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はじめに

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(1)

公正価値会計の新展開

今田正

Abstract

The Financial Instruments Joint Working Group of standard setters (the Joint Working Group) proposed a Draft Standard, Financial Instru- ments and Similar Items, in December 2000. This Draft Standard sets out comprehensive set of principles for reporting financial instruments at fair value. These include measuring virtually all financial instruments at fair value, and recognizing virtually all gains and losses resulting from changes in fair value of financial instruments in income statement in the periods in which they arise.

This paper addresses to examine such issues as what does fair value mean and how should changes in fair value be reported? And finally we examine fundamental rationale for using fair value accounting for finan- cial reporting.

Keywords : JWG, fair value accounting, financial instruments

はじめに

JWGは,2000年12月に金融商品会計基準の公開草案「金融商品及び類似 項目」(以下,「基準案」という)を公表した(1)。これは,1997年にIASCとカ ナダ勅許会計士協会(CICA)により公表されたディスカッション・ペーパー

「金融資産及び金融負債の会計処理」(2)をベースに,公正価値測定に基づく 金融商品会計の包括的基準を提示したものである。これはすべての企業とす

べての金融商品について公正価値会計の全面適用を計ったものである。すな

はち,JWGは次のような認識・認識の中止,公正価値測定,利益の損益計

(2)

算書表示及びリスクの開示に関する基本原則からなる包括的基準案を示し た 。

(1)公正価値がすべての金融商品に関して最も目的適合性の高い測定属 性であるというディスカッション・ペーパーの結論を踏まえ,金融 商品の公正価値について財務報告目的上で十分に信頼性ある見積り が可能であるという結論を下だしたこと

(3)

(2)

金融商品を公正価値で測定することにより生じるすべての損益を発 生時の損益計算書に認識すること。

(3)企業は資産又は負債を生じさせる契約上の権利又は義務を有すると

き金融商品を認識し,関連する権利又は義務を有しなくなったとき は金融商品(又はその構成部分)の認識の中止か要求されること。

(4)財務諸表上の表示及び開示は企業の重要な財務リスクに関してリス

ク・ポジションと業績の評価を可能とするものでなければならな い , としたことである。

これら基準案の基本的枠組みと結論は

1999

12

月にアメリカ

FASB

の予 備的見解

(Preliminaη Views)r

公正価値による金融商品及び関連資産・負 債の報告」にも示されたところであり(4),それらはすべての金融商品を資産,

負債として公正価値をもって報告する上での概念及び測定問題にその焦点が 置かれている。

金融商品会計の枠内とはいえ,このような公正価値会計の全面的適用は,

特に非金融商品に関する原価主義会計との一貫性は如何なる論理をもって果 されているのか,以下,その論理の構造とそれが持つ会計的意味を検討する。

(1)  Joint Working Group of StandardSetters, Financial Instruments and Similar  Items

, 

December

, 

2000. 

(2)  IASC, Discussion Paper, Accounting for Financial Assets and Financial Liabili ties

, 

March

, 

1997. 

(3)  JWG,o.ρ. cit., pp. ivi. 

(4)  F ASB

, 

Preliminary View

, 

Reporting Financial Instruments and Certain Related  Assets and Liab

i 1

ities at Fair Value

, 

December

, 

1999

, 

para.12. 

(3)

1.

金融資産・負債の認識とその論理

金融資産,負債認識の前提は,まず金融商品の定義に求められる。

基準案によれば,金融商品とは, ( a ) 現金, ( b ) 持分金融商品, (c)ある者が他 者に金融商品を引渡すべき契約上の義務とこれを受取る契約上の権利,そし て( d ) ある者が他の者と金融商品を交換すべき契約上の義務と交換を要求する 契約上の権利である。このうち,現金ないし金融資産を受取るか金融商品を 交換する契約上の権利が金融資産であり,現金ないし金融資産を引渡すか金 融商品を交換する契約上の義務が金融負債である(1)。すなはち,企業は金融 商品について契約上の権利を有する場合また場合にのみ金融資産を認識し また金融商品について契約上の義務を有する場合また場合にのみ金融負債を 認識すべきであるとする

