キャリア教育を取り巻く諸政策を各種答申から読む
―キャリア教育におけるアドミニストレーターを考える
― 森谷 一経【要旨】
学生を取り巻く雇用環境は依然として厳しく、就職に関する各種指標である就職率 や内定率は過去最低水準である。教育機関ばかりでなく、国や地方公共団体、各種経 済団体が新規学卒者の雇用環境の改善に向けて奔走している。大学や高校においては、 学生の職業観や勤労観を養うためにキャリア教育が大幅に導入されており、これらの 効果の発現が期待されているところである。 本稿においては、就職をめぐる諸環境について、これまで個別に取り扱われること の多かった就職率等の雇用指標や、政府の雇用対策、各種審議会による答申、そして キャリアを扱う民間の専門家等を包括的にとり扱い、今、キャリア教育に何が必要と されているのかを検討する。そして、制度的に整いつつあるキャリア教育に何をどの ように採り入れるべきなのかについて、新たな視点から提言をすることにある。 キーワード:就職率、キャリア教育、中央教育審議会、アドミニストレーターはじめに
学校教育法によれば大学は、学術の中心として、広く知識を授けるとともに、深く専門の学 芸を教授研究し、知的、道徳的及び応用的能力を展開させることを目的としている(学校教育 法第83条)。このように、「深く専門の学芸を教授研究し、知的、道徳的及び応用的能力を展開 させる」力を身につけたことを大学から認定され、学士号を授与された卒業生にとっては、自 身の就職先が決まらないという問題は極めて深刻であり、社会全体にとって大きな損失である ことは言うまでもない。 我が国の若者の就職難が始まったのは、1980年代の好況が終わった1990年代であり、さら に2000年代後半の金融不況を経て、より一層の雇用状況の悪化が見られるようになった。 他方、紛らわしいことに毎年5月から6月頃にかけて新聞等で就職率が90何%だという記事 も載る。 本稿では若者を取り巻く就職状況を考察し、キャリアをめぐる諸環境の概念的な再検討を試 みるものである。そして今、若者のキャリアをどのように捉え、そして彼らのより良い環境構 築の為にどのような取組みがなされるべきなのかを考えるものである。 このために、現今の就職環境を振り返ることから始める。そしてキャリアに関わる用語の定義を確認するとともに、教育現場へのキャリア教育導入の変遷を大学におけるそれに限定する ことなく、高等学校や中学校等における当該教育の導入経緯を含めて再整理したい。なぜなら、 大学におけるキャリア教育は高等学校や中学校等で実施されるキャリア教育と連続した関係を 持っており、時系列の上で分断して論じることは適切ではないと考えるからである。 そして、これからのキャリア教育の方向性として、どのような仕掛けが考えられるのか提案 したい。
就職率をめぐる数値のトリック
我が国の経済の停滞が長引くなか、企業は引き続き採用抑制のスタンスを崩していない。と ころが、文部科学省高等教育局及び厚生労働省により5月に公表された平成23年度大学等卒業 者の就職状況調査によると、今春大学を卒業した新社会人の就職率は93.6%である。この数値 だけを見れば、大学生の就職状況は悪いどころか、かつての高度経済成長期にも劣らない、労 働の売り手市場である。 上記の平成23年度大学等卒業者就職状況調査の対象校62校の内訳は国立大学法人21校(34 %)、公立大学3校(5%)、私立大学38校(61%)である。また、文部科学省による2011年度 学校基本調査速報によれば、我が国における2011年度の大学数は780校であり、うち国立大学 法人が86校(11%)、公立大学が95校(12%)、私立大学が599校(77%)であることを考える とこの調査においては、国立大学法人における就職状況の影響が実態以上に強調されていると 考えられる。さらには、93.6%という数値は就職率であり、就職希望率ではない。つまり、こ の調査時点において就職をする意思のある者のうち、実際に就職をした者の割合を「就職率」 と呼び、他方で本来は就職を希望していた者の中で、この調査時点において実際に就職をした 者の割合を「就職希望率」と定義しているのである。換言すれば、この調査における「就職率」 とは、大学4年次の4月において、内定が決まっている者とその時点でも就職が決まらず、か つ、就職活動の継続を諦めていない者の割合である。 これに対して「就職希望率」とは、大学3年次からスタートする就職活動の時点において就 職することを希望していた者のうち、この調査時点においてもリクルート活動を継続し、就職 を希望している者の割合である。よって、後者の「就職希望率」とは、厳しい雇用環境のなか で、リクルート活動がうまくいかず、結果的に就職活動を諦めてしまったか先送りにした学生 を含む包括的で現実的な数値であり、68.9%という割合がこれを示している。すなわち前者の 「就職率」93.6%とは、4年生の春になって、就職活動を諦めてしまった学生を除外した上での、 就職志望者と就職決定者の割合であることに留意が必要である。表1 大学における就職希望率と就職率 区 分 就職希望率 就職率 前年度卒業学生の〈参 考〉 就職率 大 学 68.9% ( 2.4 ) 93.6% ( 2.6 ) 91.0% うち 国公立 私 立 54.2% ( 4.4 )76.2% ( 1.5 ) 95.4% ( 1.9 )92.9% ( 2.8 ) 93.5%90.1% 短 期 大 学 74.8% ( 0.0 ) 89.5% ( 5.4 ) 84.1% 高等専門学校 62.8% ( 6.5 ) 100.0% ( 1.3 ) 98.7% 計 69.0% ( 2.5 ) 93.6% ( 2.9 ) 90.7% 出典:文部科学省, 2011, 「平成23年度大学・短期大学・高等専門学校及び専修学校卒業者の就職状況 調査(4月1日現在)より1) また、8月に公表された平成24年度学校基本調査の速報値によると、平成23年度における大 学卒業者の就職率は63.9%である。