博 士 ( 理 学 ) 津 下 英 明
学 位 論 文 題 名
Strutural Studies of Calcium ‑ Binding Lysozymes
(カル シウ ム結 合性リ ゾチ ーム の構造研究)
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
リゾチ ームは 、N‑アセチ ルグル コサミン とN‑アセ チルムラ ミン酸のpl‑4結合を 切る酵 素として 見いだ され、X線解 析により 始めて構 造が明らかになった酵素であ る。一 方、a‑ラ クトアル プミンは、ガラクトシルトランスフェラーゼのモジュレー ターとして知られ、ラクトース合成に関わる酵素である。この2つのタンパク質は、
アミノ 酸の配列 順序の 類似性、遺伝子構造の類似性より同一の祖先タンバク質より 進化し たと考え られる 。1980年、a‑ラクトア ルプミ ンがカル シウム結 合性タ ンパ ク質であることがわかり、このカルシウム結合性がりゾチームとa ‑ラクトアルブミ ンの構 造上の大 きな相 異点であ ること が判って きた。1986年、a‑ラク トアル プミ ンはX線解析 により 構造が解明され、カルシウム結合部位の構造が明らかになり、3 つのAsp(85,90,91)の側鎖がその結合に関与していることが明らかにされた。この 3つ のAspは 一次構 造のわか ってい るすぺて のa‑ラク トアルプ ミンで保 存され 、さ らにウ マ、ハト リゾチ ームにおいても保存されている。本研究はカルシウム結合性 ルゾチ ームと呼 ばれる サプフんミリーの発見及び、その内のーつウマリゾチ―ムの 物性、 構造研究 を行な ったものである。その結果はりゾチームからカルシウム結合 性リゾ チームを へてa‑ラ クトアルプミシヘ進化したことを支持するものである。以 下に要約する。
ウマ、ハトリゾチームがカルシウム結合蛋白であることを明らかにした。それぞ れのり ゾチーム を精製 し、ウマ とハト リゾチー ムには分子あたり1個のカルシウム が結合 し、ヒト とニワ トリリゾチームにはカルシウム結合がないことを原子吸光分 析によ り証明し た。カ ルシウム結合性螢光試薬(Quin2およびFura2)を用いてその カ ルシ ウ ム 結合 定 数 を解 析 し た。 ウ マ 、ハ ト リ ゾ チーム の結合定 数はそ れぞれ 106.4M‑1, 107.2M‑1で ある。す なわち 、カルシ ウム結合 はa‑ラク トアルプ ミン
だけ ではなく りゾチ ームにも存在する場合がある。リゾチームフんミリーはりゾテ ーム 、カルシ ウム結 合性リゾ チーム、a‑ラクト アルプミンの3つのサプファミリー に分けられる。新田等(1989)によるー次構造の解析の結果、カルシウム結合性リゾ チー ムはりゾ チーム から遺伝子重複により進化しさらにカルシウム結合性リゾチー ムは 遺伝子重 複と新 しい機能の獲得によりa‑ラクトアルプミンヘと進化したと考え られる。
ウマリゾチームの変性過程に及ぼすカ´レシウムの影響について研究した。カルシ ウム 濃度が高 いと、 天然状態(N)が安定化され、2状態転移をする。しかし、カル シウム濃度が低いと見かけの天然状態の安定性が下がるために安定な平衡中間体(I) が観 測される 。N‑I転移の△Cpは5.8kJ/mol/d'eg、またI‑U転移のACpはほとんど Okj/m ol/degで あった。 これはN‑I転移 において 疎水性領域が崩壊したことを意味 す る 。 こ の 変 性 の 過 程 はa‑ラ ク ト ア ル プ ミ ン の そ れ と 同 様 で あ っ た 。 X線解析に よルウ マリゾチ ームの構 造を2.sA分 解能で明らかにした。結晶化は水 滴懸 下蒸気拡 散法で 行い、2種類の 結晶形 が得られた。十分な回析強度が得られた TYPE II(P212121 、a〓54.1A,b=57.2A,c=38.7A、非結晶学的対称単位あたり1 分子 (Vm=2.05) )の結晶でデータ測定を行った。測定したX線強度データの統計値 は2.3A分 解能まで の全28911点、独 立な回 析強度と して4842点 、Rmerge 3.9ゲ。
