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表情認知における性差 [ PDF

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Academic year: 2021

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(1)表情認知における性差 キーワード:表情,表情認知,性差,加齢,表情画像 行動システム専攻 山口 悟 研究の背景および目的. 1.. 私たちは,日常のコミュニケーションにおいて相手の 表情から多くの情報を読み取っている.しかし,表情認 知において性別が与える影響についての研究は近年まで さほど活発におこなわれてはこなかった.また報告され ている研究においても性差の影響範囲をめぐる知見が異 なり,包括的な合意には達していない.そこで本研究で は,観察者側の性別に着目して,可能な限り実験手続き の特殊性を排する目的で,検査用紙を用いた実験方法を 採用し,表情認知における男女差を幅広い年齢層にわた って検討した. 1.1.. 表情認知と性差. 表情認知における性差に直接的に焦点をあてた研究は, 2000 年以降数が増えてきている.その研究で多く報告さ れているのは,男性よりも女性の方が表情の認知に優れ ているというものである(Rotter & Rotter, 1988;Montagne et al., 2005;Thayer & Johnsen, 2000;Hall & Matsumoto, 2004) .しかし,実験デザインの複雑化・精緻化によって, 表情認知どの点において女性は男性よりも優れているの かが把握し辛い状況となっている. また,広範に確認されるかのような印象を与える女性 優位の知見も,実験条件によってその結果の様相が異な っており,統一的な見解は導かれないまま今日に至って いる.例えば Grimshaw et al. (2004)や Hall & Matsumoto (2004)が明らかにしたように,非常に強固な印象を与え る表情認知での女性優位も実験条件の特殊性しだいで性 差そのものがなくなってしまうことも明らかになってい る. 1.2.. こなうことを目標とした. 実験的研究. 2. 2.1.. 実験 1:表情認知における男女差の検討. 2.1.1. 参加者 本実験の参加者は,男性 141 名,女性 256 名の,合計 397 名であった.年齢層の内訳は,高校生 167 名(男性 27 名,女性 140 名;15∼18 歳,平均年齢 16.59 歳),大 学生および大学院生 134 名(男性 85 名,女性 49 名;18 ∼24 歳,平均年齢 19.59 歳),社会人 96 名(男性 29 名, 女性 67 名;21∼82 歳,平均年齢 54.70 歳)であった. このような参加者群の分割をしてもなお,各群が意味 のある年齢差をたもっているかを検証するために,区分 基準を被験者間要因(高校生,大学生,社会人)とする 1 要因分散分析をおこなった.その結果,年齢の主効果 が有意だった(F(2, 394) = 965.77, p < .001).さらに下位 検定として多重比較(以降すべて Ryan 法 5%水準)をお こなったところ,すべての群間で有意差が確認された. この結果を受けて,各群がそれぞれ有意に異なる年齢層 を構成しているとの判断で分析をおこなうことにした. 2.1.2. 方法 手続き 参加者は,まず課題 1 の練習試行,ついで課題 1 の本 試行,その後課題 2 の練習試行をおこなった後に課題 2 の本試行をおこなった. 全試行とも制限時間は 30 秒間で, 回答にあたっては「できるだけ早く正確に」判断するよ うに求めた. 課題 1. 参加者らは,表情画像を見て,その表情をもっ. ともよく表す言葉を 4 つの選択肢( 「よろこび」 , 「いかり」 , 本研究の目的. 本研究での実験的研究では,問題をより明確化するた. 「かなしみ」,「おどろき」)から選んだ. 課題 2. 参加者らは,表情をあらわす言葉( 「よろこび」 ,. め,検討対象とする性差を観察者のそれに限定し,性別. 「いかり」 , 「かなしみ」, 「おどろき」)を見て,それにも. が表情認知に及ぼす影響をより直截的に検討すること目. っともよく当てはまる表情画像を,4 つの表情画像から. 的としておこなった.また多くの先行研究においては実. なる選択肢から選択した.. 験への参加者が少ないことから,本研究ではできるだけ. 検査用紙. 特殊性の少い,一度に多数の参加者を対象におこなえる. 検査用紙のページは.左右 2 コラムに分かれており左. 質問紙法を採用し,より幅広い年齢層を対象に実験をお. 右合計 32 問配置されていた.参加者は,左コラム最上部.