文部科学省高等教育局及び厚生労働省により5月に公表さ れた平成23年度大学等卒業者の就職状況調査とは異なり、調査対象は国内の全ての大学を対 象としたものであり、全数調査である。表のとおり、平成23年度卒業者559,030人のうち、大 学院等進学者が76,884人(13.8% )、就職者357,285人(63.9%)、そのうち正規の職員等でない 者が21,990人(3.9%)、一時的な仕事に就いた者19,596人(3.5% )、進学も就職もしていない 者86,638人(15.5% )、不詳・死亡が9,811人(1.8% )である。 表 2 就職率と一時的な仕事の従事者及び進学も就職もしていない者 ( 人 ( % )) 区 分 卒業者 進学者 (率) 就職者 (率) 仕事の従事者 一時的な (率) 進学も就職も していない者 (率) 不詳・死亡 ※< >は臨床研修医を 含む 正規の職員でない者 平成15年度 16 17 18 19 20 21 22 23 24 544,894 548,897 551,016 558,184 559,090 555,690 559,539 541,428 552,358 559,030 62,251 (11.4) 77,022 (14.0) 78,169 (14.2) 79,337 (14.2) 77,165 (13.8) 76,343 (13.7) 78,265 (14.0) 86,039 (15.9) 82,657 (15.0) 76,884 (13.8) 299,987 (55.1) 306,414 (55.8) 329,125 (59.7) 355,820 (63.7) 377,776 (67.6) 388,480 (69.9) 382,485 (68.4) 329,190 (60.8) 340,217 (61.6) 357,285 (63.9) <56.6> <57.3> <61.2> <65.4> <69.2> <71.5> <70.0> <62.5> <63.2> <65.5> … … … … … … … … … … … … … … … … … … 21,990 ( 3.9) 25,255 (4.6) 24,754 (4.5) 19,507 (3.5) 16,659 (3.0) 13,287 (2.4) 11,485 (2.1) 12,991 (2.3) 19,332 (3.6) 19,107 (3.5) 19,596 (3.5) 122,674 (22.5) 110,035 (20.0) 97,994 (17.8) 82,009 (14.7) 69,296 (12.4) 59,791 (10.8) 67,894 (12.1) 87,174 (16.1) 88,007 (15.9) 86,638 (15.5) 26,605 (4.9) 22,699 (4.1) 18,398 (3.3) 15,108 (2.7) 12,503 (2.2) 10,803 (1.9) 8,904 (1.6) 10,807 (2.0) 13,521 (2.4) 9,811 (1.8) 出典: 文部科学省, 2012, 「平成24年度学校基本調査(速報)」より2) この63.9%という数字は平成23年度の61.6%より2.3%上昇したとはいえ、昨年の東日本大 震災の影響を考慮すると、実質的には就職率が上昇したとは言えないであろう。注目すべきは、
派遣社員やアルバイトなど非安定的な非雇用者の割合がおよそ 12 万 8 千人にも上ることであ り、全体の22.9%を占めることが明らかにされたことである。平成23年度の学校基本調査にお いては、就職者のうち、正規の職員でない者の割合は調査されていなかった。しかし、厳しい 雇用環境のもとでの就職率の実態を雇用形態に照らし合わせて開示すべきとの声に押されて、 就職者のうち非正規雇用の者の割合が示されることとなったのである。 平成24年度学校基本調査(速報)によると、今春の大学卒業者55万9030人のうち、正規社 員として雇用された就職者は33万5295人で、正規雇用者の就職率は60.0%だった。非正規雇 用者の割合は、2万1990人で3.9%であり、アルバイトやパートなど一時的な仕事に就いた人 (3.5%)と進学も就職もしていない人(15.5%)を合計すると、22.9%が安定的な就職をしてい ないことがわかった。 さらに進学も就職もしていない人の内訳については、24年度調査におい て初めて明らかにされ、就職や進学準備が9.4%、就職や進学準備もしない、いわゆる「ニー ト」と呼ばれる層が6.0%であったことが示された。 それでは内定率はどうであろうか。厚生労働省は、平成24年3月に大学を卒業する学生の就 職状況を調査し、平成23年度の卒業生の就職内定状況を取りまとめている。調査対象は、全国 の大学等から、設置者や地域などを考慮して抽出した国立大学21校、公立大学3校、私立大学 38校である。これによると大学生の就職内定率は、80.5%である。平成24年3月の大学卒業予 定者数は約55万人であり、うち就職希望者数が40万6千人、さらにその中で就職内定者数は 32万7千人であると推計されている。また、大学卒業予定者全体に占める内定者の割合は59.2 %である。なお、卒業予定者数は、文部科学省「学校基本調査」から推計した数値であり、就 職希望者数と就職内定者数がこの厚生労働省の調査結果から推計した数値である。 表 3 就職希望率と就職内定率 区 分 就職希望率 就職内定率 前年度卒業学生の〈参 考〉 就職率 大 学 73.6% ( 2.4 ) 80.5% ( 3.1 ) 91.0% うち 国 公 立 私 立 56.1% ( 4.5 )82.2% ( 1.3 ) 87.6% ( 3.6 )78.2% ( 2.8 ) 93.5%90.1% 短 期 大 学 78.5% (− 0.2 ) 66.9% ( 3.8 ) 84.1% 高等専門学校 62.5% ( 6.2 ) 98.0% ( 0.7 ) 98.7% 総 計 73.2% ( 2.4 ) 80.2% ( 3.1 ) 90.7% 出典:厚生労働省, 2011, 「平成23年度大学等卒業予定者の就職内定状況調査」より 以上の通り、大学生の就職に関しては3つの重要な指標が使用されており注意が必要である。 つまり、平成23年度卒業の大学生に関していえば、「平成23年度大学・短期大学・高等専門学 校及び専修学校卒業者の就職状況調査」で示される就職希望率および就職率という指標と、 「平成24年度学校基本調査(速報)」で明らかにされる、平成23年度の非正規雇用者を考慮し
