中高年女性の蓄積的疲労徴候に関する研究
棚 橋 昌 子
AStudy on Accumulated Fatigue Syndrome in Middle−aged Women
Masako Tanahashi
〔研究の目的〕
1990年の平均寿命は男75.86,女81.81と発表され,昨年と比較して男性は若干低下している が,女性はさらに寿命を伸ばしたことが注目された。90年代は第2次国民健康つくり対策(第
1次は1978年から,第2次は1988年から)として「ACTIVE 80 HEALTH PLAN」が提唱され ているL)2)この主旨は人生80年を健康でいきいきと生きることを目標とするもので,単なる長 寿ではなく,健康の保持・増進を日常生活の中に習慣化することへの関心が高まっている。対 策についても身体的側面のみならず,精神的社会文化的側面を含みこんだ総合的視点が必要と
されている。
日本の産業界はあらゆる分野で技術革新を進めつつ,1960年代以降高度経済成長を続けてき た。このような産業社会の担い手として女性を積極的に活用する政策がとられ,女性の就業者 が急増した9)特に有配偶者が約60%を占めるに至ったこと,35歳以上の中高年層が60%を占め るようになったことは注目される。職業生活と家庭生活(老親介護も含む)を両立させる負担
と加齢に伴う体力の低下が加わり,中高年女性の健康問題は高齢化社会の健康問題として新た な局面を迎えている85)
私は「働く女性の更年期における健康に関する研究6)」として1990年度女性のためのエッソ 研究奨励を受け,中高年女性の健康調査を行った。本報では蓄積的疲労徴候に関する分析を報 告する。
〔調査方法〕
調査時期は1989年6月であり,調査対象は女性の専門職とし・て名古屋市近郊1市の保母(回
収数164人)と勤続年数が比較的長く技術革新(VDT作業)が進められているN社職員(回収 数109人)である。調査方法は自記式アンケート調査であり,調査項目は自覚症状を中心とし て食行動・運動行動等である。補足調査としてK町(農村)の住民健診(回収数9S人)におい て面接調査を行い,さらに1990年6月に本学の学生(回収数102人)とその母親(回収数109人)
に自記式アンケート調査を行った。
自覚症状調査は40項目であり,疲労に関する項目7)と更年期症状に関する項目8)が混在され ている。疲労度をチェックする項目としては日本産業衛生学会産業疲労研究会作成の30項目か ら成る「自覚症状しらべ」が有名であるが,これは作業の時間経過による疲労を調査すること に主眼をおいている。今回使用した「蓄積的疲労徴候9)」は最近継続して感じられる徴候を チェックするものであり,一種の健康度調査である。
なお,データーの集計及び分析には名古屋大学大型計算機(FACOM M−780)を利用した。
〔結 果〕
1.調査対象の特徴
調査対象者の就業形態をみると(表1),保母では常勤が98.2%,VDT作業者では95.4%を 占めているが,K町住民健診受診者および学生の母親では常勤・パート・専業主婦等いろいろ な就業形態を含んでいる。生活パターンを類型化するために,就業形態を常勤保母(161人),
常勤VDT作業者(104人),週あたり労働時間30時間未満のパート勤務(46人),専業主婦(63 人)に分類した。表2はこの生活パターン別に年齢・慢性疾患の有無・ストレスの有無をみた ものである。保母は比較的若年層が多く40歳未満が78.9%を占めており,VDT作業者・パー
ト・専業主婦では40歳台がもっとも多いが,専業主婦では比較的高齢者が多く50歳以上のもの が36.5%を占めている。健康状態をみると,慢性疾患のあるものは専業主婦でもっとも多く 46.0%を占めており,次いでVDT作業者(41.3%)が高率である。ストレスを強く感じてい
