著者 三富 紀敬
雑誌名 静岡大学経済研究
巻 2
号 1
ページ 1‑65
発行年 1997‑05‑30
出版者 静岡大学人文学部
URL http://doi.org/10.14945/00000643
イギ リスの在宅介護 を担 う児童
論 説
三 富 紀 敬
は じめに
コミュニテ ィ・ケアについて述べるとき、その主な関心は、イギ リスではサー ビスを受 ける人々 に対 して伝統的 に払われて きた。 この関心が、介護関係 の もう一方の当事者 であ る在宅介護者
(inforrrlal carer)に まで広 げられ るのは、比較的最近である。
在宅介護者の問題 をはじめて公 にしたのは、MOウェブスター (Mary Webster)女史である。
彼女 は、公衆派協会の聖職者 としての職 を1950年代初頭 に辞 して、両親の住 む家 に戻 らなければ な らなかった。それ とい うの も、彼女の両親が ともに病気 を患い介護 を必要 にしたか らである。
彼女 は、介護 の体験 を通 して彼女 と同 じように介護 を担わなければならない女性の境遇 に思いを はせ、両親 の死後 これ らの忘れ られた女性たち (forgotten women)に ついて深 く究明 しようと 心 に決めるのである。彼女 は、 ロン ドン大学の講師 (BarOness sear)な どの援助 も得なが ら介護
を担 う女性の境遇 についての手記や論稿 を新聞や雑誌 な どに寄せている。その最初の論稿 は『フェ デラシオ ン・ニュース』誌 (Federatibn News、 10巻 2号、1963年 5月)に掲載 の「忘れ られた 女性たち」である(1ヽ
手記や論稿への反響 は大 き く、彼女 に寄せ られた読者の手紙 は、数百通 にのぼる。彼女 は、介 護 を担 う女性の問題 に関心 をもつ人々 を下院 (House of Commons)の 委員会室 に集 めて討論会 を開いている。65年11月 の ことである。この討論会 をへて、独身女性 とその扶養者ナシ ョナルカ ウンシル (National Council for the Single Women and Her Dependants,NCSWHD)が 結成 され、 ここに在宅介護者の運動が始 まるのである (65年)。
在宅介護者 の問題 は、 こうした経緯 をへてようや く公 にされ専門研究者 による調査研究の対象
として取 り組 まれはじめる。在宅介護者 は、すでに述べた経緯か らもうかが えるように、当初女 性や女性労働 とのかかわ りで もっぱら取 り上 げられ、次いで男女の双方にかかわって論 じられ る。
さらに、少数民族出身の在宅介護者 との共通性や差異 について論 じられ る。加 えて児童の在宅介 護者 (Young carer)に ついて も論及 される。
在宅介護者がなぜ忘れ去 られてきたのか、 また、なぜ どのように発見 され注 目を浴びるように なったのであろうか。 これ らの問題 は独 自に取上 げて論ずるにふ さわ しい ことが らであ り、本稿
とは別個 に論 じてみたい と考 えている。
本稿で は、在宅介護 を担 う児童 について取 り上 げ、その規模 と構成、介護の児童 にお よぼす影 響 とニーズ、援助策 について検討す ることにしたい。
尚、本稿 に用いる調査資料の殆 どは、イギ リスの自治体や大学の関係者 よ りお送 りいただいた ものである。筆者の文書 による照会 と依頼 に実 に心 よ く応 じていただいた。 これ らのお力添 えが なければ、本稿 も日の目を見なかった と思われる。 このような事情 をあらか じめ記 して、関係者 に感謝の心持ちを示 してお きたい。
I
在宅介護 を担 う児童の発見在宅介護 を担 う児童 は、数世紀前か ら存在す る。病気 を患いあるいは障害 を抱 えた血縁者 を家 族 で介護す る児童 は、 ごく最近 までほ とん ど知 られて こなかった し、その特徴や経緯、ニーズや 貢献 について文書 に記録 されることもなかった。 しか し、在宅介護 を担 う児童の像 を歴史の中に 跡づ け、その存在 を確かめることはで きる。小説 に描かれた像 を思いお こしてみたい。不朽の名 作 を数多 く残 した小説家COディケンズ (Charles Dickens,1812‑70年 )の作品 を例 に とろう。
Ceディケンズの円熟期の作品『 リトル・ ドリッ ト』(Little Dorrit,1857年)をひ もとくと、登 場人物 (エイ ミー)が、「小 さな母親」(little mOther)の 役割 を負い、非常 に幼 い頃か ら彼女の 家族 のためにかいがい しく働 いているさまを読み取 ることがで きる (第9章)。 リトル・ ドリッ ト
は、当時13歳、弟や妹 に とっては家政婦であ り母親である②。父 は、当然 もっていてしか るべ き 父親 としての資格 をはじめか ら欠いている。父 は、負債で逮捕 され、マーシャルシー(Marshalsea) 債務者監獄へ連れていかれ る。エイ ミーは、不運 な家族 の年長児 として働 くのである。作品には、
彼女 の抱いた不安やつ らさが描かれている。イギ リスの著名 な小説家であ り詩人で もあるT・ハー ディー (Thomas Hardy,1840‑1928年)のもっ ともす ぐれた作品『ダーバーブィル家のテス』