た就職率、さらには、平成23年度「大学等卒業予定者の就職内定状況調査」における就職内定 率という指標をそれぞれ区別して考える必要があるということである。
キャリア教育をめぐる各種答申と政策
学生のキャリアと雇用を考えるときに、前述の就職に関する数値指標について正確な知識を もつことが重要であると同時に、政府が立案する雇用政策およびその実施について包括的な理 解を持つことも極めて大切である。若者のキャリアや雇用に関しては、文部科学省を中心とし て多くの諸政策が実施されているが、特に重要なものは以下の通りである。また、これらを含 めて、幼稚園から大学に至るまで、キャリア教育をめぐる法改正及び諸政策の変遷をまとめる こととし再確認する。 平成11年12月 中央教育審議会答申「初等中等教育と高等教育との接続の改善について」 平成18年12月 教育基本法改正 平成19月6月 学校教育法一部改正 平成20年1月 中央教育審議会答申「学校指導要領等の改善について」 平成20年3月 新学習指導要領告示(小学校・中学校) 平成20年7月 教育振興基本計画策定 平成21年3月 新学習指導要領告示(高校) 平成23年1月 中央教育審議会答申「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方 について」 平成 11 年 12 月に中央教育審議会から「初等中等教育と高等教育との接続の改善について」 (答申)が出された。「キャリア教育」という文言が、行政関係資料で登場したのはこのときが 初めてである。この中で、小学校段階から発達段階に応じてキャリア教育を実施することの必 要性が提言されたのである。この答申は教育現場に大きな衝撃を与えた。職業教育という言葉 はあったが、キャリアという文言が公式に使われたのはこれが初めてだったからである。 その 4 年後の平成 15 年 6 月に 4 府省合同による若者自立・挑戦戦略会議において「若者自 立・挑戦プラン」が公表された。キャリア教育そのものが中央教育審議会で議題として取り上 げられたのは平成11年であるが、「若者の自立」という観点で議論がなされたのは、この4府省 合同、すなわち経済財政政策担当大臣、文部科学大臣、厚生労働大臣、経済産業大臣が集まっ て取りまとめられた「若者自立・挑戦プラン」が初めてである。その中では、「現在の状況では、 若者の職業能力の蓄積がなされず、中長期的な競争力・生産性の低下といった経済基盤の崩壊 や、社会不安の増大等、深刻な社会問題を惹起しかねない」という危機意識が述べられ、そう した観点から若者の自立をいかに社会全体でバックアップするかということが提言されたので ある。その位置づけとしては、若者を取り巻く困難な就職環境に対してどのように対処してい くか、その重要な柱としてキャリア教育の推進が提言されたことにある。平成16年1月には学識者を主要メンバーとする総合的調査研究協力者会議から 「キャリア 教育の推進に関する総合的調査研究協力者会議報告書」が出された。この報告書のなかにおい ても「初等中等教育におけるキャリア教育」の重要性が提言され、その積極的な推進がこれか らの我が国の教育における鍵であることが盛り込まれたのである。 平成16年12月には4府省合同による「若者の自立・挑戦のためのアクションプラン」が公表 された。前年6月に「若者自立・挑戦プラン」が示され、これを具体的に実行していくために作 成されたアクションプランであり、その意義はキャリア教育がもはや教育界だけで推し進めて いく段階が終わり、今後は我が国全体で取り組むべき課題であることを社会全体に知らしめた という点で画期的なアクションプランであるといえよう。 同時に文部科学省では、平成16年度内において小学校・中学校・高等学校を通じ組織的で系 統的なキャリア教育を行うための指導方法及び指導内容の開発を具体化する「キャリア教育推 進地域指定事業」を開始している。 平成17年度には、官民共同でキャリア教育を推し進める「キャリア教育実践プロジェクト」 がスタートした。これは産学官の連携による職場体験・インターンシップの推進のためのシス テムづくりであり、組織的で継続的な産学交流を通じて若者の就業観を養うという実践プロジ ェクトである。同年11月には文部科学省により「キャリア・スタート・ウィーク」が開始され ているが、これは「キャリア教育実践プロジェクト」の枠内で実施された施策であり、その内 容は、中学校を中心として、職場体験を5日以上実施するというものである。先だって富山県 で実施された「14歳の挑戦」というキャリア教育プログラムをモデルとした実践例として全国 展開されたという点で、地方発のアイデアが国全体に浸透したケースである。 同時期に「学校支援地域本部」事業がスタートしている。これは、「学校と地域との連携」を 一層推進する点でキャリア教育と関係が非常に深い。この活動の趣旨は、地域住民がボランテ ィアで地域の実状に応じながら、学校の様々な行事、たとえば部活動の指導や学習の補助など をサポートするものである。学習補助としての体験活動においては、企業退職者を中心として、 職業に関する講話会などを催す場合も多い。 平成18年1月には、「若者の自立・挑戦のためのアクションプラン」の改訂版が取りまとめ られ、その強化が図られたことも注目すべきことであろう。より一層のキャリア教育の充実を 目指して導入された従来の「若者の自立・挑戦のためのアクションプラン」では、若年者の自 立を促すうえで効果的な行動プランが不足しているとの反省があったと思われる。 さらに同年の12月において、4府省合同による「キャリア教育等推進会議」が開催されてい る。内閣府は若者の自立と勤労観の確立、職業知識の育成と早期離職の防止等を図る観点から、 青少年育成推進本部を設け、ここに「キャリア教育等推進会議」を設置したのである。これは、 職場体験やインターンシップ等の参加・体験型学習の重要性を強調する目的があり、その後、 平成 19 年 5 月には同じく 4 府省合同で「キャリア教育等推進プラン―自分で掴もう自分の人 生―」へ発展することになる。 平成18年12月には全ての学校にとって根本的な法律である教育基本法の改正があった。我
