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交通事故と労災事故をめぐる保険関係

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(1)

交通事故と労災事故をめぐる保険関係

その他のタイトル Automobile Liability and Workmen's Compensation Insurance

著者 亀井 利明

雑誌名 關西大學商學論集

巻 15

号 5‑6

ページ 436‑455

発行年 1971‑02‑25

URL http://hdl.handle.net/10112/00021164

(2)

112 (436) 

交通事故と労災事故

をめぐる保険関係

亀 井 利 明

1

序 説

近時の交通事故の激増およびその賠償問題の深刻化は必然的に自動車損害 賠償責任保険(自賠責,強制保険)および自動車対人賠償保険(上乗保険,

任意保険,上乗民保)への関心が異常に高まってきた。他方,労働基準法に よって労働者の業務上災害につき使用者に義務づけられている災害補償とそ れを肩代りするために設けられている労働者災害補償保険(労災保険)との 給付内容の乖離および労災保険適用範囲の拡大が社会保障の拡充策として打 ち出されてきた。これは交通事故による業務上災害(第三者行為災害)の多 発とそれをめぐる保険関係の複雑化を伴う結果となる。

そこで,この問題は従来から主しとて労災関係者により,「労災保険と自賠

(1) 

責の調整」として論じられてきた。周知のごとく,わが国の労災保険や自賠 責ほ欧米を範としながらも,わが国独特の制度的発展を示しているため,こ の種の問題もわが国の実践に則して論じられ,解決がなされている。

なお,労災保険といえば政府管掌の保険をいうが,任意適用事業を対象と する民営の労災保険(労働者災害補償責任保険)も存在する。したがって,

民営の労災保険と自賠責の調整の問題も起こりうる。しかし,それは事実上 前者にフォローしているにすぎない。

ところで,交通事故による業務上災害の問題は,単に自賠責と労災保険の

(1) 

労働省補償課「自動車事故等による労災保険と損害賠償」

14

版,昭和

45

年;同

「労災保険と自賠保険調整の手引」昭和

45

年;社会保険研究所「自動車事故損害賠

償と社会保険」

3

版,昭和

45

年他。

(3)

交通事故と労災事故をめぐる保険関係(亀井)

関係だけではない。わが国の対人賠償の自動車保険が自賠責と上乗保険に分 かれているため,上乗保険と労災保険の関係も生じ,これを無視することが できない。すなわち,自動車保険普通保険約款第 2章賠償責任条項第 3条第

1

項第

4

号は労災事故を免責する旨の規定となっており,その解釈に若干の 疑義がある。

周知のごとく,わが国の上乗保険の約款はアメリカの

FamilyAutomobile 

(1) 

Policy (F.A.P.)

に範を取っているため,同種の問題がアメリカにも存在する。

また,アメリカではわが国のように,自賠責と上乗保険の二本建ではなく,

(2) 

民間の自動車保険一本である。そのため,アメリカの自動車保険ほわが国の 自賠責と上乗保険を合わせたものと考えなければならない。それゆえ,交通 事故と労災事故をめぐる保険関係もアメリカ独特の内容を有している。\

そこで,本稿ではアメリカの事情を参照しながら,わが国における交通事 故と労災事故をめぐる保険関係について考察しよう。

2  F.A. P.

に お け る 労 災 事 故 の 免 責

わが国自動車保険普通保険約款第

2

章賠償責任条項第

3

条第

1

項第

4

号に

(3) 

よれば,「被保険者の業務に従事中の使用人に対するその使用人の生命または 身体を害したことに起因する賠償責任」を被保険者が負担することによって 被る損害が免責されている。 「ただし,使用人の業務が家事である場合を除

く」こととされている。

必ずしも明確ではないが,この免責条項は

F.A.P.

1

部賠償責任条項の

(4) 

免責( e ) および(

f)

に基礎をおくものとされている。この ( e ) は,(

1

)その保険給付 の全部または一部が労働者災害補償法に基づいて支払われるかあるいはその 提供を要求される場合の被保険者の家内業務,または

(2)

被保険者のその他の 業務から,あるいはかかる業務遂行中に被保険者の使用人について生じた死

(1) F.A.P.のあらましについては,拙稿「アメリカの自動車保険証券について」商

学論集15の1参照。

(2) 

その代表的な保険証券が

F.A.P.

である。

(3) 

以下「わが国免責約款」として記述する。

(4) 

以下「米国免責約款(

e)

」または「米国免責約款

(f)

」として記述する。

(4)

114 (438) 

交通事故と労災事故をめぐる保険関係(亀井)

(1) 

傷事故を免責としている。

(f)

については次項で取り扱う。

さて,上記の免責は労働者災害補償法

(Workmen'sCompensation Law)

の 適用されない家事使用人

(domesticemployees)

を除いて,組合企業たると会 社企業たるとを問わず,使用人の業務中の死傷事故による被保険者の賠償責 任を免責する趣旨である。すなわち,労働者災害補償法の適用ある事業の使 用人は労災保険による保険保護があるゆえ,それとの競合を避けるために,

F.A.P.

