尖 弁 閉 鎖 + 肺 血 流 量 増 加 , 総 動 脈 幹 等 ) 肺 静 脈 閉 塞  ( 僧 帽 弁 狭 窄 , 三 心 房 心 等 ) 肺 静 脈 う っ 血 の 増 悪 ⑥ 発 育 に 伴 う 進 行 な い し 心 拍 出 量 の 増 加 僧 帽 弁 閉 鎖 不 全 逆 流 の 進 行 − 左 室 容 量 負 荷 − 左 室 ポ ン プ 機 能 不 全                 − 左 室 前 方 拍 出 低 下 僧 帽 弁 狭 窄 , 三 心 房 心 肺 静 脈 う っ 血 − 肺 水 腫 − 肺 高 血 圧 − 右 心 不 全 ⑦ 漏 斗 部 心 筋 肥 厚 増 悪 Fa llo t四 徴 症 低 酸 素 発 作 三 尖 弁 閉 鎖 + 肺 動 脈 狭 窄 右 室 か ら の 順 行 性 肺 血 流 量 の 低 下 − 低 酸 素 血 症 両 大 血 管 右 室 起 始 + 肺 動 脈 狭 窄 ⑧ 冠 動 脈 疾 患 冠 動 脈 奇 形 冠 動 脈 異 常 心 筋 虚 血 に よ る 心 筋 収 縮 低 下 BW G 症 候 群 ⑨ 心 筋 疾 患 心 筋 症 心 収 縮 低 下 心 筋 炎 心 筋 拡 張 障 害 ⑩ 不 整 脈 先 天 性 完 全 房 室 ブ ロ ッ ク 徐 脈 に よ る 低 心 拍 出 頻 拍 誘 発 性 心 筋 症 心 室 へ の 流 入 障 害 , 心 筋 虚 血 著 し い 頻 脈 , 心 室 頻 拍

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各種検査法

1

心電図

1

標準 12 誘導心電図

 標準12誘導心電図だけでなくベクトル心電図や運動 負荷心電図,ホルター心電図が行われている.簡便で繰 り返し行うことができるため,診断や経過観察における 病状把握に有用な検査である. ①検査の特性と技術的問題  新生児期には生理的な右室肥大が認められ,成長とと もに波形は変化するため,小児では年齢により異常所見 の基準が異なることに留意する必要がある.特に胸部誘 導のT波形は年齢とともに左側胸部誘導から右側胸部誘 導へと陽性化してくるため,右室肥大の基準が変化する. 表 4と表5に日本小児循環器学会が作成した心室肥大の 判定基準を示す.表5は簡易版である.判定基準の項目 にあげられているように(表4),年少例では生理的右 室肥大があるためにV3R,V4Rを記録する必要がある. ②検査の臨床的意義  心電図検査は先天性心疾患の診断に直結するものでは ないが,波形の異常,肥大所見や負荷所見,心筋虚血等 の心筋性状の変化,不整脈の合併等病態把握には不可欠 な検査である. 1)波形の異常  心房中隔欠損における右軸偏位,不完全右脚ブロック, V4誘導の孤立性陰性T波,房室中隔欠損における左軸 図 10 主な先天性心疾患の発症時期と初発症状 心不全を主徴とする疾患 左心低形成 大動脈縮窄離断複合 大きな心室中隔欠損 大きな動脈管開存 共通房室管孔残遺 心内膜線維弾性症 重症大動脈狭窄 完全房室ブロック 左冠動脈肺動脈起始 三心房心 心不全とチアノーゼを主徴とする疾患 総肺静脈環流異常〔閉塞(+)〕 完全大血管転位 Ebstein 病 右心低形成 総肺静脈環流異常〔閉塞(−)〕 チアノーゼを主徴とする疾患 Fallot 四徴症 肺動脈閉鎖+心室中隔欠損 三尖弁閉鎖(大きな ASD)+PS 鑑別すべき疾患 大きな系統  動静脈瘻 双胎児間輸血 過粘度症候群 PPHN 低血糖 敗血症など 発作性頻拍 貧血 急性腎炎 チアノーゼ軽度 未熟児 1 週 1 か月 3 か月 2 年 表 3 心疾患による症状(年齢別の初発症状) 肺血流増加 肺血流減少 低心拍出 1.新生児期・乳児早期 多呼吸,陥没呼吸 呼吸困難,喘鳴 多汗 哺乳障害 チアノーゼ 蒼白,末梢冷感 冷汗,網状チアノーゼ 体重増加不良 弱い泣き声 2.乳幼児期 多呼吸 易感染性,反復する肺炎 チアノーゼ低酸素発作 蹲踞(しゃがみこみ) 体重増加不良 運動発達遅延 易疲労性 顔色不良,やせ 3.小児期 運動能低下 息切れ ばち状指 運動能低下動悸 4.思春期以後 合併症による症状  胸痛,失神発作,突然死,喀血,不整脈,出血傾向,痛風,けいれん 等