るものはVDT作業者(24.0%)および保母(16.1%)に高率である。
表1 調査対象者の就業形態
()内は%
保母 VDT作業者 住民健診 学生の母親 常 勤 161(98.2) 104(95.4) 12(12.2) 21(19.3)
*バート勤務 0 1(0.9) 13(13.3) 32(29.3)
自営・農業 0 0 46(46.9) 16(14.7)
専業主婦 0 0 23(23.5) 40(36.7)
回答なし 3 4 4 0
合計 164 109 98 109
*週あたり労働時間30時間未満をパート勤務とした。
表2 就業形態別にみた属性
()内は%
常勤(保母) 常勤(Vlrr作章者)
パート 専業主婦
人 数 161(100.0) 104(100.0) ・ 46(100.0) 63(100.0)
年齢
30歳未満 32(19.9) 0 1(2.2) 0 30〜39歳 95(59。0) 41(39.4) 3(6.5) 4(6.3)
40〜49歳 24(14.9) 45(43.3) 32(69.6) 36(57.1)
50〜59歳 10(6.2) 18(17.3) 4(8.7) 12(19.0)
60歳以上 0 0 6(13.0) 11(17.5)
慢性疾患
な し 104(64.6) 56(53.8) 27(58.7) 33(52.4)
あ り 53(32.9) 43(41.3) 17(37.0) 29(46.0)
ストレス
感じない 32(19.9) 15(14.4) 23(50.0) 29(46.0)
少し感じる 96(59.6) 59(56.7) 17(37.0) 27(42.9)
強く感じる 26(16.1) 25(24.0) 3(6.5) 5(7.9)
注:無回答は除く
2.蓄積的疲労徴候訴え率
越河の提唱する蓄積的疲労徴候は6特性59項目からなるが,このうちF特性「労働意欲の低 下」を除く5特性50項目の中から各特性ごとに代表的な22項目をとりあげた。内訳は,A特性
「一般的疲労感」が5項目,B特性「気力の低下」が4項目, C特性「いらいらの状態」が4 項目,D特性「身体的不調徴候」が5項目, E特性「精神的不安徴候」が4項目である。
表3は就業形態別に蓄積的疲労徴候の訴え率をみたものである。平均訴え率より高い項目(下 線のある項目)をみると,専業主婦では「憂うつで気が沈みがち」のみであり,パート勤務で
は「小さいことが気にかかる」「すぐに怒りだす」「寝つきがよくない」の3項目のみである。
一方保母およびVDT作業者では5つの特性にわたって多くの項目において,平均訴え率より も訴え率が高い傾向がみられる。保母では22項目のうち14項目において,VDT作業者では22 項目のうち19項目が平均訴え率よりも高率である。
表3 蓄積的疲労徴候訴え数及び訴え率
(}内は%
常勤(保母) 常勤(腰者) パート 専業主婦 161人 104人 46人 63人
計374人
A一般的疲労感
@ 全身がだるい
@ 腰がいたい
@ 目がつかれる
@ よく肩がこる
@ 疲れやすい
57(35.4) 32(30.8) 5(10.9) 12(19.0)
W2(50.9) 45(43.3) 14(30.4) 18(28.6)
W8(54.7) 88(84.6) 17(37.0) 24(38.1)
P00(62.1) 70(67.3) 19(41。3) 25(39.7)
@96(59.6) 74(71.2) 18(39.1) 21(33.3)
106(28.3)
P59(42.5)
Q17(58.0)
Q14(57.2)
Q09(55.9)
18(11.2) 13(12.5) 1( 2.2) 9(14.3)
B気力の低下
@ 憂欝で気が沈みがち
@ 根気が続かない
@ 自分が好きなことも
@ やる気がしない
@ 頭がさえない
35(21.7) 39(37.5) 4( 8.7) 9(14.3)
