不安障害の遺伝研究
音羽健司
東京大学大学院医学系研究科精神医学分野 要約 本稿では,主な不安障害の遺伝研究の現状について概観した。家族研究や双生児研究から,不安障害 には遺伝要因が推定されており,その相対危険度は4∼6倍,遺伝率は30∼50%と報告されている。 双生児研究からは,各不安障害にはそれぞれ独自の遺伝要因が影響しているだけでなく,ほかの不安 障害や不安関連特性(うつ病や不安パーソナリティ)と共有する遺伝要因が関与することが示唆され た。不安障害の連鎖解析や関連解析では確立した候補遺伝部位はいまだに見いだされていないもの の,近年ではサンプル規模を増やした全ゲノム関連解析によって有意な部位が報告されてきている。 さらに,マウスなどの動物モデルを用いた橋渡し研究がヒトの不安障害の遺伝子探索に応用されてい る。今後は,環境要因を考慮に入れた遺伝・環境交互作用や遺伝子のメチル化などの解析も重要性を 増すであろう。 キーワード:不安障害,遺伝疫学,分子遺伝,動物モデル 【はじめに】 不安や恐怖は脅威を感じるような状況で生 じる通常の情動である。不安障害では,こう した反応が過剰かつ長期間持続するために日 常生活に支障をきたす。主な不安障害として は,パニック障害(panic disorder; PD),広場 恐怖(agoraphobia; AG),強迫性障害( obsessive-compulsive disorder; OCD),外傷後ストレス 障害 (post-traumatic stress disorder; PTSD), 社交不安障害(social anxiety disorder; SAD), 特 定 の 恐 怖 症(specific phobia; SP),全 般 性 不安障害(generalized anxiety disorder; GAD)などがあり,平成18年度のわが国のこころの 健康についての疫学調査では,何らかの不安障 害の生涯有病率は9.2%と報告されている(川 上,2006)。DSMに代表されるように精神疾患 の診断は,患者・家族からの訴えや医療者の観 察に基づいて行われるため,背景にある遺伝的 要因が同じであっても別の診断に分類される可 能性がある。たとえば,不安症状は不安障害以 外にもうつ病をはじめ多くの精神疾患でも認め られている。そのため,不安障害の遺伝要因を 解明する場合には診断分類に基づく個別の不安 障害だけでなく,不安障害の中間表現型となる neuroticismなどの不安関連パーソナリティを 研究の対象とすることが望まれる。本稿では, 不安障害の遺伝研究について,3つの視点,つ まり(1)遺伝疫学研究,(2)分子遺伝研究,(3) 動物研究を概観し,今後の研究の展望について 述べる。 【遺伝疫学研究】 1.家族研究と双生児研究 不安障害に遺伝要因が関与していることを確 かめる手法として家族研究と双生児研究があ る。不安障害を抱えた患者の第一度親族(親や 子供,きょうだいなど)での同じ障害の罹患率 を,障害のない健常群の第一度親族内の罹患率 と 比 較 す る。そ の 罹 患 比 率 を 相 対 危 険 度 (relative risk; RR,またはλR)という。さらに, 遺伝要因と環境要因がそれぞれどの程度疾 〈総 説〉
患に影響するかを調べる方法として双生児 研 究 が あ る。双 生 児 研 究 で は,一 卵 性 双 生 児(monozygotic twin; MZ)と 二 卵 性 双 生 児 (dizygotic twin; DZ)の疾患の罹患一致率の差 を比較する手法が用いられている。MZ間では 100%同じ遺伝配列なのに対して,DZ間では 平均すると50%の遺伝配列が共通である。MZ とDZでは環境要因が同じ(それぞれの双生児 が育った環境は同じ)と仮定すると,MZと DZとの罹患一致率の相違はMZとDZの遺伝 の差,つまり50%の遺伝要因の差となる。こ の双生児研究によって,(疾患などの)ある表 現型の遺伝要因,共有環境要因(同じ環境で 育った要因),非共有環境要因(個別の環境要 因)の影響の割合をそれぞれ算出することがで きる。このうち遺伝要因の割合を遺伝率とい う。共有環境には,親との離別,貧困,親の養 育態度(拒絶的あるいは過干渉など)など,双 生児が共通して受ける環境があり,非共有環境 としては,ストレス,喫煙・飲酒・薬物の使用, ライフイベントなど,個人が受ける体験がある。 各不安障害の家族研究,双生児研究について 述べる。PDでは,19の家族研究データをまと めた結果から,相対危険度は3∼17倍であった (Schumacher et al., 2011)。