• 検索結果がありません。

教員のための環境教育 : 免許状更新講習を中心に

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "教員のための環境教育 : 免許状更新講習を中心に"

Copied!
10
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)教員のための環境教育. 65. 教員のための環境教育 -免許状更新講習を中心に- 特任教授(教育担当) 堀 雅宏 1 はじめに  環境問題は今や誰がどこにいても避けて通れないが、どの分野からもその解決に寄与できる時代でもあ る。ところが、我々が公害や地球規模環境汚染などと取り組んで来て、持続可能な社会を目指していると ころに震災による原発事故と環境放射能汚染である。我々がいろいろな環境問題に対応するために環境教 育が取り上げられて久しいが、このような時代の環境教育もいかにあるべきかが問い直されている。環境 教育は啓発を含めて地域、会社、行政そしてマスメディアを通しても行われてきたが、学校教育は言うま でもなく次世代を担う子どもたちが対象であるのでとりわけ重要であり、これを担う教員自身の環境教育 の資質の向上も求められる所以である。  筆者は免許状更新講習において 4 年間「環境教育」を開講し、学部では5年間、これから環境教育を 担うであろう学生のための「環境教育」を担当した。また、5 年前に本学部所属の 21 名の教員の方々と「環 境教育−基礎と実践−」を上梓した。これらの経験をもとに教員のための環境教育を免許状更新講習にお ける環境教育を中心に考察した。   2 環境教育を担う教員の状況  環境教育は地球人あるいは市民として必要な知識と考え方、環境配慮行動の動機づけを行うことを目的 とする。勿論、将来において直接あるいは間接的に環境に関わる仕事を志向してくれる期待も含まれる。 その対象を小、中、高の児童生徒たちとすると、それを主として担うのは学校教員であり、彼らがどのよ うな教育を行うかによって数値化できるかは別にして到達度が違ってくる。いうまでもなく現在はマスメ ディアと情報化の時代で、子どもたちはその影響を強く受け、環境に関する情報源もテレビが圧倒的に高 い比重を占める。このような時代に必ずしも教員の影響力のみによる頼る必要はないが、学校でしかも教 員にしかできない役割もあるはずである。  環境知識そのものは教員向けであるかにいなかに関わらず変わるものではなく、その知識の正しさが求 められることも当然である。それに加えて学んだことが行動に反映されることが求められ、特に環境教育 においては環境配慮行動が求められる。これが教員の場合、環境教育への熱意ということになろうか。  教員自身も多かれ少なかれ、環境教育ないし公害教育を受けてきているはずであるが、教師の環境教育 への熱意は世代間でも、個人差も大きいと推測される。もしある教員の問題意識が高く、かつ小中高時代 の先生の影響があったとすると、その教員の受けた環境教育は良かったことになる。  文部科学省は約 20 年前に環境教育で教員のバイブルにもなりうる環境教育指導資料(最新版は 2007 年) を作成して各学校に配布するなどして来た。一方、教員を対象とする著書は、例えば先述の「環境教育− 基礎と実践−」や「環境教育入門」 (阿部 1998)、最近では日本環境教育学会から出された「環境教育」 (環 境 2012a)など、また、環境教育を進めるための情報としてはキッズ ISO プログラムなど少なくないが、 それらの活用度に関わるデータはほとんど見あたらない。  2000 年代の初めごろ、筆者が実施した教員対象の環境教育アンケート調査の中で環境問題や環境教育 についての思いや考えの記述を求めたところ、記述した教員は5%であったが、この教員の方々は熱意を 持って環境教育を進めておられると推察された。この割合は最近もっと高くなっているのかもしれないが、 学校関係者から伺うとあまり高くはないようである。一方、本学部の環境教育の講義の受講率も学校教育.

