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進行性多発性白質脳症を合併した全身性エリテマトーデスの1例

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岡 山 医 学 会 雑 誌  第113巻 August 2001, pp. 175-177 

症例の解説

進 行 性 多 発 性 白質 脳 症 を合 併 した全 身性 エ リテ マ トー デ ス の1例

全 身 性 エ リテ マ トー デ ス(SLE)の 患 者 に 進 行 性 の 意 識 障 害 と 四 肢 麻 痺 が 出 現 し, SLEに よ る 中 枢 神 経 症 状 との 鑑 別 に 苦 慮 し た 進 行 性 多 発 性 白 質 脳 症 (PML)の 合 併 例 を 経 験 し た. PMLは 免 疫 不 全 を と も な う疾 患 に 合 併 す るパ ポ パ ウ イ ル ス に 属 す るJC ウ イ ル ス の 日和 見 感 染 症 で,多 発 性 の 大 脳 白質 の 脱 髄 性 病 変 を特 徴 と す る疾 患 で あ る.悪 性 腫 瘍,移 植 な ど で ス テ ロ イ ド,免 疫 抑 制 剤,抗 癌 剤 を使 用 中 に 多 彩 な 神 経 症 状 を認 め た 場 合 に も,鑑 別 す る 必 要 の あ る疾 患 で あ る. 症 例 患 者 は53歳 の 女 性.1994年 に 光 線 過 敏 症,腎 障 害, 溶 血 性 貧 血,抗 核 抗 体 陽 性 な どか らSLEと 診 断 さ れ た.ス テ ロ イ ド治 療 に よ り病 態 は 改 善 し,外 来 に て プ レ ドニ ゾ ロ ン5mg/日 が 維 持 投 与 され て い た. 1998 年8月 初 旬 よ り記 銘 力 低 下(計 算 間 違 い な ど),小 字 症,運 動 障 害(階 段 の 昇 降 困 難 な ど)が 出 現 し た. 8月13日 に 近 医 で 施 行 さ れ た 頭 部CTで 右 前 頭 葉 に 低 吸 収 領 域 を 認 め,脳 梗 塞 と診 断 さ れ た.入 院 後 に 抗 凝 固 療 法 が 開 始 さ れ た が,翌 日 に は 左 片 麻 痺 が 出 現 し,入 院2週 後 に は 四 肢 麻 痺 と な っ た.頭 部CT お よ びMRIで は 病 変 は さ ら に 両 側 性 に 拡 大 し(図 1),ま た 抗 核 抗 体 陽 性 と低 補 体 血 症 を 認 め た た め, 9月16日 に 当 科 に 紹 介 さ れ た. 身 体 所 見:身 長151cm,体 重54kg,血 圧160/82 mmHg,脈 拍80/分 整,胸 部;収 縮 期 雑 音 あ り,呼 吸 音 異 常 な し,腹 部;軟,腫 瘤 ・肝 脾 腫 な し,皮 膚; 発 疹 な し,意 識 レ ベ ル;嗜 眠,瞳 孔;正 円 等 大,対 光 反 射 正 常,眼 球 左 方 共 同 偏 移,四 肢 麻 痺,反 射; や や 亢 進,上 下 肢 病 的 反 射 陽 性. 検 査 所 見:検 尿;蛋 白(+),血 尿(潜 血(2+), 赤 血 球5∼10個/視 野),血 液 学 的 検 査;貧 血 な し, 白血 球4,300/mm3,血 小 板13万/mm3,肝 機 能 ほ ぼ 正 常, BUN 12.1mg/dl, Cr 0.45mg/dl, Ccr 106ml/分,血 清 蛋 白7.9g/dl, IgG増 加(2,199mg/dl),電 解 質 正 常,抗 核 抗 体 ×320 (Ho/Sp),抗ds-DNA抗 体 陰 性,抗Sm抗 体 陰 性,抗 リ ン脂 質 抗 体 陰 性,血 清 ribosomal-P抗 体 陽 性(×1),抗asialoGM 1抗 体 陰 性,補 体; CH50 33単 位/ml, C3 43mg/dl, C4 14 mg/dl,免 疫 複 合 体(C 1 q) 3.8μg/ml,髄 液 検 査;髄 圧 正 常,水 様 透 明,細 胞 数25/3mm3(多 形 核 白 血 球/ 単 核 細 胞15/10),蛋 白42mg/dl,糖76mg/dl, IgG 2.8

