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学習者からみた「実用的な英語力」についての一考察

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学習者からみた「実用的な英語力」についての一考察

What is Practical English?

山 﨑 英 一

Eiichi YAMASAKI キーワード:生涯学習、実用的な英語力 0.序  英語の授業を担当する教員である我々に限らずよく「実用的な英語力が重要である」という 主旨の発言を口にしたり耳にする。冷静に考えてみるとこれはいったい何であろうか。ネイテ ィブ並みの英語力を身に付け国際社会で活躍するというイメージの下での発言なのだろうか。 英語を話す世界中の人々と充分な意思疎通ができる程度の英語力を意識してのものだろうか。 本論考ではこの言い古された「実用的な英語力」の中身について、特に「生涯学習における個々 人」という観点を重視して今一度検討し、個々人で異なる「実用性」の内容について多少とも 具体的に検討したい。0 ) 1 .「生涯学習」と「実用的な英語力」 1. 1. 生涯学習視点からの学び  私見に留まらないと思うが、「生涯学習」という言葉や意識が定着して久しい。極日常の言葉 となっていると思われる。特に音頭をとっている文部科学省(以降文科省)の説明を見よう。 『平成 18 年度文部科学白書』においては「生涯学習」という言葉について(1)のように述べられ ている(「第 2 部第 1 章第 1 節生涯学習の意義と推進体制の整備」): (1)  一般には,人々が生涯に行うあらゆる学習,すなわち,学校教育,社会教育,文 化活動,スポーツ活動,レクリエーション活動,ボランティア活動,企業内教 育,趣味など様々な場や機会において行う学習…また,生涯学習社会を目指そう という考え方・理念自体 (下線は本論考執筆者による)  また、昭和 56 年の中央教育審議会答申「生涯教育について」に帰属する情報として、Wikipedia では日本で広く用いられている定義として次を紹介している:

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(2)  人々が自己の充実・啓発や生活の向上のために、自発的意思に基づいて行うこと を基本とし、必要に応じて自己に適した手段・方法を自ら選んで、生涯を通じて 行う学習 (下線は本論考執筆者による)  一方、教師の日常を考えると、学生に対し、社会で有益となる人材育成を前提に(個々人と いうより対象の集団)一般に有効とされる教育を与える形をとるのが通常だろう。文科省によ る昨今のアクティブ・ラーニングの促進以前から、自発的姿勢を促してきたつもりであるが、 それでも学生は意欲はあっても自習方法に悩むことも多く、また、こちらの助言も(概要的で) なかなか個々人に合ったものとなりにくい感がある。目標自体集団全体に対し「TOEIC 730 点」 など、個々人の進路に応じてというよりは広く、全般的なものとなりがちである。  一方、上記(1)や(2)で触れられているように「生涯学習」の観点から、「英語教育」を考える ならば、つまり教室内での「教育」を考え指導するというよりは、学生時代はもとより、卒業 後も自発的に自己啓蒙していける、各人が自発的に行う「学習」の方略の立て方を指導する必 要があることになる(現状的には、学生時代の経験を基にその延長で各人思考すれば良い程度 の認識に留まる教師が多いかもしれないが)。また、やはり(1)(2)から、社会で求められている 能力面のみの促進という視点以外にも、趣味・関心等各人の希望に沿った学習戦略への配慮も 強く意識すべきであろう。これは従来例えばカルチャーセンターが果たしてきた役割とも言え よう。ただし、大学教員と社会人とは接点が極わずかしかなく、通例、四年という長期ではな く 10 回程度の講座や 90 分の講演会等短期ないし点的なものであることに注意したい。  以上を踏まえ本論考では、このような「生涯学習」からの「英語学習・教育」を検討しよう とするものであり、卒業後も続く学習や社会人の自習に有益な視点の提供を試みたい。簡潔に まとめると、本論考では大学教員が日頃とる従前の(3a)のスタンスではなく、(3b)のスタンス を目指すということになる: (3) a.学生を対象とする教育      入試により、ある程度の範囲で学力レベル・目標が収まる集団であり、情報・ 助言を入手しやすい学習環境にいる集団である学生群を対象に、社会で有益 な人材となるよう育成しようとする中で、(集団教育という点で、個々人別と いうよりも学生群)一般に有効とされる教育を考え、供給する。通例期間と して二年(短大)ないし四年間を見込むと共に、英語に関しては高校までの 教育も考慮に入れる。    b.社会人を対象とする教育:      経歴・学力・目標が学生群に比べかなり異なると共に、集団というよりは互 いに独立的である社会人が対象となる。社会で必要な能力の開発・向上ない し、個人の趣味・関心に関わる能力の育成が狙いとなる一方、通例教員の指 導機会は限定的であることから、本人に適した学習を本人が自発的に検討・ 実施していけるよう指導する必要がある。1 )