そ の う ち,5つ の データでメタ解析を行った結果,相対危険度は 5倍であった。これまでに1,000例以上を対象 に行われた主な双生児研究には,ベトナム双生 児研究とバージニア双生児研究がある。ベトナ ム双生児研究は,ベトナム戦争(1960∼1975 年)に志願したアメリカ人兵士のうち,協力の 得られた約4,700組の男性 – 男性双生児を対象 と し て い る(Chantarujikapong et al., 2001)。 バージニア双生児研究は,米国バージニア州で 1933∼1974年の間に出生登録された全双生児 約9,000人を対象としている(Hettema et al., 2001)。いずれの双生児研究の結果からもPD の遺伝率は30∼40%と報告されている。 GADでは,上記で述べたメタ解析に含まれ た2つの家族研究の結果から相対危険度は6倍 であった。さらに上記2つの双生児研究では GADの基準項目を緩めた症状(6カ月間の症 状持続期間を1カ月以上とするなど)を対象と して解析を行い,遺伝率を32%と報告してい る(Hettema et al., 2001)。 恐 怖 症 の 家 族 研 究 で は,Fyer et al. (1990) がSP, SAD, AGそれぞれの相対危険度を約3倍 と報告している。他の家族研究でも,同様の報 告がなされている(Noyes et al., 1986)。恐怖 症の家族研究のメタ解析の結果からは第一度親 族の相対リスクは約4倍であった(Hettema et al., 2001)。バ ー ジ ニ ア 双 生 児 研 究 で はAG, SAD, SPを含めた恐怖症の遺伝率は30∼60% 程度と推定されている(Hettema et al., 2001)。 ほかにも,1,400名のノルウェー人女性の双生 児を対象に行った研究では同様の遺伝率が報告 されている(Czajkowski et al., 2011)。
OCDに つ い て は,Nestadt et al. (2010)の
総説によると,15の家族研究から家族集積性 が確認されており,そのうちの5つの研究のメ タ解析からは,OCDをもつ第一度親族の相対 危険度は4倍であった。OCDの発症率が低い ことや症状評価が困難であることから,双生児 を対象に行った研究は,疾患そのものではな く,広義の強迫症状あるいは強迫パーソナリ ティを対象としたものがほとんどである(van Grootheest et al., 2005)。イギリス人双生児419 組を対象にレイトン強迫性検査を用いて強迫症 状と強迫パーソナリティを調べた報告では,遺 伝率が強迫症状で47%,強迫パーソナリティ では44%であった(Clifford et al., 1984)。バー ジニア女性双生児527組を対象に自記式強迫症 状尺度(Padua Inventory)を用いた解析から は,強迫観念が33%,強迫症状が26%の遺伝 率と報告されている(Hettema et al., 2001)。 PTSDについては,ほかの不安障害と比して 家族研究の報告は少ない。これはPTSDの診断 には外傷体験が必須であるため,同じ外傷体験 を受けてPTSDを発症しなかった非罹患者の親 族を対照群として探すことが容易ではないため
である。ただし数少ない報告ではあるものの, 家族研究からはPTSD罹患者の家族における相 対危険度が非罹患者の家族よりも高いことが知 られている。たとえば,カンボジア難民の子供 209人を対象とした研究では,両親のいずれも がPTSDであった子供は,両親ともにPTSDで なかった子供と比較してPTSDの診断を受ける 割合が5倍高かった(Sack et al., 1995)。また, ベトナム双生児研究の結果からはPTSDの遺伝 率は約30%と報告された(True et al., 1993)。 戦争以外の外傷体験では,男女双生児400組を 対象とした研究から遺伝率は40%と推定され ている(Stein et al., 2002)。 2.不安障害や不安関連パーソナリティの共通 遺伝要因 不安障害を対象に行われた家族研究では,通 常は一つの不安障害の家族集積性に着目するこ とが多い。しかし,双生児研究では,不安障害 どうし,あるいは他の併存しやすいうつ病など との共通要因についても解析されている。たと えば,スウェーデンの双生児約37,000人を対 象に構造方程式モデリングを用い,うつ病と GADそれぞれに影響を与える遺伝要因を潜在 変数として推定したところ,うつ病とGADの 間 の 相 関 係 数 が 女 性 で は+1.00,男 性 で は +0.74と高く,うつ病とGADに共通の遺伝要 因 が あ る こ と が 示 唆 さ れ た(Kendler et al., 2006)。同様にバージニア双生児5,000人以上