mg/dl (IgG index 0.65), myelin basic protein 21.2

ng/ml,抗 神 経 細 胞 核 抗 体(ANNA-1)陰 性. 症 例 の 解 説 症 例 はSLEの 患 者 で,少 量 の ス テ ロ イ ド維 持 投 与 中 に 進 行 性 に 記 銘 力 障 害,運 動 障 害,意 識 障 害, 麻 痺 が 出 現 した.最 初 の 頭 部CTで 右 前 頭 葉 に 低 吸 収 領 域 を 認 め,脳 梗 塞 と 診 断 さ れ 抗 凝 固 療 法 が 開 始 さ れ た.し か し,神 経 症 状 は 進 行 し,頭 部CTお よ びMRIで 病 変 の 両 側 性 拡 大 を 認 め た(図1).抗 核 抗 体 陽 性 と低 補 体 血 症 を 認 め た た め 現 疾 患 に よ る 中 枢 神 経 障 害 と考 え,プ レ ドニ ゾ ロ ン60mg/日 が 開 始 さ れ,当 科 に 紹 介 入 院 と な っ た.入 院 時 の 臨 床 所 見 と して 強 い 意 識 障 害,眼 球 左 方 共 同 偏 移,四 肢 麻 痺, 病 的 反 射 陽 性 な ど の 神 経 学 的 異 常 を,臨 床 検 査 で は 腎 障 害(蛋 白 尿,血 尿,腎 機 能 は 正 常),正 常 範 囲 内 で は あ る が 白 血 球,血 小 板 の 低 下 傾 向,IgG軽 度 増 岡 山 大 学 大 学 院 医 歯 学 総 合 研 究 科  腎 ・免 疫 ・内 分 泌 代 謝 内 科 学 電 話:086-235-7233 FAX: 086-222-5214 E-mail:[email protected]

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176  山 村 昌 弘

加,抗 核 抗 体 陽 性, ribosomal-P抗 体 陽 性,髄 液 中 の 軽 度 の 細 胞 数 増 加, myelin basic protein上 昇 を

認 め た. 図1  1998年9月16日CT所 見 SLEに 精 神 ・神 経 症 状 が 出 現 し た 場 合, 1)腎 障 害 に よ る尿 毒 症 ・高 血 圧 に 起 因 す る も の, 2)ス テ ロ イ ドな ど の 薬 剤 を原 因 とす る も の, 3) SLE固 有 の も の(CNSル ー プ ス)を 考 え るの が 通 常 で あ る. こ の 症 例 の 場 合,蛋 白尿,血 尿 は 認 め た が 腎 機 能 は 正 常 で,ま た ス テ ロ イ ド投 与 量 は 少 量 で あ っ た こ と か ら,亜 急 性 に 進 行 し た 神 経 学 的 異 常 の 原 因 と し て, 1)お よ び2)は 否 定 さ れ る. 3)に 関 して は,一 般 的 にCNSル ー プ ス は 診 断 後 数 年 経 過 した 症 例 に 合 併 す る こ とが 多 く, SLEの 疾 患 活 動 性 や 腎 病 変 と は 解 離 して 出 現 す る場 合 も あ り,当 初 最 も 疑 っ た 病 態 で あ っ た. SLE固 有 の 精 神 神 経 症 状 を頻 度 の 高 い もの(出 現 率25%以 上)と す る 報 告 も あ る2).出 現 す る神 経 症 状 は 多 彩 で,よ く認 め ら れ る の は 認 知 障 害 と痙 攣 で あ る.認 知 障 害 は 器 質 的 神 経 障 害 あ る い は 精 神 障 害 の 部 分 症 状 と して 出 現 す る場 合 が 多 い が,痙 攣 は 単 独 で も み ら れ る.病 因 と し て 血 管 炎 が 想 定 さ れ て い る が,病 理 学 的 に 血 管 炎 が 証 明 さ れ る こ と は 稀 で,臨 床 症 状 を 説 明 す る病 理 所 見 に 乏 し い こ とがCNSル プ ス の 特 徴 で も あ る.抗 リン 脂 質 抗 体 陽 性 例 で は, 局 所 神 経 症 状 に 一 致 す る 血 管 の 梗 塞 巣 が 認 め ら れ る こ とが あ る.臨 床 的 に は,抗Sm抗 体 と器 質 的 神 経 障 害,抗ribosomal-P抗 体 と精 神 障 害,抗 カ ル ジ オ リ ピ ン 抗 体 と痙 攣 との 関 連 が 指 摘 さ れ て い る.脊 髄