(2)

このように,金融商品はある企業に金融資産か他の企業に金融負債或いは 持分商品を生じさせる何らかの契約であり,金融商品会計はこの契約上の権 利・義務を金融資産・負債として認識するのである。

では,金融資産・負債とは何か,資産,負債たる他の非金融項目との一貫 性は如何に論理化されるのか。これについて,

]WG

は金融商品と非金融項 目とには実際に差異が存在し,このことが異なった会計思考をもたらすとい フ 。

金融商品は現金や他の金融商品を直接受払いする契約上の権利・義務を表 している。一方,非金融項目は将来キャシュ・フローに対してより間接的で,

非契約的関係しかない。企業の非金融資産(原材料,機械装置,前払費用ある いは無形資産)は全て生産過程に投入され,他の資産と共に生産活動に用い られることによって効果的に財貨や用役に変換され,販売されねばならず,

それ以前に現金を受取る権利は生まれない。非金融資産の意味はいかに効率

的に生産や収益生成過程で用いられるかにある。歴史的原価基準と実現基準

の下では非金融資産はそれらが費消されるか,収益実現の時まで原価基準で

(4)

計上される

(3)

これに対して,金融商品の経済的意味は取引や実現過程に依拠せず,現金 を受取る契約上の権利或いは支払うべき義務という現在の契約価額によって 決定される(4)。このようなことから,金融商品の認識と測定のあり方は非金 融項目にとっての原価基準の制約を受けるべきではない。非金融商品を原価 基準で計上し,金融商品については公正価値で認識・測定することに区分可 能であるという。このように,資産を金融資産と非金融資産項目という二つ の概念に区分し,二元論的評価を論理づけるのである

(5)

(1)  ]WG, Financial Instruments and Similar Items, para.7, Basis for Conclusions,  para. 2.13. 

(2)  Ibid.

, 

para. 31. 

(3)  Ibid., Basis for Conclusions, para. 2. 17.  (4)  Ibid., para. 2. 18. 

(5)  Ibid.

, 

para. 2.19. 

この観点に立つものとして,例えば,石川純治教授は「現行の原価主義会計に 基礎をおく成果計算は財・サービスの生産・販売という実物経済活動の成果計算 が想定されてており,そこに金融。財務活動の成果計算をも含むかたちで取り込 むことには本来的に無理があるように思える。「原価・実現」の枠組みを拡大し て,それを金融・財務活動の成果計算に拡大適用するには,両者の経済活動およ び成果計算の性格は違いすぎるように思える」と述べられている(石川純治著

『時価会計の基本問題』中央経済社,平成12 235 ‑236)

武田隆二教授は,時価評価を産業構造と関連づけ 2つの類型,すなはち,プ ロダクト型市場経済を背景とした「時価主義会計」とファイナンス型市場経済を 背景とした「時価会計」に区分した立論を行っておられる(武田隆二「会計学認 識の基点Jr企業会計.n20011月号, 7)

また,高田正淳教授も利益測定と時価会計に関連し,資産の質的特徴から2

類の資産,事業資産と金融資産とに区分する立論をもって時価会計を論じておら れる(高田正淳「利益測定の視点からみた会計情報と時価会計Jr企業会計」

2001

4月号 4)

(5)

.公正価値測定の論理

( 1 )   公正価値測定の原則

基準案は,企業は金融商品をその認識時に公正価値で測定し,また以後の 各測定時においても公正価値をもって再測定しなければならないとする(1)。

まず公正価値とは, I 企業が独立第三者間の交換取引において当該資産を 売却するとすれば受取るであろう見積価額であり,負債を決済するとすれば 支払われるであろう見積価額である

J2)

。すなはち,金融商品の公正価値は市 場出口価格である

(3)

このように,出口価格こそ金融商品の公正価値の測定において最も適合的 尺度であると結論づけるのであるが,その論理はこうである。

企業が現に保有し又は債務を負う資産又は負債の出口価格は市場が測定日 において実現すると期待する金額を反映している。たとえば,資産はそれが もたらすキャッシュ・フローの期待経済便益として定義されるのであるか ら,金融資産の出口価格こそこの定義と一貫性を有している。同様に,負債 は企業資源の将来アウト・フローが見込まれる現在の債務として定義され る。すなはち,金融負債の出口価格は企業が当該負債を決済するのに犠牲に しなければならない将来資源の市場の見積現在価値

