博士論文審査報告書
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(2) 本論文では、条件数が非常に高い悪条件の問題も含めて、連立一次方程式 の解を倍精度浮動小数点演算のみを用いて高精度に求め、その精度保証を高 精度に行う方法を提案し、その有効性を数値実験で実証している。 現代の数値計算では、計算誤差を含む近似解を求め、その精度は検討され たとしても厳密でなくてもしかたないという考え方が常識的である。厳密に 精度を保証することが大変困難であると信じられているからである。一方、 区間演算に基づき、数値計算の精度を厳密に求める方法も提案されている。 これを精度保証付き数値計算という。精度保証付き数値計算の分野では、数 学的に正しい解が確実に含まれる区間を求める区間演算が利用されるが、区 間演算をそのままナイーヴに用いると、数値解を求める計算に対して精度保 証に何万倍もの計算時間がかかったり、解き得る問題の規模が数百元の連立 方程式までに限られたり、保証される精度がシャープでなく意味がないこと がしばしばあるなど実用的ではないと思われてきた。しかし、最近になって 連立一次方程式の解の精度保証が、計算解を求める計算時間とほぼ同じ時間 ででき、得られる精度もシャープとなる方法が考案され、精度保証が少なく とも線形計算において、実用のレベルに達した。また、多倍長浮動小数点数 パッケージを使わずに倍精度浮動小数点数の和として計算値を表現し、高精 度に内積などを計算する方法も開発された。 具体的には、まず、残差を高精度に計算し、残差反復法によって求まった 高 精 度 な 計 算 解 を シ ャ ー プ に 精 度 保 証 す る 方 法 を 提 案 し て い る 。こ れ に よ り 、 残差反復と数値解の精度保証を行っても、提案手法が、ガウスの消去法の数 倍程度の計算時間で終了することが示されている。 つぎに、残差だけを高精度に計算しても連立一次方程式の係数行列の条件 数が大きいと倍精度計算で求めた逆行列の精度が足りなくなるため精度保証 ができなくなる問題を取り上げている。この問題に対し、本論文では逆行列 を倍精度浮動小数点数の行列の和の形で表現して、逆行列の精度を上げてい く 方 法 を 提 案 し 、こ れ に よ り 精 度 保 証 が 可 能 と な る こ と を 示 し て い る 。ま た 、 精度保証をよりシャープに行うため連立一次方程式の数値解に対する Ya m a m o t o の 成 分 毎 誤 差 評 価 定 理 を 用 い る こ と に よ っ て 成 分 ご と に 精 度 保 証 が行えるようにしていることが述べられている。本提案手法は、所望の相対 精度を与えたときにそれ以上の精度が得られるまで自動的に必要な回数だけ 残差反復を繰り返す方法であることが述べられている。多倍長浮動小数点数 演算を用いても悪条件性を克服することができるが、その場合、逆行列の計 算後、逆行列の精度が足りないことが分かると、計算精度を増やして、逆行 列の計算をやり直さなければならなくなること、および、すべての計算を多 倍長で行うため、計算時間が膨大にかかることを指摘している。これに対し て、提案方式では、係数行列の条件数が分からなくても、反復計算により問 題に応じて、アルゴリズムの内部で必要な精度を予測して適応的に精度を増 やしながら計算できることが述べられている。すなわち、本論文で提案され.
