現在価値測定と負債の測定
今田正
Abstract
This paper discusses fundamental recognition and measurement issues relating to fair value accounting. Especially, our goal is to in- vestigate fundametal accouting implication of using present value in ac- counting measurement.
In October 1997, the Financial Accounting Standards Board issued a Exposure Draft, Using Cash Flow Information in Accounting Measurements. This Statement provides a framework for using future cash flows as the basis for an accounting measurement. That is to say, the Boad's role is incorporating the objectives and conceptual basis for using present value techniques in financial accounting measurement in- to its conceptual framework. So, we analyse two measurement issues relating to present value accountig for liabilities and the implication of identifying three measurement objectives for liabilities.
はじめに
伝統的会計の主要な焦点は,企業活動の投入と産出の過程におかれ,これ ら収益生成の過程の焦点は収益実現,すなはち,企業の投入物が現金ないし 現金等価物に転化する時に置かれた。しかし,これら伝統的実現主義と原価 基準の測定概念は,もはや金融商品の認識と測定といった問題にとって適合 的とはいえないとされる。なぜなら,現在の実務において,特に,多くの金
融派生商品は認識されないが,それは,歴史的原価基準によった場合,金融 派生商品は当初原価を有しないことによる。すなはち,その当初原価はゼロ であるから,それら金融派生商品はその公正価値の変動が認識されなければ,
実際的に捉えられない。また,企業は金融商品価格の変動による過度の損失 に曝されることを避けるという金融リスクのマネイジメントの必要性を益々 認識しつつあり,これらが公正価値評価導入の根拠とされている(1)
確かに,多くの金融派生商品は,伝統的金融商品と異なり,単に契約を反 映するにすぎず,何らの具体的対価の初期移転を伴わないが故に,その大部 分が オフ・バランス"である。また,財務諸表上に認識される場合でも,
金融派生商品に関する実現また未実現損益は損益認識上,関連項目の計上額 の一部,あるいは資産又は負債として繰延べられることになる。
かくて,これらの諸問題から導き出されるところは,全ての金融派生商品 を資産又は負債として認識し,かつ公正価値をもって測定することである。
まさに,各会計基準設定機関が金融派生商品を含む金融商品の認識と公正価 値測定の方向を指向している。 FASB は『公開草案~ I金融派生商品及び類 似の金融商品並びにヘ、ソジ活動に関する会計処理J(問6年6月j2)を, ASB
が『公開草案~
I金融派生商品及びその他の金融商品J(1仰 年7月r
を,IASC は『討議資料~ I金融資産及び金融負債に関する会計処理J(1997年3 月)4)を表わし,公正価値会計を方向づけた。特に注目されるのは, FASBが
『公開草案~ I会計測定におけるキャッシュ・フロー情報の利用J(1997年6 月)5)を表わし,現在価値測定を会計測定一般における基礎概念として「概念 フレーム・ワーク」の一環に位置づけたことである。
現在価値測定という将来予測要素の導入を伴う割引価値計算がもっ会計的 意味はなにか,ここでは負債評価に焦点をおいて検討する。
制
(1) IASC, Discussion Paper, Accounting for Financial Assets and Financial Liabilities,
March 1997, Overview of the Steering Committee's Proposals, para.2. 2.羽Tilson,A.C. and Smith, G.R., Proposed Accounting for Derivatives: Does it Address the Concerns of Current Accounting? Accounting Horizons, September 1997, p.70.
(2) FASB, Exposure Drajt, Accountig for Derivative and Simi1ar Financial Instruments and for Hedging Activities, June 1996.
(3) ASB, DisαtSsion Paper, Derivatives and other Financial Instruments, July 1996. (4) IASC, Discussion Paper, Accounting for Financial Assets and Financia1 Liabilities. (5) FASB, Exposure Drajt, Using Cash Flow Information in Accounting Measurements,
June 1997.
