親 鷺 聖 人 の 仏 身 観 ( 八 ) ( 藤 谷 )
親
鷺
聖
人
の
仏
身
観
(八
)
藤
谷
大
圓
前 回 は ﹁ 十 住 論 分 別 布 施 品 第 十 二 ﹂ を 紹 介 し た が、 第 十 二 品 初 め に お い て 易 行 道 の 鈍 解 の 菩 薩 ・ 竜 樹 が 漸 く 心 調 柔 軟 な ら し め ら れ て み る と、 易 行 道 は 正 法 の 歴 史 的 伝 灯 者 た る 諸 仏 の 利 他 ・ 難 行 に よ つ て 得 道 せ し め ら れ た の で あ る と い う 信 心 -凡 夫 の 信 ぜ ざ る 所 を 而 も 能 く 信 受 -が 発 つ た の で あ る か ら、 そ れ は 正 し く 如 来 の 家 に 入 つ た、 即 ち、 必 定 聚 に 住 せ し め ら れ た こ と に 他 な ら な い。 と こ ろ が、 そ れ に 続 い て 長 々 と 述 べ ら れ て い る 布 施 ・ 廻 向 は、 結 局、 有 命 無 命 す べ て を 浄 施 す る こ と に よ つ て、 我 執 我 所 執 の 止 滅 を 期 し た の で あ つ た。 そ こ で、 不 審 な こ と は、 既 に 如 来 の 家 に 入 つ た 者 の 所 行 は 必 ら ず 空 と 合 す べ き で あ る の に、 何 故 に 長 々 と 布 施 ・ 廻 向 に つ い て 広 説 し た の で あ ろ う か。 そ れ は 地 上 の 菩 薩 と 云 つ て も 煩 悩 の 習 気 は 残 つ て い る か ら で あ ろ う。 ま し て 今 は 鈍 慨 の 菩 薩 の 行 で あ る。 仏 道 に お い て は、 仏 果 に い た る ま で 習 気 の あ る こ と は 通 説 で あ り、 天 台 仏 性 論 で は 仏 も 退 転 の 可 能 性 が あ る と い わ れ る。 更 に 案 ず る に、 仏 教 は 啓 示 宗 教 で な い か ( 1) ら、 教 法 は 必 ら ず 人 か ら 人 へ と 伝 灯 さ れ ね ば な ら な い。 し か ( 2) も ﹁ 自 ら 寂 滅 を 得 ざ れ ば ↓ 何 ぞ 能 く 人 を し て 寂 な ら し め ん ﹂ で あ る。 こ の こ と は、 仏 教 は す べ て 現 生 正 定 聚 で な く て は な ら ぬ と い う こ と で あ る。 聖 人 が 仏 身 の 顕 現 を 名 号、 信 心 発 起、 摂 取 不 捨、 現 生 正 定 聚 な ど の 相 に お い て 領 解 せ ら れ、 そ の 中、 現 生 正 定 聚 の 伝 灯 を 竜 樹 に 依 ら れ た 所 由 で あ る。 習 気 の あ る、 し か も 鈍 解 の 菩 薩 に よ る ﹁ 智 者 の 行 ず べ き ﹂ 法 施 を 行 ぜ し め よ う と い う の で あ る か ら 念 に 念 を 押 し て、 時 に は 出 家 に も 財 施 を せ よ、 財 物 を 集 め よ な ど 云 い な が ら 後 に な つ て 出 家 の 財 施 は 菩 薩 の 死 で あ る と 云 う 矛 盾 さ え 加 え て、 も つ て 清 浄 の 法 施 -法 の 正 し い 伝 灯 -を 期 し て い る の で あ る。 惟 う に 正 し い 伝 灯 は 智 者、 学 者 よ り む し ろ 鈍 根 解 慢 の 人 の 廻 心 に よ つ て で あ る と も 云 え よ う。 ま こ と に、 利 他 こ そ が 難 行 ( 3) と 云 わ れ る 所 以 で あ る。 そ こ で 第 十 三 法 施 品 が 開 か れ る こ と と な る。 先 づ 布 施 を 財 施 と 法 施 に 分 け、 法 施 を 最 上 と し 法 施 の 要 件、 心 得、 獅 子 座-334-に 処 す る 十 六 法 を 示 し、 如 来 説 法 方 便 の 八 相 を 述 べ て 終 る。 さ て、 法 施 を 最 上 と す る 段 で あ る が、 そ こ に は 仏 最 後 の 遺 訓 と い わ れ る 自 灯 明、 法 灯 明、 不 依 人 が 四 例 で 示 さ れ て い る。 即 ち、 仏 入 滅 に 際 し、 阿 難 に 告 げ て 曰 く、 阿 難 今 日 よ り は 修 多 羅 に 依 り て 人 に 依 る 勿 れ、 何 と 4な れ ば、 若 し 智 慧 な き 者 が ( 4) 法 施 を す れ ば 黒 論 を な す か ら で あ る。 