(Tess of the D'Urber宙1les,1891年)からも、在宅介護 を担 う児童の姿 を知 ることがで きる。
‑2‑
イギリスの在宅介護を担う児童
女主人公 のテスは、飲 んだ くれの父親 と子沢山の生活 に追われ る母親 の もとで育 つ。彼女 は、10 代で父 を失 う。彼女 は7人の子供 を育てるのに苦心す る母親の もとで、いわば母親代わ りの役割
を担 うのである。L
小説 に描かれた これ らの姿 は、児童の歴史 に関す る研究成果 によって も確かめられ る。児童 は、
ある女性研究者 によると両親の一方 もし くは双方の死亡 とともに弟や妹たちの介護 を背負 う。11 世紀初頭 の ことである。13世紀 に至 って も、平均余命 は、30歳ほ どである。幼少期 をす ぎた児童 は連れあいを失 って悲 しみに くれ過度の負担 に悩 む母親 を助 けて、家族構成員の世話 を引 き受 け る。 リンカー ンの ヒュー少年 (St.Hugh of Lincoln)の 事例が、 この女性研究者 によって紹介 さ れている。ヒュー少年 は、母 をはや くにな くしている。ヒュー少年 は、「父の老齢化 とともにその 一身 を父の介護 にささげている。……父の手 を引いて一緒 に歩 き、衣服 の着脱 と入浴の介助 も行 なっている。ベ ッド・ メイクも手が ける。父が加齢 とともに一段 と弱々 しくなった時、 ヒュー少 年 は、父の食事 をつ くるばか りか、食事の介助 さえ手が けている」0。
在宅介護 を担 う児童の一端 は、 このように著名 な文芸作品や児童史研究 をひ もとくことによっ て確かめることがで きる。 しか し、在宅介護 を担 う児童 を真正面か ら取 り上 げ、 その影響や対策 について展望す る調査や研究 は、 ご く最近 まで手つかずのままである。
在宅介護 を担 う児童 とその問題 をはじめて独 自に取 り上 げたのは、新聞や大衆雑誌である。筆 者の知 るか ぎ りで も、英国放送協会 (BBC)の編集 になる『オープン・スペース』誌 (Open Space) が、「小さな金魚たち」(Little Goldfish People)と 題 して取 り上げている (85年 7月 31日 号)。
同じく『ザ・ リスナー』誌 (The Listener)が「介護者の為の介護:ビク トリア時代の自助努力 は、福祉国家にとって代わるのか」(Caring for the carers:should Victoriaǹself― help'replace the welfare state?)と 題 して (87年 5月 21日号)、『サウサーン・イブニング・エコー』紙 (The Southem Evening Echo)も 、論題 は不明であるものの(87年 12月 25日)取り上げている。『リ バプール・エコー』誌 (Liverpool Echo)誌 も在宅介護 を担 う児童 とその問題を90年代に入って 前後2回にわたつて扱つている(91年 2月 、同年7月)。『インデペ ンデント』誌(The lndependent)
も、「児童は障害をもつ両親の介護に悩む」 と題 して取 り上げている (92年5月 8日)。
在宅介護を担 う児童 とその問題についての調査は、1988年 以降に手がけられている。表 1は 、 88‑96年 にかけて実施 された調査の名称 をはじめ実施主体、期間および対象者数について一覧 し たものである。調査は、見 られるように 15を 数える。
15の 調査のうちもっとも早い時期に手がけられた 3つ の調査、すなわち表 1の 上から順にサン ドウェル調査、タームサイ ド調査およびリーズ調査 Iは 、在宅介護 を担 う児童の範囲を確かめよ
表1 在宅介護 を担 う児童に関する調査 (1988〜96年
)
調 査 の 主 体 首都 自治 区教育部 区役所政策研究ユニ ッ ト 市社会サー ビス部 市役所介護児童研究担当者 ラー フボロー大学研究員 市社会 サー ビス部職員 マ ンチェスター大学講師 マ ンチェスター大学教授他 市教育部職員
オープン・ ユニバ ー シテー ラー フボロー大学研究員 チル ドレン・ ソサエテ ィ 州介護児童計画管理委員会 ラー フボロー大学研究員 市保健社会サー ビス部
1988年6月
1988名「12月 1990年11月
〜91年2月 (1992年
5月)(D 19924「
7〜10月 1992年 1992年 1994年
4〜 8月 1994年9月 1995年 1月 1995年12月 (1995年)(D (1995年)(D (1995年)(D 1996年6月
調 査 の 名 称
の童
1
2 3 4 5 6 7 8 9芋
̀三
奥調基中等学校の児童介護者数に関 寄藷暮に関するタームサイ ド首都 自治区役 堺竿翁暑症の親の児童介護者に関するリー セフ トン市の児童介護者調査
ノッチンガム市の児童介護者調査
些界不理装薯晶塞精神障害を抱えた親の児 藉名んぶ墓島圭κ穎ゐギ町兵るプヽ【襲墓曇譴曇肇運雲る
に関ヂΣ義基ド州の児童介護者計画の評価
墨薯ど豪書藷暮フイルド自治区の児童介 あ外韮進晨た禽子ぞ更牙ぎ′β晶なの児童
関すを発聾ム市 の児童介護者計画 の評価 に ヱ1%義丞ス タ 市の 児 童 介 護 者 とそ の グロスター シャー州の児童介護者調査 37都市 の児童介護者調査
ハル トン市の児童介護者調査
95人+74人②
564A (3)
60A
ll人 15人 15人 28人 281人 85人 8人 61人
(4)