(currentvalue)

を意味 するというのである(4)。

次に,市場出口価格を用いて公正価値を見積もることができない場合はど うか。その場合は市場参加者が価格の設定において考慮する評価法を用いて 公正価値を見積もらねばならないとする

(5)

以上から,金融資産の測定は当該資産を売却したとすれば受取るであろう

額を見積ることである。また金融負債の測定方法は当該負債を第三者が引き

受けるとした場合,またはその負債を償還するとした場合に支払わねばなら

ない額の見積りである

(6)

。このような金融商品の公正価値の見積法のなかで

中心に位置づけられているのが現在価値法である。すなはち,金融商品の市

(6)

場出口価格こそ市場参加者の期待キャッシュ・フローの現在価値の集約的見 積りを表しており,それは市場参加者の将来キャッシュ・フローの金額,

時期及び不確実性についての見積りを反映しているというわけである(7)。

具体的なその適用においては,予測キャッシュ・フローの現在価値の見積 法として①割引率修正アプローチ,②キャッシュ・フロー修正アプローチを あげている。割引率修正アプローチは,固定キャッシュ・フローでリスクが 信用リスクのみである場合に有効であり,キャッシュ・フロー修正アプロー チは,キャッシュ・フローの時期及び金額に不確実性がある場合に優位性を

もっという

(8)

(2) 

公正価値の測定属性

公正価値の測定属性を出口価格に求める論拠については既にみた。 JWG は「使用価値

J(valueinuse)

, 

r

回収可能価額

J(recoverable amount)

あ るいは「剥奪価値

J(deprival value)

といった「企業にとっての価値」に関 係する諸属性はとらないという

(9)

ところで,資産の使用価値とは,企業による資産の使用とその最終的処分 によって得られると期待される将来キャッシュ・フローの現在価値について の経営者の最適見積りである。したがって,使用価値は企業が金融資産から 純キャッシュ・フローを生み出すことのできる能力についての経営者の評価 を考慮、に入れた企業固有の測定である。金融資産の使用価値はその市場出口 価格を上回ることもあれば下回ることもある。企業は金融資産の使用価値が その市場出口価格を上回る場合は当該資産を保有し続け,逆の場合は売却す るであろう。このことから,金融資産価値を真に反映するのは使用価値と正 味実現可能価額とのより高い方であり,これを回収可能価額という

(10)

また一方では,企業にとって金融資産の真の価値は当該資産が剥奪された

とすれば蒙るであろう損失の額,すなはち剥奪価値である。資産の剥奪価値

は次のような条件に依拠している。もし企業が当該資産を収益的に用いてい

(7)

れば,その資産の最も収益的使用における価値(すなはち,回収可能価額)は その取替原価(すなはち,現在取替原価であり,市場入口価格)を上回る。この ような条件のもとでは,企業はもし当該資産が剥奪されるとすればそれを取 り替えるであろう。したがって,剥奪価値はその現在取替原価となる。しか しながら,金融資産がもしその取替原価が回収可能価額を上回る場合は取り 替えられないであろう。このような条件のもとで,もし企業が当該資産を剥 奪されるとすれば,その損失は回収可能価額に限定されるであろう。要する に金融資産の剥奪価値はその現在取替原価と回収可能価額とのより低い方で あり,その回収可能額とはその正味実現可能価額と使用価値とのより高い方 である(11)。

このような測定属性に関して,

]WG

は金融資産の測定について入口価格 も使用価値属性も採らないというのである。特に使用価値について,それは 市場価格が得られる場合でも見積りと仮定に依存しており,また企業聞の比 較もできない。使用価値の目的はキャッシュ・フロー,市場条件及びその他 の不確定要素に関する経営者の期待に基づいた現在価値やその他の測定法を 適用することにあるが,いずれにしても金融商品測定の標識は経営者の期待 ではなく市場の期待であるべきであるとして,市場価格を強調するのであ る ( 1