は労災事故としての自動車事故を免責としたのである。

現在,米国においては全州に労働者災害補償法が実施されているが,対象 となる雇用関係

(employmentscovered)

,適用の強制・任意方式

(compulsory or optional form of the coverage)

,保険給付

(benefits)

などが各州間で著し

く相違している。しかし,標準的な労働者災害補償法では,

2

名ないし

15

(2) 

以上を使用する危険な事業について強制適用

(compulsorycoverage)

とし,

その他を任意適用

(voluntarycoverage)

とされている。家事使用人,農業労 働者,臨時労働者

(casual workers)

,新聞立売人

(newspaper vendors)

,州 際商業法の適用を受ける運送業者の使用人,慈善団体の使用人等は適用免除

(exemption)

となっている。強制適用の事業主は使用人に対する補償規程を 定めることを要求されるが,その方法については,多くの州では州営の労災、

保険と民営の労災保険の選択制となっている。

労働者災害補償法の任意適用事業では,その適用を選択し,労災保険に加 入するか拒絶するか自由である。しかし,適用を拒絶した事業主は傷害を受 けた使用人の災害補償請求訴訟に際して重要な普通法上の抗弁権

(common‑

(3) 

law defenses)

を失うことになる。もしそうなら,事業主は不利な立場に立た

(1)  to  bodily injury to  any employee of the  insured arising out of and in the  course of (1)  domestic employment by the insured,  if  benefits therefor are  in  whole or in part either payable or required to be provided under any workmen's  compensation law,  or (2) other employment by the insured; 

(2) 

実際問題として大多数の業種は危険な事業とされている。

(3) 

それは①使用人による危険負担の原則

(assumptionof risk by the employee), 

R傷害を受けた使用人の助成過失の原則

(contributorynegligence by the injured  employee)

,③共働者過失の原則

(negligenceqf a fellow servant)

である。

(5)

される。その結果,任意適用事業の事業主もこれを拒絶することはほとんど ない。

したがって,適用免除になっている特定の業種を除いて,事実上すべての 事業に労働者災害補償法(以下補償法という)が適用されていると見て差し 支えない。では,なぜ特定の業種を適用免除としたのか,それは,(

1

)少人数 の使用人を行政の対象とすることの困難性.(2)家内業務の危険過少性,(3) 少 人数しか属用しない主婦,農場主,事業主等にまで労災適用とすることの社

(1) 

会的抵抗によるものである。

米国免責約款( e ) は労災保険で通常カバーされる危険を除外することを目的

(2) 

としているといわれているのであるが,実際はそれより広く,労災保険でカ

,,ミ一されない危険をも免責している。なぜならば,前述したとおり,補償法 の適用免除は州によって異るとともに,家事使用人以外にも適用免除となっ て労災保険のカバーを受けえない使用人があるからである。換言すれば,米

(3) 

国免責約款( e ) は.①補償法の適用される家事使用人と③その他の使用人を免 責とし,②は家事使用人以外の一切を意味するのである。したがって,この 免責の阻却ほ補償法の適用されない家事使用人だけということになる。家事 使用人に補償法が適用されないのが普通であるが,州によって,あるいは家 事の形態によって異る。

いずれにしても,家事使用人をも含めて,個人に麗用されている使用人に 対する被保険者(事業主)の補償責任を担保すべきことを労災保険ほ意図し ていない。それは使用者責任保険

(erp.ployer'sliability  insurance)

の領域で

ぁ 認

それはともかく,補償法の適用されない家事使用人が家事従事中に死傷し た場合には

F.A.P.

では保険者有責,家事従事外ならば保険者免責となるわ

(1). Rodda, W. H., Property and Liability  Insurance,  1966. p.  416.  (2)  Couch, Cyclopedia of Insurance Law, 2nd ed.,  1964. § 45 : 593.  (3)  NewYork

では,人口

4

万人以上の都市で,一週

48

時間以上同一の使用者に雇

用される家事使用人には,補償法が適用されるとのことである。

Brainard, C.  H.,  Automobile Insurance,  1961. p.  169. 

(4)  Kulp,.c. A.,  Casualty Insurance, 4th ed.,  1968. p.  325. 

