要
旨
扁桃腺炎を契機に尿所見の増悪を認めた膜性増殖性
糸 球 体 腎 炎 (membranoproliferative glomerulonephritis:
MPGN)に対し扁桃摘出術を施行し,臨床的,および免疫
組織学的に有効であった 1 例を経験した.症例は 21 歳
の女性.11 歳時に溶連菌感染後糸球体腎炎を発病し,経
過観察されていたが,5 か月を経過しても尿所見と低補
体血症の改善がなく,腎生検により MPGN Type I と診断
した.その後,メチルプレドニゾロン・パルス療法を 3
クール施行後,多剤併用療法(PSL+MZR+ACEI+ARB)に
て軽快した.12 歳頃より再び尿所見の増悪と低補体血
症を呈した.扁桃腺炎の反復のたびに,尿所見の増悪と
低補体血症を認めていた.17 歳時に慢性扁桃腺炎に対
する扁桃摘出術を施行後,検査所見は改善し,病態が安
定した.18 歳時の腎生検で,免疫組織学的にも改善を認
めた.反復する扁桃腺炎により臨床所見の増悪を認める
難治性 MPGN に対して,扁桃摘出術は有効な追加治療
となる可能性がある.
序
言
膜性増殖性糸球体腎炎(membranoproliferative
glomeru-lonephritis: MPGN)の治療には,メチルプレドニゾロン大
量療法(MPT)を含む prednisolone(PSL)
1)-3),cyclospo-rine A(CyA)
4)や mycophenolate mofetil(MMF)
5)などの
免疫抑制剤の治療があるが,難治性 MPGN に対する確
立した治療法はない.一方,成人領域のみならず,小児
においても,扁桃摘出術が IgA 腎症に対する有効な治療
法として示されている
6)-8).IgA 腎症は扁桃における免
疫寛容破綻の結果,糸球体への IgA や補体 C3 の沈着を
来し発症する免疫複合体沈着型糸球体性腎炎である.
MPGN も免疫複合体腎炎であり,慢性扁桃腺炎が病態の
進展に関与し,扁桃腺炎を契機に病勢の増悪を認める症
例では,免疫寛容の破綻という観点から,IgA 腎症と臨
床組織学的相同性が考えられる.今回,多剤併用療法で
は臨床的寛解が得られなかったが,扁桃摘出術を契機に,
臨床学的,および免疫組織学的に有効であった MPGN
の 1 例を経験した.
症
例
症例:21 歳,女性
主訴:蛋白尿・血尿
現病歴:11 歳時,便秘による腹痛のため救急受診した
際,尿潜血を指摘された.翌日近医で血液検査を実施し,
anti-streptolysin O antibody 陽性であったため溶連菌感染
後糸球体腎炎として経過観察されていた.当初は血尿の
みであったが,2 週間後より蛋白尿が出現し,血清補体
価の低下を認めた.発症 5 か月を経過しても低補体血症
が持続するため,腎生検目的にて当院へ紹介され,すぐ
に入院となった.
既往歴・家族歴:特記すべきことなし
入院時身体所見:身長:146.2 cm,体重:39.8 kg,血
圧:94/60 mmHg,脈拍:78/分,体温:36.6 度.全身状
態:比較的良好,呼吸音:清,ラ音なし,心音:純,リ
ズム整,腹部:平坦・軟,圧痛なし,腸蠕動音聴取可,
浮腫,紫斑なし.
入 院 時 検 査 所 見 (表 1) : 尿 所 見 で は 比 重 1.032,
●症例報告●
扁桃摘出術が臨床的寛解に寄与したと思われた
膜性増殖性糸球体腎炎の 1 例
宮崎 紘平・塩谷 拓嗣・宮沢 朋生・岡田
満・竹村
司・杉本 圭相
(受付日:2018 年 9 月 26 日 採用日:2019 年 6 月 5 日)Key words: 膜性増殖性糸球体腎炎 / 扁桃摘出術 / 小児
/ 低補体血症
近畿大学小児科 連絡著者:〒589-8511 大阪狭山市大野東 377 番地 2 近畿大学小児科 宮崎紘平 E-mail: [email protected] doi.org/10.3165/jjpn.cr.2018.0145pH 5.5,蛋白(3+),潜血(3+),尿沈渣赤血球 50~99/HPF,
円柱(-)であった.血液検査では Cre 0.49 mg/dl,eGFR
109.2 ml/min/1.73 m
2と腎機能障害はなかったが,C3 50
mg/dl,C4 15 mg/dl,CH50 28.5 U/ml と低補体血症を認
めていた.各種抗体検査に異常は認めなかった.