(2) から下に向かって回答し,左コラムの一番下に達したら. 答率それぞれにたいして,性別(被験者間要因:男性お. 右コラムの最上部へと進んで回答した.. よび女性) 課題(被験者内要因:課題 1 および課題 2). 刺激画像. の 2 要因分散分析をおこなった.. 実験に用いた表情画像は,小川&尾田(1998)が作成. その結果,達成率と正答率のそれぞれで性別の主効果. した表情画像データベースから採用した.次のような条. が認められ,女性の成績の方が男性の成績よりも有意に. 件で画像 32 枚を選択した:歯を見せていない微笑み 2. 優れていることが明らかになった.ただし,誤答率では. 枚(男性 1 枚,女性 1 枚) ,歯をみせている微笑み 2 枚(男. 性別の主効果は認められなかった.また,達成率,正答. 性 1 枚,女性 1 枚),怒り 4 枚(男性 2 枚,女性 2 枚) ,. 率,誤答率のすべての指標において課題の主効果も確認. 悲しみ 4 枚(男性 2 枚,女性 2 枚) ,驚き(男性 2 枚,女. され,課題 2 の成績の方が課題 1 の成績よりも有意に低. 性 2 枚).. かったことが判明した.. 課題 1. 年齢層別による成績比較. 各コラムにたいしてそれぞれ左右のコラムで各. 表情の種類数,および表情表出者の男女数が等しくなる ようにし,かつ人物が重複しないような配置になってい た. 課題 2. 左右のコラムにおいてそれぞれ,正答となるタ. ーゲット表情画像 16 枚および誤答となるディストラク タ表情画像 48 枚,合計 128 枚の画像を用いた.ターゲッ ト表情画像およびディストラクタ表情画像の表情の種類 数および出現数,そして表情表出者の男女数は等しくな るよう選択した. 2.1.3. 分析 実験結果の分析にあたっては,速度を示す達成率およ び正確さを示す正答率という 2 つの指標に着目した.達 成率とは,制限時間内に回答できた数(達成数)を全問 題数の 32 で割った値であり, 制限時間内にどれだけ達成 できたかを示す率である.また正答率は,制限時間内に 正しく回答できた数(正答数)を全問題数の 32 で割った 値であり,どれだけ正確に回答できたかを示す率である.. 図 2:年齢別に集計した実験 1 の結果. 達成率,正答率,誤答率を参加者の年齢層ごとに集計 した結果が図 2 である.年齢による成績への影響を検討 するため,課題 1 と課題 2 の達成率および正答率にたい して,年齢層(高校生,大学生,社会人)を被験者間要 因とする 1 要因分散分析をおこなった.その結果,課題 1 の達成率および正答率のどちらでも年齢層の主効果が. 2.1.4. 結果. 有意であった.下位検定として多重比較をおこなったと. 性別による成績比較. ころ,達成率においても正答率においても,高校生と大 学生,高校生と社会人,大学生と社会人とすべての年齢 層間で有意差が確認された. また課題 2 の達成率および正答率においても同様の分 析をおこなったところ,達成率および正答率のどちらで も年齢層の主効果が有意であった.各指標にたいして多 重比較をおこなったところ,達成率においても正答率に おいても,高校生と大学生,高校生と社会人,大学生と 社会人とすべての年齢層間で有意差が確認された. また,年齢層ごとの性差を確認するため,性別(被験 者間要因:男性および女性) 年齢(被験者間要因:高. 図 1:男女別に集計した実験 1 の結果. 各課題における,達成率,正答率,誤答率を参加者の 性別ごとに集計した結果が図 1 である.性別による効果 と課題による効果を分析するため,達成率,正答率,誤. 校生,大学生,社会人)の 2 要因分散分析もおこなった. その結果,課題 1 の達成率および正答率,課題 2 の達成 率および正答率で,性別および年齢の主効果が有意で, 女性が優れているとともに,年齢とともに成績は悪化し.