を用いて不安障害どうし(PD, GAD, AG, SAD,
SP)の関連を調べた報告では,各不安障害に よる因子に加えて 2つの潜在変数を想定したと ころ,不安障害に共通する遺伝要因が発症に関 与していることが示唆された(Hettema et al., 2005)。1つ目の遺伝要因(A1)は主にGAD, PD, AGに,2つ目の遺伝要因(A2)は主にSP に関与しており,SADは両方の要因の影響を 受 け て い た(Figure 1)。前 項 で 述 べ た ノ ル ウェー人双生児2,800人を対象とした同様の解 析では,不安障害(GAD, PD, SP, OCD, PTSD) に共通する1つの潜在変数によって54%の遺伝 要因の説明ができることが示唆された(Tambs et al., 2009)。23の 双 生 児 研 究 を 系 統 的 に レ ヴューした報告でも,子供と大人,また不安障 害とうつ病に共通する遺伝要因の存在が報告さ れている(Middeldorp et al., 2005)。 これまでに不安関連パーソナリティと不安障 害には遺伝的に関連がみられることが報告され てきた。上記のバージニア双生児データを用い て,パーソナリティとうつ病や不安障害の関係 を調べた報告では,神経質(neuroticism)の 高さや外交性(extraversion)の低さがうつ病 や 不 安 障 害 と 関 連 す る こ と が 示 唆 さ れ た (Bienvenu et al., 2001; Hettema et al., 2006;
Bienvenu et al., 2007)。 【分子遺伝研究】 1.連鎖解析と関連解析 関連する遺伝部位を調べる方法としては連鎖 解析と関連解析がある。連鎖解析は,2名以上 Figure 1 双生児を用いた構造方程式モデリングによる不安障害どうしの遺伝的重複 注:GAD:全般性不安障害,PD:パニック障害,AG:広場恐怖,SAD:社交不安障害,SP:特定の恐怖症。 A1とA2は複数の不安障害に共通する遺伝要因(潜在変数)。A1は主にGAD, PD, AGに,A2はSPに関与して いる。SADはA1とA2の両方から影響を受けている。Hettema et al. (2005)を基に改訂。
の罹患同胞を含む家系サンプルを対象に,全ゲ
ノムに配したDNAマーカーを用いて,疾患に
罹患した家族間で共有する遺伝部位を絞り込む 手法である。有意な結果を得るには,ロッド値 (logarithm of odds; LOD)を計算し,連鎖がな いと仮定したときに連鎖があるとする確率が 1,000倍以上(ロッド値が3以上)の時に有意 な連鎖があるとする。この手法はハンチントン 舞踏病といったメンデル型遺伝病など,単一の 遺伝子が疾患の発症に強い効果をもつ場合の遺 伝子座位を見いだすのに力を発揮する。一方 で,不安障害を含む精神疾患は複雑疾患といわ れ,多数の効果の弱い遺伝部位と環境要因が組 み合わさって疾患発症に至るため,連鎖解析の 手法は十分とはいえない。 これまでに不安障害や不安関連パーソナリ ティ(neuroticismなど)の連鎖解析が行われ てきたが,一致した部位は見いだされていない (Smoller & Faraone, 2008; Hovatta & Barlow,
2008)。不安障害の中で最も研究されているの はPDで あ る が,1q, 2q, 4q, 7p, 9q, 11p, 12q, 13q, 15q, 22q(最大ロッド値2.0から4.2)での 連鎖の報告があるものの,別の研究では同じ部 位が再現されることはあまりなく,明らかな部 位は見いだされていない(Maron et al., 2010)。 OCDで は,9qに 連 鎖 が 示 唆 さ れ て い る が (ロッド値2.2),全ゲノムレベルで有意な部位 は報告されていない(Nestadt et al., 2010)。SP では9q(ロッド値4.2)(Gelernter et al., 2003) に,SADで は16q(ロ ッ ド 値3.7)(Gelernter et al., 2004)に連鎖が報告されているのみであ る。 不安関連パーソナリティの中で最も調べられ ているものとしてneuroticismがある。