博士(地球環境科学)林 永波
学 位 論 文 題 名
水 中 の 腐 植 物 質 の 除 去 な ら び に 他 の 有 機 汚 染 物 質 と の 分 離 除 去 法 の 開 発 に 関 す る 研 究
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
腐植物質は、枯葉やプランクトンなどの動植物の遺骸が土壌中で化学反応や微生物によ る変成を受けて生成した高分子有機酸であり、環境中に広くしかも多量に存在している。
分子量も数千から数十万と幅広く、多様な官能基群を有しており、環境中で様々な機能を 果たしている。重金属イオンに対する錯形成や、還元作用を有することから環境中での重 金属イオンの動態や毒性に影響を与えるとともに、その構造中に親水性部と疎水性部の両 方を持つことから界面活性な性質を有し、有機汚染物質の動態にも深く関わっている。さ らに、土壌の団粒構造の形成や、養分の供給にも重要な役割を果たすとともに、その難分 解性の性質は炭素循環における炭素の固定化にも関わっていると言われている。しかし一 方で、水道水の源水中に溶存する腐植物質は、浄水場において殺菌のために加えられる塩 素と反応し、消毒副生成物として発がん性有機ハロゲン化合物を生成することが明らかに されており、水道水源水中においては腐植物質を効果的に除去することが重要だと言われ ている。腐植物質の除去法としては、凝集沈殿法、樹脂吸着法など様々な除去法の他に、
オゾン分解法、光分解法、過酸化水素―光分解法など多くの分解法が試みられている。し かし、腐植物質は難分解性でありこれらの分解法では十分効率よく分解が達成されている とは言い難い。一方、農業用水等の環境水において腐植物質は、植物や微生物への養分供 給を担う重要な構成成分のーっあり、また多量に存在することから除去する対象とはなり 得ない。従ってこれらの環境水では、複雑なマトリックスから低分子汚染物質のみを選択 的に吸着し、多量に存在する腐植物質などの高分子物質を吸着しない分離除去法の開発が 求められている。
そこで本論文では、腐植物質の分解除去法として、試薬等を添加することなく比較的温 和な条件で有機物質を分解できる電気化学的分解法を適用し、その分解条件や分解挙動に ついて検討した。また、カーボンファイバー上に生成したポリアニリン膜を用いる腐植物 質の除去法についても検討した。さらに、活性炭を内包したアルギン酸ゲルビーズを調製 し、腐植物質を含む環境水から低分子有機汚染物質を選択的に除去する方法の開発を行っ た。
本論文は5章からなっている。
第1章は、序論として腐植物質の環境中での役割について概観するとともに、水道水源 から腐植物質を取り除くための除去法や分解法に関するこれまでの研究について解説したro 第2章では、Sn02/Ti電極とPt/Ti電極を用いる腐植物質の電気化学的分解法について、
その可能性と分解挙動が検討され,腐植物質も電気化学的に効率よく分解できることが判 明した。分解速度はSnO,/Ti電極の方がPt/Ti電極よりも速く、支持電解質の種類によって
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分解挙動が異なること、溶液の退色速度はNaClを支持電解質とした方が速いが、完全な 無 機 化 はNa2S04を 支 持 電 解 質 と す る 方 が 速 く 達 成 す る こと が 明 ら か と な っ た 。 第3章では、カーボンフんイバー(CF)電極上に生成したポリアニリン膜による汚染物質 の除去法が検討された。アニリンをCF電極上で電気化学的ポリマリゼーションによって 生成したポリアニリン膜(CFPA)は、腐植物質を強く吸着し、その吸着等温線はLangmuir 式に従った。また、静電的相互作用によりCFPAは負電荷を持つ汚染物質をよく吸着でき た 。溶 液のpHに よっ てCFPAの 表面 電荷 は影 響を 受け 、酸性 の時 にCFPAは 正電荷を持 ち、負電荷の汚染物質をよく吸着するのに対し、アルカリ性のときにはCFPAの表面電荷 は減少し、正電荷化学種に対する吸着性能が良くなることを明らかにした。生成するポリ アニリンの量はアニリンの酸化電圧,酸化時間,濃度や溶媒などに依存し、800mV以上の 酸化電圧,45分の酸化時間,O. 1M以上のアニリン濃度の時にCFPAは良好な吸着性能を 示した。