と 云 つ て 黒 論 の 四 例 を 説 か れ る。(一)、 比 丘 あ り、 来 つ て ﹁ 我 現 従 レ 仏 聞、 現 従 レ 仏 ナ リ 受、 是 法、 是 善、 是 仏 所 レ 教 ﹂ と 云 わ ん。 阿 難 よ ﹁ 是 比 丘 語、 ツ テ 莫 レ 受、 莫 レ 捨、 審 諦 聴 已、 応 下 以 二 経 律 一検 中 其 所 説 か 若 不 レ 入 二 修 多 羅 一 不 レ 入 二 毘 尼 一 又 復、 違 二 逆 諸 法 相 義 一 応 下 報 二 是 比 丘 一 ク ル カ 言 か 是 法 或 非 二 仏 所 説 噛 或 長 老 謬 受、 何 以 故、 是 法 不 レ 入 二 修 多 羅 一 不 レ 入 二 毘 尼 一 又 復 違 二 逆 諸 法 相 義 嚇 是 則 非 レ 法、 非 レ 善、 非 二 仏 所 レ 教。 如 レ 是 知 已 即 応 二 除 却 こ と。 以 下 同 じ 内 容 で、 ( 5) 我 れ は 明 経 の 上 座 よ り。 我 れ は 彼 の 住 処 中 に 多 く の 比 丘 あ り ( 6) て 経 律 論 を よ く 執 持 し て い る そ れ ら の 比 丘 よ り。 我 れ は 彼 の 住 処 中 に 長 老 比 丘 あ り 多 知 多 識 に し て 尊 重 せ ら れ て い る そ の ( 7) 長 老 よ り 聞 き 受 持 し て い る と。 先 の (一) の 如 く 誘 う 比 丘 が あ る。 こ れ ら の 一 々 に 対 し の の 答 の 如 く 答 え さ せ て あ る。 こ の 四 つ の 場 合 を 黒 論 と 云 う の で あ る。 そ し て ﹁ 法 施 は 智 者 の 応 に 行 づ べ き と こ ろ ﹂ で あ つ て、 ﹁ 不 智 者 が 若 し 法 施 を 行 ず れ ば 即 ち 黒 論 を 説 く、 黒 論 を 説 く が 故 に 自 ら 利 を 失 し、 亦 他 の 利 を 失 す ﹂、 ﹁ 智 者 不 レ 依 二 黒 論 一而 行 二 清 浄 施 こ と い う の で あ る か ら こ れ を 以 て し て も 易 行 道 の 菩 薩 は 既 に 初 地 に 入 つ て い ( 8) る 訳 で、 法 施 は 第 一 の 浄 地 法 で あ る。 云 う ま で も な く、 法 施 に と つ て は 言 説 こ そ 最 も 重 要 で あ る。 言 説 は 五 十 音 の 組 み あ わ せ で あ る か ら、 黒 論 と な る か、 清 浄 の 法 施 と な る か の 違 い は、 五 十 音 の 組 み 合 わ せ 者 す な わ ち、 不 智 者 と 智 者 と に 係 る の で あ る。 第 二 十 三 品 に は、 辟 支 仏 の 如 き 者 は 一 人 も 度 し 得 な い が、 仏 は 違 う と し て ﹁ 若 仏 欲 レ 度 二 衆 生 一 有 レ 所 二 言 説 一 乃 至 外 道 邪 見 諸 竜 夜 又 及 余 不 レ 解 二 仏 語 一者、 皆 悉 令 レ 解 ﹂ と。 さ て、 法 施 の 具 ハ 体 相 に つ い て は、 こ れ を 決 定 王 経 に 拠 つ て 述 べ て あ る。 曰 く、 説 法 者 は 応 に 四 法 を 行 ず べ し と し ﹁ 何 等 為 レ 四、 一 者 広 博 多 学、 能 持 二 一 切 言 辞 章 句 殉 二 者 決 定 善 知 二 世 間 出 世 間 諸 法 生 滅 相 殉 三 者 得 二 禅 定 智 慧 一於 諸 経 法 一 随 順 無 レ 諄、 四 者 不 レ 増 不 レ 損 如 二 所 説 一行 ﹂ と。 こ こ に ﹁ 於 二 諸 経 法 一 随 順 無 レ 謹、 不 レ 増 不 レ 損 如 二 所 説 一行 ﹂ と あ る は、 法 施 に 当 り い さ さ か の ﹁ 自 見 の 覚 悟 ﹂ も 混 え な い こ と は、 先 の 依 法 不 依 人 に お け る 所 依 人-啓 示 宗 教 で な い か ら-と し て の 厳 誠 ( 9) で あ る。 さ て、 法 施 に つ い て の 準 備、 心 得 が 決 ま る と、 次 は 説 法 の 儀 式 に つ い て で あ る。 先 づ 獅 子 座 に 処 す る に つ い て 四 種 四 法 の 十 六 法 を 説 く。 第 一 種 の 四 法 は 高 座 に お け る 三 業 の 調 制。 第 二 種 の 四 法 は 二 執 を 止 滅 し て 衆 生 の 成 仏 道 を 念 ず。 第 三 種 の 四 法 は 仏 説 の 精 要 を 善 く 能 く 読 諦 し 信 楽 (prasada) し、 見 仏 三 昧 を 得 て 仏 道 に 怠 り な く、 何 れ の 生 処 な り と も 赴 親 鷺 聖 人 の 仏 身 観 ( 八 ) (藤 谷 )