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 本稿ではこのように、教師が学生という集団を対象とするという、教師にとっての日常の視 点ではなく、特に社会人が自身で学習を進められるように導くという観点を重視し、個々人の 立場からの「実用的な英語力」の中身をある程度具体的に検討し、(3a)から(3b)へ観点を変え ただけの抽象的議論に留まらないようにしたい。つまり社会人の自学自習に何らかのヒントと なることを目論んでいる。なお、基本的に単独かつ自主的な学習に関しての検討であるため、 大学以降も専門機関で指導・訓練を受けることが望ましい、例えば同時通訳者にとっての実用 的な英語力に関しては扱わない。また、教員の誘導・指導の接点の少なさを鑑み、検討の情報 源や学習素材を学習者個々人で入手しやすいものにすることで、各学習者が各人で発展的に検 討を進めやすいことも視野に入れたい。2 ) 1. 2. 個々の立場からの「実用的な英語力」とは  本節では「実用的な英語力」の定義について、「生涯学習」の文脈の中で検討し、以降の検討 の方向性を明示したい。  出発点として従来の、学生への英語指導を例にしよう。英語系の学科の設計としては通常、 特に昨今のコミュニケーションツールとしての英語という認識から、「読む・書く・聞く・話 す」の四技能(及び英文法)を念頭に、個々の授業でのテーマや重点領域を考えると思われる。 従来の観点である、前節(3a)の観点からも至極当然であろう。この観点において「実用的な英 語力」とは、ネイティブ並みの英語力とは言わずとも、大ざっぱに(4)のように言えよう: (4)  社会(あるいは所属する会社)に求められる、特に仕事で充分コミュニケーショ ンが図れる程度の英語力 この観点では例えば「 TOEIC 730 点以上」「英検 1 級」等々の数値・級目標があげられ、一方 で「英語の歌詞の意味がわかる」英語力は、(業務でない限り)間接的にはともかく直接的には 「実用的な英語力」の対象外となろう。  一方、前節での、「生涯学習」の観点から、(3b)に即し、個々の学習者の立場からは(5)のよ うにまとめられよう: (5)  学習者本人が(その時々)必要とする、あるいは希望する英語領域に関し、学習 者(ないし評価する者・環境に対し)充分ないし適度な満足感を与えるに足る英 語力 端的には「本人が必要と思う程度の英語力」ということであり、この立場では上記「英語の歌詞 の意味がわかる」英語力は、希望する本人にとって、目標とするに値する英語力であり、その達 成への道筋を考え実行するのは「生涯学習」(の少なくとも一時期の活動)に値することとなろう。  次節では(3b)と(5)の観点を念頭に、「実用的な英語力」の中身をいくつか具体的に検討したい。

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2 .目標により異なる「実用的な英語力」  前節より、社会の要請という観点からはともかく、個々人の関心からの「実用的な英語力」 は、中身が大いに異なりうることが想定できる。その内容について本節ではいくつか具体的に 検討したい。なお、展開の都合上よく言われる四技能(「聞く」「話す」「読む」「書く」)の内、 「読む」「聞く」能力面への言及が多い。3 ) また、教師の側からは機会が限定的であるというこ とから、「自身にとって必要な英語力のレベルを学習者自身が見つけ、それに向けて学習する」 よう誘導・指導することが現実的には重要であろう。 2. 1. 英検と TOEIC® 4 )  例えば中高大を通して英検受験を促されることは依然(あるいは以前にも増して)多いであ ろうし、就職活動時や昇格試験時に TOEIC のスコアが求められるないし訴求項目になることも 多々あると思われる。また、業務・業種等で異なる、実際の英語と試験で主に試される英語内 容の近似具合にもよろうが、両テストは「英語力」の指標としての地位を確立していると思わ れる。そこで、英語が(何らかの意味で)実用的なレベルで使えるようになりたいと考えた場 合の目安としてスコア・級獲得を目標とする人や、あるいは就職や社内で昇進するために、英 語力そのものというよりスコア獲得自体が目的とする人も多いであろう。これら文脈での「実 用的な英語力」を考えたい。  英検から見てみよう。公式サイトによると各級の審査基準における「程度」と各級における 「推奨目安」は次の通りである5 ): (6) 英検各級:程度:推奨目安 級 程度 推奨目安 1 級 大学上級程度 広く社会生活で求められる英語を十分理解し、また使用する ことができる 準 1 級 大学中級程度 社会生活で求められる英語を十分理解し、また使用すること ができる 2 級 高校卒業程度 社会生活に必要な英語を理解し、また使用することができる 準 2 級 高校中級程度 日常生活に必要な英語を理解し、また使用することができる 3 級 中学卒業程度 身近な英語を理解し、また使用することができる 4 級 中学中級程度 簡単な英語を理解することができ、またそれを使って表現す ることができる 5 級 中学初級程度 初歩的な英語を理解することができ、またそれを使って表現 することができる  推奨目安と実際とが乖離していることは現場の教員間で知られていると思われる(例えば高 卒時の英語力で英検 2 級取得は困難)が、このことを脇においたとしても、特に、審査基準に おける「程度」が不明瞭であろう(例えば「準 1 級」と「 2 級」との「程度」の違い)。また、 特に 1 級及び準 1 級で目標達成の自習の道筋も立てにくい可能性がある。「程度」と指導経験と から、2 級までは高校生向け教材を用いた「復習」ベースの学習を進めることである程度級獲

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得の見通しを立てられようが、それ以降の「程度」に関しては、英語中心の学科でも大学間で 実施するカリキュラムにかなりの差があることから、学習の見通しが考えにくい。さらに、例 えば英語と直接関係しない学部を卒業した社会人にはレベルのイメージそのものが想像困難で あろう。  一方、級獲得時の英語力の実態そのものに興味・目的があるのではなく、昇進の要件の一つ として、英検の合格そのものが目的である場合には、合格しそうな級の目安立ては比較的簡単 である。まず、英検では過去の問題がネット上で解答付きで公開されている。これを模擬試験 的に(実際の試験時間内に辞書なしで)解いてみることで大ざっぱなレベルを知ることができ る。試験により合格点が異なると思われると共に、面接に関しては単独では模擬試験的な作業 が難しいため、厳密な判定はもちろんできない。が、ペーパーとリスニング部で 6 割程度を目 安にすることでよいと思われ、このようにすることで自身のその時点の対応級や合格しそうな 級の目安立てを他者に頼らずとも自身で判断できる(上記注 5 を参照されたい)。

 次に TOEIC を見よう。TOEIC と一言で言っても、入門とされる Bridge をはじめ数種あるが、 以下での主な関心からここでは TOEIC® Listening & Reading(以下簡便に TOEIC)を取り扱う。  まず、公式サイトの「スコアの目安」のページの情報を簡潔にまとめると:

(7) 企業が期待する TOEIC Listening & Reading スコア   国際部門:655 ∼ 865   海外赴任:555 ∼ 765   営業部門:525 ∼ 775   技術部門:480 ∼ 720   中途採用社員:585 ∼ 795   新入社員:450 ∼ 650  一方で同サイトによると、実際の平均スコアは例えば新入社員で 498 点、海外部門で 679 点 らしい。また、就職活動時や社内での昇格試験に TOEIC のスコアが例えば 730 点以上求められ るとかも昨今よく耳にする。ビジネス向けと評されることからもわかるように(3a)的な性質が 強い。同じサイトページから「スコアとできることの目安」も見てみよう:

