論文の内容の要旨
氏名:三 嶋 信太郎
専攻分野の名称:博士(医学)
論文題名:関節リウマチ患者マスト細胞は変形性関節症患者マスト細胞に比較して有意にprostaglandin D2を産出する
背景:関節リウマチ (rheumatoid arthritis; RA) は、複数の遺伝的要因に環境因子が加わり自己免疫応答 が惹起され、これらの結果として慢性炎症性病態が複数の関節に対称性に生じ、進行性の破壊性関節炎に 至る疾患と考えられている。RAの病態においては関節炎マウスモデルや滑膜の組織染色を用いた研究か らマスト細胞はRAの発症や炎症の増悪に関与するいわゆる“悪玉”として考えられてきた。しかし、ここ1- 2年のRA患者の関節滑膜組織中のマスト細胞関連遺伝子発現や関節液中のマスト細胞由来のメディエー ターがRAの重症度や炎症マーカーと逆相関することが報告され、“善玉”の可能性が示唆されていたが、そ の機序は不明であった。生物学的製剤を使用して関節破壊を抑制し、寛解状態に持ち込める確率が向上し たが、生物学的製剤は高価であり、生物学的製剤に反応しない患者も存在し、より効果的で安価な治療法 が望まれる。
目的:RA患者由来培養マスト細胞 (以下RAマスト細胞と呼ぶ) がどのようにして、RAの炎症を抑制す るかその機序を明らかにし、新規治療薬の開発に資する研究を行うことを目的とした。
方法:関節滑膜はRA患者および変形性関節症(osteoarthritis; OA)患者に施行された人工膝関節置換術の 際に採取された。各患者由来の滑膜からマスト細胞を培養し樹立した。DNA chipを用いてOAおよびRA 由来マスト細胞の遺伝子プロファイルを網羅的に調べた。OA患者由来マスト細胞 (以下OAマスト細胞と 呼ぶ) とRAマスト細胞における遺伝子発現量は定量的RT-PCR法で測定した。IgEおよびIgG依存的な 活性化に違いが見られるかを検証するために、OAおよびRAマスト細胞からのアラキドン酸代謝物の産 生とヒスタミン遊離量をenzyme-immunoassay (EIA) 法で測定した。関節滑膜からOA患者由来線維芽 細胞 (以下OA線維芽細胞と呼ぶ) とRA患者由来線維芽細胞 (以下RA線維芽細胞と呼ぶ) を培養し、遺 伝子発現量を定量的RT-PCR法で測定した。OAマスト細胞とRA線維芽細胞を共培養することで変化す るOAマスト細胞の遺伝子発現量を定量的RT-PCR法で測定した。OAマスト細胞とRAマスト細胞の性 質を決定する因子として、microRNA (miRNA) に着目し、両マスト細胞のmiRNAのプロファイルを網羅 的に調べた。OAマスト細胞とRAマスト細胞のprostaglandin synthase 2 (PTGS2 = COX-
2:cyclooxygenase-2) の発現量とmiR-199a-3pの発現量を定量的RT-PCR法で比較し、相関性を調べた。
患者の関節液中のPGD2、PGE2量はEIA法で測定した。統計学的解析は、Mann-WhitneyのU検定によ って行われた。
結果:DNA chipの結果、prostaglandin synthase 1 (PTGS1 = COX-1: cyclooxygenase-1)、prostaglandin synthase 2 (PTGS2 = COX-2)、thromboxane synthase 1 (TBXAS1)、leukotriene C4 synthase (LTC4S)
mRNAの発現量はOAマスト細胞と比較してRAマスト細胞の方が有意に高かった。また、IgE依存性
刺激において、PGD2産生量はRAマスト細胞のほうが有意に高かった。一方LTB4産生量はOAマスト細 胞で高い傾向にあった。IgG依存性刺激においてPGD2産生量はRAマスト細胞のほうが有意に高かった。
OAマスト細胞をRA線維芽細胞と共培養してもPTGS1、PTGS2、TBXAS1、LTC4S mRNAの発現量に 変化は見られなかった。PTGS2の発現制御に寄与するmiRNAであるmiR-199a-3pとPTGS2の発現量 の相関を調べたところRAマスト細胞では負の相関がみられた。関節液中の PGD2量は、RAの方が有意 に高かったのに対し、 PGE2量は両群間に有意な差は見られなかった。
結論:PGD2は各種炎症モデルで炎症の抑制効果を持つことが示唆されており、この報告と本研究の結果か ら、RAマスト細胞が免疫複合体の刺激によって過剰なPGD2を産生することにより、RAの炎症を抑制し ている可能性が示唆された。