変分法の入門編
@minami106
3
第
1
章
変分法
変分法という数学の分野があります. この変分法というのは, 一言で言うと関数f (x)の極値をf0(x) = 0 と置いて求める方法の一般化なのですが,数学のみならず, 解析力学などでも絶大な活躍を見せます. しかし, この変分法というのはなかなかイメージがややこしくて掴みにくく,それでいて色んなところで出現するもの だから,もう困った!! どうすれば良いんだ!! と, ドツボにハマってしまうことが大いにあり得ます. そこでこ の資料では, 変分法とは一体何なのか? そして,実際にどういうことが出来るのか? について分かりやすく, それなりに厳密に説明してみようと思います.1.1
2
点
A,B
を結ぶ線分とは何だろう
?
さて, 変分法というものを導入する前に,まず次のような質問の答えを考えてみてください. ¶ ³ 平面R2の2点A,Bを結ぶ線分(segment)とは何でしょう? O y x A B µ ´ この質問に対する答えとしては, たとえば「2点A,Bを結ぶ曲線のうち, その長さが最短になるもの」 など が考えられます. まさにその通り. では,これを数式で表現してみましょう.2点A,B∈ R2が与えられたとき, A,Bを結ぶ曲線*1c : [a, b]→ R2というのは,次のように表せます.
c(t) = ( x(t) y(t) ) (a≤ t ≤ b), c(a) = A, c(b) = B. *1Rnの曲線 (curve) とは, 写像 c : [a, b]→ Rnのことです.
4 第1章 変分法 そして, この曲線の長さ(length) L(c)は以下のように求められるということを,微分積分で習います*2. L(c) = ∫ b a || ˙c(t)||dt = ∫ b a √ ˙ x(t)2+ ˙y(t)2dt. A,Bを結ぶ線分とは, L(c)の最小値を与えるようなcのこと. と言えますね.
1.2
変分問題
この問題を少し一般化してみましょう. L(c)は曲線cの長さを表す関数ですが,別に長さに限らず,曲線c の関数F (c)を考えることができるはずです. このようにして,以下のような問題を考えることができます. 変分問題 ¶ ³ 関数y : [a, b]→ Rnの関数 F (y) = ∫ b a f (x, y(x), y0(x))dx が極値を取るようなyを求めよ. ただし, fは微分可能と仮定する. µ ´さっきの曲線の長さの例は,この問題においてn = 2, y(t) = c(t) =(x(t)y(t)), f (t, c(t), ˙c(t)) =√x(t)˙ 2, ˙y(t)2
の場合であることが分かると思います. これより,この問題は曲線の長さを最小にするcを求めるさきほどの 問題の一般化になっていることが分かります. こういう問題のことを変分問題(variational problem)と 呼びます. また, Fは”関数の関数”という, ちょっと見慣れない形をしていますよね. このような「関数の関 数」のことを,汎関数(functional)といいます. 最初に示した例は,汎関数L(c)が最小の値を取るような曲線(関数) cを決定する問題でした. この拡張と して,変分問題は,汎関数F (y)が極値を取るような関数yを決定する問題 と言うことができます. ちなみに, 一般的に, yには,最初の例のように, 端点を固定する境界条件y(a) = A, y(b) = Bを仮定する のが普通です. これによってyは点AからBへと向かう経路と見なすことができるようになります. たとえ ば,汎関数F (y)がyに沿ってAからBへ移動するのにかかるコストを表すとすれば, 変分問題はどのよう な経路でAからBに移動すればコストが最小になるか?という最適化問題になるわけです. 世の中には多種多様な物理現象がありますが, 驚くほど多くの物理現象が, 変分問題の解として記述されま す. このことを実感したいという読者さんには,解析力学という物理学の分野をオススメします ☆(ゝω・)v
1.3
関数
,
汎関数の変分
ではこれから, 変分問題を解くための道具立てをして行きましょう. まず意識しておいてほしいのは, 変分 問題は汎関数Fの極値問題であるということです. 我々は微分積分学で関数f (x)の極値問題を学びました. その時我々は, f0(x) = 0と置いて, fが極値を取るようなx (変数)を決定しましたよね. ところが今我々は, 汎関数Fが極値を取るようなy (関数!) を決定したい訳です. それを実現するために, まずは関数の場合の 微分に相当する,汎関数の変分というものを頑張って定義しましょう. *2この資料では, df dtを ˙f と表記します.1.3 関数, 汎関数の変分 5
1.3.1
関数の変分
まずは,汎関数F の変分を定義するために,関数y : [a, b]→ Rnの変分を定義します(変分が2つ出てきて
ややこしいですが, 気をつけて!!).