液 中 のIgG indexの 上 昇, oligoclonal IgG bandの

存 在 は 診 断 上 有 用 で あ る. 本 症 例 の 場 合,抗ribosomal-P抗 体 は 弱 陽 性 で あ っ た が,抗Sm抗 体,抗 リ ン 脂 質 抗 体 は 陰 性 で,髄 液 検 査 で はIgG indexの 上 昇 を認 め な か っ た.さ ら に,当 科 入 院 後 に ス テ ロ イ ドパ ル ス療 法 な ど で 強 力 に 治 療 し た が,病 態 は 改 善 せ ず,進 行 した た め, CNS ル ー プ ス は 否 定 的 と な っ た. CTお よ びMRI検 査 で は,多 巣 性 病 変 は 大 脳 白質 に 限 局 し, CTで 不 規 則 な 低 吸 収 領 域, MRIのT1強 調 画 像 で 低 ∼ 等 信 号 領 域, T2強 調 画 像 で 高 信 号 領 域 と し て 描 出 さ れ た. ま た,病 巣 のmass-effectは な く,造 影 効 果 を 認 め な か っ た こ とか ら,進 行 性 の 脱 髄 性 疾 患 で あ るPML の 合 併 を 疑 うに 至 っ た. PMLは,悪 性 リ ン パ 腫 な ど の リン パ 系 腫 瘍 に合 併 す る こ との 多 い 多発 性 の 大 脳 白質 の 脱 髄 性 疾 患 と し て 知 ら れ て い る2).原 因 と し て パ ポ パ ウ イ ル ス に属 す るJCウ イ ル ス が 同 定 さ れ て お り,免 疫 不 全 を伴 う 疾 患 に 合 併 す る 日和 見 感 染 症 と考 え られ て い る.基 礎 疾 患 と して,リ ンパ 系 腫 瘍,非 腫 瘍 性 細 網 内 皮 系 疾 患,骨 髄 組 織 の 増 殖 性 疾 患,結 核,ス テ ロ イ ド ・ 免 疫 抑 制 剤 ・抗 癌 剤 治 療 が 知 られ,稀 にSLEに 合 併 す る こ とが 報 告 さ れ て い る.最 近 で はAIDSと の 合 併 が 多 い.一 般 に, 40∼60歳 代 に 多 く,神 経 症 状 は,歩 行 障 害,片 麻 痺,四 肢 麻 痺,失 認,知 能 ・記 憶 障 害,性 格 変 化,異 常 行 動,意 識 障 害,視 野 異 常 な ど病 巣 の 多 巣 性 を 反 映 し て 極 め て 多 彩 で あ る.画 像 所 見 と し て,大 脳 白 質 に 限 局 し, mass effectや 造 影 効 果 の な い 多 発 性 で 非 対 称 性 の 病 変 が 多 い.確 定 診 断 は,脳 生 検 に よ りPMLに 特 徴 的 な 病 理 組 織 像 と脳 内 にJCウ イ ル ス の 存 在 を 確 認 す る こ と で あ る. 病 理 所 見 で は,大 脳 皮 質 直 下 白質 に 小 さ な 脱 髄 巣 が 癒 合 し 大 き な 脱 髄 病 変 を形 成 す る が,髄 鞘 の 破 壊 に 比 較 し 軸 索 が 比 較 的 保 た れ,核 内 封 入 体 に よ り腫 大 し た 乏 突 起 膠 細 胞 と,胞 体 が 著 し く腫 大 し た 星 状 細 胞 が 多 数 み ら れ る の が 特 徴 で あ る.炎 症 性 細 胞 の 浸

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進 行 性 多発 性 白 質 脳 症 を合 併 し た全 身 性エ リテ マ トー デ ス の1例  177 潤 は 一 般 的 に は 認 め な い.ま た,髄 液 中 のJCウ イ ル ス のPCR法 に よ る検 出 も有 用 な 検 査 で は あ る が, 非PML患 者 で も陽 性 と な る こ と が あ る.ち な み に, 本 症 例 で は 陰 性 で あ っ た た め,最 終 的 診 断 法 と して 脳 生 検 を 選 択 し た. 図2  核 内 に 円 形 で 大 き さ が 約35nmの ウ イ ル ス粒 子 を有 す る 巨大 な 乏 突 起 膠 細 胞(電 顕) 10月19日 に 脳 生 検 が 施 行 さ れ,病 理 組 織 で 広 範 囲 に 及 ぶ 脱 髄 病 変 内 に 核 内 封 入 体 を 有 す る 巨 大 な 乏 突 起 膠 細 胞 を 多 数 認 め た.電 顕 で は 核 内 に 円 形 で 大 き さ が 約35nmの ウ イ ル ス 粒 子 を 認 め(図2),さ ら に 免 疫 組 織 染 色 に よ りJCウ イ ル ス の 存 在 が 確 認 さ れ, PMLと 診 断 し た.ス テ ロ イ ドを 漸 減 し,治 療 と し て 抗 ウ イ ル ス 剤 で あ るAra-C(シ タ ラ ビ ン)100mg/日 の6日 間 連 続 投 与(1ク ー ル)を2ク ー ル 施 行 し, 神 経 症 状 の 進 行 は 停 止 し た. 文 献

1) Hanly JB: Baillieres Clin Rheumatol. (1998) 12, 415

431.

2) Ahmed F. et al.: J Rheumatol. (1999) 26, 1609 1612.

参照

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