博 士 論 文
サービスイノベーションと経営戦略
SERVICE INNOVATION AND
BUSINESS STRATEGY
指導教授: 池島 政広
亜細亜大学大学院
アジア・国際経営戦略研究科アジア・国際経営戦略専攻
AD14001
目次
はじめに ... 1 第 1 章 研究の背景と研究目的 ... 6 第 1 節 研究の問題意識の提示 ... 6 第 2 節 研究目的 ... 19 第 3 節 研究の位置づけと研究アプローチ ... 21 第 2 章 顧客価値創出の焦点となったサービス... 24 第 1 節 サービス ... 24 1-1 サービスの概念 ... 24 1-2 サービスの構成要素と方程式 ... 29 1-3 サービス品質 ... 31 第 2 節 顧客価値とサービス ... 35 第 3 節 小括 ... 39 第 3 章 サービスイノベーション中心の経営戦略のパラダイム ... 41 第 1 節 イノベーションと経営戦略 ... 42 1-1 イノベーションの必要性 ... 42 1-2 イノベーションと新しい顧客価値の創出 ... 48 1-3 顧客価値中心のオープンイノベーションと経営戦略 ... 56 1-4 顧客価値の向上の重要手段としてのオープンイノベーション ... 59 第 2 節 サービスイノベーションと経営戦略 ... 65 2-1 企業の中心となった顧客価値 ... 66 2-2 顧客価値を高めるサービスイノベーション ... 71 2-3 顧客価値中心の経営戦略 ... 76 第 3 節 小括 ... 80 第 4 章 企業の成長の原動力となるサービスイノベーション ... 87 第 1 節 企業が認知した顧客価値へのアプローチ ... 87 1-1 商品設計と顧客価値 ... 871-2 顧客コミュニケーションと顧客価値の向上 ... 91 第 2 節 サービスイノベーションの事例... 101 2-1 パナソニックの事例 ... 101 2-2 トヨタ自動車の事例 ... 105 2-3 ソフトバンクの事例 ... 111 第 3 節 サービスイノベーションの概念とサービスイノベーションのモデル ... 115 3-1 サービスイノベーションの概念 ... 115 3-2 サービスイノベーションのモデル ... 117 第 4 節 小括 ... 121 第 5 章 仮説の提示 ... 123 第 6 章 仮説の検証 ... 131 第 1 節 検証における測定変数 ... 131 第 2 節 検証結果 ... 134 2-1 仮説 1 の検証結果 ... 135 2-2 仮説 2 の検証結果 ... 138 2-3 仮説 3 の検証結果 ... 143 2-4 仮説 4 の検証結果 ... 145 第 3 節 小括 ... 147 第 7 章 考察と結論 ... 149 第 1 節 考察 ... 149 第 2 節 結論 ... 158 参考文献 ... 161 謝辞 ... 180 付録_アンケート本文 ... 182
NGUYEN THI TRUC QUYNH 1
はじめに
市 場 環 境 の 変 化 と 技 術の 絶 え 間 な い 発 展 に より 、 情 報 へ の ア ク セ スが 容 易 に な り 、 知 識 の 深 ま り と 迅 速 なコ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン が可 能 に な っ た 。 具 体 的に は 、 ま ず 、 グ ロ ー バ ル 化 で あ る 。 1989 年に世界経済は、伝統的な貿易障壁 が崩壊しベルリンの壁 も崩壊 し た 。 今 日 の グ ロ ー バル 化 の 第 一 歩 で あ っ た。 グ ロ ー バ ル 化 は そ の後 も 止 ま ら ず 、 そ の 結 果 、 今 日 で は 、 企 業は 異 な る 市 場 か ら の 競争 を 常 に 予 期 し な け れば な ら な く な っ て い る 。 さ ら に 、 も う 一 つの 勢 い は IT の発展が進 んでいる ことである。IT アプリケーショ ン の 使 用 の 増 加 (Tidd & Bessant、2009) よ り 、 情 報 を 迅 速 に 処 理 し 共有 す る こ と が でき 、 こ れ を 利 用 し て 、今 ま で に な い マ ー ケ ティ ン グ の 手 法 や 業 務 プロ セ ス な ど の 可 能 性 が 生 ま れ た 。 こ れ ら の 変 化 は 単 に 企業 に 影 響 を 与 え る だ けで な く 、顧 客 の 行 動 に も刺 激 を 与 え る 。 そ の 結 果 、 企 業 は 絶 え間 な く 変 化 す る 状 況 や顧 客 の 要 求 に 迅 速 に 対応 し な け れ ば な ら な い だ け で な く 、 イ ノ ベー シ ョ ン に 関 す る 洞 察が 不 可 欠 に な っ た 。 これ ら の 変 化 は す べ て 新 し い 知 識 を も た ら し、 こ れ が さ ら に 新 し いマ ー ケ テ ィ ン グ 手 法 と業 務 プ ロ セ ス を 求 め る こ と と な る 。 す な わち 、 こ の 新 た な 知 識 の普 及 と 新 た な マ ー ケ ティ ン グ 手 法 と 業 務 プ ロ セ ス の 開 発 の 循 環 は、 顧 客 の 行 動 に 刺 激 を与 え る 新 た な サ ー ビ スの 重 要 度 の 増 加 を も た ら す の で あ る 。 IT の 発 展 に よ り 、各 業 界 の 境 界 線 が 顕 著 に 薄く な っ て き た 時 代 に は 、B2C の み な ら ず 、 B2B に お い て も 、従 来 か ら す で に 多 く の 企 業 は 製 品 に 付 け 加 え た「 カ スタ マ ー サ ー ビ ス 」 を 提 供 し て き た 。 し かし 、 製 品 の コ モ デ ィ ティ 化 が 進 展 す る に つ れ、 モ ノ を 中 心 に 生 産 す る 企 業 が サ ー ビ ス の開 発 に 注 力 し て い る 。さら に 、し ば し ば 実 質 的 な差 別 化 を 実 現 し 、
NGUYEN THI TRUC QUYNH 2 よ り 大 き な 収 益 を 可 能に し て い る サ ー ビ ス が珍 し く な い 。 IBM や GE といったグローバ ル 企 業 の こ れ ま で の 動き な ど か ら 、 多 く の 製造 業 企 業 が 大 き な 収 益源 と し て の サ ー ビ ス 事 業 へ の 参 加 を 促 す 力と な っ て い る (Bitner & Brown、2006)
一 方 、 イ ノ ベ ー シ ョ ンそ の も の が グ ロ ー バ ル化 し て い る 。 サ ー ビ スイ ノ ベ ー シ ョ ン を グ ロ ー バ ル に 最 大 限利 用 す る こ と で 、 収 益性 を 維 持 し な が ら 競 合他 社 と さ ら に 差 を つ け る こ と が 期 待 で き る。 前 述 し た よ う に 、 企 業を 取 り 巻 く 市 場 環 境 の変 化 、 ま た 、 世 の 中 全体 に 大 き な イ ン パ ク ト を も た ら す 技術 の 激 的 な 進 歩 の 下 、製 品 ラ イ フ サ イ ク ル が短 期 化 し い た め 、 製 品 の イ ノ ベ ー シ ョ ン だけ で は 、 コ モ デ ィ テ ィ化 や コ ス ト 競 争 に 陥 りや す い 傾 向 が み ら れ る 。 こ れ に よ っ て 、 顧客 価 値 を 高 め る た め にサ ー ビ ス イ ノ ベ ー シ ョン に よ り 差 別 化 を 図 り 、 価 値 を 加 え て 、 競争 を 乗 り 越 え る 経 営 戦略 が 一 層 求 め ら れ て いる だ ろ う 。 本 研 究 に 着 手 し た 動 機と し て 顧 客 価 値 、 そ して 、 サ ー ビ ス と い う 広義 な 観 点 か ら 議 論 し 、 企 業 に と っ ての サ ー ビ ス イ ノ ベ ー ショ ン を 構 造 的 に 示 す と共 に 、 今 日 的 な 市 場 環 境 に お け る 日 本 企 業の 競 争 力 を 高 め る た めに は 、 顧 客 価 値 を 向 上す る こ と に 抜 本 的 に 取 り 組 む こ と が 重 要 な経 営 問 題 で あ る こ と を仮 定 し た 。 ま た 、 こ の問 題 へ の 一 つ の 対 応 と し て 、 認 知 さ れ た 顧客 価 値 に 基 づ く 戦 略 的サ ー ビ ス イ ノ ベ ー シ ョン の パ ラ ダ イ ム を 提 示 す る 。 こ れ は 、 サ ービ ス を 充 実 化 す る こ とを 通 じ て 顧 客 価 値 を 高め る た め の 戦 略 ア プ ロ ー チ で あ り 、 実 施 する 際 に 取 り 組 む べ き 新た な 戦 略 の フ レ ー ム ワー ク を 明 示 し 、 こ れ に 関 わ る ト ッ プ マ ネ ジメ ン ト の 役 割 を 示 す 。 本 論 文 に お い て 定 義 する 、 サ ー ビ ス イ ノ ベ ーシ ョ ン 志 向 の 経 営 戦 略と は 、 企 業 の ビ ジ ョ ン に 基 づ き 、 顧 客の 価 値 を 高 め る サ ー ビス の 充 実 化 の 目 標 を 明示 し 、 そ の 実 現 に 向 け て 、 社 会 ト レ ン ド の洞 察 力 、 オ ー プ ン イ ノベ ー シ ョ ン 力 、 サ ー ビス 志 向 の 従 業 員 教 育 力 と い う 三 つ の サ ー ビス イ ノ ベ ー シ ョ ン 推 進能 力 を 活 用 す る 方 策 のこ と で あ る 。