(2) 堀 雅宏. 66. 課程でとる学生は 5 ∼ 10%と少なかった。それはほかにとるべき講義が多いことにもよろうが、学生の 問題意識を反映しているともいえる。  2.1「神奈川県の小中学校の教師へのアンケート」の結果   筆者らが 2005 年に地球環境課程の堀料実卒論:「学校教育における環境教育の体系化に関する研究」 の中で教員対象のアンケートを公立の小学校 33 校 (460 名)、中学校 31 校(497 名)で実施した(回収 率 69%) 。このアンケート結果から教員と環境教育の現状と抱えている問題についていくつかは明らかに なった(堀 2007)。このデータは最新のものではないが、震災、原発、放射能の問題を除けば最近もほと んど変化はないと推察される。次にアンケート結果の一部を示す。 ・学校独自の目標、計画を定めている学校:小学校 16%、中学校 24% ・教科と環境教育の関連有:小学校 87%、中学校 69% ただし、理科、社会、技術家庭、総合がほとん どである。教員が取り扱いやすいと思っているテーマと実際に取り上げたテーマを小学校について図1 に示す。 . 取り扱いやすいと思っているテーマ. 取り上げたテーマ. 図1 教員が取り扱いやすいと思っているテーマと実際に取り上げたテーマ. 図1 教員が取り扱いやすいと思っているテーマと実際に取り上げたテーマ  学校体制の問題として①環境教育関連の計画が立てられていないこと②全体として扱う内容・機会に偏 りがあること、教師個人における問題として③環境教育を取り上げる際に扱いやすい環境問題に偏りがち であること④目標の設定が広範囲すぎること  以上の点が挙げられるが、扱う内容や質、機会にばらつきがあるのは教師の力量まかせになっているた めであり、環境教育を行うための準備期間・授業時間の不足、予算の確保の問題なども挙げられよう。  この調査では教員へのインタビューも行った。その中で高学年担当の教員が指摘した問題の一つは「環 境教育が断片的で系統的でない」ことである。例えば地球温暖化について小学校でも、中学でも教えられ、 それなりの知識を持つ高校生が「またか」というのに対してどのように対応すべきか、という問題である (3 で取り上げる)。.

(3) 教員のための環境教育. 67.  2.2 免許更新講習の事前アンケートにみる教員の状況  講習が実施された 4 年間における課題認識調査アンケートにおいて「本講習を希望した理由は何ですか」 という問いに対する教員の回答内容を解析した。  受講者は、平成 21 年 16;平成 22 年 47;平成 23 年 80;平成 24 年 79 人であった。  . 表1 免許更新講習の事前アンケートにおける課題認識調査結果[人]  開講年度. 21. 22. 23. 24. 興味 / 関心. 3. 14. 16. 19. 日程などの都合. 2. 8. 3. 6. 基礎 /* 最新知識. 2. 6. 15. 15. * 進め方 / 方法論 / スキル. 1. 2. 12. 13. * 直ぐ使える教材. 1. 2. 10. 5. * 教科、総合学習. 0. 11. 9. 15. * 問題意識など. 4. 5. 11. 2. * 震災・放射能. 0. 0. 4. 8. 合計数は参加者数に一致しない。工業高校は教科に含めた。  興味関心、基礎知識などを選択したのはどちらかといえばこれから本格的に取り組もうとする教員で、 最新知識、進め方、方法論、スキルアップなど(表で *)の具体的な項目はすでに実施されてきた教員が多 いと推測された。受講者の所属は 4 年間合計で小学 66、中学 48、高校 95、中高2、特別支援 10、その他 11 であったが、毎年、小中高の比率が異なり、平成 21、22 年は小学が、平成 23、24 年は高校が最も多かった。 3 横浜国立大学教育人間科学部における免許状更新講習  3.1 講習内容   講習のタイトルは“考える環境教育”とし、毎年8月に 1 日(6 時間)実施してきたが、内容は震災後 の 24 年度について紹介する。時間割は次の通りである。  午前  講義(2 時間 20 分)  午後  実践事例(1時間 40 分) ;環境実験ツールの実演と解説(50 分) ;質疑応答、総合討論(40 分)  このうち、実践事例は鎌倉市立第1中学校の西岡正江校長(元本学部付属横浜中学校)が担当された。 講習の内容は次の通りである。 [ 講義 ] 環境基礎: “そもそも環境とは何か”、エコ、環境負荷、生態系、“自然とは”、多くの環境問題を整理、環 境問題の因果関係、環境汚染物質とその影響とリスク、 方法論 / 考え方:人間社会の環境問題への対応と環境教育、持続可能な社会と環境教育、問題意識や問い を持つこと、 “環境問題は人間の問題”、環境の多重性、教え方の3段階と環境教育、環境認識と環境教育 の現状 進め方:進め方のポイント、環境問題教育のプロセス、総合学習とその実践事例 アドバンス環境知識として:エコラベルの種類、ライフサイクルアセスメント、環境リスク、温暖化懐疑 論、環境放射能汚染など  以上であるが、“考える環境教育“のために二つのワークシートの図表:「因果関係のチャート」(図2).