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表 4 点数による小児心電図心室肥大判定基準 ●右室肥大判定基準 点数 所見 0~7日 8~30日 ~ 2歳1か月 3~11歳 12歳以上 5点 (1)右側胸部誘導パターン  ①V4R,V3R,V1のいずれかで + + + + + +   qRs,qRまたはR型  ②V1の T波が陽性でかつR>|S| * + + * * * 3点 (2)右側胸部誘導の高いR  ①RV1 ≧ 2.5mV 同左 ≧ 2.0mV 同左 同左 ≧ 1.5mV  ②V1が R<RʼでかつRʼV1 ≧ 1.5mV 同左 同左 ≧ 1.0mV 同左 同左  ③V1が R>|S|でRV1 * * * ≧ 1.5mV 同左 ≧ 1.0mV 2点 (3)左側胸部誘導の深いS  ①|SV6| ≧ 1.0mV 同左 同左 同左 同左 同左  ②V6が R≧|S|でかつ|SV6| * * ≧ 0.5mV 同左 同左 同左 (4)右側胸部誘導のVAT延長:VATV1 ≧ 0.035sec 同左 同左 同左 同左 同左 1点 (5)右軸偏位:QRS電気軸 * * ≧ 135° ≧ 120° 同左 同左 注1)WPW症候群や完全右脚ブロックがあれば,右室肥大の判定は困難である  2)*印はその年齢群ではとりあげない項目  3)第(4)項は不完全右脚ブロックパターンがある時はとりあげない  4)各項の亜項は重複しても加算しない 「判定 5点以上:右室肥大,3~4点:右室肥大疑,1~2点:心電図上は右室肥大と判定しない」 ●左室肥大判定基準 点数 所見 0~7日 8~30日 ~ 2歳1か月 3~11歳 12歳以上 5点 (1)左側胸部誘導のST-T肥大性変化 + + + + + + 3点 (2)左側胸部誘導の ① RV6 ≧ 1.5mV ≧ 2.0mV ≧ 2.5mV ≧ 3.0mV 同左 ≧ 2.5mV  高いR ② RV5 ≧ 2.5mV ≧ 2.5mV ≧ 3.5mV ≧ 4.0mV 同左 ≧ 3.5mV (3)右側胸部誘導の ① |SV1|+RV6 * * ≧ 4.0mV ≧ 5.0mV 同左 ≧ 4.0mV  深いS ② |SV1|+RV5 * * ≧ 5.0mV ≧ 6.5mV ≧ 6.0mV ≧ 5.0mV ③ |SV1| ≧ 2.5mV ≧ 2.0mV * * * * (4)左側胸部誘導の |QV5|<|QV6| ≧ 0.5mV 同左 同左  深いQ でかつ |QV6| 2点 (5)Ⅱ,Ⅲ,aVF誘導の ① RⅡおよびRⅢ * * ≧ 2.5mV 同左 同左 同左  高いR ② RaVF * * ≧ 2.5mV 同左 同左 同左

(6)左側胸部誘導のVAT延長 V5または V6 * * ≧ 0.04sec ≧0.05sec ≧0.06sec 同左

1点 (7)左軸偏位:QRS電気軸 * * * ≧ 0° ≧− 30° 同左 注1)ST-Tの肥大性変化:V5またはV6で,高いR波を認め,T波が陰性または二相性(-~+型)のもの    ST区間は下り坂ないし水平のことが多い  2)WPW症候群や左脚ブロックがあれば,左室肥大の判定は困難である  3)*印はその年齢群ではとりあげない項目  4)各項の亜項は重複しても加算しない 「判定 5点以上:左室肥大,3~4点:左室肥大疑,1~2点:心電図上は左室肥大と判定しない」 ●両室肥大判定基準 ●両室肥大   1)左室・右室ともにおのおのの肥大判定基準が5点以上のもの   2)一方の心室の肥大判定基準が5点以上で,他の心室の同基準が3~4点のもの ●両室肥大疑   左室・右室ともにおのおのの肥大判定基準が 3~4点のもの

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偏位,PQ間隔の延長,不完全右脚ブロック,修正大血 管転位における左軸偏位,V1誘導のQS型,V5および V6誘導におけるQ波の欠如等は診断的価値が高い. 2)負荷所見  負荷所見の有無が手術適応を決定する重要な基準にな る. 3)心筋性状の変化  重症大動脈弁狭窄では左室ストレインパターン(左側 胸部誘導におけるST低下や陰性T波)を示し,重症肺 動脈弁狭窄では右側胸部誘導のストレインパターンが認 められる.また,左冠動脈肺動脈起始では左室前側壁の 心筋虚血や梗塞所見が認められる. 4)不整脈  心房中隔欠損やEbstein奇形等心房に負荷がかかる疾 患では心房期外収縮や心房粗動・細動が認められること がある.また,修正大血管転位や心房内臓錯位症候群で も不整脈を合併しやすい.

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運動負荷心電図

 トレッドミル負荷やエルゴメーター負荷,マスター負 荷が行われる.大動脈弁狭窄で運動によりST変化が出 現する場合には手術の適応となる.

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ホルター心電図

 非侵襲的で,新生児でも検査可能であり,不整脈の診 断には不可欠の検査である.小児では体動が激しく,心 拍数も速いため,解析には相当な修正が必要となる.

