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台湾における国際商事仲裁をめぐる国際私法上の諸問題

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平 成

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年 度

博 士 論 文

主題 台湾における国際商事仲裁をめぐる 国際私法上の諸問題 題目 副 題 指導教員 黄ジンティ 学 籍 番 号 Jl1702 氏 名 蒐 瀞 玄 提 出 日 平成 26 年 1 月 31 日

帝塚山大学大学院法政策研究科

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論 文 要 旨

「 台 湾 に お け る 国 際 商 事 仲 裁 を め ぐ る 国 際 私 法 上 の 諸 問 題J 帝 塚 山 大 学 大 学 院 法 政 策 研 究 科 博 士 後 期 課 程 J11702 泊 瀞 云 一 般 的 に は 、 国 際 貿 易 取 引 か ら 生 じ る 紛 争 に つ い て 、 契 約 当 事 者 が 契 約 に お い て あ ら か じ め 紛 争 解 決 の 方 法 を 定 め て い る こ と が 多 い 。 紛 争 解 決 の 方 法 と し て は 、 裁 判 所 に よ っ て 解 決 す る 方 法 と 商 事 仲 裁 に 服 す る こ と に よ っ て 解 決 す る 方 法 が あ る 。 台 湾 は 、 多 く の 固 か ら 承 認 さ れ て い な い な ど 国 際 社 会 に お い て 特 殊 な 地 位 に あ る た め 、 国 際 貿 易 取 引 を 行 う 際 の 紛 争 解 決 策 と し て 、 裁 判 す る よ り も 、 私 的 な 国 際 商 事 仲 裁 に 委 ね る ケースが多いのが現状である。 と こ ろ が 、 台 湾 は 国 連 総 会 に 加 盟 で き な い た め 、 仲 裁 判 断 の 相 互 承 認 の 要 件 な ど を 定 め た 条 約 で あ る 「 外 国 仲 裁 判 断 の 承 認 及 び 執 行 に 関 す る 条 約 J (以下「ニューヨー ク条約j という) に も 加 入 す る こ と が で き な い 。 従 っ て 、 例 え ば 、 ニ ュ ー ヨ ー ク 条 約 の 加 盟 国 で あ る 日 本 で は 、 ニ ュ ー ヨ ー ク 条 約 に 基 づ い て 、 台 湾 に お い て 下 し た 仲 裁 判 断 を 承 認 ・ 執 行 を す る こ と が で き な い 。 国 際 商 事 仲 裁 に お い て は 、 ど の 国 や 地 域 で 下 さ れ た 仲 裁 判 断 が 、 ど の 国 や 地 域 で 承 認 ・ 執 行 さ れ 得 る か に つ い て が 、 非 常 に 重 要 で あ り ニ ュ ー ヨ ー ク 条 約 加 盟 国 内 に お い て も 、 国 際 私 法 上 各 国 に お い て 様 々 な 相 違 が あ る の が 現 状 で あ る 。 一方 、 ニ ュ ー ヨ ー ク 条 約 に 加 入 で き な い 台 湾 で は 、 外 国 仲 裁 判 断 の 承 認 ・ 執 行 に 関 す る 取 扱 い に つ い て は 、 独 自 の 国 際 私 法 上 の 解 釈 が な さ れ る 。 こ れ ま で 、 台 湾 に お け る 外 国 仲 裁 判 断 に つ い て の 研 究 論 文 は 少 な く 、 日 本 な ど の ニ ュ ー ヨ ー ク 条 約 加 盟 国 と 、 そ の 法 規 制 に つ い て の 立 法 経 緯 、 解 釈 、 裁 判 例 等 に つ い て 比 較 検 討 を 行 い 考 察 す る こ と は 非 常 に 研 究 価値があると考える。 そ こ で 、 本 稿 は 台 湾 に お い て 、 国 際 商 事 仲 裁 を め ぐ る 国 際 私 法 上 の 諸 問 題 に つ い て 、 台 湾 の 仲 裁 法 上 、 ど の よ う な 規 定 が あ る の か 、 さ ら に 、 ど の よ う に 解 釈 さ れ て い る の か に つ い て 論 述 し た 。 ま た 、 中 園 、 香 港 及 び マ カ オ 地 区 の 仲 裁 判 断 の 承 認 ・ 執 行 に 関 す る 規 定 と 、 域 外 仲 裁 判 断 の 承 認 ・ 執 行 に 関 す る 規 定 と の 相 違 点 に つ い て も 考 察 し た 。 ま ず 、 第 2章 で は 国 際 商 事 仲 裁 と 関 連 法 規 に つ い て 、 仲 裁 の 意 義 、 そ の メ リ ッ ト と デ メ リ ッ ト を 列 挙 し 、 そ し て 、 仲 裁 法 規 の 概 観 、 国 際 条 約 と モ デ 、 ル 法 を 紹 介 し た 。 第 3章 で は 台 湾 に お け る 国 際 商 事 仲 裁 の 準 拠 法 に つ い て 、 主 に 日 本 の 仲 裁 法 と 比 較 し な が ら 、 そ の 決 定 を 論 じ た 。 第 4章 に お い て 台 湾 に お け る 外 国 仲 裁 判 断 の 承 認 ・ 執 行 に つ い て の 法 令 を 紹 介 し 、 台 湾 仲 裁 法 上 の 外 国 仲 裁 判 断 の 承 認 ・ 執 行 に 関 す る 規 定 を 分 析 し た 。 そ し て 、 裁 判 例 を 取 り 上 げ て 比 較 し た 。 特 に 、 台 湾 仲 裁 法 に 規 定 さ れ て い る 「互恵原則J の 法 解 釈 が 一 つ 重 要 な キ ー ワ ー ド で あ ろ う と 考 え ら れ る 。 続 い て 、 第 5 章 で 取 り 上 げ る 香 港 、 マ カ オ 地 区 仲 裁 判 断 、 そ し て 第6章 で 取 り 上 げ る 中 国 仲 裁 判 断

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は 、 台 湾 仲 裁 法 上 、 内 国 仲 裁 判 断 と 外 国 仲 裁 判 断 の い ず れ に も 属 さ な い た め 、 ど の よ う に 仲 裁 判 断 の 承 認 ・ 執 行 が な さ れ て い る か を 論 述 し た 。 最 後 に 、 第 7章 お わ り に お い て 、 前 述 し た 台 湾 に お け る 域 外 仲 裁 判 断 の 承 認 ・ 執 行 に つ い て 、 主 に 日 本 法 と 比 較 し な が ら 、 主 な 相 違 点 を 整 理 し た 。 そ し て 、 台 湾 に お け る 域 外 仲 裁 判 断 の 承 認 ・ 執 行 に つ い て 、 そ の 規 則 ・ 判 例 を ま と め た 。 ( 1 ) 日 本 法 と の 相 違 点 1 . 法 律 の 構 成 と し て 、 台 湾 で は 外 国 仲 裁 判 断 に 関 す る 条 文 を 独 立 し て 定 め て い る 。 一 方 、 日 本 の 仲 裁 法 で は 、 内 外 国 を 問 わ ず一律の基準として規定している。 2. 台 湾 の 仲 裁 法 に お い て は 、 第 49条 2項 に は 「 互 恵 原 則J を 採 用 し て い る 。 し か し 、 最 高 裁 判 例 を 含 む 裁 判 例 を み る と 、 「 互 恵 原 則 」 を 、 外 国 仲 裁 判 断 が な さ れ た 判 断 地 国 が 先 に 中 華 民 国 の 仲 裁 判 断 を 認 め て か ら 、 は じ め て 中 華 民 国 が そ の 外 国 仲 裁 判 断 を 認 め る こ と が で き る と い う 狭 義 の 解 釈 で は な く 、 国 際 商 事 仲 裁 の 国 際 性 お よ び 商 事 性 を 認 識 し 、 さ ら に 国 際 礼 譲 の 精 神 と 国 際 間 の 司 法 協 力 の立場から、「互恵原則」を弾力的に解釈してきた。 一 方 、 日 本 の 仲 裁 法 で は 、 相 互 主 義 を 明 文 と し た 規 定 は な く 、 相 互 主 義 の 要 件 を 置 い て い な い 。 従 っ て 、 仲 裁 法 に よ り 仲 裁 判 断 の 承 認 ・ 執 行 の 要 件 を 満 た せば、国内外の仲裁判断を区別せず承認・執行することができると解釈される。 な お 、 日 本 は ニ ュ ー ヨ ー ク 条 約 の 締 約 国 で あ る た め 、 仲 裁 判 断 が な さ れ た 国 が ニ ュ ー ヨ ー ク 条 約 の 締 約 国 で あ れ ば 、 ニ ュ ー ヨ ー ク 条 約 に 基 づ き 、 承 認 ・ 執 行 を

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1'うことになる。 ( 2 ) 中 園 、 香 港 及 び マ カ オ 地 区 で な さ れ た 仲 裁 判 断 中 国 、 香 港 及 び マ カ オ 地 区 に お い て な さ れ た 仲 裁 判 断 は 、 中 華 民 国 領 域 外 に お い て な さ れ た 「 外 国 仲 裁 判 断j に 該 当 せ ず 、 ま た 中 華 民 国 領 域 内 に お い て 、 中 華 民 国 仲 裁 法 に よ っ て な さ れ た 「 内 国 仲 裁 判 断J に も な ら な い 。 従 っ て 、 香 港 及 び マ カ オ 地 区 に お い て な さ れ た 仲 裁 判 断 が 、 「 香 港 マ カ オ 関 係 条 例 」 第 42条 に 基 づ き、仲裁法第 47条 か ら 第 51条の規定を準用し、仲裁判断が承認をされる。一方、 中 国 に お い て な さ れ た 仲 裁 判 断 は 、 「 台 湾 地 区 と 大 陸 地 区 人 民 関 係 条 例J第 74条 に 基 づ き 、 か つ 、 仲 裁 法 第 47条 か ら 第 51条 の 規 定 を 類 推 適 用 し 、 外 国 仲 裁 判 断 の 承 認 ・ 執 行 の 要 件 を 満 た せ ば 「 認 可 」 決 定 で 承 認 ・ 執 行 で き る 。 結 論 と し て 、 香 港 ・ マ カ オ 及 び 中 国 に お い て な さ れ た 仲 裁 判 断 は 、 外 国 仲 裁 判 断 承 認 ・ 執 行 の 基 準 と 同 様 の 扱 い で あ る と 解 釈 で き る 。 ( 3 ) 判 例 か ら み た 台 湾 に お け る 域 外 仲 裁 判 断 の 承 認 ・ 執 行 に 関 す る 特 徴 本 稿 第 4章 に お い て 、 台 湾 に お け る 外 国 仲 裁 判 断 の 承 認 ・ 執 行 に 関 す る 規 定 を 論 じ た 。 外 国 仲 裁 判 断 が 台 湾 で 承 認 ・ 執 行 を 求 め る 際 に 、 裁 判 所 は そ の 外 国 仲 裁 判 断 が 台 湾 仲 裁 法 第 49条 と 第 50条 の 規 定 を 反 し な い と き に 、 そ の 外 国 仲 裁 判 断 2

