博 士 ( 理 学 ) 杉 本 勇 人
学 位 論 文 題 名
テ ト ラブ チ ルア ン モ ニウ ム フル オ リド (TBAF) の 効率的系内発生法と合成化学的応用
学位論文内容の要旨
フツ素 イオン は求核 性を有 し、ケ イ素に 対する 強い親 和性を持っことが古くから知られている。
近年、 有機ケ イ素化 合物の 有機合 成への 応用の発 展に伴 い、有機ケイ素化合物とフッ化物イオンを 組み合 わせて 行う合 成反応 が種々 報告さ れている 。また 、フツ化物イオンはプロトン性分子の存在 下 で
Lewis
塩 基 と し て 作 用 す る た め 、 様 々 な 塩 基 性 条 件 下 の 反 応 に も 応 用 さ れ て い る 。このフ ッ化物 イオン 源とし て用い られる 四級ア ンモニ ウムフルオリドは、フッ素一ケイ素間の高 い 親和 性 を 基盤とし た諸反 応やそ れ自身 の塩基 性奄利 用した 結合形 成反応の 触媒と して有 機合成 上極め て重要 な役割 を担っ ている 。しか しながら 、非常 に高い吸湿性を有し、求核性や塩基性の低 下を容 易にま ねぃて しまう 。
そこで 私は、 テトラ ブチル アンモ ニウム フルオ リド(TBAF)を系内で効率的に発生させる手法に着 目し、 入手の 容易な 種々の テトラ ブチル アンモニ ウム塩 を用い、シリルエーテルの脱シリル化反応 におけ る反応 性を比較することで、固相―液相相関移動条件下での陰イオン交換の効率を評価した。
THF
中、 フッ化カ リウム 二水和 物(KF ‑ 2HっO)
とテト ラブチ ルアン モニウ ム塩(TBAX)の混合物に、ア ルゴ ン 雰 囲 気下 で シ リ ルエ ー テ ル
1
を 加え 、 室 温 で攪 拌 し た 。そ の 結 果 、TBAXに硫 酸水 素塩(TBAHS04)
やり ン酸塩(TBAHエP04)を用いることで90010以上の収率で脱シリル化体である3‐フェニル プ ロパ ノ ー ル(2)
を 得 た 。 この 結 果 は、前 駆体と なるTBAXを適切に 選べば 、系内 で効率 的にTBAF を発生 させ得 ること を示し ている 。〔〔 :yOS'Me2Bur̲TBAX (1.2 eq 〔: :roH x=HS04 90%
KF‑2H20 (5.0 eq) t H2P04 97
゜´ /。1 THF
.r.tッ 2また、触媒量(10 moI%)のTBAHSO。を用いるだけで良好な収率(73%)で脱シリル化体が得られるこ とも、この固相―液相相間移動条件下のシステムの特徴と言える。
次に
TBAF
でシリ ルエス テルの 酸素― ケイ素結 合の切 断を行 えば、 高い求 核性を 有するアンモニ ウムカ ルボキ シレー トを発 生させ 得るのではないかと考え、アルキルハライドとのエステル化反応 におぃ てその 実現を 図った 。減圧 下で乾 燥させ たTBAF‑ 3HユOのTHF溶液 に、ア ルゴン雰囲気下で シリル エステ ル3と臭 化ベン ジル(4)を 加え、室温で攪拌した。その結果、1.5時間で相当するカル ボン酸 エステ ル5がほ ぽ定量 的に得 られた 。この 反応は アルキルハライドとシリルエステルを組み 合わせた様々な系において、良好な収率で望みのアルキルを与える。O 0
TBAF‑3H20 (1.1 eq)
)hヘハ。/丶PrPh/
丶火OSiMe3+Ph/丶Br川eq)一― →| I3 4 THF
(0.5M)r
.t..1.5h 5(96%)
さら に、本変 換反応 を分子 内アル キル化によるラクトンの合成に応用したところ、良好な収率で ラ ク ト ン
7