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胸部 X 線

 先天性心疾患には多種多様な疾患があり,他臓器の異 常を合併することもあるため胸部X線は不可欠な検査 である.また,簡便で安価な検査法であり,依然心疾患 の有無や経過観察における血行動態の変化を捉えるスク リーニングの検査として有用である. ①検査の特性と技術的問題  乳児期や幼児期早期の撮影には姿勢を維持するために 工夫が必要である.また,新生児から乳児期早期には胸 腺が大きいため正しい評価が困難であることが少なくな い.胸腺は心基部に認められることが多いが,心陰影を 覆うほど大きいこともある.新生児期には肺野が全体に 黒く,肺血管陰影が乏しく見える.生後早期には肺血管 抵抗が十分に低下していないことを反映している. 表 5 小児心電図心室肥大判定のめやす(生後 30 日以下は除く) 右 室 肥 大 の め や す 右室肥大   1)右側胸部誘導の右室肥大パターン      ①V1(V4RおよびV3R)でqRs,qR,Rパターン      ②V1誘導の T波が陽性で,かつR>S(3歳未満)   2)高いRV1と深い SV6* 右室肥大の疑い   高い RV1と深い SV6* 左 肥 大 の め や す 左室肥大   1)左側胸部誘導(V5または V6誘導)ST-Tの変化   2) 高いV6,大きな(|SV1|+RV6),および深い QV6の うち二つ以上の所見 左室肥大の疑い    高いRV6,大きな(|SV1|+RV6),または深い QV6のい ずれか * 高いRV1と深い SV6とは下記の条件のいずれかを満足する もの 上記所見の内容は下記のとおりである1)左側胸部誘導のST-Tの肥大性変化 V5または V6誘導で高い R波を認め,T波が陰性または 二相性(−~+型) 2)高いR波 3歳以上RV6≧ 3.0mV. 3歳未満および12歳以上の 女児は RV6≧ 2.5mV 3)大きな|SV1|+RV6 3歳以上は|SV1|+RV6≧ 5.0mV. 3歳未満および12 歳以上の女児は |SV1|+RV6≧ 4.0mV 4)深いQ波 |QV5|<|QV6|でかつ|QV6|≧0.5mV (3歳以上) ・高い RV1: ①RV1≧ 2.0mV (12歳以上の女児は≧1.5mV) ② V1誘導で R>|S|で,RV1≧ 1.5mV   (3歳以上,12歳以上女児≧1.0mV) ③ V1誘導で R<R’で,R’V1≧ 1.5mV   (3歳未満,3歳以上≧1.0mV) ・深い SV6: ①|SV6|≧1.0mV.②V1誘導で R≦|S|で,  |SV6|≧0.5mV  なお,V6誘導の深い S波の所見は心臓の回転異常の場 合にもみられる 両 室 肥 大 の め や す 両室肥大  1)両心室の肥大  2)一方の心室肥大と他の心室肥大の疑い 両室肥大の疑い  両心室の肥大の疑い 注 1)WPW症候群や完全右脚ブロックがあれば心室肥大の判 定は困難である  2)3歳以上6歳未満では,V1誘導 T波が陽性でかつR>Sで あれば右室肥大の可能性が強い  3)V1の VAT延長や強い右軸偏位があるときは右室肥大に留 意する  4)深いSV6だけの症例には回転異常などがあるので右室肥 大疑と判定するには慎重でなくてはならない  5) Ⅱ, Ⅲ,aVF誘 導 の 高 い R波(2.5mV以 上 ),V6誘 導 の VAT延長や左軸偏位があるときは左室肥大に留意する

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②検査の臨床的意義 1)心陰影  心陰影の位置,大きさ,形を確認できる.通常心尖部 は左下方を向いているが,右胸心や正中心の場合がある. 全内臓逆位に伴う右胸心では心疾患の合併は少ないが, 孤立性右胸心では心疾患の合併が疑われる.心陰影の大 きさは心胸郭比で評価することが多いが,成人に比べて 新生児・乳児では大きくなり,0.6ぐらいまでは正常範 囲と考えられている.しかし,心胸郭比はあくまでも心 拡大の大まかな指標であり,心エコー検査における心内 腔の計測値とは相関しない.  心疾患によっては特徴的な心陰影の型を示し,よく知 られているものとしては木靴型(Fallot四徴症)や卵型 (完全大血管転位),雪だるま型(8の字型,総肺静脈還 流異常で左無名静脈に還流する場合)がある.また,心 陰影の形によって心臓のどの部分に負荷がかかっている かを知ることができる.大動脈を丹念に確認すれば,右 大動脈弓の診断や年長例では3の字サインから大動脈縮 窄を診断することも可能である. 2)肺血管陰影  肺血管陰影から肺血流の増加や減少,うっ血を診断で きる.肺血流増加群では肺門部の肺動脈は拡張し,肺野 の末梢1/3まで続く.右肺動脈は気管の透亮像よりも拡 大する. 3)肺野  気管や気管支の透亮像から気管狭窄や心房内臓錯位症 候群が診断できる.先天性心疾患には気管狭窄や気管軟 化症の合併が少なくない.また,気管支の分岐の角度が 左右対称である場合には心房内臓錯位症候群が疑われ る. 4)内臓の位置  胃泡の位置と肝臓の形態は重要で,通常胃泡の位置と 心尖の向きは同じであり,逆になっている場合には心房 内臓錯位症候群が疑われる.また,左右対称の肝臓も心 房内臓錯位症候群が疑われ,複合心奇形が合併しやすい. 5)骨格系  脊柱側弯や脊椎の異常は心疾患に合併することがあ る.脊柱側弯と指の長さ等からMarfan症候群が疑われ, 脊椎の異常はVATER連合が示唆される.年長例の大動 脈縮窄では拡大した肋間動脈による肋骨下部侵食像(rib notching)が認められることがある.

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超音波検査(心エコー検査)

 心臓内部の正確な形態診断に最も優れた診断法であ る.経胸壁エコー検査だけでなく,経食道心エコー検査 や胎児心エコー検査も行われている. ①検査の特性と技術的問題  先天性心疾患の診断においては最も診断能力が高く, 診療において中心となる検査法である.複合心奇形の診 断には系統的な検査が必要で,立体構築を捉えるために 区分診断法(segmental approach)が用いられる. ②検査の臨床的意義 1)形態診断  断層心エコー検査により区分診断法を用いて診断す る.詳細は区分診断の項を参照されたい.次に各弁の形 態や心内腔の大きさ,壁厚,血管の径を測定する.成人 と異なり,複合心奇形では心室容積や弁輪径,血管径が 小さいことの評価も重要になる.心室中隔欠損の欠損部 位や欠損孔の径の診断等では心エコー検査が最も優れて いる.また,経食道心エコー検査によれば経胸壁心エコ ーでは観察しにくい肥満や胸郭変形等の症例での観察が 可能になる.さらに経食道心エコー検査は心房中隔欠損 の詳細な検討や胸部大動脈の評価,術中や術直後の弁の 観察等に有用である. 2)血行動態診断  ドップラー法により血流波形や流速を測定することで 弁や血管の狭窄の程度が確認でき,カラードップラー法 により短絡や弁逆流等の異常血流が捉えられる. ①狭窄病変の評価  狭窄部を通過する最大血流速度から簡易ベルヌーイ式 を用いて圧較差を推定することができる(図11). ②弁逆流の評価  カラードップラー法により成人と同様に行う. ③左右短絡の評価  右室流出路と左室流出路におけるパルスドップラー法 による流速積分値(time velocity integral)と流出路径か らそれぞれの1回拍出量を算出し,その比から肺・体血 流量比を求めることができる.しかし,誤差が大きいた め,欠損孔の大きさや心房・心室の拡大の程度によって 評価していることが多い. ④肺高血圧症の評価  連続波ドップラー法で求めた三尖弁逆流速度から簡易 ベルヌーイ式を用いて右室右房圧較差を算出し,これに

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右房圧(通常10 mmHg)を加えて右室収縮期圧を求め る方法が広く使われている.心室中隔欠損や動脈管開存 では短絡血流速度から簡易ベルヌーイ式を用いて圧較差 を算出し,測定した体血圧から圧較差の差をとることで 肺高血圧症の評価ができる.ただし,欠損孔が小さい場 合には短絡血流速度が低下していることがあるので注意 が必要である.また,心室短軸断面における心室中隔の 湾曲を利用する方法や肺動脈弁のsystolic time integral

(pre-ejection period/ejection time比)から右室圧を推定 する方法がある.