(6)

116 (440) 

交通事故と労災事故をめぐる保険関係(亀井)

けであるが,その場合の家事使用人の範囲や家事従事中の意味については明

(1) 

確な概念規定がなく,きわめて常識的な解釈がなされている。

すなわち,家事使用人は運転手

(chauffeur)

,執事

(butler)

,女中

(maid)

等 を意味し,家事従事中の解釈は業務遂行性や業務起因性を問題とする補償法 の解釈に依存しているようである。

等しく家事使用人といっても,おかかえ運転手

(domesticchauffeur)

は , 他の家事使用人とは異って危険な業務に従事していることになる。そこで,

New York

州では人口

200

万以上の都市の運転手はその労働時間のいかんに かかわらず,危険な業務に従事するものとして補償法の適用がなされ,労災

(2) 

保険の保護がある。しかし,多くの州における運転手はそうではない。それ ゆえ,このような運転手の家事従事中の事故については,運転手はその過失 を立証して使用者に損害賠償の請求をしなければならないことになる。これ は単に運転手のみならず,補償法の適用されないすべての家事使用人にとっ ても同じことである。

そこで,この場合の使用者の責任を保険するために,前述の使用者責任保 険が用意されている。ところが,この保険は家事使用人をもつ使用者によっ て購入されることは稀れであり,補償法の適用される事業主が,補償法の範 囲外にある過失責任による損害賠償責任をカバーするために労災保険と組み

(3) 

合わせて購入されているにすぎない。

そこで,補償法の適用されない家事使用人の自動車事故による家事従事中 の被保険者(雇主)の損害賠償責任は

F.A.P.

でカバーすることが要請され,

米国免責約款

(e)

の免責を阻却する結果となった。

米国免責約款(

e)

は補償法の適用される家事使用人の事故を免責しているが,

結果として有責とされることがある。たとえば,補償法の適用される州で働

(1) 

しかし,

Arkansas

州においては,若干常識的でない判例がある。すなわち,女 中が主人とともに洗濯と主人の洗濯中にその子供の面倒を見る目的で町へ出かけた。

その後主人と子供の

1

人がショーを見物に出かけた際の女中の傷害は家事従事中で ないとして保険者免責と判決された。

Couch,op.  cit.  § 45 : 608. 

(2)  Brainard, op.  cit.  p.  169. 

(3)  Brainard, op.  cit.  p.  168; Rodda,. op.  cit.  p.  428. 

(7)

いている女中

A

B

の家事使用人として働いていたとする。

B

の命令によっ て買物をすべ<,

B

の子供

C

の運転する自動車に乗って町へ出かけたところ,

C の過失により A が負傷したとする。 A の負傷は明らかに家事従事中である から,

A

ほ労災保険の給付が受けられ,かつ

6

カ月以内なら加害者の立湯に 立つ Cに対して損害賠償請求の訴をなしうる。もし.後者がなされた場合に は ,

A

C

の使用人ではないのであるから.

C

A

に対する責任ほ,

C

の父

(1) 

B

F.A.P.

でカバーされることになる。

次に,米国免責約款

(e)

においてはすべての「家事使用人でない者」

(non domestic employee)の業務遂行中の死傷に対する被保険者の損害賠償責任を

免責している。その結果,補償法の適用,非適用,あるいは労災保険の有無 にかかわらず,「家事使用人でない者」に対する被保険者の損害賠償責任ほ免 責されることになる。これは前述したとおりである。したがって,たとえば 被保険者が弁護士で,彼の車でその業務遂行中に彼の雇用する事務員を負傷 させたとする。そして,

F.A.P

.の規定する被保険者および自動車の定義にそ れぞれ合致し,かつその事務員に対して補償法が適用されない場合であって も,彼の責任は

F.A.P.

でカバーされない。彼は一種の事業家であるから,

(2) 

別個の使用者責任保険の購入が期待されているのである。

3  F.A. P

.における共働者事故の免責

米国にもコモン・ローの原則である共働者の原則

(fellow servant  rule,  doctrine of common employment)

が存在する。すなわち,使用者はその使用人 が違法行為によって他人の権利を侵害したとき代理責任

(vicariousliability) 

を負わねばならないが,もし使用人の行為によって共同の作業を行なってい た他の使用人に損害を与えた場合,使用者は責任を負わないのである。換言 すれば,同一使用者のもとで働く使用人が,同僚の使用人の行為によって被 害を受けた場合,使用者は被害を受けた使用人に対して損害賠償責任を負わ ない。したがって,この場合使用人間において損害賠償問題が生じることに

(1)  Brainard, op. cit.  pp. 169 70. 参照。

(2)  Brainard, op. cit.  p.  170. 

