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仮説の提示

ドキュメント内 サービスイノベーションと経営戦略 (ページ 126-134)

本章では、日本企業にとっての大切な顧客価値を高めるサービスイノベーションが必要 だと認識し、その生成メカニズムの解明によって、どのような戦略が効果的であるのかを 考察して、仮説を導出する。

第4章に論じたように、本研究における、サービスイノベーションの定義は、顧客のニ

ーズを踏まえて、生活様式を一変するような無形な価値の創出と定めたい。ここで、より 具体的に説明するため、いくつかの事例を取り上げたい。

まず、モバイル機器とつながるコネクテッドカーの事例 についてである。CES 2014 に おいて、Audiのタブレット「Smart Display」が、Wi-Fiで車載システムとつながり、ナビ や走行状況の確認に加え、Googleのモバイル向けOS「Android」のアプリやゲームを利用

することができると明示されている。そのまま社外で使用することもでき、零下 40 度の

寒さや50 度の酷暑にも耐えられるという。このプラットフォームをめぐっては、Linuxベ ースの「Automotive Grade Linux」、独BMWやIntel などによる「GENIVI Alliance」、米ア ップル による「iOS in the Car」が立ち上げられるなど、自動車業界と IT業界の間で連携

の機運が高まっている。また、Googleなどが開発中の自動運転は、コネクテッドカーを進

化させ、情報系だけでなく安全系から駆動系まで IT でつなげてクラウドコンピューティ

ングで車を制御しようとする試みと捉えること ができる。さらに、3D プリンターという

モノづくりを変える商品コンセプト、すなわち商品の思想については、明らかに生活様式

を大きく変化させた。3Dプリンターとは、3次元 CADによる設計データをもとに樹脂材

料などを積層して立体物を造形するもので、試作や特殊形状品の少量生産などの 一部の用

途から欧米を中心に導入が始まっている。本格的な市場拡大 に伴い、3D プリンターの普

NGUYEN THI TRUC QUYNH 124 及については、価格などの課題をめぐって、様々な意見が議論されているものの、生活者 の便宜性をもたらしたことに違いないと考えられる。

一方、新たなサービスを提供するのに伴い、新しいビジネスモデルへ転換するようにな ったことによって、新たな成長と利益の源を見つける企業の事例は多く見られる。例えば、

enterprise computing業界におけるIBM、航空機エンジン業界におけるロールス・ロイスや

GE、プリンター・複写機業界におけるゼロックス、ヘルスケア業界におけるフィリップス などが取りあげられる。これらの企業は、モノ、あるいは製品の価値だけに頼らず、顧客 価値を向上させることを主な目的とした新たなサービスの提供で、競合他社よりも持続可 能な成長を遂げることができている。

この特徴に関しては、図表5-1に示したように、新サービス産業の起業事例においては、

サービス産業の特徴として挙げられる生産性の低さや競争力の弱さを逆に機会として捉え ることで、新たな価値が生み出される(藤川等、2006)。

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図表5-1 「 商品」コンセプトから新しいビジネスモデルへ

(出所:藤川・Kay、2006)

藤川らの主張の強調点を大きく 2 つの点に整理しておきたい。まず、これらの企業事

例がいずれもイノベーションを起こしてこなかった古い業界において発生しているこ と である。そして、第二の点は、いずれの事例も日常生活に深く根を下ろしたサービスであ り、それによって新たに実現される顧客価値がさらに多くの日本人の生活行動を変える可 能性を有するということである。

また、サービスによって企業の競争地位が強化されることが期待されている。 いくつか の研究は、サービスイノベーションが企業の業績に正の影響を及ぼすことを示している

(Avlonitisら、2001; Nijssen ら、2006)。 Slater&Narver(1995)によれば、グローバル

市場の企業は、サービスイノベーションが市場の方向性と市場での堅実な業績を促進する 価値創造活動であるため、製品の基礎よりもサービスの基礎で競合す べきとの指摘もあっ た。アップル の iPhone、 iPodの例を考えてみると、それらはもはや単なる製品ではな い。アップルはプラットフォーム化された幅広いサービスを提供・移転することによっ