3)心機能評価

 左室収縮機能の指標としては駆出率(LVEF),左室拡 張機能の指標としてE/A比,総合した指標としてTei indexが広く用いられている(クラスⅡa).Tei indexの 正常値は成人と小児で多少異なる. ③問題点  ベッドサイドで簡単に行うことができ,多くの場合確 定診断を得ることができる.区分診断法に習熟する必要 がある.

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CT,MRI

 4列に始まったマルチスライスCT(MS-CT,以下 3DCT)による心臓検査では40秒近い呼吸停止を必要と したが,急速な技術革新により64列が中心となり,小 児の心臓検査にも広く用いられるようになってきた. MRIも高速での収集が可能となり,分解能も向上し, 先天性心疾患の診断に有用な検査になってきた.高速ス キャンに加え,心拍同期スキャンが可能となったため心 拍が速い新生児や乳児でも優れた画像が得られるように なった. ①検査の特性と技術的問題  心エコー検査のように限られた部位から画像を得るの ではなく,広い断面で画像を得ることができる.いずれ の検査でも三次元画像を構築することが可能で,特に我 が国ではMS-CTによる三次元画像診断(3DCT)が広 く行われるようになってきている.複雑な構造物を三次 元構築するためには,疾患の十分な理解と画像処理の方 法に精通することが必要である.  技術開発は急速に進んできているが,心拍動と呼吸運 動のため検査には限界があり,十分な鎮静が必要となる. ②検査の臨床的意義 1)形態診断  大動脈や肺動脈,静脈の形態診断には非常に有用であ る.新生児期の大動脈縮窄や総肺静脈還流異常では,心 エコー検査と3DCTの組み合わせで手術が可能である (クラスⅡa).また,大動脈肺動脈側副血行の三次元表 示は肺動脈を再建・統合する手術に際して有用性が高い. 3DCTでは心内腔画像も臨床応用可能なレベルに向上し てきている(クラスⅡb). 2)機能診断  機能診断ではMRIが有用である.年長例では心エコ ー検査での評価が難しい右室の収縮能評価が可能であ り,弁逆流量の評価もできる.Fallot四徴症や修正大血 管転位,心房内血流転換術後の完全大血管転位等の遠隔 期の心機能評価に有用である. ③問題点  MS-CTで三次元表示を得るためには画像の再構築が 必要であり,時間と技術的習熟が必要である.また, 3DCTで は 放 射 線 被 曝 が 問 題 と な る. 最 近,64列 MS-CTによる生涯にわたる発癌の問題が指摘された. 小児では成人に比べて同じ放射線被曝量であっても,感 受性が高く発癌のリスクが高いことが明らかにされてい る.放射線被曝量を低減させる工夫が必要であり,検査 毎にCT装置のコンソール上に表示されるDose-length product(DLP)値から実効線量を推定して記録してい くことが必要であろう. 図 11 肺動脈弁狭窄の心エコー図 左:肺動脈弁のドーム形成と主肺動脈の狭窄後拡張を認める. 右:連続波ドップラー法により計測した狭窄部の最大血流速度 (V m/sec)から簡易ベルヌーイ式を用いて圧較差(PG mmHg) を推定することができる.すなわち,PG=4×V2により算出す る.

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心臓カテーテル検査・心血管

造影検査

 心臓カテーテル検査・心血管造影検査は先天性心疾患 の解剖を詳細に知るために最も信頼できる検査法であ る. ①検査の特性と技術的問題  小学生以下では鎮静が必要で,気管内挿管を必要とす ることもある.小児では血管が細いため,細いカテーテ ルを使用しなければならない.また,乳幼児では心拍数 が速いため,撮影は高速にしなければならない. ②検査の臨床的意義  形態診断だけでなく,重症度評価,治療の適応決定, 手術法の決定,手術後の評価に有用である.左右短絡疾 患における肺高血圧症では手術適応決定のために負荷試 験を行い,肺血管病変の可逆性を評価することができる. 近年,カテーテル治療が増加してきている. ③問題点  正確な診断が可能であるが,侵襲があり,検査に伴う 種々の合併症の問題がある.

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血液検査

 先天性心疾患においても循環動態を反映する指標とし てANPやBNP値は重要である.しかし,疾患や年齢に よって上昇の程度は大きく異なるため,その評価にはそ の値の推移が重要になる.  チアノーゼ型心疾患においては多血症があるために鉄 欠乏性貧血になりやすい.ヘモグロビン値では貧血の評 価は困難であり,MCV値を参考にする.チアノーゼが 残存している年長例では腎機能低下や高尿酸血症が問題 となる.利尿薬内服例や哺乳不良例では血清電解質に注 意する必要がある.