が国の教育に関して重大な影響を及ぼす教育基本法に改正が行われたのは約60年ぶりのこと である。教育基本法第2条(教育の目標)に、「個人の価値を尊重して、その能力を伸ばし、創 造性を培い自主及び自律の精神を養うとともに、職業・生活との関連を重視し、勤労を重んず る態度を養うこと」「主体的に社会の形成に参画し、その発展に寄与する態度を養うこと」が定 められ、キャリア教育の方向性が一層多面的になることが示されたといえよう。 同時期である平成18年11月に「小学校・中学校・高等学校 キャリア教育推進の手引 −児童 生徒一人一人の勤労観、職業観を育てるために−」が作成された。これは、先の「キャリア教 育の推進に関する総合的調査研究協力者会議報告書」の内容を、よりわかりやすく書き直した ものであると考えられる。ここで、キャリア教育は、端的には児童生徒一人一人の勤労観、職 業観を育てる教育であると解釈されることになった。 しかしながら、この解釈が一人歩きしいつの間にか「キャリア教育=職業観を育てる」とな ってしまい、時にはキャリア教育と職業教育が同一のものであると誤解される事態が発生する ようになったともいえよう。 約半年を経た平成19年6月には、学校教育法の一部改正が行われた。教育基本法が改正され たことをうけ、一部条項の改正がなされたのである。第21条の義務教育の目標として「学校内 外における社会的活動を促進し、自主、自律及び協同の精神、規範意識、公正な判断力並びに 公共の精神に基づき主体的に社会の形成に参画し、その発展に寄与する態度を養うこと」(第 21条1項)と改正され、学校内外の社会的活動の促進が強調されたことに特徴がある。 また、「職業についての基礎的な知識と技能、勤労を重んずる態度及び個性に応じて将来の 針路を選択する能力を養うこと」(第21条1項)と規定された。これは、社会的活動を学校の内 外で実施することを観点においたものである。 さらに、平成20年には学校指導要領の改訂が行われた。小学校、中学校、高校における学校 教育は、学習指導要領に基づいて展開されているが、教育基本法と学校教育法の改正に伴い、 各学校における教育の根本指針ともいえる学習指導要領も改訂されたのである。高校の学習指 導要領では、「教育課程の編成」において、「キャリア教育」という文言が盛り込まれることに なった。また、今改訂全般で貫かれている理念である「生きる力」を育むという観点から、そ の具体的実現の方策について、以下のポイントが示されたことは特筆に値する。 ・「生きる力」という理念の共有 ・基礎的・基本的な知識・技能の習得 ・思考力・判断力・表現力の育成 ・確かな学力を確立させるために必要な時間数の確保 ・学習意欲の向上や学習習慣の確立 ・豊かな心や健やかな体の育成のための指導の充実 同年の平成20年1月には、中央教育審議会から「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特 別支援学校の学習指導要領等の改善について」答申が出されている。
社会構造の大きな変化に対応して、若者が自立して生きていくために、幼稚園、小学校、中 学校、高等学校におけるそれぞれの発達段階に応じて、キャリア教育の体系的な指導の推進を 求めている。その中でも、いわゆるインターンシップである体験活動を通じた学習が行われる べきであると述べていることが、近年の実践的・体験型の教育を求める社会的風潮と合致して いるといえよう。 さらに、平成20年7月には「教育振興基本計画」が策定された。教育振興基本計画は、各学 校がこの計画を参考にしたうえで、それぞれの実状に合わせた諸政策を計画することを要求し ている。特に重点的な取り組み課題として、「キャリア教育・職業教育の推進」が明記されるこ とになった。具体的には、「小学校段階からのキャリア教育、特に中学校を中心とした職場体験 活動や普通科高等学校での取り組みを推進する」、さらに、「産業界・地域社会との連携による 人材育成を強化する」ことを述べている。 平成23年1月には中央教育審議会より「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り 方について」(答申)が出された。ここにおいては、前記、平成18年に公表された「小学校・中 学校・高等学校 キャリア教育推進の手引 −児童生徒一人一人の勤労観、職業観を育てるため に−」で一部、混同を招くこととなった「キャリア教育」と「職業教育」の異同が明確に分けら れることとなった。また、キャリア教育が自分さがしや、夢を追求することを指すことでない ことが理解されるようになったと言えよう。 この答申においてキャリア教育の定義の刷新を図ったことは大きな意義があり、同時に、社 会的・職業的自立に必要な基盤となる「基礎的・汎用的能力」が明らかにされたことは、今後 の各学校におけるキャリア教育の在り方に一石を投じるものであるといえよう。これは幼稚 園、小学校、中学校、高等学校及び大学において、組織的・体系的にキャリア教育を行う必要 性が示され、職業を取り巻く現状の分析を網羅的に行っている画期的な提言である。 直近の動きでは、平成24年3月に第7回雇用戦略対話会合が開催されている。これは平成21 年10月に開催された、内閣総理大臣の直轄である緊急雇用対策本部の決定に基づき、雇用に関 する戦略指針を決める会議である。内閣総理大臣の主導の下で、産業界を始め各界有識者が参 加し意見を交わすミーティングであり、合意形成と意見を提言するために設置された会合であ る。この会合で内閣総理大臣は今後策定していく若年者に対する雇用戦略に向け、重点的課題 として「機会均等の確保」、「キャリア教育の充実」、そして「若者のキャリア・アップ支援」に ついて検討するように指示しており、今や学校におけるキャリア教育の充実が我が国が抱える 喫緊の課題になったことを如実に示しているのである。
