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内受容感覚知覚と抑うつの関係についての研究動向と今後の展望

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― 95 ―  大うつ病性障害とは,抑うつ的な気分と興味,もし く は 楽 し み の 喪 失 を 特 徴 と す る 精 神 疾 患 で あ る

(American Psychiatric Association, 2013)。特に大うつ 病性障害は,体重変化もしくは食欲の異常,睡眠の異 常,性的機能不全などの顕在的な身体面における異 常,および倦怠感,めまい,痛みや頭痛などの非特異 的な身体面における異常との関連が強く指摘されてい る(American Psychiatric Association, 2013;Beck,  1967;Jain, 2009;Kapfhammer, 2006;Simon, VonKorff,  Piccinelli, Fullerton,  & Ormel, 1999)。特に,近年にお いては,身体症状は,大うつ病性障害の予測因子であ るとする知見(Nakao  & Yano, 2006)や,抑うつ症状 寛解後においても,身体症状はしばしば残存すると い っ た 知 見(Taylor, Walters, Vittengl, Krebaum,  & 

Jarrett, 2010; Kennard et al., 2010)も示されつつあり,

身体面の変化は抑うつ症状を示す者の理解において無 視できないものであることが繰り返し示されていると いえる。

 この身体面における変化に関しては,「身体症状」

という側面のみからの理解にとどまらず,最近では,

認 知 神 経 科 学 領 域 に お い て,「 内 受 容 感 覚 知 覚

(Interoceptive awareness)」という認知的変数を媒介さ せて理解する立場も現れてきている。この「内受容感 覚(Interoception)」とは,身体内部を起源とした刺激 に対する感覚であり(Luft & Hbhattacharya, 2015),具 体的には,身体上で感じ取る,温度,痛み,かゆみ,

くすぐったさ,官能的な接触,筋肉や内臓感覚,血液 の流れ,空腹,渇き,空気飢餓感,その他身体状態に 関連した反応等があげられる(Craig, 2002)。この内 受容感覚の自覚の程度が「内受容感覚知覚」と定義さ れており(Lackner  & Fresco, 2016),その指標として は主に心拍感覚などの報告可能な内受容感覚の自覚の 程度が用いられている(Farb et al., 2015)。この枠組 みに基づくと,抑うつ症状における身体症状の愁訴 は,実際にその個人が呈する生物学的な身体面の異常 と,その「知覚」に影響を受けるという,相互作用的 働きによって維持しているとみなすことができる。

 従来から,内受容感覚は,James-Langeの末梢起源 説に端を発し,末梢的身体反応が感情状態に与える影 響が指摘されてきた(James, 1980)。また最近では,

内受容感覚知覚と抑うつの関係についての研究動向と今後の展望

荻島 大凱  前田 駿太1 嶋田 洋徳早稲田大学

Recent issues about the relationship between interoceptive awareness and depression and the future prospects

Hiroyoshi OGISHIMA, Shunta MAEDA1, Hironori SHIMADA(Waseda University)

 In this article, we summarized recent fi ndings about the relationship between depression and interoceptive perception, which refers to capacity to precisely perceive one’s own somatic sensations. Previous fi ndings have almost consistently indicated that individuals with depressive symptoms show blunted interoceptive perception. In addition, based on these fi ndings, several theoretical models have been suggested in recent years where the causal effects of interoceptive perception in the maintenance and exacerbation of depressive symptoms are described. Considering these theoretical models, we also reviewed potential psychological intervention strategies to modify interoceptive perception. We further discussed the future application of psychological treatment focusing on modifi cation of interoceptive perception.

Key words: interoceptive perception, depression, decision-making, emotion regulation

Waseda Journal of Clinical Psychology 2017, Vol. 17, No. 1, pp. 95 ‑ 105

1日 本 学 術 振 興 会 特 別 研 究 員(Research  Fellow  of  Japan  Society for the Promotion of Science)

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― 96 ― 腹内側前頭前野損傷患者の意思決定の障害に,内受容 感覚の生起の障害として説明するソマティック・マー カー仮説(Damasio, 1994)の注目とともに,内受容 感覚は意思決定との関係性が検討されている。このよ うな研究動向を総括して,Craig(2002)は,内受容 感覚と関連する心理的変数として,感情調節,意思決 定,自己知覚を指摘するにいたっている。