(4) 堀 雅宏. 68. 関係を矢印で結んで完成. 図2 環境関連事象の因果関係[ワークシート]. 原 因. 環境負荷. 汚染現象. 1 次的な影響. 2 次的な影響. 人間・生態系への影響. 農耕地の劣化. 収穫量の減少. 自然物・野生生物の損傷. 人口増 生活水準の高度化 土地開発. 景観の変更 温暖化ガスの排出. 食料生産の増加. エネルギー 消費増大. 鉱工業生産物の種 類と量の増大. 酸性化物質排出. 自然災害の増大. 自然破壊 (森林面積の減少). 土地形質の変更. 危険性の増大. 地球温暖化. 異常気象. 空気汚染 海洋汚染. UV 増大. 環境水汚染 オゾン層破壊. 健康影響物質の排出. 生物多様性の減少 (生態系異常). 砂漠面積増大. 酸性雨 人やモノの移動の増大. 水質汚濁物質の排出. 健康影響. 食品汚染. 土壌汚染. 都市化(人口の集中) 悪臭物質の排出 健康影響物質の使用 温熱排出. ヒートアイランド. 空気汚染. 生活の質の低下 呼吸障害. 環境水汚染. 生物多様性の減少 (生態系異常). 騒音振動 廃棄物の増大. 図2 環境関連事象の因果関係[ワークシート:関係を矢印で結んで完成] 表2 環境問題解決へのアプローチにおける対応レベルと具体例(ワークシート) 対応レベル.   アプローチ. 地球温暖化対策. 自然保護. オゾン層破壊. 生 活 行 動 的 対 応 日常の個人や家庭単位ででき ごみの分別   ること 組織的対応 . 地域や会社 ・ 学校全体で協力 夏期一斉休業日設定、 して取り組む. 技術的対応 . 低環境負荷技術開発やその普 高効率太陽電池の開発と低コ 及 スト化、. 経済的対応 . 個人や組織に経済的インセン 太陽光発電導入補助金、 ティブを与える. 行政的対応  . 基本計画の策定、」地域の仕 公共交通利用促進 組み造り、先駆的環境行動. 法律的対応. 立法機関の役割、適用は行政 環境基準の設定、. 社会運動 . 行政やメディアによって推 ノーカーデー 進、社会教育的意義. 政策的対応. 立法、政府自治体の役割、基 京都議定書 本法の制定. メディア的対応. 問題の発掘、現状報告、問題 CO2 排出量削減国際環境会議 対応の報道、環境知識を周知 報道. 教育的対応. 学校・職場・地域での問題意 大量消費ライフスタイルの見 識、環境知識の普及 直し. このほかの環境問題についても考えてみよう。 と「環境問題解決へのアプローチにおける対応レベルと具体例」の表(表2)を示した。総合学習の実践 実践事例として兵庫県の小学校での河川浄化の成功例の詳細(岸本 2000)を紹介した。  また ppt の中で、学年を選べばそのまま子どもたちに具体的に問いかけられる問いの例も示した。「自 然はなぜ大切か」 「トキの保護は意味があるか」 「ダオキシンはなぜ問題か」「省エネルギー製品に買い換 えて、それだけでエコなのか」 。 「ゴミ分別収集はどのような意味があるか」「生物多様性はなぜ保たれな ければならないか」 「南極のオゾンホールの拡大はなぜ問題か」「地球温暖化現象はなぜ問題か」「省エネ はなぜ環境負荷を下げるか」「排水に油を流してなぜいけないか」.