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の承認、・執行を認める。すなわち、仲裁法第 49条 l項 ( 公 序 良 俗 ) ま た は 同 条 2 項(互恵原員IJ)は、裁判所は職権により審査しなければならないのである。一方、 仲 裁 法 第 50条 各 項 の 規 定 に つ い て は 、 被 申 立 人 に よ り 裁 判 所 に そ の 仲 裁 判 断 の 棄 却 を 申 立 て る こ と が で き る の で あ る 。 以 下 で は 、 第4章 、 第 5章 、 第6章 に て 紹 介した裁判例をまとめる。 1. 仲 裁 法 第 49条 l項 ( 公 序 良 俗 ) に つ い て 公 序 良 俗 の 問 題 に つ い て 、 米 国 で な さ れ た 仲 裁 判 断 WesselsCompany v. ~市毅 工 業 会 社 の 事 案 で は 、 被 申 立 人 は 損 害 賠 償 額 の 算 定 基 準 と 事 実 認 定 に つ い て 、 公 序 良 俗 に 反 す る と 主 張 し た が 、 契 約 の 解 釈 、 事 実 の 認 、 定 と 法 の 適 用 な ど 事 実 問 題 に つ い て 、 裁 判 所 は 当 該 外 国 仲 裁 判 断 の 内 容 を 実 質 審 査 し な い と し て 、 公 序 良 俗 とは関係ないと判示した。また、 ICCで な さ れ た 仲 裁 判 断Smithkline Beecham Corporation v. 新 高 仁 化 学 製 薬 股 扮 有 限 公 司 の 事 案 に お い て は 、 裁 判 所 は 被 申 立 人 が 製 造 し た風 邪 薬 及 び鎮 咳薬品は、 一般 的 風 邪 症 状 を 緩 和 す る 薬 で あ り 、 市 場 に 類 似 効 果 の 薬 品 が 多 く 、 た と え 被 申 立 人 が 契 約 違 反 に よ り 、 当 該 薬 品 の 製 造 販 売 が で き な い と し て も 、 消 費 者 は そ の 他 の 類 似 薬 品 を 購 入 す る こ と は で き る た め 、 国 民 健 康 或 は 公 序 良 俗 の 問 題 に 及 ば な い と 判 示 し た 。 本 稿 を 執 筆 す る に あ た り 、 筆 者 が 調 べ た 限 り で は 、 現 在 の と こ ろ 公 序 良 俗 に 反 す る と し て 、 域 外 仲 裁 判 断 が 承 認 さ れ な か っ た 事 例 は な い 。 裁 判 所 は 公 序 良 俗 に つ い て 慎 重 に 判 断 し て い る と 思 わ れ る 。 し か し 、 前 述 し た 薬 品 に 関 す る 事 案 で は 、 も し 、 ご く 一 般 的 な 風 邪 薬 で は な く 、 例 え ば 、 人 体 生 命 に 関 わ る よ う な ガ ン 治 療 薬 で あ っ て 、 さ ら に ま た 、 域 外 仲 裁 判 断 の 承 認 ・ 執 行 に よ っ て 、 台 湾 の 国 民 が ほ か か ら 当 該 薬 品 を 入 手 で き な く な る よ う な 場 合 に お い て 、 裁 判 所 に お け る 当 該 域 外 仲 裁 判 断 の 承 認 ・ 執 行 が 、 公 序 良 俗 に 反 す る の か ど う か の 判 断 は 、 議 論 の 余 地 があると思われる。 2. 仲 裁 法 第 49条 2項 ( 互 恵 原 則 ) に つ い て 互 恵 原 則 に つ い て 、 裁 判 所 は 最 高 法 院 75年 台 抗 宇 第 335号 の 判 決 が リ ー デ ィ ン グ ケ ー ス で あ り 、 こ の 事 件 に お い て 最 高 法 院 は 、 外 国 仲 裁 判 断 の 仲 裁 地 国 が 中 華 民 国 の 仲 裁 判 断 を 承 認 し て 初 め て 、 わ が 国 が 当 該 外 国 の 仲 裁 判 断 を 承 認 す る も の で は な い 。 さ も な け れ ば 、 礼 譲 精 神 が 失 わ れ る だ け で は な く 、 国 際 司 法 共 助 の 促 進 を 妨 げ る 恐 れ も あ る 。 仲 裁 法 第 49条 2項 の 規 定 に よ れ ば 、 そ の 仲 裁 地 国 が 我 が 国 の 仲 裁 判 断 を 承 認 し な い 場 合 で も 、 わ が 国 の 裁 判 所 は そ の 外 国 仲 裁 判 断 の 申 立 て を 必 ず 「 棄 却 し な け れ ば な ら な し リ と い う の で は な く 、 申 立 て を 「 棄 却 す る こ と が で き る 」 と 解 釈 す る こ と に な る 当 該 規 定 は 弾 力 的 な 互 恵 原 則 を 採 る た め 、 仲 裁 地 国 が わ が 国 の 仲 裁 判 断 を 承 認 す る こ と は 必 ず し も 必 要 な 条 件 で は な い と 述 べ た 。 か っ 、 最 高 法 院 93年 台 上 宇 第 1943号 の 判 決 に よ る と 、 い わ ゆ る 司 法 上 の 相 互 の 承 認 は 、 客 観 的 に 将 来 に お い て わ が 国 の 仲 裁 判 断 を 承 認 す る 場 合 、 相 互 の 承 認 を 認 め る 。 当 該 外 国 が 明 示 的 に わ が 国 の 仲 裁 判 断 を 承 認 拒 絶 し な い な ら 、 3

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寛 大 及 び 積 極 的 に 互 恵 を 取 り 扱 う 観 点 か ら 、 当 該 国 仲 裁 判 断 の 効 力 を 承 認 す べ き であると解釈されている。 す な わ ち 、 当 該 国 が 台 湾 の 仲 裁 判 断 を 承 認 し な い こ と を 明 示 し て い な い 限 り 、 台 湾 裁 判 所 は 積 極 的 に そ の 国 の 仲 裁 判 断 を 承 認 す る 姿 勢 を と っ て い る 。 本 稿 で 取 り 上 げ た 判 例 を 見 れ ば 、 日 本 で な さ れ た 仲 裁 判 断 、 ロ シ ア で な さ れ た 仲 裁 判 断 、 そ し て フ ィ ン ラ ン ド で な さ れ た 仲 裁 判 断 に つ い て は 、 い ず れ も こ の 解 釈 に よ り 仲 裁 判 断 の 承 認 が 認 め ら れ た 事 案 で あ る 。 こ の 中 で 、 ロ シ ア で な さ れ た 仲 裁 判 断 の 承 認 ・ 執 行 に お い て は 、 裁 判 所 は ロ シ ア が 台 湾 で な さ れ た 仲 裁 判 断 を 承 認 し な か っ た 事 案 を 被 申 立 人 が 立 証 す べ き で あ る と 判 示 し た 。 一 方 、 マ レ ー シ ア で な さ れ た 仲 裁 判 断 の 承 認 ・ 執 行 に お い て は 、 マ レ ー シ ア が 台 湾 の 仲 裁 判 断 を 承 認 し な い こ と を 法 律 上 明 示 し て い た た め 、 互 恵 原 則 に 反 す る と し て 、 当 該 仲 裁 判 断 を 承 認 しないと判示した。 こ の よ う に 互 恵 原 則 に つ い て 、 裁 判 所 は 仲 裁 法 第 49条 2項 の 規 定 を 弾 力 的 に 解 釈 し 、 積 極 的 に 外 国 仲 裁 判 断 を 承 認 す る 姿 勢 を と っ て い る 。 私 見 も 現 行 法 の 解 釈 と し て 賛 成 す る 。 し か し 、 そ も そ も 互 恵 原 則 の 規 定 は 国 際 商 事 仲 裁 に お い て 、 必 要 な の だ ろ う か 。 例 え ば 、 日 本 仲 裁 法 、 モ デ ル 法 、 そ し て 、 判 例 に あ っ た フ ィ ン ラ ン ド の 仲 裁 法 の い ず れ も 互 恵 原 則 の 規 定 を 設 け て い な い 。 互 恵 原 則 の 判 断 は 、 仲 裁 が な さ れ た 固 と 仲 裁 判 断 の 承 認 ・ 執 行 が 求 め ら れ た 固 と の 間 の 問 題 で あ り 、 こ れ に よ っ て 、 私 人 の 利 益 に ま で 影 響 を 及 ば し 得 る こ と は 不 公 平 で あ る と 考 え ら れ る 。 従 っ て 、 台 湾 仲 裁 法 第 49条 2項 の 規 定 を 撤 廃 す る の が 妥 当 で あ る と 考 え る。 3. 仲 裁 法 第 50条 3項 ( 適 正 な 通 知 、 正 当 な 手 続 き ) に つ い て 被 申 立 人 に 対 し 、 仲 裁 手 続 な ど の 適 正 な 通 知 が 行 わ れ た ど う か に つ い て は 、 香 港 で な さ れ た 仲 裁 判 断 Asia North America Eastbound Rate Agreement v. 謀 定 有 限 会 社 の 事 案 で は 、 裁 判 所 は 被 申 立 人 が 香 港 の 仲 裁 手 続 に 出 頭 し な か っ た よ う で あ る が 、 仲 裁 判 断 が 承 認 さ れ る た め に は 、 適 正 な 通 知 が 行 わ れ た こ と と 十 分 な 答 弁 機 会 が 与 え ら れ た こ と が 重 要 で あ り 、 実 際 に 当 事 者 が 出 頭 し た か ど う か は 関 係 が な い と 判 示 し 、 適 正 な 通 知 が あ れ ば 、 そ の 仲 裁 判 断 が 承 認 さ れ 得 る こ と を 判 示した。 一方、 Asia North America Eastbound Rate Agreementなど v. 先 寧 冷 凍 食 品 工 場 股 扮 有 限 公 司 の 事 案 と 中 国 で な さ れ た 上 海 鉄 道 ホ テ ル 会 社 v. 華 慰

ホ テ ノ レ 株 式 会 社 の 事 案 に つ い て 、 裁 判 所 は そ の 適 正 な 通 知 が 行 わ れ て い な い と 判 断 し 、 そ の 仲 裁 判 断 の 承 認 を 棄 却 し た 。 こ の 中 、 Asia North America Eastbound Rate Agreementなど v. 先 寧 冷 凍 食 品 工 場 股 扮 有 限 公 司 の 事 案 に お い て は 、 裁 判 所 は 申 立 人 が フ ァ ッ ク ス に よ っ て 通 知 送 達 し た こ と を 立 証 で き な か っ た た め 、 適 正 な 通 知 と し て 認 め ず 、 当 該 仲 裁 判 断 の 承 認 を 棄 却 し た 。 本 稿 に お い て 、 紹 介 し た 裁 判 例 の 中 で 、 仲 裁 判 断 が 承 認 さ れ な か っ た 事 案 は 3 件 で あ り 、 そ の 中 に は 適 正 な 通 知 と し て 認 、 め ら れ な い と し て 、 仲 裁 判 断 の 承 認 を 4

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棄 却 し た 事 例 が 2件あり、前述した AsiaNorth America Eastbound Rate Agreement など v.先 寧 冷 凍 食 品 工 場 股 扮 有 限 公 司 の 事 案 の よ う に 、 実 務 上 仲 裁 手 続 な ど の 通 知 送 達 が 立 証 可 能 な 証 拠 と し て 残 さ れ る よ う な 送 達 方 法 と す る こ と が 非 常 に 重要であると考えられる。 以上のように、本稿では台湾仲裁法の規定を分析し、裁判例を検討することによって、 台 湾 に お け る 域 外 仲 裁 判 断 の 承 認 ・ 執 行 に つ い て 考 察 し た 。 本 稿 に よ っ て 、 台 湾 に お け る 国 際 商 事 仲 裁 を め ぐ る 国 際 私 法 上 の 諸 問 題 に つ い て 少 し で も 理 解 を 深 め て い た だ け れば幸いである。 5

