鯨締粕慣格攣動の統計的研究
服部政一
一︑緒
古典経濟學者は﹁物の債値は結局に於てその生産費に一致しやうとする﹂と読いてゐる︒成程生産物の債値
が長い間それの生産費以下であるならば生産は績けられなくなるであらう︒マーシヤルは︑その著﹁維濟學原
理﹂の申で右に掲げた古典學者の正常債格の概念を﹁解繹し制限して行くであらう︒﹂eゆと述べ︑﹁原則とし
て︑その期間が長ければ長い程︑債値に及ぼす生産費の影響が愈々重要となつて來るであらう︒蓋し生産費の
憂化の影響が作用するには原則として需要の攣化の影響より旭長い時間を要するからである︒﹂ωと論く︒と同
時にマーシヤルは短期間に成立する一時的債格(現實債格)の存在を認め︑それは生産費以外に需要によつ
て債格が支配されるものとする︒曰く﹁原則として考察する期聞が短かければ短かい程債値に及ぼす需要の影
響に著目せねばならぬ程度も大である︒﹂⑧と︒然しながらマーシヤルによれば斯る一時的債格も結局に於ては
練締粕債格墜動の統計的研究一四五
練締粕便格憂動の統計的研究一四六
正常便格に支配せられる事を次に述べてゐるのである︒たとへ︑斯くの如く生産物の債格は結局に於て﹁震常
的﹂位地に復蹄する傾向があるとは言へ︑これによつてマーシヤルが主として需要によつて影響せられると読
く一時的な債格の攣動を輕覗すぺき理由は少しもない︒是に︑﹁正常的﹂債絡のみを認めると曽口ふことは例へ
て言ふならば︑吾々が熱帯人でない限り︑一ケ年の平均氣温を標準として昼の凡ザ︑の居佳様式を春夏秋冬の
匝別なく定めることと同様に無暴なことであるであらう︒寧ろ︑現實の経濟耽會にとつては斯る一時的な債格
の攣動こそ吾人の生存の爲めに重大關心事である︒
今︑私は是で﹁物の償値は窮局に於て其の生産費によつて定まる︒﹂と昌 口ふが如き︑純理的な︑抽象的な理論
の考察を試みるつもりは無い︒唯問題を鯨〆粕に取り︑それの﹁一時的﹂債格現象に關して︑統計的研究によ
り・何らかの維験法則を誘導して見たいと思ふのが本稿の目的である︒唯︑ひたすらに私の催る﹂所は︑未だ
統計學に充分通ぜす︑從つて統計的解析と︑よつて生する事實に甥する推論に重大なる誤りを犯し︑統計的研
究の名に債せざるやの一黙に關はるのである︒
0アルフレツド・マーシヤル著・大塚金之助諜・﹁縄濟學原理﹂(改淺杜版)第三分柵五一頁︒
勾帥マーシヤル著・大塚謬・前掲書・五三頁︒
=︑棘〆粕の需給と慣格との相關
私は本稿に於て先づ笙に鯨〆粕債格と︑そのもの自身の生産︑消費との關隼即ちそれ自身の需給關年
を問題にし︑次いで米債及びそれと競孚的地位にある他の肥料債格との相關關係へと問題を進めるつもりであ
る︒練メ粕は先づそれが生産される仕方︑即ち自然的生産物として︑その便格の成立が問題にせられねばなら
ない︒自然的生産物は他の工業生産物とは異り︑人爲的にその生産が支配せられるのではなくして︑人爲を超
越した自然によつてその生産が大なる影響を與へられるのを特質とする︒だから自然によつて大なる影響を蒙
る自然生産物の生産高は︑從つて供給高は︑その生産物の憤格成立に極めて重要な要素となる︒例へば日本人
の唯一の常食である米の如き場合に於ては︑此の關係は明らかに現はれる︒年々の米債の攣動が︑年々の米の