(5) 教員のための環境教育. 69. [ 実践事例 ]   環境教育は「いかに生きるか」を探求する学習である。地球のために、世界が「持続可能な社会」の 実現を目指す。このために 20 年後の地球環境の変化を予想し、Food/Energy/Water で考え、「つながり」 を大切にして行きながら、実践・行動を続ける必要がある。これらのことを伝えようとした実践事例である。     ワークシート(西岡正江). 1.20 年後の世界を想像してみよう! 2.地球を持続可能な社会にするためには・・? 3. 「地球の食卓」、「地球がもし 100 人の村だったら・食べ物編」から気づいたことは 4.これから自分にできる環境教育は   (1)1のテーマについて 1 分間自分で考え、グループ内で各自が 1 分スピーチで自己紹介を兼ねて述 べ合う。この後代表者数人が発表、全体で共有しながら、新たな気づきも加えてワークシートにまとめた。  教員の感想によればこのワークで、いかにお互いに違うかを認識できたという。   (2)2 のテーマについて、別紙の世界の水、食、エネルギー、土壌などに関する現状を把握するため の [ ] に数字を記入するワークシート ( 図 3) が用いられた。なお「地球の食卓」2000 TOTO 出版, 「地 球がもし 100 人の村だったら」2001 マガジンハウス。. 図3 世界の水、食、エネルギー、土壌などに関して現状を把握するためのワークシートの初めの部分. 図3. 世界の水、食、エネルギー、土壌などに関する現状を把握するためのワークシート. の初めの部分.

(6) 堀 雅宏. 70.  F(Food)E(Energy)W(Water):Few(僅かな)資源の持続可能性について子どもたちと考える環 境教育を展開するための知識が得られた。(西岡)   (3)2 種類の本を各グループに配り、教員が子どもたちになったつもりで本を読んで 食、水、エネルギー事情などの実情を比較、保存方法、容器、ごみ問題など気づいたことをグループ内で 発表後、全体で発表しあい、ワークシートにまとめた。   (4) 4のテーマについて小、中、高毎のグループ内で話し合い、特に異なる段階の学校への要望や提案(例 えば中学なら小学校と高校で学ばせてほしい、身につけさせてほしいことなど)について発表してもらい、 各学校間の連携を図り、ワークシートにまとめた。  担当の西岡氏によれば最も印象に残ったことは、高学年の教員の小学校教員対する「子どもの感性を育 ててほしい」という要望であったという。 ワークシート(枠で囲った)1∼ 3 の内容や別紙ワークシート(図 3)は学年を選べばそのまま教室で使 えるものであった。  [ 実験 ]   次の 2 つの実験を取り上げた。  オゾン層破壊モデル実験(アスヤ、堀 2008) :ガラスチャンバー内で紫外線ランプでオゾンを発生させ、 オゾン濃度を検知管法で測定し、この後フロンを注入 1 ∼ 2 分後に再び測定してオゾンがほとんどなく なることを確認した(約 25 分) 。ランプ点灯前にオゾン濃度検出下限以下であることを確認し、遠紫外 線照射によってオゾン濃度が上昇、フロンによる分解で消失する過程をグラフ(横軸:時間、縦軸:オゾ ン濃度)にプロットして示した。  今回は 2 セットの卓上演示実験であったが、5 ∼ 10 人のグループに 1 セットあれば理想的である。  バイオ水素生成実験(川村 2012):リンゴを発酵させることによって水素を生成させ、生成した水素を 用いて燃料電池で発電した(15 分;実際の発酵放置時間は 1 日を要するので、あらかじめ生成しておい たものを用いた)。  両実験とも、ppt で背景や原理、環境問題との関係を説明した。   4 更新講習における問題点と課題  従来から受講者の求めるものないし期待するものは、共通するものも少なくないが、小学、中学、高校 などによって異なる傾向も見られ、小学では実践事例が、高校では教科との関連が比較的高い割合であっ た。これまでの 3 年間更新講習と今年度の事前アンケートによって、受講者の課題認識や要望はおおむ ね把握でき、今回の講習内容にもできるだけ反映させるように心掛けた。これに対して受講者の満足度の 事後調査結果は表 3 に示す通りであった。この調査は講習の最後の試験の後に行われたもので、文部科 学省の免許状更新講習受講者評価書(様式 5 号)に記入されたものを集計したものである。    表3 受講後のアンケート結果(平成 24 年度)(%)  評価項目. 満足. だいたい満足. あまり満足しない. 満足しない. 1. 内容そのものについて. 44. 40. 12. 4. 2. 免許更新に関わる視点. 41. 49. 6. 4. 1.評価書における内容そのものについての評価視点は「学校現場が直面する状況や教員の課題意識を反 映して行われていたか」と「ねらいの明確さ、意欲のわく工夫、説明の分かりやすさ、資料などの教材が 適切か」であった。一方、2. 免許状更新に関わる視点では単なるスキルアップだけなく、「講習が教職へ.