(8)

118 (442) 

交通事故と労災事故をめぐる保険関係(亀井)

なる。

しかし,共働者の原則は労働者災害補償法によってその適用が修正され,

使用者が使用人に責任を負わねばならなくなった。しかし,家事使用人,農 業労慟者,臨時労働者のように補償法の適用のない場合や,使用人が補償法 の与える額以上の損害賠償の請求をなすような場合には,共慟者の原則ほ生 存し,使用者はその抗弁が可能である。

ところで,米国免責約款(

f)

は,業務遂行中に自動車を使用したことにより 生じた被保険者の扉用する同僚使用人の死傷に対する被保険者の損害賠償責 任を免責としている。ただし,かかる同僚使用人によって被った死傷に関し ては,この免責は記名被保険者に対して適用されない。いまこの免責約款の

(1) 

意味を例示によって明らかにしよう。

小売業を経営する

S

が記名被保険者

(namedinsured)

で,その業務を遂行 するために使用人 A とBが Sの車を使用し, Aの過失によって Bが負傷した とする。もし B が A に対して損害賠償の請求をなしたら, A は S の

F.A.P.

で カバーされるだろうか。この自動車は確かに所有自動車

(ownedautomobile) 

(2) 

であり,

A

は被保険者

(persons insured)

の範囲に入るが,損害賠償請求者

(3) 

が同僚使用人であるゆえ,上記の免責に該当することになる。

この種の事故は労災保険ないし使用者責任保険の事故であって,

B

のクレ ームは

A

に対してなされるべきでなく,その使用者

S

に対してなされるのが 当然である。共働者の原則を修正している労災保険や使用者責任保険では S の

B

に対する責任はいうまでもなくカバーされている。それゆえ,米国免責 約款(

f)

では

S

B

に対する損害賠償責任を担保せず,労災保険との競合を避

(1)  to  bodily  injury  to  any fellow  employee of the  insured  injured  in  the  course of his employment if  such injury arises out of the use of an automobile  in the business of his employer, but this exclusion does not apply to the named  insured with respect to  injury  sustained by any such fellow employee; 

(2)  F.A.P.

では被保険者を①

namedinsured, 

R許可使用者

(permissiveusers) 

other persons

に分けている。本文でいう被保険者は②に当たる。

(3)  Brainard, op.  cit.  p.  171; I.N.A., Personal Automobile Insurance, 2nd ed.,  1965,  FAL‑13. 

(9)

けたのである。そのかぎりにおいて,米国免責約款(

f)

と(

e)

とは同じ類型の免 責約款ということになる。

しかし,米国免責約款(

f)

はこのような労災事故に対する配慮だけでなく,

同僚使用人間における損害賠償責任も意識されている。それは幾分,夫婦間

(1) 

の損害賠償問題に類似している。そこで,なにゆえ

F.A.P.

では同僚使用人 間の損害賠償責任を免責しているのか積極的に解明せねばならない。これは 第一義的には労災保険との分野調整にあるが,さらに同僚使用人が労災保険 でえられるよりも多額の金額を

F.A.P.

でえようとする

moralhazard

的な 意図を防止しようとすることを見逃せない。

すなわち,前例において,被害者 B は加害者 A に対して損害賠償請求権を 持つとともに,

B

は使用者

S

に対して災害補償請求権を有する。労災保険の 対象となるのは後者だけであるが,自動車保険では原則としてその双方が対 象となる。

B

S

の労災保険に請求すれば問題は生じないが,

B

S

F.A.

P.

を当てにして

A

に請求する場合や

B

S

F.A.P.

を当てにして

S

に請求 する場合に問題が生じる。労災保険より自動車保険の方が有利と考えられて いる米国においては,

B

S

F.A.P.t

こ請求しようとするかも知れない。

しかし,

F.A.P

.ではこの種の事故を免責していることを

B

が知った場合,彼 ほ

A

S

に対する損害賠償の請求を引っ込め,労災保険の給付を受けるだろ

う 。

ところで,あくまで

B

A

に損害賠償を請求してくると仮定し,

A

自身も

1.

) 周知のごとくわが国では自賠法上夫婦は他人として損害賠償責任を認める判決

があるが,米国では決ずしもそうではない。 まず夫婦間についていえば,

Illinois,  Massachusetts,  Pennsylvania

等多くの州では,家庭的平静を証拠として,損害賠

償責任を否定している。しかし,

Connecticut

州等の少数の州ではこれと反対の立

場を取っている。

F.A.P.

においては夫婦間の損害賠償責任については何ら規定し

ていない。しかし,保険者は,被保険者が法律上の損害賠償責任を負ったところの

クレームに対してのみカバーすることに合意しているわけであるから,州法の影響

を真正面から受けることになる。たとえば,

Connecticut

州で事故が起こり,夫が

妻を負傷させた場合,夫は妻に損害賠償せねばならず,したがって.

F.A.P.