 一方で,抑うつ症状に関しても,近年の研究知見に おいては,内受容感覚知覚との関連性が検討されてお り,抑うつ症状に内受容感覚知覚の不正確性が影響を 与えるという知見が見られる(Harshaw, 2015)。また,

内受容感覚知覚と関係する感情調節や意思決定の機能 障害について,抑うつ症状との関連が従来から指摘さ れていた(Davidson et al., 2002; Forbes et al., 2006)こ とに鑑みると,抑うつ症状を呈するものにおいて内受 容感覚知覚を正確にすることは,これらの感情調節や 意思決定の機能障害への有用な治療法となりうること が想定される。しかしながら,抑うつ症状と内受容感 覚知覚との関連性については十分な整理がなされてき たとは言いがたい。特に,これまでにも抑うつ症状を 含むストレス関連疾患と内受容感覚知覚に関して整理 した研究は見受けられるものの(たとえば,Schulz  & 

Vögele, 2015),このような先行研究においては,主に ストレス関連疾患を示す者における内受容感覚知覚の 変化という現象の記述そのものを目的としており,臨 床心理学領域における,心理臨床的支援への応用可能 性について言及している文献はほとんど見受けられな い。

 そこで本稿においては,内受容感覚知覚と抑うつ症 状の関係について整理し,特に,内受容感覚知覚の不 正確さと,Craig(2002)で指摘され,かつ抑うつ症 状との関連も示されている感情調節と意思決定の障害

(Davidson et al., 2002; Forbes et al., 2006)について整 理し記述することで,これらの知見の臨床心理学的支 援への応用可能性について考察することを目的とし た。本稿によって,身体と抑うつ症状の関係性を,内 受容感覚知覚という観点から整理することによって,

抑うつ症状の維持に寄与する現象としては観察される ものの,その生起メカニズムは十分に把握されてこな かった感情調節や意思決定の問題について(Davidson,  Pizzagalli, Nitschke,  & Putnam, 2002; Forbes et al.,  2006),記述できる可能性があると考えられる。また,

これまでは主に生物学的異常のみから理解されてきた

身体症状について,内受容感覚知覚という認知的変数 が考慮されることでさらに理解が深まることが期待で きると考えられる。したがって,従来主に薬物療法に よ る 治 療 が 優 先 と さ れ て き た 身 体 症 状 の 治 療 法

(Alvares, Quintana, Hickie, & Guastella, 2016)の拡大に つながるほか,薬物療法同様,身体症状の改善に効果 を及ぼしてきた認知行動療法の効果機序を明らかにで きる可能性があると考えられる。

抑うつ症状と内受容感覚知覚の関係に 関する研究動向

 前述したように,抑うつ症状と内受容感覚知覚との 関係性を検討した研究は数多く見受けられるものの,

このような知見の大局的な把握は十分になされている とは言えないのが現状であると考えられる。したがっ て,本稿では,まずは抑うつ症状と内受容感覚知覚と の関係性が扱われている従来の研究知見の整理を試み る。具体的には,(1)抑うつ症状と内受容感覚知覚の 関係を直接的に検討した研究知見の整理を行なうこと に加えて,抑うつ症状に顕著に寄与すると考えられる 心理学的変数である(2)「感情調節」,および(3)「意 思決定」と内受容感覚知覚の関係を検討した研究知見 を整理することによって,その整合的な理解を試み る。

内受容感覚知覚とその測定

 現在,内受容感覚知覚の程度を測定する方法とし て, 多 く の 研 究 で 用 い ら れ て い る の は,Schandry

(1981)の心拍知覚課題(Heart-Beat Perception Task)

である。この課題においては,一定時間内において,

心電図等を用いて測定される客観的な心拍数と,自己 報告による主観的な心拍数のずれが少ないほど,内受 容感覚知覚が正確であるとして定義している。この指 標に基づくと,客観的な心拍数と主観的に体験する心 拍数の乖離が小さいほど,内受容感覚知覚が正確であ ると解釈することが可能である。

 また近年では,心拍知覚課題に加え,脳指標を用い て内受容感覚知覚の正確性を測定することが試みられ ている。この内受容感覚知覚の正確性を反映する脳領 域として,「島(Insula)」が想定されており(Craig,  2002), 内受容感覚知覚課題中の活動が示されている ほか(Craig, 2003),灰白質容積が内受容感覚知覚の