(7) 教員のための環境教育. 71. の意欲の再喚起、新たな気持ちで取り組む契機になったか。」「環境教育を巡る状況や動向、最新の研究内 容や指導法・技術が習得できたか。」「今後の教職生活での活用や自らの研修での継続した学習が見込まれ るか」など、多くのものが求められている。  本講習は小学から高校まで、環境教育に精通している教員から入門的な内容を求める教員までが対象で あることを意識して内容を選んだ。事後評価(表3)によれば、内容そのものと免許更新に関わる視点に ついて満足やだいたい満足はそれぞれ 84、90%、やや不満足、不満足合わせてそれぞれ 16、10%であった。 この結果から、大方は満足ないしだいたい満足であったが、改善を要する点が少なからずあったといえる。  評価書の多様な視点、幅広い層の教員の要求や期待に全て答えるには 6 時間では不十分で、ポイント を絞るか、普通コースとアドバンスコース(コース名はI,Ⅱ)の両方を設け、受講者に選択してもらっ た方がよい(両コースで半分くらいは共通な内容も含まれる)。30 ∼ 40 人が適切な規模のところ、2 年 間その 2 倍の受講者数であったのだから次年度からは2コースを検討すべきである。なお、その際に振 り分けは本人の申請、事前アンケート内容あるいは小中と高校も考えられる。受講者の日程の都合も配慮 する必要があろう。  教員自身の環境教育経験やスキルに関わらず、高校教員と小学校教員に求められるものは異る点もある。 高校教員特有の求めるものとして「大学入試でも環境問題は多く、何が問題なのか、それに対して自分の 意見を持っていることが求められる高校生を指導できる基礎知識を得たい」「地歴公民科に関わる環境教 育知識や現代社会の授業で扱える最新の動向を知りたい。」「工業高校で、生産と環境は一体であることを 伝えたい。 」などに代表されるニーズが課題認識調査で確認された。 2.1 で述べたように比較的熱心に環境教育を行ってきた高学年の教員(中、高)の間では「環境教育が断 片的で、系統的でない」とみられている点について、特に高校では例えば、温暖化を取り上げた時「また か」という生徒に対応できなければならない。中学まで説明の繰り返しではなく、より深く掘り下げた内 容を示すことができなければならない。いくつかの例について後述する。   一方、教員自身の環境観・環境問題の把握ないし理解、さらに言えば問題意識が子どもたちを指導する うえで重要なことは論を待たない。今回もこの視点からの解説をしたが、明日からすぐ使える内容を求め るニーズには答えてはいない。普段環境教育の教材を準備する時間とゆとりがない教員には当然の要求で あり、実践事例においてだけでなく講義の中でも今後もっと充実させるべきである。一方、筆者は子ども たちが考えるための具体的な問いをいくつも示したが、小学校では使えないものがほとんどで、示した問 いの背景解説も必要であった。自然体験や身近な環境への関心は小学校の段階で求められるものであるが、 ここで発する問いも示す必要があった。中学校向けも同様である。  評価視点の中に「教職への意欲の再喚起、新たな気持ちで取り組む契機になったか」という視点があっ たが、今回実践事例の受講者評価書の自由記述で「ほかの教員は何をどう思っているかをお互いに知るこ とができてよかった」という感想などから伺えるように、あるテーマについての同じ立場の教員同士の意 見交流はこの視点からも有効であったと考えられる。交流の場は環境教育学会や自主的な研究グループも あるが、 これらに関わる教員はごく一部に過ぎない。また、今回講習全体も交流の場であったともいえるが、 十分ではなく、教育委員会が研修などで、受け身の講義でないこのような機会を作ることは有効であろう。 5 これからの環境教育  教員向けに限ったものではないが、これからの環境教育について論じてみたい。 感性と考える教育   「環境教育指導資料小学校編」(国立 2007)では小学校における環境教育のねらいは、環境に対する1) 豊かな感受性の育成、2)環境に関する見方や考え方の育成、3)環境に働きかける実践力の育成、であ るとしている。今回のグループ討論でも、感性は重要で、知識は後からで得られるので高校教員は前述の.