(3) ている手法において、高精度演算が必要なのは基本的に行列積と行列ベクト ル積のみであり、これらを高速かつ高精度な内積計算法に基づき計算するの で、本手法は高速な実装が可能であることが示されている。 更 に 、 Ya m a m o t o の 定 理 を 使 っ て も 計 算 解 の 成 分 の 絶 対 値 が 大 き な ば ら つ きがあるときには絶対値の大きな成分が影響して絶対値の小さな成分がシャ ープに評価できなくなる問題に対応している。ここでは、解の絶対値がほぼ 同じになる様に連立一次方程式の係数に(変換誤差が発生しないように)2 の整数乗をかけて連立一次方程式をスケーリング変形し、変形した方程式の 精度保証を行い、その結果を元の連立一次方程式での精度保証に換算するこ とによって絶対値の小さな成分に対する精度保証をシャープに行えることが 示されている。 以 下 、各 章 の 構 成 に 基 づ き 、本 論 文 の 概 要 を 少 し 詳 し く 述 べ 、評 価 を 加 え る 。 本論文は4章からなっている。 第 1 章「 序 論・準 備 」で は 、高 精 度 内 積 計 算 ア ル ゴ リ ズ ム と 精 度 保 証 法 の 研 究の現状を概観し、必要な準備をしている。 第 2 章「 高 精 度 内 積 計 算 ア ル ゴ リ ズ ム を 用 い た 連 立 一 次 方 程 式 の 精 度 保 証 付 き 数 値 計 算 法 」 で は 、 係 数 行 列 の 条 件 数 が O (1016 ) 以 下 の 時 に O g i t a , R u m p , O i s h i による高速な任意精度内積演算アルゴリズムを用いることによって高速性を 損 な う こ と 無 く 高 精 度 に 精 度 保 証 で き る こ と を 示 し て い る 。こ れ に よ り 残 差 反 復法によって得られた精度の高い計算解をシャープに精度保証できるように な る こ と が 述 べ ら れ て い る 。 さ ら に 、 条 件 数 が O (1016 ) に 近 い 場 合 と 行 列 の 次 元 が大きい場合などを含めて各種の数値実験を行い高速性を損なうこと無く高 精 度 に 精 度 保 証 を 行 え 、残 差 反 復 法 に よ っ て 得 ら れ た 精 度 の 高 い 数 値 解 を シ ャ ープに精度保証できることを示している。 第 3 章「 条 件 数 が 非 常 に 大 き な 係 数 行 列 を も つ 連 立 一 次 方 程 式 の 精 度 保 証 付 き 数 値 計 算 法 」で は 、係 数 行 列 の 条 件 数 が 非 常 に 大 き い 場 合 の 連 立 一 次 方 程 式 に 対 す る 精 度 保 証 付 き 数 値 計 算 法 を 提 案 し て い る 。条 件 数 が 非 常 に 大 き い こ と か ら 、行 列 が 非 正 則 に 近 く ガ ウ ス の 消 去 法 な ど 連 立 一 次 方 程 式 ソ ル バ ー の 計 算 誤 差 が 大 き く 増 幅 さ れ る こ と に な る が 、非 正 則 で な け れ ば 、非 常 に 条 件 数 が 大 き い 係 数 行 列 で あ っ て も 精 度 保 証 が で き る 方 法 を 提 案 し て い る 。す な わ ち 、具 体 的 に は 、逆 行 列 を 倍 精 度 浮 動 小 数 点 数 を 要 素 と す る 行 列 の 和 の 形 で 表 現 す る こ と に よ っ て 高 精 度 に 求 め 、条 件 数 が 大 き い 係 数 行 列 の 連 立 一 次 方 程 式 に 対 し て も 精 度 保 証 で き る こ と を 示 し て い る 。本 提 案 方 式 は 、内 積 計 算 の 高 精 度 演 算 が 可 能 で あ れ ば 、 IEEE754規 格 に 従 う 浮 動 小 数 点 数 を 実 装 し た 各 種 の 計 算 機 上 で 実 装 可 能 と な る ス ケ ー ラ ビ リ テ ィ を 備 え て い る こ と が 指 摘 さ れ て い る 。ま た 、 本 手 法 に お い て は 、高 精 度 内 積 計 算 法 は 任 意 で よ い が 、具 体 的 な 高 精 度 内 積 計 算 法 を 設 定 し て 、そ れ に よ る チ ュ ー ニ ン グ も 行 っ て い る 。す な わ ち 、近 年 、内 積 計 算 の 高 精 度 演 算 の 研 究 が 進 み 、高 速 な 高 精 度 内 積 計 算 法 が 種 々 開 発 さ れ て い る 。特 に 、非 常 に 最 近 に な っ て 、倍 精 度 浮 動 小 数 点 演 算 だ け を 用 い て 、内 積.