1.公正価値測定の論理
(1) 公正価値概念
資産及び負債の公正価値測定がもっ会計的意味はなにか,まず公正価値の 概念についてみよう。
近年, FASBはいくつかの基準書において公正価値の規定を行っている。
SFAS第107号「金融商品の公正価値の開示J(削年)fをはじめ,SFAS第 115号「負債証券及び持分証券の会計J(附年);2)SFAS第121号「長期性資 産の減損及び処分予定の長期性資産の会計J(1995年),(3)SFAS第122号「モー ゲージ サービス権の会計処理J(問5年
r
を通じてほぼ同じ定義が用いら れてきた。特に, SFAS第125号「金融資産の譲渡及びサービス業務と負債 の消滅に関する会計処理J(1附 年tは以下のように公正価値の定義を行っ ているが,その用語法はSFAS第107号を引き継ぎながらも,一部転換も計られている。
「資産(あるいは負債)の公正価値とは強制売却あるいは清算売却以外で,意思 ある当事者聞の現在の取引において資産(負債)が購入(発生)されるか,売却(決 済)される金額である。活発な市場の公表市場価格は公正価値の最適証拠であり測 定の基礎として用いられることになる。もし公表市場価格が利用できる場合は,公
正価値は取引数量に市場価格を乗じて算出される。
もし公表市場価格が利用できない場合は,その状況下で最適情報に基づいた公正 価値の見積りがなされるべきである。公正価値の見積りは同類の資産また負債の価 格やその状況下で利用できる限りの評価手法の結果を考慮すべきである。評価手法 の例としては,期待将来キャッシュ・フローのリスク調整した割引率を用いた現在 価値,オプション・プライシング・モデル,マトリックス・モデル,オプション・
アジャステッド・スプレッド・モデル,および基礎的分析法が含まれる。……金融 負債やサービス業務負債を予測キャッシュ・フローの割引による公正価値で測定す るにあたっての一つの目的はそれら負債が独立した第三者との取引において負債が 決済される割引率を用いことである」と。
この中で特に注目されるのは, i金融負債を予測将来キャッシュ・フロー の割引による公正価値で測定するにあたっての一つの目的はそれら負債が独 立した第三者との取引において決涜される割引率を用いることであるj)と述 べ,負債評価におけるエクシット・ヴァリュウ・アプローチを方向づけたと ころである。
(2) FASBの公正価値の位置づけ
FASBは,1996年6月, w公開草案ji金融派生商品及び類似金融商品並び にヘッジ活動に関する会計処理j)を表したが,これは,金融派生商品を含む 金融商品全般の認識・測定の基準化が指向されることを意味するが,先ずは,
全ての金融派生商品を契約による権利(義務)に基づき,貸借対照表におい て資産,負債として認識し,公正価値で測定しなければならないとした。)金 融派生商品は現金で決済することができる権利または義務であるから資産ま たは負債である。有利な状況にある金融派生商品を現金を受取ることによっ て決済できるのは,将来経済便益に対する権利の証拠であり,その商品が資 産であることを示している。同様に,不利な状況にある金融派生商品を決済 するために要求される現金の支払いは,将来において資産を犠牲にする義務
の証拠であり,その金融派生商品が負債であることを示している:九するの である。
つぎに,測定問題については,公正価値こそ金融商品について最も適合的 で,金融派生商品について唯一の適合的な測定となるという。
すなはち,金融資産・負債の公正価値は原価ないし原価基準による測定よ り,より適合的で理解し易い情報を提供する。それは過去の取引価格という より実体の金融商品の現在の現金等価額を表しているという:2)特に金融資産 の多くにとって公正価値測定は実践的であり,公正価値測定は市場や類似の 金融商品の市場を参考とすることによる予測によって得られ,また市場情報 が利用できない場合は割引キャッシュ・フロー分析といった他の評価手法を 用いて予測できる(13)これと同じ理由から,公正価値こそ金融派生商品につい ての唯一の測定属性であり,すべての金融派生商品が財務諸表上に公正価値 をもって表示されるべきである,とした?)
このように規定された公正価値測定は,金融資産・負債の測定において具 体的に適用される。公正価値予測は直接には市場に依拠するが,公正価値測 定の特徴は,市場情報が得られない場合には,計算 (ca1curation)モデルた る割引キャッシュ・フロー分析等の予測手法を取り入れることである。特に 注目されるのは,次節にみるごとく,割引キャッシュ・フロー法が単なる計 算モデルにとどまらず,現在価値が会計の基本的な測定属性として位置づけ
られるところであり,会計測定の新たな転換を意味する。
(1) FASB, SFAS No.107, Disc10sure about Fair Value of Financial Instruments, 1991. (2) FASB, SFAS No.115, Accounting for Certain Investments in Debt and Equity
Securities, 1993.