NGUYEN THI TRUC QUYNH 3 本 論 文 の 構 成 は 、 次 のと お り で あ る 。 第 1 章では、本研究の背景と目的について論述する。 第 2 章では、サービスに関する先行研究レビューを通して、既存研究におけるサービ ス 概 念 を 整 理 し な が ら、 サ ー ビ ス の 本 質 、 また 顧 客 価 値 と の 関 係 につ い て 論 じ る 。 サ ー ビ ス 概 念 に は さ ま ざ まな も の が あ り 、 い ま だに 検 討 す べ き 課 題 が 多く 、 し た が っ て 、 サ ー ビ ス の 本 質 を 問 う 研究 が も っ と な さ れ な けれ ば な ら な い こ と を 主張 す る 。 第 3 章では、イノベーションの研究を整理し、企業経営におけるイノベーションの位 置 づ け を 明 ら か に す る。 一 方 、 顧 客 価 値 を 創出 す る た め の オ ー プ ンイ ノ ベ ー シ ョ ン の 役 割 を 示 す 。 そ し て 、 経営 戦 略 の 視 点 か ら サ ービ ス イ ノ ベ ー シ ョ ン と顧 客 価 値 を 論 じ る 。 第 4 章では、商品1設 計 に 関 し て 、顧 客 の 位 置づ け を 明 ら か に し 、顧客 価 値 の 創 出 に 結 び つ く 商 品 設 計 の マ イ ン ド セ ッ ト を 論 じ る 。 Drucker (1985) は「事 業の目的は顧客 の創 造 で あ る 」 と 主 張 し た。 こ れ ま で の サ ー ビ スイ ノ ベ ー シ ョ ン と そ の特 性 に つ い て の 結 論 を 結 び 付 け た う え で 、サ ー ビ ス と イ ノ ベ ー ショ ン の 両 方 の 特 性 と その プ ロ セ ス の 性 質 を 強 調 す る サ ー ビ ス イ ノベ ー シ ョ ン の 定 義 が 必要 と 考 え ら れ る 。 先 行研 究 を 踏 ま え 、 企 業 を 取 り 巻 く 経 営 環 境 のと ど ま ら な い 変 化 の 下、 幅 広 い 意 味 で の サ ービ ス イ ノ ベ ー シ ョ ン を 再 定 義 す る 必 要 が ある と み な せ る 。 そ の ため 、 本 研 究 に お い て は、 経 営 戦 略 の 観 点 か ら 、サ ー ビ ス イ ノ ベ ー ショ ン の 定 義 を 新 た に 提示 し た い 。サ ー ビ ス イ ノベ ー シ ョ ン と は 、 顧 客 の ニ ー ズ を 踏 ま えて 、生 活 様 式 を 一 変 す るよ う な 無 形 な 価 値 の 創出 で あ る と 考 え る 。 第 5 章では、日本企業にとっての大切な顧客価値を高めるサービスイノベーションの 必 要 性 を 再 認 識 し 、 その 生 成 メ カ ニ ズ ム を 解明 す る 。 そ し て 、 こ のイ ノ ベ ー シ ョ ン を 推 進 す る 効 果 的 な 戦 略 に関 わ る 、 以 下 の 4 つの仮説を導いた。 仮 説 1:企業にとって大事な顧客の価値を高めるには、 顧客とのコミュニケーション を 踏 ま え 、 顧 客 視 点 の商 品 の コ ン セ プ ト の 提示 、 さ ら に は 、 ネ ッ トと の 融 合 に よ る サ ー
NGUYEN THI TRUC QUYNH 4 ビ ス イ ノ ベ ー シ ョ ン を推 進 し な け れ ば な ら ない 。 仮 説 2:サービスイノベーションの推進を図るには社会のトレンドの洞察力、オープ ン イ ノ ベ ー シ ョ ン 力 、サ ー ビ ス 志 向 の 従 業 員教 育 力 を 活 か し て 、 サー ビ ス の 充 実 化 に 力 点 を 置 い た 経 営 戦 略 を実 践 す る 。 仮 説 3:この経営戦略を効果的に実践するにはトップの戦略的かつ積極的な関与が重 要 に な る 。 仮 説 4:この経営戦略の実践は顧客との円滑なコミュニケーションを促進 し、マーケ ッ ト シ ェ ア を 高 め る 。 第 6 章では、この仮説を実証研究により検証する。その仮説の構成は、アジア市場に お け る サ ー ビ ス イ ノ ベー シ ョ ン を 推 進 す る ため に は 、 企 業 の ト ッ プマ ネ ジ メ ン ト の 戦 略 的 か つ 積 極 的 な 関 与 の下 に 、 日 本 企 業 は 社 会ト レ ン ド の 洞 察 力 、 オー プ ン イ ノ ベ ー シ ョ ン 力 、 サ ー ビ ス 志 向 の従 業 員 教 育 力 と い う 主た る 三 つ の 力 を 蓄 え るこ と に よ り サ ー ビ ス イ ノ ベ ー シ ョ ン と 顧 客価 値 の 好 循 環 メ カ ニ ズム を 形 成 し て い く こ とが 大 事 で あ る 。 第 7 章では、本研究の結論及びその考察を提示する。本論文では、事例の分析およ び ア ン ケ ー ト 調 査 の 分析 結 果 に 基 づ き 、 サ ービ ス イ ノ ベ ー シ ョ ン のメ カ ニ ズ ム の 全 体 像 を 明 ら か に し た 。 そ れに 加 え 、 そ の 戦 略 的 サー ビ ス イ ノ ベ ー シ ョ ンの 基 盤 と な る 要 因 と し て 、 サ ー ビ ス の 充 実化 を 取 り 込 ん だ 経 営 戦略 の 必 要 性 を 提 言 し たい 。 そ の サ ー ビ ス イ ノ ベ ー シ ョ ン 志 向 の 経営 戦 略 に は 、 ト ッ プ 自ら 積 極 的 か つ 戦 略 的 に関 与 し 、 社 会 ト レ ン ド の 洞 察 力 、 オ ー プ ンイ ノ ベ ー シ ョ ン 力 と サー ビ ス 志 向 の 従 業 員 教育 力 を 活 用 す る こ と が 大 事 で あ る 。 そ し て、 日 本 市 場 を は じ め 、ア ジ ア 市 場 に お い て は、 サ ー ビ ス の 充 実 化 に 力 を 入 れ た 日 本 企 業は 顧 客 価 値 を 高 め る サー ビ ス イ ノ ベ ー シ ョ ンを 実 現 し 、 競 争 優 位 性 を 示 す こ と で 、 ア ジア 事 業 の 成 功 に 導 い たこ と が 明 ら か に な っ た。 す な わ ち 、 日 本 企 業 が ア ジ ア 事 業 を 展 開す る 際 、 顧 客 価 値 を 高め る に は サ ー ビ ス イ ノベ ー シ ョ ン の 実 現 が 必 要 な の で あ る 。 そ のた め 、 経 営 戦 略 と し て、 サ ー ビ ス の 充 実 化 に力 を 入 れ る こ と が 不
NGUYEN THI TRUC QUYNH 5 可 欠 で あ る と 結 論 付 ける こ と が で き る 。 つ まり 、 認 知 さ れ た 顧 客 価値 に 基 づ く 戦 略 的 サ ー ビ ス イ ノ ベ ー シ ョ ンの パ ラ ダ イ ム を 提 示 した い 。 1 本研究において、顧客視点での商品を先行研究(Edvardsson ,1997; 近藤, 1999)に依拠 し 、 一 般 的 に 製 品 、 サー ビ ス 、 ソ フ ト ウ ェ アな ど 、 い わ ゆ る 有 形 のモ ノ と 無 形 の モ ノ 、 あ る い は 有 形 の 要 素 と無 形 の 要 素 の 組 み 合 わせ と す る 。
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第 1 章 研究の背景と研究目的
2017 年 1 月 12 日 、Boston Consulting Group (BCG)が 発 表 し た イ ノ ベ ー シ ョ ン に 関 す る 調 査 レ ポ ー ト「 The Most Innovative Companies 2016: Getting Past "Not Invented Here"」 に よ れ ば 、 最 も イ ノ ベー シ ョ ン に 優 れ た 企 業の ラ ン キ ン グ の 中 で 、日 本 企 業 で は 、 ト ヨ タ が 8 位 (2015 年:6 位)、NTT ドコモが 39 位(2016 年には初のランキング入り)、ホ ン ダ が 48 位 (2013 年 以 来 の ラ ン キ ン グ 入り )の 3 社 が ラ ン キ ン グ に 入 る に と ど ま っ て い る1。そ の ラ ン キ ン グで は 、上 位 4 位までの 順位は 2015 年と変わら ず アップル が調 査 開 始 以 来 の 首 位 を 獲得 し 続 け 、 2 位は 3 年 連続でグーグル、2015 年の 3 位の テス ラ モ ー タ ー ズ が 今 回 も順 位 を 守 り 、 4 位は マ イクロソフト (5 年連続 )となっている。同 調 査 の 2015 年のランキングには、日本企業 5 社がランクインしていた。図表 1- 1 が示 す よ う に 、 イ ノ ベ ー ショ ン が 企 業 の 競 争 力 の源 泉 で あ る と い う 視 点か ら は 、 日 本 企 業 の 競 争 力 が 低 下 し て い る傾 向 が み ら れ る 。 図 表 1-1 イノベーシ ョン企業ランキング 50 社(2016 年) ( 出 所 : BCG Global Innovation Survey, 2016 よ り)
第 1節 研 究 の 問 題 意 識 の 提 示
NGUYEN THI TRUC QUYNH 7 努 力 し て き た 。 日 本 企業 の 収 益 性 は 、 円 安 に支 え ら れ 、 最 近 で は 改善 傾 向 を 見 せ た が 、 台 湾 の 鴻 海 に 売 却 さ れた シ ャ ー プ の 事 例 の よう に 、 日 本 企 業 の 戦 略の 調 整 は ま だ 現 在 進 行 形 で あ る 。 こ れ は 長期 不 況 の 初 期 、 日 本 が当 時 の 経 済 状 況 の 認 識を 正 し く し て い な か っ た 結 果 、 方 向 が 見 つか ら ず 、 戦 略 の 混 乱 を見 せ た か ら だ と す る こと が で き る 。 初 期 の 戦 略 的 ミ ス の 後 遺 症 が次 の 時 期 の 戦 略 に 歪 みを も た ら し 、 日 本 企 業の 収 益 回 復 を よ り 困 難 に し た も の と 考 え られ る 。 長 期 不 況 の き っ か け とな っ た バ ブ ル の 崩 壊 は 1991 年から始まったが、1991 年当時、 日 本 経 済 の 成 長 率 は 3.4%に達しっていたため、日本政府と企業は、問題の深刻さを正 確 に 把 握 で き な か っ た 。 経 済 産 業 委 員 会 調 査 室(2013)によると、バブル崩壊は不動産、 建 設 、 金 融 業 界 の 問 題で あ り 、 日 本 の 製 造 業は 、 堅 実 だ と い う 認 識が 広 ま っ て い た 。 日 本 経 済 の 成 長 率 が 1993 年に 0.17%までに落ち込んだ時点でも、ほとんどの日本企業は こ れ を 通 常 の 景 気 循 環と み な し 、 バ ブ ル 崩 壊で 悪 化 し た 財 務 構 造 の改 善 に 焦 点 を 当 て な が ら 、 既 存 の 日 本 式 経営 を 強 化 す る 戦 略 を 固守 し た 。 