でカ

バーされることになる。もし,

Pennsylvania

州で事故が生じた場合,反対の結論に

tよる。 Brainard,op.  cit.  pp.  1667. 

(10)

120 ( 出 ) 交通事故と労災事故をめぐる保険関係(亀井)

(1) 

自動車を保有し,

F.A.P

.を有していたとする。この場合

A

B

に対する損害 賠償責任をカバーしてもらうべく,

A

自身の

F.A.P.

を利用することはでき ないであろうか。彼自身の契約においてほ,

A

は記名被保険者であり,かつ

(2) 

彼は非所有自動車 S の自動車を運転していたことになる。この場合でもなお B の A に対する請求ほ業務中の負傷を同僚使用人に請求することにはなるの であるが,

A

所有の

F.A.P.

A

に対するカバーを提供する。これが米国免 責約款(

f)

の但書の趣旨である。ところが,もし,

B

が使用者の労災保険で与 えらるべき金額より大なる金額を自動車保険でえようとする目的で

A

に対し て損害賠償を請求するのであれば,その意図を阻止することが必要であり,

F.A.P.

のカバーは否定されることになる。しかし,この種の意図とは無関係 に ,

B

A

があくまで個人的に全責任を負うべきだと考えて損害賠償の請求 をなすのであれば,

A

自身の

F.A.P.

のカバーから

A

を奪うことは正しくな

(3) 

く,そしてそれゆえにカバーが与えられる。

ところで,以上は事業主の自動車を使用して業務従事中に生じた同僚使用 人間の傷害事故の問題であるが,使用人自身の自動車を使用していた場合に はどうなるだろうか。つまり,前例においては Sの自動車を使用していたの であるが,今度は A 自身の自動車を使用していたとしよう。 B の S に対する 災害補償請求権と

B

A

に対する損害賠償請求権に変りがないが,

A

F.A. P.

ではどのような取り扱いになるかが問題である。

まず,

S

B

に対する災害補償責任の履行のために

A

F.A.P.

を利用す ることができるであろうか。それが可能なためには,

F.A.P.

の下で,問題と なる被保険者,自動車,損害賠償請求者に対する規定に合致していなければ ならない。まず, S は自己の所有する自動車であると使用人の所有する自動 車であるとを問わず,自動車を利用して使用人に彼の業務を遂行させていた

(1) 

この自動車はいうまでもなく,事故を起こしたとき使用されていたものでなく,

A

の通勤用のものである。

(2) 

この場合,

S

A

の通常の個人的使用のためにその自動車を

A

に提供していな かったと仮定しなければならない。

(3)  Brainard, op.  cit.  pp.  171  2. 

 

(11)

以上,その使用人の過失によって第三者(同僚使用人も含む)に与えた損害 について代理責任を負わなければならない。これはコモン・ロー上の上級者 責任の原則

(doctrineof respondeat superior)である。 F.A.P.ではかかる使

用者が個人であろうと企業であるとを問わず,その責任を原則としてカバー すべく被保険者として取り扱われている。

すなわち,

F.A.P

.における被保険者は記名被保険者,許可使用者以外にそ の他の人または機関

(anyother -p~r~on or organization)を加えている。こ

(1) 

れは記名被保険者および使用許可者の過失によって責任を負わされる人また は機関であって,前例の

S

は正しくこの範囲に入る。したがって,使用人

A

F.A.P.

の下においても

S

は被保険者としての保険保護を受けることがで きる。しかし,これはあくまで使用人

A

が純然たる第三者(同僚使用人でな い)を負傷させた場合を前提としているわけであって,使用人

A

が同僚使用 人を負傷させた場合を前提としていない。さらに,

Aの F.A̲.P.にも米国免

責約款(

f)

が挿入されており,損害賠償請求権者の制限が行なわれているわけ である。したがって,

S

のB に対する責任はAの

F.A.P.では担保されない

結果となる。

次に

B

がAに損害賠償を請求した場合,

Aの F.A.P.でカバーされるか。

(2) 

これはもちろん米国免責約款(

f)

の但書によってカバーされる。

A

はかりに業 務従事中に同僚を傷つけたとしても,

A

は記名被保険者なのである。先に述 べたのは A が非所有自動車を運転していたのに対し,ここでは A は所有自動 車を運転していたのであるから,

A

は当然保護されてしかるべきである。

わ が 国 の 自 賠 責 と 労 災 保 険 の 関 係

米国における自動車事故と労災事故の調整はすでに述べたごとく,自動車 保険側がいわば一種の他保険約款を利用して原則として免責という処置に出 ており,これをわが国の上乗保険が導入しているのであるが,もう一つの自 動車保険である自賠責はそうではない。すなわち,業務遂行中に第三者から

(1) 

非所有自動車の場合には使用許可者は除かれる。

(2)  INA, op. cit.  FAL 14. 