第4章は、アルギン酸ゲル中に活性炭を内包したゲルビーズによる汚染物質と腐植物質 の分離除去法の開発について述べられている。粉末活性炭(AC)、アルギン酸ナ卜リウム のゲル(AG)、粉末活性炭を内包したアルギン酸ゲル(AG‑AC)を使用し、高分子である 腐植物質、負電荷を持つ低分子化合物である没食子酸とメチルオレンジ、中性のp.クロロ フ ェノ ール と正 電荷 を持 っメ チレ ンブ ルー を用い、AC、AGおよびAG‑ACの吸着性能を 比較し、それらの表面電荷との関わりについて考察した。また、腐植物質とp'クロロフェ ノールとの分離の可能性を見ることによって,アルギン酸ゲルによる粉末活性炭への選択 性の導入について検討した。AG‑ACの吸着等温線はLangmuir式に従い、ACのみの時と同 様なものとなった。AGーACの飽和吸着量は活性炭と同様な値となり、活性炭の周りに存在 するアルギン酸ゲルは内包された活性炭の飽和吸着量にはほとんど影響しないことが判明 した。CaCl2溶液によって作製したAG‑ACは負電荷を持ち,その負電荷の量はCaCI2溶液 濃度に依存することが、電荷の異なる化学種の吸着挙動から推定された。腐植物質とp.ク ロ口フェノールの混合溶液にAG‑ACを浸漬すると、高分子である腐植物質は全く吸着せ ず、p.クロ口フェノールを選択的に吸着することができた。また,Ca9゛の代わりにFe3+に よって調製したアルギン酸ゲル(AG‑Fe)は錯形成反応によルタンニン酸と没食子酸を選択 的にゲル表面に吸着できることが判明した。
第5章は総括であり、本研究で得られた知見をまとめた。
本論文では,水中の腐植物質の除去法として電気化学的分解法とカーボンファイバー電 極上に生成したポリアニリン膜による吸着法が検討された。また、腐植物質を吸着せず、
低分子の有機汚染物質のみを吸着する選択性を活性炭に導入するために、アルギン酸ゲル による活性炭の内包効果について検討し、幾っかの有用な結論が得られた。これらは複雑 なマトリックスを有する環境水中の汚染物質の除去効率を高める上で有用な知見であり、
今後これらの技術の発展や実用化に寄与することが期待できる。
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学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
水中の腐植物質の除去ならびに他の有機汚染物質との 分離除去法の開発に関する研究
腐 植 物質 は 、 枯葉 やプラ ンクト ンなどの 動植物 の遺骸が 土壌中 で化学反 応や る変 成 を 受け て 生 成した 高分子 有機酸で あり、 環境中に 広くしか も多量 に存在 分子 量 も 数千 か ら 数十万 と幅広 く、多様 な官能 基群を有 しており 、環境 中で様 果た し て いる 。 重 金属イ オンに 対する錯 形成や 、還元作 用を有す ること から環 金属 イ オ ンの 動 態 や毒性 に影響 を与える ととも に、その 構造中に 親水性 部と疎 方を 持 っ こと か ら 界面活 性な性 質を有し 、有機 汚染物質 の動態に も深く 関わっ らに 、 土 壌の 団 粒 構造の 形成や 、養分の 供給に も重要な 役割を果 たすと ともに 解性 の 性 質は 炭 素 循環に おける 炭素の固 定化に も関わっ ていると 言われ ている 方で 、 水 道水 の 源 水中に 溶存す る腐植物 質は、 浄水場に おいて殺 菌のた めに加 素と 反 応 し、 消 毒 副生成 物とし て発がん 性有機 ハロゲン 化合物を 生成す ること され て お り、 水 道 水源水 におい ては腐植 物質を 効果的に 除去する ことが 重要だ いる 。 