8つの neuroticismの連鎖解析データをメタ解析した 報告(約14,000人の一般人口を対象)では, 染色体9, 11, 12, 14番に連鎖を認めた(Webb et al., 2012)。同じ報告で,不安障害を対象に解 析を行ったところ,染色体1, 5, 15, 16番に連鎖 を示唆する結果が得られた。さらに,不安障害 とneuroticismの連鎖部位には有意な相関が認 め ら れ た。特 に1番 染 色 体 で は 不 安 障 害 と neuroticism両方で有意な部位がみられ,その 部位には不安脆弱性に関係する遺伝子が存在す ることが示唆された。 連鎖解析で疾患の遺伝に関係する染色体部位 が絞り込まれると,次に,その領域に含まれる 遺伝子のどれが疾患に関連するのかを調べる必 要がある。これには,候補遺伝子の部位に存在 する,一般人口の1%以上に存在する多型部位
(一塩基多型,single nucleotide polymorphism;
SNP)について,その頻度差を患者群と健常群 で比較するcase-control関連解析が主流となっ ている。ある遺伝子型のほかの遺伝子型と比較 した発症リスクの大きさをオッズ比(odds ratio; OR)で表す。これまでの不安障害の遺 伝子解析では,不安に関連する神経伝達系やス トレス反応系の候補遺伝子を対象とした関連解 析が行われてきた。たとえば,PDでは,セロ トニン受容体関連遺伝子,
catechol-O-methyl-transferase (COMT), cholecystokinin (CCK),
CCK-B, adenosine A2 receptor (ADORA2A),
monoamine oxidase A (MAO-A)などで関連の
報告がされているが,再現されなかったとす る報告もあり一定しない(Maron et al., 2010)。 これは,解析の対象規模が小さく(患者群で最 大200人規模),解析される候補遺伝部位もモ ノアミン系関連遺伝子などを中心とした少数の 多型を検討しているだけであることも理由であ る。ほかの不安障害や不安関連パーソナリティ の関連解析についても同様の問題があり,確 定 的 な 遺 伝 子 は 見 い だ さ れ て い な い が,再 現されたものとしては,regulator of G-protein signaling (RGS2)や,glutamic acid decarboxyl-ase 1 (GAD1), dopamine transporter (DAT1),
brain-derived neurotrophic factor (BDNF)な ど がある(Table 1)。
2.全ゲノム関連解析(genome-wide associ-ation study; GWAS)
2007年頃から精神疾患の遺伝研究において も,マイクロアレイチップの出現により一度に 多数のSNPマーカーを用いたGWASが報告さ れるようになり,現在では用いられるSNPマー カー数も50∼100万が主流となっている。 最初の不安関連パーソナリティのGWASとし ては,neuroticismについて一般人口2,000人を 対象に45万SNP部位を調べた研究があり,そ の結果,phosphodiesterase 4D (PDE4D)が統計 的に有意な部位(GWASと4つのreplicationを 合わせた結果;p=0.012, OR=1.13)として見 いだされた(Shifman et al., 2008)。しかし,1% 以上の遺伝要因を説明できる部位はなく,小さ な効果をもつ多数の部位がneuroticismに影 響 し て い る こ と が 示 唆 さ れ た。2番 目 の neuroticismのGWASは2,000人の米国白人と 1,900人のドイツ人を対象に行われた(van den Oord et al., 2008)。その結果,14番染色体上の MAM domain containing protein 1 (MAMDC1)