(12)

122 (446) 

交通事故と労災事故をめぐる保険関係(亀井)

受けた労働者の自動車事故については,自賠責と労災保険の選択的カバーが 与えられることになっている。すなわち,被災労働者ほ①労働基準法第八章 に定める使用者に対する災害補償請求権,③労災保険に対する保険給付請求 権,⑧自賠責に対する損害賠償請求権(被害者請求),④民法

709

条に基づく 加害者に対する損害賠償請求権を取得する。労災保険適用事業に犀用されて

(1) 

いる労慟者については①は②によって代置され,労災保険の適用されない事 業の労働者については②は存在しない。そこで,労災保険の適用事業に傭用 されている労働者についていえば,②⑧④には別段の優先関係はない。しか し,通常の場合,被災労働者が④を優先させることは考えられない。②か⑧ かいずれかを選ぶことになる。もし,被災労働者が労災保険を優先させて,

政府に保険給付の請求を行ない,その給付がなされた場合,政府は労災保険 法第

20

条第

1

項により自賠責に対して求償することになる。これは労災保険 法第

20

条第

1

項における第三者には自賠責取扱保険会社をも含むと解される からである。逆に,被災労慟者が自賠責に請求して,その支払いを受けた場 合,労災保険では法第

20

条第

2

項により,その額について控除がなされ,保 険給付が行なわれないことになる。

被災労働者がまず第一に労災保険に請求した場合,休業補償として給付基 礎日額の6 0%は支給されるが,その40%ほ支給されないし,かつまた慰謝料 のような被害者の精神的苦痛に対する損害賠償はなされない。そこで,これ らの労災保険で給付を受けられない損害部分については自賠責に請求するこ とができる。

逆に,被災労働者がまず第一に自賠責に請求して,支払いを受け,その支 払額のうち労災保険の保険給付の範囲外のもの,たとえば,救助捜索費が含 まれている場合,その部分については労災保険の控除の対象とはならない。

また,自賠責で支払われる限度額を越える損害を被った場合には,その不足 額につき,労災保険に請求しうることはいうまでもない。

以上のような調整は労災保険も自賠責も目的が同じ損害填補にあるので,

(1) 

同一の業務災害について労災保険による保険給付が行なわれれば,使用者は災

害補償責任を免れることになる(労働基準法

841

項 ) 。

(13)

重複填補を避けるためになされるわけである。そして,この重複するかどう かの検討ほ保険給付と損害賠償とが同一の事由に基づくもの(同種同質)で あるかどうか,価額が同一(同額)であるかどうかの両面から行なわれる。

以上はいわば給付の調整である。この求償や控除という形をとった調整は,

労災保険の被保険者が第三者の不法行為に基づく自動車事故により死傷した 場合,その実質的負担ないし,第一次的責任を自賠責に負わしたことになる。

そのかぎりにおいて,自賠責は,より一層第三者のためにする傷害保険的性 格を強めたことになる。

このような給付の調整とともに先後の調整も行なわれている。すなわち,

前述したごとく,労災保険の保険給付と自賠責の損害賠償のいずれを先に請 求するかは被災労働者の自由である。しかし,労災保険と自賠責との両者の 円滑な事務処理と被災労働者の便宜を考慮して,昭和

41

年自賠法の改正を契

(1) 

機として労働者と自賠責保険会社の間でその調整の取り決めが行なわれた。

それは原則として自賠責の支払いを先行させ,被災労働者の希望等により止 むをえない場合には労災保険の給付を先行させるということである。そして,

その実行のため,労働墓準監督署長は労災保険の受給権者(被災労働者)に 対し,自賠責で先に支払いを受けるよう指導することになっている。

では,なぜ自賠責の支払いを先行させるのか。これは,①自賠責では仮渡

(2) 

金制度や内払金制度があり,損害賠償額の支払いが事実上速かに行なわれる ようになったこと,R自賠責の損害賠償は休業補償が

100

%行なわれ,また 慰謝料が支給されるなど,自賠責の損害査定内容は労災保険給付より幅が広 いため,自賠責の支払いを先に受け,支払いの限度額に達した場合に,労災 保険の給付を受けるのが被災労働者にとって便宜であること,⑧労災保険が

(1)  昭和4112月16日某発第1305

(2) 

仮渡金制度は,被害者と加害者との示談がもつれるような場合に,被害者は緊

急の費用(葬儀費,医療費等),または当座の生活費にこと欠く場合を幾分とも救済

するための損害賠償額の一部前渡しをなすものである。その金額は死亡

50

万円,傷

1

万円ないし

10

万円となっている。内払金制度は当事者の便宜をはかるため,療

養および休業期間の損害が

10

万円を越える場合,

10

万円またはその倍数を支払うも

のである。

(14)