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(8) TOEIC Listening & Reading スコアとできることの目安 スコア できることの目安 900 ∼ 990 自分の専門分野の高度な専門書を読んで理解できる。 英語を話す人達が行っている最近の出来事・事件についての議論を聞いて内容を理解 することができる。 800 ∼ 895 英語で書かれたインターネットのページから、必要な情報・資料を探し収集できる。 職場で発生した問題点について議論をしている同僚の話が理解できる。 700 ∼ 795 会議の案内等の社内文書・通達を、読んで理解できる。 自分の仕事に関連した日常業務のやりかたについての説明を理解できる。 600 ∼ 695 自分宛てに書かれた簡単な仕事上のメモを読んで理解できる。 ゆっくりと配慮して話してもらえば、目的地までの順路を理解できる。 500 ∼ 595 電車やバス、飛行機の時刻表を見て理解できる。

打ち解けた状況で、“How are you?” “Where do you live?” “How do you feel?” といった 簡単な質問を理解できる。 400 ∼ 495 看板を見てどんな店か、どういったサービスを提供する店かを理解することができる。  なお、公式サイトには「目標設定お助けツール」というものが示されていて、スコア帯(例: 400 ∼ 495 点)別にできることを具体的に明示している(例:リスニングで「商談相手の言う 商品の値段を理解することができる」に関し「何とかかろうじてできる」)6 ) 。また「国内基礎 業務」「海外出張業務」「海外駐在業務」の三種の「できるようになりたいこと」から目標のス コアをチェックすることもできる。このように、英検に比べればできるようになるとされる英 語力の中身がイメージしやすく、(3b)の観点から個々人の目標に応じたスコア目標を立てるこ ともしやすいであろう。ただ、人にもよろうが、英検以上に、(スコア別の対策本に沿って勉強 することを除き)どのようにすればどの程度のスコアに至れるかの対策を考えるのが難しいか もしれない。  大学内では TOEIC はビジネス向けで就活対策、英検は中高とその延長としての英語学習(例 えば教員採用試験対策)、と各々特徴づけることが多いが、学習者が実際に何ができるようにな りたいか、という細かい状況からの目標付けには TOEIC のサイトの方が情報公開に優れている ように思われる。一方、目安が 400 点以上からとなっている等、初学者にはなかなか厳しくも ある。初学者は英検で「復習ベース」(で例えば 2 級まで)、徐々に具体的な目標に合わせ、 TOEIC を参考にしての英語学習とするのが、学習計画を立てやすく、かつ長期的な学習につな がるかもしれない。7 ) 2. 2. 「下限」とその発展  本論考執筆者はいわゆる「多読」系の授業を担当している。この授業での方針を(3)との関係 で見てみたい。この授業において例えば、読む際の「下限」の目安ないし目標として(9)を指導 している: (9) a.訳さずに読む。    b.下限として分速 100 語以上で読む。できれば 150 語程度が望ましい。

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   c. 適切な理解にあったレベルの本を読む。語彙的な目安としては、知らない語 が 1 ページに 3 語程度まで。    d.自身の興味にあったものを読む。内容に興味が持てない場合、別の本にかえる。 設定理由を端的に記しておくと、(9a)は読解の目的が英文和訳ではなく内容理解にあること、 (9b)はネイティブの話す速度の下限を考慮したもの、(9c)(9d)は多量に読むことで英語力を伸 ばすという作業の妨げの要因、特にやる気の低下につながるものを排除することからによる。 わかるように(9a)∼(9c)は(3a)的指導であるが、(9d)は(3b)的である(第 1 節の(3)への注 1 参 照のこと)。  ここで、(9b)(9c)に関連し、本稿では日本人英語学習者の四技能の優位順、つまり得意な順 を(10)のように推定している: (10) 読む(能力) > 聞く > 書く > 話す ただし、「聞く」以降の順位に関してはかなり恣意的であり個人差等も大きいと思われることか ら、学期当初の学習指導の目安にしている程度に理解しておいてほしい。一方で「読む」と「聞 く」能力に関しては、それなりの正当性があると考えている。つまり、伝統的に音声なしでの 読解が多かった日本の英語教育では「読む」が一番優れている(あるいは一番まし)としてよ いと思われる。昨今のいわゆる “all English” の流れを受けて、次第に「聞く」能力が最も優れ ている学生も増えている印象はあるが、クラス全体としてみた場合、まだ「読む」能力が最上 位という印象を覆す事態には出会っていない。  情報源により幅広く、目安的な紹介にとどまるが、ネイティブの「話す」速度は、語学学校 や語学教材等例外を除き、通例は分速 100 語を下回らず、時に 200 語を超えるようである。8)こ のことと(10)とを考えた場合、充分な理解を踏まえた「読む」能力が分速 100 語未満の場合、 英語という情報処理の速度の上限という点で、原理上、ネイティブと自然なコミュニケーショ ンはできないことになる。ネイティブに低速度で話してもらうという負担をかけない限り、対 話者であるその日本人の情報処理が原理的に間に合わないのである。この場合、推定や仮定群 が正しい限りにおいてではあるが、(3a)の下では、分速 100 語未満の「読む」速度の学習者は 「実用的な英語力」に達していないことになる。9 )  一方(3b)の下では、必ずしもこのような、実用的な英語力に達していないとの判断にならな い。極端な例として、英語書籍のきれいな日本語への翻訳が学習者の趣味としての興味・関心 の対象であるならば、極論すれば「聞く」「書く」「話す」能力は無関係であり、(何らかの締切 でもない限り)情報を処理する速度も特に気にする必要はない。この場合「実用的な英語力」 の内容は本人にとって趣味を楽しむに足る「読む」能力ということになる。10 ) 2. 2. 2. 実例  多読教材の例で見てみよう。次の(11)は多読教材として使われることの多い Macmillan Readers

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シリーズからの抜粋である。リトールド教材で同社設定のレベルでは 4( Pre-intermediate )で 語彙レベルはおよそ 1400 語である:

(11) 下限チェック例

     A man stood on the edge of a railroad bridge in Alabama. His feet were on one end of a plank. Standing on the other endof this long flat piece of wood were two soldiers. An officer stood a few yards away from the soldiers and watched what was happening.      The man looked down at the Owl Creek River that flowed twenty feet below him.