に有意な関連が示唆された(p=2.0×10−7)。 パ ー ソ ナ リ テ ィ に つ い て のGWASの メ タ 解析(17,000名を対象)の結果では,開放性 (openness, 5q14.3に 位 置 す るRASA1遺 伝 子, p=2.8×10−8)と勤勉性(conscientiousness, 18q21.1に位置するKATNAL2遺伝子,p=4.9× 10−8)に全ゲノムレベルで有意な部位が見いだ されたが,neuroticismとextraversionでは有意 な 部 位 は 見 い だ せ な か っ た(de Moor et al., 2012)。 PDのGWASに関しては,筆者らの研究グ ル ー プ が 日 本 人PD患 者200名 を 対 象 に500 万SNP部位を調べ,7つの部位で全ゲノムレ ベ ル で 有 意 な 部 位 を 見 い だ し た(p<1.0× 10−6)(Otowa et al., 2009)が,再現解析では 有意な部位は確認できなかった(Otowa et al., 2010)。そ れ に 続 い て,ド イ ツ のErhardt et al.(2011)がPDを主に含んだ不安障害患者約 200名 を 対 象 にGWASを 行 っ た。そ の 結 果, 12q24.3に位置するtransmembrane protein 132D (TMEM132D)の2つの SNPs (rs7309727 と rs11060369,GWASとreplicationを合わせたp 値はそれぞれp=1.4×10−6と7.6×10−6,いず れもOR=1.4)とPDとの関連が示唆された。 この多型部位はヒトの前頭葉のTMEM132Dの Table 1 2つ以上の関連研究で有意な結果が得られた不安障害の候補遺伝子 遺伝子 染色体座位 不安障害 機能 RGS2 1q31.2 PD, PTSD Gタンパク質シグナルの調節
GAD1 2q31.1 GAD, PD, SAD, AG GABAの生成
SLC1A1 9p24.2 OCD グルタミン酸伝達 BDNF 11p14.1 OCD 神経形成因子 CCKBR 11p15.4 PD 神経ペプチドの伝達 DRD4 11p15.5 OCD, PD ドパミン神経伝達 HTR2A 13q14.2 OCD, PD セロトニン神経伝達 5HTTLPR 17q11.2 OCD, PTSD セロトニン再取り込み調節 COMT 22q11.2 PD カテコラミンの分解 ADORA2A 22q11.2 PD アデノシンの調節
注:PD, パニック障害;PTSD, 外傷後ストレス障害;OCD, 強迫性障害;GAD, 全般性不安障害;SAD, 社交不 安障害,RGS2, regulator of G-protein signaling 2; GAD1, glutamic acid decarboxylase 1; SLC1A1, glutamate trans-porter; BDNF, brain-derived neurotrophic factor; CCKBR, cholecystokinin B receptor; DRD4, dopamine receptor D4; HTR2A, 5-hydroxytryptamine receptor 2A; 5HTTLPR, serotonin transporter; COMT, catechol-O-methyltransferase; ADORA2A, adenosine A2 receptor; GABA, gamma-aminobutyric acid, Hovatta & Barlow (2008)を基に改訂。
発現に関連し,不安の強い動物モデルでも前帯 状皮質のTMEM132Dの遺伝子発現と有意な関 連がみられた。これまでに報告された不安障害 や不安関連パーソナリティのGWASで上位に 位置する遺伝子の中には,従来の候補遺伝子部 位(セロトニン遺伝子など)は含まれていない。 その理由としては,サンプル規模が少ないため に検出力が弱く,真の遺伝部位を見逃している 可能性が考えられる。 そこで,筆者らはサンプル規模を増やした日 本 人PDのGWAS(患 者 約500名,対 照 群 約 1,500名,90万SNPs)を新たに行い,先述し た200名ずつの疾患・対照群を用いたGWAS のデータと合わせて2つの日本人PDのGWAS の メ タ 解 析 を 行 っ た(Otowa et al., 2012)。 その結果,全ゲノムレベルで有意な部位は見い だせなかったものの,最も有意な部位として 14q32に 位 置 す る bradykinin receptor B2 (BDKRB2)(p=1.3×10–5, OR=1.3)を見いだし た。BDKRB2はブラジキニンの受容体であり, 痛みや血圧の調整,神経細胞の分化に関与して いる。PDには心血管疾患との合併が多くみら れることからも興味深い遺伝子である。 サンプル規模の拡大という点で,近年,不安 障害の遺伝子解析では国際的な多施設共同研究 が盛んに行われている。たとえば,OCDでは,