景 気 の 悪 化 で 、製 造 業 で は 過 剰 設 備 、過 剰 人 員 、過 剰 債 務 な ど の 3 大過剰の問題が台 頭 し た が 、 企 業 は コ スト の 削 減 、 経 費 削 減 など 、 通 常 の 不 況 対 策 に重 点 を 置 い て 、 根 本 的 な 革 新 に 取 り 組 ん で こ な か っ た 。1990 年 代だけでも日本式経営の自信が大きかった の で あ る 。 当 時 、 世 界ト ッ プ ク ラ ス の 競 争 力を 持 っ て い た 日 本 の 電子 産 業 で は 、 ソ ニ ー が ウ ォ ー ク マ ン を カ セ ッ ト 型 か ら MD2に 変 え る な ど 改 良 型 製 品 の 開 発 に 重 点 を 置 い て い た 。 こ の よ う な 従 来の 改 良 型 製 品 戦 略 と コス ト 削 減 対 策 が 徐 々 に限 界 を 露 呈 し て き た 中 で 、日 本 の 不 況 は 長期 化 し た 。1990 年代末から 2000 年代初頭には、日本企業全体の 不 調 が 拡 大 し 、 こ れ らを 支 援 し て き た 大 手 銀行 の 経 営 も 悪 化 し た 。実 際 に 商 業 銀 行 で あ っ た 北 海 道 拓 殖 銀 行 が破 産 す る こ と に よ り 、日 本 経 済 の 全 体 的 な 危機 感 が 高 ま っ た 。 企 業 の 不 良 債 権 処 理 と産 業 戦 略 の 調 整 を 先 送り し て 低 成 長 が 長 期 化し 、 銀 行 の 不 良 債 権 が さ ら に 積 み 上 が って 、 最 終 的 に 銀 行 自 体の 不 健 全 化 に つ な が った の で あ る 。 金 融 界
NGUYEN THI TRUC QUYNH 8 で は 担 当 者 が そ の 企 業の 債 務 が 自 分 の 在 任 期間 に さ ら さ れ な い よ うに 追 加 の 支 援 を す る 事 態 も 発 生 し 、 最 終 的に 不 良 債 権 の 規 模 を 拡大 さ せ た 。 こ の よ う に、 日 本 企 業 や 銀 行 の 意 思 決 定 プ ロ セ ス は 急速 に 変 化 す る 経 済 環 境に 果 敢 な 決 断 を せ ず 、根 本 的 な 戦 略 の 調 整 の 遅 れ を 招 い た と 考 えら れ る 。 日 本 企 業 は その 場 の 経 費 節 減 対 策 に集 中 し た た め 、 成 長 事 業 を 強 化 で き ず 、徐 々 に 競 争 力 が 弱 ま っ た。銀 行 の 不 良 債 権 問 題 が 深 刻 化 し 、1997 年 に 4 大証券会社の一角であった山一証券の倒産、1998 年の北海道拓殖銀行の破産とい う 金 融 危 機 に 陥 り 、 徐々 に 戦 略 の 調 整 が 本 格化 し た 。 既 存 の 日 本 式経 営 の 自 信 が 崩 れ 、 グ ロ ー バ ル ス タ ン ダ ード を 導 入 し な け れ ば なら な い と い う 認 識 が 広が っ た( 鶴 、2005)。 日 本 企 業 と 産 業 の 発 展を 支 え て き た 終 身 雇 用制 、 年 功 序 列 制 な ど が企 業 の 戦 略 の 調 整 の 障 害 と し て 認 識 さ れ、 日 本 式 経 営 の 基 礎 であ っ た 雇 用 シ ス テ ム も変 化 し 始 め た 。 年 俸 制 が 広 が っ て 、 非 正 規職 の 活 用 も 拡 大 し た 。大 企 業 の 場 合 、 正 規 職に 関 し て は 、 終 身 雇 用 慣 行 が 持 続 さ れ た が、 同 期 入 社 者 の 中 で も、 徐 々 に 昇 進 と 年 俸 の差 が 大 き く な っ た 。 し か し 、 雇 用 削 減 、 賃金 抑 制 に も か か わ ら ず、 売 上 高 は 減 少 し 、 新規 事 業 の 開 拓 も 不 振 に 直 面 す る 場 合 が 多く 、 収 益 率 の 回 復 は 容易 で は な か っ た 。 長 期間 に わ た り 緩 や か に 進 行 し た 日 本 企 業 の 雇用 調 整 に 国 全 体 の 戦 略の 調 整 期 間 も 長 く な り、 消 費 不 振 、 経 済 停 滞 を 脱 す る こ と が よ り困 難 に な っ た 。 結 果 的に 日 本 企 業 が い く ら 経費 を 削 減 し て も 、 収 益 を 増 や す の が 困 難 な状 況 と な っ た 。ま た、グロ ー バ ル ス タ ン ダ ー ドを 機 械 的 に 導 入 し 、 四 半 期 の 収 益 に 焦 点 を当 て た 短 期 成 果 を 強 調よ う に な る と 、 日 本 企業 の 長 所 で あ っ た 長 期 的 視 点 で の 技 術 や 製品 の 開 発 投 資 が 後 退 する 副 作 用 が 現 れ た(小松、2011)。 た だ し 、 グ ロ ー バ ル スタ ン ダ ー ド が 広 が る こと で 、 日 本 で の 競 合 他社 間 の 事 業 統 合 や 企 業 合 併 に よ り 過 剰 設備 の 問 題 を 解 決 し よ うと す る 動 き が 徐 々 に 活気 を 帯 び る よ う に な っ た 。2000 年代初頭には銀行、鉄鋼、石油化学、電気電子などの主要産業で大企業間の 統 合 が 行 わ れ た 。20 個以上であった商業銀行が大規模な 3 大メガバンクが主導する体制 に 再 編 さ れ た 。2001 年に三井グループのさくら銀行と住友グループの住友銀行が合併
NGUYEN THI TRUC QUYNH 9 す る な ど 、戦 後 の 日 本経 済 を 主 導 し て き た 6 大企業の集団間の企業統合や事業統合まで 行 わ れ な が ら 、企 業 の再 編 が 加 速 さ れ た 。この 過 程 で 、企 業 内 の 相互 出 資 比 率 が 低 下 し 、 企 業 集 団 の 関 係 が 弱 まっ た 。 グ ル ー プ 内 の 銀行 と 大 企 業 、 中 堅 中 小企 業 ま で 網 羅 し た 系 列 融 資 と い う ク レ ジ ット シ ス テ ム が 弱 く な った の は 、 長 期 的 視 点 から の 研 究 や 投 資 活 動 を 萎 縮 さ せ る 効 果 も あっ た が 、 採 算 性 の な い事 業 の 早 期 撤 退 の 調 整を 促 進 す る 効 果 が あ っ た 。経 済 産 業 省「 平 成25 年度 製造基盤技術実態等調査」より図表 1-2 が示したよう に 日 本 企 業 の 合 併 の 推移 を み る と 、1990 年代後半から 2000 年代初めにかけて大きく拡 大 し て い る 様 子 が 見 てと れ る 。 図 表 1-2 形態別からみた全産業のM&A件数の推移(形態別)(単位: 件) ( 出所:経済産業省「平成 25 年度 製造基盤技術実態等調査」より) 2000 年代半ば以降、日本企業の戦略の調整の成果が一部可視化されてくる中で、短期 志 向 の 問 題 を 抑 制 し 、日 本 式 経 営 の 利 点 を 組み 合 わ せ す る 努 力 が 多く な っ た 。 成 果 主 義 の 年 俸 制 を 導 入 し た 日本 企 業 の 場 合 も 、 新 規採 用 後 の 一 定 期 間 ま では 年 功 序 列 的 な 要 素 を 再 強 化 す る 一 方 、 成果 評 価 で 育 成 や 組 織 への 貢 献 な ど を 考 慮 す る傾 向 が 強 ま っ た 。 経 済 産 業 省 が 公 表 し た「 イ ノ ベ ー シ ョ ン を 推 進す る た め の 取 組 に つ いて 」( 平 成 28 年)に よ り 、 日 本 企 業 は グ ロー バ ル ス タ ン ダ ー ド の導 入 に よ り 、 過 度 に 短期 の 成 果 の 達 成 に 偏
NGUYEN THI TRUC QUYNH 10 っ た 視 点 を 変 更 し な がら 、 中 長 期 的 な 技 術 開発 お よ び ビ ジ ネ ス の 投資 戦 略 を 強 化 し た 。 特 に 素 材 分 野 で は 、炭素 繊 維 や 水 処 理 に お ける 分 離 技 術 、IT 機器関連素材など数十年の 間 の 研 究 開 発 成 果 を もと に し た 製 品 の イ ノ ベー シ ョ ン の 効 果 が 現 れ始 め た 。 既 存 の 慣 行 や 経 営 シ ス テ ム で 捨 てる 部 分 と 捨 て て は な らな い 部 分 を 確 認 し な がら 、 時 代 の ト レ ン ド に 合 わ せ て イ ノ ベ ー ショ ン を 追 求 す る 方 向 が強 ま っ て い る の で あ る。 図 表 1-3 トヨタグループの研究・開発体制 (出所:トヨタ自動車 HP より) ト ヨ タ で は 、「 基 礎 研 究開 発 」「 先 行 技 術 開 発」「 製 品 開 発 」の 開 発 フェ ー ズ を 通 し て 研 究 ・ 開 発 に 取 り 組 ん でお り 、 こ れ ら の 開 発 フェ ー ズ が 連 携 ・ 融 合 し合 う こ と で 、 最 少 の 時 間 で 、 先 進 的 、 高 品質 で 魅 力 的 な ク ル マ が継 続 的 に 開 発 さ れ て いる 。 ト ヨ タ の よ う な 企 業 は 、 既 存 事 業 の 合理 化 と 戦 略 の 調 整 だ けで な く 、 中 長 期 的 な 利益 創 出 力 を 強 化 す る た め の 新 規 成 長 事 業 の開 拓 と 育 成 に も 積 極 的な 姿 を 見 せ て き た 。 トヨ タ 自 動 車 は 、 日 常 的 な 製 造 現 場 で の 合 理化 、製 品 設 計 段 階 で のコ ス ト 削 減 に 優 れ て いる が 、1990 年代末に ハ イ ブ リ ッ ド 車 を 開 発し て 、2000 年代に普及させることに成功しているなど、絶えず新 製 品 の 開 発 能 力 を 強 化し な が ら 、 収 益 性 の 向上 に 成 功 し て い る 。 トヨ タ の 強 み は 、 ト ヨ タ 生 産 シ ス テ ム に あ ると の 誤 解 も 多 い が 、 実際 に は 、 ト ヨ タ の 製 品開 発 シ ス テ ム は 、 ト
