仙台市立病院産婦人科 *同 病理診断科
は じ め に
卵巣原発カルチノイドは,全カルチノイドの約
0.5∼1.7% と言われ
1),また卵巣腫瘍全体の 0.1%
以下
2,3)と,非常に稀な疾患である.本邦では,
その中でも卵巣甲状腺腫性カルチノイドが約 80%
を占めている.今回われわれは,卵巣甲状腺腫性
カルチノイドの 1 例を経験したので,考察を含め
報告する.
症 例
患者 : 30 歳,女性.1 妊 0 産.
主訴 : 無月経.
家族歴 : 特記すべき事項なし.
既往歴 : 摂食障害,アルコール依存症.
現病歴 : 約 10 年間の無月経を主訴に,平成 22
年 3 月近医受診.その際,経腟超音波にて子宮筋
腫または卵巣腫瘍を指摘され,精査・治療目的に
当院婦人科を紹介受診.
身体所見 : 160 cm,46 kg.
検査所見 : CEA 3.4 ng/ml,CA19
-9 18 U/ml,
CA125 12 U/ml
と腫瘍マーカーはすべて正常範囲
内であった.
MRI 所見 : 骨盤内に境界明瞭な約 7 cm の腫瘍
を認めた.T2 強調画像では,低信号で一部高信
号の部分が散在,また T1 強調画像では低信号で
あり,変性を伴う子宮筋腫を疑った.一部 T1 強
調画像,T2 強調画像ともに高信号の部分があり,
脂肪抑制画像にて信号が抑制されており,右卵巣
腫瘍(dermoid cyst)と考えられた.矢状断では,
骨盤内腫瘍と子宮に連続性があるように見え,や
はり漿膜下筋腫と右卵巣腫瘍の合併であると考え
られた(図 1).
経腟超音波所見 : 右卵巣実質様の像があり,こ
の所見からも漿膜下筋腫と考えた.
診断 : 漿膜下筋腫+右卵巣腫瘍の疑い.
腹腔鏡下子宮筋腫核出術+右卵巣腫瘍核出術の
方針となった.
手術方法 : 全身麻酔下に,腹腔鏡手術を施行.
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ポート留置し,手術操作を行った.
手術所見 : 漿膜下筋腫と考えられていた腫瘍
は,卵巣由来であった.周囲との癒着は認めず,
表面平滑な約 8 cm の充実性卵巣腫瘍であった(図
2
).そのため,卵巣腫瘍核出から右付属器切除
の方針へと変更.腹水洗浄細胞診を採取.切除し
た付属器を,回収袋を用いて,腫瘍を腹腔内へ漏
らさないように注意し,モルセレーターにて腹腔
外へ回収した.
肉眼所見腫瘍割面は黄白色充実性を示してお
り,また一部に脂肪成分を伴っていた(図 3).
病理所見 : HE 染色では,索状・リボン状に並
んだ腫瘍細胞を認める(図 4,図 5).また,一
部に甲状腺濾胞細胞と,内部にコロイドを認め,
甲状腺組織が確認された(図 6).扁平上皮と呼
吸上皮組織も認め,この部分が dermoid cyst であ
る(図 7).免疫染色では,クロモグラニン A は
陰性(図 8)であるが,CD56 という神経内分泌マー
カーが弱陽性を示しており,神経内分泌細胞由来
であることがわかった(図 9).他臓器のカルチ
ノイド腫瘍でも陽性になることが多い前立腺フォ
スファターゼ(PAP)は強陽性(図 10)であった.
ペプチド YY も弱陽性(図 11)を示していた.(ペ
図 1. MRI 画像 A : T2強調画像矢状断 B : T2 強調画像横 断 C : T1 強調画像横断 D : 脂肪抑制画像 矢印部分は T1 強調像・T2 強調像ともに高 信号で脂肪抑制を認め,dermoid cyst と考え られた. 図 2. 手術所見 a : 表面平滑な,約 8 cm の卵巣由来の腫瘍で あった. b : 回収袋にて,腫瘍内容を漏らさないよう に腫瘍を摘出.充実性卵巣腫瘍であった.割 面は黄白色で,一部脂肪成分を含んでいた. 図 3. 手術標本 モルセレーターにて回収し,ホルマリン固定 後の標本.
図 4. HE 染色弱拡大 図 5. HE 染色中等度拡大 索状・リボン状に配列した腫瘍細胞を認める. 図 6. HE 染色 甲状腺濾胞様構造と,その内部にコロイドを 認める. 甲状腺組織が確認される. 図 7. HE 染色 扁平上皮と呼吸上皮を認める.dermoid cyst の部分. 図 8. クロモグラニン A は陰性であった. 図 9. CD56 は弱陽性を示しており,神経内分泌細 胞由来であることが確認された.