-335-親 鷺 聖 人 の 仏 身 観 ( 八 ) (藤 谷 ) い て 利 養 果 報 を 求 め ず、 空 無 相 無 願 の 門 を 信 解 し、 威 儀 あ り 慧 あ り 三 業 荘 厳 し て 頭 陀 を 行 じ 説 法 に よ り て 自 利 利 他 す べ し。 と 云 う の で あ る。 第 四 種 の 四 法 は 法 施 者 自 身 も 聴 者 も 所 ( 10) 説 の 法 も 軽 ん ず る こ と 勿 れ。 と。 ま こ と に 法 施 ・ 利 他 の 難 行 の 程 が 知 ら れ る。 と 同 時 に、 難 行 で あ つ て も 行 じ な い と ﹁ 三 宝 の 種 ﹂ は 断 絶 す る し、 そ の う え、 そ の 難 行 が 鈍 解 に よ ら な く て は 普 遍 の 宗 教 と は な ら な い。 二 執 の 止 滅 が 幾 度 も 強 調 さ れ、 布 施 行 が 第 十 品 よ り 第 十 四 品 に 亘 つ て ま こ と に 詳 細 を き わ め、 法 施 も 先 づ 依 法 不 依 人 と 誠 め ら れ た 所 由 で あ ろ う。 か く て、 次 に は 所 説 の 法 に つ い て 如 来 説 法 方 便 の 八 相 が 示 さ れ る。 即 ち、 法 は 無 相 無 為 で あ る か ら、 示 す こ と も 説 く こ と も で き な い の で ﹁ 如 来 以 二 四 相 方 便 一而 為 演 説。 一 以 二 音 声 一 二 以 二 名 字 噛 三 以 二 語 言 ↓ 四 以 二 義 理 殉 又 以 二 四 因 縁 一而 為 説 法、 一 者 為 レ 度 二 応 レ 度 衆 生 一 二 者 但 説 二 色 受 想 行 識 名 字 一 三 者 以 二 種 種 文 辞 章 句 一 利 二 益 衆 生 一、 四 者 錐 レ 説 二 名 字 一而 亦 不 レ 得 ﹂。 と。 不 可 言 説 の 法 を 説 く た め の 方 便 と な る も 亦、 言 説 に 依 ら ね ば な ら な い。 上 述 の 如 く、 言 説 即 ち 五 十 音 の 組 み 合 わ せ 如 何 に よ つ て、 黒 論 と も 金 口 の 正 法 と も な る。 如 来 の 名 号 と は、 言 説 戯 論 の 習 気 に よ つ て 愛 憎 違 順 し て い る 人 間 の そ の 言 説 の 領 ( 11) 域 に ま で 救 い の 方 便 が 差 し の べ ら れ た 相 で あ る か ら 本 願 成 就 の 名 号 と い う。 と こ ろ で、 第 四 の 難 レ 説 二 名 字 一 而 不 レ 得、 に つ い て 鉢 の 中 の 油 に 自 分 の 顔 を 見 る 喩 が あ る。 そ れ に よ つ て ﹁ 不 得 ﹂ の 得 は p r a p ti と 解 る。 1 第 二 十 二 品 の 余 に は 仏 法 は 故 道 で あ る。 と 大 正 七 八、 下。 2 帰 命 相 晶。 大 正 五 四、 中。 3 難 行 は 利 他 が 難 行 な の で あ る。 第 十 二 品、 第 二 十 六 品 の 余、 参 照。 善 導、 源 信、 法 然、 親 鷺、 運 如 で は 正 法 の 伝 灯 は む し ろ 愚 痴 ・ 無 智 に お い て 果 さ れ る と し て い る と 思 う。 4 大 正 は 異 論、 香 樹 院 本 と 対 校 本 に 拠 る。 5 第 二 誘。 6 第 三 誘。 7 第 四 誘。 8 第 四 品、 十 品、 十 九 品 終 の 浄 地 十 法 な ど 対 応 せ ら れ る。 9 時 代 相 応 の 教 学 と い う に つ い て 考 う べ き こ と で あ る。 10 前 回 の 施 の 浄 不 浄 の 分 別 参 照。 11 最 も 多 く 使 わ れ る の は u p a f i で あ る。 本 願 寺 運 如 の ﹃ お 文 ﹄ 五 の 八 に は、 衆 生 救 済 の 方 便 と し て ﹁ 南 無 阿 弥 陀 仏 と い う 本 願 を た て ﹂ た。 と。