NGUYEN THI TRUC QUYNH 11 ヨ タ の 強 み の 一 つ と 考え ら れ る 。 一 方 政 府 は 、長 期 不 況 突 入 後 の 相 当 期 間 、産 業 の 調 整 を 主 導 し て いな か っ た が 、1990 年 代 末 頃 に 、 日 本 経 済の 危 機 が 高 ま る と 産 業再 生 政 策 を 模 索 し 始 めた 。 過 去 の 通 商 産 業 省 ( 現 経 済 産 業 省 ) は、 景 気 が 後 退 し て 過 剰設 備 の 問 題 が 台 頭 す るた び に 、 民 間 企 業 に 対 す る 行 政 指 導 を 通 じて 過 剰 設 備 の 廃 棄 、稼働 率 の 調 整 な ど を 誘 導し た が 、1990 年代以 降 に は 、 企 業 に よ る 自主 的 な 統 合 を サ ポ ー トす る 姿 勢 に 転 じ た 。 もち ろ ん 、 主 要 な 製 造 業 で の 企 業 間 統 合 プ ロセ ス な ど 、 政 府 の 影 響力 が 作 用 し た の は 事 実で あ る 。 図 表 1-4 産業革新機構の枠組 ( 出 所 : 産 業 革 新 機 構 HP より) 1999 年に導入された「産業活力再生特別措置法(産業再生法)」は、民間企業の間の 統 合 と 事 業 統 合 の 税 制・ 金 融 支 援 と 独 占 禁 止の 例 外 の 適 用 な ど を 制度 的 に 可 能 に し た 。 企 業 の 統 合 と 構 造 調 整 を 通 じ た 産 業 の 新 陳 代 謝 を 狙 っ た も の で あ る 。 産 業 再 生 法 は 、 2003 年、2007 年に拡大延長された後、2009 年に「産業活力の再生及び産業活動の革新
NGUYEN THI TRUC QUYNH 12 に 関 す る 特 別 措 置 法 (産 業 活 力 法 )」 に 名 称 が改 正 さ れ た 後 、2014 年に安倍政権で「産 業 競 争 力 強 化 法 」 が 施行 さ れ た 。 ま た 、 経 済産 業 省 経 済 産 業 政 策 局 が 公 開 し た 「 株 式 会 社 産 業 革 新 機 構 に つ いて 」( 平 成 25 年)により、産業再生法を側面支援する政府系ファ ン ド で あ る 産 業 再 生 機構 が 、 様 々 な 企 業 の 統合 、 事 業 統 合 計 画 に 資金 を 支 援 し た 。 こ れ は2009 年以来、産業革新機構に改編されて活動している。 こ の よ う な 政 府 の 産 業再 生 政 策 で は 、 過 去 の経 済 産 業 省 の 独 占 禁 止政 策 を 担 当 す る 公 正 取 引 委 員 会 が 事 業 者と 対 立 し て い た 姿 は 見え な く な っ た 。 事 業 統合 で 市 場 支 配 力 が 強 化 さ れ る こ と が で き る様 々 な 案 件 に つ い て 、経 済 産 業 省 と 各 省 庁 が省 庁 間 協 力 す る こ と が で き る 政 策 推 進 体 制を 整 え た か ら で あ る 。経 済 産 業 省 の 平 成 21 年の公表資料(「我が 国 の 産 業 活 力 の 再 生 及び 産 業 活 動 の 革 新 に 関す る 基 本 的 な 指 針 」)によ り 、産 業 再 生 政 策 を 複 数 省 庁 が 水 平 的 に推 進 す る 形 を 整 え た ので 総 合 調 整 の 役 割 が 強化 さ れ た 。 政 府 の こ の よ う な 産 業再 生 政 策 は 鉄 鋼 、 造 船、 化 学 な ど の 大 規 模 な製 造 業 の 調 整 を 促 進 す る 効 果 を 発 揮 し た。 ま た 、 経 営 危 機 を 経験 し て い た 各 地 方 の 中小 企 業 の 活 力 向 上 に も 貢 献 し た 。 株 式 会 社ダ イ エ ー の 資 料 に よ ると 、 日 本 最 大 の 流 通 企業 で あ っ た ダ イ エ ー が 2000 年代の経営危機の中で破産を免れることができたのも、産業再生法を活用し、 産 業 再 生 機 構 か ら の 資金 支 援 を 受 け た た め であ り 、 そ の 後 ダ イ エ ーは 2013 年に順調に 巨 大 流 通 会 社 で あ る「 イ オ ン 」に 統 合 す る こ と が で き た 。2006 年に当時の小泉首相によ っ て 新 経 済 成 長 戦 略 が初 め て 示 さ れ て か ら 、歴 代 政 権 の 成 長 戦 略 は大 き な 成 果 を 上 げ ら れ な い ま ま 政 権 が 変 わる た び に 、 新 た な 成 長戦 略 が 提 示 さ れ て き た。 た だ し 、 こ れ ら の ポ リ シ ー は 、 名 称 な どが 変 わ っ て も 、 日 本 が自 ら イ ノ ベ ー シ ョ ン を主 導 し 、 成 長 産 業 を 発 展 さ せ る た め に は 、基 礎 技 術 、 応 用 技 術 、企 業 の 製 品 開 発 な ど を網 羅 す る イ ノ ベ ー シ ョ ン シ ス テ ム を 構 築 する 必 要 が あ る と い う 基本 的 な 方 向 は あ る 程 度維 持 さ れ て き た の で 、 ポ リ シ ー の 累 積 的 な 効果 の 面 で 肯 定 的 な 側 面も あ っ た 。 経 済 産 業 省が 公 開 し た 「 経 済 成 長 戦 略 大 綱 」に よ り 、グ リ ー ン イ ノ ベ ー シ ョン 、IT イノベーション、新素材のイノベー シ ョ ン 、 ヘ ル ス ケ ア 新事 業 育 成 な ど 、 次 世 代成 長 産 業 を 育 成 し よ うと す る 政 策 の 効 果 が
NGUYEN THI TRUC QUYNH 13 少 し ず つ 蓄 積 さ れ て いる 状 況 で あ る 。 図 表 1-5 再生可能エネルギー等による設備容量の推移 ( 出所:資源エネルギー庁「再生可能エネルギーの効率的な導入について 」より) グ リ ー ン イ ノ ベ ー シ ョン の 場 合 、2011 年の東日本大震災の後より加速され、太陽光、 風 力 、 水 力 な ど の 再 生 可 能 エ ネ ル ギ ー の 電 力 生 産 の 場 合 、2012〜2014 年の間に年平均 33%の増加を示した。パナソニック株式会社の資料によれば、再生可能エネルギーが急 成 長 す る 中 で 、 様 々 な環 境 に や さ し い エ ネ ルギ ー 関 連 産 業 も 成 長 しな が ら 、 技 術 力 を 高 め て お り 、 パ ナ ソ ニ ック は 2016 年にシリコン系太陽電池のモジュール電力変換効率を 23.8%に上げ、これまで世界最高だった米国のサンパワーの 22.8%を上回った。パナソ ニ ッ ク は ア モ ル フ ァ スシ リ コ ン 素 材 を 混 合 する ヘ テ ロ 構 造 の 素 材 技術 と 高 発 電 効 率 を 達 成 し た も の で あ る 。 政 府 は こ の よ う な 民 間主 導 の 新 成 長 産 業 を 促進 す る た め の 規 制 緩 和を 進 め て い る 。 特 定 の 産 業 を 集 中 育 成 する 方 式 で あ る 過 去 の 産業 政 策 の 比 重 は 低 く なっ た が 、日 本 政 府 は、 民 間 企 業 と の 対 話 、 協議 な ど を 通 じ て 、 次 世代 産 業 の ビ ジ ョ ン を 共有 し 、 共 感 を 形 成 す る た め に 努 力 し て い る。そ し て 、経 済 産 業 省が 平 成28 年 4 月 27 日に公開した「新産業
NGUYEN THI TRUC QUYNH 14 構 造 ビ ジ ョ ン - 第 4 次産 業 革 命 を リ ー ド す る日 本 の 戦 略 」 に よ り 、こ の よ う な 次 世 代 の 有 望 産 業 の 方 向 に 合 わせ て 新 た な 成 長 産 業 を形 成 す る た め の 国 家 戦略 と し て の 技 術 投 資 、 資 金 支 援 な ど を 着 実 に実 施 し て い る 。 内 閣 府 の 資 料 に よ る と、 ア ベ ノ ミ ク ス の 重 要政 策 の 一 つ で あ る 産 業の 競 争 力 強 化 法 は 企 業 が 新 規 事 業 を 検 討す る 際 に 、 当 該 事 業 が適 切 で あ る か ど う か を政 府 が 解 釈 し た 。 政 府 は 既 存 の 法 律 の 限 界を 克 服 し な が ら 、 行 政の 主 導 性 と 柔 軟 性 を 高め 、 民 間 企 業 の 創 造 活 動 の 支 援 を 開 始 し た。 一 方 、 長 期 不 況 の ト ンネ ル を 脱 却 し た 日 本 企業 は ア ジ ア 市 場 へ の 進出 を 強 化 し て い る 。 日 本 企 業 は 、 ア ジ ア 市場 の 中 間 所 得 層 を ボ リュ ー ム ゾ ー ン (Volume Zone)と定義し、 集 中 進 出 し 始 め た 。 図 表 1-6 アジアの中間層の推移 ( 出 所 : 経 済 産 業 省 「通 商 白 書2010」より) 図 表 1-6 と図表 1-7 からわかるように、中国をはじめとするアジアの主要市場の中間
NGUYEN THI TRUC QUYNH 15 所 得 層 が 、2020 年には 20 億人に拡大すると見られるなど、今後、アジア市場の高い経 済 成 長 と と も に ボ リ ュー ム ゾ ー ン が 大 き く 拡大 す る と 予 想 さ れ て いる 。 こ の ボ リ ュ ー ム ゾ ー ン を 開 拓 す る た めに 、 日 本 企 業 は 、 ア ジア 市 場 の 現 地 消 費 者 の好 み に 合 っ た 製 品 機 能 の 開 発 と 価 格 低 減 に注 力 し て い る 。 現 地 拠点 の 製 造 ノ ウ ハ ウ の 向上 と 現 地 の 研 究 開 発 体 制 も 強 化 し て い る 。日 本 企 業 は 大 卒 の 新 規従 業 員 の 採 用 も 外 国 人を 優 先 し な が ら 、 ア ジ ア 市 場 の 現 地 窓 口 を利 用 し て お り 、 こ れ をグ ロ ー バ ル レ ベ ル で 活用 す る リ バ ー ス イ ノ ベ ー シ ョ ン 体 制 の 構 築に 乗 り 出 し て い る 。経済 産 業 省 の「 通 商 白 書2010」によると、ア ジ ア 市 場 に 対 す る 日 本企 業 の 投 資 規 模 も 大 きく 増 え て い る 。 市 場 の消 費 者 の 購 買 力 が 増 大 さ れ 、 消 費 市 場 と して の 価 値 が 高 ま っ て いる 。 図 表 1-7 アジア新興国における所得階層別人口の推移 ( 出 所 : 経 済 産 業 省 「通 商 白 書2010」より)
