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博 士 ( 経 済 学 ) 増 田 辰 良

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(1)

博 士 ( 経 済 学 ) 増 田 辰 良

学 位 論 文 題 名

Antimonopoly Policy of Japan     ‑An Empirical Study ―      (日本の独占禁止政策 :検証)

学 位 論 文 内 容 の要 旨

(1)研究の背景

  本研究は我が国でも紹介・研究が増えつっある「法の経済分析」の主要な課題のーつである 法制度の設計とその運用上の効率性とぃう考え方に依拠しながら,我が国の独占禁止法の唯一 の運用機関である公正取引委員会の法運用上の効率性(成果)について検証したものである。

  我が国ではこれまでは多くの独禁法学者たちが個別事件の法解釈や判例評釈をしてきたが,

公取委の審査(法運用)活動を経済学の立場から分析した研究例はほとんどない。唯一,三輪

(1982)が経済学の立場から独禁法を解釈しているのみである。また,独禁法学者の著書(今 村,1990,実方,1992)をみても,委員会の設置についての条文との関係から公取委に関する 議論は通常最終章におかれているし,産業組織分析においても公取委自体の活動は主要な分析 課題とはならず,政策論との関連で議論されているにすぎない(植草,1982,小西,1979)。 (2)分析方法

  独禁法は市場の有効競争的な資源配分を実現したり促進するための政策手段であるが,我々 は法運用自体の効率性を検証する。なぜなら,市場が有効競争的な資源配分に失敗したり,そ れを補正する政府が失敗するのと同様に法自体が効率的な資源配分に失敗することが十分に考 えられるからである。

  その際,法制度に関してニつの効率性を区別する。第一は,社会的にみて望ましいと考えら れている目的を達成するように法自体がうまく設計されているかどうか,とぃう意味での効率 性であり,第二は,法の運用が違法行為抑止効果をどの程度達成しているかどうか,、とぃう意 味での効率性である。

  本研究では第一の効率性に反する現象として条文間にある目的の不整合性を考え,第二の効 率性に反する現象として法運用過程に関わる諸取引コストの存在を考える。本研究では第二の 効率性を独禁法の違法行為抑止効果として検証する。そして違法行為抑止手段として主に公取 委の審査能力(審査部職員数と審査活動費用)指標を用いる。

(3)内容

  第1,2,4,5章では第二の効率性を検討し,第3章では第一の効率性を検討した。第1章では 審査能カと諸審査活動との間の関係について調べた。分析結果によれば,審査活動上の重要な 特徴である勧告前置主義と不問処分とぃう事件処理方法は違法行為や状態を排除するとぃう独

(2)

禁法の第一次目的を達成するのに効率的な方法である,とぃえるが同時にこの方法は本来違法 行為として法的処罰をすべき事件を容認してきた可能性が残っていた。また,勧告前置主義と いう審査姿勢は価格カルテル事件において顕著であった。

  第2章から第4章までは公取委によるカルテル抑止効果について検証した。第2章では独禁法

(法第18条の2)規制下での同調的な価格引上げ(プライス・リーダーシップ)の特徴を明ら かにした。 っまり首 位企業は 価格引上 げ期日に 関してり ーダーシップを発揮することが 多いが,引上げを必要としているのはむしろ下位企業であることや,首位企業がりーダー シップを発 揮すると きの追随 期日と引 上げ率格 差は他の 企業がりーダーシップを発揮す るときよりも小さくなっていた。こうしたことより独禁政策が資源配分の改善に失敗する可 能性があるという仮説を提示した。

  第3章では第一の効率性について調べるために,前章で提示した仮説「他の事情を一定とす れば,法第2条7項,法第8条の4(独占的状態規制)と法第18条の2との間にある目的の不整合 性は両条文に共通する産業における協調的な価格引上げを合法化する可能性があり,独禁政策 は公正かつ自由な競争を美現したり促進することに失敗する可能性がある。」を検証した。分 析の結果,高位集中度産業ではこの仮説が十分に支持される可能性のあることを確認した。

  第4章では課徴金制度による違法カルテル事件の抑止効果について検証した。分析結果によ れば,被疑企業に自発的にカルテルを破棄させるのに有効な手段は審査活動費用を増やしたり,

警告や注意を発することであった。カルテ少発生件数を抑止する有効な手段は,課徴金額を増 やすことであった。カルテル実行期間を縮小させるには審査部職員数や課徴金納付命令件数を 増やすことであった。