Q7(16.8) 35(33.7) 1( 2.2) 7(11.1)
S7(29.2) 36(34.6) 6(13.0) 11(17.5)
41(11.0)
W7(23.3)
V0(18.7)
P00(26.7)
Cいらいらの状態
@ 何かでスパッと憂さ晴らし
@ をしたい
@ いらいらすることが多い
@ 小さいことが気にかかる
@ ちょっとしたことでも
@ 怒りだす
85(52.8) 55(52.9) 14(30.4) 19(30.2)
T4(33.5) 42(40.4) 10(21.7) 11(17.5)
S0(24.8) 29(27.9) 15(32.6) 13(20.6)
Q2(13.7) 19(18.3) 8(17.4) 9(14.3)
173(46.3)
撃撃V(31.3)
X7(25.9)
T8(15.5)
D身体的不調徴候
@ 胃腸の調子が悪い
@ しばしば目まいがする
@ かぜをひきやすい
@ 寝付きがよくない
@ 頭がいたい
44(27.3) 18(17.3) 4( 8.7) 7(11.1)
Q7(16.8) 16(15.4) 6(13.0) 3( 4.8) −
S1(25.5) 21(20.2) 6(13.0) 5( 7.9)
P7(10.6) 25(24.0) 7(15.2) 6( 9.5)
Q5(15.5) 29(27.9) 5(10.9) 11(17.5)
73(19.5)
T2(13.9)
V3(19.5)
T5(14.7)
V0(18.7)
E精神的不安徴候
@ 誰かに打ち明けたい
@ 悩みがある
@ することに自信がもてない
@ 家にいても仕事のことが
@ 気にかかる
@ 気が散って困る
24(14.9) 6( 5.8) 3( 6.5) 6( 9.5)
P7(10.6) 13(12.5) 5(10.9) 6( 9.5)
U2(38.5) 6( 5.8) 9(19.6) 4( 6.3)
Q3(14.3) 16(15.4) 2( 4.3) 6( 9.5)
39(10.4)
S1(11.0)
W1(21.7)
S7(12.6)
3.各特性ごとの平均訴え数
表4は各特性ごとの平均訴え数をみたものである。就業形態別にみると,A特性〜D特性で はVDT作業者の平均訴え数がもっとも多いが, E特性「精神的不安徴候」では保母の平均訴 え数がもっとも多い。年齢階級別にみると,各特性とも30歳台で平均訴え数がもっとも多い。
心身の健康状態からみると,各特性とも慢性疾患のあるものは平均訴え数が多く,またストレ スを強く感じているものが平均訴え数が多い。
表4 蓄積的疲労徴候の特性別平均訴え数
A一般的疲労感 B気力の低下 Cいらいらの状態 D身体的不謬徴侯 E精神的不安徴侯
就業形態
保母(161人) 2.63 0.79 1.25 0.96 0.78
VDT作業者(1{週人) 2.97 1.18 1.39 1.05 0.39
パート(46人) 1.59 0.26 1.02 0.61 0.41
専業主矧63人) 1.59 0.57 0.83 0.51 0.35
年齢
30歳未満(35人) 1.23 0.23 0.63 0.57 0.37
30〜39歳(147人) 3.00 0.95 1.50 1.00 0.76
40〜49歳(176人) 2.16 0.76 1.13 0.71 0.41
50〜59歳((氾人) 2.18 0.66 0.93 0.93 0.46
60歳以上(51人) 1.86 0.53 0.39 0.53 0.51
慢性疾,患
なし(269人) 2.17 0.61 1.24 0.68 0.45
あり(196人) 2.56 0.92 1.22 1.00 0.63
ストレス
感じない(156人) 1.62 0.40 0.44 0.55 0.31
少し感じる(232人) 2.47 0.67 1.16 0.83 0.48
強く感じる(72人) 3.56 1.81 2.42 1.47 1.25
