◎特 別寄稿
中 国 民 族 学 の 歴 史 と 今 後 の 展 望
Bネ 慶富 中国の民族状況
中国は︑長い歴史をもった古い文明国であり︑世界で最
も人口の多い国でもある︒秦︑漢以来︑中国は統一された
多民族の国家として世界にその名を知られており︑今日の
中華民族には︑漢族は勿論のこと︑少数民族も含まれる︒
漢族は︑古い民族であり︑その形成と発展の過程の中で︑
他の民族を大量に吸収してきた︒血縁関係から分析すれば︑
漢族は最も"純粋"でない︒中国の指導者︑故周恩来はか
つて分かりやすい表現でこう言った︒﹁漢族は最大の雑種
民族である﹂と︒中国の少数民族も皆長い歴史を持ってお
り︑程度の差はあるが︑それぞれが発展の過程で︑漢族や
その他の少数民族を吸収してきた︒﹁我のうちに汝あり︒
汝のうちに我あり﹂︒これが︑中国の各民族の血縁的つな
がりの顕著な特徴である︒﹁少数民族﹂という語の由来は︑
これらの民族の人口が漢族と比べて比較的少ないことから
来ている︒
中華人民共和国建国後︑国家による正式の﹁民族識別﹂
により︑現在までに五六の民族が確認されており︑漢族以
外に五五の少数民族がある︒一九九〇年の第四回全国人口
調査によると︑全国の総人口は=億七千万人(台湾省︑
香港︑アモイを除く)︑そのうち︑漢族は一〇億四二八〇
中国民 族学の歴史 と今後の展望 155
万人︑その他の五五の民族の人口が総計で九一二〇万人で︑
全国総人口の八・〇四%を占める(一九八二年の第三回人
口調査では︑少数民族の人口は六七二三万人︑全国総人口
の六六・七%であった)︒少数民族では︑チワン(壮)族の
人口が最も多く︑=二三八万人︒ロッパ(略巴)族が最も
少なく︑二三一二人である︒
中国の少数民族は人口こそ少ないが︑中国の国土に占め
る分布面積は広く︑総面積の六四・三%を占めている︒中
国の少数民族の分布の特徴は︑同一民族の小集落が広範囲
に散在して︑他の民族の集落と混在しているという﹁大雑
居︑小聚居﹂である︒大多数の少数民族は︑同じ民族が比
較的集中して住んでいるコミュニティ(聚居区)を持って
おり︑これを基盤として︑自治区︑自治州︑自治県(旗)︑
自治郷を設立した︒現在︑内モンゴル︑新彊ウイグル︑チ
ベット︑広西チワン族︑寧夏回族など併せて五つの自治区︑
及び三〇の自治州︑一二四の自治県(旗)がある︒しかし︑
集中して住んでいるといっても︑これは相対的にそう言え
るだけで︑やはり広範囲分散形態(大雑居)が基本である︒
全国のどの省︑市︑自治区︑及び県の住民を見ても︑単一
の民族で構成されているところはない︒全国各地に分散し
ている少数民族もあれば︑一部が集中し︑残りが他の民族
と雑居しているという民族もある︒
居住地域で分類すると︑中国では元来︑東北内モンゴル 地区民族︑西北地区民族︑西南地区民族︑中東南地区民族
という括り方があった︒遼寧︑吉林︑黒龍江三省と内モン
ゴル自治区東北部には︑主に満︑朝鮮︑オロチョン(那倫
春)︑エヴェンキ(郡温克)︑ダフール(達斡爾)︑ポジェ
ン(赫哲)族などが居住している︒広大な内モンゴル草原
はモンゴル族の故郷である︒新彊ウイグル自治区には︑ウ
イグル(維吾爾)︑カザフ(恰薩克)︑キルギス(桐爾克孜)︑
シボ(錫伯)︑タジク(塔吉克)︑ウズベク(烏孜別克)︑
タタール(塔塔爾)︑ロシア(俄羅斯)族などがいる︒回
族は全国各地に分散しているが︑主な集中居住地域は︑寧