(4) を 高 精 度 か つ 高 速 に 計 算 す る 方 法 を Ogita, Rump, Oishiが 示 し た 。 こ れ を 利 用 す る と 、本 論 文 で 提 案 し た 手 法 は ポ ー タ ブ ル で 高 速 な 、高 条 件 数 の 係 数 行 列 を もつ連立一次方程式に対する数値解の計算法と精度の検証法となることが述 べ ら れ て い る 。実 際 、こ の 実 装 法 に 基 づ き 、数 値 実 験 を 行 い 、条 件 数 が 非 常 に 大 き い 場 合 で も 、連 立 一 次 方 程 式 の 近 似 解 が 精 度 保 証 付 き で 計 算 さ れ る こ と を 示 し た 。更 に 、精 度 保 証 が で き る 状 態 に な っ た 後 は 、残 差 反 復 法 に よ り 精 度 の 高い計算解が得られ、その精度をシャープに評価できることを示している。 他 の 方 法 と の 比 較 で あ る が 、係 数 行 列 の 条 件 数 が 高 く て も 、そ の 上 界 が わ か っ て い れ ば 、多 倍 長 浮 動 小 数 点 数 演 算 を 用 い て も 悪 条 件 性 を 克 服 す る こ と が で き る 。し か し 、多 倍 長 浮 動 小 数 点 数 演 算 で は 、近 似 逆 行 列 の 精 度 が 十 分 で な い と 逆 行 列 の 計 算 を 始 め か ら や り 直 す 必 要 が あ る が 、提 案 方 式 で は 事 前 に 逆 行 列 の 計 算 に 必 要 な 精 度 が 分 か ら な く て も 、反 復 計 算 に よ り 問 題 に 応 じ て 精 度 を 増 や し な が ら 、必 要 な だ け の 精 度 で ア ダ プ テ ィ ブ に 実 行 で き る こ と が 強 調 さ れ て いる。すなわち、本研究で提案されている手法は、精度の高い近似逆行列を Ogita, Rump, Oishiに よ る 高 精 度 内 積 計 算 法 に 基 づ き 、 ア ダ プ テ ィ ブ に 得 る 方 法 な の で 、任 意 の 条 件 数 を 持 つ 問 題 で も 対 応 で き る 点 、及 び 、精 度 保 証 に か か る 計 算 時 間 が 多 倍 長 浮 動 小 数 点 数 演 算 と 比 べ て 、大 幅 に 短 縮 さ れ る こ と な ど の 特長を持つことが述べられている。 更 に 、計 算 解 の 各 成 分 の 絶 対 値 に 大 き な ば ら つ き あ る と き に は 、連 立 一 次 方 程 式 の 数 値 解 の 成 分 毎 誤 差 評 価 を 与 え る Yamamotoの 定 理 を 用 い て も 絶 対 値 の 小さな成分に対する精度保証が絶対値の大きな成分の影響でシャープに行え な い と い う 問 題 に 対 す る 対 処 法 が 提 案 さ れ て い る 。具 体 的 に は 、ス ケ ー リ ン グ を 行 い 絶 対 値 の 差 が 小 さ い 方 程 式 に 置 き 換 え て 計 算 す る こ と に よ っ て 、絶 対 値 の小さな成分に対する精度保証がシャープに行える方法が提案されている。 第4章「結論」では本論文のまとめと結論が記されている。 以 上 が 本 論 文 の 各 章 の 概 要 で あ る が 、こ れ ら の 成 果 は 科 学 技 術 計 算 に お い て 重 要 な 役 割 で あ る 連 立 一 次 方 程 式 に 対 し て 悪 条 件 な 場 合 で も 高 精 度 な 精 度 保 証 が 実 用 的 な 範 囲 で 可 能 で あ る こ と を 示 し 、 数 値 実 験 で そ れ を 実 証 し て お り 、数 値 計 算 分 野 の 発 展 に 貢 献 し た も の と 言 え る 。よ っ て 、本 論 文 を 博 士( 工 学 )早 稲 田 大 学 の 学 位 論 文 と し て 認 め る 。 2006年2月 審査員 主査. 早稲田大学教授. 工学博士(早稲田大学). 大石進一. 早稲田大学客員教授. 理学博士(東京大学). 田邉國士. 早稲田大学教授. 工学博士(東京大学). 高橋大輔. 早稲田大学助教授. 博士(工学)早稲田大学. 柏木雅英.
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