世 界 銀 行(World Bank)の「Global Economic Prospects 2007」によると、中国、イン ド 、 イ ン ド ネ シ ア な どア ジ ア 市 場 で の 中 産 階級 に 分 類 す る こ と が でき る 消 費 者 の シ ェ ア は 4.2%から 2030 年までに 15%に達すると予想されている。消費市場として市場の躍 進 は 、 既 に 可 視 化 さ れて い る 。 国 際 電 気 通 信連 合 (ITU)によると 2017 年に BRICs 地
NGUYEN THI TRUC QUYNH 16 域 の 携 帯 電 話 加 入 者 数は 約 3 0 億 人 を 越 え てい る 。 ア ジ ア 市 場 の 世界 市 場 の 成 長 寄 与 率 が60%に達している。 日 本 の 景 気 の 回 復 は 根本 的 に 世 界 的 な 需 要 拡大 に 伴 う 輸 出 好 調 に 起因 す る 。 国 内 市 場 の 成 長 は 鈍 化 し て お り、 消 費 も 停 滞 が 予 想 され て い る 。 ま た 、 産 業内 調 整 が 進 展 し 、 過 去 に 比 べ て 固 々 の 企 業の 事 業 構 造 面 で の 選 択と 集 中 が 行 わ れ た こ とか ら 、 も は や 国 内 市 場 だ け で は 満 足 で き ない 状 況 と な っ た 。 し たが っ て 、 日 本 企 業 の グロ ー バ ル 化 は 避 け ら れ な い 選 択 で も あ る 。今 ま で は 、 す で に 市 場が 形 成 さ れ て い る 先 進国 市 場 を 中 心 に 事 業 を 展 開 し て き た が 、中 国企 業 を は じ め と す る 競合 他 社 と の 熾 烈 な 競 争を 繰 り 広 げ て お り 、 持 続 的 な 成 長 を 保 証 する こ と は で き な い 状 況で あ る 。 し た が っ て 、日 本 の 企 業 が 海 外 市 場 を 拡 大 す る た め に は、 別 の 成 長 軸 が 必 要 であ り 、 そ れ が ア ジ ア 市場 で あ る 。 図 表 1-8 2013 年 ASEAN 新興国における主要耐久財の普及率状況 ( 出 所 : 経 済 産 業 省 「平 成 26 年度新興国市場開拓事業調査報告書」より)
NGUYEN THI TRUC QUYNH 17 ア ジ ア 市 場 は 、 市 場 規模 に 比 べ て ま だ 主 要 製品 の 普 及 率 が 高 く な く、 成 長 の 可 能 性 が 非 常 に 大 き い 状 況 で ある 。 ア ジ ア 市 場 を 主 に 生 産基 地 の 観 点 で 見 て き た日 本 企 業 が 、 消 費 市 場と し て の ア ジ ア 市 場 で 長 期 的 に ど の よ うに 大 き な 成 果 を 収 め るか は 、 今 後 見 守 る 必 要も あ る が 、 ボ リ ュ ー ム ゾ ー ン は 先 進 国 の 基準 で は 、 低 所 得 層 の 市場 に 属 す る た め 、 こ の市 場 の 開 拓 は 日 本 企 業 の 既 存 の プ レ ミ ア ムブ ラ ン ド イ メ ー ジ と の摩 擦 も あ る だ ろ う 。 しか し 、 資 生 堂 の よ う に プ レ ミ ア ム ブ ラ ン ドを 維 持 し な が ら 、 マ ルチ ブ ラ ン ド 戦 略 を 使 用し て 成 果 を 上 げ て お り 、 日 産 自 動 車 は ア ジア 市 場 ベ ー ス の コ ス トイ ノ ベ ー シ ョ ン を 達 成し て い る 。 日 本 企 業 の ア ジ ア 市 場 で の 営 業利 益 も 大 き く 増 え て いる 。 日 本 企 業 の 戦 略 は単 に ア ジ ア 市 場 戦 略 に 終 わ る の で は な く 、ボ リ ュ ー ム ゾ ー ン に 基づ い て 、 次 世 代 製 品 のグ ロ ー バ ル リ ー ダ ー シ ッ プ を 回 復 す る と いう 全 世 界 の 戦 略 の 一 環と し て 展 開 さ れ て い る( 小 林 等,2013)。 競 争 戦 略 の 次 元 で 先 進国 の 競 合 企 業 と 新 興 国企 業 へ の 対 応 を 考 え る必 要 が あ る 。 今 後 、 高 成 長 が 予 想 さ れ る 市場 に 今 か ら で も 本 格 的に 進 出 し 、 先 進 国 の 競合 企 業 の 市 場 で の 地 位 を 弱 体 化 さ せ 、 同 時に 新 興 国 企 業 の 成 長 も牽 制 す る と い う も の であ る 。 日 本 企 業 は 長 期 不 況 を 経 験 し な が ら、 市 場 で の 主 導 権 を 失っ て き た が 、 イ ノ ベ ーシ ョ ン と そ の 背 景 に な る 技 術 力 に お い て は、 ま だ 秀 れ て い る と 考え ら れ る 。 し た が っ て、 日 本 企 業 の 市 場 進 出 の 強 化 は イ ノ ベ ー ショ ン と 技 術 力 を 基 礎 に、 手 遅 れ に な る 前 に 、市 場 で の 先 進 国 の 競 合 企 業 と 新 興 国 企 業 の独 走 を 防 ぐ と い う 意 味が あ る 。 さ て 、日 本 企 業 は 、イ ンテ リ ジ ェ ン ト で 個 性 を持 っ た 製 品 開 発 で も 対応 し て き て い る 。 自 律 走 行 車 は 、 自 動 車で は な く 、 新 し い 自 動運 転 車 、 既 存 製 品 の コン セ プ ト を 根 本 的 に 革 新 し て い る 。 ス ニ ーカ ー や 服 、 家 電 製 品 にも 知 性 を 持 つ 新 製 品 コン セ プ ト の 革 新 が 出 始 め た 。 例 え ば 、 シ ャー プ が 2015 年末に発売 した電子レンジは、 顧客の習性を把握し、 そ れ に 合 わ せ た サ ー ビス の 提 供 を す る こ と を製 品 コ ン セ プ ト と し た。た と え ば 、「海 鮮 焼 き そ ば 」 を 調 理 す る 場合 、 家 に あ る お 好 み の野 菜 と 、 買 い 置 き し てい る 冷 凍 シ ー フ ー ド
NGUYEN THI TRUC QUYNH 18 や 麺 な ど を 凍 っ た ま ま角 皿 に 並 べ 、 一 緒 に 調理 す る こ と が 可 能 で ある 。3 こ れ ら の 製 品 の ス マ ート 化 の た め に は 、 エ コシ ス テ ム の 活 用 が 重 要で あ る 。 製 品 と 製 品 、 人 間 と 製 品 の 接 続効 果 に 基 づ い て 、 エ コシ ス テ ム が 形 成 さ れ 、製 品 の 機 能 や 品 質 の 向 上 に 活 用 さ れ て い る。 例 え ば 、 自 律 走 行 車は 、 顧 客 の 音 楽 の 好 みを 把 握 し 、 適 切 な ス ピ ー カ ー 製 品 の 販 促 イベ ン ト を 紹 介 し 、 明 日の ド ラ イ ブ 前 に 自 分 の状 態 を チ ェ ッ ク し な が ら 、 朝 に ド ア を 開 ける 、 部 品 状 態 を ア ド バイ ス す る 機 能 な ど が 現実 化 さ れ て い る 。 自 動 車 の エ コ シ ス テ ム は、 ハ ー ド ウ ェ ア や ソ フト ウ ェ ア だ け で な く 、無 数 の サ ー ビ ス が 含 ま れ て い る 。 パ ナ ソ ニッ ク は ト ヨ タ と 提 携 して 、 ユ ー ザ ー が 車 で 帰宅 す る タ イ ミ ン グ で エ ア コ ン の 起 動 を お 知ら せ す る 機 能 を 提 供 して お り 、 大 和 ハ ウ ス と HEMS サービス4を 通 じ て 、 省 エ ネ 機 能 を提 供 す る5。 こ れ ら の 製 品 の ス マ ート 化 で 日 本 企 業 が 念 頭に 置 い て い る の は 、 新し い 顧 客 価 値 づ く り で あ る 。 経 済 産 業 省が 公 開 し た 「 新 産 業 構造 ビ ジ ョ ン 」( 平 成 28 年)によると、製品 の 価 値 は 、 ハ ー ド ウ ェア 、 ソ フ ト ウ ェ ア 自 体よ り 新 し い 顧 客 価 値 づく り の に 依 存 し て い る か ら で あ る 。 単 純 に家 電 製 品 を イ ン タ ー ネッ ト に 接 続 す る な ど 、既 存 の 製 品 の 改 善 と 進 化 を 考 え る の で は なく 、 新 し い 顧 客 価 値 づく り を 先 に 構 想 し 、 ここ に 合 わ せ て ソ フ ト ウ ェ ア を 次 の 目 的 に 考え て 、 最 後 に 、 ハ ー ドウ ェ ア を 開 発 す る と いう 戦 略 で あ る 。 ま た 、2006 年に、経済産業省で行われた「サービス産業の生産性向上とサービスイノ ベ ー シ ョ ン に 関 す る 研究 会 」 に よ り 、 2007 年 に経済団体「サービス産業生産性協議会 」 ( SPRING と略称される)が設立された。それは日本におけるサービスイノベーション へ の 本 格 的 な 取 り 組 みの 第 一 歩 と し て 見 ら れる 。 サ ー ビ ス 産 業 生 産性 協 議 会 の ホ ー ム ペ ー ジ の 情 報 に よ れ ば 、こ の 組 織 は 、 日 本 生 産性 本 部 の 全 面 的 な 支 援を 受 け 、 経 済 産 業 省