粘液性の 4 種類に分類される
5).本邦で最も多い
のは甲状腺腫性カルチノイドであり,80% 以上
を占める.索状,甲状腺腫性はペプチド YY を産
生することが多く,島状はセロトニンを産生する
(表 1).
好発年齢は閉経後
1)であり,平均年齢は 49.4
歳
2)との報告がある.
症状は大きくわけて 2 つあり,① 古典的カル
チノイド症候群と ② 新カルチノイド症候群であ
る
6).① 古典的カルチノイド症候群は,腫瘍細
胞の産生するセロトニン作用により引き起こされ
る,水様性下痢,腹痛・腹鳴,皮膚紅潮の症状で
ある.② 新カルチノイド症候群は,腫瘍細胞の
産生するペプチド YY の作用によって引き起こさ
れる.ペプチド YY は腸管運動を抑制するため,
強固な便秘の症状を呈する
7,8).
卵巣原発カルチノイド腫瘍の約 60∼76% に成
熟嚢胞性奇形腫を合併し
9,10),約 10% に粘液性腫
瘍を合併する
11).
すべてのタイプにおいて,MRI 画像には典型
的な所見はないが,線維性組織が多い場合には,
T2
強調像で低信号を示し,神経内分泌顆粒は T1
強調像で高信号を示す場合がある.本症例でも画
像所見からは,子宮筋腫を疑った.採血上も特異
的な腫瘍マーカーはないため,術前診断は非常に
困難である.
治療は基本的に外科的切除であり,化学療法の
有効性についてはまだまだ不明な部分が多い.
予後は基本的には良好であり,卵巣原発カルチ
ノイド腫瘍の約 91% が I 期(がんが卵巣に限局
している状態)で,I 期の 5 年ないし 10 年生存
率は,ほぼ 100% と言われている.しかし,転移
や浸潤を認める場合には,予後は極端に悪くなる
プチド YY は消化管の運動を抑制する働きがあり,
強固な便秘を引き起こす.)
以上の結果より,皮様嚢腫を合併する卵巣甲状
腺腫性カルチノイドの診断となった.
考 察
カルチノイド腫瘍の概念は,低悪性度の内分泌
細胞腫瘍とされる.約 70% が消化器系に発症
4)し,
卵巣原発カルチノイドは,約 0.5∼1.7%
1)とされ
る.卵巣腫瘍全体における卵巣原発カルチノイド
の割合は 0.1% 以下
2,3)と,非常に稀な腫瘍である.
卵巣原発カルチノイドは,境界悪性腫瘍に分類
され,その中でも胚細胞腫瘍の単胚葉性および高
度限定型奇形腫に分類される
5).また,卵巣原発
カルチノイドはさらに,島状,索状,甲状腺腫性,
図 10. PAP(前立腺酸性フォスファターゼ)強陽性. 図 11. peptide YY 弱陽性. 頻度 稀 稀 (2 番目に多い)80%以上 極めて稀 症状 古典的カルチ ノイド症候群 新カルチノイド症候群 特徴的な症状なしと言われる
3).カルチノイド 17 例についてまとめ
た文献(表 2)を示す.III 期や IV 期などの進行
例では,死亡例もあることがわかる.また,術後
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年経過したのちの再発,死亡例もあり,慎重
なフォローが必要であると考えられる.
結 語
我々は,卵巣甲状腺腫性カルチノイドの 1 例を
経験した.
今後カルチノイドの腫瘍随伴症候群(便秘など)
を伴う卵巣腫瘍を認めた際には,本疾患を考慮す
る必要があると考えられた.
また,再発例や死亡例の報告もあり,今後慎重
なフォローが必要である.
文 献
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10) Talerman A et al : Primary trabecularcarcinoid of the ovary. Obstet Gynecol 49 : 202-207, 1977
11) Robboy SJ : Insular carcinoid of ovary associated with malignantmucinous tumors. Cancer 54 : 2273-2276,
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6 52 No TAH+BSO L Strumal No I 12 NED
7 22 No Cystectomy R Strumal Yes I 5 NED
8 58 Yes TAH+BSO L Insular Yes I 16 DOC
9 72 No TAH+BSO L Insular No I 4 NED
10 54 No TAH+BSO L Trabecular No I 20 NED
11 70 Yes TAH+BSO R Trabecular Yes I 21 NED
12 83 No USO R Insular No III 0.1 DOC
13 72 No TAH+BSO R Insular No III 7.4 DOC
14 33 No TAH+BSO R Insular No III 1.2 AWD
15 61 No TAH+BSO R Insular Yes IV 1.5 DOD
16 41 Yes TAH+BSO R Insular No IV 1.5 DOD
17 56 Yes BSO R Insular No IV 0.5 AWD
TAH, total abdominal hysterectomy ; BSO, bilateral salpingo-oophorectomy ; USO, unilateral salpingo
-oophorectomy ; NED, no evidence of disease ; AWD, alive with disease ; DOC, died other cause ; DOD, died of disease