4.蓄積的疲労徴候に影響する要因
以上,就業形態・年齢・慢性疾患の有無・ストレスの有無の4つの要因について,個別に蓄 積的疲労徴候との関連を検討した。これらの要因は個人のなかで複雑に絡み合って存在してお
り,本来切り離すことができないものである。次に各要因が蓄積的疲労徴候の訴え数を増加さ せるのにどのくらい寄与しているかを明かにするために,蓄積的疲労徴候の各特性ごとの訴え 数を従属変数とし,4つの各要因を説明変数として,多変量解析(林の数量化理論1類)を用 いて分析を行っ/,09なお,ここでの分析対象は4つの要因のすべてに回答している321人である。
表5は蓄積的疲労徴候の各特性と要因の偏相関係数(関連の強さ)を示す。図1は各カテゴ リーの得点を示す。得点が高いカテゴリーは訴えを増加させる方向への寄与度が高いことを示 す。A特性一一 E特性のすべてにおいてストレスとの偏相関係数が最も高く,次いで就業形態と の偏相関係数が高い特性が多い。「一般的疲労感」と「身体的不調徴候」をまとめた「身体的 疲労徴候」の訴え数とストレスとの偏相関係数は0.3727であり,就業状態との偏相関係数は 0.3180と高い。カテゴリーでみると「ストレスを強く感じる」の得点は1.59を示し,「保母」
の得点は0.44であり,「VDT作業者」の得点は0.49を示す。さらに「年齢が60歳以上」の得点 は1.78ともっとも高い。「気力の低下」と「いらいらの状態」と「精神的不安徴候」をまとめ た「精神的疲労徴候」訴え数との関連をみると,ストレスとの偏相関係数が0.4941を示し,そ の他の要因に比較して特に高い。カテゴリーでみると「ストレスを強く感じる」の得点は2.79
を示し,とびぬけて高い。就業形態別にみると,「気力の低下」ではVDT作業者の得点(0.26)
が高く,「いらいらの状態」ではパート勤務の得点(0.31)が高く,「精神的不安徴候」では保 母の得点(0.25)が比較的高い傾向がみられる。
表5 蓄積的疲労徴候の特性と要因の偏相関係数(321人)
就業形態 年齢 慢性疾患 ストレス 重相関係数 A一般的疲労徴候
c身体的不調徴候
0.3154 O.1980
0.2118 O.1417
0.1182 O.1534
0.3686 O.2537
0.5563 O.3863 身体的疲労徴候(A+D) 0.3180 0.2089 0.1628 0.3727 0.5528 B気力の低下
bいらいらの状態 d精神的不安徴候
0.2111 O.1049 O.2553
0.0595 O.1306 O.1340
0.1049 O.1007 O.0508
0.3731 O.4679 Oβ846
0.4696 O.5005 O.4656 精神的疲労徴候(B+C+E) 0.0939 0.1229 0.1128 0.4941 0.5462
ーベー
「A一般的疲労感」
−1.0 0 1.0
専業主婦 パート 就業形態 VDT作業者 保母 30−−39歳 40〜49歳 年齢 50−・59歳 60歳以上 なし 慢性疾患 あり
感じない ストレス少し感じる 強く感じる
「B気力の低下」
−1.0 0 1.0
専業主婦 パート 就業形態 VDT作業者 保母 30〜39歳 40−・4gue 年齢 50−59歳 60歳以上 なし 慢性疾患 あり
感じない ストレス少し感じる 強く感じる
.13
0.98
「D身体的不調徴候」
−1.0 0 1.0
0.65
「Cいらいらの状態」
−1.0 0 1.0
1.15
「E精神的不安徴候」
−1.0 0 1.0
「身体的疲労徴候(A+D)」
−1.0 0 1.0 一1.20
−O.69
一1.00
2.0
0.71
一〇.31
0.15
0.49 0.44
1.59
x 「精神的疲労徴候(B+C+E)J
−1.0 0 1.0 2.0
一1.29
S酬磁圏渤出博癖六