The International OCD Foundation Genetics Collaborative (IOCDF-GC)が 結 成 さ れ,約 1,500名のOCD患者と400のOCD家系(患者 と家族を含んだトリオ)サンプル,5,600名の 健常対照者を用いて,500万SNP部位を調べた 報告がなされた(Stewart et al., 2013)。その結 果,各GWAS段階では脳の神経結合部に発現
す るDisks large-associated protein 1 (DLGAP1) に最も有意な関連(p=2.5×10−6)が認められ, 家 系 サ ン プ ル で はBTB domain containing 3 (BTBD3)が全ゲノムレベルで有意であった (p=3.8×10−8)。しかし,全サンプルを用いた メタ解析からは有意な結果が得られなかった。 PTSDで は,Logue et al. (2013)が,約300名 の 患 者 群 と200名 の 対 照 群 を 用 い て1,200 万SNP部 位 を 調 べ,retinoid-related orphan
receptor alpha (RORA)が全ゲノムレベルで有
意(p=4.2×10−8)であったと報告している。 さらに,Yale大学のGelernterの研究グループ は,約2,800人のアフリカ系アメリカ人(450 名 のPTSD患 者 を 含 む)と 約1,600人 の ヨ ー ロッパ系アメリカ人(300名のPTSD患者を含 む)を対象に870万SNP部位を調べたところ, 4番染色体上のTolloid-Like 1 (TLL1)が全ゲノ ムレベルで有意であることを見いだした(p= 4.0×10−8)(Xie et al., 2013)。しかし,前出の RORA遺伝子は彼らのGWASの報告では再現 されておらず,今後はサンプル規模を増やした 再現解析の結果が待たれるところである。 【動物研究】 1.連鎖解析 不安障害の遺伝的基礎は,ヒトと同様に動物 モデルでも確認されている(Jacobson & Cryan,
2010)。ヒトとげっ歯類(マウスなど)は脅威 を感じる際の不安反応特性(自律神経反応や防 衛反応などの)が共通しており,また遺伝子の 相同性も高い。マウスの恐怖反応を引き起こす 刺激としては,電気ショックなどのそれ自体が 直接恐怖反応を引き起こす無条件刺激と,音や 光など,それ自体では恐怖反応を起こさない が,恐怖刺激と同時に与えることで恐怖反応と 関 連 づ け ら れ る 条 件 刺 激 が あ る(井 ノ 口, 2013; 松田ら,2013)。動物モデルを用いた遺 伝研究では,ほぼ同一の遺伝配列を持つ近交系 マウスを作成し,上記のような刺激を与えた際 の恐怖反応の異なる系統間を比べて遺伝的な違 いを調べ,不安に関連する遺伝子部位を絞り込 むことが可能である。 程度に連続性のある形質(不安など)の遺 伝子座位を調べる手法を量的形質座位(
quanti-tative trait loci; QTL)解析という。QTLの解析 では,量的形質が複数の遺伝子座位の関与に よって形成されることから,連鎖解析の手法を
用いて複数の関連部位を調べることができる (解析方法の詳細については成書(鎌谷,2001) を参照)。 不安のマウスモデルを用いたQTL解析に よって,いくつかの候補となる染色体部位が絞 り込まれている。Flint (2003)はマウスでの不 安特性(約900匹を用いて不安の極端に強い群 と少ない群それぞれ10%を比較解析)につい てQTL解析を行い,マウスの染色体上で1番 (ロ ッ ド 値13.4),4番(ロ ッ ド 値6.2),12番 (ロッド値4.3),15番(ロッド値11.0)の座位 に有意な連鎖があることを報告した。Fullerton (2006)はさまざまな不安特性の異なるマウス 約730匹を用いてQTL解析を行い,マウスの 染色体1番を詳細に調べ,候補となる9遺伝子 に絞り込んだ。そこからさらに同領域をSNP マーカーを用いて解析したところ, RGS2遺伝 子が不安にかかわる候補遺伝子として見いださ れた。 2.候補遺伝子解析 マウスの不安様行動の遺伝子解析では,特定 の遺伝子の発現を抑えるノックアウトマウス や,別の遺伝子を組み込むトランスジェニック マウスを作成するなどの遺伝子操作が可能であ る。ヒトの候補遺伝子研究と同様に,マウスで も不安の生物学的機能に関与する部位や薬理学 的な標的部位(たとえば,モノアミン遺伝子な ど)を候補遺伝子として解析が行われている。 一つ例を挙げると,セロトニンは気分調整にか かわっており,セロトニン系に働く薬剤は不安 に 効 果 が み ら れ る こ と か ら,serotonin 1A receptor (5HT1A)のノックアウトマウスを用