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論 文 目 次

台 湾 に お け る 国 際 商 事 仲 裁 を め ぐ る 国 際 私 法 上 の 諸 問 題

第 1章 は じ め に 第2章 国 際 商 事 仲 裁 と 関 連 法 規 第 1節 国 際 商 事 仲 裁 と は 第 2節 国際条約とモデ、ノレ法 第 3節 仲 裁 法 規 の 概 観 第 3章 台 湾 に お け る 国 際 商 事 仲 裁 の 準 拠 法 一 主 に 日 本 法 と 比 較 し て 第 1節 仲 裁 合 意 の 準 拠 法 第 2節 仲 裁 手 続 の 規 則 第 3節 仲 裁 判 断 の 準 拠 法 第4章 台 湾 に お け る 外 国 仲 裁 判 断 の 承 認 ・ 執 行 主 に 日 本 法 と 比 較 し て 第 1節 適 用 法 令 第 2節 外 国 仲 裁 判 断 の 承 認 執 行 に 関 す る 規 定 第 3節 裁 判 例 第 5章 台 湾 に お け る 香 港 、 マ カ オ 地 区 仲 裁 判 断 の 承 認 ・ 執 行 第 1節 適 用 法 令 第 2節 裁 判 例 第 6章 台 湾 に お け る 中 国 仲 裁 判 断 の 承 認 ・ 執 行 第 1節 適 用 法 令 第 2節 認 可 の 条 件 第 3節 裁 判 例 第 7章 お わ り に

箔着手芸

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章 は じ め に

日 本 と 台 湾 は 互 い に 海 外 貿 易 取 引 の 主 要 な 相 手 国 の 一 つ で あ り 、 2012年 度 ]ETRO の 統 計 で は 、 台 湾 向 け の 輸 出 シ ェ ア は 日 本 の 輸 出 全 体 の 5.8%(第 4位)、輸入シェ ア は 日 本 の 輸 入 全 体 の 2.7%(第 11位 ) で あ る l。一般的には、 国 際 貿 易 取引 か ら 生 じ る 紛 争 に つ い て 、 契 約 当 事 者 が 契 約 に お い て あ ら か じ め 紛 争 解 決 の 方 法 を 定 め て い る こ と が 多 い 。 紛 争 解 決 の 方 法 と し て は 、 裁 判 所 に よ っ て 解 決 す る 方 法 と 商 事 仲 裁 に 服 す る こ と に よ っ て 解 決 す る 方 法 が あ る 。 台 湾 は 、 多 く の 国 か ら 承 認 さ れ て い な い な ど 国 際 社 会 に お い て 特 殊 な 地 位 に あ る た め 、 国 際 貿 易 取 引 を 行 う 際 の 紛 争 解 決 策 と し て 、 裁 判 す る よ り も 、 私 的 な 国 際 商 事 仲 裁 に 委 ね る ケ ー ス が 多 い の が 現 状 である。 と こ ろ が 、 台 湾 は 国 連 総 会 に 加 盟 で き な い た め 、 仲 裁 判 断 の 相 互 承 認 の 要 件 な ど を 定 め た条 約 で あ る 「 外 国 仲 裁 判 断 の 承認 及 び 執 行 に 関 す る 条 約J(以下「ニューヨー ク 条 約 」 と い う )2に も 加 入 す る こ と が で き な い 。 し た が っ て 、 例 え ば 、 ニ ュ ー ヨ ー ク 条 約 の 加 盟 国 で あ る 日 本 で は 、 ニ ュ ー ヨ ー ク 条 約 に 基 づ い て 、 台 湾 に お い て 下 し た 仲 裁 判 断 を 承 認 ・ 執 行 を す る こ と が で き な い 。 し か し 、 日 本 の 仲 裁 法 第 45条 1項 に よ る と 「 仲 裁 判 断 ( 仲 裁 地 が 日 本 国 内 に あ る か ど う か を 問 わ な い 。 以 下 こ の 章 に お い て 同 じ 。 ) は 、 確 定 判 決 と 同 ー の 効 力 を 有 す る 。 」 と 定 め ら れ て い る ( ニ ュ ー ヨ ーク 条 約 第 l条 と 同 じ ) 。 す な わ ち 、 仲 裁 判 断 で あ れ ば 、 ど の 国 や 地 域 で 下 さ れ た か を 問 わ ず 、 同 じ 要 件 に 基 づ い て そ の 承 認 ・ 執 行 が 判 断 さ れ 、 台 湾 の 仲 裁 判 断 も 、 日 本 で 承 認 さ れ 得 る の で あ る 。 国 際 商 事 仲 裁 に お い て は 、 ど の 国 や 地 域 で 下 さ れ た 仲 裁 判 断 が 、 ど の 国 や 地 域 で 承 認 ・ 執 行 さ れ 得 る か に つ い て が 非 常 に 重 要 で あ り ニ ュ ー ヨ ー ク 条 約 加 盟 国 内 に お い て も 、 国 際 私 法 上 各 国 に お い て 様 々 な 相 違 が あ る の が 現 状 で あ る 。 一 方 、 ニ ュ ー ヨ ー ク 条 約 に 加 入 で き な い 台 湾 で は 、 外 国 仲 裁 判 断 の 承 認 ・ 執 行 に 関 す る 取 扱 い に つ い て は 、 独 自 の 国 際 私 法 上 の 解 釈 が な さ れ る 。 こ れ ま で 、 台 湾 に お け る 外 国 仲 裁 判 断 に つ い て の 研 究 論 文 は 少 な く 、 日 本 な ど の ニ ュ ー ヨ ー ク 条 約 加 盟 国 と 、 そ の 法 規 制 に つ い て の 立 法 経 緯 、 解 釈 、 裁 判 例 等 に つ い て 比 較 検 討 を 行 い 考 察 す る こ と は 非 常 に 研 究 価 値 が あ る と 考 え る 。 そ こ で 、 本 稿 は 台 湾 に お い て 、 国 際 商 事 仲 裁 を め ぐ る 国 際 私 法 上 の 諸 問 題 に つ い て 、 台 湾 の 仲 裁 法 上 、 ど の よ う な 規 定 が あ る の か 、 さ ら に 、 ど の よ う に 解 釈 さ れ て い る の か に つ い て 論 述 す る 。 ま た 、 中 園 、 香 港 及 び マ カ オ 地 区 の 仲 裁 判 断 の 承 認 ・ 執 行 に 関 す る 規 定 と 、 域 外 仲 裁 判 断 の 承 穏 ・ 執 行 に 関 す る 規 定 と の 相 違 点 に つ い て も考察する。 ま ず 、 第 2章 で は 国 際 商 事 仲 裁 と 関 連 法 規 に つ い て 、 仲 裁 の 意 義 、 そ の メ リ ッ ト と デ メ リ ッ ト を 列 挙 し 、 そ し て 、 仲 裁 法 規 の 概 観 、 国 際 条 約 と そ デ 、 ル

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去を紹介する。 1 http://www.jetro.go.jp/world/japan/sta ts/tradel 2 外 国 仲 裁 判 断 の 承 認 及 び 執 行 に 関 す る 条 約 、 1958年にニューヨークで作成され、 1959年 6 月 7日に発効した。 http://www.uncitral.Ol.g./uncitral/en/undtraltexts/arbitration/NYConventionstatus.ht 旦

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2013年 11月 29日に検索(台湾は加入していなし、)。

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第 3章 で は 台 湾 に お け る 国 際 商 事 仲 裁 の 準 拠 法 に つ い て 、 主 に 日 本 の 仲 裁 法 と 比 較 し な が ら 、 そ の 決 定 を 論 じ る 。 第 4章 に お い て 台 湾 に お け る 外 国 仲 裁 判 断 の 承 認 ・ 執 行 に つ い て の 法 令 を 紹 介 し 、 台 湾 仲 裁 法 上 外 国 仲 裁 判 断 の 承 認 ・ 執 行 に 関 す る 規 定 を 分 析 す る 。 そ し て 、 裁 判 例 を 取 り 上 げ て 比 較 す る 。 特 に 、 台 湾 仲 裁 法 に 規 定 さ れ て い る 「 互 恵 原 則 」 の 法 解 釈 が一つ 重 要 な キ ー ワ ー ド で あ ろ う と 考 え ら れ る 。 続 い て 、 第 5章 で 取 り 上 げ る 香 港 、 マ カ オ 地 区 仲 裁 判 断 、 そ し て 第 6章 で 取 り 上 げ る 中 国 仲 裁 判 断 は 、 台 湾 仲 裁 法 上 、 内 国 仲 裁 判 断 と 外 国 仲 裁 判 断 の い ず れ に も 属 さ な い た め 、 ど の よ う に 仲 裁 判 断 の 承 認 ・ 執 行 が な さ れ て い る か を 論 述 す る 。 最 後 に 、 第 7章 お わ り に お い て 前 述 し た 台 湾 に お け る 域 外 仲 裁 判 断 の 承 認 ・ 執 行 に つ い て 、 主 に 日 本 法 と 比 較 し な が ら 主 な 相 違 点 を 整 理 す る 。 そ し て 、 台 湾 に お け る 域 外 仲 裁 判 断 の 承 認 ・ 執 行 に つ い て 、 そ の 規 則 ・ 判 例 を ま と め る 。 2