2)

(3) 

金融負債の公正価値測定

基準案の特徴は,金融負債の見積り出口市場価格は負債に固有の信用リス クを含め,金融資産の価格と同様に市場要因の影響を反映しなければならな いとし(1

3)

,企業自身の信用リスク要素を測定に含めることが提案されてい ることである。

①  当初認識の測定

一般に,企業がキャッシュ・フロー割引法を用いて市場出口価格を見積も

る必要がある場合,企業自身の信用リスク要因が期待キャッシュ・フロー又

(8)

は割引率のなかに組み込まれている。債務の公正価値は負債に固有の信用リ スクを反映しているというのである(1

4)

。たとえば,企業が現金を借り入れ る場合の信用リスクの影響は明確に観察可能である。確定額支払契約につい て信用状態のよい企業は弱い企業より多くの金額を受取ることになる。

2

つ の企業が共に

5

年間に

500

を支払うという契約を仮定しよう。信用状態のよ い企業は

6

パーセントを支払うとすれば,それは

374

を受取る。信用状態の 悪い企業は

12

パーセントを支払うとすれば,約2

84

を受取る。このように両 者は当初認識において,それぞれ負債を公正価値,すなはち各企業の信用リ スクをおり込んだ受取収入額で記録することになるというのである(1

5)

② 

認識後の測定

認識後もまた,金融負債の公正価値は当該負債についての市場のリスク評 価に従って変化する。社債の市場価格がその例で,発行者の信用リスクが改 善すれば(低下すれば)その市場出口価格は上昇する(下落する)であろう。

ただし,信用リスクの変化に伴う負債の公正価値の変動を認識することが財 務諸表の利用者にとって適合的であるどうかの批判も多い。特に,企業の信 用リスクが悪化した場合には(金利は上昇し)当該負債の公正価値はにの金 利で割引かれた現在価値として)低下し,企業は利益を計上することになる。

すなはち,信用度の低下が当該企業に利益を生み出すということは以外な結 果であるが,それは以下のような説明可能な経済的根拠があるという(1

6)

a.

ある企業の信用リスクの変動が負債の公正価値に与える効果を認識す ることはそれら債務の現在負担額を反映する上で必要なことである。契 約上の債務支払額はその信用リスクによって影響されることはないとし ても,信用リスクの変動の結果,企業の財政状態は変動する(たとえば,

発行負債証券の約定金利を市場金利が上回る場合,この低い約定金利によって将 来の利払いが節約される分は,現在価値に割り引かれて負債証券の時価を引き下 げる)

(17)

b.

信用状態の変化は株主および債権者の企業資産に対する請求権の相対

(9)

的な地位に変化をもたらす。企業の信用リスクが悪化すると債権者の請 求権の公正価値は減少する。その結果,株主の残余持分は増加すること になる。しかし,多くの場合信用状態の変化から生じる利益も信用状態 そのものの低下を引き起こした損失や資産の引下げ効果によって相殺さ れることになる。

C.

負債の測定において企業の信用リスクの変動効果を考慮に入れないと いうことは負債聞の経済的な相違を無視することになる,と。

以上のような負債の測定において信用リスクの変動の公正価値効果を含め ることについては,それらは外的要因というより企業の内的要因によるとい う意見もある。

これに対して, JWGは,その効果については馴染みのないものであるが,

それは市場参加者が貸出金の金利を評価する仕方に確実に反映されている。

たとえば債権の公正価値の変動は外部からなされ,それは企業の支払能力に ついての市場の評価を反映しているという(1

8)

では,その具体的な処理はどのようになるのか。基準案は企業の利付負債 の信用リスク変動の結果生じる純損益を単年度並びに累積額として開示する ことを要求し,これによって利用者が自身に対する影響を判断するうえでの 基礎的情報が得られるとするのである(1

9)

(1)  JWG

, 

Financial Instruments and Similar 

I t

ems

, 

para.69.  (2)  Ibid.

, 

paras.28 

, 

70. 

(3)  Ibid., para.71. 