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― 97 ― 正 確 性 と 相 関 す る こ と が 示 さ れ て い る(Critchley,  Wiens, Rotshtein, Ohman, & Dolan, 2004)ことから,課 題中の島の活動量を観察することで内受容感覚知覚の 正確性を判断することが試みられている(e.g., Farb et  al., 2007)。さらに,心拍誘発電位(Heart-Beat Evoked  Potential  : HEP)を用いた研究も報告され始めている。

心拍誘発電位は,心電図の波形のR波のあとに200

〜600m秒遅れて生起する,心拍についての脳におけ る 皮 質 反 応 で あ る(Schandry, Sparrer,  & Weitkunat,  1986)。心拍誘発電位は内受容感覚知覚の正確性との 相関が強いことが多くの研究で認められていることか ら(Schandry et al., 1986; Fukushima, Terasawa,  & 

Umeda, 2011; Terhaar, Viola, Bar, & Debener, 2012),心 拍知覚課題と同様に有用な指標であると考えられる。 

抑うつ症状における内受容感覚知覚

 第一に,抑うつ症状と内受容感覚知覚との関係性に ついて検討した研究は,大きく,(1)抑うつ症状の程 度と内受容感覚知覚との相関関係を検討している研 究,(2)抑うつ症状を示す臨床群と健常対照群を比較 している研究に大別できると考えられる。まず,抑う つ症状の程度と内受容感覚知覚の相関関係を検討した 研究として,たとえばPollatos, Traut‐Mattausch,  & 

Schandry(2009)は,心拍知覚課題によって評価され

た内受容感覚知覚の程度とBeck Depression Inventory- II(BDI-II) によって測定された抑うつ症状との関係 性について検討した。その結果として,抑うつ症状が 高いほど,内受容感覚知覚の「正確性」が低いという ことが示されている。この知見は,相関の程度の差こ そあれ,その他の複数の研究においても同様の結果が 報 告 さ れ て い る(e.g., Hearbert, Herbert,  & Pollatos,  2011; Furman, Waugh, Bhattacharjee, Thompson, & Gotlib,  2013)。一方で,Dunn et al.(2010b)においては,心 拍知覚課題得点と抑うつ症状との間に顕著な関係性は 見出されなかった。Dunn et al.(2010b)は,この結果 に関して,特性不安の高さが抑うつ症状と交絡してい るために本来の関係性が検出できなかった可能性につ いて言及している。実際に,抑うつ症状と対照的に,

不安症状が高まるほど心拍知覚課題得点が向上すると いう知見が多く見受けられる(e.g., Lackner  & Fresco,  2016)ことを踏まえると,Dunn et al.(2010b)におい て心拍知覚課題得点と抑うつ症状との間に顕著な関係 性が見られなかったという知見は整合的に理解できる

と考えられる。

 次に,抑うつ症状を示す臨床群と健常対照群を比較 した研究として,たとえば,Dunn et al.(2007)は,

重度の抑うつ群(BDI = 28.3±2.1),中程度の抑うつ 群(BDI = 22.2±1.9),健常対照群(BDI = 4.3±0.7) における,心拍知覚課題の得点を比較する研究を行っ た。その結果,中程度の抑うつ群においては,健常対 照群と比較して,心拍知覚の正確性が低いことが示さ れた。一方で,重度の抑うつ群においては,健常対照 群との間に心拍知覚の正確性の有意な差異は認められ ず,むしろ,心拍知覚とBDI  の間には,逆U字型の 関係性が認められることが明らかにされている。ただ し,このDunn et al.(2007)における重度の抑うつ群 の半数以上が不安症と併発を示していたことも報告さ れている点にはデータを解釈する上で留意する必要が あ る と 考 え ら れ る。 実 際 に こ の 問 題 点 を 指 摘 し,

DSM-IVにおけるI軸疾患の併発を示さない大うつ病 性障害患者(BDI-II  = 25±9.2)において,心拍知覚 得 点 を 調 べ たFurman et al.(2013) で は, 統 制 群

(BDI-II  = 1.9±3.1)と比較して有意に低い心拍知覚 得点が示された。

 一方で,Dunn et al.(2007)の中等度の抑うつ群に 対しての結果については,心拍誘発電位を用いた Terhaar et al.(2012)でも,同様の結果が得られている。

