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数学教育における関数概念の認識発達に関する研究

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Academic year: 2022

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数学教育における関数概念の認識発達に関する研究

著者 二澤 善紀

URL http://hdl.handle.net/10236/00029119

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論 文 内 容 の 要 旨

 本論文は,児童生徒にとって理解が困難であると指摘されている関数学習において,その課題を打開する ために児童生徒の認識を考慮した関数の学習モデルを構築し,これに基づいて関数理解の促進につながる概 念を特定すること,特定した概念の形成のための学習の枠組みについて考案し教材を開発すること,その有 効性に関して教育実践を通して検証するものである。

 論文の構成は,序論と6章からなり,以下が各章の要旨である。

 序論では,研究目的の設定を行っている。本研究の目的について,先行研究で指摘されている関数学習に おける課題の打開のため,児童生徒の認識に焦点をあて,数学概念の理解研究などに基づき,数学概念の理 解あるいは数学概念の形成の様相や過程を考察し,新たな関数学習の枠組みを構築すること,この枠組みを もとに,関数理解の促進につながる概念を特定すること,そして構築した関数の学習モデルに基づき認識調 査を実施し,その結果を考慮して教材開発を行い,教育実践を通してそれらの妥当性を検証すること,とする。

 第1章では,数学概念の認知・認識に関する基礎的研究を行っている。児童生徒の数学に対する認識の特 徴について,数学教育学における認知に関する研究である数学概念の理解研究とメタファー研究の特徴を考 察し,数学を理解する,または数学概念を形成するためにはその基になる概念が児童生徒に形成されること が必要であること,また理解研究で示された数学の思考は漸次的,超越的,再帰的であるということ,そし て児童生徒の最初の概念(認知の枠組み)は感覚-運動経験から形成されるということを示している。

 第2章では,関数学習の意義と課題についての研究を行っている。まず,先行研究を考察することから,

数学教育学において関数を扱うことの意義,学習指導要領での関数の扱いの変遷,これまでの関数学習の枠 組み及び指摘されてきた課題を整理し,最後に本研究の目的の焦点化を行っている。数学教育学において関 数を扱うことの意義として,関数の考え(関数の見方・考え方)は事象の変化を捉えて問題解決に生かす資 質・能力の中核になること,また関数学習の変遷の分析を通して函数観念の重要性が指摘され,特に戦後は 関数の考え,関数的な見方・考え方が重視されてきた経緯があること,関数学習の課題については,1960年 前後より教育実践を通した関数学習の研究が行われるようになり,特に児童生徒の関数に対する認識の変化 を考慮した教育実践を通して,現実の事象から変量を抽出し,関数関係にあるような2変量を対応させるこ となどの現在でも指摘され続けている中心的な課題が指摘されていることを示している。これらのことより,

本研究では,現実の事象から変量を抽出し,関数関係にあるような2変量を対応させる学習の枠組みについ て考察することに焦点化している。

学 位 の 専 攻 分 野 の 名 称 学 位 記 番 号 学位授与の要件 学位授与年月日 学 位 論 文 題 目

論 文 審 査 委 員 (主査)

(副査)

二 澤 善 紀

数学教育における関数概念の認識発達に関する研究 博 士(教育学)

甲教第3号(文部科学省への報告番号甲第721号)

学位規則第4条第1項該当 2020年3月16日

渡 邉 伸 樹 中 尾 正 広

教 授 教 授

教 授 橋 本 祐 子

(3)

 第3章では関数学習の理論的研究を行っている。まず,関係づけ思考の基礎的考察を行い,Piaget’ s theory の論理・数学的知識は関係づけを繰り返すことで構成されていくこと,児童の質的な関係概念の形 成は計量的な時間,距離,速さの関係概念の形成を促進することを示し,関数の学習モデルの構築と関数理 解のために形成すべき概念を特定している。この関数の学習モデルは,数学概念の理解研究,メタファー研 究と関係概念に関する研究を視座に構築した児童生徒の認識を考慮したモデルで,「事象認識の段階」,「抽 象化途上の段階」,「抽象的表現の段階」の3つの段階からなる。特に抽象化途上の段階では,関数概念を理 解するための「途上概念」の考えを示し,途上概念の形成が関数概念の理解につながること,また途上概念は,

概念メタファーの起点領域に対応するものとみることができることを示している。児童生徒の認識を考慮し た教育実践に基づく先行研究に示された関数の学習内容を関数学習モデルに基づき分析した結果,関数理解 のために形成すべき途上概念とは(Ⅰ)事象の変化を量化して捉える,つまり事象から変量を抽出する,(Ⅱ)

抽出した2つの変量を対応させる,に関する概念であることを示している。そして,本研究の対象となる途 上概念を,論理構造をもつ質的な(Ⅰ)と(Ⅱ)に関する途上概念(以下,単に「途上概念」と記す)とし,