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国 際 商 事 仲 裁 と 関 連 法 規

第 1節 国 際 商 事 仲 裁 と は ( 1 ) 仲 裁 の 意 義 仲 裁 と は 、 一 般 的 に は 、 当 事 者 が 合 意 に よ り 一 定 の 紛 争 を 私 人 た る 第 三 者 ( 仲 裁 人 ) の 解 決 に ゆ だ ね 、 そ の 判 断 ( 仲 裁 判 断 ) に 従 う こ と を い う 九 仲 裁 は 第 三 者 の 判 断 に 服 す る こ と で 訴 訟 と 同 じ で あ る が 、 手 続 を 開 始 す る た め に は 当 事 者 間 の 仲 裁 契 約 を 必 要 と す る こ と 、 私 人 の 判 断 に よ る こ と 、 手 続 に つ い て も 当 事 者 が 合 意 し 、 仲 裁 人 の 裁 量 に よ る 余 地 の あ る こ と 、 紛 争 の 解 決 は 必 ず し も 国 家 法 に よ る 必 要 は な く 、 事 案 に 適 し た 解 決 を す る こ と が で き る こ と な ど に お い て 訴 訟 と 異 なる九 現 在 行 わ れ て い る 仲 裁 は 西 ヨ ー ロ ッ パ 中 世 の ギ ル ド の 構 成 員 や 商 人 間 の 紛 争 解 決 方 法 か ら 発 達 し た も の で あ っ て 、 多 く の 国 で は こ れ を 裁 判 外 で の 紛 争 解 決 方 法 と し て 承認 し 、 仲 裁 判 断 に 効 力 を 与 え て い る 。 当 事 者 が 仲 裁 に よ る 解 決 に 合 意 し た 場 合 に は 、 国 家 の 裁 判 所 は 裁 判 権 を 有 し な い と さ れ て い る ( 妨 訴 抗 弁 ) 。 仲 裁 が 国 家 に よ っ て 紛 争 解 決 方 法 と し て認 め ら れ る こ と は 、 仲 裁 判 断 の 効 力 が 国 家 法 に よ っ て 承認、さ れ 、 そ れ を 国 家 権 力 に よ っ て 強 制 的 に 実 現 し う る こ と を 意 味 す る 。 こ の た め 、 仲 裁 に 関 す る 法 的 な 問 題 は 仲 裁 判 断 の 承認 と 執 行 の 問 題 に 集 約 さ れ る こ と と な る50 ( 2 ) メ リ ッ ト ・ デ メ リ ッ ト 1 . 訴 訟 と 比 較 し た 場 合 、 仲 裁 に は 次 の よ う な メ リ ッ ト が あ る 。 ① 専 門 性 仲 裁 で は 当 事 者 が 仲 裁 人 を 自 由 に 選 ぶ こ と が で き る 。 取 引 の 実 情 に 通 暁 し た 仲 裁 人 を 選 ぶ こ と に よ り 、 現 実 的 で 妥 当 な 解 決 が 期 待 で き る6。 例 え ば 、 知 的 財 産 紛 争 の よ う に 専 門 性 ・ 技 術 性 が 強 く 一 般 の 裁 判 官 で は 判 断 が 困 難 な 事 件 の 場 合 な ど で は 、 仲 裁 に 適 す る と い え る 。 ② 非 公 開 性 仲 裁 手 続 は 非 公 開 で あ り 、 仲 裁 判 断 も 当 事 者 の 合 意 が な い 限 り 公 開 さ れ な い 原 則 で あ る 。 従 っ て 、 営 業 上 の 秘 密 や 企 業 の ノ ウ ハ ウ が 守 ら れ る70 ③ 迅 速 ・ 低 廉 性 仲 裁 の 場 合 は 、 審 判 人 と 当 事 者 の 時 間 的 都 合 さ え つ け ば 他 の 事 件 の 混 み 具 合 3 高桑昭『国際商事仲裁法の研究~ (信山社、 2000年) 1頁 参 照 4 高 桑 昭 『 国 際 商 取 引 法 第 2 版~ (有斐閣、 2006年) 331頁 5 高 桑 昭 『 国 際 商 取 引 法 第 2 版~ (有斐閣、 2006年) 331頁 6唐 津 宏 明 『 新 版 国 際 取 引 貿易・契約・国際事業の法律実務ー←~ (同文舘出版、 2003年) 290 頁 7 唐津宏明『新版国際取引一貿易・契約・国際事業の法律実務一~ (同文舘出版、 2003年) 290 頁

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に 影 響 さ れ ず に 、 短 期 間 で の 集 中 審 理 も 可 能 と な る 九 し か も 、 仲 裁 は 上 訴 が なく 1回 で 確 定 す る た め 、 紛 争 解 決 に 要 す る コ ス ト を 抑 え る こ と が で き る 九 ④ 柔 軟 性 仲 裁 手 続 に お い て 、 法 の 許 す 範 囲 内 で 、 当 事 者 が あ る 程 度 自 由 に 合 意 に よ っ て 決 め る こ と が で き る LO。 ま た 、 仲 裁 判 断 に お い て も 、 訴 訟 の よ う に 過 去 の 事 実 関 係 の 確 定 に 基 づ き 損 害 賠 償 な ど の 回 顧 的 救 済 が 行 わ れ る 。 更 に 、 仲 裁 で は 必 要 が あ れ ば 将 来 に 向 か つ て の 紛 争 解 決 も 可 能 で あ る LL。 ⑤ 承 認 ・ 執 行 の 容 易 性 裁 判 の 場 合 、 判 決 を 外 国 で 承 認 ・ 執 行 す る こ と は 、 通 常 は 承 認 国 が 定 め る一 定 の 要 件 を 満 た す 必 要 が あ り 、 必 ず し も 容 易 で は な い 。 こ れ に 対 し 、 仲 裁 の 場 合には、 1958年 の ニ ュ ー ヨ ー ク 条 約 を は じ め い く つ か の 条 約 が 存 在 し 、 締 約 国 の 間 で 仲 裁 判 断 を 承 認 ・ 執 行 す る こ と は き わ め て 容 易 で あ る 。 こ の 点 が 、 国 際 間 の 取 引 に 関 す る 紛 争 の 解 決 に 仲 裁 が 適 し て い る こ と の 大 き な 特 徴 と い え る120 2. デ メ リ ッ ト ① 手 続 や実体 判 断 の 基 準 に 不 明 確 な 点 が 多 く 、 仲 裁 人 の 選 任 ・ 集 中 審 理 方 式 の 選 択 ・ 証 拠 調 べ ・ 仲 裁 判 断 の 理 由 記 載 の 要 否 な ど の 問 題 を め ぐ っ て 、 衝 突 が 生 じ 易 いI30 ② 一 審 性 で あ る た め 、 当 事 者 は 上 訴 で き な い 。 終 局 的 な 効 力 を 有 す る 仲 裁 判 断 に 拘 束 さ れ る こ と に な る た め 、 敗 け た 場 合 の 当 事 者 の リ ス ク は 大 き い140 第 2節 国際条約とモデ、ノレ法 各 国 の 仲 裁 法 の 規 定 の う ち で 統一 し て お く こ と が 必 要 な 事 項 は 、 各 国 の 国 内 法 の み で は 十 分 に 規 律 で き な い 事 項 で あ り 、 そ れ は 自 国 以 外 で な さ れ た 仲 裁 判 断 の 承 認 ・ 執 行 に 関 す る 要 件 、 手 続 な ら び に そ の 前 提 と な る 仲 裁 契 約 の 効 力 の 承 認 で あ る 。 自 国 で な さ れ た 仲 裁 判 断 に い か な る 効 力 を 与 え る か は 自 国 の み で 決 め て も よ い が 、 他 国 で な さ れ た 仲 裁 判 断 を 自 国 で 執 行 し 、 自 国 で な さ れ た 仲 裁 判 断 を 他 国 で 執 行 す 8小 林 秀 之 『 国 際 取 引 紛 争 〔 第 3版

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弘文堂、 2003年) 220頁 9 唐津宏明『新版国際取引一貿易・契約・国際事業の法律実務-~ (同文舘出版、 2003年)290 頁 10 唐津宏明『新版国際取引一貿易・契約・国際事業の法律実務一~ (同文舘出版、 2003年)290 頁 11 小 林 秀 之 『 国 際 取 引 紛 争 〔 第 3版

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弘文堂、 2003年) 221頁 12 唐津宏明『新版国際取引一 貿易・契約・国際事業の法律実務一~ (同文舘出版、 2003年)291 頁 13唐 津 宏 明 『 新 版 国 際 取 引 一貿易 ・ 契 約 ・ 国 際 事 業 の 法 律 実 務 ~ (同文舘出版、 2003年)291 頁 14小 林 秀 之 『 国 際 取 引 紛 争 〔 第 3版

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弘文堂、 2003年)222頁 4

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る 場 合 に は 、 各 国 に 共 通 の 基 準 が 存 在 す る こ と が 望 ま し し 、 か ら で あ る150 ( 1 ) ニ ュ ー ヨ ー ク 条 約 仲 裁 に 関 す る 条 約 に は 、 ま ず 、 1923年 に 国 際 連 盟 で 採 択 さ れ た 「 仲 裁 条 項 ニ 関 ス ル 議 定 書J( ジ ュ ネ ー ブ 議 定 書 ) が あ る 。 こ こ で は 、 仲 裁 契 約 の 承 認 、 仲 裁 手 続 の 準 拠 法 お よ び 執 行 に つ い て 規 定 し て い る が 、 外 国 仲 裁 判 断 の 承 認 と 執 行 に つ い て は 規 定 が な か っ た た め 、 こ の 部 分 を 補 う も の と し て 、 1927年 に 「 外 国 仲 裁 判 断 の 執 行 に 関 す る 条 約 J ( ジ ュ ネ ー ブ 条 約 ) が 採 択 さ れ た16。 こ の 条 約 に よ っ て 、 国 際 的 に 仲 裁 法 の 統ーが 進 み 、 国 際 商 取 引 か ら 生 じ る 紛 争 の 解 決 に 仲 裁 を 利 用 す る こ と が 従 来 に 比 べ 容 易 と な っ た 。 し か し 、 ジ ュ ネ ー ブ 条 約 の 対 象 と な る 外 国 仲 裁 判 断 の 範 囲 が 狭 い こ と 、 外 国 仲 裁 判 断 の 承 認 、 執 行 の 要 件 が 十 分 に 整 理 さ れ て い な い こ と な ど の 欠 点 が 存 在 し た170 そ の た め 、 ジ ュ ネ ー ブ 条 約 の 欠 点 を 補 い 、 更 に 仲 裁 の 国 際 的 利 用 を 円 滑 化 し 、 外 国 貿 易 の 発 展 に 寄 与 す る こ と を 目 的 と し て 、 1958年 に 国 際 連 合 本 部 に お い て 、 「 外 国 仲 裁 判 断 の 承 認 及 び 執 行 に 関 す る 条 約J( ニ ュ ー ヨ ー ク 条 約 ) が 採 択 さ れ た18。 ニ ュ ー ヨ ー ク 条 約 が 適 用 さ れ る 仲 裁 判 断 は 、 仲 裁 判 断 の 承 認 ・ 執 行 国 以 外 の 国 で な さ れ た 仲 裁 判 断 お よ び 承 認 ・ 執 行 国 で 内 国 仲 裁 判 断 と 認 め ら れ な い 仲 裁 判 断 で あ る と 規 定 さ れ て い る (1条 ) 。 そ れ と と も に 、 同 条 約 は 、 締 約 国 に そ の 適 用 に つ い て二つ の 留 保 宣 言 を 認 め て い る 。 一 つ は 、 他 の 締 約 国 で な さ れ た 仲 裁 判 断 の み を 条 約 の 適 用 対 象 と す る 相 互 主 義 の 留 保 宣 言 。 ま た 、 承 認 ・ 執 行 国 の 圏 内 法 に よ り 商 事 と 認 め ら れ る 法 律 関 係 か ら 生 じ る 紛 争 に つ い て の み 条 約 を 適 用 す る と す る 商 事 法 律 関 係 に つ い て の 留 保 宣 言 が あ る 190 前 者 の 相 互 主 義 の 留 保 を し て い る 締 約 国 は 多 く 、 日 本 も こ の 留 保 を し て い る20。現在では、 149ヵ 国 が ニ ュ ー ヨ ー ク 条 約 の 締 約 固 と な っ て い る210

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モデノレ法 国 際 商 事 仲 裁 を 主 た る 対 象 と し て 、 仲 裁 契 約 、 仲 裁 人 の 選 定 、 仲 裁 手 続 、 仲 裁 判 断 な ど 、 仲 裁 の 全 体 に つ い て の 統 一 法 を 作 る 試 み も な さ れ た 。 ま ず 、 1961 年 に ジ ュ ネ ー プ で 採 択 さ れ た 国 際 連 合 の 欧 州 経 済 委 員 会 に よ る 「 国 際 商 事 仲 裁 に関する欧州条約」、 1966年 に 欧 州 評 議 会 で 作 成 し 、 ス ト ラ ス プ ー ル で 採 択 さ れ た 「 仲 裁 に 関 す る 統 一 法 を 定 め る 欧 州 条 約j がある。さらに、 1985年 に は 国 際 連 合 国 際 商 取 引 法 委 員 会 (UNCITRALCア ン シ ト ラ ル J ) が 「 国 際 商 事 仲 裁 に 関 す る 模 範 仲 裁 法J(モデル法)を作成し、同年 6月 2 1日 に 採 択 さ れ た220 15 高桑昭『国際商事仲裁法の研究~ (信山社、 2000年) 22頁 16 高桑昭『国際商事仲裁法の研究~ (信山社、 2000年) 24頁 17 高桑昭『国際商事仲裁法の研究~ (信山社、 2000年) 25頁 18 中村達也『国際商事仲裁入門~ (中央経済社、 2001年) 157頁 19 中村達也『国際商事仲裁入門~ (中央経済社、 2001年) 158頁 20 高桑昭『国際商事仲裁法の研究~ (信山社、 2000年) 25頁 21http://www.uncitral. org/uncitral/en/uncitral_texts/arbitration/NYConvention_statu s. html 2013年 11月 29日に検索 22 高桑昭『国際商事仲裁法の研究~ (信山社、 2000年)23頁