(8) 72. 堀 雅宏. ように小学校で感性を育てることを求めている。ここでいわれる「感性」「知識」「行動」は環境教育に限 るものでないが、特に環境教育には当を得たねらいである。そしてこれらは小中高を問わず求められるも のであるが、問題はいかに身に着けるかである。  教え方の 3 段階として1)関心の喚起 2)理解の進化 3)参加する態度と問題解決能力の育成  がいわれ、持続可能な社会の形成に向けての教育は「問題意識」に始まるとされている。感性ないし感受 性が豊かであれば環境自然に関心もわくし、問題意識も芽生え、知識も得ようするはずである。人間とし て感性が大切な素養であり、筆者もそれを認めるが、感性だけでなく、考え、問う素養も同じくらい不可 欠な要素であることを強調したい。   考える環境教育とは  自然の大きさや清々しさ、生き物と生態系の不思議を受け止めるのは確かに感性であるが、環境教育で は、 「自然を大切に、生物多様性を保つこと、ごみを減らし、省エネや省資源の必要性」を教える。それ がなぜ必要で、具体的に何のためにそれを行うかを問うこと、そして必要に応じて子どもたちとともに考 えることこそが重要である。これが子どもたちの関心と理解の深化につながるからである。「自然を大切 にしましょう」より「自然はなぜ大切か」を、「トキを保護しよう」より「トキの保護はどのような意味 があるか」を、 「節電しよう」より「省エネルギーはなぜ必要か」。「缶やペットボトルを分別して出して リサイクルを」よりも「リサイクルはなぜ環境負荷低下につながるか」を、 「生物多様性が大切」よりも「保 つことがどのような意味があるのか」を説くべきである。このような理解は、単なる知識よりももっと深 い行動の動機になりうると考えられるからである。  いま、環境配慮行動の多くは「偽善エコ」でないかとの指摘を売りにしている著作(武田 2008)が 発行部数を増やしているという。筆者は「偽善エコ」でなく「ファションエコ」とみているが、例えば上 場企業から毎年出されている環境会計報告書を見るひとはその内容でなく会計報告をしているかどうかだ け見るに留まっている事実にも見られる。それは形だけになり、目に見えることだけで判断し、少し面倒 で経済的な負担がかかると実行しないことになりがちである。これに対して、より深く考える環境教育は ファションエコを超える可能性が増す。  考える環境教育が求められる背景  地球温暖化は気候変動問題といわれ、地球規模汚染である。京都議定書の取扱いを巡って政治問題化し ている一方、 温暖化懐疑論も存在する。環境教育の本の多く(例えば環境 2012)は懐疑論を無視しているが、 懐疑論もメディアを通して高校生の目に入る。単に二酸化炭素排出削減を説くだけでなく、気候変動と温 暖化の関係や①地球は本当に温暖化しているのか、 ②温暖化は人為的汚染によるものか、③温室効果ガ スが原因だとして、本当に発生を抑えられるかに対してどう考えるべきかも述べなければ説得力はない。  環境リスクの考え方が各分野の環境対策に取り入れられて久しい。環境リスクとは“人為活動によって 生じた環境の汚染や変化(環境負荷)が、環境の経路を通じて、ある条件のもとで人の健康や生態系に影 響を及ぼす可能性(おそれ)のこと”である。リスクの大きさは“ある物質の環境からの暴露量に対する 人の損失余命の大きさ”や“暴露濃度に対する影響人口の割合”として表され、多種類の化学物質の“相 対的な”影響が定量的に評価される。リスク論(中西 1996)に立てば、化学物質を使用する限りリスク ゼロはありえず、10 万人に一人起こるかもしれない結果は受け入れる(交通事故などとの比較から)こ とになる。限りなくゼロを目指すとコストと消費エネルギーが大きくなり、デメリットが大きくなるので、 メリットとデメリットのバランスを考える。環境教育では理想を語るのを常とするのでリスクの考え方は なじみにくいが、現実との接点では妥協が必要とされる。考える環境教育が求められる所以である。 震災後の環境放射能汚染問題、がれき処理、エネルギー問題  先述の課題認識調査では「3.11 後の放射能汚染問題を踏まえ、それをどういった形で環境問題に反映.