(3) FASB, SFAS No.121, Accounting for the Impairment of Long‑Lived Assets and for Long‑Lived Assets to Be Disposed Of,1995.
(4) FASB, SFAS No.122, Accounting for Mortgage Servicing Rights, 1995.
(5) FASB, SFAS NO,125, Accounting for Transfers and Servicing of Financial Assets
and Extinguishments of Liabilities, 1996. (6) Ibid., paras. 42,43,44.
(7)昂id.,para. 44.
(8) FASB, Exposure Drajt, Accounting for Derivative and Simi1ar Financial Instruments and for Hedging Activities, 1996.
(9)昂id.,para.52. (10)昂id.,para.54. 帥 昂id.,para.55.
(1~ lbid., para.56. (13) Ibid., para.57.
(1~ 昂id. , para.58.
2 . 割 引 現 在 価 値 の 概 念 フ レ ー ム ・ ワ ー ク 化
(1) 会計測定におけるキヤ Yシュ・フロー情報の導入
FASBは, 1997年6月, w公開草案~I会計測定におけるキャッシュ・フロー 情報の利用jl)(以下,単に『公開草案』という。)を表したが,このステイトメ ントの役割は,会計測定の基礎に将来キャッシュ・フローを用いるうえでの フレーム・ワーク化を計ることである。その導入の論理は,会計測定の多く は現金収支額,現在原価,また現在市場価値といった観察可能な市場決定額 を用いてきたが,資産・負債の測定基準として予測将来キャッシュ・フロー を用いることも多く,ここに,現在価値測定の問題が生じるというのであ る。
FASBは,かつてSFAC第5号において,現在用いられている資産・負 債の測定属性として歴史的原価(歴史的収入額),現在原価,現在市場価値,
正味実現可能(決済)価額,及び将来キャッシュ・フローの現在(割引)価 値を掲げた(3)これについて, w公開草案』は,この5つの測定属性のうち,
現在原価,現在市場価値及び正味実現可能価額の3つの属性は当初認識時に おける測定と事後期間におけるフレシュ・スタート測定 (fresh‑start
measurement)に焦点を置き,また,歴史的原価属性については当初認識 時における測定と事後のアモーチゼイションに焦点を置いた。しかし,現在 価値属性についてはアモーチゼイションの利息法 (interestmethod)に焦 点をおき,当初認識時及びフレシュ・スタート測定に用いることには着目し てこなかったというのである(4)
かくて, ~公開草案』の役割は a. 将来キャッシュ・フローの金額又は 時期,あるいはその双方が不確実である場合に,現在価値の利用を支配する 一般原則を示すこと。 b.特に, r公正価値J(fair value)または「実体固 有の価値測定J(entity‑specific measurement)のいずれかを見積もる際に,
会計測定における現在価値の目的を共通に理解させることにある,とした(5)
まず,現在価値計算の特性は測定に貨幣の時間的価値を導入することであ り,予測将来キャッシュ・フローを用いて測定する場合はいつも財務報告上 有効である。それは,予測将来キャッシュ・フローの現在価値は,資産の取 得時に支払った歴史的原価を含めて,全ての市場価格に合意されている。そ の関係は,貸出金あるいは社債といった金融資産に適用すれば明らかであり,
全ての資産に適用される。しかし,現在価値計算の要素はキャッシュ・フロー と金利の結合であり,予測キャッシュ・フローに特有の不確実性とリスクが 反映されねばならないという(6)
そこで, ~公開草案』は会計測定における現在価値の目的を公正価値と実 体固有の価値測定なる予測目的に区分する。その論理はこうである。キャッ シュ・フロー情報に基づく測定は予測と仮定を用いるが,実体固有の予測と 仮定は資産または負債の公正価値のそれとは異なるという(7)実体固有の価値 測定は実体固有の価値を見積もるための予測と仮定を用い,対照的に,公正 価値の測定は意思を有する当事者が,一定の価格をもって市場で取引を行う と仮定する。予測キャッシュ・フローの仮定を市場が行うか,主体的実体が 行うかの差異である。この実体固有の価値測定は時に「使用価値J(value in use)また「実体にとっての価値J(value to the entity)とも称される。以