任意の関数h : [a, b]→ Rn (ただし, h(a) = h(b) = 0とします)を考えます. この時,任意の実数²に対し
て, y²(x) = y(x) + ²h(x)とおけば, y²(a) = y(a) + ²h(a) = A, y²(b) = y(b) + ²h(b) = Bが満たされます.
つまりy²は,やはりAからBに向かう曲線なのです. yとy²のイメージを以下に示します. O y x A B y y² すなわちy²は, 端点だけを一致させて, 関数yに何かちがうもの²hを足して変化させたものと思ってくだ さい. ²を動かせば, y²はうねうねと変化します. Def : 関数yのh方向の変分 ¶ ³ h : [a, b]→ Rnをh(a) = h(b) = 0を満たす任意の関数, ²を任意の実数としたとき, y²= y + ²h. と置き, y²をyのh方向の変分(variation)という. (² = 0のとき, y²= yであることを頭に置いて!!) µ ´
1.3.2
汎関数の変分
さて, この変分を定義したところで, ²を自由に動かすことを考えてみましょう. ²を自由にふわふわと動か すと, y²もそれに伴ってうねうねと動きます. そして, y²に対する汎関数Fの値F (y²) (これは実数です)も 変化します. (ちょっとややこしいことを言っていますが大丈夫ですか? もし抽象的で分かりにくければ, 汎 関数F として曲線の長さをイメージすれば分かりやすいかもしれません.)6 第1章 変分法 ² R O y x A B y (² = 0) y² ² F (y²) このことから分かるように, F (y²)は実数²の関数になっていることが分かります. よって, F (y²)は, ²で微 分出来ます. ということは, 1. F (y²)を²で微分して0と置く. 2. そこから, F (y²)が極値を取るときの²が分かる. 3. ²から, y²が分かる. 4. F はそのy²に対して極値を取る. すなわち, y²は,解きたかった変分問題の解! こういう流れが考えられると思いませんか? よって, F (y²)を²で微分するということはすごく大事です. し かも,上の流れと全く逆の流れとして,以下のことが言えます. 1. もし, y (² = 0のときのy²)が変分問題の解(F (y)が極値)なら· · · 2. d d²F (y²) ¯¯ ¯¯ ²=0 = 0が成り立つ. すなわち, ² = 0のときのdF (y²) d² を0と置けば,この方程式を満たすy²というのは, F が極値を取りうる関 数になっているはずなのです. 頭がこんがらがっていませんか? ゆっくりで良いので頑張って付いてきて! Def : 汎関数Fの第一変分 ¶ ³ δF := d d²F (y²) ¯¯ ¯¯ ²=0 . と置き,汎関数Fの第一変分と呼びます. µ ´
δF = 0を満たす点yのことを, Fの臨界点(critical point),または停留点(stationary point)と呼びま
す. F の臨界点は, F が極値を取りうる点です. ここまでの話は, 微分積分学でf0(x) = 0と置いて, f が極値 をとりうる点xを求めたことの綺麗な拡張になっていることを以下に示しておきましょう. 関数f 汎関数F 関数f の微分f0= 0 汎関数F の変分δF = 0 関数fの極値を取りうる点 x 汎関数Fの臨界点y
1.3 関数, 汎関数の変分 7
1.3.3
臨界点が満たす条件
ここまで,関数,汎関数の変分を定義し, 汎関数の変分を0と置くことによって汎関数の臨界点を求めるこ とができるという話をしてきました. 今度は, 汎関数の臨界点は一体どのような条件をみたすのか? という ことを見て行きましょう. 変分問題を実際に解けるようになるまでもうひと頑張り,頑張りましょう! Thm : 第一変分公式 ¶ ³ δF = d d²F (y²) ¯¯ ¯¯ ²=0 = ∫ b a n ∑ i=1 ( ∂f ∂yi − d dx ∂f ∂yi0 ) hi(x)dx. µ ´ 一応断っておきますが, y = y1 y2 .. . yn , h = h1 h2 .. . hn です. 証明してみましょう. Proof. 