2・3の黒鉱々床変質帯における微量元素の地球化学
的様相
著者
石川 秀雄
雑誌名
鹿児島大学教育学部研究紀要. 自然科学編
=Bulletin of the Faculty of Education,
Kagoshima University. Natural science
巻
13
ページ
23-28
別言語のタイトル
Aspects on the Geochemical Behaviour of Minor
Elements in Some Altered Zones of Kuroko
Deposits
石 川 秀 雄 〔研究紀要 第13巻〕 23
2・3の黒鉱々床変質帯における
微量元素の地球化学的様相
石 川 秀 雄Aspects on the Geochemical Behaviour of Minor Elements in Some Altered Zones of Kuroko Deposits
Hideo ls岨lKAWA I 緒 言 今迄に分析を行なった花岡鉱山堤沢・堂屋敷鉱床,花輪鉱山山吹鉱床,上北鉱山本坑・立石・上之 沢第二・奥之沢鉱床および青森鉱山の各黒鉱々床変質帯における微置元素について,地球化学的に検 討した結果について述べる。分析を行なったのはPb・Ag・Sn・Cr・Ni・Co・Ⅴ・B・Ga・Cu・Baおよび Srの各元素である。 Il● 変質帯における各微量元素の地球化学的特徴 (1) Pb-Pbは一般に熱水期の過程で濃集し,熱水性鉱床に特徴的な元素であるとされている。 分析の結果, Pbは今迄に分析された変質帯において,始んどすべての試料に検出され,いづれも高 濃度で奉るとの特徴がみられる。変質帯および鉱体内における全平均含有量は各々, 217ppm, 229 ppmで奉る。
(2) Ag-K. RANKAMA & TH, G, SAHAMA(1949),1) H・ D・ B・ WILSON (1953)2)によってAg は熱水期に濃集し,熱水性鉱床に特徴的な元素であると示されている。 Agが定量されたのは山吹鉱 床と堤沢鉱床のみであるが,いづれもすべての試料に検出され,含有量は各々0・92ppm∼10ppmお よび0.10ppm∼0.35ppmを示し,浜口博・黒田六郎(1959)3)によって示されている本邦火成岩類に 比べ高濃度で奉る。 (5) Sn-Snは熱水期一気成期の過程に濃集するものといわれている。黒鉱々床において, Snは 上北鉱山本境鉱床と青森鉱山における主としてパイロブイライトからなる変質帯のみに検出される との特徴が奉る。本坑鉱床では変質帯および鉱体内において,平均含有量各々25・6ppm, 26・6ppm, 青森鉱山では53.lppmを示している。 (4) Cr・・・各変質樺においてCrは比較的低濃度であり,検出されない試料もかなりみられる。ま た各鉱床間においても含有量に差異がみとめられ,一般に堤沢・山吹・奥之沢(第二束鉱体)および 青森鉱山などの主として,凝灰岩質岩石を原岩とする変質帯で,多くの試料に検出される傾向がある。
(5) Ni・・・H. D. B. WII・SON (1953)2)によれば Niは銅・亜鉛鉱床などの交代性鉱床にもよく現
われるといわれている。 Niは各鉱床間において,その様相にかなりの差異がみとめられ,花岡鉱山,
24 2 ・3の黒鉱々床変質韓における微亜元素の地球化学的様相
されていない。
(6) Co・・・H,D・B・ WILsON (1953)2)によれば 大きなイオン半径をもつCoは熱水性鉱床にもい
くらか現われるものとされている。すなわち, Niとは反対に花輪鉱山および花岡鉱山の各鉱床では 殆んど検出されないのに対し,上北鉱山の立石鉱床では,すべての試料に比較的高濃度で検出される との特徴がある。 (7) Ⅴ-Vも各鉱床において,その含有量に差異がみとめられる。すなわち,堤沢・山吹・青森 の各鉱床では比較的高濃度であるのに対し,堂屋敷と上北の各鉱床では検出されない試料も多く,一 枝に低濃度となっている。 (8) B-Bは一般に岩薬残液に濃集し,とくに熱水一気戌期の過程に撰集するといわれている。
K・ RANKAMA & TH. G. SAHAMA (1949)")は変成岩において,その濃度は原岩の違いによって差