腐 植物 質 の 除去法 として は、凝集 沈殿法 、樹脂吸 着法など 様々な 除去法 ゾン 分 解 法、 光 分 解法、 過酸化 水素一光 分解法 など多く の分解法 が試み られて し、 腐 植 物質 は 難 分解性 であり これらの 分解法 では十分 効率よく 分解が 達成さ は言 い 難 い。 一 方 、農業 用水等 の環境水 におい て腐植物 質は、植 物や微 生物へ を担 う 重 要な 構 成 成分の ーっあ り、また 多量に 存在する ことから 除去す る対象 ない 。 従 って 環 境 水中で 腐植物 質と共存 する汚 染物質を 取り除く ために は、複 ック ス か ら低 分 子 汚染物 質のみ を選択的 に吸着 し、多量 に存在す る腐植 物質な 物 質 を 吸 着 し な い 分 離 除 去 法 の 開 発 が 求 め ら れ て い る 。 そ こ で本 論 文 では 、腐植 物質の 分解除去 法とし て、試薬 等を添 加するこ とな 和な 条 件 で有 機 物 質を分 解でき る電気化 学的分 解法を適 用し、そ の分解 条件や つい て 検 討し て い る。ま た、カ ーボンフ ァイバ ー上に生 成したポ リアニ リン膜 植物 質 の 除去 法 に ついて も検討 を行って いる。 さらに、 活性炭を 内包し たアル ビー ズ を 作製 し 、 腐植物 質を含 む環境水 から低 分子有機 汚染物質 を選択 的に除 の開 発 を 行っ た も ので あ る 。
第1章は 、 序 論と し て 腐植 物 質 の環 境 中 で の役 割につい て述べ るととも に、
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微生物 によ してい る。
々な機 能を 境中で の重 水性部 の而 ている 。さ
、その 難分
。しか しー えられ る塩 が明ら かに と言わ れて の他に 、オ いる。 しか れてい ると の養分 供給 とはな り得 雑なマ トり どの高 分子
く 比 較 的 温 分 解 挙 動 に を用いる腐よ ギ ン 酸 ゲ ル 去 す る 方 法 環境水中の
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主 副
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腐植 物質 を取 り除 くた めの 除去 法や 分解 法 に関 する これ まで の研 究例 につ いて 解説 してい る。
第2章 で は 、Sn02/Ti電極 とPt/Ti電 極を 用い る腐 植物 質の 電気 化学 的分 解法 が、400 nm で の 退 色 速 度 と 、 ニ 酸 化炭 素と 水へ の分 解を 意味 する 全有 機炭 素 量(TOC)の測 定か ら検 討 名 れ て い る 。 そ の 結 果 、 腐 植 物 質 も 電 気 化 学 的 に 効率 よく 分解 でき るこ と、 分解 速度 は SnO,/Ti電 極 の 方 がPt/Ti電 極 よ り も 速 い こ と 、 溶 液の 退色 速度 はNaCIを 支持 電解 質と し た 方 が 速 い が 、 完 全 な 無 機 化 はNa2S04を 支 持 電 解 質と する 方が 速く 達成 され るこ とを 明 らか にし てい る。 また 、電 極に 印加 する 電 位の 効果 につ いて も検 討し 、酸 素過 電圧 の大き なSn09/Ti電 極 の 方 が 効 率 よ くOHラ ジ カ ル を 生 成 す る こ と に よ っ て 速 い 分 解 が達 成さ れ てい ると 結諭 づけ てい る。 本研 究は 、難 分 解性 と言 われ る腐 植物 質を 比較 的穏 和な 条件で 電気 化学 的に 分解 でき るこ とを 示し たも の であ り、 水道 水源 水中 に存 在す る腐 植物 質の分 解処理の実用化に向けてさらなる発展が期待され るものである。