児童生徒の関数概念の認識発達,すなわち関数概念の認識を高める質的な変化とは途上概念が形成されるこ と,あるいは途上概念が形成されて抽象化途上の段階から抽象的表現の段階に到達することとしている。ま た関数の学習モデルの特徴として,児童生徒の認識を考慮して途上概念を設定していること,児童生徒の認 識を考慮した学習や教員の学習指導の観点に立っていること,抽象的表現の段階における学習目標の設定次 第で短期的な学習指導の枠組みをつくることができることとしている。

 第4章では,関数概念に関する児童生徒の認知・認識と学習の枠組みの研究を行っている。まず,児童生 徒の途上概念の様相に関する調査を行っている。これに関して,A 小学校第6学年の児童(21名)と B 中 学校第1学年の生徒(39名),C 中学校第1,2,3学年の生徒(それぞれ132名,152名,147名)を対象に調 査した結果を比較検討している。その結果,量・変量・変量の対応または現実事象で特定の変量に対応する 変量を抽出する学習を行うと,途上概念の形成にある程度の効果があること,しかしそれは必ずしも十分と はいえないこと,学年進行に伴い(Ⅰ)と(Ⅱ)に関する途上概念の認識を高める質的な変化が生じている とは必ずしもいえないことが示され,したがって,途上概念の形成のための学習の枠組みと教材の開発が必 要であるといえることを示している。次に,途上概念の形成のための学習時期の検討と教材開発に取り組み,

小学校第3学年の後半または第4学年が最適であること,時間を主軸にした教材が適している可能性がある こと,そして学習の枠組みとして「数値を用いない学習」と「数値を用いる学習」の2つの段階が有効であ ることを示している。なお,これらの学習の枠組みと教材は,新たな視座による開発といえる。

 第5章では,教育実践を通した実証的研究を行っている。まず,児童に途上概念が形成されるような学習 の枠組みと教材を具体化し,「数値を用いない学習」の段階で円錐状の立体の影の変化を教材とする学習で 途上概念が形成される可能性と第4学年が学習の時期として最適であることを示している。次に予備教育実 践を行い,教材と学習の枠組みが児童の認識と学習に適していることを検証し,その知見を生かして教育実 践(1)と(2)を行い,その有効性を検証している。第4学年の児童(1名)を対象にした予備教育実践で は,教材と学習内容が児童に適したものであることと,目標とする途上概念が形成されること,及び課題点 が示されている。この予備教育実践の知見を生かして,第4学年の児童(2名)を対象とした教育実践(1)

を行い,途上概念は数値を用いない学習を通して形成されることを示し,さらに,第4学年1クラスの児童

(28名の在籍であり,実践後の調査まで参加した児童は24名)を対象にした小学校における教育実践(2)に より,程度の差はあるが大半の児童に論理構造をもった質的な(Ⅰ)と(Ⅱ)に関する途上概念が学習を通 して形成されることを示している。これらのことから,学習の枠組みと時間を主軸にした児童の感覚-運動 経験に基づく教材は有効であること,一方で,学習で考察対象となった場面以外の新たな場面では,論理構 造をもつ質的な(Ⅰ)と(Ⅱ)を働かせることが容易でないことを示している。

(4)

 第6章では本研究の総括を行い,研究成果として次の点を挙げている。

・現在の関数学習の中心的な課題について,現実の事象から変量を抽出し,関数関係にあるような2変量を 対応させることにあることを明らかにしている。

・上述の課題を解決するための新たな学習モデルを開発している。この関数の学習モデルでは,関数概念の 理解のためには,新たに設定した「途上概念」の概念の形成が必要であることを示している。

・児童生徒の認識を考慮すると,関数の中心的な課題を打開するためには論理構造をもつ質的な(Ⅰ)と(Ⅱ)

に関する途上概念を形成することが必要であることを,認識調査を通して明らかにしている。

・上述の途上概念を形成するためには,「数値を用いる学習」以前に「数値を用いない学習」が必要で,適 切な教材を用いると論理構造をもつ質的な(Ⅰ)と(Ⅱ)に関する途上概念を形成することが可能である ことを,教育実践を通して示している。

・以上のことから,本研究で開発した関数の学習モデルに基づく教材と学習のあり方について,その妥当性 を実証的に示している。

 また,課題として次のことを挙げている。

・児童生徒に途上概念が形成されたことを簡便に検証する方法を確立すること。

・数値を用いない学習の段階から数値を用いる学習の段階への移行について,児童生徒にとって困難がない ことを示すこと。

・関数の中心的な概念の1つである変化の割合(平均変化率)に対しても,関数の学習モデルに基づく途上 概念を設定し,その形成のための学習の枠組みを示すこと。

・小学校から中学校,高等学校までの関数のカリキュラムを構築し,学習の枠組みを示すこと。

論 文 審 査 結 果 の 要 旨

 この博士学位申請論文は,二澤氏がこれまで3年間にわたって,児童生徒にとって理解が困難との指摘が ある関数学習において,その課題を打開するために児童生徒の認識を考慮した関数の学習モデルを構築し,