い た 研 究 が 行 わ れ て い る(Gordon & Hen,
2004)。これまでの研究の結果から,5HT1A
受容体の機能を抑えた3系統のマウスのいずれ
でも不安が増強することが報告されている (Heisler et al., 1998)。逆に,5HT1A受容体を 過剰発現させたマウスでは不安が減少した (Kusserow et al., 2004)。5HT1Aを薬理学的に
抑制した野生型マウスでは,成人期では影響が みられなかったが,発達早期では不安が増強し たという報告もある(Vinkers et al., 2010)。以 上のことからも,発達段階での5HT1A受容体 の抑制が成人期のマウスの不安様行動に影響す ることが示唆された。 しかし,こうした動物モデルを用いた遺伝子 解析だけで不安に関係する遺伝子部位を絞り込 むには限界がある。それは,一つの候補遺伝子 の発現を抑制しても,ほかにもさまざまな不安 以外の表現型を生じる可能性があること,また 逆に,不安は多くの遺伝子の働きによって出現 するため,同じ表現型(不安)が観察されるか らといって同一の遺伝子群がかかわっていると は限らないこと,などが理由である。 3.橋渡し研究(トランスレーショナル・リサー チ) 橋渡し研究とは,基礎研究で得られた知見を 日常の臨床医療へと応用するまでの一連の研究 である。基礎研究と日常臨床をつなぐという意 味で橋渡し研究という。不安障害では,不安の 動物モデルで得られた知見をヒトの遺伝子研究 に応用する試みがなされている(Sartori et al., 2011)(Figure 2)。たとえば,BDNFのVal66Met 多型は恐怖消去(条件刺激で学習した恐怖反応 がみられなくなること)に関連することが報告 さ れ て い る(Soliman et al., 2010)。BDNFの Met型のマウスはVal型に比べて恐怖消去が不 十分で,不安が増強していた。fMRIを用いた 研究でも,BDNFのMet型ではヒトとマウスで 共通に前頭腹内側野の活動抑制と扁桃体の過活 動が認められ,そのことが恐怖消去に影響して いることが確認された(Soliman et al., 2010)。 ほかにも,マウスやヒトの連鎖解析データを用 いて不安の候補部位を絞り込み,ヒトの不安関 連障害サンプルで再現解析を行った報告では, Peroxisome proliferator-activated receptor gamma coactivator 1-alpha (PPARGC1A)が 候
al., 2011)。以上のような橋渡し研究によって, 不安障害の候補遺伝子を見いだし,その遺伝子 の機能が確認できれば,より的を絞った治療薬 開発へとつながり,将来的な臨床応用が可能に なってくると期待される。 【今後の研究展望】 不安障害は遺伝要因だけでなく環境要因の影 響も大きいことから,遺伝要因と環境要因の相 互 作 用(Gene×Environment; G×E)が,そ れぞれ単独の影響よりも大きな作用をもつと考 えられる。こうしたG×E効果が重要であるこ とは双生児研究からも確認されている(Silberg
et al., 2001; Lau et al., 2007)。G×E効果は,特
に外傷体験が診断に必須であるPTSDで重要で
ある(Koenen et al., 2009; Afifi et al., 2010)。こ れまでにセロトニン関連遺伝子と虐待などの環 境要因との相互関連作用が報告されている (Caspi et al., 2010)。今後は,従来のGWASに
遺伝子多型だけでなくG×E効果を含めた解析 を行うことで,環境要因から影響を受けた遺伝 子部位を見いだせるであろう。 さらに近年,遺伝配列を変えないで遺伝子の 発現に影響を与えるエピジェネティックなどの 遺伝子修飾が環境要因の一つとして注目を浴び ている。エピジェネティック(メチル化など) の不安障害への影響については十分には知られ ていないが,ストレスなどの環境要因が不安障 害に関係することから,遺伝子のメチル化が病 因に関与すると推測されている。たとえば動物 を用いた研究では,母親ラットから早期に分離 された仔ラットでglucocorticoid receptor (GR) 遺伝子のプロモーター領域のメチル化が増加し ていたことが報告されている(Weaver et al., 2004)。今後は,こうした環境要因やエピジェ ネティックを考慮に入れた遺伝子研究によっ て,不安障害の遺伝的発症メカニズムを明らか にすることが期待される。 【謝辞】 本稿は武田科学振興財団研究助成金を受けて 作成されました。 【文献】