異があり,また海戌堪積物では高濃度であると説明している。分析された堤沢・堂屋敷および山吹の 各鉱床変質帯では,いづれも凝灰岩を原岩とするものであるが, Bは比較的高濃度ですべての試料に 検出されている。 (9) Ga・・・各変質帯を通じて,大部分の試料に比較的高濃度で検出される。しかし,その渡度は各 鉱床間でかなりの差異がみとめられる。 (10) Cu・・・Cuは熱水一気成期の過程に濃集するといわれているが,分析された山吹鉱床におい{, すべての試料に高濃度(平均335.6ppm)で検出される。 (ll) Ba・Sr-この二つの元素は化学的に類似しているが,変質帯においてほお互にやや異なった 現われ方をしている。すなわB, Baは堤沢・山吹鉱床では殆んど検出されず,堂屋敷の主として石 膏よりなる変質帯にのみ高波度で,大部分の試料に検出されるとの特徴がみられる。 以上は各元素の特徴について述べたのであるが,つぎに変質帯における各微量元素間の随伴関係に ついて検討してみよう。 IH 各微量元素間の地球化学的特徴 (1) Pb-C叶Ag・・・火成岩においてPbがKを置換することは,火成岩におけるPbの分布を調 べる上で,一つの重要な要素となっている。一方, CuとAgについては,浜口博・黒田六郎(1959)8) により, Cuと AgはSに落し高い親和性をもつため,岩圏上層部に現われるもので,これらの元 素は親硫黄元素に属するものであるとしている。しかして,さきに筆者らが報害したように,4) Cu-Ag, Cu-Pbの間には正の比例関係があり,また第1図で示すようにPb-Agの間にも同様の関係が みとめられる。このことは変質帯におけるPbの地球化学的分配をみる上で興味奉る事実と思われる. (2) Pb-Ⅴ-岩石や鉱物において,結晶化学的立場から,通常PbとVとの間には分配の規細陸は みられないものである。分析された各変質帯においても,一般にはそれらの間の随伴関係はみられな い。しかし,さきに報告しだ)本坑鉱床のほか,山吹・堤沢の各鉱床において,ある程度の正の比例
関係がみとめられている。 (第2図参照), D.し. GRAB & P.E. KERR (1950)6)もSantaRitaの
石 III 秀 80c cくり 4(東) ZOO 0 ツ ネ ツ ツ ●●● ●.III〃 2468Io 、 ニA9 第1図 花輪鉱山山吹鉱床変質嵩に おけるAgとPbとの関係 雄 〔研究紀要 第13巻〕 25 ● `義) 00 I20 ニ> 一eo a)o 〇・・・Yamabuki deposit ●-Tsutsumizawa deposit 第2図 花輪鉱山山吹鉱床および花岡鉱山堤沢 鉱床変質帯におけるPbとVとの関係 (5) Ga-C〇・・・GaとCoの随伴関係は一般にみとめられないが,しかし立石鉱床では両者にある 経度の正の比例関係がみとめられる。5)このことは,このような熱水性鉱床変質帯の場合, CoはCo +3の形でGa+3と伴うことがあると思われる。
(4) Ni-Co・・・H. D.B. WII・SON (195)2)によれば Coは熱水性鉱床において, Niよりむしろ
Cuに伴うとしている。以上の変質帯においても,一般にCoはNiにとむ試料によく検出される が,各変質帯間においては, Niと Coはむしろ逆比例的関係がみとめられる。なお, R.S.YouNG (1959)7)はCoとNiの比は鉱床を特色づけるもの であると説明しているが,この点興味ある事実と思 われる。 (5) CrV-Ni-これらの元素は,そのイオン半径 の近似性の上から,互の随伴関係は岩石などにおい てはみとめられている。変質帯においては第3・4図 で示す山吹・堤沢鉱床のほかは顕著な規則性は見出 し得ない。しかし,各鉱床変質帯における平均値に ついてみると, Cr+NiとVとの間にはある程度の 正の比例関係がみとめられる。 lV 黒鉱々床の地球化学的探査につし、で 近年,地球化学探鉱法は多くの鉱床に広く利用さ れるようになり,鉱床を作る主成分元素は必ずしも 指示元素となり得ないことが明らかになってきた。 ∞ 25 20 IS Io 5 イ ● ● 〇 〇〇 ●● 〇〇 〇〇 〇 ● 4080IZolCO200 -⇒Ⅴ ○-・Yamabuki deposit ●・ -TsutsumiZaWa deposit 第3図 花輪鉱山山吹鉱床および花岡鉱山堤沢 鉱床変質帯におけるCrとVとの関係 調 的 8 伽 柳 ○ o