上から,資産(また負債)の実体固有の価値測定とは, r実体が,対象物を その経済期間に渡り,その使用(また決済)および最終的な処分を通じて実 現する(また支払う)と期待する将来キャ、ソシュ フローの現在価値であるj)
とされる。そして,実体固有の価値測定を選択する場合の理由に次のような 事例をあげる(10)
a.特定の資産・負債の市場価値に関する情報が得られない場合。
b.既存の市場に数少ない取引しかなく,活発な市場の公正価値を正確に 反映しない場合。
C.実体が市場において入手し得る情報よりも,優れた,あるいは異なっ たキャッシュ・フロー情報を持っている場合。
d.実体が,市場における他者が持っていないような特別な技術またはプ ロセスを持っている場合。
特に e.として掲げる, r実体が,最も高い利用又は最も効率良い決済 という,市場の観点、とは異なる方法で資産を利用し,負債を弁済する計画を もっている場合」という事例は実体固有の価値測定の概念に近く,まさに資 産,負債の評価を主体的かっ主観的に行うという実務を許容する枠組みを用 意したものであるとみられるのである。
(2) 期待キャッシュ・フ口一概念
つぎに,現在価値による会計測定に伴う不確実性とリスクを反映させる方 法は,キャシュ・フローをリスクに相応した利子率で割り引くか,いま一つ は,キャッシュ・フローを修正してリスク・フリーの利子率で割りヲ│くかで ある(ll)適切な利子率の見積りは,契約によりキャッシュ・フローの金額と時 期が約定されているときには容易であるが,約定されていないときには適当 な利子率が入手できないため,予測キャッシュ・フローの修正が必要とされ る。
ところで,現在価値の適用にあたっては,典型的には一つの予測キャッシ
ュ・フローと単一の金利が用いられてきた。特に,アメリカでは,キャッシ ュ・フローの時期や金額が契約によって確定している場合に現在価値の利用 が受け入れられてきたとされる。
これに対して.~公開草案』は,現在価値の伝統的アプローチに替えて「期 待キャッシュ・フローJ(expected cash flow)概念を導入した。期待キャッ シュ・フローとは一定範囲の予測キャッシュ・フローの確率によってウェイ トづけされた平均値であるとされ,伝統的アプローチとの差異は次のような 点にあるという。
a.期待キャッシュ・フロー・アプローチは,測定に用いられる諸仮定に ついて明示的な表明を要求する。逆に,伝統的アプローチは,契約上の キャッシュ・フローまたは最大のキャッシュ・フローを用い,その他の 要素は利子率の中に黙示的に反映されていると仮定する。
b.期待キャッシュ・フロー・アプローチは,一つの可能性の高いキャッ シュ・フロではなく,可能性あるキャッシュ・フローの全ての期待値を を用いる。例えば,キャッシュ・フロー金額が,それぞれ10%.60%. 30
%の確率で.100ドル.200ドル.300ドルであると仮定した場合,期待 キャッシュ・フローは.220ドル(100x 0.1 +200 x 0.6+300 x o. 3)と なる。期待キャッシュ・フローは最大見積りに基づく伝統的アプローチ によった場合の200ドルとは異なる。
c.期待キャッシュ・フロー・アプローチは,不確実性やリスクについて の明示的な表明を要求する。
d.期待キャッシュ・フロー・アプローチは,キャッシュ・フローの時期 が不確実であるとき,現在価値法の利用を認める。例えば. ,1000ドル のキャッシュ・フローがl年目.2年目.3年目にそれぞれ10%.60%. 30%の確率で受け取られるとした場合,期待現在価値は898.61ドルとな
り,伝統的な最大見積り907.03ドル (60%の確率)とは異なる。
デフォルト・フリーの投資の金利 5%
5 %で割引L、たl年目の1,000ドルの現在価値 952.38ドlレ
確 率 10.00% 95.24ドル
5 %で割引いた2年目の1,000ドルの現在価値 907.03ドlレ
確 率 60.00% 544.22 5 %で割ヲ│いた3年目の1,000ドルの現在価値 863.84ドル
確 率 30.00% 259. 15
期待現在価値 898.61ドル
FASBは,期待キャッシュ・フローは,現在,継続的に用いられてはい ないが,年金,退職後給付,保険債務といった特定の会計測定に専ら用いら れている。最近,それらは,強制ではないが,貸出金,長期資産の減損等の 測定にも認められているという。)すなはち,実務に用いられていることを前 提としながら,一定範囲のキャッシュ・フローの確率によってウェイトづけ された平均値の手法のみを意味する用語として概念フレーム・ワークに位置 づけたのである。
(1) FASB, Exposure Drajt, Using Cash Flow Information in Accounting Measurements. (2)昂id.,para.1.