症候別検査計画

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心雑音

 心疾患がなくとも心雑音を有している小児は極めて多 く,その中から心疾患により生じている心雑音を鑑別し, 診断を行う必要がある.小児で心雑音を聴取した場合, 以下の雑音との鑑別が必要となる(図12).  ① 無害性心雑音  健常児が有している正常の心雑音であり,注意深 く小児を診察するとかなりの頻度で聴取可能であ る.  ② 機能性心雑音  発熱や甲状腺機能亢進等の心機能亢進時や貧血等 の時に聴取するもので,時に聴診のみでは心疾患と の鑑別が困難なこともある.  ③ 器質的な心疾患を有し心雑音を有している者

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プロセス

 発熱時等に心雑音を指摘された症例は,解熱時に再度 の診察を行い心雑音が聴取されないときは機能性心雑音 と判定しても問題ない場合が多い.しかし貧血症例が含 まれていることもある.  無害性心雑音は小児循環器専門医の場合は聴診だけで 判断できる場合も少なくない(クラスⅡ).臨床経験の 少ない医師や,聴診にて確証が得にくい場合には,心エ コー図検査を施行すべきと考えられる.乳児期で発育・ 発達に問題がある症例や,頻脈や多呼吸のある症例では, 心不全によりそれら症状が発生している可能性があり, 心エコー図検査も含めた精査を行うべきである.  器質的心疾患を疑う場合には,心不全の有無や心房や 心室負荷の評価を行う必要性からも,胸部X線,心電図 とともに心エコー図検査を行い診断のみでなく病状全体 の把握を試みる必要がある.

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循環不全(心不全)

 新生児や乳児と,幼児期,学童により循環不全(心不 全)の症状は異なるために,その年齢に沿った問診や診 察が必要とされる.  新生児,乳児期の心不全は基本的には短絡性心疾患に

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合併する頻度が高い.  哺乳量低下や哺乳時間延長等を伴った体重増加不良, 多呼吸,陥没呼吸,頻脈が主に見られる症状である.心 雑音を指摘されたり,親が心不全症状に気付き病院を受 診することが多いが,定期健診等で体重増加不良を指摘 され受診することもある.  幼児の心不全は評価が難しいことが多い.重症の心疾 患では既に新生児期や乳児期に心不全を発症し治療をな されていることが多く,これらの症例よりやや軽症の病 態の症例が幼児期に心不全症状を呈する可能性がある. 体重増加不良や,心不全が基本にあると運動量等が健常 児より低下するために,運動発達の遅れや健常者に比し て運動量が少ないことが症状として認められることが多 い.健診時だけでなく,通常の診察時にも心疾患時の運 動発達等に気を配る必要がある.  しかし,拡張型心筋症等のように後天性の心疾患で心 不全を発症した場合は,成人の心不全と同様の症状を呈 し,特に左心不全では当初は感冒や気管支炎等の診断・ 治療を受けていた後に,胸部X線写真を撮影時に心拡大 から心不全の診断を受けることも少なくない.  学童期の心不全症状は比較的成人の場合に近く,軽症 のときには易疲労性がまず出現し,その後に頻脈や呼吸 困難,浮腫,肝腫大等の症状が出現する.就学児童や生 徒であれば,下校後の家庭での状態を聞くと,症状の把 握が有効にできることが多い.

1

検査

① 心エコー  心不全の原因となる心疾患の診断や心機能評価に関し ては心エコー図検査が有用であり,最も行われている検 査である.心機能評価に関しては,現在は収縮能の評価 だけではなく拡張能の評価もある程度可能になってきて いる.また心拍出量の経時的変化も上行大動脈血流の速 度時間積分(VTI)を用いると定量的に評価可能となっ てきている.弁狭窄や弁逆流に関しても,その程度や圧 較差・心室圧の推定もかなり正確に可能となってきてい る. 図 12 心雑音診断フローチャート 収縮期雑音 収縮期逆流性雑音 収縮期駆出性雑音 チアノーゼ チアノーゼ性心疾患 非チアノーゼ 心室中隔欠損 僧帽弁閉鎖不全 有意心雑音 非チアノーゼ 大動脈狭窄 肺動脈狭窄 心房中隔欠損 無害性心雑音 機能性心雑音 チアノーゼ Fallot 四徴 極型肺動脈狭窄 など 拡張期雑音 拡張期ランブル 拡張期逆流性雑音 大動脈閉鎖不全 拡張期ランブルのみ 僧帽弁狭窄 三尖弁狭窄 収縮期雑音との混在 左・右短絡疾患による 短絡血流が多量の症例 連続性雑音 左側鎖骨下聴取 動脈管開存 右側鎖骨下聴取 無害性心雑音 (静脈こま音)

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を用いた動脈血酸素飽和度の測定である.しかし,末梢 動脈拍動が微弱な症例や新生児ではときとして誤った数 値を示すことがあるために注意が必要である.高炭酸ガ ス血症の鑑別は動脈血ガス分析が最も有用である.  低酸素血症・高炭酸ガス血症を認めないときには血算 により多血症の有無を鑑別する必要があるが,通常は原 疾患により二次的に多血症を合併することがほとんどで あるために,原疾患の診断が必要となる. ①心内短絡(チアノーゼ性心疾患)  短絡の疾患には心エコー図検査が最も有用である. ②肺内動静脈短絡  肺内動静脈短絡が疑われるときには,コントラストエ コーによりコントラストが左房まで到達するかの鑑別が 簡便である.肺血流シンチを用いても鑑別が可能であり, さらに短絡血流量の推定も可能である. ② 胸部X線  全体的な心不全の評価に関しては胸部X線の心胸郭 比は有用である.抗心不全治療による心胸郭比変化も客 観的に評価しやすい指標である.しかし脊柱のstraight backやロート胸があり,心臓が前後から圧迫されてい る症例では心胸郭比が大きくなるために,正面のみなら ず側面のX線撮影も重要である. ③ 心電図  不整脈の評価のみならず,心房や心室への負荷を評価 するのに有用である.また慢性心不全症例では,心不全 の増悪により不整脈の増加を招き,場合によっては突然 死を合併する可能性がある. ④ 心臓カテーテル検査  近年は,心エコー図検査の機能が向上し,心不全の評 価目的だけで心臓カテーテル検査を行うことは激減して いる.しかし,虚血性の心疾患が疑われている時の冠動 脈評価や,心筋症が疑われているときの心筋生検は行わ れている. ⑤ 血液検査  近年,ナトリウム利尿ペプチドは心不全の程度や,治 療に対する反応を見るときに欠かせない検査となってき ている.