Terhaar et al.(2012)では,パニック症を併発してい ない中等度の抑うつ群(BDI  = 22.6±2.5)と健常対 照群(BDI  =  ±2.5)に対して,心拍誘発電位を測定 した。その結果,抑うつ群においては,統制群と比較 して,心拍誘発電位が有意に減衰しており,心拍知覚 が正確でないことが示された。

 以上の研究結果を総合すると,併存する不安症状な どを考慮すれば,抑うつ症状の程度と内受容感覚知覚 の相関関係を検討する研究と,抑うつ症状を示す臨床 群と健常対照群を比較する研究の双方において,抑う つ症状が高いほど内受容感覚知覚が鈍磨であることが 支持されつつあると考えられる。

内受容感覚知覚と感情調節

 第二に,抑うつ症状と内受容感覚知覚との関係性の 記述と密接に関連する研究として,感情調節と内受容 感覚知覚の関係を検討した研究を挙げることができ る。この理論的背景として,抑うつ症状において見ら れるネガティブな情動への固執は,感情調節の異常に

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― 98 ― よるものである(Davidson et al., 2002)という知見が 存在する。実際に,感情に関係すると考えられている 脳領域(前頭前野,前帯状回,海馬,扁桃体)におい て,抑うつ症状を示す者はその活動に異常が見られる ことが明らかにされている(Davidson et al., 2002)。

 内受容感覚知覚と感情調節との関係性について記述 した具体的な研究として, たとえば,Füstös, Gramann,  Herbert, & Pollatos(2013)は,刺激提示によって誘発 されたネガティブ情動について再評価した際の脳波の 活動に,内受容感覚知覚が影響を与えるかに関して検 討を行なった。その結果,再評価方略を用いることに よって,感情調節に関わっているとされるP3(頭頂 部における電極であり解剖学的部位としては感覚野に あたる)および徐波の減衰が見られ,内受容感覚知覚 が正確であるほど,この減衰は顕著になった。また,

Pollatos, Matthias,  & Keller(2015)は,参加者に社会 的排斥を経験させる実験パラダイムであるサイバー・

ボール課題を用いて,社会的排斥感に,内受容感覚知 覚が与える影響を検討した。その結果,内受容感覚知 覚の正確性が高い場合は,そうでない場合と比較し て,社会的排斥感を感じにくいことを明らかにした。

また,この実験においても,内受容感覚知覚と感情調 節方略との関係性が同時に検討されており,内受容感 覚知覚が正確であるほど,自記式尺度によって測定さ れる感情調節方略(再評価および抑制方略)の使用頻 度が多いことが明らかにされている。 

 以上の研究結果を総合すると,内受容感覚知覚が正 確であるほど,感情調節能力が高いという方向性の知 見が支持されつつあると考えられる。このことは,あ らためて,抑うつ症状を呈する者にみられる感情調節 の困難さに内受容感覚が何らかの関与をしている可能 性を示唆するものであると考えられる。

内受容感覚知覚と意思決定

 第三に,感情調節の不全に加えて,抑うつ症状を示 す者においては報酬に基づく意思決定の不全も,一般 に認められている(e.g., Forbes et al., 2006)。このよう な背景から,意思決定と内受容感覚知覚の関係を検討 した研究も,抑うつ症状と内受容感覚知覚の関係を明 らかにするものと考えることができる。

 一般に,内受容感覚知覚の正確性は,合理的な意思 決定に寄与するとされている。具体的な研究として,

たとえば,Werner, Jung, Duschek, & Schandry(2009)は,

ア イ オ ワ・ ギ ャ ン ブ リ ン グ 課 題(Iowa Gambling  Task;IGT;Bechara, Damasio, Tranel,  & Damasio,  1997)を用いて,内受容感覚知覚が正確な者と正確で ない者におけるパフォーマンスの違いについて検討を 行なった。その結果,内受容感覚知覚が正確な群は,

試行回数を重ねるにしたがって,トランプの山札を選 択する際に,短期的な利益は少ないが,長期的には純 利益を生じる山札を選択しやすくなることが報告され ている。合理的な意思決定への寄与については,抑う つ症状を示す者において,内受容感覚の役割を直接に 検討した研究も存在する。Furman et al.(2013)にお いては,大うつ病性障害患者は,まず健常対照群と比 較して,内受容感覚知覚が不正確であることが確かめ られ,さらに大うつ病性障害患者において,内受容感 覚知覚の正確性が低い者が,合理的な意思決定に困難 を示しやすいことが明らかにされている。