が 得 ら れ 、 分 子 内 環 化 反 応 に も 応 用 す る こ と が で き る こ と も 示 し た 。‑ 177 ‑
lAF‑3H20 (1.1 eq) /一 丶 丶 丶/¥jOSiMe3 TBA;HF(01M)
6 r.t., 30 min
0
◇
7
(90%)
次 に こ れ ら ニ つ の 知 見 を 組 み 合 わ せ 、 系 内 で 発 生 さ せ た
TBAF
の 塩 基 性 を 利 用 し た カ ル ボ ン酸 の ア ル キ ル ハ ラ イ ド に よ る 触 媒 的 エ ス テ ル 化 反 応に 取 り 組 ん だ。 そ し て 形 あ る四 級 ア ン モ ニウ ム フ ル オ リ ド ゆ え の 特 徴 を 明 確 に す る た め 、 デ ザ イ ン型 光 学 活 性 四級 ア ン モ ニ ウ ム塩 を キ ラ ル なフ ッ 化 物 イ オ ン 源 の 前 駆 体 と し て 用 い 、 第2
級 ア ル キ ル ハ ラ イ ド の 速 度 論 的 光 学 分 割を 行 う こ と で、 光 学 活 性 エ ステ ル お よ び アル コ ー ル の 合成 を 目 指 し た 。先 の 脱 シ リ ル 化と 同 様 に 、
THF
中 、KF ‑ 2H20
とTBAHSO
。 (5molo/o)
の混合 物に、3
‐ フェニ ルプロ ピ オ ン 酸(3a)
と 臭 化 ベ ン ジ ル(4)
を 加 え 、 室 温 で3
時 間 反 応 を 行 うと 、 相 当 す るカ ル ポ ン 酸 エス テ ル5
が 定 量的 に 得 ら れ た。O TBAHS04
(5moI%) O
Ph
ヘ ハOH十Ph/
丶Br (l.l eq) KF'2H20 (5.O eq)
→Ph
ヘAO/
丶PhTHF
(0
.5M
)3a 4 5
r
.t
.,3h
(99
% )本 法 の 適 用 範 囲 は 広 く 、 反 応 性 の 高 い ア ル キ ル ハ ラ イ ド の み な ら ず 、 単 純 な 構 造 の 脂 肪族 ハ ラ イ ド に も 有 効 で あ っ た 。ま た 、 二 級 、三 級 の カ ル ボン 酸 や 、 芳 香 族お よ び ロ ,
p
一 不 飽 和 カ ルボ ン 酸 を 用 い て も 反 応 は 円 滑 に 進 行 し 、 相 当 す る カ ル ボン 酸 エ ス テ ルを 高 い 収 率 で 得る こ と が で きる 。 さ ら に 、 分子 内 に ヒ ド ロキ シ 基 を 持 つサ リ チ ル 酸 (8
)を 用い 、同一 条件下 で臭化 ベンジ ル(4
)と のエ ステ ル 化 を 行 う と 、 選 択 的 エ ス テ ル 化 が 進 行 し 、 相 当 す る ヒ ド 口 キ シ エ ス テ ル9
を 得 る 。8 O
+ Ph/XBr (1.1 eq)
4
TBAHS04 (5 moI%)
O 9 (80%)
次 に
C
. 対 称 な 新 規 光 学 活 性 相 間 移 動 触媒 を ア ン モ ニ ウム フ ル オ リ ド前 駆 体 と し て用 い 、 本 エ ステ ル 化 反 応 の 条 件 下 で 第 二 級 ア ル キ ル ハ ラ イ ドの 速 度 論 的 光学 分 割 を 試 みた 。 そ の 結 果 、触 媒 の ビ ナ フ チル骨 格の3,3 ‐ 位にある置換基(Ar)として3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル基を有する触 媒 (S
町 ・1
を 用 いる と58
%ee
の 光 学 収 率で 相 当 す る (の 体 の カ ル ボン 酸 エ ス テ ル5a