キャリアとはなにか
キャリアという言葉は、一般には経歴であるとか履歴、活動歴などのことを意味するが、キ ャリア教育という観点からいう場合には、様々な解釈があり統一的な定義があるとは言えな い。 平成23年の中央教育審議会答申においてはキャリアを以下の通り解釈している。人は他者や社会とのかかわりの中で、職業人、家庭人、地域社会の一員等、様々な役割を担いながら生 きている。これらの役割は、生涯という時間的な流れの中で変化しつつ積み重なりつながっていくも のである。また、このような役割の中には、所属する集団や組織から与えられたものや、日常生活の 中で特に意識せず習慣的に行っているものもあるが、人はこれらを含めた様々な役割の関係や価値を 自ら判断し、取捨選択や創造を重ねながら取り組んでいる。人はこのような自分の役割を果たして活 動すること、つまり「働くこと」を通して、人や社会にかかわることとなり、そのかかわり方の違いが 「自分らしい生き方」となっていくものである。このように、人が、生涯の中で様々な役割を果たす課 程で、自らの役割の価値や自分と役割の関係を見いだしていく連なりや積み重ねが、「キャリア」の意 味するところである。 つまり、同答申においてはキャリアを「人が、生涯の中で様々な役割を果たす課程で、自ら の役割の価値や自分と役割との関係を見いだしていく連なりや積み重ね」だと理解しているの である。
キャリア教育とは
キャリア教育を導入し、推進していくための諸政策は上記のような経緯をたどって実施され てきているわけであるが、これに伴い、キャリア教育というものがそもそも何であるのか、そ の解釈の経緯を分析し、キャリア教育の定義を明らかにする意義は小さくない。 そこで、平成11年の「初等中等教育と高等教育との接続の改善について」(答申)から「キャ リア教育」の意味するところの変遷をたどり、定義を検討することとする。 キャリア教育という文言が公的な文書で登場したのは、平成11年の中央教育審議会答申「初 等中等教育と高等教育との接続の改善について」においてである。その中では「学校と社会及 び学校間の円滑な接続を図るためのキャリア教育(望ましい職業観・勤労観及び職業に関する 知識や技能を身につけさせるとともに、自己の個性を理解し、主体的に進路を選択する能力・ 態度を育てる教育)を小学校段階から発達段階に応じて実施する必要がある」と、キャリア教 育導入の必要性を述べている。すなわち、ここでは、キャリア教育とは望ましい職業観・勤労 観及び職業に関する知識や技能を身につけさせるとともに、自己の個性を理解し、主体的に進 路を選択する能力・態度を育てる教育であると定義しているのである。 当該答申においては、キャリア教育とは、第一に望ましい職業観・勤労観及び職業に関する 知識や技能を身につけさせるための教育であり、第二に自己の個性を理解させる教育であり、 第三に主体的に進路を選択する能力・態度を育てる教育であると述べているのである。 その後、平成18年11月に公表された「小学校・中学校・高等学校キャリア教育推進の手引」 においては、キャリア教育は「児童生徒一人一人のキャリア発達を支援し、それぞれにふさわ しいキャリアを形成していくために必要な意欲・態度や能力を育てる教育」とされ、端的には、 「児童生徒一人一人の勤労観、職業観を育てる教育」であると定義された。 この中でキャリア教育において身につけさせる力として以下4点が例示されている。 (1)人間関係形成能力(他者の個性を尊重し、自己の個性を発揮しながら、様々な人々とコミュニケーションを図り、協力・共同してものごとに取り組む) (2)情報活用能力(学ぶこと・働くことの意義や役割及びその多様性を理解し、幅広く情報 を活用して、自己の進路や生き方の選択に生かす) (3)将来設計能力(夢や希望を持って将来の生き方や生活を考え、社会の現実を踏まえなが ら、前向きに自己の将来を設計する) (4)意志決定能力(自らの意志と責任でよりよい選択・決定を行うとともに、その過程での 課題や葛藤に積極的に取り組み克服する) しかしながら、前述の通り、キャリア教育を「児童生徒一人一人の勤労観、職業観を育てる 教育」であると定義したために、キャリア教育は職業教育であるという誤解を一部の教育関係 者に印象づけてしまったことは否めないであろう。また、将来設計能力(夢や希望を持って将 来の生き方や生活を考え、社会の現実を踏まえながら、前向きに自己の将来を設計する)とい う文脈から、キャリア教育とは「夢さがし、自分探し」であるという誤解もうまれてしまった。 こうした一部の誤った解釈、誤解を解くために平成23年の中教審答申「今後の学校における キャリア教育・職業教育の在り方について」が出されたのである。この中で「キャリア教育」と 「職業教育」は明確に区別され、キャリア教育とは「職業的、社会的自立にむけ必要となる能力 や態度を育成するもの」と述べられたのである。具体的には、答申の中でキャリア教育と職業 教育は以下の通り定義されたのである。 「キャリア教育」とは、「一人一人の社会的・職業的自立に向け、必要な基盤となる能力や態度 を育てることを通して、キャリア発達を促す教育」である。キャリア教育は、特定の活動や指導 方法に限定されるものではなく、様々な教育活動を通して実践されるものであり、一人一人の発 達や社会人・職業人としての自立を促す視点から、学校教育を構成していくための理念と方向性 を示すものである。 「職業教育」とは、「一定又は特定の職業に従事するために必要な知識、技能、能力や態度を育 てる教育」である。職業教育は、学校教育のみで完成するものではなく、生涯学習の観点を踏ま えた教育の在り方を考える必要がある。また、社会が大きく変化する時代においては、特定の専 門的な知識・技能の修得とともに、多様な職業に対応しうる、社会的・職業的自立に向けて必要 な基盤となる能力の育成も重要であり、この能力は、具体の職業に関する教育を通して育成して いくことが極めて有効である。