  第5章では優越的地位が濫用されるときの経済状況を調べるために,拘束性預金をとりあげ,

当該預金を中小企業が銀行との長期継続取引のために差し出す「人質」として捉え,中小企業 にとっても長期継続取引を維持するための合理的な制度であると考えてみた。分析結果によれ ば,銀行の優越性が強まるのは中小企業が長期の投資資金を必要とするときと中小企業の業績 が悪化しているときであった。この結論は1960年代に金融をめぐる「二重構造論」が論争され て 以 来 今 日 ま で 依 然 と し て こ の 種 の 問 題 が 解 決 し て い な い こ と を 示 唆し て いる 。   第6章ではシカゴ学派の競争観を一般化し,わが国の高位集中度産業の競争性について検証 した。そこでは高位集中度産業の競争も強まりつっあるとぃう分析結果を得たが,我々はそう した競争が市場の調整機能によって促進されたとは考えない。なぜなら,シカゴ学派のいう市 場の調整機能はっねに万全ではないし,分析対象産業は独禁法の監視下にあるものなので,こ うした競争は独禁政策の成果であると考えるのが自然であろう。

  本研究では公取委による独禁法の運用成果を検証するために効率性概念を法設計上の効率性 と法の運用過程の効率性とに区別した。前者の効率性は条文間での目的に整合性を求めるもの であるが,法が違法行為の予測可能性を高めるためには被規制者にとって各条文は「明確かつ 単純」であることが必要であるし,それは公取委にとっても弾力的な法運用をするために必要 である。したがって,法体系上この効率性を完全に充たすことは不可能であるし,むしろ完全 で ない こ と によ っ て弾 力 的 運用が できると ぃうメリッ トの方が 大きいか もしれな い。

  後者の効率性についての判断は個別の違法行為抑止政策ごとに異なるが,審査能カと審査活 動成果との間の関係について数量分析をすることにより比較的容易に判断できる。ただし,こ の場合注意しなければならないのは独禁政策に違法行為抑止効果が十分にあるとぃう分析結果 を得たとしても,それによってどんな競争が回復されたのかについては何も答えていないこと である。独禁法の第一次目的が違法行為(状態)を排除し「公正かつ自由な競争を促進」する とぃうときの競争はただ単に違法行為(状態)以前の競争関係を回復するだけなのか,あるい は も っ と 積 極 的 な 意 味 を も つ 競 争 関 係 を 創 造 す る こ と な の で あ ろ う か 。   しかしながら法制度の効率性を評価することは取引コストの規模に依存している。っまり,

(3)

法制度を運用するには諸取引コストがかかるので,本来,法はすべての違法行為を抑止するよ うには構築されていない,と考えるべきである。なぜなら法は潜在的な違法行為者が同一の期 待利益をもたらす違法行為間で選択をする場合,社会的損害の一層少ない方の違法行為をする ように誘因を与えなけれぱならないからである。

(4)

学 位 論 文 審 査 の要 旨 主査   教授   小林好宏 副査   教授   小野   浩 副査   教授   内田和男

副査   教授   厚谷襄兒(法学部)

副査   教授   小西唯雄(関西学院大学経済学部)

学 位 論 文 題 名

Antimonopoly Policy of Japan     ‑An Empirical Study ‑

(日本の独占禁止政策:検証)

  本研 究は、わが 国におけ る独占禁 止政策が どのよう な効果をあげたかを理論 的、 実証的に明 らかにし たもので ある。具 体的には 政策主体である公正取引委 員会 による審査 活動や独 禁法の運 用成果に ついて統 計データをもとに解析レて いる 。こうした 研究は法 の経済分 析の領域 に入るが 、これまでは法学者による 研究 が主であっ て、経済 学者によ る数量的 分析はほ とんどみられなかった。増 田氏 の研究は、 法や制度 の経済効 果をでき るだけ数 量化して示した先駆的業績 であ る。経済学 が市場を 通ずる最 適資源配 分を手が かりとして分析を行うよう に、 法制度によ る効率的 資源配分 の概念を 構築する 必要があるというのが増田 氏の研究動機である。

  しか し、本研究 ではその ような概 念構築よ りも、む しろ独禁法の運用成果に 論点 をしぼって 分析を進 めている 。本研究 では第ー に独禁法が社会的に望まし いと 考えられて いる目的 を達成さ れるよう にうまく 設計されているかどうか、

すな わち効率的 資源配分 をもたら すように 設計され ているかどうかという意味 での 効率性と法 の運用が 違法行為 抑止効果 をどの程 度達成しているかという意 味で の効率性を 区別し、 このニつ の視点を 中心に据 えて問題を分析している。