26 2・3の照鉱々床変質帯における微塵元素の地球化学的様相 熱水性鉱床の地球化学的探査において, H. D. B. WILSON (1947)8)は Nevada の Gold MineにおいてはMg と Mn が,そして Cleamont MineにおいてはCoが指示元繋 となることを示している。 D.し. GRAP&P. 〃 B. KERR (1950)6)は亜鉛・鉛鉱床の探査にお i Io 20 30 40 >∨ iD 60 70 0-Tsutsumizawa deposit △-Deyashiki 〃 ロ-Yamabuki 〃 0-Honk6 〟 ×・・・Honk5 〃 (ore body) +-Tateishi 〃 0-Tateishi 〟 (ore body) 〇・・・Kaminosawa 〟 O・・・Okunosawa (Honk5) " ▲-Okunoiawa (2E) " ■-Aomorl 〃 第4図 各鉱床変質帯におけるCr+VとVとの関係 いて, Pbが一番よい指示元素であり, Zn・Co・ Ag・Vもぬる程度,指示元素として有効なも ので奉るとしている。また, H.T.MoRRIs & T. S. LovERING (1952)9)は亜鉛・鉛鉱床 では, Pb・Cu・Znが重要な指示元素となりう ることを説明している。 以上,分析の行われた黒鉱々床においてti, 下に示すように,各鉱床において差異はみと められるが,一般にCr・Ni・Ba・Ag・Ⅴ・Cu はとくに鉱体に近づくにつれ高濃度となる傾 向が奉る。よって,これらの各元素は黒鉱々 床の地球化学的探査において有効な指示元素 となりうると考えられる。とくにそのうちPbは各鉱床を通じ大部分の試料に検出され,且,錐体に 近づくにつれ高濃度となる傾向が顕著で奉り,指示元素としてはもっとも有効なものと考えられる。 堤沢鉱床--Pb・Cr・Ni・V Ba・Ag 立石鉱床・-・・Pb・Co 堂屋敷鉱床--Pb・Ba・Sr・Ni 本境(上北)鉱床・・-・Pb・Ⅴ・Sn 山吹鉱床--Pb・Cr・Ni・Ba・Ag・Cu V 結 び 以上のべたように,黒鉱々床変質帯における微量元素の分布は複雑な様相を示している。普通,微 量元素の地球化学的分配を老える場合,イオンの性質の近似した主化学成分元素との置換によると説 明されている。以上の変質帯の場合も, Srが主として石膏よりなる変質帯に見出されることは, sr+2(1.27A)と石膏のCa+8 (I.06Å)との置換によると考えられる。またGaは原岩では低濃度で あるのに,変質帯ではいづれも高濃度であることはGa+3(0.62Å)と変質過程において附加された Al+3(0.57A)と関連があろう。そのほか, Ni・Co・Ⅴ・Crが鉱体に近い変質帯で高濃度となることは 岩生周一(1955)10)によって説明されているMg附加作用と密接な関連があると思われる。しかしな がら,一般的には微量元素の分配に対して,イオンの性質の近似性の上からのみ説明することは困難
である。なお, D.L.GRAB & P. E. KERB (1650)6)はSanta Ritaの亜鉛・鉛鉱床におい+, Pb
石 川 秀 雄 〔研究紀要 第13巻〕 27 性質の変化や温度・ pHなどの変化に応じ微量元素の分配は左右きれるものと思われる。 CoがGa と伴ったり, PbがVと伴ったりする場合などはそれらの影響によるもので奉ろう。とくにSnが 主としてパイロフイライト帯にのみ検出されることは,パイロブイライト帯を形成するときの特殊な 温度・ pH条件に関係が奉ると思われる。そのほか, Cr・Ⅴなどは原岩の違いに差異がみとめられる が,母君の性質も大いに影響がぬると考えられる。 以上の結果より筆者は微量元素の分配はつぎのような要素によって支配されるものと老える。 (1)微量元素とイオンの性質(イオン半径・イオン化ポテンシャル・イオンの場の強さ)の近似 した母君の重化学成分元素との電換 (2)変質過程における流動液の成分および温度・圧力(とくに蒸気圧), pHの影響 (3)粘土鉱物中における微量元素の吸着,塩基交換性などの影響 おわりにのぞみ本研究に対し,御教示と御助言をいただいた門田重行教授,須藤俊男教授,種々分析について 御教示いただいた柴田秀踏教授,黒田六郎博士をはじめ種々貴重な御助言をお与え下された林久人,櫛倉弘の各 氏にあつく御礼申上げる。 参 考 文 献