キャリア教育の必要性の再検討
それでは何故、キャリア教育の必要性が叫ばれるようになってきたのか。それは大きく分け て3つに分類されるのではないだろうか。 第一に社会・経済構造の変容に伴う雇用環境の変化、第二に大学・学校における教育の変化、 そして第三に学生・生徒の質の変化である。 (1)社会・経済構造の変容に伴う雇用環境の変化 グローバル化が進行する社会のもと、情報技術革命が加速的にそのスピードを増している。知識基盤社会の到来とともに、人材に求められる知識・技能のハードルが上がっているといえ よう。新しい職業分野の発生と古い産業の衰退は、企業にとって必要とされる知識・技能を有 していない人材をその雇用から無慈悲にふるい落としている。また、大規模な産業構造及び就 業構造の変化は、我が国の少子化・高齢化社会の進行と無関係ではない。 また、こうした状況は企業の雇用及び社内人材育成の計画にも影響を及ぼすであろう。すな わち、従来、人材教育は企業が行い大学にそれを求めていなかった採用側も、経済環境の悪化 によりその余裕を失い即戦力の採用を望むようになる。つまり、新人の教育システムが破綻す ることにより、採用人材に対するハードルが高まるのである。また、仮に企業側における人材 育成システムが機能していた場合でも、それらは正規従業員にたいしてのみ提供されるもので あり、非正規従業員である場合には、十分な職業能力開発を受ける機会から脱落してしまう恐 れがある。 (2)大学・学校における教育の変化 中学卒業後の高校進学率は98%まで高まり、高校卒業後の大学進学率も50%を超える状況 である3)。こうした環境のなかでは、学生や生徒の職業適性や希望は一層多様化してきており、 これに対応するべく学校の教育内容も弾力化され様々な試みがなされている。しかしながら、 例えば大学においては、学生のニーズに対応した職業に関する教育が十分に提供されているか どうかは疑問である。 また、大学生以下の生徒に関していえば、OECDの調査(PISA)から明らかなように、彼ら が将来就きたい職業のために学ぶという意識が、他国と比べて非常に少ないことが指摘されて いる。子供の生涯にわたる学びの支援を図るうえで、新しい学校制度や学校教育そのものの在 り方が問われているのである。 (出典) 国立教育政策研究所生徒指導研究センター「キャリア教育は生徒に何ができるのだろう?」 より 図1 OECD 生徒の学習到達度調査(PISA2006)
具体的には、PISA2006調査4)において、数学的リテラシーや科学的リテラシーについては他 の先進国と同程度の数値であるが、自信指標や興味指標、自らの将来との関係把握指数につい ては極端に低く、V字型の落ち込みを示しているのが明らかである。つまり、ここから見て取 れるのは、子供たちの学力の低下そのものではなくて、学習に対する意欲や自信の低下である。 すなわち、社会と学びとの関係性に気づき、教科そのものの学習意欲を高めることが大切なの であり、そこにキャリア教育の必要性と可能性が期待されているのである。 (3)児童・生徒・学生の質の変化 地域社会でのコミュニケーション希薄化が指摘されている。核家族化が進行し、両親より上 の世代とのコミュニケーション範囲が狭まるとともに、地域コミュニティーでの横のつながり が弱まっている。例えば小学校の時代から、地元以外の私立小学校に通うなど、従来あったコ ミュニティーでの交流機能が減ってきていることなども理由の一つかもしれない。また、子供 にとっては、異年齢間で遊ぶ機会が減ったことも影響が大きいだろう。こうした理由から、 脈々と受け継がれてきた伝統的な遊びや様々な体験の減少が指摘されている。ものごとに対す る体験や経験が減少・画一化されると、若者のキャリア発達にも影響があるのではないだろう か。
キャリア・コーディネーターの存在
このような社会状況の変化の中、キャリア教育の重要性は高まっているが、教育の現場では その導入が徹底されていないのが現状である。その理由は様々であるが、以下のようなものが 考えられる。 第一にキャリア教育におけるプロジェクトには、外部の企業や人材、場所など追加的な教育 資源の調達が必要なことがあり、この調整が難しい。つまり、学校と外部とのネットワークの 構築には、地域社会における各種リソースとネットワークの構築が必要となるが、この作業が 簡単ではない。教育や研究に多忙である教員にとっては、地域における各種資源である、産業 や技術、文化、キャリア教育を支援してくれる人材等について把握し、理解することは困難な ためである。 第二にキャリア教育は継続的に実施されるべきものであり、社会の動きに対応した効果的な プログラムを構築するためには、常に新しいキャリア教育プログラムや先進事例を考える必要 があるからである。しかし、勤務校に所属する教員にとっては、閉鎖的な学校間交流の壁から、 他校の先進的事例に接する機会は多くない。こうした課題を解決するための一助として、教員 を支援する専門家として「キャリア教育コーディネーター」の導入が始まっている。 キャリア教育コーディネーターは、経済産業省の「平成20年∼ 22年度キャリア教育民間コ ーディネーター育成・評価システム開発事業」によれば、次のような定義づけがなされている。 キャリア教育コーディネーターとは、地域社会が持つ教育資源と学校を結び付け、児童・生徒等の多 様な能力を活用する「場」を提供することを通じ、キャリア教育の支援を行うプロフェッショナルである。常に学校や児童・生徒等の現状を理解し、キャリア教育コーディネーターとして一定の知識・技 能習得後も自ら学び成長し続けていく努力を怠らず、我が国のキャリア教育の発展に努める。 