生産高‑從つて供給高1と密接に相關聯する事は嚴密なる實設を待つまでもない︒ω然らば練メ粕も亦米と同
様に自然的生産物たるの故を以て直ちに此の事が言ひ得られるであらうか︒今少しくこの關係を精密に考へて
﹂
見よう︒そこで︑問題を別けて練〆粕に於て供給高はその慣格に密接なる關聯があるか否か︑及びその關聯が
あるとするならばその程度如何︑と二つになすことが出來よう︒先づこの二問題を統計的に實誰するに先立つ
て︑その基礎をなす激字について述べて置かう︒是に練メ粕の年々の供給高として掲げられた数字は︑鯨〆粕
の内地(北海道を含む)生産額と︑内地へ移輸入された額との合計額である︒②今此の合計額を大正元年から昭
和六年迄︑二十ケ年間に限り︑その年々の實数を大正元年基準(一〇〇)としての指撒に作り攣へた︒他方鯨〆
粕の債格も供給高と同期聞の二十ケ年間のそれを取り︑同檬︑に大正元年基準(一〇〇)としてその指数を作成
した︒ω斯くして出來上つた︑最近二十年間の鯨〆粕の供給高と債格との指激を︑牛封激圖表に示せば次の第一
鯨締粕便絡慶動の統計的研究一四七
表 圖 一 第
22! 一四八
圖表(黙線債格︑軍線供給高)の如くである︒ω
上の第一圖表によつて︑古典経濟學者の言へ
る﹁交換債値は需要に正比例し︑供給に反比例
する︒﹂との原則が妥當であるかを見るに︑大正
元年‑六年迄は大艦に於て︑供給は便格に反比
例してゐるかの如くである︒然しながら大正六
年i昭和元年頃までの間を見れば︑早くもキン
グ等によつて實誰されたが如く︑鯨〆粕の贋格
がそう簡箪に供給に反比例するものでない事を
示してゐる︒だが然し︑見方によつては大正元
年i六年迄の一般維濟界の正常の場合に於て
は︑﹁便値は供給に反比例する︒﹂との原則が行
はれたのであつて︑大正六年‑昭和元年は我國
経濟界の異歌の激攣のあつた時期i室前の好景
氣と︑次に來つた恐慌とーであるから此の原則
が行はれなかつたのである︒だから昭和元年ー六年間には︑叉斯る原則が再び行はれつ﹂あると見る事も出來
るであらう︒けれども吾々は此の第一圖表のみを以つてしては︑果して爾者の聞に相關關係ありや︑及びその相
關の程度を正確には知り得ないから︑此れを統計的に解析して︑その結果を以つてその關係を實誰しよう︒通
常相關關係の測定に當つて︑その實激から直接に之を求める事は殆んど稀れで︑多くはω實藪が正常値(準ラ均)に封する偏差より求めるか︑二年次攣動値を前年度を基準(一〇〇)とする所の蓮環相封数(団鼻閃o巨ぞ︒)(
を作り︑それから↓の方法‑平均に封する偏差1を用ひて求めるかの二方法がある︒私は今後者の方法によ(
つて相關係激(7)を計算した︒㈲相關係数計算の基礎となる連環相封数を示せば次の如くである︒
蓮 猿 相 劉 歎
前 年 二loo
年 度 供給高 債 格
大 正1年 100 1GO
2年 123 97
3年 100 87 4年 100 91
5年 82 1】[2
6年 、 65 130
7年 120 137
8年 139 138
9年 92 100
10年 82 72
H年 84 II3
12年 Io4 =05
13年 114 91
瑠年 123 Io8 昭和1年 105 86
2年 113 84.