One end of a long rope was tied to the railroad bridge. The other end of the rope was tied around the man’s neck. His hands were tied behind his back with a short cord.

MACMILLAN READERS: Owl Creek Bridge and Other Stories (11)は小説冒頭の 100 語であるので、充分な理解でこの部分を 1 分で取り扱えるのであれば、 (この語彙レベルの英文情報に関し)処理能力的に最低下限以上はあるとの目安になる。  前文内の「充分な理解」の程度が気になるかもしれない。が、既に述べたように、個々人の 自発的活動を重視する「生涯学習」の観点及び(3b)の観点から考えると、判断は主観的で大ざ っぱなものでも充分であろう。実際授業では自習時の読書に関する指導の目安として、書いて あることが大枠でわかり、「要するにこういうことだ」という感で他者に伝えられる程度の理解 であるかどうかを提示している。中には客観的な尺度を欲しがる者もいるだろうが、客観的な 尺度にこだわりすぎると、(理解度の客観的チェックを他から導入する必要があることから)自 習のペースを遅らせたり妨げたりする要因となりかねない。  一方これはあくまで下限であり、実際同社の朗読 CD では 1 分間で約 150 語、具体的には(11) に加え以降の(12)までが吹き込まれている。 (12) 朗読 CD 追加部分

     The man turned and looked around him. A railroad track came out of a forest and ran across the wooden bridge to a small fort. The fort stood on the northern bank of the river. Soldiers with rifles guarded each end of the bridge.

     All the soldiers wore....

MACMILLAN READERS: Owl Creek Bridge and Other Stories 朗読を聴いてみて、ネイティブ話者の会話時と比較し、特段遅い印象はない(むしろまだまだ 速すぎると感じる学習者も多いであろう)。いくつか測ってみたが、同社の吹き込み CD では他 のレベルも含め、分速 120 ∼ 150 語程度の吹き込み速度が多いようである。11)ちなみに、TOEIC のリスニングのトークセクション( Educational Testing Service( 2016 ))も実測してみたところ 分速 140 語程度のようであることから、このシリーズ(や他社対応物)は TOEIC 対策を含め標 準的な速度の練習に向いていると言えるであろう。12 )

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 個人にとっての「実用的な英語力」に関して、リトールド系以外の例を見よう。次の例は有 名な推理小説の冒頭部を、朗読 CD から 1 分相当分書きだしたものである:

(13) 英語原書例

     In the corner of a first-class smoking carriage, Mr. Justice Wargrave, lately retired from the bench, puffed at a cigar and ran an interested eye through the political news in the Times.

     He laid the paper down and glanced out of the window. They were running now through Somerset. He glanced at his watch ― another two hours to go.

     He went over in his mind all that had appeared in the papers about Indian Island. There had been its original purchase by an American millionaire who was crazy about yachting ― and an account of the luxurious modern house he had built on this little island off the Devon coast. The unfortunate fact that the new third wife of the American millionaire was a bad sailor had led to the subsequent putting up of the house and island for sale. Various glowing advertisements of it had appeared in the papers. Then came the first bald statement that it had been bought ― by a Mr. Owen. After that the rumours of the gossip writers had started.

( Agatha Christie ( 1940 ) And Then There Were None )

数えればわかるが、170 語超のペースで朗読は始まっている(参考までに本書は本文 275 ペー ジ、CD が約 6h で、ページあたり約 80 秒で読みあげられている)。下限を 100 語 / 分、早めを 200 語 / 分とみなすと、実際の英語、特に吹き込みの英語はここでの数値程度だろうとあたり をつけ、個々人の目標内容に応じて「読む」や「聞く」での情報処理速度の目標値を立ててい けるであろう。  朗読以上に、映画の「聞く」に興味がある人も多いと思うが、次には、少しはずれて、スク リーンに映る英文字を検討してみよう。より具体的には、映画鑑賞時、物語の導入時等に音声 ではなく文字で場面紹介や物語の大枠の紹介がされることがある。ブルーレイ等で止めながら 見るのではなく、劇場でその場で楽しみたいとした場合、求められるのは何であろうか。ある 映画での例を見てみよう。 (14) 映画字幕での例

     IN 1821, SPAIN’S THREE HUNDRED YEAR DOMINATION OF MEXICO WAS ABOUT TO COME TO AN END. A PEOPLE’S REBELLION, LED BY GENERAL SANTA ANNA, SPREAD FROM THE ARID MOUNTAINS OF THE SOUTH TO THE RICH AND FERTILE NORTHERN PROVINCE KNOWN AS CALIFORNIA. PEASANTS GATHERED IN THE STREETS, CALLING FOR THE BLOOD OF THE LAST SPANISH GOVERNOR, DON RAFAEL MONTERO. ALTHOUGH

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UNDER ORDERS TO RETURN TO SPAIN, MONTERO REFUSED TO RELINQUISH POWER WITHOUT ONE FINAL RECKONING.