124 

(448) 

交通事故と労災事故をめぐる保険関係(亀井)

年金給付を大幅に採用しているのに対し,自賠責は一時金給付であるため,

労災保険の給付を先に行なうとその後の調整が非常に複雑になり,混乱する

(1) 

おそれがあること等の理由からである。

ところで,ひとしく業務遂行中の第三者の不法行為に甚づく交通事故によ る労働者の死傷といっても,それが純然たる企業外の第三者ばかりとほかぎ らない。つまり,その第三者が同僚使用人である場合がある。つまり,加害 者も被害者も同一事業の従業員(被害者が同乗中の同じ会社の被用者)たる こともある。かかる事故について,それが労災保険適用事業であるかぎり,

被災労働者は労災保険に対して保険給付請求権を有することはいうまでもな ぃ。また,同乗中の被用者は自賠法第 3条の他人であると解釈され,かつ判 決されているところから,被災労働者は自賠責に対して損害賠償請求権を有 することになる。これは労災保険の適用,非適用にかかわらず,かつまた業 務遂行中たると否とを問わない。被災労働者の使用者の側に立っていえば,

災害補償責任,自賠法上の運行供用者責任を負わされることになる。

このような場合においても,被災労働者は自賠責と労災保険との先後の調 整により,まず自賠責に請求し,不足分を労災保険で補うということになる。

しかし,万一労災保険を優先させた場合には当然自賠責への求償の問題が生 じる。ところが,労災保険においては同一の使用者に雇用されている同僚労 働者相互間の業務災害については求償しないという運用がなされている。そ の理由は次の点にある。現在の事業活動は使用者の指揮命令の下で分業と協 業という組織的共働関係から成立しているため,上司や部下をも含んで同僚 労働者の過失による業務災害も多発するが,それ自体労災保険の担保する事 業危険と見るべきである。また,もし,政府が求償するとすれば,民法 715 条 第

1

項に基づき加害労働者の使用者に対して行なうことになり,使用者も加 害労働者に対して求償することもできるゆえ(民法 7 1 5 条 3 項),最終的には 加害労働者に負担がかかり,労災保険の労働者保護性にもとることになるか

(1) 

木宮高彦「自動車保険の実務相談」

1968

年 ,

406

頁;前掲「自動車事故等によ

る労災保険と損害賠償」

125

頁;労働省補償課「労災保険の実務」

4

版,昭和

45

年 ,

205

頁参照。

(15)

らである。

しかしながら,この求償の差し控えはあくまで民法との関連においてであ って,自賠法との関連においてであってはならない。なぜなら,たまたま同 僚労働者間の事故であったからといって,その場合にかぎり自賠責の第一次 的実質的負担性を無視することは求償の一貫性を破ることになるからである。

上 乗 保 険 に お け る 労 災 事 故 の 免 責

すでに述べたごとく,わが国の上乗保険においては,被保険者の業務に従 事中の使用人に対するその使用人の生命または身体を害したことに起因する 賠償責任を保険者免責としている。この免責は労災事故を上乗保険で担保し なくても労災保険の補償や自賠責の保護などがあるゆえ,その担保を避けよ うとするものである。つまり,上乗保険ではたとえ自動車事故といっても企 業内の責任関係の問題なるゆぇ,それに立ち入ることを避ける趣旨である。

したがって,労災保険の適用のない事業に雇用されている使用人の場合でも,

通常労働基準法上の災害補償を受けうるゆえ,保険者免責となる。ただし,

わが国免責約款は,その但書において,家事使用人を除いている。この家事 使用人を除いているのは明らかに米国免責約款(

e)

の踏襲である。家事使用人 が例外とされているのは,家事使用人は同居の親族に近く,労働基準法の適 用なく

(8

条),同法による災害補償を受けることができないためである。し たがって,何が家事使用人であるかについてほ労働基準法上の解釈を参照し て決せらるべきことになる。

さて,わが国免責約款を解釈するに当たって,まず第一に問題になるのは

「被保険者の業務に従事中の使用人」の意である。これは

(1)

被保険者の範囲,

(2)

業務に従事中の意味,(

3

)使用人の範囲に分けて考察する必要がある。

わが国の上乗保険において被保険者とは⑥保険証券記載の記名被保険者,

R記名被保険者と同居の親族で自動車を使用中の者,⑥記名被保険者の承諾

(1) 

をえて自動車を使用中の者(許諾運転者)ということになっている。したが

(1) 

自動車保険普通保険約款第

2

章賠償責任条項

1

3

項。ただし運転者限定特約

が付されている場合には記名運転者だけということになる。

(16)

126 (450) 

交通事故と労災事故をめぐる保険関係(亀井)