合成関数の微分法を使います. d d²F (y²) ¯¯ ¯¯ ²=0 = d d² ∫ b a f (x, y²(x), y²0(x))dx ¯¯ ¯¯ ¯ ²=0 = ∫ b a df d²dx ¯¯ ¯¯ ¯ ²=0 = ∫ b a n ∑ i=0 { ∂f ∂yi hi(x) + ∂f ∂yi0 dhi dx } dx. この積分の第二項を部分積分してみましょう. ∫ b a ∂f ∂y0i dhi dxdx = [ ∂f ∂y0ihi(x) ]b a − ∫ b a d dx ∂f ∂y0ihi(x)dx. ここで, h(a) = h(b) = 0より,第一項は0になります. よって, ∫ b a ∂f ∂y0i dhi dxdx =− ∫ b a d dx ∂f ∂yi0hi(x)dx. これを代入すれば, δF = d d²F (y²) ¯¯ ¯¯ ²=0 = ∫ b a n ∑ i=1 ( ∂f ∂yi − d dx ∂f ∂yi0 ) hi(x)dx. を得て証明終了です. さて,今から,臨界点yが満たす条件を具体的に求めてみます. そのために, 以下の補題を証明なしで使う ことしましょう.8 第1章 変分法 Lem : 変分法の基本補題 ¶ ³ ϕ : [a, b]→ Rnが連続で,任意の連続関数hがh(a) = h(b) = 0を満たし, ∫ b a ( n ∑ i=0 ϕi(x)hi(x) ) dx = 0. なら, ϕ(x)≡ 0 (i.e. ϕは零写像)が成り立つ. µ ´ この補題と第一変分公式より,以下の重要な定理を得ます. Thm : Euler-Lagrangeの方程式 ¶ ³ yが汎関数Fの臨界点 ⇐⇒ d dx ∂f ∂yi0 − ∂f ∂yi = 0 (i = 1,· · · , n)を満たす. (上に現れた微分方程式をEuler-Lagrangeの方程式と呼ぶ. E-L方程式と略したりもする.) µ ´ Proof. ⇐は第一変分公式より明らか. ⇒も,第一変分公式と変分法の基本補題により明らか. すなわち, 汎関数F の臨界点yを求めたいときは, Euler-Lagrangeの方程式を立て, それを解けば良 いということが分かったのです. 変分の定義から直接臨界点yを求めるのはほとんどの場合困難ですが, Euler-Lagrangeの方程式という素晴らしいもののお陰で, 変分問題は微分方程式の問題に帰着されます. Euler-Lagrangeの方程式は,変分問題を解くのに必須の,とっても強力な武器なのです ☆(ゝω・)v これで,変分法についての理論的な解説はオシマイです. みなさん, お疲れさまでした!! 最後に, 変分問題 を実際にEuler-Lagrangeの方程式を使ってR2の2点A,Bを結ぶ長さ最小の曲線が線分であることを示し, この資料を終わりにしたいと思います. 例題 (長さの汎関数の臨界点) ¶ ³ c : [a, b]→ R2, c(t) =t(x(t), y(t))の長さ L(c) = ∫ b a √ ˙ x(t)2+ ˙y(t)2dt の臨界点を求めよ. (被積分関数f (t, c, ˙c) =√x(t)˙ 2+ ˙y(t)2の場合です.) µ ´ まず, Euler-Lagrangeの方程式を立てましょう. cはR2の曲線なので, Euler-Lagrangeの方程式は2次の 連立微分方程式になります. d dt ( ∂f ∂ ˙x ) −∂f ∂x = 0 , d dt ( ∂f ∂ ˙y ) −∂f ∂y = 0. 具体的にEuler-Lagrangeの方程式を立てるために, ∂f ∂x, ∂f ∂ ˙x, ∂f ∂y, ∂f ∂ ˙y を求めると, ∂f ∂ ˙x = ˙ x(t) √ ˙ x(t)2+ ˙y(t)2, ∂f ∂ ˙y = ˙ y(t) √ ˙ x(t)2+ ˙y(t)2, ∂f ∂x = ∂f ∂y = 0.
1.4 おわりに 9 を得ます. これより, Euler-Lagrangeの方程式は, d dt ˙ x(t) √ ˙ x(t)2+ ˙y(t)2 = 0, d dt ˙ y(t) √ ˙ x(t)2+ ˙y(t)2 = 0. となり, 2つの式より, ˙ x(t) √ ˙ x(t)2+ ˙y(t)2 = A, ˙ y(t) √ ˙ x(t)2+ ˙y(t)2 = B (A, Bは定数) が分かります. ここで, 2つの式の辺々比を取れば, x(t)˙ ˙ y(t) = A B を得るので, B ˙x(t) = A ˙y(t)です. あとは, 両 辺をtで積分すればAy = Bx + C (A, B, Cは定数)という結果となり,これは直線の方程式です. すなわち, L(c)の臨界点となる曲線c(t) =t(x(t), y(t))は直線の方程式Ay = Bx + cを満たすということが無事に示 せました. (A, B, Cは, cにどのような境界条件を仮定するかにより決まります.) //