N
〔考 察〕
現代はメンタルヘルスの時代であるといわれるli)i2)技術革新による労働態様の変化や産業構 造の変化により,肉体的重労働は減少し,敏速さ・正確さを求められる労働や対人関係を中心
とする仕事が増加している。「ACTIVE 80 HEALTH PLAN」が提唱され,人生80年を生きる ための健康増進対策においても,身体の健康増進だけでは不十分であり,生きがい論まで含め た精神的健康の増進の必要性が高まっている。
産業衛生学会等においても,健康度測定や健康評価基準に関する研究が精力的に行われてい る。「疲労自覚症状しらべ」7)は,産業疲労を捉える方法として,ある作業の時間経過による変 化をみるためには有効である。しかし,女性の疲労を考える場合,専業主婦では連続的な多様
な作業が特徴であり,既婚の有職女性では労働による負担に加えて家事・育児の負担も考慮し なければならない。このような生活全般を通じての疲労一生活疲労13)一を捉えるための自覚 症状調査が必要である。C. M.1.(CORNEL MEDICAL INDEX)に代表される病気のスクリー ニングを目的としたものとは異なる自覚症状調査が必要である。今回は越河の提唱した蓄積的 疲労徴候9)を参考にし,A特性からE特性までの50項目のうちから22項目を採用した。蓄積的 疲労徴候の特徴は,何日間か継続して感じられる症状を調べようとしたことである。
年齢階級ごとに平均訴え数をみると各特性とも30歳台の訴え数がもっとも多く,次いで精神 的疲労徴候は40歳台で多く,身体的疲労徴候は50歳台で多くなっていることは興味深い。女性 のライフサイクルからすると,30歳台は子育ての時期にあたり,40歳から50歳はいわゆる更年 期にあたり,生理的にも体調の変化を訴えるものが多い時期である。60歳以上は平均訴え数は 比較的少ない傾向がみられるが,多変量解析によると60歳以上の得点は高く,特に身体的疲労 徴候はもっとも高く,加齢による体力低下が表れていると考えられる。30歳台の子育て期の女 性に心身の疲労が大きいことは拙論でも解析したところである14)15)また更年期については,性
ホルモン(Esterogen)の分泌が減少することから特有の更年期症状の訴え率が高くなること が報告されている16>
就業形態別に平均訴え数をみると,各特性とも常勤者(保母・VDT作業者)の平均訴え数 が多く,項目ごとの訴え率も平均より高い項目が多い。就業形態と身体的疲労徴候訴え数との 関連性(偏相関係数)はストレスについで高いが,精神的疲労徴候との関連性は低い。女性の 就業については,かつての若年未婚型が中心であった時代から,中高年既婚者が雇用者の中で 大きな位置を占める時代に移行してきた。しかしパート勤務者が増加しつつあり,常勤で勤務 を続けている中高年女性は,まだ少数であり職種も限られている。勤続年数20年以上のものは 保母では17.1%であり,VDT作業者では50.5%を占めている。保母・VDT作業者ともに蓄積 的疲労徴候の各特性にわたって多くの項目で訴え率が高い。就業形態と身体的疲労徴候との関 連性はかなり高いが精神的疲労徴候との関連性は低い。しかし,細かく見ると保母では「精神
的不安徴候」の得点が高く,VDT作業者では「気力の低下」の得点が高く,パート勤務者で は「いらいらの状態」の得点が高いことは職種の特徴をあらわしており興味深い。
ストレスの感じ方と蓄積的疲労徴候との関連性は他の3要因よりも強く,各特性とも訴え数 を増加させる要因としての寄与度がもっとも高い。ストレスと精神的疲労徴候との偏相関係数 は他の3要因と比較して圧倒的に高い。 5特性のなかでは「いらいらの状態」との関連性がもっ とも高い。ストレスを強く感じている場合の得点については,各特性とももっとも高い得点を 示している。身体的疲労徴候に対しても,慢性疾患の有無よりもストレスの有無の方が寄与度 が高く,精神的疲労徴候に対してのみならず身体的疲労徴候にも影響していることが示唆され る。我々の生活のなかにはストレスの原因となる要因は多数存在しているL7)ストレスの感じ方 をいわゆる個人の性格の問題として処理するのではなく,ストレスを科学的に解析し,それに 対処する方法を考えることが必要とされている。最近では,医学・心理学・社会学等多分野か