(4)  Ibid.

, 

Basis for Condusions

, 

para

. 4 .  

2.  (5)  Ibid., para.l 04. 

(6)  Ibid., para.l05.  (7)  Ibid., para.1l0.  (8)  Ibid.

, 

paras.34 7350. 

(9) 

JWG ,

o

ρ .  

cit.

, 

Basis for Condusions

, 

para

. 4 .  

9. 

Barth

, 

M.E.

, 

Valuationbased accounting research: Implications for financial 

(10)

reporting and opportunities for future research, Accounting and Finance, 40,  (2000) , p.22. 

イギリスの「会計原則書」は現在価値を主張し,入口価値,出口価値,使用価 値のうちから最適価値を選ぶとするが,このことは結果的に「企業にとっての価 J(the value to the business)を選ぶことになるとする。

(lo)  Ibid.

, 

Basis for Conc1usions

, 

paras.4. 6

, 

4.7. 

企業にとっての資産の使用価値とは,企業による当該資産の使用及び最終処分 によって得られると期待される将来キャッシュ・フローについての経営者による 最適見積りである。したがって,それは金融資産からもたらされる平均額を超え る純キャッシュ・フローを生み出す能力についての経営者の評価を考慮、に入れた 企業固有の測定を意味する (Jbid.para.4.5)

IASC

IAS36

, 

1mρairment 01 Assets

, 

para. 5 

FASB

, 

Statement 01 Financial Accounting Concepts No. 

7 , 

Using Cash Flow In formation and Present Value in Accounting Measurements

, 

February 2000

, 

para.  24. 

( 1

 

Ibid., Basis for Conc1usions, para.4. 7 

0

Ibid.

Basis for Conc1usions

, 

para.4. 9.  (l3)  Ibid., Basis for Conc1usions, para.118. 

(1~ Ibid.

, 

para.120

, 

Basis for Conc1usions

, 

para.4. 50.  (l5)  Ibid., Basis for Conc1usions, para.4. 51. 

(l6)  Ibid.

, 

Basis for Conc1usions

, 

para.4. 51. 

0

Ibid.

Basis for Conc1usions

, 

para.4. 55.  (18)  Ibid.

, 

Basis for Conc1usions

, 

para.4. 56.  (l9)  Ibid., Basis for Conc1usions, paras.4. 60 4.61. 

3.

公正価値変動損益の計上の論理

基準案は企業は金融品の収支を調整した後の公正価値の変動はそれらが発

生した期の損益計算書上に認識し,また受取利息および支払利息は歴史的原

価ではなく公正価値に基づいて計上するとする(1)。すなはち,金融商品公正

価値の変動は利益(損失)であり,その発生時の損益計算書上に認識し表示

(11)

されねばならないとする。

では,公正価値変動損益の計上の論理とその意味するところは何か。

( 1 )   公正価値利益の機能

]WG

は公正価値利益をその資本維持と予測価値の概念において論理化す

まず,伝統的に利益概念は企業資本維持概念に基礎を置いてきたが,それ は,利益は資本を維持した上で持分所有者に分配可能な金額と定義されてい る

(2)

。資本市場の観点からは,金融資産の公正価値の増加は利益であるが,

それは現在市場収益率を稼得することによって金融資産に投下された資本額 を維持した上で持分所有主に配分可能な金額を表している。換言すれば,公 正価値基準によれば,資本の維持は資産が生み出す市場の期待将来キャッシ ュ・フロー額をリスクを反映した現在市場収益率で割ヲ│いた現在価値額であ る

(3)

たとえば, A社は3年満期のゼロ・クーポン債10000を購入し,それについて公 正価値7938(実質年利回り 8 %で割りヲ│いた現在価値)を支払うとしよう。 1 度末に,この2年物債券の将来利回りが8 %になると期待されるとすれば,この債 券の価値は8573ドルに増加するであろう。そこで,このリスクの債券の市場金利 が第1年度末に10%に変動したとしよう。もしA社が利益635 (8573 ‑7 938) 認識するとすれば,それは現在市場収益率の稼得という点では8573との関係でみ れば,その投資は8 %を稼得できるに過ぎないのであるから資本の維持を計ったこ とにならない。合理的な投資家であれば第1年度末に市場で10%が得られる場合に 1年度末に8 %の収益率は受け入れ難いであろう。市場で現在得られる利回りを獲 得することによって資本維持を計るためには, A社はその投資額を期待将来キャッ シュ・フローを10%で割りヲ│いた現在価値,すなはち公正価値 (8264)まで切り 下げなければならない。当期当社の利益は受取利息635(当期間中の市場の利率8