夏回族自治区である︒甘粛︑寧夏︑青海の三省と自治区に
は︑トンシャン(東郷)︑トゥー(土)︑サラ(撒拉)︑ボ
ウナン(保安)︑ユーグ(裕固)族などが居住している︒
青蔵高原で人口が最も多いのは︑チベット(蔵)族で︑
メンパ(門巴)やロッパ族はチベット自治区の南部に居住
している︒雲南︑貴州︑四川の三省は︑居住する民族の種
類が最も多い地域で︑イ(舞)︑ぺー(白)︑ハニ(吟尼)︑
タイ(泰イ)︑リス(傑傑)︑ラフ(拉枯)︑チンポー(景頗)︑
アチャン(阿昌)︑プミ(普米)︑ヌー(怒)︑ジノー(基諾)︑
トゥールン(濁龍)︑チャン(莞)︑ワ(仮)︑プーラン(布
朗)︑ドゥアン(徳昂)︑ミャオ(苗)︑ブイ(布依)︑トン(個)︑シュイ(水)︑ムーラオ(仏倦)族などが住んでいる︒
広西チワン族自治区で人口が最も多い少数民族は︑チワ
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ン族で︑他にヤオ(瑞)︑ムーラオ︑マオナン(毛南)︑キ
ン(京)族などもここにコミユニティを持っている︒トゥ
チャ(土家)族は︑主に湖北︑湖南︑四川に居住している︒
リ:(黎)族は海南島の主要な少数民族である︒ショオ(雷)
族は︑東南沿海部の福建︑漸江などの省に散らばって住ん
でいる︒高山族は︑主に台湾省に居住している︒
総じて言えば︑中国の少数民族の居住地域は︑大むね"U"
字形を呈している︒つまり︑東北内モンゴルから新彊︑チ
ベットに至り︑更に雲南︑貴州︑四川︑広西︑広東︑海南︑
漸江︑福建︑そして台湾省に至っている︒西部地区が主要
部分であり︑西北︑西南に重心がある︒
中華人民共和国建国前︑歴史上の複雑な要因により︑各
民族の経済発展の度合は大変不均衡で︑社会構造は大きく
異なっていた︒同じ民族でも住む地域によって︑大きな違
いがある︒
二十世紀の五〇年代︑チワン︑回︑ウイグル︑朝鮮︑満︑
ブイ︑ぺー︑トゥチャ︑トン族などに加え︑モンゴル︑イ︑
リi族などの大部分は漢族とほぼ同じであった︒封建領主
制(農奴制)段階にある民族もあった︒主にチベット族︑
タイ族と一部のハニ族︑ウイグル族がそうであった︒内モ
ンゴル遊牧地区には︑まだ部分的に封建牧奴制が残ってい
た︒イ族は︑大部分が封建地主経済の段階に入っていたが︑
四川や雲南地区ではまだ奴隷制が残存していた︒つまり︑ 有名なコ保山イ族奴隷制﹂である︒更に︑依然として濃厚
な原始共同体の残津を留めている民族もあった︒雲南のト
ゥールン︑ヌー︑リス︑プーラン︑ジノー︑チンポー︑ラ
フ︑ドゥアン︑ハニ︑ワ族など︑チベットのロッパ族︑内
モンゴル東北のオロチョン︑エヴェンキ族︑海南島のリi
族︑台湾の高山族などがそうであった︒
中国の各民族の文化は豊かで多様であり︑共通性を持ち
ながらも︑各民族の独自性を備えている︒言語体系から見
ると︑大部分が漢・チベット語系(漢語族︑チベット・ミ
ャンマー語族︑チワン・トン語族︑ミャオ・ヤオ語族が含
まれる)か︑アルタイ語系(満・ツングース語族︑モンゴ
ル語族︑チュルク語族が含まれる)に属する︒この他に︑
南アジア語系やインド・ヨーロッパ語系︑マライポリネシ
ア語系の言語を話す民族もある︒
今世紀五〇年代以前にすでに通行していた民族文字に
は︑チベット文字(七世紀に考案)︑ウイグル文字(十一