すなわち、キャリア教育コーディネーターは地域社会と学校との仲介役の役割が期待されて いるのである。学校と地域の現状に目をくばり、学生や生徒と企業との実情に合わせて、効果 的なプログラムを継続して実施していくための仲介者なのである。 コーディネーターはキャリア教育プログラムを仲介していく上で、学校のニーズと地域社会 のニーズをよく把握することにより、学校や企業の理解を得ることができるであろう。その際 には教員に対して、実施するプログラムに関する同意を得ることが重要である。コーディネー ターはあくまでも学校と外部との仲介をする媒介者であり、キャリア教育プログラムの完了後 に学生らに接するのは教員であるからである。よって、教員の理解を得られていないプログラ ムは、効果は一過性のものであり、継続的かつ組織的にキャリア教育の効果は期待できないで あろう。 さらにコーディネーターは、実施計画を基に、外部講師や企業とのアポイントメントの設定 や、使用教材、利用場所などの調整が必要となる。プログラムが完結したら、その後処理とし て外部講師や企業等に結果の報告や挨拶、御礼等、事務的な処理の遂行までも要求されること になる。このようなキャリア教育コーディネーターの存在は、行政のレベルにおいてもその認 識度が高まっている。平成19年5月に開催されたキャリア教育等推進会議で策定された「キャ リア教育等推進プラン」の中では、以下の通り記述されている。 「各学校等のニーズに応じて地域の様々な資源の活用促進や、その発掘・協力取り付け等を 含めたコーディネートを行う学校外の企業やNPO等の民間主体等の組織・人材の育成、活用 を図る」 しかしながら、コーディネーターによる学校と企業間の仲介機能には限界があるだろう。仮 に学校のニーズと企業のニーズ、そしてそれを仲介する各種教育資源を把握し、学生や生徒に とって効果的な教育プログラムを提供できたとしても、プログラムの効果測定とプロジェクト 全般の管理運営については、さらに専門的な知識と技能が必要になると考えられるからであ る。つまり、効果の測定に関しては単に質問紙票を使ったアンケートを集計するという一般的 なものだけではなく、各種最適な統計手法を駆使し、経年比較が可能な資料を作成すべきであ り、このためには、こうした知識をもった専門家の利用が必要であろう。また、全学的に実施 するような教育プログラムにおいては、プロジェクト全体のマネジメントと運営を担える人材 が必要である。プロジェクトには多額の資金が投じられることも考えられ、この意味において、 事業のマネジメントを管理ができる外部人材の必要性があると考えられる。 こうした観点から、キャリア教育の実施においては、教員と外部講師だけでなく、各種資源 の調達と仲介を担うコーディネーター、そしてこれらを包括的に統括するアドミニストレータ ーの存在が必要であると提案したい。
キャリア教育アドミニストレーター(仮称)の提案
キャリア教育が組織的・継続的に実施されていくためには、プログラムの客観的な効果測定 が徹底されなければならない。これまでは、例えば、事後アンケートにおいて、学生や生徒か ら「楽しかった」「働くことの意味がわかった」「将来働くことが楽しみだ」等、職業に関する、 そのようなコメントが多ければ、効果があったと考えることができたかもしれない。また、「こ どもたちの目の色がかわった」「いつもと違う表情をしていた」等、主観的な印象から、それを 以て、プログラムの成否を論じていた場合も少なくないだろう。 キャリア教育アドミニストレーターは、想定していた学習効果が達成できたかどうかについ て、アンケート等を利用して質的調査と同時に定量的にも分析し、次回のプログラム開発に役 立てるようにすべきであろう。そのためには、プログラムの評価基準と評価項目を適切に設定 し、これに対応する最適な測定方法を用いなければならない。よってアドミニストレーターは、 コーディネーターからプログラムの目標と利用教育資源のヒアリングを十分に行い、同時に教 員や外部講師等とのコミュニケーションを疎かにしてはならない。 アドミニストレーターが、そのキャリア教育プログラムの効果測定をする際に利用する絶対 評価の指針として、「ルーブリック」を活用することが役立つと考えられる。これは、キャリア 教育コーディネーター協議会が、コーディネーターによる効果測定のために利用を提唱したも のであるが、筆者は、これをアドミニストレーターも利用すべきだと考えている。 ルーブリックとは、数段階に分けたレベルの目安を記述して、達成度を判断する基準である。 達成度の目安を数段階に分けるものであり、学習のパフォーマンス・レベルを判断する教育評 価法として近年用いられている。客観テストによる評価方法においては、理解度は評価できた としても、思考や判断に関する評価は不得手である。つまり、絶対評価が導入されるにしたが って主観的に評価されがちであった思考や判断といった描写を、客観的に評価する指針として 利用できるのである。 また、アドミニストレーターは可能であればポートフォーリオの利用を考えるべきである。 ポートフォーリオとは、高校や中学において、生徒の学習記録や活動詳細を記した、病院にお けるカルテのようなものであり、ここに生徒本人の特性が記述されている。それゆえ、このポ ートフォーリオが持つ情報の有用性は高いのだが、同時にそれが有するプライバシー性は非常 に高いため、利用には細心の注意が必要である。 教員がアドミニストレーターにこれの開示を許可するかどうかはケースバイケースであると 考えられるが、ポートフォーリオを取り込んだ分析と評価はキャリア教育の有効性測定に非常 に有用であるため、これの利用の可否を教員に尋ねることは大切である。 さらに、アドミニストレーターが必要であると考える理由の一つとして、プロジェクト・マ ネジメントの思想の有用性がある。