(3) ていた.この年齢の主効果にたいして多重比較をおこな. 2.2.3. 方法. った結果,課題 1 の正答率を除いて.高校生および社会. 手続き. 人間,大学生および社会人間で有意差が認められたもの. 参加者らは 2 群に分けられ,それぞれグループ A およ. の,高校生および大学生間では有意差は認められなかっ. びグループ B として実験をおこなった.. た.ただし課題 1 の正答率においては,すべての年齢層. グループ A. 間で成績に有意差が認められ,いずれの場合も若年齢層. をおこなった後に課題 2 をおこなった.. の成績の方が良かった.なお,達成率および正答率のい. グループ B 本群は,グループ A とは逆の順序で試行. ずれにおいても,性別と年齢層との間の交互作用は有意. をおこなった.. ではなかった.. 検査用紙. 2.1.5. 考察 これら分析結果から,女性の方がより速く表情を認知 できている(達成率)だけでなく,より正確に表情を判. 本群は,実験 1 の手順と同様,まず課題 1. 実験 1 で用いた検査用紙と同一のものを用いた. 2.2.4. 分析 実験 1 の分析時と同様,全 32 問にたいする各指標の比. 断できている(正答率)ことを示している.さらに,年. 率を算出して分析をおこなった.. 齢も考慮して結果を考察しても,いずれの年齢層,課題. 2.2.5. 結果. においても女性の成績が男性の成績よりも優れているこ とが確認された. 年齢があがるにつれて成績が悪化していくというこの 成績悪化は,社会人群(21∼82 歳,平均年齢 54.70 歳) との比較においてだけでなく,10 代から 20 代という比 較的若い高校生群(15∼18 歳,平均年齢 16.59 歳)およ び大学生群(18∼24 歳,平均年齢 19.59 歳)というすべ ての年齢層間において確認された. この成績差をさらに詳しく男女別で比較すると,男女 間の性差による成績差はすべての年齢層で一貫して女性 の方が,判断の速度および正確さの両面で優れているこ とも明らかになった.これは, 表情認知能力では幼児期, 子供期,青年期,成人期にわたって一貫して女性の方が 優れているとする McClure (2000)の分析を裏付けるもの でもある. 2.2.. 実験 2:課題試行順序の影響の検討. 2.2.1. 目的 実験 1 の結果分析では,課題 1 の結果と課題 2 の結果. 図 3:グループごとにまとめた実験 2 の結果. 図 3 が各課題における,達成率,正答率,誤答率を参 加者のグループ別に集計した結果である.課題順序(被 験者間要因:グループ A およびグループ B) 課題(被 験者内要因:課題 1 および課題 2)の 2 要因分散分析を おこなった.その結果,達成率および正答率で課題の主 効果が有意で,課題 2 の成績の方が課題 1 の成績よりも 低いことが確認された.しかし,課題試行順序の主効果. との間にはつねに有意差があり,課題 2 の成績が課題 1. はいずれの指標でも認められなかった.. の成績を下回っていた.実験 1 では,課題 1 をおこなっ. 2.2.6. 考察. た後に課題 2 をおこなっていたため,実験 1 で得られた 結果が課題順序によるものか否かを検討する目的のもと 本実験をおこなった. 2.2.2. 参加者. 以上の結果から,課題 1 と課題 2 間の成績差は,試行 順序によるものではなく,課題 2 の成績は課題 1 の成績 に比べて有意に悪かったことが明らかになった. 課題 1 と課題 2 の比較. 本実験の参加者は,男性 14 名,女性 13 名,合計 27. 課題 2 では,表情語という概念がまず先に与えられ,. 名であった.参加者の年齢幅は 23∼40 歳で,平均年齢は. その後に個々の表情を判断するという演繹的で「トップ. 27.9 歳であった.. ダウン」的な処理が必要とされる.この処理自体は決し て特殊なものではないものの,課題 1 の処理過程と比較 した場合,日常生活において頻繁におこなわれる処理で.