(9) 教員のための環境教育. 73. させていくべきか」というような問題意識を持っておられる教員も少なくなかった。放射能問題について 文部科学省は震災後に放射線副読本(放射 2012a)を小、中、高の各段階に応じて、放射線や放射能、放 射性物質について学習するために配布した。教師用の解説編(放射 2012 b))で放射線の影響の指導上 の留意点について、 「100 m Sv 以下の低い放射線量と病気の関係については明確な証拠がないことを理 解できるようにする。」「がんの発生にはいろいろな原因があることを理解できるようにする」としている が、直接使われているデータには福島のものは見当たらない。これに対しては「閾値がないのだから 100 m Sv 以下のリスクを無視すべきでない。福島の子どもたちが心配である」という見方、考え方もある(今 中 2012) 。  一方、文部科学省の副読本に関するホームページ(文部 2011)では次のように趣旨説明がある。「特別 の状況に国民一人一人が適切に対処していくためには、まず、放射線等の基礎的な性質について理解を深 めることが重要であると考えます。特に、この困難な事態を克服し、日本の将来を担わなければならない 子ども達においては、小学校・中学校・高等学校の各段階に応じて、放射線や放射能、放射性物質につい て学び、自ら考え、判断する力を育むことが大切であると考えます。」ここでも「学び、自ら考え、判断 する力」が言われているが、考えるには人体に対する 100 m Sv 以下の影響の見方のように異なる意見を 比較することが必須であろう。日本環境教育学会でも「原発と環境教育」の特別分科会の開催や原発事故 のはなし授業指導案の発刊(環境 2012b)など取り組んでいるが、そこでは中立性を守るだけでよいのか も問われている(森 2012) 。  原発とエネルギー問題では再生可能エネルギーが推奨されることに異論はないが、原発再稼働と将来の あり方は安全安心に経済が絡む問題である。また、がれき処理問題は放射能リスクの拡散が伴うので受け 入れるべきでないという考え方と、リスクは小さいので被災地任せにせずに受け入れるべきであるという 考え方がある。どちらにも一理があり、考えるべきテーマである。なお、教員自身が考える上で福島大学 の副読本(福大 2011)や福島県教組の著作(福島 2012)は参考になる。  本稿では環境教育にも合理性を求め、情緒のみに頼らない「考える」環境教育を進めるべきであると述 べてきた。教員が環境教育を担うに際して環境知識や教育方法の習得や適切な教材が必要なことは言うま でもないが、教員自身の環境理解の深さと問題意識こそが求められる。このことなしに子どもたちに環境 と環境問題をよく考えさせることはおよそ想像できないからである。   引用文献 アスヤ ケリム、堀 雅宏(2008) :オゾン層破壊モデル実験装置の学校環境教育への適用方法の検討、 環境教育 Vol.17(3)p 14-24 阿部 治 監修、S. グレイグほか著、世界自然保護基金日本委員会訳(1998):環境教育入門、明石書店  今中哲二(2012):低線量放射線被曝とその発ガンリスク、岩波「科学」フォーラム“現代の被曝”p1-4 川村幸嗣、和泉恵介、本間弘明、岩崎禎(2012):リンゴ搾汁残渣と水素燃料電池を使用したバイオマス エネルギー学習教材の開発、日本化学会第 92 回春季年会講演予稿集 2H2-02 環境教育学会編(2012a):環境教育(教育出版) 環境教育学会原発事故のはなし授業案作成ワーキンググループ 2012b:『原発事故のはなし−小・中・高 校 で の 授 業 指 導 案 』 1・ 2,http://www.jsoee.jp/npp-and-ee/24-story-of-npp/88-story-npp-booklet. html キッズ ISO プログラム:www.artech.or.jp/japanese/kids 岸本清明: 「学級崩壊から総合学習へ」稲垣忠彦編「学級崩壊を超えて」評論社,2000 国立教育政策研究所教育課程研究センター(2007):環境教育指導資料、小学校編:東洋館出版社.