NGUYEN THI TRUC QUYNH 126 て、アップルの製品が顧客にとって遥かに価値の高いものに している。したがって、競合 他社はより良い製品を作るだけではアップルに対抗することはできないだろう。

さらに、サービスイノベーションの形成プロセスに関しては、顧客の役割をめぐって議 論がしばしば行われている。その中で、Sundbo & Gallouj (2000) は、企業の競争力の源泉 は暗黙知と情報の非対称性にあり、顧客との信頼関係を強調している。その信頼関係を構 築する、もしくはそれを維持するために、有効なコミュニケーション力が非常に要求され

ている。それゆえ、IoT の進展に適応するため、顧客との接点を増やす方法も重要だと考

えられる。アマゾンの事例をみると、その接点が増えるほど企業が顧客のニーズをより把 握することができると置換えできると言えよう。

一方、企業のトップマネジメントは顧客価値につながる従業員の満足度も重視しなけれ ばならない。トップが念頭におくべきなのは、企業活動における最も重要な貢献対象が、

顧客、株主、従業員、社会という4つの主なステークホルダーである。そして、トップの

役割としては、仕事が顧客価値を高めるためにするものという意識を全従業員に持っても らうよう動機付け、リードすることにほかならない。従業員が心から最終顧客のためを思 って仕事をすれば、それは必ず顧客に伝わり、顧客から様々な形でプラス評価される。 よ って、そうしたプラス評価は、従業員に伝わって仕事のやりがい、いわば従業員満足を向 上するとともに、仕事の効率を向上することが可能になり、その企業の業績を高める。結 果的には一種の好循環が生まれると期待される。サービスイノベーションにとっての従業 員の役割に関して、新しいサービスのプロセス開発への「フロントライン従業員(顧客対 応を行うサービス提供の最前列の従業員)」の積極的参加が、サービスの実施可能性を向上 するために効果があることが示された (Alam、2002; Gruner & Christian、2000)。した がって、アジア市場における日本企業の戦略にとっては、戦略的なサービス志向の従業員

NGUYEN THI TRUC QUYNH 127 教育の重要性を検討する必要があるであろう。

なお、B2Bにおいても、企業は効率的にイノベーションプロセスを推進し、管理してい

くには、顧客をいかにうまく巻き込むのが不可欠である(Edvardssonら、2006)。

次に、資生堂のビューティー・タブレットの導入の事例について解説していく。株式会

社資生堂は 1872 年に日本で初めての洋風調剤薬局として創業以来、日本の化粧品技術と

文化をリードしてきている。現在、化粧品のみならずさまざまな事業において、ヨーロッ

パ、アメリカ、アジアなど世界89カ国で事業を展開している。資生堂では、モバイル・コ

ンピューティングに着目し、スマートフォンやタブレットで稼働するモバイル・アプリケ ーションの開発プラットフォーム IBM Worklight を採用して、全国のビューティーコン

サルタント(BC)を中心に 1万台を超えるタブレットを配布し、接客応対の改善を図って

いる。そのタブレットの導入がもたらした効果として、次のように3つのポイントが考え

られる。まずは、スピードについては、タブレットが導入されたことで、入力の手間が省 かれ、より使いやすくなったことで、市場と関係部署との情報共有のスピードが増した。

次に、カウンセリングの質を向上できるというメリットである。つまり、経験豊富な人で も新人でもわかりやすく、丁寧に説明できる。最後に、最重要な顧客との関係改善、すな

わちカスタマーリレーションの改善の効果である。BC から積極的な意見が出されるよう

になった。また、顧客とのコミュニケーションをより深めることで、結果的には顧客 を満 足させ、顧客価値を高めると考えることができる

IoT の発展に伴って、社会全体にもたらした大きな変化に関する議論はしばしばみられ

る。第一に、製造業のサービス化という変化については言うまでもなく、企業は単なるモ ノを生産・販売するだけではなく、あらゆるサービスの提供を実現することにより、企業 側も顧客側も便益を追求することが可能となる。第二に、リアルタイム化の推進 に伴って、

ネットにつなぐと、あらゆるモノの状況、メンテナンスの状況などが把握できるようにな った。第三に、需要と供給の最適化が変化してきた。言い換えれば、需要側もしくは供給

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