91人 130人 641人 35人・0
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・2
・3
・4
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Child carers report,Februa
Tamesidc M.B.C.'s research on carers young carers,Policy Rese酪 こh unit Tameside M.Ё。こ199':
Sandra BilsbOrrow,You grow up fast,as well...,young carers on Merseyside,Carers National Association,May 1992,Alis6n Eniot,Hidden children,a study of ex― young carers of parents with mental health problems in Lceds,Lceds City Council,Department of Social Services,October 1992, Jo Aldridge and Saul Becker,Children who care,inside the wOrld of young carers,Loughborough University,Departinent Of SOcial Sciences, 1993,Jeni Webster, Split in twO; experiences of the children of schizophrenic lnothers,BHtish JOuma1 0f Social WOrk,22(3),1992,Jo Ald五 dge and Saul Becker,Punishing children for caring;the hidden cost Of young carers,Children and Society,7;4, 1993,City of Leeds,Department of SOcial Services, Young carers of parent with schizophenia,a
≧肌趣I詳ミ為 驚 露ど1』凛置t:P9ルperspective,Loughborough University,Department of」]踊∬臨鋸譜躍‰絆::Ъ鵬翠L∬
Social Sciences,1994,Penny Liddiard and Stanley′rucker,MiltOn Keynes Young Carers Praect,A Pilot study looking at the experiences of caring of eight young people in Milton Keynes,Schoo1 0f
m羮 榊
靭鸞
I離[蠍
r,Young carers,the facts,The Young Carers Research楡聯欄盤競響
GrOup at Loughborough University,1995,Sean Curran and Rick HOwell,Young carers in Cheshire, 1996よリイ乍がれ
[注 ]日
認貸絡習翼茎暦魂hfとで経羹言椛 史諄、権 モ歌■讐2急ゎれる者
(suspected carers) を示 す 。
│:1 奮秀翁喜霞詞倉β『首ピ疹督層βξ房↑層詈r魔警χ勇暮対象は53人である。表中では12月
の数値 につ いて示 して い る。
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イギリスの在宅介護を担う児童
うとした ものである。サ ン ドウェル調査 は、中等学校 に通 う1万9,000人の児童の中か ら95人の 在宅介護児童 を確認 している。同 じくタームサイ ド調査 は、お よそ21万8,500人の住民の中か ら 564人の在宅介護 を担 う児童、 リーズ調査Iは、60人の在宅介護児童 をそれぞれ確かめている。
これ らの3つの調査 は、その後 に続 く同種の調査の出発点 をなす とともに、在宅介護 を担 う児童 とその問題 についての世論 を大 いに喚起 している。
3つの調査 は、共通する調査の方法 を用いている。それは、在宅介護 を担 う児童か ら直接 に情 報 を得 ているわ けではな く、教育関係者や保健・ 社会サー ビス分野の担当者か らの情報 をよりど ころにす ることである。 これ らの担当者 は、 日常の仕事 を通 して児童やその家族 と接触す る立場 にある。被介護者や在宅介護 を担 う児童 についての情報 を入手す ることがで きる。在宅介護 を担 う児童の範囲 を確かめるうえでは、妥当な情報源であるといえよう。 しか し、 この方法 は、在宅 介護 を担 う児童の範囲 を確かめるうえでは ともか く、児童のニーズを把握 して政策的な対応 を見 通す うえでは、はなはだ不十分である。在宅介護 の もた らす児童への影響 とニーズの一部 は、児 童 と日常的に接触する専門職者 を通 して把握 され る。 しか し、児童がインタビューや討論 な どを 通 して調査の過程 に参加することなしには、影響やニーズの把握 も十分ではない。