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チアノーゼ

 チアノーゼの主な原因として以下のようなものがあ る. ① 短絡によるチアノーゼ 1)心内短絡(チアノーゼ性心疾患) 2)肺内動静脈短絡 ② 呼吸器疾患による低酸素症 換気能の低下による低酸素血症や高炭酸ガス血症 ③ 多血症に伴う還元型ヘモグロビン増加による低酸 素を伴わないチアノーゼ  これらの診断・病態評価のために,以下のような検査 を行う.

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検査

(図13)  最も容易な低酸素血症の鑑別はパルスオキシメーター 図 13 チアノーゼ診断フローチャート 肉眼的チアノーゼ 経皮的酸素飽和度計測 (新生児であれば上下肢を計測) 酸素飽和度低値 胸部レントゲン 呼吸器疾患の鑑別 心エコー図検査にて 心腔内短絡の鑑別 心エコー図検査にて 心腔内短絡を認めな いときは,コントラスト エコーもしくは 肺 血 流シンチグラフィにて 肺内短絡の鑑別 酸素飽和度正常 血算により多血の有無を チェック,血中CO2を血 ガス分析でチェック

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疾患別検査計画

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心室中隔欠損(ventricular

septal defect:VSD)

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解剖・病態生理

  欠 損 口 を 膜 性 周 囲 部(perimembranous), 筋 性 部 (muscular)および肺動脈弁下部(subarterial)に分類す ることが汎用されている(図14).  心室中隔欠損に起因する体循環から肺循環への左右短 絡量の決定因子は,⑴欠損孔サイズ,⑵体循環抵抗,⑶ 肺循環抵抗である.短絡量が増加すると左心室への容量 負荷が増大して左室拡張末期圧の上昇,左房圧上昇,肺 静脈圧上昇へと伸展し肺血管抵抗の増大による肺高血圧 を惹起する.肺血管床の閉塞性病変が進行すると,肺血 管抵抗が体血管抵抗を凌駕して欠損孔を通して右左短絡 を生じる(Eisenmenger症候群). 1 2 3 4 5 6 7 ①膜性周囲部 流入部 ②  〃   肉柱部 ③  〃   流出部 ④筋性部 流入部 ⑤ 〃  肉柱部 ⑥ 〃  流出部 ⑦肺動脈弁下 図 14 心室中隔欠損口の部位による分類

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診断のための検査

(図15) ①聴診  小児期に全収縮期雑音を聴取すれば,心室中隔欠損を 念頭において精査する. ②心エコー  肺動脈弁下欠損は大動脈基部短軸,右室流出路短軸- 長軸断面で,大動脈弁逸脱は左室長軸断面で観察する. 傍膜様部欠損は大動脈基部短軸断面,僧帽弁レベルの左 室短軸,四腔断面で観察し,欠損の進展方向も診断する. ③心臓カテーテル検査  右心室から肺動脈での酸素飽和度上昇を認めるが,肺 高血圧が高度であるとその上昇は軽微である.

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病態把握のための検査

(図15) ①聴診  軽症では全収縮期雑音のみを聴取し,中等度以上(お よそQp/Qs>2.0)になると,全収縮期雑音に加えて心 尖部で拡張期ランブルを聴取する.肺高血圧が高度にな ると雑音は収縮期全体では聴取されなくなりⅡ音は亢進 とともに単一化する.Eisenmenger化すると収縮期雑音 を聴取しないことがある. ②胸部 X 線・心電図  胸部X線では左心系の容量負荷により心拡大を認め, 中等症以上では心拡大に加えて肺血管陰影の増強から肺 うっ血像を認める.Eisenmenger化すると心胸郭比は正 常化するが,肺動脈末梢部陰影は減少する.  心電図では左心室容量負荷により左室肥大所見を認め る.肺高血圧の進行により両室肥大所見を認めるように なる.Eisenmenger化すると右胸部誘導でストレイン型 の陰性T波を伴う高度の右室肥大所見を呈するようにな る. ③心エコー  左心房,左心室の拡大が明らかな場合は中等度以上の 短絡と判断され,僧帽弁輪が伸展・拡大するとカラード ップラーで僧帽弁閉鎖不全が確認される.連続波ドップ ラー法により短絡血流から左心室-右心室圧較差を,三

各  論

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尖弁逆流から右心室-右心房圧力較差を算出し,右心室 圧を推定する.肺動脈弁下欠損で大動脈弁の変形を伴っ ている場合は,カラードップラー法により大動脈弁逆流 の有無を検索する. ④心臓カテーテル検査  肺動脈血圧が体血圧と同レベルにあり肺体血流比が 2.0を下回る場合,肺血管抵抗が8単位・m2を超える場 合は,酸素投与,一酸化窒素投与により肺血管の反応性 を判定する必要がある(クラスⅠ).肺動脈内への血管拡 張薬(トラゾリン,PGI2等)投与も有用である.

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治療選択のための検査

(図15) ①聴診  全収縮期雑音に加えて,Ⅱ音亢進,拡張期ランブルを 図 15 心室中隔欠損に対する診断・病態把握・治療計画のための検査 ★ 聴診で全収縮期雑音の聴取 VSD(+) VSD(−) 肺動脈弁下欠損(+) 肺動脈弁下欠損(−) 大動脈弁逸脱・逆流 欠損孔径計側 (+) (−) 中等度増加 高度増加 正常∼軽度増加 (+) (−) 肺動脈 高血流・低抵抗 低血流・高抵抗 肺動脈 酸素負荷 肺血管抵抗低下 肺血管抵抗変化なし 手術 経過観察 いずれも★に戻る 僧帽弁閉鎖不全など さらに精査 心エコー 診 断 病 態 把 握 ドプラ法により 右室の圧推定 胸部X線:心拡大,肺血管陰影増強 心電図:左室肥大,右室肥大 心臓カテーテル検査 内科治療 治 療 計 画