%)から第1年度末の市場金利の上昇に起因する309の損失 (8573‑8 264)を差 しヲ│いた金額として示される(4)。

(12)

このような公正価値利益概念に対して,歴史的原価利益は以上のような資 本維持機能を持たない。歴史的原価利益は経済事象が市場価格に変動を及ぼ した時ではなく,その実現の時に認識される。たとえば,金融資産の原価は ただその取得ないし発行時の期待キャッシュ・フローの現在価値を表すにす ぎない

(5)

。原価ではなく公正価値で利益を認識することの効果は事象の公正 価値効果がその発生時に反映されるということにあるという

(6)

この点とも関連して,金融商品の公正価値測定は予測目的にとっても有用 である(7)。金融商品の将来の損益計算書効果についての信頼性ある予測は単 なる過去の損益から推定できるとは思えない。経済事象変動の損益効果をそ の発生時に認識することは十分なる予測に基づいて原因と結果を分析する上 で欠かせないと説くのである

(8)

(2) 

利益認識の論理

金融資産・負債の公正価値測定から生じる損益を損益計算書上に計上する ことは如何に論理化されるであろうか。

まず,金融商品の公正価値変動から生じる未実現損益を損益計算書に認識 することは非金融的事業活動の会計についての利益認識基準(たとえば,生 産活動からの収益は販売によって実現するまで一般には認識されない)と矛盾する

という論点である

(9)

これについて,

]WG

は,第一に,生産活動による収益獲得目的に保有さ れる非金融資産と金融資産・負債については異なった会計思考を生ぜしめ る(1

0)

。第二に,売買目的の金融商品の未実現損益を認識することは一般に 受け入れられているところであるが,同ーの金融商品について(保有目的か 売買目的かの) I 経営者の意図」の如何によって未実現損益を認識することは 一貫性を欠くという

(11)

つぎに,金融商品の公正価値損益は異なった特質と意味を持つのであるか

ら,損益計算書外(すなはち,持分計算書に区分表示するか,その他の業績計算書)

(13)

に表示すべきだという論点である(1

2)

これに対して

]WG

は ,

0)

ある金融商品の損益を損益計算書の外部に表示 することは公正価値利益の経済的意味を唆味にし,予測と会計責任の基礎と しての有用性を減じる。

(ii)

金融商品について伝統的原価あるいは混合利益モ デルとはなにか,また何を表すか不明である。金融商品に関する損益を一つ の損益計算書のなかに特に際立たせることは透明性の目的にも適うとい う ( 1

3)

]WG

はこのような基本的見解に立ち,実現損益のみを認識することは金 融商品に関する原価基準会計の欠点を永続させることになる(1

4)

。また,実 現,未実現損益を区分することに情報価値があることを認めるが,それらは 未実現損益を損益計算書から排除することについての根拠とはならないと主 張するのである(1

5)

(1)  JWG

, 

Financial Instruments and Similar Items

, 

paras.136 

, 

139

, 

Basis for Con c1usions, para.6.1. 

(2)  Ibid., Basis for Conc1usions, para.6. 3.  (3)  Ibid., Basis for Conc1usions, para.6. 4.  (4)  Ibid.

, 

Basis for Conc1usions

, 

para.6. 5.  (5)  Ibid.

, 

Basis for Conc1usions

, 

para.6. 6.  (6)  Ibid., Basis for Conc1usions, para.6. 7.  (7)  Ibid., Basis for Conc1usions, para.6. 8.  (8)  Ibid., Basis for Conc1usions, para.6 .10.  (9)  Ibid., Basis for Conc1usions, para.6 .15.  (10)  Ibid., Basis for Conc1usions, para.6 .15. 