3つの調査の うちタームサイ ド調査 を除 く2つの調査 は、表2に示 され るように在宅介護 を担 う児童の範囲に とどまらず、その影響やニーズ、援助 の状況 をも調査の項 目に加 えて政策提言の よりどころを得 ようとしている。調査の項 目はみ られ るように10‑10.5項目にお よぶ。のちに行 われ る同種 の調査 に較べて もさして見劣 りの しない数である。 しか し、影響やニーズの把握 は、
専門職者の知見だけをよりどころにす る。在宅介護 を実際 に担 う児童か らの情報 は、残念 なが ら 含 まれない。影響やニーズは、当事者 自身の感想や意見 を抜 きに論 じられては、いささか片手落 ちであろう。
初期 に手が けられた3つの調査 は、 この ように考 えると在宅介護 を担 う児童の範囲について先 鞭 をつけた ものの、児童への影響やニーズをあます ところな く発見 して対応策 を練 る上では不十 分である、 と評 さなければな らない。在宅介護 を担 う児童 は、3つの調査 によって十全 に発見 さ れた:とはいいがたい。
3つの調査 に続 くセフ トン調査 は、教育職者や社会サー ビスの担当者 に加 えて在宅介護 を担 う 児童か ら直接 にききとったはじめての例である。調査 は、在宅介護 を担 う児童 を見つけ出す こと か ら始め られている。児童の介護経験やニーズについて、前出の3つの調査 よりはるかに多 くの ことを明 らかにしている。セフ トン調査が前出の表2に示 され るように「介護の作業内容」 を調 査 の項 目としてはじめて取 り上 げた ことか ら、 うかが うことがで きる。「介護の作業内容」は、教
表2 在宅介護 を担 う児童調査の主な調査項 目等一覧 調査名
(D
調査 の項 目等
調 サ ン ド ウ 査 ル
タ ー ム サ イ ド 調 査
リ ー ズ 調 査 I
セ フ ト ン 調 査
調 ノ ツ 査ζ
ガ Iム
リ ー ズ 調 査 H
ロン ド ン
・ノ ー ス ウ エ ス ト 調 査
調 マ
1
ジ
1
サ イ 査 ド
ロ ンド ン
・ エン フ ィ ー ル ド 調 査
ン ミ ル ズ ト
ン 調・
ケ 査 イ
調 ノ ツ 査ζ
ガ
Hム
ス ウ タ イ 1ン 調 チ 査=
シグ ヤロ 1ス 調 タ 査1
37 都 市 調 査
ハ ル ト ン 調 査
児童介護者 の定義
〃 の数
〃 の性別構成
〃 の年齢別構成
〃 の民族別構成
〃 の家族構成 被介護者 との血縁関係
〃 の疾病の状況 介護 の作業 内容 介護 の開始年齢 介護 に費やす時間 介護 の期 間 介護 の影響 児童介護者 のニーズ
〃 への私的な援助
〃 への公的な援助 政策 の提言
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調査項 目の数側の
[資料]表1に 同じ。
[注 ]に)調査の正式な名称は表 1の 1〜15の調査名である。
(2)表中○印はあり、空欄はなし、△印はあるものの事例の一部に限られるなど部分的にあることをそれ ぞれに示す。
131 表中の○印は1点、同じく△印は0.5点としてその合計を集計している。分母は調査項目の総数、分子 は当該する調査に盛 り込まれた調査項目の合計をそれぞれに示している。
育職 にあ る人 々 は もとよ り社会 サー ビスの担 当者 に よって も確認 しがたい ことが らで あ る。在宅 介護 を実際 に担 う児童 か ら直接 に きき とる こ とによって、 は じめて把握 され るので あ る。 セ フ ト
ン調査 ののちにお こなわれた同種 の調査 は、ハル トン調査 を除 いてすべ て児童 か らの きき とりを 踏 まえて い る。 セ フ トン調査 は、 そ うした調査 方法 の先駆 けで あ る とい えよ う。
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イギリスの在宅介護を担う児童
セ フ トン調査 にも限界 はある。2つの ことを指摘 してお きたい。第1に、調査で取 り上 げられ る地域 は限定 されていることである。在宅介護 を担 う児童の数 もおのず と少ない。セフ トン調査 についていえば、前出の表1のように11人の児童である。これは、前出の3つの調査 はもとより セフ トン調査 に続 く殆 どの調査 について も指摘 され る。それぞれの地域 には、他の地域 に共通す ることとあわせて固有の事情 もある。地域調査か ら得 られた結論 を、その まま全国に共通す る特 徴 と見 なす ことは、いささか危険である。第2に、在宅介護 を担 う児童か らのききとりを踏 まえ ているとはいって も、個々の事例 の紹介や計数の集計 に終わ るきらいがある。 これはセフ トン調 査だけの限界ではない。 これに続 く調査のい くつか も同 じ問題 を抱 えている。