NGUYEN THI TRUC QUYNH 19 だ け で な く 文 部 科 学 省、 総 務 省 、 農 林 水 産 省な ど も 参 加 し 、 東 京 大学 を は じ め と す る 大 学 や 研 究 機 関 か ら の 参加 も 得 た 産 学 連 携 の プラ ッ ト フ ォ ー ム と し て活 動 を は じ め た 。 ア マ ゾ ン の よ う な 例 をみ れ ば 、 革 新 的 な サ ービ ス は 、 サ ー ビ ス 業 に限 ら ず 、 多 く の 業 界 、 様 々 な 異 な っ た 分野 、 あ ら ゆ る ビ ジ ネ ス領 域 に 大 き な 変 化 を もた ら す に 違 い な い 。 し か し な が ら 、 い ま だに 、 サ ー ビ ス を 対 象 にし た イ ノ ベ ー シ ョ ン のプ ロ セ ス を ど の よ う に モ デ ル 化 し 、 体 系 的に 促 進 さ せ る か に つ いて は 十 分 解 明 さ れ て いな い 。 企 業 が 本 格 的 に サ ー ビ ス イ ノ ベ ー ショ ン に 取 り 組 む 意 欲 を高 め る も の で な く て はな ら な い 。 サ ー ビ ス に 付 加 さ れ た 価 値 の 増進 を も た ら す サ ー ビ スイ ノ ベ ー シ ョ ン の プ ロセ ス を よ り よ く 理 解 す る こ と は 、 国 際 的 競争 優 位 性 の 実 質 的 な 増強 に つ な が る と 考 え られ る 。 一 方 、サ ー ビ ス イ ノ ベー シ ョ ン の プ ロ セ ス は、単 に 現 在 の 顧 客 を 維持 す る だ け で な く 、 新 し い 顧 客 を 企 業 に 引き 寄 せ る も の で あ る こと を 理 解 し な け れ ば なら な い( Gustafsson & Johnson、 2003)。 第 2節 研 究 目 的 2008 年 9 月 の 世 界 的 な 金 融 危 機 は 、 こ れ ま で 世 界 経 済 の 成 長 の 中 心軸 で あ っ た 米 国 、 EU、日 本 な ど の 先 進 経 済 圏 の 相 対 的 な 衰 退 と中 国 、イ ン ド を は じ め と す る ア ジ ア 新 興 国 の 台 頭 と い う 新 し い 流れ を 生 み 出 し た 。 グ ロー バ ル 金 融 危 機 の 震 源地 で あ る 米 国 と 欧 州 先 進 国 は も ち ろ ん 、 これ ら の 国 々 へ の 輸 出 依存 度 が 比 較 的 高 い 日 本に も 直 接 的 な 影 響 を 及 ぼ し た 。 日 本 の 場 合、 最 終 財 輸 出 は も ち ろん 、 海 外 生 産 拠 点 の 部品 や 中 間 財 の 輸 出 も
NGUYEN THI TRUC QUYNH 20 大 幅 に 減 少 し 、 国 内 生産 も 大 き な 打 撃 を 受 けた 。 中 間 財 の 輸 出 も 大幅 に 減 少 し 、 国 内 生 産 も 大 き な 打 撃 を 受 けた 。 ア ジ ア 地 域 が 世 界経 済 の 成 長 エ ン ジ ン とな り 、 日 本 政 府 は 、 世 界 的 な 金 融 危 機 の 後も 高 い 経 済 成 長 を 成 し遂 げ て い る ア ジ ア 経 済圏 と そ の 他 の 新 興 国 を 輸 出 の 候 補 地 域 と して 注 目 し た 。2008 年の グローバル金融危機を契機に、日本政府と 企 業 は 、 ア ジ ア 新 興 市場 進 出 戦 略 を 強 化 し てい る 。 政 府 レ ベ ル で は、 ア ジ ア を 中 心 と し た 新 興 国 と の FTA 締結 はもちろんインフラ輸出を強化し、アジア地域の広域開発計画 を 主 導 す る 。 BOP(Base or Bottom Of the economic Pyramid、低所得層) ビジネスサポート 制 度 な ど 、様 々 な 戦 略と 支 援 を 行 っ て い る 。経 済 産 業 省「「 新 中 間 層獲 得 戦 略 」( 平 成 24 年 ) で は 、 企 業 も 、 既存 の 先 進 国 市 場 向 け の高 付 加 価 値 中 心 の 経 営戦 略 で は な く 、 新 興 国 の 中 間 層 ( MOP:Middle Of the economic Pyramid)を重視する方向で経営戦略を再編 し て い る 。 多 く の 企 業は 、 様 々 な 市 場 環 境 にお い て 、 生 活 者 の 視 点で 顧 客 ニ ー ズ を 吸 い 上 げ る こ と で 、 複 雑 な障 壁 を 乗 り 越 え よ う とし て い る 。 そ の た め に、 認 知 さ れ た 顧 客 価 値 の 本 質 を は じ め と し、 顧 客 価 値 を 高 め る サー ビ ス イ ノ ベ ー シ ョ ンを 推 進 す る 経 営 戦 略 の 必 須 条 件 を 解 明 す るこ と に よ り 、 競 争 優 位性 を 獲 得 す る メ カ ニ ズム を 提 示 し て い く 必 要 が あ る 。 こ の よ う な 問 題 意 識 と問 題 設 定 に 基 づ い て 、本 研 究 の 目 的 と し て 、ア ジ ア に 事 業 展 開 す る 日 本 企 業 の 競 争 力強 化 の た め に 、 次 の よう な 戦 略 的 な 示 唆 を 提示 し た い 。 ま ず 、 技 術 と サ ー ビ ス を 結 合 する 事 例 の 提 示 を 介 し てサ ー ビ ス の 革 新 の た めの 分 析 の 枠 組 み を 確 立 し 、 サ ー ビ ス イ ノ ベー シ ョ ン の 構 成 要 素 を明 ら か に す る 。 次 に 、経 営 戦 略 の 視 点 で サ ー ビ ス イ ノ ベ ー シ ョ ンを 推 進 す る メ カ ニ ズ ムを 解 明 す る 。 さ ら に 、日 本 企 業 の IoT の導 入 と 活 用 事 例 の 分 析 を通 じ て 、 海 外 市 場 、 とり わ け ア ジ ア 市 場 に おい て 、 戦 略 的 サ ー ビ ス イ ノ ベ ー シ ョ ン を 促進 す る た め の 適 切 な 経営 戦 略 を 提 示 す る 。 すな わ ち 、 企 業 に と っ て の 大 切 な 顧 客 価 値 の抜 本 的 な 見 直 し の も とに 技 術 と サ ー ビ ス の 組み 合 わ せ を 通 じ た 、
NGUYEN THI TRUC QUYNH 21 日 本 企 業 の 国 際 競 争 力を 向 上 す る た め の 経 営戦 略 の 方 向 性 を 提 示 する こ と を 、 本 研 究 は 目 的 と す る 。 第 3 節 研究 の位置づ けと 研究ア プローチ 時 代 を 問 わ ず 、 製 造 業の 成 功 の 本 質 は 、 よ り良 い 品 質 の 商 品 を 低 コス ト で 生 産 し 、 顧 客 が 希 望 す る 時 間 と 場所 に 提 供 す る こ と か ら始 ま る 。 物 財 を 作 る メー カ ー だ け で な く 、 無 形 財 、 す な わ ち サ ービ ス を 作 っ て 販 売 す る場 合 も 本 質 的 に は 大 きく 変 わ ら な い 。 経 済 産 業 省 製 造 産 業 局 が 公開 し た 「 製 造 業 を め ぐる 現 状 と 課 題 」( 平 成 26 年 ) に よ る と 、 顧 客 が 支 払 う 対 価 、 あ るい は 市 場 価 格 に 比 べ て、 よ り 多 く の 価 値 を 提供 し 、 対 価 が 一 定 で あ る 場 合 は よ り 低 コ スト で 製 品 や サ ー ビ ス を提 供 す る こ と に 優 れ た能 力 を 持 っ た 企 業 が 、 最 終 的 に は 競 争 で 勝 ち、 市 場 で 生 き 残 る 企 業に な る 。 品 質 、 技 術 革新 と コ ス ト 削 減 の た め の 企 業 の 努 力 と 熾 烈な 競 争 は 消 費 者 に 恩 恵を も た ら し 、 産 業 と 国家 経 済 の 成 長 を 導 い て い る 。 一 方 、 中 国 な ど で は 、新 興 国 企 業 の 猛 烈 な 追撃 と 欧 米 企 業 の 強 固 な牽 制 に 挟 ま れ た サ ン ド イ ッ チ を 突 破 する こ と も 、 現 在 、 日 本企 業 が 直 面 し て い る 課題 で あ る 。 最 近 多 く の 日 本 企 業 が 共 通 し て経 験 し て い る 成 長 停 滞、 ま た は 低 成 長 の 徴 候は 、 日 常 的 な レ ベ ル の 改 善 活 動 や 生 産 要 素の 量 的 投 入 拡 大 な ど の既 存 の 対 応 方 法 で 解 決す る の は 難 し い 問 題 だ と 考 え ら れ る 。 。 企業 の バ リ ュ ー チ ェ ー ン全 体 を 根 か ら 揺 る が し、 全 面 的 に 解 体 と 再 結 合 す る ほ ど の イ ノ ベー シ ョ ン を 伴 う と き 、初 め て 新 し い 顧 客 と 市場 を 確 保 す る こ と が で き る 。 そ の 点 で IoT を中心としたサービスイノベーションは日本企業が必要性を認識 し 、 大 胆 な 発 想 の 転 換と 具 体 的 な 実 行 を サ ポー ト す る 便 利 な ツ ー ルに な る と 期 待 さ れ る 。 サ ー ビ ス イ ノ ベ ー シ ョン に 対 す る 研 究 は 、 事例 の 分 析 お よ び 実 証 研究 を 通 じ て ア プ ロ ー チ し 、 サ ー ビ ス イノ ベ ー シ ョ ン の メ カ ニズ ム の 全 体 像 を 明 ら かに し た い 。 そ れ に 加
NGUYEN THI TRUC QUYNH 22 え 、 そ の 戦 略 的 サ ー ビス イ ノ ベ ー シ ョ ン の 基盤 と な る 要 因 と し て 、サ ー ビ ス の 充 実 化 を 取 り 込 ん だ 経 営 戦 略 の必 要 性 を 主 張 し た い 。そ の 経 営 戦 略 に は 、 トッ プ 自 ら が 積 極 的 か つ 戦 略 的 に 関 与 し 、 社会 ト レ ン ド の 洞 察 力 、オ ー プ ン イ ノ ベ ー シ ョン 力 と サ ー ビ ス 志 向 の 従 業 員 教 育 力 を 活 用す る こ と が 大 事 で あ るこ と も 明 ら か に す る 。そ し て 、 日 本 市 場 を は じ め 、 ア ジ ア 市 場 にお い て は 、 サ ー ビ ス の充 実 化 に 力 を 入 れ た 日本 企 業 が 顧 客 価 値 を 高 め る サ ー ビ ス イ ノ ベー シ ョ ン を 実 現 し 、 競争 優 位 性 を 示 す こ と で、 ア ジ ア 事 業 の 成 功 に 導 い た こ と を 明 ら かに す る 。 す な わ ち 、 日本 企 業 が ア ジ ア 事 業 を展 開 す る 際 に 、 顧 客 価 値 を 高 め る た め に は、 サ ー ビ ス イ ノ ベ ー ショ ン の 実 現 が 必 要 不 可欠 で あ る こ と を 示 し て い き た い と 考 え て いる の で あ る 。 そ の た めの 経 営 戦 略 で は 、 サ ービ ス の 充 実 化 に 力 を 入 れ る こ と が 不 可 欠 であ る こ と を 結 論 付 け る。 