画像検査所見:腹部超音波および静脈性腎盂造影検査
では,腎・尿路形態に異常は認めなかった.
入院後経過(図 1):高度の血尿,蛋白尿を呈していた
が,高血圧や浮腫などを含め身体所見に異常はなかった.
低補体血症および尿所見異常が持続していたため,慢性
糸球体腎炎と考え,入院翌日に超音波ガイド下経皮的腎
生検を施行した.採取検体に糸球体は 46 個観察された.
光顕所見では,糸球体の高度のびまん性メサンギウム細
胞の増殖と基質の増生による分葉化や糸球体係蹄壁の肥
ALT 18 U/L LDH 226 U/L CK 86 U/L T-Chol 133 mg/dl TG 67 mg/dl 抗 SS-A 抗体 10>IU/ml MPO-ANCA 10>EU クリオグロブリン (-) HBsAg (-) HCV 抗体 (-) ケトン体 -赤血球 50-99 /HPF 白血球 10-19 /HPF 円柱 (-) 図 1 入院後経過(扁桃摘出術前後の血清補体価,尿蛋白の推移および治療)厚と二重化,一部にボウマン囊との癒着を認めた.蛍光
抗体法では,メサンギウム領域と糸球体係蹄壁に C3c,
C4,Fib の顆粒状の沈着を認めたが,IgA および IgG の
沈着はなかった.以上の結果から,MPGN と診断し,
MPT 3 クール施行後,PSL 40 mg/日,mizoribine(MZR)
150 mg/日,アンジオテンシン変換酵素阻害薬,アンギ
オテンシン受容体拮抗薬(ARB)による多剤併用療法を
開始した.PSL 15 mg/日まで減量した時点で蛋白尿は
陰性化し,血清補体価が正常化したため入院約 2 か月で
退院した.しかし,発症 1 年後の 12 歳時に,再度蛋白尿
(1+),血尿(3+)と血清補体価の低下(C3 43 mg/dl C4 9
mg/dl CH50 23.5 U/ml)が出現し,2 回目の腎生検を実
施した.メサンギウムの細胞増殖の残存があり,MZR
による継続治療を行った.その後,蛋白尿(±~1+),血
尿(-~2+)で推移していたが,1 年間に 3 回以上の扁桃
腺炎に罹患し,その度に蛋白尿(2~3+),血尿(2~3+)と
尿所見の増悪を繰り返し,血清補体価の変動も伴ってい
た.病態を把握するため,15 歳 4 か月時に 3 回目の腎生
検を実施した.採取検体に糸球体は 17 個観察され,光
顕所見では,糸球体の高度のびまん性メサンギウム細胞
の増殖と分葉化や糸球体係蹄壁の二重化,ボウマン囊と
の癒着を認めた.蛍光抗体法では,メサンギウム領域と
糸球体係蹄壁に IgG,IgA,IgM,C3,C4 の顆粒状沈着を
認め,電顕では内皮下に高電子密度沈着物(electoron
dense deposit: EDD)が確認された(図 2).その後 MZR を
中止し,CyA(3 mg/kg/d)治療を開始したが,低補体血症
は持続した.17 歳 3 か月に,CyA 腎症の確認のため,4
回目の腎生検を施行したが,尿細管の縞状変化や萎縮は
なかった.経過中に扁桃摘出術の適応基準(Paradise
cri-teria:過去 3 年間に少なくとも 3 回の扁桃腺炎に罹患)
を満たしたため
9),17 歳 7 か月で口蓋扁桃摘出術を施行
した.その結果,術後 1 か月頃より尿所見の改善ととも
に血清補体価が正常化した.治療効果判定目的で,18 歳
7 か月時に 5 回目の腎生検を実施した.組織所見では,
糸球体は 10 個観察され,メサンギウム細胞の増殖と基
質の増生は軽度になっており,部分的に基底膜の二重化
を認めたが,癒着や半月体はなかった.また,免疫組織
学的半定量評価として扁桃摘出術前後の 3,4,5 回目の
腎組織糸球体の activity index(AI)と chronicity index(CI)
を検討したところ,AI は 7.0→2.0,CI は 0→0 と改善し
ていた.さらに,糸球体内の補体 C3,IgG 沈着について
も免疫染色を実施し,沈着の程度をその分布と強度から
半定量評価(0~3 点)を行い,IgG 沈着は 1→0,補体 C3
沈着は 3→0.5 と低下していた.扁桃摘出術から約 2 年
後に CyA は終了し,現在は ARB 内服のみで血清補体価
の低下もなく,臨床的寛解が維持できている.