で あ った 。 分 子置 換 法 によ り 初 期位 相 を 求め 、 分子動 力学に基 づくプ ログラム XPLORで モデ ル の 回析 強度に 対する 精密化を 行い、 各段階で モデルの 位相を 用い た電 子密度マ ップを 計算して グラフイ ックス プログラムFRODO(VAX/PS 390上)で この マップを 確認し 、モデル のマニュ アルに よる修正を行なった。3サイクルの精 密化 後、R値は0.240を得て いる。カ ルシウ ム結合ル ープ部 分は、進 化上類縁のカ ルシ・ウム結合タンバクであるa‑ラクトアルプミンのカルシウム結合部分と同様の立 体構 造をして いる。 近年、ヒトリゾチームに遺伝子操作によルカルシウム結合部位 を導 入したD8 5/90ヒト リゾチー ム(Holo,Apo共) の構造 が明らか にされている
(Inaka等、1991) 。 これ ら と カル シ ウ ム結 合 部 位 を比 較 し た所 、3つのAsp側 鎖の 向きはHoloよ りApoD85/90ヒ トリゾ チームと 非常に 良いー致 を見た 。一方温 度因 子の解析 から、 動的構造もc‑タイプのりゾチームファミリーにおいて保存され ておルカルシウム結合性リゾチームはりゾテームとa.ラクトアルプミンの問に位置
する。
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ウマ リ ゾチ ーム はカ ルシ ウム 結合 により多くの1H‑NMRシグナルがゆっくりした 交 換 を す る 。 こ れ ら の シ グ ナ ル 帰 属 の ため2次元NMR(COSY,HOHAHA,NOESY) によ る解析を行なった。この結果Trp28,Trp108(疎水性領域コアを形成)のプロト ン シグ ナ ルはカルシウム結合に伴うゆっくりした交換がみられる が、その間のNOE 強度 は大きく変わらない。またホロ,アポでpシート間のNOEパターンおよび遠隔間 NOE強度 は変わらない。すなわち、カ ルシウム結合に伴う構造変化はa‑ラクトアル プミ ンほど大きなものではなく、基本構造(2次構造および疎水性コア)は同じであ ると考えられる。
本 研究により得られたカルシウム結合性ウマリゾチームの 以下の物性はりゾチー ムとa.ラクトアルプミンの中間に位置する。(1)a‑ラクトアルプミンと同様、分子 あた り1個のカルシウムを結合する。(2)a‑ラクトアルプミンと同様、安定な変性中 間体 を持つ。(3)静的構造は基 本的にりゾチーム、a‑ラクトアルプミンと変わらな い。(4)カルシウム結合部位の構造はa ‑ラクトアルプミンに非常に似ている。(5)動 的 構 造 は 相 関係 数 の解 析に よル リゾ チー ムとa‑ラ クト アル プミ ンの 間に あ る。
(6)a‑ラ ク ト ア ル プ ミ ン と 異 な ル ホ ロ と ア ポ で 大 き な 構 造 変 化 は な い 。 これ らの結果はカルシウム結合性リゾチームが系統樹上でり ゾチームとa‑ラクトア ルプ ミンの中間に位置する事と一致する。高次構造(静的構造、動的構造)は分子進 化を反映していると考えられる。゛
1)Nitta,K.,and Sugai,S.(1989)Eur.J.Biochcm. 182,111‑118 2) Inaka, K. ct al( 1991)J. . BjDJ, Chcm.266, 20666‐ 20671
学 位 論 文 審 査 の 要 旨 主 査 教 授
副 査 教 授 副 査 教 授 副査 助教授
新田 戸倉 引地 田中
学 位 論 文 題 名 勝利 清一 邦男 勲
Structural Studies of Calcium―Binding Lysozymes ( カ ル シ ウ ム 結 合 性 リ ゾ チ ー ム の 構 造 研 究 )