これに基づいて関数理解の促進につながる概念を特定すること,特定した概念の形成のための学習の枠組み について考案し教材を開発すること,その有効性に関して教育実践を通して示すことを目的として,まとめ あげたものである。

 論文構成としては,序論,第1章:数学概念の認知・認識に関する基礎的考察,第2章:関数学習の意義 と課題,第3章:関数学習の理論的研究,第4章:関数概念に関する児童生徒の認知・認識と学習の枠組み,

第5章:途上概念形成のための教材及び教育実践,第6章:本研究の総括と今後の課題である。この本論文 について,その特徴と評価すべき点について述べていく。

1.序論では,研究目的の設定を行っている。本研究の目的について,先行研究で指摘されている関数学習 における課題の打開のため,児童生徒の認識に焦点をあて,数学概念の理解研究などに基づき,数学概念の 理解あるいは数学概念の形成の様相や過程を考察し,新たな関数学習の枠組みを構築すること,この枠組み をもとに,関数理解の促進につながる概念を特定すること,そして構築した関数の学習モデルに基づき認識 調査を実施し,その結果を考慮して教材開発を行い,教育実践を通してそれらの妥当性を検証すること,と しているように,明確で適切な目的の設定ができている。

2.第1章では,数学概念の認知・認識の特徴に関して,先行研究を詳細に検証することから,「数学を理 解する,または数学概念を形成するためには,その基になる概念が児童生徒に形成されることが必要である こと。理解研究で示されたように数学の思考は漸次的であり,数学を理解する過程は方法の対象化で説明さ れ,理解の過程における水準間の移行は再帰的,超越的であること。最初の起点領域は児童生徒の感覚-運

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動経験から形成されること。」と十分な知見のもとで新たな視点からの特徴を示すことができている。

3.第2章では,関数教育に関する先行研究をまとめ,「関数学習の中心的な課題を「実在の現象の中に関 数を見いだすこと」,つまり現実の事象から変量を抽出し,関数関係にあるような2変量を対応させること である。」と現在的な視点から課題を示すことができている。

4.第3章においては,関数概念に関する先行研究を詳細に検討し,学習モデルとして,児童生徒の認識 を考慮した抽象的な関数概念の理解を促進するための「途上概念」という新たにオリジナルな概念を設定 できている。

5.第4章では,実際に「途上概念」の形成の様相に関して認識調査を行うことから,途上概念の形成の 必要性を示し,そのための新たな学習の枠組みと教材開発の検討が必要であることを示すことができ,ま たその妥当性のエビデンスを明確に示すことができている。

6.第5章では,途上概念のモデルだけにとどまらず,さらに新たな途上概念形成のための教材を実際に 開発することができており,さらには,教育実践によりその妥当性を実証的に示すことができている。こ うした一連の研究方法は,研究の目的を達成するために適切かつ主体的であり,また,一定の客観性があ るといえる。また明確で独創的な結論を得ることができている。

 以上のように,本論文は現在の数学教育においては,従前から指摘されてきたものの,未だ解決できてい ない重要な課題に関して,明確で適切な研究目的の設定がなされ,多くの先行研究を多岐な視点から整理し,

現在的な視点から新たな知見を引き出すことができ,オリジナルな概念設定をするなど先行研究で指摘さ れた課題に対峙し得る発想や着眼点を示している。さらには,研究目的を達成するために,理論の提案だ けにとどまるのではなく,調査や教材の作成を行い,認識調査や教育実践によりその妥当性のエビデンス を児童生徒の実際の認識にまでふみこんだ実践ベースで実証的に示すことができているように,その方法 は適切かつ主体的に行なわれ,結果として研究目的に対応した明確かつ独創的な結論を得ることができて いる。研究全体として,文章全体が確かな表現力によって支えられ,目次・章立て・引用などに関して十 分な体裁がととのっており,適切な倫理的配慮もなされている。なお,理論の検証方法を改善することや 他の段階を検証すること,また用語の精査をすることなどのいくつかの課題も挙げられるが,数学教育学 の研究として大いに評価ができ,学校現場にも波及できる研究ともいえ,この分野における研究を発展さ せるに足る学術的価値として評価ができる素晴らしい研究といえる。

 以上のことから,本審査委員会は,本論文について教育学研究科学位論文審査基準を充分に満たすもの であると評価し,二澤善紀氏は博士(教育学)の学位を授与するのにふさわしいと判断する。

参照

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