映画 THE MASK OF ZORRO( 1998 年 米 Amblin Entertainment 社)

実際の映画では(14)の、すべて大文字書き(かつ中央揃えでの表記)からなる英文が 26 秒弱で スクリーンに下から上へスクロールしていく形で表示された。分速およそ 170 語相当となる。 映画の字幕部に特に興味があるという人は珍しいかもしれないが、(3b)から考えれば正当化で きよう。そもそも分速 170 語自体が課題となる学習者も多いだろうが、この場合にはさらに、 大文字のみでの表記に慣れ親しんでおく必要がある。文頭のみ大文字表記で後は通例小文字で 記す表記法のみに接することが通例であったであろう日本人にとって、通常時より「読む」速 度が遅くなり理解度も低下することが個人的な経験からも推察できる。このことは英語圏の漫 画雑誌にも言えることであり、意外と事例は多いのであるが、このような事態は日本人には敷 居が高い。なお、語彙にも中高レベルから大学入試レベルに収まらない語句が含まれている。13)  次に簡単に「話す」面を見てみよう。例として日本文化を外国人に英語で説明する際の英語 力を検討する。まずは簡単な英語で紹介できる書の一部を引用する: (15) 「すしと刺身」の紹介例

     The word sushi in Japanese means a food made of seasoned rice and a topping. The topping is often fish, but can also be other things. Many non-Japanese people do not distinguish sushi from sashimi, but they are different things. Sashimi is sliced raw fish without any rice. 広瀬( 2014 ) 内容の厳密さ(広瀬( 2014 )曰く「酢飯… seasoned『調味した』と英訳しました」)はともか くとして、比較的平易な語彙ばかりで、文法的には極々基本に留まっている。

 他の書籍での類似項目の箇所も見てみよう:

(16) 「すし」

     Originally, sushi was fish pickled for preservation. But in the Edo period, people living in Edo started using fresh fish caught in Edo Bay (Tokyo Bay) instead of pickled fish. They put raw slices of fish or shellfish on top of small vinegared rice balls which were rolled by hand. This is called “nigiri-zushi,” typically known simply as “sushi” in Japan and all over the world. 松本( 2009 ) (15)に比べ分詞による修飾が多いとは言えるが、難度の違いを意識させるとすれば主に語彙の

違いであり、必要な語彙を覚えるのが「実用的な英語力」への近道であろう。14 )

 以上のことも踏まえて考えると、まず速度的には、この場合日本人が(時に相手が全く内容 を知らない)情報の提供側であるので、特段、早く話さなければと思う必要はないであろう。

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ゆっくり目でも相手に確実に内容が伝わるほうが重要であろうことからも、「読む」「聞く」場 合の下限よりも緩やかに考えてもよさそうである。文法・構文も平易であることから、伝えた い内容に応じた語彙・表現をきちんと提示できるかどうかが「実用的な英語力」に達している かの判断基準と言えそうである。結局平易な語彙でもきちんと伝えられればそれなりの内容伝 達が可能となり、それに満足できるならば充分「実用的」である。あるいは、現状に満足でき ない場合、「これだけのことを伝えたい」と思う程度のことを表現できるだけの語彙・表現の習 得が進むほど「実用的」になっていくことになろう。 3 .「ネイティブの英語」から「世界英語( World Englishes )」へ  以上いくつか見てきたが、この際、暗黙裡にネイティブによる英語を対象としてきたもので あった。その際、必ずしも例が該当するわけではないが、イメージ的には Queen’s English や Standard English、あるいは放送英語等を念頭においた考察であり、時に “authentic” とされる、 日本人にとって(方言英語等と比べ)比較的読んだり聞きなれた、故に「綺麗」「正しい」と判 断されがちの、英語を想定していた。各種資格試験のリスニング、CD やラジオ、英会話教室 での英語を始め、日本で学習者が学習時に接する英語はまだまだこのような「綺麗」で「正し い」英語が多いと言えよう。  しかしながら、昨今の、世界共通語とされつつ実際に用いられる英語は多種多様であり、複 数の概念の観点から捉えようとする “World Englishes” の中で実際の英語を考えた場合、状況は 変わってくる。実際の場面では、教育機関内での authentic なネイティブ英語以外に、英語のネ イティブ圏内でも方言があり、更には世界の共通語としての英語の面から考えると、共通語と 言いつつも、非ネイティブによる様々な変異のある英語群が飛び交っている。15 )  方言に関して言えば、Kirkpatrick( 2007 )によると英米間のみならず、同一国内、例えば米 国内に限定しても出身地が離れている場合等で、非常に不明瞭で理解しがたく感じる事例があ る。ここで例えば「映画を英語音声のまま鑑賞したい」というのが目標であった場合、俗語や 新語等への対応のみならず、リアルな演技の追求による方言や不完全な言い回し等々学習者に とってはイレギュラーな現象への対応もする必要が生じ、学習用の「綺麗な」英語の学習を続 けるだけでは対応できない状況が想定しうる。学習用の英語でも学習を続ければ、早口でも比 較的「整った」ニュース英語等に対応できる英語力は身につけられると思われる。だが、この 路線は、映画での感情の表現の一環で現れる早口等への対応としては「実用的な英語力」に至 る路線とは考えにくいことになる。  さらに世界各地の英語の現状ともなれば、上記の「ブロークン」な状況はむしろ通例と化す。 つまり、例えば会話の参加者にとって英語が母語でないことが珍しくなく(例:日本人と韓国 人が英語で交流を図る)、両者の英語が多少ともずれているということである。この場合、母語 以外の言語(英語)使用によるコミュニケーションの困難さ以外に、両母語の影響や学習過程 の違い、更に、上記注 10 でも触れたような文化面の問題も生じよう。例えば、内省的にも日本 人の使う英語から受ける印象からも、日本語の「謝罪文化」につられてか日本人は “I’m sorry. ” を必要以上に多用するように思われる。誇張すれば、「謝罪するから大目に見てほしい」という