これ らの限界 は、S・ベ ッカー (Saul Becker)を責任者 として92年に発足 した専門の研究 グ ループ (The Young Carer Research Group at Loughborough University)の 一連の調査 によっ て取 り払われる。 まず、特定の地域 に限定 された調査か らの脱皮 についていえば、S・ ベ ッカー 他の手 になる『児童介護者調査』 (Young carers,the facts,1995)に よつて果た され る。 この調 査 は、イギ リスの37自治体で手が けられている。在宅介護 を担 う児童計画(young carers proiect) をよりどころに実施 された ものである。37自治体 は、スコッ トラン ドをはじめウェールズ、イ ン グラン ド北西部、同 じく北東部、南西部、南東部の各地方それにロン ドンにまたがる。調査の対 象は、前出の表1に示 され るようにもっ とも多い641人である。37自治体 の在宅介護 を担 う児童 計画 にそって接触の とれた児童たちである。名実 ともに全国規模 の調査 とは、いいがたいか もし れない。しか し、それに近い規模 の調査であるといってよかろう。いまひ とつの限界 も、SOベッ カー等の調査 によって克服 され る。 ノッチ ンガム調査IおよびⅡが、それである。 この うちノッ チ ンガム調査Iは、調査の対象 とす る児童 こそ15人と少ない ものの、つ ごう 16.5の 調査項 目を 用意 して在宅介護 を担 う児童 について調べあげている。報告書 もおのず と膨大である。
A4版
の 2分冊でつ ごう144ページにお よぶ。 この調査が「在宅介護 を担 う児童の構成、介護の作業内容、児童の生活への影響 について多大 な知見 を加 えた」6)と評 され るの も、もっ ともである。続 くノッ チンガム調査 Ⅱも同様である。15の調査項 目にそって計数 を整理 しなが ら、在宅介護 を担 う児童 の状態 とニーズについて包括的な分析 を加 えている。
S・ ベ ッカー等 による3つの調査 は、在宅介護 を担 う児童 についての包括的な分析 をよりどこ ろに、児童の支援 にむけた政策の提言 を体系的にお こなっている。政策の提言 自体 は、前出の表 2に示 され るように同種の他の調査 も手が けている。しか し、S・ベ ッカー等 による提言 は、もっ とも体系的である。た とえばサ ン ドウェル調査 は、在宅介護 に追われて孤立 す る児童への支援 を 含 めて5項目の提言 をお こなっている。 これに対 して、ノッチ ンガム調査Iは、在宅介護 を担 う
児童の権不Uについてだけで も16項目の提言 をお こない、これを出発点 に教育職者や社会サー ビス 担当者向けの多 くの提言 をまとめている。S・ ベ ッカー等の提言が、 自治体の在宅介護 を担 う児 童計画 に関す
。ル幕書 にほぼその まま採用 されて行政の指針 になっているの も、 うなづ ける ところ である。
)。
在宅介護 を担 う児童 に関する独 自の調査が数多 く実施 された背景 には、 どの ような事情がある のであろうか。調査 は、前出の表1に示 した ように自治体 の社会サー ビス部やその職員 によって も手が けられている。 してみると、調査 はもっぱら知的な関心 に根 ざしているとはいいがたいよ うに思われ る。3つの事情 を指摘 しておきたい。
第1に、在宅介護 を担 う児童 とその影響 とが、教育機関や社会サー ビスの窓口で個々 に伝 えら れ始 めていた ことである。た とえば学校 を長期 に亘 って欠席す る児童 を訪ねて調べてみると、実 は在宅介護 を担 っているために学校 をやむをえず欠席 しているな どの事例である。似たような事 例 は社会サー ビスの窓口にも伝 えられ る。ホームヘルパーが被介護者の自宅 を訪れてサー ビスを 提供す る中で在宅介護者が じつは児童であるとい う光景 に出 くわす ことな どである。
第2に、児童 に関す る1989年法 (the Children act 1989)な らびに、国民健康保健 とコミュニ テ ィーケアに関する1990年法 (the NHS and Community care act 1990)が 、在宅介護 を担 う 児童 にある種の可能性 を用意 した ことである。すべての自治体 は、児童 に関する89年法の もとで 児童 の福祉 を守 り促進するとともに、その目標 をな しとげるにふ さわ しい援助 を提供す ることと され る
C71。
児童が在宅介護 の担い手である時、その福祉 は、おおいに脅かされ るように推測 され る。自治体 は、在宅介護者 としての児童 をどのように援助するのか、法的な責任 を問われ るのである。
国民健康保健 とコ ミュニティケアに関する90年法 は、児童 を含 む在宅介護者のニーズを考慮する ように求 めて、 さきの児童 に関す る89年法 を補 うものである。
最後 に、介護者全国協議会 (CNA)が、保健省 (DH)の補助金 を受 けて在宅介護 を担 う児童 計画 を1990年に発足 させ、在宅介護 を担 う児童への支援 とこの問題 についての世論の喚起 に乗 り 出 していることである。専門に担当する職員 を配置 しなが ら、相談の窓口を恒常的に開いている。
討論集会 を各地で開いた り、各種 の啓発資材 を発行 して利用 に供 して もいる。介護者全国協議会 の この計画 は、在宅介護 を担 う児童の問題 を広 く知 らせ児童 を勇気づけるうえでかけがえのない よ り所である
(8)、
と評価 されている。在宅介護 を担 う児童 とその問題 は、長い問その存在 さえ知 られて こなかった。 しか し、調査の 進展 につれて各方面の注 目を浴びはじめている。 こうした変化 をい くつかの資料 をもとにあ とづ
けてみたい。
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イギリスの在宅介護を担う児童