考
察
今回我々は,扁桃腺炎を契機に増悪を繰り返す難治性
MPGN に対して扁桃摘出術が臨床的,および免疫組織学
図 2 扁桃摘出術前 3 回目の腎組織(PAS 染色´400,電子顕微鏡写真) 糸球体メサンギウム細胞の増殖と基質の増生による分葉化や糸球体係蹄壁の二重 化を認め,蛍光抗体法では,メサンギウム領域と糸球体係蹄壁に IgG,IgA,IgM, C3,C4 の顆粒状沈着を認めた.電顕所見では内皮下に高電子密度沈着物(EDD) が確認された.的に有効であった 1 例を経験した.本例における扁桃摘
出は病勢を制御する目的ではなく,慢性扁桃腺炎に対す
る扁桃摘出術の基準を満たしたため施行された
9).その
結果,扁桃腺炎を契機に増悪を繰り返す尿所見異常は軽
快した.また,術後 5 年の経過で,血清補体価の低下は
認めていない.
IgA 腎症は,病原体の持続的な粘膜抗原刺激により扁
桃 B 細胞のホーミング異常や患者扁桃における免疫寛
容の破綻を来す
10)11).その結果,IgA1 の糸球体への沈
着と好中球やマクロファージによる毛細血管炎が原因と
なり発病する.本邦を中心とした IgA 腎症の扁桃摘出
術に関する解析で,扁桃摘出の有効性が示され,その背
景に感染病巣の除去のみでなく,免疫寛容の是正が焦点
となっている
7)8)12).我々は,IgA 腎症に対する扁桃摘
出術前後の糸球体への補体の沈着とマクロファージの浸
潤を半定量的に比較し,糸球体局所における補体の活性
やマクロファージの浸潤の抑制が炎症性病変を鎮静化さ
せる機序であることを明らかにした
13).
一方,MPGN は一般的に予後不良の疾患であり,
Habib らの小児 MPGN 105 例に対するコホート研究で
は,発症から 10 年で約 50%の症例が末期腎不全に至っ
た
14).MPGN に対する治療の無作為化比較対照試験
(randomized controlled trial: RCT)では,ステロイドの隔
日投与
15)や MPT
1)2)を含めたステロイド療法,CyA
4)および MMF
5)の有効性が示されているが,臨床的に治
療に難渋する症例が存在する.本症例でも,MPT,MZR,
CyA による治療を実施したが,扁桃腺炎を契機に尿所見
の増悪を呈し,血清補体価は一時的な改善のみで,治療
効果は限定的であった.
近年,MPGN は免疫グロブリンの沈着様式により,C3
腎症(dense deposit disease: DDD)や IC-mediated GN など
に分類され,C3 nephritic factor(C3NeF)などの補体成分
に対する自己抗体が発見された.本症例の電顕所見で,
部分的に intramembranous deposit を呈したが,免疫グロ
ブリンの沈着を認めた.代謝疾患が否定的であることか
ら内皮下の沈着とみなし,IC-mediated GN の範疇に入る
と考えられた.