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聴取すれば,肺体血流比が2.0を超えている可能性が高 く,外科的治療を考慮する.Ⅱ音が亢進し収縮期雑音が 乏しく拡張期ランブルも聴取しない場合はEisenmenger 化の可能性が高く,手術適応の検討は慎重に行う必要が ある. ②胸部 X 線・心電図  胸部X線で心拡大と肺血管陰影増強があり,心電図で 左室肥大あるいは両室肥大所見を認めたら手術を前提に 心エコーやカテーテル検査を行う(クラスⅠ). ③心エコー  5mm以上の欠損,左心室拡大,少ない左室-右室圧 較差,三尖弁逆流から推定される右心室圧の上昇等では 外科的治療適応がある.  肺動脈弁下欠損で大動脈弁逆流を伴えば手術適応があ るが,逆流の有無にかかわらず肺動脈弁下欠損はすべて 手術適応とする意見もある. ④心臓カテーテル検査  肺体血流比が 2.0 を超える場合は治療対象となる.高 度肺高血圧の場合,酸素負荷あるいは薬物負荷で肺血管 床の反応性があれば手術適応がある.

2

心房中隔欠損

(atrial septal defect:ASD)

1

解剖・病態生理

 欠損孔を介する左右短絡の量は左右心室のコンプライ アンスの比率で決定され,成長に伴う右心室コンプライ アンスの増大により短絡量は増加する.肺血管の閉塞性 病変が進行するのは20歳代以後であることが多い.

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診断のための検査

(図16) ①聴診  左右短絡量が中等度以上になると,駆出性収縮期雑音 と,Ⅱ音の固定性分裂を聴取する.短絡量の増加(およ そQp/Qs>2.0)のため相対的三尖弁狭窄を生じた場合 は胸骨左縁下部で拡張期ランブルを聴取する. ②心エコー  二次孔欠損は四腔断層像で診断し,心房中隔に欠損を 認めないにもかかわらず,右心房・右心室の拡大が強い 場合は,上・下大静脈洞欠損を検索する.冠静脈洞欠損 では,unroofed coronary sinusを伴うことがあり,コン トラストエコーによる確認が必要である.部分肺静脈還 流異常の合併(特に静脈洞欠損の場合)も考慮して検索 する. 図 16 心房中隔欠損に対する診断・病態把握・治療計画のた めの検査 ─学童心臓検診の流れに沿ったフローチャート─ 心臓検診 心電図 不完全右脚ブロック 1度房室ブロック 聴診 (駆出性)収縮期雑音に加えて拡張期 ランブル,Ⅱ音固定性分裂を認めた場 合,中等度以上の左右短絡であるASD の可能性が高いと考えて検査を進める 心エコー ASD(+) ASD(−) (+) (−) (+) (−) (+) (−) 心エコー RA,RV拡大 心室中隔の奇異性運動 中等度以上の肺高血圧が疑われる場合 欠損孔サイズと右室拡大の間に乖離がある 心臓カテーテル検査 Qp/Qs > 1.5 治療 ・ 外科治療 ・ カテーテル治療 部分肺静脈還流異常の精査 PAPVR (+) PAPVR(−) 経過観察 トピックス カテーテル治療(Amplatzer Septal Occluder)に対する心エコー診断: 欠損孔周囲がデバイスの固定に必要 な状態であるか検討することと,必 要なデバイスサイズを決定するため に,経胸壁心エコーとともに経食道 心エコーを用いる. 胸部X線 CTR>55%, 肺血管陰影増強 心エコー,MRI,3DCT

(20)

③心臓カテーテル検査  上大静脈または下大静脈での酸素飽和度上昇は部分肺 静脈還流異常を示唆する(クラスⅡ).左右の肺動脈造 影で異常な肺静脈還流を診断する. ④ MRI・3DCT  部分肺静脈還流異常の診断に有用である.欠損部位の 診断にはMRIが有用である.

3

病態把握のための検査

(図16) ①胸部 X 線・心電図  胸部X線では右心系の容量負荷による心拡大と,肺動 脈拡大による左第2弓の拡大を認める.  心電図では右心室容量負荷によりV1誘導でrSr’,rsR’ パターンと右心房負荷による軽度の1度房室ブロックを 認めることがある. ②心エコー  右心室への拡張期容量負荷が生じ,Mモードで心室 中隔の奇異性運動を認める.右心房・右心室拡大による 三尖弁逆流が生じ,ドップラー法による右心室・右心房 圧較差を概算する(クラスⅡ).パルスドップラー法を 用いて算出した肺体血流比は心臓カテーテル検査による 値と比較的よく相関する. ③心臓カテーテル検査  高度肺高血圧を認めた場合,酸素投与,肺動脈内への 血管拡張薬(アデノシン等)投与により肺血管の反応性 を判定する(クラスⅠ). ④ MRI

 Phase-contrast cine MRI(PC-MRI)により肺体血流比 を算出可能である(クラスⅡa).

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治療選択のための検査

(図16) ①胸部 X 線・心電図  心拡大および肺血管陰影増強がなく,心電図も正常で あれば通常治療適応はないが,聴診上拡張期ランブルを 聴取する場合は,心エコーやカテーテル所見を参考にし た上で治療適応を考慮する必要がある(クラスⅡa). ②心エコー  5mm以上の欠損,心室中隔の奇異性運動,三尖弁逆 流から推定される右心室圧の上昇がみられる場合等では 外科的治療適応がある. ③心臓カテーテル検査  肺体血流比が1.5を超える場合は治療対象となる.最 近のカテーテル治療の普及により肺体血流比が1.5以下 でも閉鎖治療が行われることがある. ④ MRI・3DCT  いずれの検査法も形態的に肺静脈の還流部位を検索す るために有用である.