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モ デ ル 法 の 特 色 と し て は 、 次 の 点 に あ る 。 1 . 国 際 商 事 仲 裁 に 適 用 さ れ る こ と 。 ( 第 1条) 二つ 以 上 の 国 に ま た が っ て 行 わ れ る 商 業 活 動 、 企 業 活 動 か ら 生 ず る 紛 争 の 仲 裁 が 適 用 の 対 象 と な る 。 2. 属 地 的 に 適 用 さ れ る こ と 。 仲 裁 地 に モ デ ル 法 が 施 行 さ れ て い る な ら ば 、 仲 裁 人 の 選 任 、 仲 裁 手 続 の 開 始 か ら 終 了 ま で 、 仲 裁 判 断 の 取 消 、 手 続 に モ デ 、 ル 法 の 規 定 が 適 用 さ れる230 3. 仲 裁 判 断 の 承 認 の 要 件 で 内 国 仲 裁 判 断 と 外 国 仲 裁 判 断 を 区 別 し て い な し、こと。 国 際 商 事 仲 裁 で な さ れ た 仲 裁 判 断 で あ れ ば 、 内 国 で な さ れ た も の も 外 国 で な さ れ た も の も 、 承 認 の 要 件 に は 差 異 が な い 。 4. モ デ ル 法 で あ る こ と 。 各国が仲裁法を整備する際の参考に供するためには、モデ、ノレ法の形を と る こ と が 適 当 で あ ろ う 240 日 本 、 台 湾 の 仲 裁 法 も 同 様 に モ デ ル 法 を 参 考 に し た。 第 3節 仲 裁 法 規 の 概 観 ( 1 ) 日 本 に お け る 仲 裁 法 規 の 概 観 日 本 で は 平 成 15年 (2003年 ) に 新 仲 裁 法 が 制 定 さ れ る ま で の 旧 法 ( 民 事 訴 訟 法 、 そ れ を 引 き 継 い だ 「 公 示 催 告 手 続 及 ビ 仲 裁 手 続 ニ 関 ス ル 法 律 J) は 、 明 治 23年 当 時 の ド イ ツ 民 事 訴 訟 法 を モ デ ル と し て 規 定 さ れ た と い わ れ て い る 。 ま た 、 民 事 訴 訟 法 制 定 時 点 で 特 に 仲 裁 手 続 に つ い て 意 識 的 に 議 論 さ れ た 形 跡 が な い の に も か か わ ら ず 、 突 然 規 定 さ れ た と い う 意 味 で は 、 日 本 に お い て 仲 裁 が 活 用 さ れ る か ど う か と い っ た こ と が 十 分 検 討 さ れ な い ま ま 規 定 さ れ た と い う 経 緯 が あ る よ う で あ る250 そ れ 以 来 、 仲 裁 法 が 制 定 さ れ る ま で 手 が つ け ら れ な か っ た も の で あ る 。 改 正 の 必 要 性 に つ い て は 、 昭 和 50年 (1975年 ) 当 時 か ら 認 識 さ れ て お り 、 昭 和 54年 (1979年 ) に は 「 仲 裁 研 究 会 」 が 発 足 し 、 平 成 元 年 (1989年 ) に は 、 仲 裁 法 試 案 が 公 表 さ れ た 。 こ の 内 容 は 、 1985年 に 国 連 国 際 商 取 引 法 委 員 会 の 国 際 商 事 仲 裁 に 関 す る モ デ ル 法 ( モ デ ル 法 ) を ベ ー ス に 、 国 際 標 準 に 合 致 し た も の を 目 指 し て 制 定 さ れ た260

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) 台 湾 に お け る 仲 裁 法 規 の 概 観 台湾の仲裁法は、 1961年 1月 20 日 に 公 布 さ れ た 「 商 務 仲 裁 条 例 」 が 最 初 の も の で あ る 。 当 時 、 台 湾 は 国 連 の 常 任 理 事 国 で あ っ て 、 1958年 6月 10 日にニ ュ ー ヨ ー ク で 国 連 が 作 成 し た 「 外 国 仲 裁 判 断 の 承 認 お よ び 執 行 に 関 す る 条 約 」 23 高桑昭『国際商事仲裁法の研究~ (信山社、 2000年) 300頁 24 高桑昭『国際商事仲裁法の研究~ (信山社、 2000年) 304頁 25 出井直樹・宮岡孝之 WQ&A 新仲裁法解説~ (三省堂、 2004年) 13頁 26 出井直樹・宮岡孝之 WQ&A 新仲裁法解説~ (三省堂、 2004年) 13頁以下 6

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の 施 行 に 影 響 さ れ た も の と 推 測 さ れ る 。 し か し 残 念 な が ら 、 台 湾 は 1971年 に 国 連 か ら 離 脱 し た の で 同 条 約 に 加 盟 す る こ と が で き な か っ た 。 国 連 か ら 離 脱 し た 後 、 台 湾 は 目 、 米 、 そ の 他 多 く の 国 々 と 国 交 が 断 絶 し 、 国 際 政 治 か ら 孤 立 し た 状 態 で あ る が 、 貿 易 関 係 が あ る 国 は 終 始 約 150ヵ 国 を 維 持 し て い る 。 従 っ て 、 国 交 関 係 が な い 諸 国 の 業 者 と の 間 で 発 生 し た 商 事 紛 争 の 解 決 方 法 と し て 採 用 さ れ る 仲 裁 判 断 の 承 認 と 執 行 が 問 題 と な る 。 そ の た め 1982 年 に 商 務 仲 裁 条 例 に 大 幅 な 改 正 を 加 え 、 新 た に 第 7章 「 外 国 仲 裁 判 断Jを 設 け て、 5ヵ 条 の 条 文 を 追 加 し た270 さらに、 1998年 に 商 務 仲 裁 条 例 は UNCITRALの 国 際 商 事 仲 裁 に 関 す る モ デ ル 法 を 参 考 に 大 幅 に 改 正 さ れ 、 ま た 、 国 際 的 観 点 か ら そ の 名 称 を 「 仲 裁 法 」 に 変 更 す る と と も に 、 従 来 の 36ヵ 条 の 条 文 を 増 加 し 56ヵ 条 の 条 文 で 構 成 さ れ る こ と と な っ た が 、 外 国 仲 裁 判 断 に 関 す る 規 定 は 相 変 わ ら ず 5ヵ 条 の 条 文 の ま ま で ある。 27梁 満 潮 「 中 華 民 国 に お け る 外 国 仲 裁 判 断 の 承 認 と 執 行 の 一 考 察 」 国 際 商 事 法 務 -Vol.28,NO.8(2000)943頁

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3章

台 湾 に お け る 国 際 商 事 仲 裁 の 準 拠 法 一 主 に 日 本 法 と 比 較 し て 第 1節 仲 裁 合 意 の 準 拠 法 ( 1 ) 台 湾 と 日 本 の 仲 裁 法 に お け る 仲 裁 合 意 に 関 す る 実 質 規 定 の 比 較 あ る 紛 争 を 仲 裁 に よ っ て 解 決 す る に は 以 下 の 二 つ の 条 件 を 満 た す 必 要 が あ る 。 一 つ は 、 当 該 紛 争 は 仲 裁 に 付 託 で き る 性 質 の 事 案 で あ る こ と ( 仲 裁 適 格 ) 、 も う 一 つ は 、 当 事 者 間 に お い て 当 該 紛 争 を 仲 裁 に よ っ て 解 決 す る 合 意 ( 仲 裁 合 意 ) が あ る こ と で あ る280 1. 仲 裁 合 意 仲 裁 合 意 は 、 私 的 自 治 と し て 仲 裁 手 続 が 行 わ れ る 根 拠 で あ り 、 こ の 合 意 に は 、 当 事 者 間 の 紛 争 を 第三者 の 解 決 に 委 ね る と い う 合 意 と 、 そ の 判 断 に 従 う と い う 合 意 の二つ の 意 味 が 含 ま れ る29。 外 国 仲 裁 判 断 の 承 認 及 び 執 行 に 関 す る 条 約 ( ニ ュ ー ヨ ー ク 条 約 ) 第 2条 l項 に お い て 、 「 各 締 約 国 は 、 契 約 に 基 づ く も の で あ る か ど う か を 問 わ ず 、 仲 裁 に よ る 解 決 が 可 能 で あ る 事 項 に 関 す る一定 の 法 律 関 係 に つ き 、 当 事 者 の 聞 に す で に 生 じ て い る か 、 又 は 生 ず る こ と の あ る 紛 争 の 全 部 又 は一部 を 仲 裁 に 付 託 す る こ と を 当 事 者 が 約 し た 書 面 に よ る 合 意 を 承 認 す る も の と す る 。 」 と 規 定 さ れ て い る30。また、 UNCITRAL国 際 商 事 仲 裁 模 範 法 ( モ デ ル 法 ) 第 7条 l項 に は

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仲 裁 合 意 』 と は 、 契 約 に 基 づ く か 否 か を 問 わ ず 、 一 定 の 法 律 関 係 に つ き 、 当 事 者 間 で 既 に 生 じ た か 又 は 生 じ う べ き 、 す べ て 又 は あ る 種 の 紛 争 を 仲 裁 に 付 託 す る 旨 の 当 事 者 の 合 意 を い う 。 仲 裁 合 意 は 、 契 約 中 の 仲 裁 条 項 又 は 別 個 の 合 意 の い ず れ の か た ち に よ っ て も す る こ と が で き る 。 」 と 定 め ら れ て い る310 そ し て 、 日 本 の 仲 裁 法 第 2条 l項 に 、 「 こ の 法 律 に お い て 『 仲 裁 合 意 』 と は 、 既 に 生 じ た 民 事 上 の 紛 争 又 は 将 来 に お い て 生 ず る 一 定 の 法 律 関 係 ( 契 約 に 基 づ く も の で あ る か ど う か を 問 わ な い 。 ) に 関 す る 民 事 上 の 紛 争 の 全 部 又 は 一 部 の 解 決 を 一 人 又 は 二 人 以 上 の 仲 裁 人 に ゆ だ ね 、 か つ 、 そ の 判 断 ( 以 下 『 仲 裁 判 断 』 と い う 。 ) に 服 す る 旨 の 合 意 を い う け と 定 め て い る 。 な お 、 仲 裁 合 意 に つ い て は 、 台 湾 仲 裁 法 第 l条 l項 に 、 「 現 在 ま た は 将 来 の 紛 争 に 関 し 、 当 事 者 は l名 ま た は 奇 数 の 複 数 の 仲 裁 人 が 仲 裁 廷 を 構 成 し 仲 裁 を な す べ き こ と を 合 意 す る 仲 裁 契 約 を 締 結 す る こ と が で き る 。Jと 規 定 し て い る320 す な わ ち 、 仲 裁 合 意 と は 、 「一定 の 法 律 関 係 」 か ら 「 既 に 生 じ た 又 は 将 来 に お い て 生 ず る 紛 争Jを 選 定 し た 仲 裁 人 に ゆ だ ね 、 か つ 、 仲 裁 廷 に よ る 、 仲 裁 判 断 に 服 す る と い う 合 意 で あ り 、 ニ ュ ー ヨ ー ク 条 約 を は じ め と し て 、 日 本 、 台 湾 に お い て 、 そ の 意 味 は 同 ー で あ る 。 な お 、 な ぜ 「 一 定 の 法 律 関 係 に 関 す る 民 事 28 劉餓静=陳栄停『国際私法論~ (三民書j苫、 2011年) 706頁 29 松岡博編『国際関係私法入門~ (有斐閣、 2008年)348頁〔黄靭震〕 30 中村達也『国際商事仲裁入門~ (中央経済社、 2001年)202-215頁 31 UNCITRAL国 際 商 事 仲 裁 模 範 法 、 国 際 連 合 国 際 商 取 引 委 員 会 に よ り 作 成 さ れ 、 1985年 6月 21 日に採択された。仲裁法制研究会編『世界の仲裁法規~ (商事法務、 2003年)443-461頁 〔 津 田害夫訳〕 32 仲裁法制研究会編『世界の仲裁法規~ (商事法務、 2003年)279-287頁 〔 陳一訳〕、以下台 湾 仲 裁 法 の 条 文 翻 訳 に 関 し て は 、 こ れ を 参 照 す る が 、 一部 修 正 し た 箇 所 が あ るD 8