プロジェクト・マネジメントとは、総務省が主催する地方 公共団体向けの自治体CIO(Chief Information Officer:情報統括役員)育成研修テキストにお ける定義に基づけば、「プロジェクトの制約条件であるコスト、資源、時間のバランスを常に考慮してプロジェクトを遂行し、期待したアウトプットを得ること」である。キャリア教育のマ ネジメントとは、プログラムの計画から実施、効果測定と評価、報告書の提出と経費支出の報 告顛末へと至る一連の連鎖そのものである。 プロジェクトを成功させるためには、期限内、予算内、限りある教育資源を利用し、関係者 の期待予測を上回る効果を収めることが望まれており、これを達成するためには、プロジェク ト・マネジメントの管理手法を熟知し、プロジェクトを大局的に俯瞰するアドミニストレータ ーの手腕が必要であると考える。 また、アドミニストレーターはプロジェクトの阻害要因を管理することも重要である。キャ リア教育プロジェクトを進めるにつれ、教育目標を達成するまでには、さまざまな阻害要因が 発生する。具体的には、時間、コスト、品質、組織、コミュニケーション等においてプロジェ クトの進行を妨げる要因が発生したときに、これらを取り除き目標へと導くことがキャリア教 育アドミニストレーターに求められよう。 プロジェクトの統括にかかわる管理運営事務は、日常的な教務に追われる教員や、外部教育 資源と学校との仲介をその任とするコーディネーターにとっては難しい分野である。よって、 キャリア教育の効果的な実施に関して、教員やコーディネーターとはその役割を異にする新た な関係者として、アドミニストレーターの導入を提言したいのである。 本稿においてはアドミニストレーターの育成、導入方法については分析することができてい ないが、これは筆者の今後の重要な検討課題としたい。その際にはキャリア教育とは分野を異 にするが、現在、文部科学省が導入を始めている産学連携活動の専門家である「リサーチ・ア ドミニストレーター」の制度を参考として検討したいと考えている。
おわりに
大学や高校にとって、卒業者がどのような就職をしたのかは非常に重要なことである。就職 に関する指標にも様々なものがあるが、これらを引き上げることは、学校にとっては経営的に も死活問題である。よって、就職率が低迷する原因を考え、これの解決策を考えることは当然 のことである。 近年、就職指標が過去最低水準を記録する一つの原因として取り上げられることの多いの が、学生の職業観や勤労観の未熟性にある、というものである。本稿は、これが本当に根拠の あるものなのかどうかについて論じるものではないが、キャリア教育の導入はこうした学生の 職業観や勤労観の涵養に大いに役立つであろう。そして、キャリア教育が効果的であるために は、実践的な体験学習である職場経験が有用である。そこで、本稿ではキャリア教育のスムー ズな導入を図るコーディネーターに加え、新たにプロジェクトを包括的に管理運営する立場で あるキャリア教育アドミニストレーターの設置と運用を提案した。 しかしここで、平成23年の中央教育審議会答申「今後の学校におけるキャリア教育・職業教 育の在り方について」が次のように記述している点を指摘しておきたい。 答申は、学生が学校から社会・職業への移行が円滑に行われない状況にある原因や背景として、「学校教育の抱える問題にとどまらず、社会全体を通じた構造的な問題があることが指摘 されている。したがって、この問題は、単に個々の子どもや若者の責任にのみ帰結させるべき ものではなく、社会を構成する各界が互いに役割を認識し、一体となってあたっていかなけれ ばならない」と述べている。 就職率が低迷する今日の状況は、学校教育が抱える問題にとどまらず、社会全体を通じた構 造的な問題、すなわち産業構造の変化や少子高齢化、経済のグローバル化、就業構造変化等、 複合的な要因によってもたらされたものであることを指摘しているのである。 それゆえ、我々学校関係者はキャリア教育に大きな期待を持ち、実行に移すにしても、それ はあくまでも大きな課題の部分的解決を目指すものであるという謙虚な気持ちを持つ必要があ るのではないだろうか。中央教育審議会によるこうした指摘は決して看過されるべきではない だろう。
注
1)文部科学省・厚生労働省調査 調査校は、大学62校、短大20校、高専10校、専修学校20校の計112 校である。 なお、就職率とは、就職希望者に対する現時点での就職者の割合である。 ( )内は前年度 同期調査からの増減値である。 2)調査の概要は次のとおりである。 1. 卒業者数は、表章された内訳のほか、臨床研修医(予定者含む)(平成24年度8,893人)を含めた合 計。 2.「就職者」とは給料、賃金、報酬、その他の経常的な収入を得る仕事(自家・自営業を含む)に就 いた者をいう。なお、就職者には、「大学院等への進学者のうち就職している者」を含む。 3. 就職者のうち、「正規の職員等でない者」とは、雇用の期間が1年以上で期間の定めのある者で、か つ1週間の所定労働時間が30 ∼ 40時間の者をいう。 3)高校進学率についてはhttp://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/a fieldfile/2011/09/27/1299178_01.pdf 大学進学率については http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/gijiroku/03090201/003/002.pdf に詳しい。 4)読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシーの3分野について調査。各調査サイクルでは調査時 間の3分の2を費やす中心分野を重点的に調べ、他の2つの分野については概括的な状況を調べている。 2006年調査には、57か国・地域(OECD加盟30か国、非加盟27か国・地域)から約40万人の15歳児 が参加。引用(参考)文献
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