 その一方で,内受容感覚知覚の正確性は,合理的な 意思決定に寄与しないとする知見も存在する。たとえ ば,Dunn et al.(2010a)は,内受容感覚知覚,および 実際の身体反応が意思決定に及ぼす影響を検討した。

その結果,IGTと同じく直感的な意思決定が必要とさ れる課題において,内受容感覚知覚が正確な者におい て,身体反応の変化が,意思決定へ異なった影響を与 えることが明らかにされている。具体的には,利益が 生じやすい山札を選択した際の方が皮膚電位反応の変 化が大きいものの方は,より利益が生じやすい山札を 選択する一方で,利益が生じにくい山札を選択した際 の方が皮膚電位反応の変化が大きい者は,逆に利益が 生じにくい山札を選びやすかった。

 これらの知見をふまえると,現状においては内受容 感覚の正確性と意思決定の合理性の関係は必ずしも整 合的に理解できないと考えられる。一方で,Furman  et al.(2013)の報告のように,抑うつ症状を示す者に おいて,内受容感覚が意思決定の合理性を低下させる という知見が存在していることをふまえると,内受容 感覚が抑うつ症状を呈する者における意思決定に関与 することは十分に想定できる。しかしながら,内受容 感覚と意思決定の関係を直接的に扱った研究は必ずし も多くないため,今後は想定される剰余変数を統制し た上で追試を行ない,さらなる検討を行なうことが有 意義であると考えられる。

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従来の身体と抑うつ症状の関係についての研究 を総合した認知神経科学的理論モデル

 以上のように,内受容感覚と抑うつ症状の関係につ いては,抑うつ症状の程度が高いほど内受容感覚知覚 の正確性が低いと考えることができる。そして,この ことは感情調節困難や意思決定の障害といった,抑う つ症状を呈する者にみられる特徴と内受容感覚知覚の 関係を検討した研究の結果からも支持されると理解で きる。

 その一方で,認知神経科学の領域では,このような 知見を統合し,内受容感覚知覚の鈍麻を抑うつ症状が 生起するメカニズムとして組み込もうとする動きがで てきている。これらの認知神経科学的モデルでは,抑 うつ症状を示す者において観察される神経回路の異常 を,内受容感覚知覚の正確性の低さと結びつけて理解 している。そして,知覚の鈍磨に起因する内部情報処 理の過剰によって,抑うつ症状を呈する者にみられる 感情調節困難や意思決定の問題を説明しようと試みて いる傾向が見受けられる。そこで,これらの認知神経 科学的モデルについて記述的理解を行なう。

Paulus & Stein(2010)のモデル

 Paulus  & Stein(2010)のモデルは,「島」の活動過 剰によってもたらされる内受容感覚知覚の不正確さが 反すうなどの反復的思考に特徴づけられる内部情報処 理の異常を介して抑うつ症状を増悪させることを想定 するモデルとして理解することができると考えられ る。 ま ず,Paulus  & Stein(2010) に お い て は, 島,

特に認知的コントロールを担う脳領域との回路を形成 している前部島が,内受容感覚知覚を担っているとい う前提を有している。実際に,抑うつ症状を示す者に おいては,嫌悪刺激に対しての前島皮質の反応増加

(Strigo, Simmons, Matthews, Craig,  & Paulus, 2008)が 知られており,Paulus  & Stein(2010)は,抑うつ症 状を示す者における前島皮質の過剰な活動が,内受容 感覚の知覚の不正確性に寄与していることを想定して いる。また,Paulus  & Stein(2010)は,抑うつ症状 を示す者においては,実際の内受容感覚刺激に対して

「ノイズが多い」ことを想定しており,このことも内 受容感覚を正確に知覚できない要因であるとみなして いる。ここで言う「ノイズが多い」とは,いわゆる誤 差になりうる刺激情報が入ることではなく,抑うつ症

状を示す者にみられる,実際に入力された多様な内受 容感覚刺激のうち,特定の内受容感覚刺激の知覚のみ が著しく増強もしくは減衰されて,実際に入力された 刺激を適切に知覚できていない状態をさす。これは,

