論文の要旨
申請者 渡 邉 純 一
研究論文題目
慢性骨髄単球性白血病におけるグルココルチコイド感受性と遺伝子変異に関す る検討
1 目 的
慢性骨髄単球性白血病 (CMML)は持続的な単球増加を特徴とする骨髄異形成症 候群/骨髄増殖性腫瘍であり、高齢者に多く、中央生存期間が2〜3年と予後不 良の疾患である。原疾患による貧血、血小板減少による症状に加え、一部の患 者では発熱などの全身症状を伴うこともある。
根治療法としては造血幹細胞移植の他はなく、高齢者に多いことから治療は血 球コントロールや輸血などの対症療法が中心である。近年ではアザシチジンな どの低メチル化薬の有効性もいわれているが、どのような患者で有効かは明ら かではなく、遺伝子変異との関連性は示されていない。我々は発熱・呼吸不全 を伴う CMML 患者に対しグルココルチコイド(GC)治療を行い、症状だけでなく腫 瘍細胞も減少する患者を複数経験した。
本研究の目的は発熱、GC 感受性と遺伝子変異の関係性を明らかにし、どのよ うな患者で GC が有効かを検討することである。
2 対象並びに方法
(1)当院で CMML と診断された 24 例を対象に、19 遺伝子の変異を次世代シー クエンサーで解析した。その臨床症状・GC 感受性と遺伝子変異との関係を解析 した。
(2)健常人ドナー5名の MEFV E148Q 変異解析を実施した。MEFV 変異の有無 による単球からの IL-1
, TNF-
産生の差異を検討した。(3)CD14+/CD16+単球と CD14+/CD16-単球の比率を、MEFV, CBL 変異の有無の観 点から、フローサイトメトリー法を用いて検討した。また、GC 投与後の比率の 変化についても検討を加えた。
(4)健常人ドナー単球、CMML 患者単球を用いて GM-CSF 存在下、非存在下にお ける GC 感受性を WST-1 assay で検討した。CBL R420Q 変異をもつ細胞株 GDM-1 と野生型 CBL をもつ THP-1 を用いて、同様に検討した。
(5)CBL 変異と MEFV 変異をもつ CMML 患者と GDM-1 を用いて、GM-CSF 刺激後 の STAT5 のリン酸化状態が GC 曝露でどのように変化するかを検討した。
3 成 績
(1)多変量解析で、腫瘍熱は MEFV 変異と有意に関係し(p<0.001)、GC 感受性 は MEFV 変異(p=0.039)・CBL 変異(p=0.029)と有意な関連を認めた。
(2)健常人ドナー5名のうち 2 名に MEFV E148Q 変異を認めた。MEFV E148Q 変異を有する単球は LPS 刺激による IL-1(p=0.007), TNF- p=0.009 産生 が有意に増強された。
(3)MEFV 変異のない CMML 単球では CD14+/CD16-単球が 94%以上とされる既報通
りの結果を示した。MEFV 変異を持つ患者では CD14+/CD16+単球が 20〜30%と明ら かに上昇していた。MEFV 変異症例にステロイドを投与した前後での単球の分画 をみると投与後に CD14+/CD16+単球分画が減少していた。
(4)MEFV 変異と CBL 変異をともに持つ CMML 患者単球は GC 曝露により有意に 細胞数が減少した(p<0.001)。GM-CSF 存在下で mPSL は有意に GDM-1 の細胞数を 減少させた(p<0.001)が、THP-1 ではこの効果は認められなかった。
(5)CBL 変異を有する CMML 単球と GDM-1 では、GM-CSF 刺激 60 分後の STAT5 のリン酸化が GC 曝露により減弱した。
4 考 察
本研究では、CMML 患者における腫瘍熱は MEFV 変異と関係し、GC 感受性に は MEFV 変異と CBL 変異が関連することを見出した。MEFV 変異は家族性地 中海熱の原因遺伝子で pyrin をコードしている。pyrin は自然免疫系の活 性化を抑制する因子であり、変異により IL-1を含むサイトカイン産生が 増加するから、サイトカイン産生亢進が CMML の腫瘍熱に関与すると考えら れる。CBL 遺伝子は E3-Ligase をコードし、ユビキチン化を通じてサイト カインシグナル系の機能蛋白の分解に関与し、CBL 変異によりサイトカイ ン感受性が亢進することが知られている。MEFV 変異のサイトカイン産生亢 進が CBL 変異による感受性亢進と組合わさった結果、サイトカイン依存性 の腫瘍増殖がより強まっていると考えられる。
本研究から GC によるサイトカイン産生抑制に加え、CBL 変異により遷延す る STAT5 のリン酸化をも GC が抑制することにより、実際の症例で観察され
たような腫瘍細胞の減少が見られたものと考えられた。
本研究により、GC を用いた治療が有効な CMML 患者群を、遺伝子変異の観 点から明らかにすることができた。
5 結 論
本研究は CMML における GC 感受性と MEFV・CBL 変異の関係を明らかにし、
サイトカイン産生の抑制と STAT5 のリン酸化抑制の2つの機序が関連する ことを明らかにした。