を 得 、これ を加 水 分 解 す る こ と で ( め 体 の 光 学 活 性 二 級 ア ル コ ー ル10
が 高 収 率 で 得 ら れ た 。 `O
Ph ヘ ハ OH + B
4a
(s,s)‑ 1 (2 moI%) KF‑2H20 (5.0 eq) (3.0 eq) ‑
THF (0.5 M) r.t., 42 h
(sの ―1
Ar=
CF3
― 178―
O Ph/
丶丶/k5a
98%, 58% ee (S)
1M NaOH (1.2 eq) MeOH (0.2 M) r.t., 1 h
10 (81%)
眦 一 m h ほ一 帖2 4 型ゼ nl Kl
学位論文審査の要旨
主 査
教 授
辻
康 之 副 査
教 授
宮 下 正 昭
副 査
教 授
丸 岡 啓 二 ( 京 都 大 学 大 学 院 理 学 研 究 科 ) 副 査
助 教 授
大 井 貴 史 ( 京 都 大 学 大 学 院 理 学 研 究 科 )
学 位 論 文 題 名
テ ト ラブ チ ル アン モ ニ ウム フ ルオ リ ド (TBAF) の 効率的系内発生法と合成化学的応用
本 論 文 は 、 フ ッ 化 カ リ ウ ム 二 水 和 物(KF・2HユO)とテ トラ ブチ ルア ンモ ニウ ム塩
(TBAX)
か らTBAF
を 系 内 で 発 生 さ せ る 手 法 に 着 目 し 、 入 手 の 容 易 な 種 々 のTBAX
を 用 い 、 シ リ ル エ ー テ ル の 脱 シ リ ル 化 反 応 に お け る 反 応 性 を 比 較 す る こ と で 、 固 相 一 液 相 相 関 移 動 条 件 下 で の 陰 イ オ ン 交 換 の 効 率 を 評 価し 、そ の結 果、TBAX
を 適 切 に 選 べ ば 、 効 率 的 にTBAF
を 発 生 さ せ 得 る こ と を 示 し て い る 。 次 にTBAF
で シ リ ル エ ス テ ル の 酸 素 ― ケ イ 素 結 合 の 切 断 を 行 え ば 、 ア ル キ ル ハ ラ イ ド と の エ ス テ ル 化 反 応 が 可 能 で は な い か と 考 え 、 そ の 実 現 を 図 っ て い る 。 結 果 、 相 当 す る カ ル ボ ン 酸 エ ス テ ル を ほ ぽ 定 量 的 に 得 る こ と に 成 功 し 、 そ の 一 般 性 も 示 し て い る 。 さ ら に 、 こ の 変 換 反 応 を 分 子 内 ア ル キ ル 化 に よ る ラ ク ト ン の 合 成 に 応 用 し た と こ ろ 、 良 好 な 収 率 で ラ ク ト ン が 得 ら れ 、 分 子 内 環 化 反 応 に も 応 用 が 可 能 で あ る こ と を 示 し て い る 。 そ し て 、 系 内 で 発 生 さ せ たTBAF
に よ る カ ル ボ ン 酸 の ア ル キ ル ハ ラ イ ド に よ る 触 媒 的 エ ス テ ル 化 反 応 に 取 り 組 み 、 カ ル ボ ン 酸 エ ス テ ル を ほ ぽ 定 量 的 に 得 る こ と に 成 功 し 、 光 学 活 性 相 間 移 動 触 媒 を 用 い る こ と で 、 第 二 級 ア ル キ ル ハ ラ イ ド の 速 度 論 的 光 学 分 割 も 可 能 と し 、 形 あ る 四 級 ア ン モ ニ ウ ム フ ル オ リ ド ゆ え の 特 徴 を 明 確 に し て い る 。 よ っ て , 著 者 は , 北 海 道 大 学 博 士 ( 理 学 ) の 学 位 を 授 与 さ れ る 資 格 あ る も の と 認 め る 。― 179−