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上 の 紛 争 」 に 限 定 す る こ と が 必 要 で あ る の か に つ い て は 、 例 え ば 、 当 事 者 甲 と 当 事 者 乙 と が 、 「 当 事 者 甲 と 当 事 者 乙 と の 間 で 将 来 発生す る あ ら ゆ る 紛 争 」 を 対 象 と し て 仲 裁 合 意 を 締 結 し た と し て も 、 当 該 仲 裁 合 意 は 、 「 一 定 の 法 律 関 係 に 関 す る 民 事 上 の 紛争」 の 要 件 を 満 た さ ず 、 無 効 と す る 趣 旨 で あ る 。 こ れ は 、 仲 裁 合 意 が 、 そ の 対 象 と な る 紛 争 に つ い て 訴 訟 に よ る 解 決 が で き な く な る と い う 重 大 な 効 果 を 生 じ さ せ 得 る の で 、 紛 争 に つ い て 特 定 が 必 要 で あ る と す る 考 え か ら で あ る330 2. 仲 裁 合 意 の 独 立 性 モ デ ル 法 第 16条 l項 に は 、 「 契 約 の 一 部 を 構 成 す る 仲 裁 条 項 は 、 契 約 の 他 の 条 項 か ら 独 立 し た 合 意 と し て 扱 わ れ る 。 契 約 を 無 効 と す る 仲 裁 廷 の 決 定 は 、 法 律 上 当 然 に 仲 裁 条 項 を 無 効 と す る も の で は な い 。 j と 規 定 さ れ て い る 。 日 本 仲 裁 法 第 13条 6項 に も 、 「 仲 裁 合 意 を 含 む ー の 契 約 に お い て 、 仲 裁 合 意 以 外 の 契 約 条 項 が 無 効 、 取 消 し そ の 他 の 事 由 に よ り 効 力 を 有 し な い も の と さ れ る 場 合 に お い て も 、 仲 裁 合 意 は 、 当 然 に は 、 そ の 効 力 を 妨 げ ら れ な い 。J と 定 め ら れ て い る 。 そ し て 、 台 湾 仲 裁 法 第 3 条 に お い て も 、 「 当 事 者 間 の 契 約 に 仲 裁 条 項 が 定 め ら れ て い る 場 合 に お い て は 、 か か る 条 項 の 効 力 は 独 立 の も の と し て 認 定 さ れ る べ き で あ り 、 た と え そ の 契 約 が 不 成 立 若 し く は 無 効 で あ る 場 合 に お い て も 、 ま た は 、 取 消 、 解 除 若 し く は 終 了 と な っ た 場 合 に お い て も 、 か か る 仲 裁 条 項 の 効 力 に は 影 響 を 与 え な い 。J と規定されている。 す な わ ち 、 仲 裁 合 意 が 主 た る 契 約 に 挿 入 さ れ た一つ の 条 項 と し て 締 結 さ れ て い る と し て も 、 主 た る 契 約 の 取 庇 が 仲 裁 合 意 の 効 力 に 当 然 に 影 響 を 及 ぼ す も の で は な く 、 ま た 、 主 た る 契 約 が 解 除 さ れ た と き で も 、 当 然 に 仲 裁 合 意 ま で 解 除 さ れ た こ と に は な ら な い の で あ る 。 こ れ は 、 主 た る 契 約 か ら 生 じ 、 文 は こ れ に 関 す る 紛争を 解 決 す る た め に 、 仲 裁 合 意 を 主 た る 契 約 に 挿 入 し た の で あ っ て 、 主 た る 契 約 と 仲 裁 合 意 と は 体 裁 上 は一体 と み え て も 、 そ れ ぞ れ 独 自 の 目 的 を も っ た 別 個 独 立 し た 契 約 だ と 考 え ら れ る か ら で あ る340 主契 約 が 無 効 に な っ て も 、 こ れ に よ っ て 生 じ た 紛 争 は 仲 裁 合 意 に よ っ て 解 決 す る こ と と な る 。 ま た 、 仲 裁 合 意 が 独 立 し た 契 約 で あ る た め 、 そ の 有 効 か 無 効 か に つ い て の 議 論 も 、 独 自 で 判 断 す べ き で あ る 。 3. 仲 裁 合 意 の 方 式 ニ ュ ー ヨ ー ク 条 約 第 2条 2項は、

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書 面 に よ る 合 意 』 と は 、 契 約 中 の 仲 裁 条 項 又 は 仲 裁 の 合 意 で あ っ て 、 当 事 者 が 署 名 し た も の 又 は 交 換 さ れ た 書 簡 若 し く は 電 報 に 載 っ て い る も の を 含 む も の と す る 。J と規定している。モデノレ法第 7 条 2項には、「仲裁合意は、 書面 に よ ら な け れ ば な ら な い 。 合 意 は 、 そ れ が 両 当 事 者 の 署 名 し た 文書、 交 換 さ れ た 書 状 、 テ レ ッ ク ス 、 電 報 そ の 他 隔 地 者 通 信 33 近藤昌昭ほか『仲裁法コンメンターノレ~ (商事法務、 2003年) 6頁 34小 島 武 司 = 高 桑 昭 『 注 釈 と 論 点 仲裁法~ (青林書院、 2007年) 53頁

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手 段 で 合 意 の 記 録 と な る も の 、 又 は 交 換 さ れ た 申 立 書 及 び 答 弁 書 で あ っ て 、 そ の な か で 一 方 の 当 事 者 が 合 意 の 存 在 を 主 張 し 、 他 の 当 事 者 に よ っ て 否 認 さ れ て い な い も の に 含 ま れ て い る と き は 、 書 面 に よ る も の と さ れ る 。 」 と 定 め ら れ て いる。 そ し て 、 日 本 で は 仲 裁 法 第 13条 2項 な い し 5項 の 方 式 に 関 す る 実 質 規 定 が 適 用 さ れ 、 書 面 が 要 求 さ れ て い る 。 ま た 、 フ ァ ク シ ミ リ の ほ か 、 電 子 メ ー ル の よ う な 内 容 を 記 録 し た 電 磁 的 記 録 も 書 面 に よ る 合 意 と み な さ れ る 。 チ サ ダ ネ 事 件 ( 最 高 裁 昭 和 50年 11月 28 日 、 民 集 29巻 10号 1554頁 ) に お い て 、 最 高 裁 は 「 こ の 運 送 契 約 に よ る 一 切 の 訴 は ア ム ス テ ル ダ ム に お け る 裁 判 所 に 提 起 さ れ る べ き も の と し 、 運 送 人 に お い て そ の 他 の 管 轄 裁 判 所 に 提 訴 し 、 あ る い は 自 ら 任 意 に そ の 裁 判 所 の 管 轄 権 に 服 さ な い な ら ば 、 そ の 他 の い か な る 訴 に 関 し て も 、 他 の 裁 判 所 は 管 轄 権 を 持 つ こ と が で き な い も の と す る 。 j の 裏 面 約 款 に つ い て 、 「 国 際 的 裁 判 管 轄 の 合 意 の 方 式 と し て は 、 少 な く と も 当 事 者 の 一 方 が 作 成 し た 書 面 に 特 定 国 の 裁 判 所 が 明 示 的 に 指 定 さ れ て い て 、 当 事 者 聞 に お け る 合 意 の 存 在 と 内 容 が 明 白 で あ れ ば 足 り る と 解 す る の が 相 当 で あ り 、 そ の 申 込 と 承 諾 の 双 方 が 当 事 者 の 署 名 の あ る 書 面 に よ る の で な け れ ば な ら な い と 解 す べ きではない。Jと 示 し 、 管 轄 合 意 が 有 効 と 判 断 し た 。 本 件 は 管 轄 合 意 事 件 で あ る が 、 仲 裁 合 意 の 書 面 性 に つ い て も 同 様 に 解 釈 す べ き で あ ろ う 。 一 方 、 台 湾 仲 裁 法 第 1条 3項 は 「 仲 裁 契 約 は 書 面 を 以 つ て な さ な け れ ば な ら ない。」同条 4 項 「 当 事 者 間 の 文 書 、 証 券 、 書 簡 、 フ ァ ク シ ミ リ 、 電 報 ま た は そ の 他 類 似 の 方 法 に よ る 通 信 で あ っ て 、 仲 裁 合 意 が あ っ た と 認 め る に 足 り る も の に つ い て は 、 仲 裁 契 約 が 成 立 し た も の と み な さ れ る 。J と 規 定 し て い る 。 書 面 に 関 す る 解 釈 に つ い て は 、 か つ て 狭 義 の 解 釈 と し て は 、 台 湾 民 法 第 3条 の 規 定 に よ り 、 契 約 書 は 当 事 者 に よ っ て 直 接 に 作 成 し た も の で な く て も 、 当 事 者 双 方 の 署 名 が あ れ ば 、 こ れ が 有 効 で あ る と 解 釈 さ れ て い た 。 最 高 法 院 64年 度 (1975 年 ) 台 抗 字 第 239号 の 判 決 が こ の 見 解 を 支 持 し た 。 そ う す る と 、 船 荷 証 券 の よ う な 一 方 当 事 者 の 署 名 し か な い 場 合 は 、 仲 裁 合 意 が 成 立 し な い こ と に な ろ う 。 し か し 、 仲 裁 法 改 正 後 、 書 面 に つ い て 広 義 の 解 釈 を 採 用 し た 結 果 、 一 方 当 事 者 の 署 名 し か な い 場 合 で は 、 そ の 当 事 者 間 の 取 引 慣 習 、 所 属 業 界 の 慣 例 な ど を 総 合 的 に 考 慮 し て 、 仲 裁 合 意 の 有 効 性 が 判 断 さ れ る35。 従 っ て 、 前 述 し た 日 本 の チ サ ダ ネ 事 件 と 同 様 に 、 船 荷 証 券 に お い て 、 一方 当 事 者 の 署 名 だ け で あ っ て も 、 国 際 海 上 運 送 の 慣 例 か ら 考 え る と 仲 裁 合 意 の 効 力 が 認 め ら れ る 。 現 在 実 務 上 で は 仲 裁 合 意 は 書 面 に よ る こ と が 定 着 し て き て い る 。 一 般 的 に 、 仲 裁 合 意 の 方 式 と し て 書 面 性 を 要 求 す る 趣 旨 は 、 仲 裁 に よ っ て 真 に 合 意 す る こ と を 確 実 な も の と す る た め 、 仲 裁 合 意 の 存 在 と 内 容 を 証 明 で き る よ う 記 録 す る こ と に あ る と 考 え ら れ る360 35 劉餓鋒=陳栄惇『国際私法論~ (三民書底、 2011年) 707頁 36小 島 武 司 ニ 高 桑 昭 『 注 釈 と 論 点 仲裁法~ (青林書院、 2007年) 50頁 10