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成人期心房中隔欠損

 欠損孔が比較的小さくても加齢,虚血性心疾患,後天 性弁膜異常,高血圧等による左室壁コンプライアンスの 低下が左右短絡量の増加を誘導して右心系容量負荷が進 行する.心房粗・細動の際には,右心房拡大とともに心 房中隔欠損の存在を検討する必要がある.末梢あるいは 骨盤静脈血栓等を原因とした脳血栓(奇異性血栓)の発 症は,小さな心房中隔欠損でも生じ得るので精査する必 要がある(クラスⅠ).  成人期では欠損孔,部分肺静脈還流異常,心房内血栓 の診断には経食道心エコー(TEE)が有用である(クラ スⅡa).

3

房室中隔欠損

(atrioventricular septal

defect:AVSD)

1

解剖・病態生理

 房室中隔欠損(または心内膜床欠損症)は房室膜性中 隔および房室筋性中隔の組織欠損で,一側または両側の 房室弁の異常を伴う.不完全型は心房中隔一次孔欠損の みで心室間交通を伴わないもので,完全型は両心房,両 心室間の交通と共通房室間孔が存在するものをいう.房 室弁尖の形態と心室中隔上に位置する弁の腱索の付着部 位によりA,B,Cの3つに分類される(Rastelli分類, 成書参照,図17)左心室流出路が2つの房室弁の間に 楔入せず前方に偏位するため,左心室流出路が伸展かつ 狭窄する.また,この楔入の喪失により両側の房室弁の 位置が同じ高さになる.

(21)

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診断のための検査

(図18) ①聴診  一次孔欠損単独の場合は心房中隔二次孔欠損と同様な 聴診所見.中等度以上の僧帽弁逆流を伴っている場合は 汎収縮期雑音を聴取する.完全型の場合はそれぞれの形 態異常の違いにより様々な聴診所見となる. ②胸部 X 線・心電図  胸部X線検査では心拡大,肺動脈拡張,肺血管陰影増 強を認める.心電図は房室結節を含む刺激伝導系の後下 方偏位による左軸偏位,PQ間隔延長,右室容量負荷に よる不完全右脚ブロックパターンを示す. ③心エコー  AVSDは心房・心室間交通,房室弁逆流が複合した疾 患で,心エコーは診断上最も重要な検査である.まず1 次孔欠損の有無,心室中隔欠損と房室弁の形態を精査す る.房室中隔欠損が存在するなら基本的には三尖弁と僧 帽弁は同じ高さにあり,左側房室弁に裂隙が存在する. Rastelli分類を行うには胸骨下からの短軸像と四腔像が 有用である.共通前尖の裂隙,腱索の心室中隔付着の有 無,両心室のバランス,左室流出路狭窄の有無を検索す る.カラードップラー法により房室弁逆流の有無と逆流 部位を確認する. ④心臓カテーテル検査  心室中隔流入部欠損(scooping)のため左心室造影で は流入路より流出路が長くなり,いわゆるgoose neck像 が特徴である.左室造影,右室造影で房室弁逆流を評価 する.

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病態把握のための検査

(図18)  AVSDの病態把握のためには,心房・心室への容量負 荷の程度,肺血流量増加と肺高血圧の程度を検討できる 情報が必要である. ①聴診  短絡量の増加により拡張期ランブルを聴取する.Ⅱ音 は固定性に分裂するが,肺高血圧が高度になると間隔は 短くなりⅡpが亢進する. ②胸部 X 線  胸部X線では心拡大に加えて肺血管陰影の増強から 肺うっ血像を認める.Eisenmenger化すると中枢肺動脈 拡大による気管支圧迫のため両肺は過膨張となり肺動脈 末梢部陰影は減少する. ③心エコー  Rastelli A型はC型に比べて左室流出路が細いため, 肺血流量が多くなり肺血管病変の進行が早い.病態把握 のための心エコー検査のポイントは,⑴心房位,心室位 での短絡方向,⑵房室弁輪,両心室のバランス(弁輪か ら心尖部間での距離),⑶房室弁逆流の程度と部位,⑷ 両心室間圧較差,⑸左室流出路狭窄の程度等である. ④心臓カテーテル検査  肺血管抵抗が8単位・m2を超える場合は,酸素投与, 一酸化窒素投与,肺動脈内への血管拡張薬投与により肺 血管の反応性を判定する(クラスⅡa).右心室・左心 室造影を行って房室弁逆流の程度および心室容積を評価 する.左心室造影では流出路狭窄の程度も評価する.

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治療選択のための検査

(図18) ①心エコー  房室弁逆流の部位と程度を検討する.完全型の場合, 共通房室弁の逆流部位が心室中隔直上領域からであれば パッチ逢着部分となるので術後逆流の心配は少ない.心 房中隔と心室中隔が異常配列である場合は,房室結節の 位置異常に注意を要する.左室乳頭筋間距離が短い場合 は,修復の際に弁口狭窄となる危険性が高くなる.  弁口が1つの心室に偏った場合はしばしば高度の片側 心室低形成が生じることがあり,この場合2心室修復が 困難となる.房室弁,弁輪部の低形成があればまず肺動 図 17 Rastelli 分類

SL:superior leaflet,IL:inferior leaflet,AB:anterior bridging leaflet,A:anterior leaflet,PB:posterior bridging leaflet 矢印はanterior bridging leaflet(共通前先)からの腱索

正常 不完全型 完全型 Ao Ao Ao Ao Ao SL IL AB A PB AB A PB AB A PB

Rastelli A 型 Rastelli B 型 Rastelli C 型 乳頭筋

表 4 点数による小児心電図心室肥大判定基準 ●右室肥大判定基準 点数 所見 0~7日 8~30日 ~ 2歳1か月 3~11歳 男 12歳以上 女 5点 (1)右側胸部誘導パターン     ①V4R,V3R,V1 のいずれかで + + + + + +       qRs,qRまたはR型      ②V 1 の T波が陽性でかつR>|S| * + + * * * 3点 (2)右側胸部誘導の高いR     ①RV1 ≧ 2.5mV 同左 ≧ 2.0mV 同左 同左 ≧ 1.5mV      ②V 1 が R<R

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