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日本語の感覚で発しながら、話し相手には「責任を認めるのでそれに応じた罰を受け入れたい」 という英語圏的な思考展開で受けとめられる可能性がある。文化面(慣習的な思考方法等)も 広い意味での「実用的な英語力」に含むのであれば、謝罪の場面の違い等に関し、経験・知識 での補いも多大に必要かもしれず、このような文化面の修得に関し、的確な指導方法(教員側) や学習方法(学習者側)が必要となろう。16 ) 4 .文法面に関する一考察  文法力に関しては関連テーマで山﨑(印刷中)において検討したが、前節までの流れの中で も簡単に触れておく。まず、実用的な文法力という面に関しては、学習者が中高で学習を受け た年代にもよろうが、大抵の領域で、高校まで(ないし大学の 1・2 回生あたり)に学ぶ文法力 で充分である可能性が高い。  個人的な経験故一般性に欠けるが、昔、英国に滞在し、語学学校に通いながら現地企業への 就職を試みている非英語圏民の英文を見させてもらったことがある。彼女は現地企業で求めら れた Cambridge 英検の Proficiency レベルにインタビュー試験で引っかかってしまうとのことで あった。しかしながら、英国現地の TV 放送でのホームコメディで間髪を入れずに笑いだすほ どで、少なくとも印象的には「聞く」能力の面でネイティブとの差を感じさせない英語力の高 さを示していた。インタビュー試験対策用の英文エッセイを読ませてもらったことを契機に気 がついたのであるが、彼女は「話す」「書く」面において、例えば日本での学習者でいう中学レ ベルのような基本的な文法には問題ないのだが、高校英語レベルでの「話法」や「分詞構文」 がかなりおかしかった。立ち会った現地語学学校での指導内容も含めて考えると、これらの項 目が「話す」「書く」際に適切に使いこなせれば合格できるようであった。この判定が正しいと すれば、いわゆる高校英語での文法が使いこなせれば現地企業就職もカバーできることになり、 通常の学習者一般に「実用的な英文法力」は(使いこなせる必要はあるが)高校までのそれを 復習することを基調にすればよいことになる。17 )  前段は現地就職時の下限を示す一例となろうが、3 節での議論から逆にレベルが高すぎる可 能性も生じる。つまり、World Englishes の中では、高校レベルを超える難解な英文法を知って いることよりも、より基本的な英文法を適切に使いこなせる方が良いと考えるべきであるかも しれない。つまり、今後ますます、相手が日本人学習者より英語が苦手であるような機会も常 態化していくと思われるが、このような場合、(会話する両者共にとって、話すのが速いと対応 できないことから)速度をあまり気にしないですむことが多いであろう上に、基本的な文法に 留まって話す方がより適切に伝わり、相手からの発信を聞く際も、高度な英文法ではない簡略 化された文法で充分となろう。個人的な経験と学生から受ける印象にすぎないが、英語力が初 歩の場合は日本人を相手に、英語力が発展するにつれネイティブ話者を相手に英語のやり取り をする方が平易に感じると思われる。つまり初学者ほど簡単なレベルやブロークンだが伝わり やすいやり取りの方がむしろ効率が良い事例が増えそうである。非ネイティブ間での場合、初 学者相当のレベルの人の割合が(対ネイティブ時と異なり)必然的に増える故、次の例程度で も充分実用的な英語となる人が増えていくかもしれない:

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(17) a.Who did you talk?    b.Go New York yesterday.

(17a)は Who did you talk to? の、(17b)は( I/He 等)went to New York yesterday. の代わりとして の表現である。現実的に文脈の支えもあり通じる、あるいはかえって分かりやすいかもしれない。  このような事例に加え、ネイティブ相手の場合でも、方言によっては三単現の -s を使わない 地域もあるため、細部にこだわらないですむと言えなくもない。以上のことを総合的に考えれ ば、文法的には「実用的な英語力」の確立は、各学習者の目的によらず、意外と楽とすら言え そうである。ただし、もちろん現状の指導に基づく試験では(17a, b)共に×がつくことになる。 このような点をどう指導すべきなのだろうか。  以上、World Englishes の流れの中では、文法面ではむしろ基本に徹する方向性が「実用的な 英語力」につながるという可能性を示した。また、このように互いにブロークンでも通じれば よい、わかればよいというスタンス時の初学者同士での「実用的な英語力」は、前節の対ネイ ティブ用のそれとは内容が大いに異なりうる。「正しい英語・英文法」と「実用的な英語・英文 法力」との違いをどう捉えていくべきか、今後もこの路線の考察を深めていく必要があろう。18) 5 .結び  以上、いくつか具体的な例を取り上げつつ、個々人によって異なりうる「実用的な英語力」 について考えてきた。大学での教育と異なり、「生涯学習」の観点からは、必ずしも四技能のバ ランスの良い学習やコミュニケーション最重視の学習にこだわる必要がない。また、World Englishes 等の観点から、完ぺきな文法力に支えられた英語力やネイティブ並みの英語力を目指 すことも必須ではないと言える。さらに、必要性のみならず興味・関心からの英語学習を考え た場合、(読めるが話せない等)技能分野的にかなりアンバランスな場合も正当化されるべきと いうことも示せたと思う。社会人という学習者がとる観点を念頭に、接触機会が限定される教 師がとるべき観点からの考察も進め、眼前の学生のみならず社会の人々にとっても有効な学習 戦略の指導ないし誘導の方法をさらに幅広くかつ深く検討したい。その際、個々人にとっての 「実用的な英語力」の判断手段と、判断の結果想定される英語レベルへ至るための自習方法の考 案方法との検討・改良が重要であろう。  なお、今回の論考における自明の不十分領域や検討課題としては、学習者の主たる情報源と してのネット等に関するリテラシー指導、特に「話す」「書く」面での指導、World Englishes を 背景としての指導、が挙げられる。これらに関して思考を深めることも今回のテーマの展開に 大いに影響を与えるものとなろう。