第3章 で は 、 カ ー ボ ンフ ァイ バー(CF)電 極上 に生 成し たポ リア ニリ ン膜(CFPA)に よる 汚 染 物 質 の 除 去 法 が 検 討 さ れ て い る 。CFPAは 、 腐 植 物質 を強 く吸 着し 、そ の吸 着等 温線 は Langmuir式 に 従 う こ と を 示 し て い る 。 ま た 、 溶 液 のpHに よ っ てCFPAの 表 面 電 荷 は 影 響 を 受 け 、 酸 性 の 時 にCF PAは正 電荷 を 持ち 、負 電荷 の汚 染物 質を よく 吸着 する のに 対し 、 ア ル カ リ 性 の と き に はCFPAの 表 面 電 荷 は 減 少 し 、 正電 荷化 学種 に対 する 吸着 性能 が改 善 されることを明らかにしている。
第4章 で は 、 ア ル ギ ン酸 ゲル 中に 活 性炭 を内 包さ せた ゲル ビー ズに よる 汚染 物質 と腐 植 物質の分離除去法の開発について述べられている。粉末活性炭(AC)、アルギン酸ゲル(AG)、
粉 末 活 性 炭 を 内 包 し た アル ギン 酸ゲ ル(AGーAC)を 使用 し、 高分 子で ある 腐植 物質 、負 電 荷を 持つ 低分 子化 合物 であ る没 食子 酸と メ チル オレ ンジ 、中 性のp‑ク ロロ フェ ノー ルと正 電 荷 を 持 っ メ チ レ ン ブ ル ー 等 を 用 い 、AC、AGお よ びAG‑ACの 吸 着 性 能 が 比 較 さ れ 、 表 面 電 荷 と の 関 わ り に つ い て 考 察 し て い る 。AG‑ACの 吸 着 等 温 線 はLangmuir式 に従 い、AC の み の 時 と 同 様 な も の と な っ た 。AG‑ACのp'ク 口 口 フ ェ ノ ー ル に 対 す る 飽 和 吸着 量は 活 性炭 と同 様な 値と なり 、活 性炭 の周 りに 存 在す るア ルギ ン酸 ゲル は内 包さ れた 活性 炭の飽 和 吸 着 量 に は ほ と ん ど 影響 しな いこ とを 明ら かに して いる 。CaCI2溶 液に よっ て作 製し た AG‑ACは 負 電 荷 を 持 ち ,そ の負 電荷 の 量は 作製 時のCaCI‑,溶 液濃 度に 依存 する こと が、 電 荷の 異な る化 学種 の吸 着挙 動か ら推 定さ れ てい る。 さら に、 腐植 物質 とp‑ク口 口フ ェノー ル の 混 合 溶 液 にAG‑ACを 浸 漬 す る と 、 高 分 子 で あ る腐 植物 質は 全 く吸 着さ れず 、p ク 口 口フ ェノ ール が選 択的 に吸 着さ れる こと を 明ら かに して いる 。ま た,Ca2+の代 わり にFe3+
によ って 作製 した アル ギン 酸ゲ ル(AG―Fe)は錯 形成 反応 によ ルタ ンニ ン酸 と没 食子 酸を選 択的 にゲ ル表 面に 吸着 でき るこ とを 示し て いる 。こ れま でも 活性 炭内 包ア ルギ ン酸 ゲルに 関す る報 告は ある が、 本研 究の よう に、 環 境水 にお ける 高分 子化 合物 と汚 染物 質と の分離 に関 する もの はほ とん どな く、 アル ギン 酸 ゲル によ る活 性炭 への 選択 性の 導入 は、 環境水 中 か ら の 汚 染 物 質 の 選 択 的 除 去 に お い て 重 要 な 知 見 で あ る と 評 価 で き る 。 第 5章 は 総 括 で あ り 、 本 研 究 で 得 ら れ た 知 見 が ま と め ら れ て い る 。 以 上本 研究 で得 られ た知 見は 、複 雑な マ トリ ック スを 有す る環 境水 中の 汚染 物質 の除去 効率 を高 める 上で 有用 なも ので あり 、今 後 これ らの 技術 の発 展や 実用 化に 大き く寄 与する ことが期待できる。
審 査員 一同 は、 これ らの 成果 を高 く評 価 し、 また 研究 者と して 誠実 かつ 熱心 であ り、大 学院 課程 にお ける 研鑽 や取 得単 位な ども 併 せ申 請者 が博 士( 地球 環境 科学 )の 学位 を受け るのに十分な資格を有するものと判定した。
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