3年 94 IOI 4年 76 102
5年 Io5 77 6年 154 68・
ラさて︑以上の如くにして計算した鯨〆粕の供給と債格との相關係数(γ)は一〇・一一三一︑標準誤差(町)は(
一一二・〇七四%である㈲︒是に簡軍に以上の相關係歎を読明すると︑そのマイナスの符號は爾者の逆行關係(反
錬締粕債絡墜動の統計的研究一四九
錬締粕償絡憂動の統計的研究一五〇
比例の關係)を示すものであり︑コンマ以下の数字は相關の程度を示すものである︒樹木の年齢と年輪の数と
言ふが如き完全なる相關の場合には︑此の係歎は一.OOOとなる︒だが併し︑一般に経濟現象に於ては色々の
他の原因が作用するから︑か﹄る高度の關係を示すものは殆んどない︒そこで普通には︑
一︑相關係数(γ)が○・三〇より少ならばその關係は著しいとは言ひ得ない︒
二︑○・五〇以上ならば關係は相當に明瞭と言ふことが出來る︒
とされてゐる︒ω次に︑相關係数(γ)と標準誤差(卯)との關係に於ては︑相關係数が標準誤差より秀少な
る場合には相關關係の存在は疑はしいとされてゐる︒⑤そこでこの場合に就いて考へて見るに︑相關係歎(γ)
の符號がマイナスであることは︑爾者の關係は︑﹁憤格は供給に反比例する︒﹂といふ逆行關係にある事を誰明し
てゐるものである︒所が爾者の逆行的相關の程度即ち供給高が債格に反比例的に影響する程度に至つては︑相
關係撒の絶封値から見るも︑それと標準誤差との關係から見るも甚だ低いのである︒即ち雨者の相關は著しく
はないのである︒少くとも最近二十年間に成立した鯨〆粕債格と︑その供給高との間には逆行的關係は存在す
るが︑その相關の程度︑即ち供給高が債格の成立に影響する程度は密接でないことが實誰し得られたのである︒
鯨〆粕の債格は斯くの如く︑供給に反比例するが︑相關は密接でないことが誰明ぜられたが︑需要には果し
て正比例し︑而かも密接に相關するであらうか︒私は今︑この關係を實誰することは技術的に不可能に近い事
と思ふのである︒なぜなら年々の債格に樹する全需要高を理論上は全供給高から全國倉庫の年末在庫高を引い
だものと考へ得るけれども︑事實上鯨〆粕に就いての年末在庫高を知り得ないからである︒とは言へ︑私は鯨
〆粕債格はそれ自身の需要に正比例する︑即ち需要が慣格決定に役立つ事に封しては多大の疑ひを抱くのであ
る︒率直には︑寧ろ關係は正しく顛倒してゐると言つた方が適切であらう︒例へば米に就いて見れば︑その総消
費高の約八割五分㊥迄が日本人の唯一の常食用飯米として浩費される程の需要の安定性を有してゐるに不拘︑
贋格の安き年には需要の増加する事實が實誰されてゐるのである︒@だから鯨〆粕の如く︑その浩費高が全肥
料潰費高の極少部分(一〇%にも足らない)をしか占めて居らない場合に於ては︑爾更らのことであつて︑そ
れ自身の需要が債格を決定するのではなくして︑反封にその債格が需要を成立させるのであらう︒即ち鯨〆粕
の慣格が︑他の肥料のそれに比して相封的に高ければそれは買はれないで︑相射的に安い場合にのみ需要が出來
るのであると考へ得られるからである︒だから私は今此の問題に長く停ることを止めて︑鯨〆粕債格の決定に
より重要な原因をなす米債及び他の肥料の債格との相關關係に就いて論を進めよう︒
)(2) (五
(3) (4)
﹃東洋経潜新報﹄・第一五六三號﹁来債鍵動の統計的研究﹂(昭和八.入・一九)
農林省農務局・﹁肥料要覧﹂(昭和六年度)昭和七・十二月刊・同書には浩費額として年々の内地生産.額と移輸入額との
合計額溺掲げられてゐうがこれな私ぽ供給額として考へ表︒此れに甥する年々の溝費額に就いてば後蓮すろ︒
前掲書﹁肥料要覧﹂・同書に掲げられカる鯨〆粕の債格溜簸は明治四十}年‑大正元年の平均心基準としてゐろが︑私
は供給高の指藪な大正元年基準として作成し五關係上︑別に大正元年基準とし敦指鍛な作成し六︒
牛響鍛岡表な用ひ五わけに︑二曲線が同じ割合の愛化怨なす揚合に於て︑善逓目盛でに二曲線の紹劉値によつて記入さ
鯨締粕贋絡墜動の統計的研究一五一