MPGN は,持続的な抗原刺激による獲得免疫や抗体
が,Toll-like receptor(TLR)を介して,マクロファージな
どの刺激により免疫複合体を形成し,補体を活性化する
ことを特徴としている
16).近年,自然発症モデルマウス
の解析により,IgA 腎症と TLR との関連性が示され
た
17)18).MPGN 症例で,扁桃腺炎の反復に対して扁桃
摘出術を施行後,補体および尿所見が正常化し,扁桃病
理像で陰窩内に TLR9 陽性細胞を認めたことより,慢性
扁桃腺炎が MPGN の発症・進展に関与した症例が報告
された
19).このように,MPGN の中でも,特に扁桃腺炎
を契機に病勢の増悪を呈する症例では,免疫寛容の破綻
という観点から,IgA 腎症と類似した病態が考えられる.
実際に,本例では,扁桃摘出により,扁桃腺炎を契機に
増悪した尿所見異常が是正され,血清補体価が正常化し
た.さらに,腎生検組織所見の改善(図 3)とともに,AI,
および補体や免疫グロブリンの沈着度が低下したことか
ら(図 4),扁桃摘出により糸球体内の補体を含む炎症活
性が鎮静化された可能性が示唆された.
小児期の扁桃摘出術は,免疫学的なパラメーターの変
図 3 扁桃摘出術前後の糸球体組織の比較(PAS 染色,´400 倍) メサンギウム細胞の増殖と基質の増生は明らかな改善を認めた.化はあるものの,実臨床への影響は証明されていな
い
20).しかし,術後の合併症や免疫学的異常の観点から
も多くの議論の余地がある.特に,感染症のリスクが
17%も増加することから
21),適応症例の十分な検討と注
意深い長期的な観察が必要であると考えられる.
今回,慢性扁桃腺炎に対する扁桃摘出術が偶発的に
MPGN の病勢を安定化させたが,臨床学的所見のみなら
ず,免疫組織学的所見の改善に繋がったことは非常に興
味深い.
結
論
MPGN と IgA 腎症の両者には類似した発症機序や病
態がみられ,扁桃局所における免疫寛容の破綻が原因の
一つであると推察される.限定的ではあるが,反復する
扁桃腺炎により臨床学的所見の増悪を認める難治性
MPGN では,扁桃摘出術が有効な追加治療法となる可能
性が示唆された.
本論文の要旨は第 51 回日本小児腎臓病学会学術集会
(2016 年 7 月,愛知)にて発表した.
「日本小児腎臓病学会の定める基準に基づく利益相反
に関する開示事項はありません.」
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図 4 扁桃摘出術前後の糸球体組織の比較
(左から PAS 染色,免疫組織化学染色:IgG,C3,´400 倍)
扁桃摘出術前後における 3,4,5 回目の糸球体組織像の改善と免疫染色 IgG,C3 沈着度の低下を認 めた.
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A case of membranoproliferative glomerulonephritis in whom clinical remission could be achieved
by tonsillectomy
Kohei Miyazaki, Takuji Enya, Tomoki Miyazawa, Mitsuru Okada, Tsukasa Takemura, Keisuke Sugimoto Department of Pediatrics, Kindai University Faculty of Medicine
We report a case involving a 21-year-old woman with membranoproliferative glomerulonephritis (MPGN) who had exacerbation of the urinary findings due to repeated tonsillitis. She underwent tonsillectomy, which resulted in clinical and histological remission. The patient was under observation for poststreptococcal glomerulonephritis at the age of 11 years, but no improvement in urinary findings or hypocomplementemia was observed after 5 months, and a kidney biopsy led to the diagnosis of MPGN Type-I. Urinary findings improved once by multi-drug therapy including methylprednisolone, mizoribine, angiotensin converting enzyme inhibitor and angiotensin II receptor blocker. However, hypocomplementaemia and proteinuria were detected again at the age of 12 years. We performed tonsillectomy at the age of 17 years for chronic tonsillitis because she showed exacerbation of the clinical findings. Subsequently, urinary findings showed improvement and serum complement levels normalized. Histological improvement was also found in the fifth kidney biopsy performed at the age of 18 years. This suggested that tonsillectomy could be an effective treatment option for intractable MPGN with repeated exacerbation of clinical findings due to repeated tonsillitis.
Key words: membranoproliferative glomerulonephritis, adenotonsillectomy, children, hypocomplementemia