( 1 1 )  

Ibid., Basis for Conc1usions, para.6 .15. 

Ibid., Basis for Conc1usions, para.6 .17 . 

( 1 3 )  

Ibid., Basis for Conc1usions, para.6 .18.  (1~ Ibid., Basis for Conc1usions, para.6. 20.  (15)  Ibid., Basis for Conc1usions, para.6. 21. 

(14)

.公正価値会計の論理構造

( 1 )   公正価値の意味

以上にみた全ての金融商品を公正価値で測定し,公正価値の変動損益をそ の発生時の損益計算書上に認識するという結論は既に

IASC

I ディスカッシ ョン・ペーパー」において(1),また

FASB

の「予備的見解」等において方 向づけられてきた。

公正価値がなにを意味するか,それを市場出口価格に求めるということは,

その定義自体からも導き出されるところである。すなはち,公正価値は企業 が通常の交換取引において,報告日に資産を売却するとすれば受取るか負債 を解除されるとすれば支払われねばならないであろう見積額である。それは 市場取引において決定される見積出口価格であり,この出口価格こそ期待キ ャッシュ・フローの現在価値に関する市場の見積りを表しているとされるの である

(2)

このように,公正価値は現在市場価格に基づく情報であり,この将来キャ ッシュ・フローの現在価値についての市場の評価を表している価格に基づく 情報こそ,古い市場価格に基く情報より適合的であるというのである

(3)

。い ま,金融負債についても公正価値測定を行うという場合を,設例をもって示 そ う ( 4 ) 。

2002

12

31

日 ,

y

社は固定金利

8%

付きの1,

000

000

ドルの

8

年満期社債を発行 し ,

z

社も同様に1,

000

000

ドルの

8

年満期社債を発行したが,その金利環境はより 不利で,その金利は

14%

である。両社の信用度は同等とし,

2002

12

31

日,市場金 利が

12%

に変化したとしよう。

取得原価基準によれば,両社は

2002

12

31

日の貸借対照表上に社債1,

000

000

ド ルを計上することになる。しかし,同日における

Y

社の社債の公正価値は

899

000

ド ル , z 社社債のそれはし

101

000

ドルである(両社の公正価値は満期利回り

12%

に相

)

以上を

2002

12

31

日における両社の原価基準による財務諸表とその他の関連数値

を要約すれば次の通りである。

(15)

1

Y

Z

02

12月31

日の発行社債額

1

000

000

l

1000

000

l

レ 支 払 利 息

100

000  140

000 

社債の公正価値

899

000   1101

000 

経済的利益(損失)

101

000  (101

000) 

取得原価基準の場合,投資者にとっての情報は第二欄までで,情報としての適合 性に欠ける。

いま,

2002

12

31

日に両社がその発行社債を買入償還すると仮定すれば,同 日の両社の財務諸表上に次のような金額として計上される。

2

Y

Z

02

12

31

日の発行社債額

0l

2002

年についての支払利息

00%及び14%) 100

000 

満期前償還に伴う実現損益

101

000 

0l

140000  (101

000) 

すなはち,

Y

社の損益計算上に金利上昇に伴う経済的利益が計上され,逆に

Z

社は 損失を計上することになる。しかし,

Y

社が利益を認識するためには有利な金利の社 債を償還しなければならなかった。もし,

Y

社が

899

000

ドルを負債の償還に用いず,

その資金を自己の事業に投資したとすれば,より高い利益を得たかもしれない。また,

もし

Y

社が引き続き資金が必要であるとすれば,より高い現行金利で調達されねば ならない。

Y

社にとってはその資金の投資としては社債の償還が最適方法であったと はいえないことになる。

他方,

Z

社は市場金利を超える利率の社債を償還したのであるから損失を計上した。

それは

Z

社にとって最適な金の使い方であったかもしれない。

Z

社の選択としては,

社債を発行したままにして

8

年間に渡って市場金利を超える金利を支払い続けること

によって損失を実現するか,いま社債を償還し損失を実現するかの選択に限定されて

参照

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