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松本 慎二 学 位 の 種 類

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Academic year: 2021

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全文

(1)

氏 名 まつもと しんじ

松本 慎二

学 位 の 種 類

博士(医学)

報 告 番 号

乙第 1845 号

学位授与の日付

令和 2 年 10 月 1 日

学位授与の要件

学位規則第 4 条第 2 項該当(論文博士)

学 位 論 文 題 目

Morphological difference between pleural mesothelioma cells in effusion smears with either BAP1 loss or 9p21 homozygous deletion and reactive mesothelial cells without the gene alterations

(BAP1 欠失または 9p21 ホモ接合性欠失を示す悪性胸膜中皮腫 細胞と遺伝子変異の無い反応性中皮細胞の体腔液細胞診標本に おける形態学的相違)

論 文 審 査 委 員 (主 査) 福岡大学 教授

藤田 昌樹

(副 査) 福岡大学 教授

宮本 新吾

福岡大学 講師

遠藤 日富美

内 容 の 要 旨

【目的】

悪性胸膜中皮腫(MPM : malignant pleural mesothelioma)は,アスベスト(石綿)

曝露と関連の深い悪性度の高い腫瘍である.MPM における予後不良の原因の一つとして早 期での発見が困難である点が挙げられるが,MPM 患者の 54~89%の症例が胸水貯留によ る呼吸苦を初期症状とする事が多く,その際の胸水細胞診が早期診断の重要なカギとな る.実際の診断に際し,反応性中皮細胞(RMC:reactive mesothelial cell)と MPM 細 胞との鑑別に苦慮する症例が多いが,近年両者の鑑別において有効な MPM の遺伝子変異 に基づく診断補助アッセイが報告された.p16 遺伝子を含む 9p21 領域のホモ接合性欠失

(homozygous deletion:HD)および BAP1(BRACA-1 associated protein-1)遺伝子変異

に起因する BAP1 核蛋白の欠失(BAP1 loss)である.両アッセイは RMC と MPM の鑑別に

おいて特異度 100%を示し,今日では不可欠な補助診断ツールとなっている.以前我々

は,FISH 法とバーチャル顕微鏡システムを用いて 9p21 HD 陽性の MPM 細胞の形態解析を

行い,RMC との鑑別に有効な MPM に特徴的な細胞形態(相互封入像,多核細胞,10 個以

上の細胞よりなる球状集塊)を報告したが,BAP1 loss を示す MPM 細胞の形態解析を行っ

た研究はない.本研究では,免疫細胞化学染色(immunocytochemistry:ICC)にて BAP1

loss を示す MPM 細胞と FISH 法にて 9p21 HD を示す MPM 細胞,さらに両欠失を示さない

(2)

RMC の形態解析を比較し,同じ形態学的クライテリアによる MPM 診断が可能か検証するこ とを目的とした.

【対象と方法】

対象:

悪性胸膜中皮腫患者胸水 43 例(男性 32 例,女性 11 例;55-95 歳,平均 72.1 歳)と結 核性胸膜炎や肺炎に起因する反応性中皮細胞の胸水 45 例(男性 30 例,女性 15 例;36- 96 歳,平均 68.6 歳)の塗抹標本を用いた.MPM の組織亜型は,40 例が上皮型,3 例が二 相型であった.まず Papanicolaou 染色塗抹標本の細胞像をバーチャル顕微鏡システムで 保存した後,同一標本を脱色し,BAP1 ICC ならびに 9p21 FISH を施行した.

BAP1 ICC および FISH 法:

BAP1 ICC は自動免疫染色装置(DAKO Autostainer Link48)にて行い,抗 BAP1 マウス モノクローナル抗体(clone, C-4;Santa Cruz Biotechnology)と,検出系試薬として DAKO EnVision Plus kit を使用した.核における BAP1 蛋白発現が消失した細胞を BAP1 loss とした.FISH 法に用いた蛍光色素標識プローブは,Vysis LSI CDKN2A Spectrum Orange / CEP9 Spectrum Green Probes (Abbott Japan)で,用手法にて行い,1 症例当た り最低 200 個の細胞を観察・カウントした.9p21 領域を標識する赤の蛍光シグナルが 2 個とも消失した細胞を 9p21-HD と判定した.

形態解析:

ICC にて BAP1 loss を示す MPM 細胞および FISH 法にて 9p21 HD を示す MPM 細胞につい て,それぞれ保存していたバーチャルスライド上の同一細胞を見つけ出しマークした.

同様の方法で,反応性中皮症例の BAP1 保持が確認された(BAP1 retained)RMC および FISH 法にて 9p21 の正常パターンが確認された RMC にもマークした.次に,このマークさ れた細胞について各症例 200 個以上の細胞をカウントし,相互封入像(hump 様細胞質突 起を含む) ,多核細胞および 10 個以上の細胞より構成される細胞集塊の出現頻度を算出 した.