そ れ を 通 じ て 、 認 知さ れ た 顧 客 価 値 に 基 づ く 戦 略 的 サ ー ビ ス イノ ベ ー シ ョ ン の パ ラ ダイ ム を 明 ら か に す る こと が で き る 。 そ れ を 本 論 文 の 独 自 性 と し て主 張 し た い 。 1 BCG は 、イ ノ ベ ー シ ョ ン に 優 れ た 企 業 や 自 社 の イ ノ ベ ー シ ョ ン へ の 取 り 組 み に つ い て 、 2004 年 か ら こ の 調 査 を 実 施 し て お り 、世 界 各 国 の 広 範 な 業 種 の 経 営 幹 部 を 対 象 に 1,500 名 以 上 か ら 回 答 を 得 てい る( CEO、会長、社 長、および COO/CFO/CTO 等最高経営幹部 が 約 半 数 を 占 め る 。 2 ミニディスク(MiniDisc)は光磁気ディスクの技術を応用して作られた音声記録用媒 体 記 憶 装 置 と し て 、 ソニ ー か ら1991 年に開発し、1992 年 1 月 12 日に発売した。ミニ デ ィ ス ク の オ ー デ ィ オデ ー タ は 、 ATRAC コーデックを使う。一般的な ATRAC 圧縮に 音 質 が 最 も 優 れ て お り、74 分または 80 分の再生時間を持つ。292 kbit / s のステレオ 音 質 を 提 供 し 、 CD と音質区別が不可能なほど優れている。 3 2015 年末にシャープは自動調理ができる「まかせて調理」を搭載した「ウォーター オ ー ブ ン 「 ヘ ル シ オ 」な ど 、4 機種を発売した。 ( http://www.sharp.co.jp/corporate/news/150603-a.html., 2017-03-15 閲覧 )
4 HEMS とは、Home Energy Management System(ホーム・マネージメント・シス テ ム ) の 略 で あ り 、 エネ ル ギ ー を 見 え る 化 する だ け で な く 、 家 電 、電 気 設 備 を 最 適 に 制
NGUYEN THI TRUC QUYNH 23 御 す る と い う 重 要 な 役割 を 果 た す 。 住 ま い のエ ネ ル ギ ー を 見 え る 化し て 、 設 備 や 空 気 環 境 機 器 を か し こ く コ ント ロ ー ル 。 快 適 な 節 電と 心 地 よ い 空 間 、 便 利な く ら し を 提 供 す る ( パ ナ ソ ニ ッ ク 株 式 会社 H P よ り 抜 粋 ) 。 5 2014 年、トヨタはパナソニックと協力して、便利で快適なスマートモビリティ社会 を 実 現 す る ク ル マ と 家電 を つ な ぐ サ ー ビ ス の共 同 開 発 を 進 め て 、 新た な サ ー ビ ス の 提 供 を 開 始 し た 。 ( http://news.panasonic.com/jp/topics/2014/38545.html., 2016-12-20 閲覧)
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第 2 章 顧客価値創出の焦点となったサービス
本 章 で は 、 サ ー ビ ス を理 論 的 に 検 討 し 、 顧 客価 値 と の 関 係 に つ い て論 じ る 。 ま ず 、 顧 客 が 本 当 に 求 め て い るこ と は 、 商 品 そ の も ので は な く 、 商 品 を 媒 介と し て 実 現 さ れ て い る サ ー ビ ス と 顧 客 体 験を 望 ん で い る 。 機 能 ・性 能 の 優 れ た 商 品 で はな く 、 顧 客 に と っ て 価 値 あ る 経 験 を 与 え る商 品 は 、 よ り 競 争 力 を持 つ で あ ろ う 。 し た がっ て 、 最 高 の 顧 客 体 験 を 可 能 に す る 顧 客 価値 創 出 の プ ロ セ ス に 対応 し て 商 品 設 計 を 行 うた め 、 顧 客 が 必 要 と す る こ と が 何 な の か を、 商 品 の 形 で は な く 、そ の 商 品 が 利 用 さ れ てい る サ ー ビ ス と サ ー ビ ス の 環 境 を 把 握 す るこ ろ で 理 解 す る 必 要 があ る 。 次 に 、 顧 客 自 身が 価 値 創 出 活 動 に 参 加 し て い る サ ー ビ ス の形 態 と 方 法 を 把 握 し 、そ れ を 考 慮 し た 商 品 の設 計 を 行 う 。 サ ー ビ ス は 単 に 顧 客 に 利 用 して も ら う も の で は な く、 顧 客 の 一 つ 一 つ の ニ ー ズ に 精 巧 に 合 わ せ た 顧 客 体 験 を 創 出 す るた め の 重 要 な 手 段 な ので あ る 。 第1節 サービ ス サ ー ビ ス と 有 形 の モ ノ と の 違 い を め ぐ っ て は 、 サ ー ビ ス な ら で は の 特 徴 が も た ら す 経 営 課 題 を 乗 り 越 え るた め の 経 営 論 理 に つ いて の 議 論 が 行 わ れ て いる 。こ の 議 論 を 機 に 、 様 々 な サ ー ビ ス に 関 する コ ン セ プ ト や フ レ ーム ワ ー ク が 生 み 出 さ れ、 学 問 分 野 と し て の 発 展 が 進 ん で い き て いる 。例 え ば 、「 サ ー ビ ス・プ ロ フ ィ ッ ト・チ ェ ー ン 」、「 サ ー ビ ス 品 質 ギ ャ ッ プ ・ モ デ ル 」の 枠 組 み 、「 サ ー ビ ス 品質 」 の 定 義 な ど が 挙 げら れ る 。 1-1 サ ー ビ ス の 概 念 Shostack (1977)、 Berry (1980)等 は 、 サ ー ビ ス と 商 品 の 間 に は 、 重 要 な 違 い が あ り 、 経 営 実 践 の た め に 一 般 化す る 必 要 が あ る と 主 張し て い る 。 サ ー ビ ス の伝 統 的 な 定 義 は 行 為NGUYEN THI TRUC QUYNH 25 ま た 、Kotler 他 (2008) によれば、サービスは一方が他方に対して提供する行為や行動 で 、 本 質 的 に 無 形 で 何等 の 所 有 権 も も た ら さな い も の で あ る 。 サ ービ ス の 生 産 に は 有 形 製 品 が か か わ る 場 合 もあ れ ば 、か か わ ら な い場 合 も あ る 。さ ら に 、製造 業 者 、流 通 業 者 、 小 売 業 者 は 付 加 価 値 を付 け た サ ー ビ ス を 提 供す る こ と も で き る し 、単 に 優 れ た 顧 客 サ ー ビ ス で 差 別 化 を 図 る こと も で き る と 示 唆 し てい る 。高 橋 (1998)は、サービスを「顧客の欲 求 を 満 足 さ せ る た め にな さ れ る 無 形 の 活 動 であ る 」 と 述 べ 、 特 に 価値 の 無 形 性 に 着 目 し て い る 。 Lovelock (1999)は、サー ビスを「 一 方から他方へと 提供さ れる行為やパフ ォー マ ン ス で あ り 、 パ フ ォー マ ン ス そ の も の は 本質 的 に 無 形 で あ る 。 また 、 特 定 の 時 ・ 場 所 に お い て 価 値 を 創 造 し、 顧 客 に ベ ネ フ ィ ッ トを 与 え る 経 済 活 動 で あり 、 サ ー ビ ス の 受 け 手 に 対 し 、 あ る い は 受け 手 に 成 り 代 わ り 、 望ま し い 変 化 を も た ら すこ と に よ っ て 実 現 さ れ る 」と 述 べ て い る 。Looy 等 (1998)は、サー ビスを「無形であり、サービス提供者と消 費 者 の 相 互 作 用 を 必 要と す る あ ら ゆ る 経 済 活動 」 と 定 義 し 、 サ ー ビス の 定 義 に お け る 特 性 と し て 、 無 形 性 と 同時 性 を あ げ て い る 。 さ ら に 、 Edvardsson ら (2005)によれば、顧客の役割については、商品生産過程におい て 、 共 同 生 産 者 と し て関 わ っ て い る が 、 サ ービ ス の 生 産 過 程 で は 、共 同 創 造 者 と し て 関 わ り を 持 っ て い る 。 しか し 、Edvardsson (1997) の 定 義 で は 、 サ ー ビ ス は 商 品 の コ ン セ プ ト の 一 部 と し て 取 扱 われ て お り 、 商 品 は 、 一般 的 に モ ノ サ ー ビ ス 、ソ フ ト ウ ェ ア な ど の 組 み 合 わ せ で 構 成 さ れる と し て い る 。 Judd (1964)は 、 次 の よ う に 所 有 権 に 応 じ て サ ー ビ ス の 形 態 を 3 つ 挙 げ て い る 。 そ れ は 、 ① レ ン タ ル ・ サ ービ ス ( 特 定 の 時 間 に 製品 を 所 有 し 、 ま た 、 その 製 品 を 所 有 す る 権 利 )、 ② 顧 客 の 所 有 物 への サ ー ビ ス ( 製 品 の 修理 、 ま た は 改 良 、 ③ 製品 で は な い も の の サ ー ビ ス ( 顧 客 体 験 など ) で あ る 。 ま た 、 サー ビ ス を 分 類 す る に あた っ て 、 Lovelock
NGUYEN THI TRUC QUYNH 26 ( 1980)は、サービスの利益の性質並びに目的によって、以下のように大きく4つのカ テ ゴ リ ー に 分 け て い る。 そ れ ら は 、 人 々 に 関連 す る サ ー ビ ス ( 美 容、 観 光 輸 送 、 医 療 な ど )、 物 事 に 関 連 す る サー ビ ス ( 貨 物 輸 送 、 クリ ー ニ ン グ 、 車 の 修 理な ど )、 抽 象 的 知 性 や セ ン ス に 関 連 す る サー ビ ス ( 教 育 、 エ ン ター テ イ メ ン ト な ど )、 金融 に 関 連 す る サ ー ビ ス ( 銀 行 、 ク レ ジ ット 、 保 険 な ど ) で あ る。 Hill (1977)は 、サ ー ビ ス の 便 益 の 本 質 を 論 じ なが ら 、そ れ ら は サ ー ビス の 提 供 、ま た は 消 費 の 環 境 に よ り 変 化す る こ と を 強 調 す る 。① 人 に 影 響 を 与 え る サー ビ ス と 製 品 に 影 響 を 及 ぼ す サ ー ビ ス 、 ②サ ー ビ ス の 恒 久 的 な 影響 と サ ー ビ ス の 一 時 的な 影 響 、 ③ こ れ ら の 影 響 の 可 逆 性 と 非 可 逆性 、 ④ 身 体 的 効 果 と 精神 的 効 果 、 ⑤ 個 人 の サー ビ ス と 団 体 の サ ー ビ ス 。 Kotler (1980) は 既存研究を統合し、サービス組織の目的の違いにより、サービス を 4 つのカテゴリーに 分けている。それらは、①人間中心サービスと機器を中心サービ ス 、 ② 顧 客 の 存 在 度 合い が 高 い サ ー ビ ス と 顧客 の 存 在 度 合 い が 低 いサ ー ビ ス ( カ ス タ マ ー リ レ ー シ ョ ン )、 ③ 個 人 的 な ニ ー ズ を 満 た す サ ー ビ ス と ビ ジ ネ ス ニ ー ズ を 満 た す サ ー ビ ス 、 ④ 個 人 と 公 衆 、営 利 と 非 営 利 で あ る 。 こ れ ま で の サ ー ビ ス に 関 す る 研 究 で は 、 サ ー ビ ス の 一 般 的 特 徴 と し て 、 ① 無 形 性