ら学際的アプローチがなされている。
〔要 約〕
中高年女性の健康実態を明かにすることを目的として,蓄積的疲労徴候の中から5特性22項 目について,就業形態・年齢・慢性疾患・ストレスとの関連を検討した。
1)就業との関係では,保母およびVDT作業者とも常勤で働いている中高年女性の疲労感は 大きく,体力の低下とあいまって身体的蓄積疲労徴候を増大させていると考えられる。
2)年齢との関係では,60歳以上の高齢層では身体的疲労感が大きいことは当然として,30歳 台においても平均訴え数が多く,この年齢層は職業生活においても家庭生活においても蓄積的 疲労を強く感じるライフステージにあると考えられる。
3)ストレスは,今回取り上げた4つの要因の中で,身体的にも精神的にももっとも蓄積的疲 労を増大させる要因である。慢性疾患の有無よりもストレスの有無の方が,精神的蓄積疲労徴 候のみならず身体的蓄積疲労徴候にも大きく影響していると考えられる。
ストレスを科学的に解析し,対処する方法を探求することが切望されている。多様な専門分 野からの研究が進められているが,私は疲労研究からのアプローチを今後の研究課題としたい
と考えている。
本調査は「1990年度女性のためのエッソ研究奨励制度」による援助によって行われた。共同 研究者の白石淑江さん(同朋大学),庄司節子さん(市邨短大),杉本星子さん(南山大学),
山内知子さん(名古屋大学)および調査にご協力くださった多くの皆さんに心から感謝申し上
げる。
参考文献 1)厚生統計協会:「国民衛生の動向」,p.95,1990年 2)渡辺周一編:「公衆衛生学」,p.140,中央法規出版,1990年 3)労働省婦人局:「婦人労働の実状」,p.2,1990年
4)前田和子:働く女性の健康の実態,公衆衛生Vol.54, p.230,1990年 5)関場香,占部清:中高年女性の健康管理,母子保健No.356, p.4,1989年
6)棚橋昌子,庄司節子,白石淑江,杉本星子,山内知子:働く女性の更年期における健康に関する研 究,1990年度女性のためのエッソ研究奨励制度による研究報告,1991年
7)吉竹博:「産業疲労一自覚症状からのアプローチ」,労働科学研究所出版部,1978年 8)阿部徹良:更年期スコア,産婦人科MOOK No.30, p. 164,1985年
9)越河六郎:蓄積的疲労徴候調査について,労働の科学 30巻2号,p.20,1975年
10)三宅一郎,中野嘉弘,水野欽司,山本嘉一郎:「SPSS統計パッケージ 1基礎編2解析編」,東洋 経済新報社,1977年
11)吉竹博:「現代人の疲労とメンタルヘルス」,労働科学研究所出版部,1990年
12)園田真人 他:特集 メンタルヘルスとは何だろう,保健の科学 Vol,32, p.407,1990年 13)斉藤良夫:「疲労 その生理的・心理的・社会的なもの」,青木書店,1981年
14)棚橋昌子:乳幼児を育てながら働く婦人の疲労に関する研究,家政学雑誌 35巻,p.270,1984年 15)棚橋昌子:蓄積的疲労徴候と生活要因との関連について,家政学雑誌 36巻,p.209,1985年 16)棚橋昌子,白石淑江,杉本星子,山内知子:中高年女性の健康調査一更年期を中心として,第37回 東海公衆衛生学会発表,1991年
17)早石修編i「高度情報化社会における健康な生き方を求めて一産業ストレスへの対応一」,世界保健 通信社,p.71,1990年