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論文の内容の要旨
氏名:金 子 竜 二
博士の専攻分野の名称:博士(工学)
論文題名:Dopant-Free Organic and Inorganic Hole Transport Materials for Perovskite Solar Cells
(ペロブスカイト太陽電池のための添加剤フリー有機・無機正孔輸送材料)
本論文は,ペロブスカイト太陽電池の正孔輸送材料のための添加剤を用いずに機能する有機半 導体,無機半導体の合成からそれら材料を適用した太陽電池の特性評価を通して,添加剤フリー の正孔輸送材料に関する知見を得ることを目的とする.
ペロブスカイト太陽電池は,2009 年に桐蔭横浜大学の宮坂教授により初めて報告された.色素 増感太陽電池の素子構造を基本に色素増感材としてハライドペロブスカイト結晶を利用すること により,光電変換を行うものである.一方で,色素増感太陽電池ベースの素子構造では電解液を 利用するため,それがペロブスカイト結晶の分解に繋がり,変換効率は 4%と一般的な色素増感 太陽電池の変換効率 11%に比べても低かった.しかし,2012 年に固体有機半導体ベースの正孔 輸送材料を用いた全固体ペロブスカイト太陽電池が提案され,その変換効率が 11 %を示し,世 界中で研究開発が始まった.2019年現在,変換効率は25%が報告され,シリコン太陽電池をも凌 ぐ次世代太陽電池として注目を浴びている.従来のペロブスカイト太陽電池の正孔輸送材料は複 数の添加剤を用いることで,高伝導度を確保しており,添加剤の持つ酸化力や吸湿性が,ペロブ スカイト結晶を含む機能層へのダメージを与え,未だ耐久性に課題が残る.そこで近年注目され ているのが,これら添加剤を用いない正孔輸送材料である.添加剤を用いずに高い伝導度を示す 材料探求により,ペロブスカイト太陽電池の高効率と高耐久性の両立を図ることが可能となる.
本論文では,ペロブスカイト太陽電池の正孔輸送材料用の添加剤を含まない有機および無機半 導体の研究に焦点を当てたものである.材料設計,それらの電子特性評価,およびそれら材料を 使用したペロブスカイト太陽電池の光電変換特性の解明を通して,正孔輸送材料設計の基本的な 理解と性能のさらなる向上をもたらすことができた.
本論文は6章より構成されている.
第1章では,ペロブスカイト太陽電池の基本原理から評価方法の理解を促すとともに,正孔輸 送材料の基礎知識,および現状における課題の提示を通して本研究の位置づけを示した.
第2章では,水素結合性TTF誘導体と非水素結合性TTF誘導体を合成し,それらの分子間相 互作用と溶液中の電子特性との関係を明らかにした.水素結合性誘導体のサイクリックボルタン メトリーと分光電気化学測定から,混合原子価状態の形成が確認された.協奏的な分子間相互作 用により超分子集合体が形成し,その中では分子間のTTF骨格で電子的相互作用を発現すること が示唆された.
第3章では第2章で論じたTTF誘導体をペロブスカイト太陽電池の正孔輸送材料に利用し,誘 導体が形成したナノファイバーの電子物性と光電変換特性とを関連付けて論じた.水素結合を含 む分子間相互作用により,形成したTTF誘導体のナノファイバーは,非極性有機溶媒中でオルガ ノゲルを形成し,3 次元ネットワークを形成した.ドーパントを含まないナノファイバーベース の薄膜は高い伝導度を示し,ナノファイバーベースの正孔輸送層を使用したペロブスカイト太陽 電池は,14.5%の光電変換効率を示した.また,異なる掃引方向からの電流電圧特性ではヒステ リシスが小さく,高い再現性を示すことが示唆された.これは,同じ条件下での代表的な正孔輸 送材料を用いたペロブスカイト太陽電池に匹敵する変換効率である.
第4章では,非極性溶媒中のNiOxナノ粒子懸濁液のスピンコーティングにより,密に詰まった 滑らかなNiOx薄膜を正孔輸送層として用いて,光電変換効率向上のためのナノ粒子の界面制御の 有用性について論じた.界面活性剤をナノ粒子の界面に修飾することにより,ナノ粒子がペロブ スカイト層上に密に詰まったピンホールのない層を形成することが示唆された.NiOx の薄膜
(1.20×10-5 S cm-1)の導電率は,代表的な正孔輸送材料のフィルム(5.18×10-6 S cm-1)にくらべ2 倍近く高いことが明らかになった.平滑でピンホールのないNiOx薄膜はペロブスカイト層と電極
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の間の再結合を抑制するため,光電変換効率は,界面制御したNiOxの正孔輸送層を使用すること により,5.5%から13.1%に向上した.
第5章では,ペロブスカイト太陽電池の正孔輸送層としてさまざまな濃度(0.5 mol%-10 mol%)
のコバルトイオン(Co2+)を含むCoドープNiOxナノ粒子を合成し,その電子特性を調査した.
Co ドープ NiOxの薄膜の伝導度が,5 mol%までの Co ドーピングにより 3.83×10-6 S cm-1から 6.20×10 -6 S cm-1に向上した.また,CoドープNiOxのエネルギー準位の調査,正孔輸送層-ペロブ スカイト層界面における励起子挙動の解明により,NiOxに対する Coドーピングは、導電率の改 善と正孔抽出能の低下の2つの効果を持つことが示唆された.CoドープNiOxベースの正孔輸送 材料の場合,導電率向上が正孔抽出能低下の効果を上回り,結果として1 mol% CoドープNiOx
を用いたペロブスカイト太陽電池の場合に最も高い14.5%の光電変換効率を示した.
第6章では,研究成果の総括を示した.
本論文では,添加剤を含まない有機および無機正孔輸送材料のための超分子半導体,界面改質 ナノ粒子,金属ドープナノ粒子を創製した.さらに,材料設計・合成だけでなく,ペロブスカイ ト太陽電池の製作・特性評価まで行った.化学的な材料特性のみならず,工学的な素子作製のプ ロセスまで考慮した材料開発を通して,さらなるペロブスカイト太陽電池の変換効率の向上,耐 久性の向上の可能性を示した.