って,これらの者の業務遂行中の使用人に対する責任が免責約款に該当する ことになる。つまり,自動車使用に伴う労災責任を負担させられる者が上記 三種の被保険者のいずれかである場合には免責約款に該当し,保険者免責と なる。ただし,記名被保険者の親族や許諾運転者が記名被保険者の自動車を 使用して記名被保険者の使用人に傷害を与えた場合には免責約款には該当せ ず,保険者有責となる。けだし,その使用人はその親族や許諾運転者にとっ ては使用人には該当しないからである。

ところで,記名被保険者の業務に従事中の使用人が記名被保険者の自動車 を使用すれば,その使用人は許諾運転者となり,被保険者の地位を取得する ことになるだろうか。使用人が業務執行中に他人に与えた損害に対する責任 は記名被保険者に帰属し,記名被保険者とその使用人の責任は一体と見るべ きであるゆえ,使用人を許諾運転者と・して独立の被保険者と見るべきではな ぃ。その使用人は記名被保険者の手足として業務遂行中なのであるから,記

→名被保険者が自賠法第

3

条の運行供用者責任ないし民法第

715

1

項の使用 者責任を負担することになるわけで,これは上乗保険で担保されているので ある。

使用人を許諾運転者として独立の被保険者と見るかどうかによって,同僚 使用人間(使用人同志が加害者,被害者になった場合)の賠償責任について 保険者の責任に重大な影響を及ぽすことになる。そこで,いまこの問題を検 討してみよう。

いま,記名被保険者

S

が,自己の運転手

A

を使用して,業務遂行中同僚使 用人

B

を負傷させたとする。記名被保険者は労災責任,自賠法上の運行供用 者責任,民法上の使用者責任を負うことになるが,いずれの場合も免責約款 に該当し,保険者免責となる。ところが,加害使用人

A

の民法第

709

条の不 法行為責任ほどうであるか。もし,加害使用人

A

を許諾運転者として,被保 険者として認めるならば,被災使用人 B は加害使用人 A の業務には従事中で なかったということになり,免責約款に該当せず,保険者有責となる。とこ ろが,加害使用人を被保険者として認めない立場を取れば,被保険者でない

(2) 

者の賠償責任を保険者が担保するいわれがなく,保険者無責となる。後説の

(17)

方が正しい。なぜならば,①もし,前説をとれば,保険金請求者が記名被保 険者であれば免責,加害使用人であれば有責ということになり,約款の統一 的,体系的解釈としては不合理な結論になること,②同僚使用人間の事故は 本来労災事故であり,使用者がその責めを負うべきもので,その労災事故の 担保を避けるために免責約款が設けられているからである。この種の問題は,

わが国の約款中に米国免責約款(

f)

のごとき明確な免責約款が存在すれば,全 く論ずるに価しないかも知れない。

ところで,あまり,ありえないケースかも知れないが,第 3項で述べたア メリカの場合と同じように B が A に損害賠償を請求した場合, A 自身の自動 車保険を利用することができないだろうか。つまり,

A

がオーナー・ドライ バーで自己の自動車に自動車保険をつけ,非所有自動車損害賠償危険担保特 約をつけていたとか,あるいは

A

がペーパー・ドライバーとして自動車運転 者損害賠償責任保険をつけていた場合である。どちらの場合でも,その普通

(3) 

保険約款第

5

条第

1

項第

3

号により,それは不可能である。

次に,業務に従事中の意味であるが,これは民法上の使用者責任の場合の

「事業の執行」の意ではなく,労働基準法にいう「業務上」に該当すると解 すべきで,業務起因性と業務遂行性の有無について判断さるべき問題である。

最も問題になるのは通勤途上,出張中,会社の慰安旅行中などであって,そ れが労働基準法上,業務上と認められるかぎり,業務に従事中と解して差し 支えない。

次に,使用人の範囲をどこまでとすべきかという問題がある。換言すれば,

使用人を労働基準法上の労働者と解すべきか,民法第

715

条の被用者と解す べきかという問題である。前者は職業のいかんを問わず,労働基準法の適用

(2) 

小森紀一「新しい自動車保険約款のすべて」昭和

40

年,保険毎日新聞社,

85

では保険者有責論が,木宮・前掲書

250

頁および保険毎日新聞社「ノンマリン査定 ガイド・自動車保険編」昭和

44

年 ,

272

頁では免責論が展開されている。

(3) 

「被保険者の使用者の業務(家事を除きます)のために.その使用者の所有自

動車所有権留保条項付売買契約により購入し,ま・たは

1

年以上を期間とする貸借契

約により借用した自動車は,所有自動車とみなします。以下同じ。) を運転してい

る間。」 の事故を免責としている。

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