(3) FASB, SFAC No.5, Recognition and Measurement in Financial Statements,1984, para.67.
(4) FASB, Exposure Drajt., op.cit., paraふ (5)昂id.,para.9.
(6)昂id.,paras.l3, 16, 19.
(7)(8)昂id.,para.40. ASB, Working Pape ,rDiscounting in financial reporting, Apri11997, para.3.1.
(9) Ibid., para.43. ASB, Exposure Drajt, Statement of Principles for Financial Reporting, November 1995, para.5.7.
(10)昂id.,para.41. Úl)(l~ 昂id. ,para.25.
(l3)昂id.,para.34.
的 昂id.,para.35.この概念は,既に, 1996年にFASBプロジェクトにおいて,新しい会 計概念として導入されている (FASB, Special Report, The F ASB Project on Present Value Based Measurements, an Analysis of Deliberations, Upton, W.S., Jr., 1996, p. 49. )0
(15)昂id.,para.36.
3.現在価値と資産・負債の測定
(1) 資産の現在価値測定
さて,資産,負債の測定における現在価値測定はいかに論理づけられるの か。それは,その測定属性を将来事象たるキャッシュ・フロー概念に求める ことである。
資産は,通常,取引における支払価額あるいは観察可能な市場価値といっ た観察可能な属性を用いて測定される。もし観察可能な尺度が得られないか,
実体に固有の金額を開発することが測定目的である場合には,会計人はキャ ッシュ・フロー情報に依拠することになる,という。すなはち,予測将来キ ャッシュ・フローをその現在価値で報告することは,非割引額で報告するよ り,より適合的情報を提供することになるというfそして,資産測定におけ る現在価値法の適用に関する一般原則を次のように示した(3)
a.予測キャッシュ・フローと利子率は,一つまたグループ資産を独立した第三者 との取引において取得するか否かを決定する際に考慮するであろう全ての将来事 象と不確実性についての諸仮定を反映すべきである。
b.利子率は,予測キャッシュ・フローに固有の諸仮定と一貫した諸仮定を反映す べきである。たとえば,契約上のキャッシュ・フローに通常適用される利子率は 将来のデフォルトについての期待を反映するであろう。これと同じ利子率が期待 キャッシュ・フローを割り引くために用いられるべきではない。
c.予測キャッシュ・フローと利子率は,一つまたグループ資産に関係のない偏見
や要因に束縛されてはならない。
d.予測キャッシュ・フローまた利子率は,可能性ある単一の金額ではなく,一定 範囲の可能性のある結果を反映すべきである。
(2) 負債の現在価値測定
前述の資産の測定の一般原則は,負債の測定と現在価値の関係にも適用さ れるが,負債の測定は,資産のそれとは異なり,異なった測定目的を持ちう るとされるfFASBは,以下のような三つの負債に関する測定目的を識別 した。
「資産としての公正価値J(Fair value as assets) 社債の市場価格のよ うに,ある実体の負債を他の実体が資産として保有することを希望する価額 である。例えば,ローン収入額は,貸し手が借り手の将来キャッシュ・フロー の約束を資産として保有する際に支払う価格である。同様に,社債の公正価 値は,それら証券が市場において資産として取引される価格である、いう。
すなはち,資産の歴史的原価(また取替原価)概念に相当し,負債をその収 入額で測定することを意味すると解される。
「決済における公正価値J(Fair value in settlement) 実体が第三者に 負債を引き受けてもらうために支払わなければならない金額で、あるfこの公 正価値の尺度として決済の公正価値に着目したプロナウンスメントにSFAS 第125号がある(9)決済の公正価値は現在の取引を予定する。したがって,決 済の公正価値の見積りに用いられる仮定のキャッシュ・フローは独立の第三 者が当該債務を引受けるのに要求する価格設定の際に期待する金額を反映す べきであるとされる。