(4) あるとはいえない. また,選択肢として並べられた表情画像の性別は統一 されていたものの,選択肢から適切な表情画像を選択す. 実験参加者ごとにランダム化することは無理だとしても, 男性のみあるいは女性のみの表情画像で構成される刺激 セットを用いた実験は容易におこなうことができる.. るには,異なる人物による異なる表情を識別する必要が. また,本研究と同じ実験を引き続きおこない参加者数. あった.これは課題 1 で!"#$%&'#単一人物によ. を各年齢層で充実される必要もある.こうすることで,. る単一表情を判断する作業負荷と比較すると格段に負荷. より細かな年齢差および各年齢層での性差をより詳細に. が大きくなると考えられる.こうした要素が影響して,. 検討することが可能となる.併せて,脳機能研究からの. 課題 1 と課題 2 との間に成績差が発生したものと考えら. 知見や進化論的な裏付けを視野に入れた研究および統制. れる.. 実験をおこなうことではじめて,表情認知における性差. 全体的考察. 3. 3.1.. 表情認知における性差. 本研究では,質問紙をもちいた表情認知検査をおこな い,成績に性差が認められるかを検討した.その結果, 女性は男性よりも,有意に速く表情を判断できるととも に,有意に正確に表情を判断できることが明らかになっ た. 本研究の実験結果は,女性の方がより正確に表情判断 をおこなえるとの知見(例:Thayer & Johnsen, 2000)を 支持するものであった.また,本研究の実験では,試行 時間中の表情判断は実験参加者自らの速度でおこなって いたものの,できるだけ速い処理も求められていた.こ うした実験条件を考慮すると,これまでの先行研究によ る知見で明らかになっている,表情認知において反応時 間を計測すると女性による有意に速い反応が明らかにな る(例:Hampson et al., 2006)という点が本研究での実験 結果に大きく影響した可能性が考えられる. 3.2.. 加齢による表情認知への影響. 本実験では,参加者の幅広い年齢層に着目して,加齢. を,その実験デザインによる差異だけでなく,より包括 的に検討することが可能となる. 4.. 主要引用文献. Grimshaw G. M., Bulman-Fleming M. B., and Ngo C. 2004. A signal-detection analysis of Sex differences in the perception of emotional faces. Brain and Cognition. 54. 248-250. Hall, J. A. & Matsumoto, D. 2004. Gender differences in judgments of multiple emotions from facial expressions. Emotion. 4. 201-206. Hampson, E, van Anders, S. M., and Mullin, L. I. 2006. A female advantage in the recognition of emotional facial expressions: test of an evolutionary hypothesis. Evolution and Human Behavior, 27. 401-416. Kirouac, G. & Dore, F. Y. 2005. Accuracy of the judgment of facial expression of emotions as a function of Sex and level of education. Journal of Nonverbal Behavior. 9. 3-7. Rotter, N. G. & Rotter, G. S. 1998. Sex differences in the encoding and decoding of negative facial emotions. Journal of Nonverbal Behavior. 12. 139-148.. による表情認知への影響についても短く検討した.その. Thayer, J. F. & Johnsen, B. H. 2000. Sex differences in. 結果,課題 1 の正答率では高校生から大学生,すなわち. judgment of facial affect: a multivariate analysis of. 10 代から 20 代という比較的若い年齢層においても成績. recognition errors. Scandinavian Journal of Psychology. 41.. 差が確認された.過去においては,Kirouac & Dore (1985). 243-246.. が学歴は関係ないとの結論を下しているが.もしこの結 果が妥当ならば,本研究で示された年齢層別による成績 差の原因から学歴の要素を除いて検討することが可能と なる.つまり,本研究で明らかになった各年齢層間の成 績差は学歴によるものではなく,加齢による影響が強い ことが考えられる. 3.3.. 今後の課題. 本研究では,表情観察者側の性差に限って検討した. 今後より精緻な性差を研究するにあたっては表出者側の 性差も考慮に入れた研究が必要になる.本実験で採用し たような質問紙法では,一刺激ごとに表情画像の性別を. 小川徳子&尾田政臣 1998. 表情画像データベースの構 築と基本特性評価. ATR 人間情報通信研究所. 29..

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参照

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