リ ゾチ ーム は 細菌 の細 胞壁 を構 成 する ぺプ チド グ リカ ンを加水分 解する酵素でニワ トリ 卵白 のも の が古 くか ら研 究さ れ てき た。 この ニ ワト りのりゾチ ームは分子量が約 14、000の 単 純 ク ン パ ク 質 で 、 こ れ と 相 同 の り ゾ チ ー ム が 動 物 界 に 広 く 分 布 し て いる 。一 方、 ゼ ーラ クト アル ブミ ン は哺 乳動 物の 乳 汁中 に不変的に 存在するクンパク 質で 、ガ ラク ト シル トラ ンス フェ ラ ーゼ に結 合し て 乳糖 合成酵素と する基質特異性変 換因 子と して の 機能 を持 って いる 。 この2っ のタ ンパ ク質 は、 ア ミノ 酸配 列の 類 似性 等 か ら 、 相 同 でa− ラ ク ト ア ル ブ ミ ン が り ゾ チ ー ム か ら 進 化 し た と 推 定 さ れ た 。 リ ゾチ ーム が 単純 クン パク 質で あ るの に対 して ゼ ーラ クトアルブ ミンはカルシウム イ オ ン を1個 強 く 結 合 し た 金 属 タ ン パ ク 質 で あ る 。1986年 、 英 国 のStuart等 が キ イ 口 ヒ ヒ のa― ラ ク ト ア ルブ ミン のX線構 造解 析を 発 表し カル シウ ム結 合 部位 を決 定 した 。こ の部 位 はア ミノ 酸配 列が 明 らか にな って い るゼ ーラクトア ルブミンの全てに 保存 され てい た がウ マの りゾ チー ム にも 存在 し、 ウ マリ ゾチームの カルシウム結合の 司能 性が 指摘 さ れた 。当 時こ の可 能 性を 否定 する 報 告も されたが申 請者はゲルクロマ トグ ラフ ィー と 原子 吸光 法を 併用 し てウ マ及 びハ ト 卵白 のりゾチー ム中のカルシウム
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を定量してこれらがカルシウムタンパク質であることを証明した。っいでカルシウム 結合性の螢光色素とのカルシウムイオンの競合によってこれらのカルシウム結合常数 を決定してそれがゼーラクトアルブミンに匹敵する大きな値をとることを証明した。
っいで申請者はウマリゾチームの巻き戻りを研究した。タンパク質の巻き戻りの過 程は生合成の際に特異的高次構造を獲得するプ口セスに相当し同属タンパク質の間で は保存されている。ところがa−ラクトアルブミンとりゾチームとでは前者が安定な モルテングロビュールと言われる状態を経由して巻き戻るに対して後者には安定な中 間体は存在しナょい。申請者はウマリゾチームの巻き戻りにはaーラクトアルブミンと 同様、他のりゾチームとは異なり、安定な中間体が存在することを明らかにしてカル シウ ム結合性 リゾチー ムとゼ―ラクトアルブミンの関連性をさらに強く示唆した。
っぎに申請者はウマリゾチームのX線構造解析を行った。得られた結晶はアポ型で 全体の構造はカルシウム非結合型リゾテームやゼ―ラクトアルブミンと類似しており、
カル シウム結 合部位の 構造iまD85/91ヒト リゾチー ムのア ポ型のそ れと同じであ った。またウマリゾチーム結晶のBー因子の解析からりゾチームの同属タンパク質の 間 で は タ ン パ ク 質 分 子 内 部 の 運 動 も 保 存 さ れ て い る 事 が 明 ら か と な っ た 。 さら に2次 元NMRに よる構 造解析を 行い1部のケミカルシフトの帰属を決定した。
またウマリゾチームはカルシウムの脱着によって小さな構造変化をする事、しかし変 化する部位は結合部位付近のみではない事を示した。 カルシウム結合性リゾチーム の諸性質はちょうどゼ―ラクトアルブミンとカルシウム非結合性リゾチームの中間の 性質を示すものが多く、dーラクトアルブミンがカルシウム非結合性リゾチームから カル シウム結 合性リゾ チーム を経由し て進化 したとの 仮説を 強く指示 している。
以上はa一ラクトアルブミン〜リゾチームの相互の関係をカルシウム結合性リゾチ ームの発見及びそれらの高次構造の面から明らかにした先駆的な研究で、タンパク質 の進化の研究に資するところ大であり、且つ国際的ナょ評価も高いものである。博士の 学位を取得するに充分であると認める。