1. RANttAMA, K. & SAHAMA, TH. C.: Geochemistry. 1949.
2. WILSON, H.D.B.: Geology and geochemistry of base metaldeposits. Eco. Geol. 48, No. 5, p. 370
-407, 1953.
3. HAMAGUOHT, H. & KuRODA, R言Silver content of igneous rocks. Geochimica et Cosmochimica
Acta, 17, p. 44-52, 1959.
4.石川秀雄・黒田六郎:2・3の黒鉱々床変質帯における微量元素(第ら報),鉱山地質, 10, No. 39,p.
29-31, 1960.
5.石川秀雄:2・3の黒鉱々床変質帯における微量元素(第3報),鉱山地質, 8. No. 35, p. 14-20, 1959.
6. CRAF, D.し. & KERR, P. ら.: Trace element studies, Santa Rita, New Mexico. Bull. Geol. Soc.
Amer. 61, p. 1031-1052, 1950.
7. YouNO, G. S.: The geochemistry of cobalt. Geochimica et Cosmochimica Acta, 13, No.1. p.
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8. WIhSOV, H.D. B言Geological studies of the epithermal deposit at Gold一角eld, Nevada. Eco. Geol.
39, p. 37, 1944.
9. MoRRIS, H. T. & LovERINO, T. S・: Supergene and hydrothermal dispersion of heavy metals in wall rocks near ore bodies, Tintic district, Utah. Eco. Geol. 47, p. 685-715, 1952.
10.岩生周一:鉱体の周りにみられるMgの富化現象 一特に石膏および赤白鉱床の例-,地質学雑, 61,
No. 722, p. 543-555, 1955.
Summary
ln this paper, geochemical behaviour o、f minor elements such as lead, silver, tin, chromium, nickel, cobalt, vanadium, boron, gallium, copper, barium and strontium
in some altered zones of Kuroko deposits would be considered.
As the result of this study, it may be concluded that the distribution of minor
28 2 ・3の黒鉱々床変質帯における微轟元素の地球化学的様相
factors.
(I) the substitution for major elements which have similar ionic radius, ioniza・
tion potential and ionic丘eld strength.
(2) the五eld condition for the precipitation of minor elements, i. e. temperature,
PH and vapor pressure etc.