Afifi, T. O., Asmundson, G. J., Taylor, S., & Jang, K. L. (2010). The role of genes and environment on trauma exposure and posttraumatic stress disorder symptoms: A review of twin studies. Clin Psychol
Rev, 30, 101–112.
Bienvenu, O. J., Brown, C., Samuels, J. F., Liang, K. Y., Costa, P. T., Eaton, W. W., & Nestadt, G. (2001). Normal personality traits and comorbidity among phobic, panic and major depressive disorders. Psychiatry Res, 102, 73–85.
Bienvenu, O. J., Hettema, J. M., Neale, M. C.,
Figure 2 動物モデルを用いたヒトの不安障害への 臨床応用のための橋渡し研究(トランスレーショナ ル・リサーチ) 注:動物モデルの利点は遺伝的な異種性を減らせ, 環境要因を統制できる点である。ヒトの不安障害と 同様の動物モデルの不安反応を利用して,QTL(量 的形質座位)解析などの遺伝子探索を行う。そこで 見いだされた候補遺伝子をヒトの不安障害を対象と したサンプルで確認する。さらに候補遺伝子の機能 を確認し,最終的にはヒトへ応用できる薬剤開発に 役立てる。Hovatta & Barlow (2008)を基に改訂。
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Genetics of Anxiety Disorders
Takeshi Otowa
Department of Neuropsychiatry, Graduate School of Medicine, The University of Tokyo
Abstract
This review provides a broad overview of the state of research in the genetics of the major anxiety disorders (ADs). Overall, genetic epidemiological studies support a moderate level of familial aggregation (odds ratio: 4–6) and heritability estimates are about 30–50%. Twin studies suggest that the genetic architecture of ADs is not isomorphic with their classifications, sharing risk factors with each other and related phenotypes such as depression and anxious personality traits. Linkage and association studies of ADs have produced inconclusive results. Recently, genome-wide association studies with larger samples have been conducted to identify susceptibility genes for ADs. Animal studies provide a promising complimentary approach to human studies, since animal models for anxiety phenotypes are among the best validated across psychiatry. Gene environmental interaction and epigenetic studies may be important fields in the future research of genetics of ADs.