抑うつ症状を呈する者においては,内側前頭前野,側 頭頭頂接合部と前部島の回路の活動の過剰によっても たらされる,自身の身体状態について誤った信念に基 づく内受容感覚刺激処理によって,実際にはネガティ ブでない内受容感覚刺激もネガティブに知覚されやす くなるためであるとされている。 

 このように内受容感覚知覚が不正確であると,その 不正確な知覚に基づいて自身のその後の状態を適切に 予測するために,前帯状回,背外側前頭前野,眼窩前 頭前野,側頭頭頂接合部などのトップダウンの認知的 コントロールを担う脳領域の活動が過剰になることが 想定されている。その結果として,思考の産生が増加 し,これは主観的には反すうのようなネガティブな気 分の増大に関与する反復的思考として経験されると考 えられている(Figure 1)。

Northoff,  Wiebking,  Feinberg,  &  Panksepp(2011)

のモデル

 内受容感覚知覚と抑うつ症状の関係の説明を試みて いるもう 1 つのモデルとして,内受容感覚知覚の異常 が身体症状の知覚の増幅と外的な快刺激の処理の阻害 によって抑うつ症状を増悪させることを想定するモデ ルとして理解できる,Northoff   et  al.  (2011) のモデル を挙げることができる。当該のモデルにおいては,抑 うつ症状を呈する者においては,健常者と比較して外 的な刺激に対する脳活動の低下がみられる一方で,内 受容感覚に対する脳活動は健常者との間で差異がみら れないという知見をもとにして,外的刺激の知覚に比 して内受容感覚知覚が過度に優位になること,すなわ ち,アンバランスが生じることが抑うつ症状につなが ること,を想定している。具体的には,内受容感覚の 過度な知覚は,抑うつ症状にしばしば見受けられる不 快な身体症状の知覚を増幅させ,これは抑うつ気分の 増大に寄与すると考えられる。これに加えて,内受容 感覚を過度に知覚することによって,外的な環境の変 化,特に,抑うつ気分の抑制につながると考えられる ポジティブな出来事への気づきを低下させることに よって,抑うつ気分が持続することが想定されている

(Figure 2)。

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― 100 ―

内受容感覚知覚の正確性の向上のための心理臨 床的支援に関する展望

 内受容感覚知覚については,両者の理論モデルは主 張を異としている。具体的には,Paulus & Stein(2010)

は内受容感覚刺激の処理の異常を想定し,そこから内 受容感覚知覚の異常を導きだす一方で,Northoff et  al.(2011)は内受容感覚刺激の処理の異常を想定して おらず,内部感覚知覚の異常についての言及も行われ

ていない。しかしながらこれらの理論モデルは,内受 容感覚知覚と外部刺激知覚の  アンバランスさを共通 としていると言え,この観点から整合的理解が可能で あると考えられる。

 したがって,これらの理論モデルから想定すると,

抑うつ症状を呈する者においては内受容感覚知覚の向 上を目指したトレーニングは,抑うつ的情報処理を断 絶する可能性があることが推測される。しかしなが ら,内受容的感覚知覚の正確性の向上を直接的に意図 した心理学的介入は,今までに試みられていなかった

Figure 1  Paulus & Stein(2010)による理論モデル(Paulus & Stein(2010)に基づき本研究で 独自に作成)

Figure 2 Northoff et al.(2011)による理論モデル

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― 101 ― のが現状であると考えられる。そこで本論考では,内 受容感覚知覚の正確性を向上させることができる可能 性のある心理学的介入としてバイオ・フィードバック およびニューロ・フィードバック,またマインドフル ネス・トレーニングを挙げ,整理する。

バイオ・フィードバック,ニューロ・フィードバック  内受容感覚知覚を向上させるための方法として,自 身の内受容的活動について,外在的な指標によって客 観的に観察可能にすることによって自身の内受容的活 動のモニタリングを促進することが想定される。実際 に,Schandry  & Weitkunat(2009)は,自身の心拍活 動に関して,バイオ・フィードバックを行なうことに よって内受容感覚知覚が向上することを報告してい る。また,Schandry  & Weitkunat(2009)は,参加者 に心拍活動を聴覚刺激によってフィードバックし,心 拍のリズムに合わせてボタンを押すことを求めた。そ の結果,心拍誘発電位によって測定される内受容感覚 知覚が向上したことが明らかにされている。