第ーの効率性5こ反する現象として、モラルハザードと条文間の不整合性がある。

第二 の効率性に 反する現 象として 、法運用 過程にか かわる諸取引コストの存在 があ る。本研究 では第二 の効率性 を違法行 為抑止効 果として据え、実証分析の 対象 としている 。しかし ながら、 本来、法 制度を運 用するには取引コス卜がか かる ので、法は すべての 違法行為 を抑止す るように は構築されていない。法は 被規 制者にとっ て明確か つ単純で あること が必要で あるし、規制者にとっても 弾力 的法運用を する余地 があるこ とが望ま しい。法 体系が完全に先の効率性を 充た すことは不 可能であ る。なぜ なら法は 潜在的な 違法行為者が同一の期待利     ―57−

(5)

益 をも たら す犯 罪行為問で選択をする場合、社会的損害の一層少ない方の行為 を 選択 する よう に誘因を与えなければならないからである。このことから、独 禁 法も 資源 配分 上の失敗はもたらしうる。そのことを前提とした上で、上記ニ つの効率性を中心に分析をすすめる。

  本研 究は 序章 と終章の他に、七つの章から成る。第ー章、第二章、第四章、

第五章、第六章では第二の効率性を、第三章では第一の効率性を検討している。

第 ー 章 で は 独 禁 法 が 制 定 さ れ た1947年 か ら1988年 ま で を 分 析 期 間 と し 、 法 制定 以後 の公 取蚕の独禁法の運用状況を概観した上で、審査活動の成果を統 計 解析 的に 明ら かにしている。そこでは公取委の審査能カを示す指標を変数と し て選 び、 審査 活動との問の関係を明らかにしている。審査活動上の重要な特 徴 とし て増 田氏 は勧告前置主義と不問処分というニっの事件処理方法を挙げ、

こ の処 理方 法は 違法行為や状態を排除するという独禁法の第一の目的を達成す る のに 効果 的方 法であるが、同時に本来違法行為として法的処罰をすべき事件 を容認してきた可能性が残っていると指摘する。

  1979年 の 独 禁 法 改 正 時 に カ ル テ ル を 規制 す る ニ つ の 条 文が 導入 され た。

法 第18条 の2: 同 調 的 な 価 格 引 上 げ に 関 す る 報 告徴 収 制 度 と 法 第7条 の2、 法 第8条 の3:違 法カ ルテル に対 する 課徴 金徴 収制 度で ある 。第 二章 から 第四 章 ま で は 公 取 蚕 に よ る カ ル テ ル 抑 止 効 果 に つ い て 分 析 し て い る 。   第 二 章 で は 、 独 禁 法18条の2の 制約 下で の同 調的 価格引 上げ 、あ るい はプ ラ イス リー ダー シッブの特徴を明らかにし、独占禁止政策が資源配分の改善に 失敗する可能性があるという仮説を提示する。

  第三 章で は、 先に述べた第ーの効率性について検証する。第二章では「他の 事 情 を 一 定 と す れ ぱ 、 法 第2条7項 、 法 第8条 の4と 法 第18条 の2と の 間 に あ る目 的の 不整 合性は両条文に共通する産業における協調的な価格引上げを合 法 化す る可 能性 がある」という仮説を提示したが、三章の分析で高位集中型寡 占産業ではこの仮説が支持されることを示した。

  第四 章で は課 徴金制度による違法カルテル事件の処理状況を分析し、課徽金 が カル テル 抑止 効果として大きかったことを示している。第五章では独占禁止 政 策に よる 事業 者団体規制の歴史と、違法行為抑止効果を分析している。ここ で も、 公取 委の 審査能カと規制効果の関係、課徴金制度の違法行為抑止効果が 統計解析によって実証されている。

  第六 章で は金 融機関の中小企業に対する拘束性預金の実状を概観した上で、

優 越 的 地 位 の 濫 用 が な さ れ る 場 合 の 状 況 を 検 討 し て い る 。   ここ で、 拘束 性預金は、取引コストを削減するための「人質」であるという 捉 え方 をし 、こ れは中小企業が長期継続的取引をするための合理的制度である と 考え た上 で、 どん な場合 に銀 行の 優越 性が 強ま るか を明 らか にし てい る。

  第七 章は 、わ が国の高位集中寡占産業でも競争が強まりつっあるということ を 実証 しつ つ、 独占禁止政策の効果がこの面にもあらわれていることを示して いる。

  本研 究は 、法 や制度が経済活動の成果にどのような影響を及ぼしているかを 数 量的 に分 析し たという点では画期的な業績といえる。更に、法の設計、運用     ―58ー

(6)

のそれぞれについて、経済学における効率的資源配分の概念を対応させ、その 有用性を測るというきわめて野心的な研究であり、博士の資格が十分であるこ とが認定された。

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参照

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