た とえば下院・社会サー ビス委員会(HCOSSC)の報告書『コ ミュニテ ィケアー‐在宅介護者一一』
(90年 5月 9日)は、在宅介護者 とその問題 について多面的 に分析 し政策 について提言 してい る0。 この報告書 は、90年1‑4月 にか けて行われた前後9回の公聴会 を踏 まえてまとめ られた ものである。公聴会 には、介護者全国協議会の代表 も招かれて児童 を含む在宅介護者の状況 とニー ズについて発言 している。 しか し、社会サー ビス委員会の責任で まとめられた報告書 に、在宅介 護 を担 う児童 についての文言 を見 ることはで きない。 さらに、D。ロビンス (Diana Robbins)の 編集 にな る『コ ミュニ ティケアーー保 健省 の助成 に よる1988‑92年の研 究効 果 の要約 と紹介 一コ10』 (93年)は、表題 に示 され るように保健省 の助成 による5年間の調査研究 について手 ぎわ よ く要約 して読者の利用 に供 している。本書 には、100本以上 の論稿が収 められている。第3章は、
「在宅介護 と在宅介護者」である。 この章 には、「在宅介護者 に関す る85年『国勢調査』の分析」
に始 まってつ ごう13本の論文が収 め られている。しか し、在宅介護 を担 う児童 についての論文 は、
残念 なが らない。保健省 による研究助成 の対象 にな らなかった、 とい うことであろう。 しか し、
J・ ツィグ (Julia Twigg)の編集 になる『在宅介護者一一調査研究 と実践一JH」 (92年)は、 在宅介護 を担 う児童 について正当に取 り上 げて調査研究の成果 を紹介 してい る。本書の第2章は、
「在宅介護者間の相似 と差異」 と題 され る。 K・ ア トキン (Karl Atkin)の執筆 である。K・ ア トキンは、在宅介護 を担 う児童 について独 自の項 を起 こして論述 している
(1の
。その主な内容 は、前出の表1および表2で示 したサ ン ドウェル調査 とタームサイ ド調査 にそった ものである。2つ の調査が、在宅介護者の専門研究者 によって正当に着 目され評価 された、 といえよう。在宅介護 を担 う児童の調査が、88年か らの積 み重ねを通 して他の分野か らの注 目を浴びはじめた一例であ る
(13)。
さらに、保健省0社会サー ビス監督官 (SSI)は、在宅介護 を担 う児童への関心の高 ま りに応 え て「在宅介護 を担 う児童問題啓発計画」(YCDP)に取組 みはじめている。95年5月 か らの計画で ある。計画 は、児童の抱 える一連 の複雑 な問題 について討論 を促す 目的を掲 げている。討論会が、
この計画 にそってロン ドン(London)、 リーズ (Leeds)、 レスター (Leicester)そ れ にレディン グ (Reading)の4カ 所で開かれ、92の自治体か ら350人を超す人々が、 これに参加 している。
また、『コミュニティーケア』(Community Care)誌の主催 になる討論会 F在宅介護 を担 う児童 一― その支援のために一一」 も95年11月 に開かれ活発な討論がなされている。
ところで、在宅介護 を担 う児童の発見 は、イギ リスに独 自である。他の ヨーロッパ諸国に見 る ことはで きない。た とえばフランスの在宅介護者調査 は、1980年代半 ばか ら実施 されている。し か し、それは、高齢者 を看 る成人の在宅介護者 を対象 にす る。在宅介護者の規模 を調べ る試みは、
地域ベースでは ともか く全国ベース となるとこれ まで行われて こなかった。在宅介護者の年齢構 成 に関す る調査結果 はある。 しか し、18歳未満の在宅介護者 に関する調査結果 はない。在宅介護 を担 う児童が、独 自のニーズを持つ特別の集団 として一般 に認 められていないか らである。在宅 介護 を担 う児童 は、フランスの児童保護制度 において独 自のカテゴ リー として承認 されていない。
唯一、フランス0アル ツハイマー関係問題協議会(FAARP)が、在宅介護 を担 う児童の独 自のニー ズについて公式 に認 めている程度である。つ。事情 は、スウェーデンで も同 じである(10。 いかなる 調査 も在宅介護 を担 う児童 について手がけられていない。いかなる全国ベースの計数 も被介護者 を自宅で看 る児童の規模 について存在 しない。 そのわけは、い とも簡単である。スウェーデンの 社会サー ビスはす ぐれて包括的であるか らである。児童が被介護者 を自宅で看 る必要な ど、生 ま れ ようがない。イギ リスに似た問題が仮 りにあるとすれば、それは、移民者の家族 に限 られる。
児童の手伝 う姿 は、移民の家族の文化的な伝統であるか らである。 しか し、 こうした光景 は、ス ウェーデン人の中に見 ることはで きない。 さらに、 ドイツもフランスやスウェーデンと似た状況 にある
(1つ
。 ドイツでは、家族内の介護 に関す る数多 くの調査研究が重ね られている。 しか し、介 護への児童の貢献 となると、調査研究のテーマ として取 り上 げられていない。在宅介護者が調査 研究で扱われはじめた時期 は、80年代初頭である。関心 は、被介護者 と在宅介護者 との直接の関 係 に注がれている。両者の関係 は、 ドイツでは母親 と娘 とのそれである。計数 によって示す と介 護 を要す る65歳以上の高齢者のお よそ68%は、 自宅 でその娘 によって介護 されている (92年)。家族 におよぼされ る他の負担、殊 に娘 を除 く他の家族構成員への影響 は、調査研究の対象 として 拾 い上 げられていない。