 同様に,自身の脳活動についてのフィードバックを 受けるニューロ・フィードバックも,内受容感覚知覚 の 向 上 に 寄 与 す る こ と が 考 え ら れ る。 た と え ば,

Caria et al.(2007)は,視覚提示によって内受容感覚 に大きく寄与していると考えられる右前部島の活動状 態のフィードバックを行なった。その結果,セッショ ン中における参加者の右前部島の活動がベースライン 時と比して活性化することが認められた。この前部島 活動のニューロ・フィードバックに関しては,その影 響性を具体的な心理学的変数との関連によって検討し た 研 究 も 存 在 す る。 た と え ばCaria, Sitaram, Veit,  Begliomini,  & Birbaumer(2010)では,左前部島の活 動についてのニューロ・フィードバック訓練を4回行 なった者に対して,ネガティブな情動を喚起する視覚 刺激を提示し,その際に同部位の活動についての ニューロ・フィードバックが行われた。その結果,

ニューロ・フィードバックを行なった群では,左前部 島の活動と刺激に介しての感情価についての関係が強 くなり,左前部島の活動が小さくなると刺激に対して のネガティブな評価が見られなくなることが報告され ている。またRuiz et al.(2013)は,統合失調症患者 に対して,両側前部島の活動についてのニューロ・

フィードバックを2週間行なった。その結果,訓練後 は,表情認知課題において不快な表情について認知が

より正確になり,その正確さは右前部島の活動の増加 と対応していることが示された。

 しかしながら,これらのバイオ・フィードバックや ニューロ・フィードバックは,機材が高価であること や,実施が簡便ではないことから,治療法として用い るには,非常に高いコストを要する。一方で,研究数 はそれほど多くないものの,これらの方法は,内受容 感覚知覚を向上させることによって,一貫して心理学 的変数に対して一定の効果をもたらすことを示してい るとも考えられるため,今後,この治療法によるコス ト面の低下が図られることができれば,抑うつ症状に 対しての有効な治療法となることが期待される。

マインドフルネス・トレーニング

 マインドフルネスとは,「意図的に,この瞬間に,

価値判断することなく,注意をむけること」(Kabat- zinn, 1994)と定義される。このマインドフルネス状 態を獲得するための心理学的介入技法は,マインドフ ル ネ ス・ ト レ ー ニ ン グ(Mindfulness Training  : MT)

と総称され,一般に呼吸瞑想やマインドフルネス瞑 想,ボディー・スキャンなどの手続きから構成される

(Kabat-zinn, 1990)。

 そのMTの効果として,内受容感覚知覚の向上が生 じる可能性が指摘されている(Hölzel et al., 2011)。実 際に,自記式質問紙を用いた研究では身体感覚知覚の 向上が報告されている(Carmody  & Baer, 2008)こと から内受容感覚知覚が正確になったと想定できるほ か,脳指標を用いた研究においては,脳活動の変化や 脳構造の変化によって,MT後にMTによる内受容感 覚知覚の向上が認められている。特に,8週間のMT 経験者では,未経験者と比較して,現在の経験に注意 を向けた際に有意な島の活動が認められている(Farb  et al., 2007)ほか,悲しみを誘導する映画を鑑賞した 際には,有意に右島が活動することが明らかにされて いる(Farb et al., 2010)。

 このようにMTと内受容感覚知覚向上の関係を検討 した研究はいくつか存在するとはいえ,今後の研究の 発展によって,さらなる知見の蓄積も必要である。ま た,バイオ・フィードバックやニューロ・フィード バックと比べて,MTは特別な機材などを使用しなく てもよいことから実施が簡便であり,また個別ばかり ではなく集団においてもその治療が適用できるという 利点を有している。また,MTは抑うつ症状の治療に

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― 102 ― お い て も そ の 効 果 が 広 く 知 ら れ(Hofman, Sawyer,  Witt,  & Oh, 2010),特に従来治療が困難であった反復 性の抑うつ患者に対して再発予防効果があり,フォ ローアップも比較的優れていることが報告されている

(Beshai, Dobson, Bockting, & Quigley, 2011)。したがっ て,現段階では,内受容感覚知覚向上を目指したト レーニングとしては,最も適した方法であると考えら れる。