「実体による決済の価値J(Value in settlement by the entity) 実体が 将来において債務を決済するために支払うと期待する金額であり,負債の実 体固有の価値測定をいう:たの場合,実体による決済は債務の全期間に渡つ ての決済を予定する。したがって,仮定のキャッシュ・フローは実体が負う
と見込まれる金額を反映すべきであるとされる;2)
なお,負債の公正価値を他人がそれを資産として保有する価値で測定する 場合,デ、フォjレト リスクに関する修正が必要となる(13)対照的に,決済の公 正価値は実体がその債務を他者をして引受けさせるのに支払わねばならない 資産(現金)額であり,一旦,第三者が債務を引き受けた場合,実体の支払 能力は無関係である。同様に,実体による決済の価値測定はデフォルト・リ スクに関する修正を反映すべきではなく,決済に際し支払う資産価値による,
とされる。
(1)(2) FASB, Exposure Draft, op.cit., para.49. (3)昂id.,para.50.
(4)昂id.,para.51. (5)昂id.,paras.52, 53. 54. (6)昂id.,para.52.
(7) Ibid., para.52.すなはち,歴史的収入 (historicalproceed)また借換収入 (replace‑ ment loan)を含む概念と解される。
(8)昂id.,para,53.
(9) SFAS第125号は,前述のように.I予測将来キャッシュ・フローの割引による公正 価値による金融負債の測定において,一つの目的はそれら負債が独立した第三者との 取引において決済される割引率を用いることである」と述べ,包括的エクシット・ヴ ァリュウ・アプローチを採用したのである (Perry,R.E.,ed., Accounting for Deriva‑ tives, IRWN,1997. p.267.)。
(10) F ASB, Exposure Draft, op.cit., para.53. (11)(17)昂id.,para.54.
(13)昂1・'d.,para.55. (1~ Ibid., para.56.
4.負債評価の論理とその意味
FASBは,かつて,財務報告の第一義的目的は企業のキャッシュ・フロー 見込みに関する金額,時期及び不確実性についての評価の助けになる情報を 提供することであるとした。財務諸表の多くの項目がその計上にあたって見 積り,仮定また判断にその基礎をおいている。そして,この将来予測の会計 の基礎をなしているのが公正価値の概念である。公正価値評価を支える大き な要素は,先ずは予測可能性にある。例えば,金融商品の公正価値は将来キ ャッシュ・フローの予測の優れたた基礎となる。なによりも,公正価値は実 体の保有する金融商品の,過去の取引価格ではなく,現在の現金等価額を表 している。すなはち,公正価値は将来キャッシュ・フローに関する情報が市 場を通じて組み込まれており,市場の評価を表している,とされるのであ
る;2)FASBは, SFAS第107号において次のように規定した(3)
「金融商品の公正価値は直接,また間接にそれに具現される純将来キャッシュ・
フローを,現在の金利と市場のキャッシュ・フロー・リスクの評価の双方を反映し て割り引いた現在価値に関する市場の評価を表している。投資家及び与信者は,彼 ら自身へのキャッシュ・フローの源泉として,実体への純将来キャシュ・フローの 金額,時期及び不確実性の予測に関心を有している」と。
このように会計測定の基礎に将来キャッシュ・フローを置くことは,当然、
に会計の測定属性として現在価値を用いることを意味し,割引現在価値手法 を伴う。
だが,先にみたように,現在価値の「概念フレーム・ワーク」化の論理的 特徴は現在価値測定の目的を公正価値の予測と実体固有の価値測定とに概念 区分することである。すなはち,現在価値という評価手法としては同じであ るが,予測キャッシュ・フローに関する仮定を,市場が行うのか,主体的実 体が行うのかに差異にあるとされ,その価額も異なる。特に,資産,負債の 実体固有の価値測定は実体の期待将来キャッシュ・フローの現在価値であ