在宅介護 を担 う児童 は、 このように見 るとイギ リスを除 く他の ヨーロッパ 3カ 国で注 目され る こともな く、 まして調査の対象 として関心 を集めることもなかったのである。イギ リスにおける 調査 の積 み重ね とこれによる在宅介護児童の発見 は、 ヨーロッパ諸国の中でユニークな経験であ
る。
Ⅱ 在宅介護 を担 う児童の規模 と構成
1 在宅介護 を担 う児童の規模
在宅 介護 を担 う児童 の規模 と構成 を明 らか にす るた めに も、 まず は定義 について確 か めてお き た い。
‑10‑
イギリスの在宅介護を担う児童
在宅介護 を担 う児童の定義 は、調査研究の進捗 につれて必ず しも一様ではない。討論会 な どで は、定着 した定義のない ことか らしばしば混乱 した議論 に陥 ることもあると伝 えられ る(10。 定義 は、年齢 をはじめ介護 の責任 とその影響および介護の場所の少な くとも4つの要件 を備 えている か どうかによって区々である。
ある専門研究者 は、92年に次 にように定義 している。在宅介護 を担 う児童 は、「身体 な どの障害 や精神上の疾患 をもつ近親者の健康の為 に家で世話 をす る就学年齢 にある児童 と若年者」
(1り
であ る。 この定義 は、就学年齢 に触れて年齢 を特定す るとともに、被介護者 との関係や介護の責任お よび場所 にも言及 している。 しか し、介護の影響 には触れていない。別の専門研究者 によって翌 93年になされた定義 は、介護の影響 はもとよ り年齢や介護の場所 にさえ言及す ることな く次のよ うな内容である。「身体 な どの障害や疾病 あるいは精神上の疾患 を持つ親 もしくは近親者の健康の 為 に世話 をす る児童 と若年者」の である。年齢 を特定 しない定義 は、別の専門研究者や介護者全国 協議会 によって も行われてきたK21、 この うち後者の介護者全国協議会 によるそれは、かっての時 期 の ものである。最近では、のちにのべ るように年齢 を特定す る定義 に変 えている。SOベッカーによる93年と95年の定義 は、 さきの4つの要件の うち3つを備 えている。次の ようである。在宅介護 を担 う児童 は「疾病や障害 を持つ近親者のために家で主な介護 を行 う18歳 以下の児童 もしくは若年者」。のである。SOベツカーは、見 られ るように介護 の影響 にかかわ る文 言 を定義 に入れていない。しか し、「・・…・主な介護 を行 う……」とあるように「主な介護」(primary care)と「副次的な介護」 (secondary care)と を注意深 く区別 している。前者 を担 う児童だけを 在宅介護 の担い手であるとしてい る。SOベッカーは、介護 の児童への影響 を考 えに入れて両者
を区別 した ように考 えられ る。
保健省 の主任監察官 (CI)は、「通常成人 によって担われ るかな りの介護作業」とい う文言 を定 義 の中に入れて、介護の児童への影響 について暗黙 の うちに示 している。95年に行われた定義の 全文 は、次の通 りである。在宅介護 を担 う児童 は、「通常成人 によって担われ るかな りの介護作業 を行 ない、他の人 に責任 を負 う18歳までの児童 あるいは若年者」の である。児童が、通常成人の 手が ける作業 を担 うのであれば、その影響 は小 さ くない。保健省の主任監察官の定義 は、 このよ うに考 えるとS・ベ ッカーのそれ と同じように介護の影響 を暗黙の うちに示 しているといえよう。
介護者全国協議会 は、介護 の影響 をはっきりと示す定義 を試みている。在宅介護 を担 う児童 は
「疾病で障害 を持 ち、あるいは精神的な疾患 に陥った人の介護責任 を負 うことか ら、その生活 を なん らかの形で制限 された18歳以下の児童 と若年者」。のである。95年の定義である。介護の影響 は、 はっきりとした文言 によって示 されている。 しか し、介護の場所 は、残念 なが ら落 とされて
いる。
在宅介護 を担 う児童 は、SOベッカー と介護者全国協議会の定義 を参考 にしていえば、次のよ うに特徴づ けることがで きる。すなわち「疾病や障害 を持つ近親者のために家で介護 を担 うこと か ら、その生活 をなん らかの形で制限 された18歳以下の児童 と若年者」である。 このように定義 すれば、年齢 をはじめ介護の責任 とその影響お よび介護の場所の4つの要件 をすべて明示するこ
とがで きる。18歳以下の者 は、イギ リスの法律 によって独 自の法的な地位 を与 えられている。身 体 の形成期 にあ り、保育 と教育期 に属す ることか ら、在宅介護 を担 うことの影響 も、19歳以上の 者 とはおおいに異なる。介護の影響 は、成人の在宅介護者 と同 じ作業 を担い類似の責任 を負 う場 合で さえ、18歳以下の者 についてはっきりと大 きい。