 しかしながら,MTは,内受容感覚知覚の一般的な 指標である心拍知覚課題を用いた研究においては,そ の実践と内受容感覚知覚の向上の関係は,十分に認め られていない(e.g., Parkin et al., 2014)。この点に関し て,Hölzel et al.(2011)は,心拍感覚の知覚は,MT において強調される感覚ではないために,内受容感覚 知覚の指標としてふさわしくないことを指摘してい る。このような限界点を踏まえると,今後必要な研究 として,内受容感覚知覚を測定する新しい手法の開発 を行なう研究,長期のMT実践者や集中的な合宿形式 のトレーニングを受けたMT実践者に対して,心拍知 覚課題や心拍誘導電位を用いた研究が挙げられる。

 本論考では,抑うつ症状を呈する者が示す感情調 節,意思決定の問題について,抑うつ症状によって生 じる内受容感覚知覚の鈍磨が,その原因となっている 可能性を指摘した。また,これらの理論的帰結とし て,内受容感覚知覚を向上させるトレーニングが抑う つ症状への有効な治療法となる可能性を考察し,その 具体的な方法としてバイオ・フィードバック,ニュー ロ・フィードバック,MTを取り上げた。

 これまでの研究においては,内受容感覚知覚の向上 が抑うつ症状の減少に与える影響に関しては実証的に 検討されてこなかった。実際に,本論考で取り上げた MTについても,その抑うつ症状低減メカニズムにつ いては,主に「持続的注意」の注意制御機能から想定 することが一般である(Bishop et al., 2003;  荻島・前 田・増田・嶋田,2016)。しかしながら,MTが最も 効果をもたらすとされている大うつ病性障害に対して の再発率も,11.7%〜56%というかなり大きな誤差を 含んでいることから,その効果は必ずしも一貫して認 められているとは言いがたい(Beshai et al., 2010)。こ のような現象が生じる原因の1つとして想定されるの が,内受容感覚知覚の正確性の低下である。実際に MTの実践において,マインドフルネスの体験的理解 が難しかった者においては,その効果がみられなかっ

たことを報告する知見が報告されている(Dobkin et  al., 2012)。 

 以上の点をまとめると,従来の抑うつ症状に対する 心理学的介入においても内受容感覚知覚の変化が重要 な影響を持っていた可能性が考えられる。このことか ら,今後,従来必ずしも注目されていなかった内受容 感覚知覚をプロセス変数として扱い,介入効果への寄 与を検討することや,内受容感覚知覚を直接的に変容 するアプローチを精緻化することは,抑うつ症状に対 する心理学的介入の効果をより高めることにつながる と考えられる。

 本稿では,内受容感覚知覚の正確さの低下と抑うつ 症状,及び抑うつ症状を呈する者にみられる感情調節 の困難や意思決定の障害に及ぼす影響について考察を 行なった。本稿における整理に基づくと,感情調節や 意思決定の基盤としての役割を担う内受容感覚知覚を 直接的に向上させることによって,抑うつ症状をより 効率的に改善させることができる可能性が示唆され る。また,従来は主に薬物療法による治療が適用され てきた抑うつ症状における身体的異常に対して,内受 容感覚知覚に着目することを通して,心理学的なアプ ローチの適用可能性も示唆している点で,本稿の理解 の枠組みにおける整理は有意義であると考えられる。

 その一方で,感情調節困難や意思決定の問題は,抑 うつ症状の維持要因の一部にすぎないことからも,内 受容感覚知覚の正確さの低下が抑うつ症状を呈する者 の多様な臨床像をどの程度説明可能であるかに関して は十分に明らかになっているとは言いがたい。また,

内受容感覚の正確さの低下は, 身体的違和への反応を 促進することを通して身体症状をより増強するという 推測は得られるものの,このようなプロセスを実証す る十分な知見が一貫して得られているとは言いがた い。これらのことを踏まえると,内受容感覚知覚が抑 うつ症状のどの症状に影響を与えるかは,十分に明ら かになっているとは言えないのが現状であると考えら れる。今後,内受容感覚についてさらなる実証研究が 進められることで,内受容感覚知覚は,抑うつ症状の 身体症状,精神症状,それとも双方へ効果をもつのか,

また効果を持つならばそれはどの部分であるかが説明 可能となり,知覚の正確性の向上が抑うつ症状にどの ように効果を発揮することが可能であるかが,詳細に 記述可能になると考えられる。

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