(Intangibility) 、 ② 変 動 性 (Heterogeneity) 、 ③ 同 時 性 (Inseparability) 、 ④ 消 滅 性 (Perishability) が 挙 げ ら れ て い た (Sasser ら、1978)。図 表 2-1 の よ う に IHIP 特 性 を も つ も の を サ ー ビ ス と し て 議論 す る の が 伝 統 的 な 捉え 方 で あ る 。
NGUYEN THI TRUC QUYNH 27 図 表 2-1 サービスの特徴( IHIP) 特 徴 詳 細 主 た る 研 究 有 形 の モ ノ の 特 徴 と の 比 較 無 形 性 (Intangibility) 貯蔵できない 特許で保護することが難しい 価格設定が難しい Shostack (1977) Lovelock (1983) Vargo & Lusch (2004) 有 形 性 物 理 的 な 実 体 が あ り 、 感 知 で き る 明 白 な 存 在 変 動 性 (Heterogeneity) 提供品質のギャップが大きい 顧客の経験によって品質上の 変 動 性 が 存 在 す る Berry (1983; 2002) Zeithaml et al. (1985) Kotler (1977) 一 定 性 ・ 固 定 性 機 能 と 用 途 は 恒 久 性 が あ り 、 品 質 の 同 一 性 は 予 期 で き る 同 時 性 (Inseparability) 消費者が生産に関与する 従業員が経営成果に大きく影 響 を 与 え る 集中的な大量生産は難しい Shostack (1977) Gronroos (1978) Gummesson (2004) 分 離 性 モ ノ の 製 造 、 配 分 、 消 費 は 時 間 と 空 間 に よ っ て 分 離 さ れ て も 実 行 す る こ と が で き る 消 滅 性 (Perishability) 在庫が不可能 需要と供給が同時に行う 返還・再販売が不可能 Berry (1983; 2002) Lovelock (1983) Fitzimmons & Fitzimmons (2004) 貯 蔵 性 貯 蔵 が で き る
( 出 所 : Lovelock & Wirtz (2011)をもとに筆者 加筆修正)
ま た 、 社 会 的 背 景 に 適応 す る た め 、 近 藤 (2012)は、「無形性」、「 生産と消費の同時 性 」、「 異 質 性」、「 結 果と 過 程 」、「 共同 生 産 」と い う 5 つのサービスの特性を取り上げて い る 。 い ず れ に せ 、 IT が進展している現在においては、必ずしもこれらの特性が常に 成 立 す る わ け で は な い。 そ れ ゆ え に 、 時 代 の変 化 に よ っ て 、 サ ー ビス の 特 性 に つ い て の 議 論 の 変 化 が 少 な か らず み ら れ る 。 例 え ば 、音 楽 演 奏 、 コ ン サ ー トな ど の コ ン テ ン ツ サ ー ビ ス は 、 動 画 配 信 技術 に よ り 、 動 画 蓄 積 など が 可 能 と な り 、 サ ービ ス の 「 在 庫 」 が 行 え る 。 ま た 、 ソ フ ト ウェ ア 開 発 の ア ウ ト ソ ーシ ン グ 、 高 精 細 画 像 の伝 送 に よ る リ モ ー ト 医 療 や 、 テ レ ビ 会 議 シス テ ム を 用 い た コ ン サル テ ィ ン グ と い う 代 表例 を み る と 、 地 理 的
NGUYEN THI TRUC QUYNH 28 隔 離 に も 関 わ ら ず 、 遠隔 操 作 が よ り 容 易 と なり 、「 同 時 性 」 の 特 徴 がほ と ん ど な く な っ て し ま う 。 し た が っ て、 サ ー ビ ス の 特 徴 を より 明 確 化 さ せ る た め 、 商 品 コ ン セ プ ト の 視 点 の ア プ ロ ー チ で そ の本 質 を 理 解 す る 必 要 があ ろ う と 考 え ら れ る 。 一 方 、 Quinn 等(1990) は顧客に提供されるサービスによる価値を認識 して、企業が競 争 へ の 対 応 と し て 、 いち 早 く 製 品 か ら サ ー ビス を ベ ー ス に す べ き と指 摘 し た 。 そ の 後 、 サ ー ビ ス・マ ー ケ テ ィ ン グ の 分 野 に お い て 、Vargo & Lusch (2004)は Goods-Dominant Logic か ら Service-Dominant Logic へのパラダイムの 転換を主張した 。Goods-Dominant Logic は、 モ ノ 中 心 の 考 え 方 で あり 、20 世紀にかけて、モノの交換が中心であり、有形のリソース、 物 理 的 な 製 品 に 埋 め 込ま れ た 価 値 、 商 取 引 に焦 点 が 当 て ら れ て い た。 よ い モ ノ は 販 売 の 源 泉 で あ る た め 、 企 業は 技 術 を 強 化 す る の が最 優 先 で 、 適 切 な 価 格で 販 売 す る こ と に よ り 、 他 社 と の 競 争 を 行う と の 考 え 方 で あ っ た。 ま た 、 サ ー ビ ス の 位置 づ け と し て は モ ノ を 売 る た め の 補 助 手 段に す ぎ な い も の と し て取 扱 わ れ た 。
図 表 2 - 2 Goods-Dominant Logic と Service-Dominant Logic の比較
Goods-Dominant (G-D) Logic Service-Dominant (S-D) Logic
・ 何 か を 創 る ( 製 品 ・サ ー ビ ス ) ・ 顧 客 の 価 値 創 造 プ ロセ ス を 支 援 す る
・ 価 値 は 生 産 さ れ る ・ 価 値 は 共 に 創 ら れ る
・ 独 立 し た 実 態 と し ての 顧 客 ・自 分 の 環 境・ネ ッ ト ワ ー ク に お け る 顧 客
・ 顧 客 は 対 象 ・ 顧 客 は 重 要 な 資 源
( 出 所 : Vargo & Lusch 、2004)
た だ し 、 技 術 の 面 で 勝負 し て も 、 必 ず し も 売上 や 収 益 に つ な が る わけ で は な い 。 図 表
2 – 2 に 示 し た よ う に 、製 品 の 機 能 で 競 争 す る だ け で な く 、顧 客 満 足 度 、顧 客 価 値 の 向 上 の 重 要 性 を 再 認 識 す るこ と に な り 、Goods-Dominant Logic の考え方 が適切でなくなった。
NGUYEN THI TRUC QUYNH 29 そ れ に 対 し て 、 Service-Dominant Logic は、モノとサービスを対立的に捉え るのではな く 、 一 体 的 に 組 み 合 わ せ る こ と に よ り 、 新 た な 価 値 を 創 出 す る こ と を 目 指 す と い う 考 え 方 で あ る 。 つ ま り 、 モ ノを 中 心 し た 交 換 や 価 値創 造 の 考 え 方 で あ る Goods-Dominant Logic に 対 し て 、Service- Dominant Logic の主張は、サービスを中心した交換や価値創造の考え方で あ る 。Goods-Dominant Logic が重視するのは、「交換価値」であり、企業が創るモノやサー ビ ス を 顧 客 に 提 供 す る際 、貨 幣 と 交 換 す る こと に 力 点 が あ る 。一 方 、Service- Dominant Logic で は 、 企 業 と 顧 客 が モ ノ や サ ー ビ ス の 購 買 時 だ け で な く 、 そ の 前 に も 後 に も 文 脈 の 中 で さ ま ざ ま な や り 取 り を する 「 使 用 価 値 」 や 「 文脈 価 値 」 を 重 視 す る ので あ る 。 1-2 サ ー ビ ス の 構 成 要 素 と 方 程 式 既 存 研 究 で は 、 サ ー ビス の 構 成 要 素 を 「 コ ア・ サ ー ビ ス 」 と 「 補 完的 サ ー ビ ス 」 に 大 別 し て 議 論 さ れ て き た。 ま た 、 Lovelock ら (2002)は、サービスを構成する 3 つの要素に は 、「 コ ア・サ ー ビス 」、「 補 完 的 サ ー ビ ス 」と「サ ー ビ ス の 提 供 プ ロ セス 」が あ る と し た 。 楠 木( 2010)はコンセ プトの重要性を主張しながら 、「 コ ア・サ ー ビス 」で は 差 別 化 の 実 現 が 困 難 だ と 言 い 、当 該サ ー ビ ス の 価 値 を 含 めた サ ー ビ ス の 提 供 プ ロセ ス を も 度 外 視 し 、 「 補 完 的 サ ー ビ ス 」 で の 差 別 化 だ け を 加 速 さ せ る 傾 向 に つ い て 指 摘 し て い る 。 Gronroos (2007) は 、 サ ー ビ ス の 概 念 構 成 に つ い て 論 じ る 際 に 、 同 じ よ う な 捉 え 方 を し て い る 。 サ ー ビ ス 価 値 に 関 し て、Heskett ら (1994) は、4 の方程式を提示している。この方程式 を 基 に 今 枝 (2010)は下 記のように( 図表 2-3) まとめている。