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0 ) 本論稿執筆者の専門は本来(テーマに最適かも知れない英語教育学ではなく)理論系の英語学であり、 授業関連の論考をもって教育領域の拡大を図るものである。もって現在の担当教育の改善や更に多少 とも間接的に研究領域の拡大につながることを望んでいる。思考の基盤が、英語教育学の知見でなく、 英語学も踏まえての過去の授業経験によるものであることをご了承願いたい。  また、論文審査員のお一人からの御指摘により気づいたが、段落の分け方も英語学の学徒一般の「癖」 があるようである。例えば、例文等の次の文群がインデントされていない場合があるが、これは例文 群の説明が続くような場合であり、パラグラフ的に区分がないことを示す。インデントされている場 合にはパラグラフ的に区分があることを示す。御指摘に感謝の念を示すと共に、英語学の領域ではよ く見受けられる書き方でもあり、思考のまとまりの明示という点でこの形式の維持をご容赦願いたい。 もちろん不適切箇所に関しては修正したつもりであると共に依然残る問題は執筆者に帰属する問題で ある。  本論稿のテーマから、社会人が一般に入手しやすい素材を基に自立的に発展を図る際の参考となる ことも目論んでいる。このことから、以下にあるように、参考情報源に Wikipedia を使う等、信頼性が 担保されているとは限らないものも使用している。情報リテラシーの面から問題があるのは自明であ り、授業内で取り扱うことも多いテーマでもあるが、授業回数の少ない、あるいは極わずかな接触機 会のない社会人への具体的な注意喚起という面に関しては今後の重要課題の一つとしたい。 1 ) (3a)は機関的・社会的、(3b)は個人的、と特徴づけられると共に、一見対立する部分があるようにす ら見受けられるかもしれない。が、個々人の成長が社会の発展につながると考えると両視点は相容れ ない視点ではない。実際次節でも示すように、授業によっては指導に両視点が並立している。 2 ) 注 0 でも記したように、ネット情報等の利用は、その分正確さや厳密さはもとより信頼度も問題では ある。が、教育側というより学習者側の状況から考えると、日頃の学習やその計画は必ずしも実証さ れたもののみから成立せず、現実的な時間の進行に合わせて即断したり、主観的に判断する面も多い。 3 ) 「話す」「書く」を軽視しているわけではない。「話す」や「書く」は、例えば英語で独り言を話してみた り、英語で日記を書いてみる等の自習方法があるが、目標設定とその達成具合を単独では行いにくい 可能性があるため、現状主には今後の課題にとどめている。ただし(15)付近や第 4 節を参照されたい。 4 ) 本稿では便宜上、原則として ® 表記を省くなど簡便な通称を使用している。 5 ) 審査基準のより詳しい内容としての審査領域に関しては http://www.eiken.or.jp/eiken/exam/criteria/ を参照 されたい。また、学習目標としての各級の目安の詳細に関しては http://www.eiken.or.jp/eiken/exam/about/ を参照のこと。 6 ) http://www.iibc-global.org/toeic/special/target.html 他。 7 ) 本稿内では扱わなかったが、留学希望なら当然 TOEFL も参考ないし目標にすることになる。  また TOEIC 等に特化した学習として、昨今いわゆるパソコン( PC )以上に一般化したスマートフ ォン(スマホ)において、特に無料ソフトを用いて学習することも多いであろう。ゲームに近いもの も多く、操作性や楽しさ選ぶであろうことが多いと思われる一方、多数ありかつ質も色々故、本稿で 具体的に扱うことは避けておく。 8 ) 同一情報源、例えば一般の英語学習系雑誌内でも速度が異なることがある。例えばアルク社( 1989 ) の『英語ヒアリングバイブル』では「普通の話し方では 1 分間に 160 語以上、…ニュースの英語は 180 語前後」( p.19 )とする一方、他所( p.138 )では「ネイティブスピーカーがノーマルスピードで話す 速さはおよそ 1 分間に 180 ∼ 200 語ぐらい」と記している。更にネットをざっと見てみると、下は 90 語や 110 語、上に至っては 200 語をはるかに超え 300 語程度や 400 語程度という指摘すらある。経験 的には通常で 160 語、ニュースで 180 語程度を大雑把な目安としてよいと思われるが、一方で本稿で 扱う「実用性」という観点からは、社会人個々人本人の目的や実際に扱う(であろう)会話によって 対応できるようになるべき速度が決まってくることになる。

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9 ) (9b)のスピードへの意識は他の、例えば各種資格試験や教員採用試験を解く際にも重要である。すな わち、( 100 語 / 分ではまだまだ足りないであろうが)速度を考慮する姿勢を身に着けることで解答時 間が足りなくなることを防ぐことにつながる。 10 ) ただし、特に翻訳しようとする際には、文化・風習の違いに関する知識など文化面が広い意味での「実 用的な英語力」に含まれたり、日本語での適切な表現力が必要であろう。 11 ) 本稿執筆時、Macmillan 社の公式サイトによると本書は CD 2 枚付きで 1400 円であった。同シリーズの レベルは 1( Starter:約 300 語水準)から 6( Upper:2200 語水準)まであり、値段的にも入手しやす い。また Oxford University Press からも定評ある Bookworms Library としてリトールド教材が出版され ているので、各個人のレベル・好みや目標に応じて段階的に「読む」「聞く(CD 付版利用)」能力を強 化できる。 12 ) ただし、このシリーズでの勉強のみで TOEIC の「読む」「聞く」面への対応をまかなえるとは言いづ らい。TOEIC は実際の場面を念頭に、現代生活・ビジネスを中心としている一方、多読向き教材は、 意図的な語彙コントロールがあり、かつかなりの割合を昔の話のリトールドで占めている。故に、語 彙と内容に関して特に注意すべきこととなる。内容的には例えばリトールド物ではなく現代を舞台と する書下ろしを選ぶ等対策を取れるが、語彙に関しては別に語彙の学習も行うことが望まれると思わ れる。  なお、余談だが、時に 200 語 / 分を越すといわれる TV 番組やニュースの理解が目標であるなら、(そ の目論見とは異なり)TOEIC スコアを目安にした勉強計画でも現実生活の中では不十分となる可能性 がある。 13 ) 例えば arid であるが、『ユースプログレッシブ英和辞典』で見るとこの辞書での基本語 6300 語に入っ ていない。このことからこの分野が興味・関心の対象であるなら、語彙レベルもそれなりに強化して おかなければ「実用的な英語力」を有しているとは言い難いことになる。 14 ) 広瀬( 2014 )同様、松本( 2009 )も一般向け書籍であり、「対象レベル:初級から(英検 3 級 /TOEIC TEST 350 程度)」としている。かなりレベルが高い、「通訳案内士国家試験」や「観光英検」の試験向 きとする植田他( 2009 )においても語彙・表現がレベルの違いにつながっており、難度の高い文法を 用いているわけではない。このような事例をみると、「英語は単語を覚えれば良い」という俗っぽい意 見もあながち見当外れではないことになろう。 15 ) World Englishes に関しては、本論考ではその存在に触れ、検討課題とする必要があることを示す程度 で、実効性のある扱いはしない。本文中でわかるように、いわゆる「学校英語」との違いをどう捉え、 どのように教授すべきか本論稿執筆者自身考えあぐねているのが現状だからである。 16 ) TOEIC で高得点を取ったにも関わらず、公式サイト的に対応できるとされるような場面で思ったよう な対応ができないというのは結構耳にする話である。上に記したように TOEIC の測定速度が分速 140,150 語程度とすると、もっと早いやり取りに対応しきれていないと言えるが、また一つには、TOEIC の英 語が「綺麗な」英語であることとにも帰因できるかもしれない。つまり TOEIC 英語が、実際の、いわ ゆるブロークンな英語での場面での英語力評価に向いていないことが考えられるということである。 17 ) ただし学習者の目標が「原書の鑑賞」特に例えば「英詩の鑑賞」である場合は話が別である。詩独特 の技巧・技法も含めてかなり高度ないし別種の文法力が必要であり、専門的に習うべきであると思わ れる。 18 ) 広い意味とするかどうかはともかく、習慣や思考パターン等の文化面からのコミュニケーションの難 しさも「実用的な英語力」の検討の際には気をつけておきたい。身振りでも、例えば、相手を指すか のように腕を向け、手のひらを下に向けて上下するのは、英語圏では「あっちに行け」、日本語圏では 「こっちにおいで」、と方向が逆になる。また、より言語表現絡みの例もある。例では、例えば、パー ティ会場での話し相手の次のセリフであるが、意図をどう捉えるであろうか:

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(a) I love your shirt.

人によっては「シャツをくれと言っているのではないか」と受け止めてしまうかもしれない。Holmes (1995)によると、この構文(I {love/like} +目的語)は英語圏(例えば Holmes が調査した New Zealand)

ではほめ言葉のパターンでベスト 3 内に入るらしい。つまり話者自身が対象の価値を認めることが聞 き手の価値を高めるということになる。日本では例えば若い人々がこのパターン(地元関西で実際耳 にした例では「私その髪型好きやわぁ」)を使うようだが、このパターンになじみのない本論考筆者は 日英語問わずこのパターンは使いづらく、誤解するかもしれない。  このような、文化の一例と捉えるべき思考の有り様は言語、文化圏によって異なるが、時代、話し 手・聞き手の年代層、地域等によっても変化する。さらに World Englishes と視野を広げた場合、互い に英語を使っていても、英語圏と全く異なる文化・発想方法であり得るのである。 【主要参考文献:情報源・辞書・資料等】  インターネットのアドレスに関し、複数ある場合代表的なものとし、アクセスは 2017 年 3 月である。 アルク社( 1989 )『英語ヒアリングバイブル(アルク地求人ムック 01 )』アルク.

Christie, Agatha (1940) And Then There Were None.  St. Martin’s Press.  ( 朗 読 CD : 2001 年 The AUDIO PARTNERS Publishing Corp. 版)

Educational Testing Service(2016)『TOEIC®

テスト公式問題集 新形式問題対応編』一般財団法人 国際ビジ ネスコミュニケーション協会.

長谷川潔 ( 1980 ) 『高校英語の総合理解(新訂版)』桐原書店. Holmes, Janet ( 1995 ) Women, Men and Politeness. Longman. 石黒昭博 ( 2013 ) 『総合英語 Forest ( 7 版)』桐原書店. Kirkpatrick, Andy ( 2007 ) World Englishes. Cambridge.

小林昭文他 ( 2015 ) 『アクティブラーニング実践』産業能率大学出版部.

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松本美江( 2014 )『英語で日本紹介ハンドブック(改訂版)』アルク. 文部科学省(2006)『平成 18 年度文部科学白書』http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/html/hpab200601/002/ 001/003.htm 文部科学省( 2008 )『中学校 学習指導要領』東山書房. 文部科学省( 2009 )『高等学校 学習指導要領』東山書房. 文部科学省( 2011 )『今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について』(答申)中央教育審 議会. 文部科学省(2012)『新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて∼生涯学び続け、主体的に考え る力を育成する大学へ∼』(答申)中央教育審議.(http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/ toushin/1325047.htm 他) 公益財団法人日本英語検定協会:http://www.eiken.or.jp/eiken/exam/criteria/、http://www.eiken.or.jp/eiken/exam/about/ 西川純( 2015 )『すぐわかる! できる! アクティブ・ラーニング』 学陽書房. 三省堂ワードワイズ・ウェブ ( http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/wp/index.php 他) 植田一三・上田敏子( 2009 )『これ一冊で! 日本のことが何でも話せる 英語で説明する日本の文化』 八木克正他編( 2004 )『ユースプログレッシブ英和辞典』小学館.

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安井稔( 1986 )『英文法総覧(改訂版)』開拓社. 山﨑英一(2016a)「『英語学』の授業展開 -1:“アクティブ・ラーニング”と“キャリア教育”の観点から」  『四天王寺大学教育実践論集』第 1 号. 山﨑英一( 2016b )「『きまりだから』ではすまない英文法指導」『四天王寺大学教育実践論集』第 2 号 . 山﨑英一( 2016c )「授業としての『英文法』から『英語学』、英語学へ:類義語からの一考察」『四天王寺 大学紀要』62 号. 山﨑英一(印刷中)「実用性と英文法:学んできた英文法の有用性についての一考察」『四天王寺大学教育 実践論集』第 4 号. Wikipedia:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%94%9F%E6%B6%AF%E5%AD%A6%E7%BF%92#.E5.A4.A7.E5. AD.A6.E3.81.A7.E3.81.AE.E7.94.9F.E6.B6.AF.E6.95.99.E8.82.B2 )

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参照

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