(10) 74. 堀 雅宏. 武田邦彦(2008):偽善エコロジー、幻冬舎 中西準子(1996):環境リスク論、岩波書店 福島大学環境計画研究室(2011) : 「放射線と被ばくの問題を考えるための副読本」http://www.ad.jpc. fukushima-u.ac.jp/~a067/index.htm 福島県教職員組合放射線教育対策委員会科学技術問題研究会(2012):「子どもたちのいのちと未来のた めに学ぼう放射能の危険と人権」明石書店 放射線等に関する副読本作成委員会(2011a):知ることから始めよう放射線のいろいろ 放射線等に関する副読本作成委員会(2011b):知ることから始めよう放射線のいろいろ解説編(教師用) 堀 雅宏(2007):環境教育をいかに進めるか、1. 現状の問題点、横浜国立大学教育人間科学部環境教育 研究会編:環境教育−基礎と実践− , 共立出版 p 90  文部科学省(2012)http://www.mext.go.jp/b_menu/shuppan/sonota/detail/1311072.htm 森 高一(2012) :第 2 回特別分科会「原発と環境教育」∼環境教育の現場は原発事故をどのように扱っ てきたか∼報告、環境教育ニュースレター第 96 号.

(11)

参照

関連したドキュメント

取組の方向 安全・安心な教育環境を整備する 重点施策 学校改築・リフレッシュ改修の実施 推進計画 学校の改築.

取組の方向  安全・安心な教育環境を整備する 重点施策  学校改築・リフレッシュ改修の実施 推進計画

認知症の周辺症状の状況に合わせた臨機応変な活動や個々のご利用者の「でき ること」

小・中学校における環境教育を通して、子供 たちに省エネなど環境に配慮した行動の実践 をさせることにより、CO 2

小学校における環境教育の中で、子供たちに家庭 における省エネなど環境に配慮した行動の実践を させることにより、CO 2

具体的な取組の 状況とその効果 に対する評価.

 履修できる科目は、所属学部で開講する、教育職員免許状取得のために必要な『教科及び

 履修できる科目は、所属学部で開講する、教育職員免許状取得のために必要な『教科及び