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4. 仲 裁 適 格 仲 裁 は 私 人 に よ る 紛 争 解 決 手 段 で あ る が 、 法 は ど の 範 囲 で こ の よ う な 私 人 間 の 紛 争 解 決 を 容 認 す る か と い う 問 題 が あ り 、 仲 裁 適 格 な い し 仲 裁 可 能 性 と 呼 ば れる。 日 本 で は 、 仲 裁 法 第 13条 l項 は 、 「 仲 裁 合 意 は 、 法 令 に 別 段 の 定 め が あ る 場 合 を 除 き 、 当 事 者 が 和 解 を す る こ と が で き る 民 事 上 の 紛 争 ( 離 婚 又 は 離 縁 の 紛 争 を 除 く 。 ) を 対 象 と す る 場 合 に 限 り 、 そ の 効 力 を 有 す る 。Jと定めている。 一 方 、 台 湾 仲 裁 法 第 1条 2項 は 、 「 前 項 に い う 紛 争 は 、 法 律 上 和 解 が 可 能 な も の に 限 る 。 」 と 定 め て い る 。 ま た 、 仲 裁 可 能 範 囲 の 制 限 に つ い て は 、 仲 裁 法 第 2 条 に 「 仲 裁 に 付 託 す べ き 旨 を 合 意 す る 契 約 は 、 一 定 の 法 律 関 係 及 び か か る 法 律 関 係 よ り 生 じ る 紛 争 に 関 し て な さ れ た も の で な け れ ば 効 力 を 有 し な い 。 」 と 規 定されている。 「 一 定 の 法 律 関 係 」 と い う の は 、 い わ ば 具 体 的 か つ 特 定 性 を も っ 法 律 関 係 で あ る 。 す な わ ち 、 日 本 と 台 湾 は 仲 裁 適 格 に つ い て 、 と も に 仲 裁 和 解 性 を 基 準 と し て い る 。 ま た 、 仲 裁 適 格 に 関 す る 各 国 の 法 制 は 様 々 で あ る が 、 和 解 可 能 性 を 基 準 と す る 立 法 が 多 い よ う で あ る 。 例 え ば 、 米 国 に お い て は 仲 裁 利 用 を 促 進 す る 強 力 な 政 策 が 打 ち 出 さ れ た 結 果 、 反 ト ラ ス ト 法 、 特 許 法 や 証 券 取 引 法 の 分 野 に お い て も 、 広 く 仲 裁 適 格 が 認 め ら れ る よ う に な っ て き た 。 一 方 、 日 本 で は 、 特 許 権 の 有 効 性 や 独 禁 法 違 反 な ど の 仲 裁 適 格 が 認 め ら れ る か ど う か の 問 題 に つ い て は 、 な お 結 論 が 明 確 で は な い37。 な お 、 こ の 点 に つ い て 、 台 湾 で は 議 論 が ほ と ん ど な さ れ て 来 な か っ た よ う で あ る 。 ( 2 ) 仲 裁 判 断 の 取 消 し 、 承 認 と 執 行 の 局 面 に お け る 仲 裁 合 意 準 拠 法 の 決 定 国 際 仲 裁 に お い て は 、 仲 裁 合 意 の 成 立 ・ 効 力 を ど の 国 の 法 に よ っ て 判 断 す べ き か が 問 題 に な る こ れ は 仲 裁 廷 に よ る 権 限 判 断 、 裁 判 所 に よ る 妨 訴 抗 弁 の 判 断 、 仲 裁 判 断 の 取 消 し 、 承 認 と 執 行 と い っ た 局 面 で 問 題 と な り 得 る380 ニ ュ ー ヨ ー ク 条 約 は 外 国 仲 裁 判 断 の 執 行 拒 絶 事 由 (5条 l項 a号)、モデル法 は 仲 裁 判 断 取 消 事 由 (34条 2項 a号(i)) 及 び 執 行 拒 絶 事 由 (36条 1項 a号(i) ) と し て 仲 裁 合 意 の 有 効 性 を 判 断 す る に つ き 、 い ず れ も 第 1段 階 で は 当 事 者 が 合 意 し た 法 を 準 拠 法 と 規 定 し 、 第 2段 階 で は 仲 裁 地 法 を 準 拠 法 と 規 定 し て い る 。 日 本 で は 、 仲 裁 合 意 の 準 拠 法 に つ い て 一 般 規 定 を 設 け ず 、 仲 裁 判 断 取 消 事 由 ・ 執 行 拒 絶 事 由 と し て の み 、 当 事 者 自 治 、 仲 裁 地 法 と い う 2段 階 の 連 結 を 定 め る 規 定 を お い て い る390 つ ま り 、 仲 裁 判 断 の 取 消 規 定 で あ る 仲 裁 法 第 44条 l 項 2号 に よ る と 、 「 仲 裁 合 意 が 、 当 事 者 が 合 意 に よ り 仲 裁 合 意 に 適 用 す べ き も の と し て 指 定 し た 法 令 ( 当 該 指 定 が な い と き は 、 日 本 の 法 令 ) に よ れ ば 、 当 事 者 の 行 為 能 力 の 制 限 以 外 の 事 由 に よ り 、 そ の 効 力 を 有 し な い こ と 。J と定めら れ て い る 。 承 認 及 び 執 行 の 規 定 に お い て も 同 様 で あ る ( 仲 裁 法 第 45 条 2 項 2 37 松岡博編『国際関係私法入門~ (有斐閣、 2008年) 350頁〔黄朝霊〕 38 小 島 武 司 = 高 桑 昭 『 注 釈 と 論 点 仲裁法~ (青林書院、 2007年)58頁 39小 島 武 司 = 高 桑 昭 『 注 釈 と 論 点 仲裁法~ (青林書院、 2007年) 58頁

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号)。 一 方 、 台 湾 で は 、 日 本 と 同 様 に 仲 裁 合 意 の 準 拠 法 に つ い て は 明 文 規 定 が な い が 、 外 国 仲 裁 判 断 の 承 認 ・ 執 行 の 拒 絶 事 由 に 関 す る 規 定 に お い て 、 台 湾 仲 裁 法 第 50条 2項 は 「 仲 裁 契 約 が 、 当 事 者 の 合 意 し た 法 律 に よ り 、 ま た は 、 そ の 合 意 が な い 場 合 に お い て は 判 断 地 法 に よ り 無 効 で あ る 。 」 と 規 定 し て い る 。 こ の 規 定 の 中 で 判 断 地 法 と い う 文 言 は 、 言 い 換 え れ ば 仲 裁 地 法 と い う 意 味 で あ る 。 つ ま り 、 ニ ュ ー ヨ ー ク 条 約 と 日 本 仲 裁 法 と 同 様 に 、 当 事 者 自 治 と 仲 裁 地 法 と い う2段 階 の 連 結 を 定 め て い る 。 こ れ に 対 し て 、 仲 裁 判 断 の 取 消 事 由 規 定 で あ る 台 湾 仲 裁 法 第 40条 l項 2号 は 、 「 仲 裁 契 約 の 不 成 立 、 無 効 の と き 、 ま た は 、 仲 裁 廷 の 審 問 終 結 時 に 未 だ 効 力 が 生 じ ず 若 し く は 既 に 失 効 し て い た と き 。 J と定 め て お り 、 法 選 択 に 関 す る 規 定 が 設 け ら れ て い な い た め 、 取 消 の 場 面 に お い て 仲 裁 合 意 の 有 効 性 を 判 断 す る 際 に 、 明 確 な 基 準 が な く 、 明 ら か に 不 備 で あ る 。 改 善 策 と し て 、 台 湾 仲 裁 法 第 50条 2 項 の 同 じ 趣 旨 の 法 選 択 の 規 定 を 設 け る べ き で あ る と 考 え ら れ る 。 ( 3 ) 妨 訴 抗 弁 の 局 面 に お け る 仲 裁 合 意 準 拠 法 の 決 定 妨 訴 抗 弁 の 審 査 に 当 た り 、 抗 弁 の 根 拠 と な る 仲 裁 合 意 の 準 拠 法 が ど の 国 の 法 な の か に つ い て 、 ニ ュ ー ヨ ー ク 条 約 と モ デ ル 法 に 明 文 規 定 が な く 、 日 本 法 に も こ れ に つ い て の 明 文 規 定 が な い 。 裁 判 所 が ど の 国 の 法 で 仲 裁 合 意 の 成 立 ・ 効 力 を 判 断 す べ き か が 解 釈 問 題 と な る べ 1 . 日 本 の 従 来 の 通 説 は 、 法 例 7条 1項 ( 通 則 法 7条 に 相 当 ) な い し は 条 理 に 基 づ き 、 当 事 者 の 明 示 的 意 思 、 そ れ が 明 ら か で な い と き は 当 事 者 の 黙 示 的 意 思 を 探 求 し て 、 仲 裁 合 意 の 準 拠 法 を 決 定 す る と い う 解 釈 を 示 し て き た 。 か つ て 、 リ ン グ リ ン グ ・ サ ー カ ス 事 件 判 決 も 、 同 様 の 考 え 方 に 基 づ き 、 当 事 者 の 明 示 ・ 黙 示 の 意 思 に よ っ て 仲 裁 合 意 の 準 拠 法 を 決 定 し て い た ( 最 判 平 9・9・4民 集 51巻 8号 3657頁 ) へ ① 事 実 関 係 の 概 要 X(原 告 ・ 控 訴 人 ・ 上 告 人 ) は 、 教 育 関 係 の 催 事 の プ ロ デ ユ ー ス や 一 般 興 行 等 を 目 的 と す る 日 本 法 人 で あ り 、 y( 被 告 ・ 被 控 訴 人 ・ 被 上 告 人 ) は 、 サ ー カ ス 興 行 を 行 う 米 国 法 人 A( 訴 外 ) の 代 表 者 で あ る 。 昭 和 62年 10月に、 X が 昭 和 63年 と そ の 翌 年 の 2年間、 Aの サ ー カ ス 団 を 日 本 に 招 い て 興 行 す る 権 利を取得し、 Aに 対 し て 対 価 を 支 払 う と と も に 、 Aは 日 本 に お い て 、 昭 和 62 年 に 米 国 サ ン デ ィ エ ゴ で 行 っ た 公 演 と 規 模 、 質 と も に 同 等 の 興 行 を 行 う 旨 の 契 約 を 締 結 し た 。 そ の 際 X と A は 、 「 本 件 興 行 契 約 の 条 項 の 解 釈 又 は 適 用 を 含 む 紛 争 が 解 決 で き な い 場 合 は 、 そ の 紛 争 は 、 当 事 者 の 書 面 に よ る 請 求 に 基 づ き 、 商 事 紛 争 の 仲 裁 に 関 す る 国 際 商 業 会 議 所 の 規 則 及 び 手 続 に 従 っ て 仲 裁 に付される。 A の 申 し 立 て る す べ て の 仲 裁 手 続 は 東 京 で 行 わ れ 、 X の 申 し 立 40小 島 武 司 = 高 桑 昭 『 注 釈 と 論 点 仲 裁 法j(青林書院、 2007年)58頁 41 小 島 武 司 = 高 桑 昭 『 注 釈 と 論 点 仲 裁 法j(青林書院、 2007年) 58頁 12