世紀に採用したアラビア文字形式の文字)︑モンゴル文字(十三世紀に考案)︑タイ文字(十三世紀に考案)︑ハング
ル(十五世紀に考案)︑満文字(一五九九年に考案)︑イ文
字(最古の碑文は十五世紀)︑カザフ文字(十九世紀後半
に採用されたアラビア文字形式の文字)︑シボ文字(一九
四七年︑満文字に手を加えて考案)︑チンポー文字(十九
世紀末に考案)︑ミャオ族のプラト文字(二十世紀初頭に
中国民族学の歴史 と今後 の展 望 157
イギリス伝教士であるPollard,Samuelとミャオ族の楊雅各らによって考案され︑布教に使われた)︑ナシ族のトン
パ文字とコパ文字(主に宗教に用いる)︑旧リス文字(宗
教用)︑ラフ文字︑キルギス文字︑タタール文字︑ウズベ
ク文字︑キリル文字︑方形チワン文字︑方形ペー文字︑シ
ユイ族の水書など二一民族の二八種の文字がある︒そのう
ち︑現在まで使用されているのは︑一二民族の一七種の文
字である︒これらの文字は︑表音文字もあれば︑音節文字
や象形文字もある︒
中国少数民族の信仰も多種多様である︒西南地区と東北
地区の多くの民族は︑自然崇拝と祖先崇拝を主な内容とす
る原始的信仰を保持している︒一部の南方少数民族は︑漢
族の道教を採り入れ︑道教で崇拝されている神霊を自民族
の神霊体系の中に吸収した︒近代になると︑西洋の植民主
義者の侵入に伴い︑カトリックとプロテスタントが西南や
東南︑東北の辺境地帯の少数民族に一定の影響力を持った︒
中国の少数民族に最大の影響力を持つのは︑仏教とイス
ラム教である︒仏教は︑四世紀にチベットに伝わった後︑
現地の土俗信仰と融合してチベット仏教(通称ラマ教)と
なった︒小乗仏教は︑紀元前一世紀に東南アジアを経由し
て雲南に伝わり︑タイ︑アチャン︑ドゥアン︑プーラン︑
ワ族などに信仰されるようになった︒イスラム教は︑七世
紀半ばに中国へ伝わり︑主に回︑ウイグル︑カザフ︑トン シャン︑キルギス︑サラ︑タジク︑ウズベク︑ボウナン︑
タタール族など十の民族に信仰されている︒中国の少数民
族はそれぞれ特色を持った伝統文化を保持しており︑衣食
住︑社会組織︑通過儀礼︑婚姻・家族制度︑風俗習慣︑民
間伝承︑建築工芸︑伝統行事⁝⁝など︑どれもが民族学の
調査研究の宝庫である︒
中国政府が実施しているのは︑民族の平等と団結の政策
である︒国内の民族問題を解決する基本政策は︑﹁民族区
域自治﹂である︒つまり︑国家最高機関の一元的指導の下︑
少数民族はそれぞれの集中居住地域で自治機関を設立し︑
民族内部の事柄を管理する権利を行使する︒一九八四年に
公布された﹁中華人民共和国民族区域自治法﹂が︑憲法が
規定する民族区域自治制度を実施するに当たっての基本法
である︒目下︑少数民族の地方自治体としては︑自治区が
五︑自治州が三〇︑自治県(旗)が一二四ある︒
民族問題は︑中国では非常に重視されており︑全国人民
代表大会常務委員会の下に専門の民族事業委員会が設置さ
れており︑国務院の下には国家民族事務委員会がある︒民
族研究は中国の学界の重要な領域であり︑一連の研究機構
と多くの学術団体︑更には様々な民族の成員からなる︑層
の厚い研究者たちを擁している︒民族研究には︑民族学︑
民族史︑民族言語及び民族理論︑民族経済︑民族文学︑民族
芸術など多くの分野があり︑総称して民族学科という︒民族
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