在宅介護 を担 う児童の規模 は、い くつかの推計作業 を通 して明 らかにされてきた。最初の推計 作業 は、サ ン ドウェル調査やタームサイ ド調査 を手が けたそれぞれの当局 によって行なわれてい る。両調査 は、すでに述べたように児童か ら直接 にきき取 つたわけではな く、教育職者や社会サー ビス担当者か らの情報 をよりどころにする。それぞれの当局 は、そうした調査 をベースに在宅介 護 を担 う児童の規模 について推計 を試みている。推計 は、全国で
1‑2万
人 の児童 とい う結果で ある。 この結果 は、調査方法の不備 を考 えるな らば信頼 に足 るものではない。 この推計 は、在宅 介護 を担 う児童の規模 を過小 に評価 しているのではないか として、その倍にあたる2‑4万人 と い う計数 を提示す る専門研究者 もいる。り。介護者全国協議会 も、95年に発行 した冊 子 の中で1.5‑4万人 とい う計数 を示 している。の。これ らの2つの推計 は、サン ドウェル とタームサイ ドの 両当局 による作業の批判 としては十分 に理解 され る。 タームサイ ド在宅介護者センター (TCC) の発行す る冊子『在宅介護 を担 う児童』は、「少な くとも4.8万人の児童 を数 える」。つと述べてか つての推計結果の過少 さを事実上認めている。寄せ られた批判 を受入れた といえよう。 しか し、
2‑4万人や1.5‑4万人 とい う計数 も、推計 の根拠 を明示 しての ことではない。
最近では、在宅介護 を担 う児童 は21.2万人 にのぼるとい う推計 も行 なわれている。これは、人 口統計調査局『85年版国勢調査』をよ りどころにする作業である。次のように推計 され る。16‑35 歳層の在宅介護者 は、これによると125万人 を数 える。この年齢階層の17%にあた る在宅介護者 は、16歳の誕生 日以前 に介護 を担 っている。125万人 の17%、 すなわち21.2万人 は、15歳以下 の在宅介護児童である。0。 これが、全国ベースの調査 をよりどころにする唯―の推計結果である。
しか し、18歳以下の在宅介護者 を包括す るわ けではない。残念なが ら15歳以下 に限 られ る。21.2 万人 は、当該す る年齢階層の人 口 (1573.3万 人‑81年)。9)比のおおそ1.4%にあたる。16歳以上 の在宅介護者 は、人口の16%にあた る680万人 である。の(90年)。 在宅介護 を担 う児童の比率 は、
‑12‑
イギリスの在宅介護を担う児童
これ に較 べ る と確 か に低 い。
在宅介護 を担 う児童の計数把握 は、正直 な ところ特別 のむづか しさを伴 う。第1に、人 口統計 調査局『国勢調査』を利用する在宅介護者の把握 は、16歳以上 の者 に限 られ る。第2に、介護者 手当(ICA)の受給者統計が保健省 によって整備 されているので、 これを手がか りに在宅介護者の 規模 をおさえることがで きる。 しか し、介護者手当の受給 は、16‑64歳層 に限 られ る。 このため 16‑18歳層の児童 を把握で きるだ けである。15歳以下の在宅介護者 は、この統計か ら知 るわけに いかない。第3に、在宅介護 を担 う当の児童や その家族 は、介護責任 を負 うこと自体 を公 にした が らない とい う事情 もある。在宅介護 を担 う児童の役割 は、隠 され る (hidden)ゃ秘密 (secret) の二文字 を以 って しばしば形容 され る。 その意味 はこうである。在宅介護 を担 う児童 は、介護 の 様子やニーズが当局 に知 られ るのをため らいがちである。当局が介入 して施設への被介護者の収 容 な どを恐れ るか らである。児童 は児童な りに被介護者への責任 を感 じ取 つているのである。被 介護者 にして も、在宅介護のさまを明 らかにす ることを好 まない。家族の中の ご く私的な ことが らであると考 えている。最後 に、児童 と接触す る機会の多い教育職者や社会サー ビスの担当者 そ れに一般開業医 (GP)に して も、在宅介護 を担 う児童 についてあまり知 らない。在宅介護 を担 う 児童の役割 は忘れ られた (forgotten)の 文字 を以 って形容 され ることもある。専門的な立場 にあ る人々 は、そうした児童の存在 にさえ気づかず、 もし気づいていて も児童のニーズを無視 しがち である。職業上の盲 目 (prOfessional blindness)と で も称 され ることである。
在宅介護 を担 う児童の規模 は、政府 による全国ベースの調査が実施 されないか ぎ り把握 しがた い。か りに実施 された として も、その結果が どの程度現実の姿 に近づいているのか どうか、すで に述べた事情 か ら疑問 も残 る。これ までの作業では、21.2万人 とい う結果が もっ とも信頼 で きる ように考 えられる。
2 在宅介護 を担 う児童の構成
成人 の在宅介護者 とジェンダー との関係 については、 これ まで多 くの ことが書かれてきた。殆 どの論者 は、次のように述べてきた。 ジェンダーによる分業 は、介護の世界 にも厳 に存在す る。
女性 は、家事 と同 じように介護 を主 として担 うのである。介護 とジェンダー との こうした関係 は、
児童の場合 に どのようであろうか。表3は、 これ を知 るために各種の調査か ら作成 した ものであ る。在宅介護 を担 う児童の性別構成 は、表中の12の調査 の うち1つを除 く11の調査すべてで女 性 を主力 にす る結果である。唯一全国ベースの調査 に近い37都市調査 は、在宅介護 を担 う児童の