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て る す べ て の 仲 裁 手 続 き は ニ ュ ー ヨ ー ク 市 で 行 わ れ る 。Jとの合意を行った。 (本件仲裁契約) Xは 、 本 件 興 行 契 約 締 結 に 際 し 、 A の 代 表 者 で あ る Y が 、 キ ャ ラ ク タ ー 商 品 の 販 売 利 益 分 配 お よ び 動 物 テ ン ト 設 営 費 用 等 の 負 担 義 務 の 履 行 に つ い て X を 欺 岡 し 、 損 害 を 被 ら せ た と 主 張 し て 、 Y に対して不法行為に基づ}く損 害 賠 償 請 求 訴 訟 を 提 起 し た 。 こ れ に 対 し て 、 Yは、 X と Aと の 間 の 仲 裁 契 約 の 効 力 が 本 件 訴 訟 に も 及 ぶ と し て 、 本 件 訴 え の 棄 却 を 求 め た 。 ② 判 旨 上告棄却。 ( ア ) 仲 裁 は 、 当 事 者 が そ の 聞 の 紛 争 の 解 決 を 第三者 で あ る 仲 裁 人 の 仲 裁 判 断 に ゆ だ ね る こ と を 合 意 し 、 右 合 意 に 基 づ い て 、 仲 裁 判 断 に 当 事 者 が 拘 束 さ れ る こ と に よ り 、 訴 訟 に よ る こ と な く 紛 争 を 解 決 す る 手 続 で あ る と こ ろ 、 こ の よ う な 当 事 者 間 の 合 意 を 基 礎 と す る 紛 争 解 決 手 段 と し て の 仲 裁 の 本 質 に か ん が み れ ば 、 い わ ゆ る 国 際 仲 裁 に お け る 仲 裁 契 約 の 成 立 及 び 効 力 に つ い て は 、 旧 法 例 7条 1項 ( 法 の 適 用 に 関 す る 通 則 法 7条) に よ り 、 第一次 的 に は 当 事 者 の 意 思 に 従 っ て そ の 準 拠 法 が 定 め ら れ る べ き も の と 解 す る の が 相 当 で あ る 。 そ し て 、 仲 裁 契 約 中 で 右 準 拠 法 に つ い て 明 示 の 合 意 が さ れ て い な い 場 合 で あ っ て も 、 仲 裁 地 に 関 す る 合 意 の 有 無 や そ の 内 容 、 主 た る 契 約 の 内 容 そ の 他 諸 般 の 事 情 に 照 ら し 、 当 事 者 に よ る 黙 示 の 準 拠 法 の 合 意 が あ る と 認 め ら れ る と き に は 、 こ れ に よ る べ き である。 ( イ ) 本 件 仲 裁 契 約 に お い て は 、 仲 裁 契 約 の 準 拠 法 に つ い て の 明 示 の 合 意 はないけれども、

I

A

の 申 し 立 て る す べ て の 仲 裁 手 続 は 東 京 で 行 わ れ 、

X

の 申 し 立 て る す べ て の 仲 裁 手 続 は ニ ュ ー ヨ ー ク 市 で 行 わ れ る 。J旨 の 仲 裁 地 に つ い て の 合 意 が さ れ て い る こ と な ど か ら す れ ば 、 Xが 申 し 立 て る 仲 裁 に 関 し て は 、 そ の 仲 裁 地 で あ る ニ ュ ー ヨ ー ク 市 に お い て 適 用 さ れ る 法 律 を も っ て 仲 裁 契 約 の 準 拠 法 と す る 旨 の 黙 示 の 合 意 が さ れ た も の と 認 め る の が 相 当 で あ る 。 ( ウ ) 本 件 仲 裁 契 約 に 基 づ き Xが 申 し 立 て る 仲 裁 に つ い て 適 用 さ れ る 法 律 は 、 ア メ リ カ 合 衆 国 の 連 邦 仲 裁 法 と 解 さ れ る と こ ろ 、 同 法 及 び こ れ に 関 す る 合 衆 国 連 邦 裁 判 所 の 判 例 の 示 す 仲 裁 契 約 の 効 力 の 物 的 及 び 人 的 範 囲 に つ い て の 解 釈 等 に 照 ら せ ば 、 Xの Yに 対 す る 本 件 損 害 賠 償 請 求 に つ い て も 本 件 仲 裁 契 約 の 効 力 が 及 ぶ も の と 解 す る の が 相 当 で あ る 。 そ し て 、 当 事 者 の 申 立 て に よ り 仲 裁 に 付 さ れ る べ き 紛 争 の 範 囲 と 当 事 者 の 一 方 が 訴 訟 を 提 起 し た 場 合 に 相 手 方 が 仲 裁 契 約 の 存 在 を 理 由 と し て 妨 訴 抗 弁 を 提 出 す る こ と が で き る 紛 争 の 範 囲 と は 表 裏 一 体 の 関 係 に 立 つ べ き も の で あ る か ら 、 本 件 仲 裁 契 約 に 基 づ く Yの 本 案 前 の 抗 弁 は 理 由 が あ り 、 本 件 訴 え は 、 訴 え の 利 益 を 欠 く 不 適 法 な も の と し て 棄 却 を 免 れ な い 。 ③ 学 説 と 論 点 本 件 仲 裁 契 約 の 準 拠 法 に つ い て の 明 示 の 合 意 が さ れ て な い か ら 、 黙 示 の 準

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拠 法 の 合 意 に つ い て 探 究 す べ き こ と と な る 。 本 件 仲 裁 契 約 は 主 契 約 で あ る 本 件 興 行 契 約 中 の 一 条 項 と し て 規 定 さ れ て い る も の で あ り 、 本 件 興 行 契 約 を め ぐる紛争について、 X が 申 し 立 て る 仲 裁 手 続 は ニ ュ ー ヨ ー ク 市 で 、 Aが 申 し 立 て る 仲 裁 手 続 は 東 京 で 行 わ れ る 旨 を 定 め ら れ た 。 最 近 の 国 際 取 引 実 務 に お い て は 、 仲 裁 申 立 て を す る 側 の 当 事 者 が 、 相 手 側 本 拠 地 の 仲 裁 機 構 で 申 立 て を行う旨の合意(し、わゆるクロス式合意)がしばしば用いられる。本件では、 こ の よ う な 仲 裁 合 意 の 主 観 的 効 力 範 囲 を 判 断 す る 準 拠 法 が 問 題 と な り 、 最 高 裁 は 、 日 本 で 訴 訟 提 起 し た 日 本 側 当 事 者 が 本 来 は 仲 裁 申 立 人 に な る の で 、 仲 裁 地 と な る べ き 米 国 ニ ュ ー ヨ ー ク 州 の 法 を 仲 裁 合 意 の 準 拠 法 と み る べ き で あ る と 判 断 し た420 し か し な が ら 、 上 記 最 高 裁 の 判 断 に よ る と 、 ク ロ ス 式 仲 裁 合 意 の 場 合 、 い ず れ の 当 事 者 が 先 に 仲 裁 申 立 て を す る か に よ っ て 仲 裁 地 、 ひ い て は 仲 裁 合 意 の 準 拠 法 が 変 わ る 結 果 、 判 断 が 相 違 し 得 る と い う 問 題 が あ る 。 そ の た め 、 こ の よ う な 場 合 は 仲 裁 地 を 連 結 点 と せ ず 、 主 た る 契 約 準 拠 法 に 関 す る 当 事 者 の 黙 示 意 思 を 探 究 し 、 そ こ か ら 仲 裁 合 意 の 準 拠 法 に 関 す る 黙 示 的 合 意 を認定 す べ き と い う 見 解 も 少 な く な い43。 こ れ に 対 し て 、 仲 裁 法 は 、 ニ ュ ー ヨ ー ク 条 約 5条 l項 aと 同 様 に 、 仲 裁 判 断 の 取 消 事 由 、 執 行 拒 絶 事 由 を 定 め る 44条 1 項 2号 .45条 2項 2号 に お い て 仲 裁 合 意 の 準 拠 法 に つ き 当 事 者 自 治 と 仲 裁 地 法 と い う 段 階 的 連 結 を 明 文 で 規 定 し て お り 、 妨 訴 抗 弁 の 局 面 に お い て も 類 推 適 用 す べ き と す る の が 近 時 の 有 力 説 で あ る440 2. 台 湾 で は 、 最 高 法 院 92年 度 (2003年 ) 台 上 宇 第 234号 判 決 に よ る と 、 「 仲 裁 合 意 は 当 事 者 間 に お い て 現 在 或 は 将 来 に 生 じ る 紛 争 に つ い て 、 司 法 手 続 の 代 わ り に 私 的 手 続 で あ る 仲 裁 を 選 択 し 、 か つ 、 仲 裁 判 断 と い う 方 式 で 紛 争 解 決 す る 合 意 で あ る 。 当 事 者 間 の 仲 裁 合 意 以 外 の 実 質 的 契 約 内 容 は 含 ま れ て い な い。 J と 述 べ ら れ て い る 。 つ ま り 、 仲 裁 合 意 は 実 質 的 な 債 権 債 務 関 係 が 含 ま れ な い 特 殊 な 契 約 で あ る と い う の が 判 例 上 の 立 場 で あ る 。 従 っ て 、 台 湾 の 国 際 私 法 で あ る 渉 外 民 事 法 律 適 用 法 の 中 に は 契 約 準 拠 法 を 定 め た 第 20 条 1 項 に お い て 「 債 務 関 係 を 発 生 さ せ る 法 律 行 為 及 び 効 力 は 、 当 事 者 の 意 思 に よ っ て 適 用 す べ き 法 を 定 め る 。 」 と 規 定 さ れ て い る が 、 同 条 は 渉 外 民 事 法 律 適 用 法 第 4章 債 権 に つ い て の 規 定 で あ る た め 、 債 権 行 為 に の み に 適 用 さ れ 、 仲 裁 合 意 の 準 拠 法 に は 直 接 適 用 さ れ な い と す る の は 学 説 の 立 場 で あ る 。 か つ て の 学 説 は 、 日 本 の 法 例 7条 と ほ ぼ 同 様 な 内 容 を 定 め て い た 旧 渉 外 民 事 法 律 適 用 法 第 6条 l項 の 規 定 を 、 仲 裁 合 意 の 準 拠 法 を 決 定 す る 法 選 択 規 則 と し て 類 推 適 用 し 、 当 事 者 自 治 を認 め た う え 、 明 示 の 合 意 が な い と き に 、 仲 裁 地 法 を 当 事 者 に よ る 黙 示 の 合 意 で あ る と す る 立 場 で あ っ た450 42小 島 武 司 = 高 桑 昭 『 注 釈 と 論 点 仲裁法~ (青林書院、 2007年) 59頁 43小 島 武 司 = 高 桑 昭 『 注 釈 と 論 点 仲裁法~ (青林書院、 2007年) 59頁 44 松岡博編『国際関係私法入門~ (有斐閣、 2008年) 350頁〔黄靭霊〕 45 劉錨鋒=陳栄{専『国際私法論~ (三民書庖、 2011年) 712頁 14

参照

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