【結果】

MPM における BAP1 loss および 9p21-HD の頻度:

MPM の 21/43 例(48.8%)の症例において BAP loss を示し,同様に 21/43 例(48.8%)

の症例において 9p21 HD を認めた.一方 RMC では全例で BAP1 loss および 9p21 HD 共に 認められなかった.MPM の 7/43 例(16.2%)の症例で BAP1,9p21 共に欠失が見られ,

8/43 例(18.6%)の症例では BAP1,9p21 のいずれの欠失も認めなかった.また 28/43 例

(65.2%)の症例では BAP1 loss,9p21 HD のいずれかを認めた.これらの結果から,

RMC と MPM の鑑別における特異度はいずれも 100%であり,各々単独のアッセイでの感度 は共に 48.8%で,両方のアッセイを組み合わせた場合の感度は 81.4%まで増加した.

BAP1 loss または 9p21 HD を示す MPM の細胞形態:

(3)

BAP1 loss のみを示した MPM 14 例および 9p21 HD のみを示した MPM 14 例,さらに BAP1 retained の RMC 17 例,9p21 正常パターンを示した RMC 28 例における細胞形態解 析の結果では,hump 様細胞質突起を含む相互封入像は BAP1 loss を示す MPM では 13.0±

7.4%の細胞で観察され,9p21 HD を示す MPM でも 17.4±10.6%の細胞で観察された.こ の出現頻度は BAP1 retained RMC での頻度(3.3±1.4%)および 9p21 正常パターンを示 す RMC での頻度(3.5±2.5%)と比べて有意差をもってその割合は高かった.同様の手 法で多核細胞の出現割合および 10 個以上の細胞より構成される球状集塊の出現頻度につ いて解析した結果,BAP1,9p21 共に欠失の無い RMC に比べて,BAP loss あるいは 9p21 HD を示す MPM 細胞ではその出現頻度は有意に高く,先の相互封入像と同様,RMC と MPM の鑑別診断において重要な形態学的所見であることが示唆された.

【結論】

本研究結果から,BAP1 loss を示す MPM 細胞と 9p21 HD を示す MPM 細胞における細胞形 態学的特徴は同様であり,今回我々が提示した 3 つの同じ形態学的クライテリアで診断 可能であることを示した.

審査の結果の要旨

本論文は,免疫細胞化学染色(immunocytochemistry:ICC)にて BAP1(BRCA1 associated protein 1)蛋白欠失を示す悪性胸膜中皮腫(Malignant pleural

mesothelioma:MPM)細胞と FISH(Fluorescence in situ hybridization)法にて 9p21 ホモ接合性欠失を示す MPM 細胞,さらに両欠失を示さない反応性中皮細胞(Reactive mesothelial cell:RMC)の形態を比較し,両遺伝子のいずれかの異常を示す MPM の細胞 形態は同様であり,同じ形態学的クライテリア(相互封入所見,3 核以上の多核細胞,10 個以上の細胞より構成される重積性を有する球状集塊)で MPM と RMC の鑑別診断が可能 であることを示したものである.さらに各所見における cutoff 値を設定し,日常診断に おける具体的な判定指標も提示した.

1. 斬新さ

BAP1 欠失を示す MPM 細胞の形態解析を行った初の報告である.また,ICC および

FISH 法とバーチャル顕微鏡システムを組み合わせることで,分子病理学的な根拠が

確保された細胞での解析を行うという形態解析における新たな研究手法を確立し

た.

(4)

2. 重要性

MPM は胸膜原発悪性腫瘍の中で最も多く,予後不良な疾患である.しかし I 期で治 療を開始すると生存期間は延長することが知られており,最初の臨床症状である胸 水での細胞診断が早期発見の第一ステップである.細胞形態の評価時において異型 中皮細胞を確実に捕らえ,次の診断ステップである ICC や FISH 法などの分子病理学 的手法ならびに胸膜生検による確定診断まで導くことが胸水細胞診の重要な役割で ある.このような背景の中で,本研究はスクリーニング検査時における異型中皮細 胞を検出するための細胞形態を明確にした.

3. 研究方法の正確性

9p21 FISH 及び BAP1 免疫染色は既に診断に応用されている確立された方法である.

また本研究における各細胞所見の出現頻度のカットオフ値は,RMC 群における出現 割合の平均値+3x 標準偏差という客観的解析から導き出された数値を採用しており 妥当と判断される.

4. 表現の明確さ

本論文は英語論文であり,既に Pathology International(IF 2.11)に掲載され た.本雑誌による専門性の高い複数の査読者による厳密な査読を経て,目的,方 法,結果,考察が簡潔かつ明瞭に記載されている.

5. 主な質疑応答

Q1: 9p21-HD,BAP1 loss 共に認められなければ,100%中皮腫でないといえるのか?

A1: 言えない.両遺伝子正常の中皮腫が存在する.しかし,いずれかの遺伝子異常が認 められれば,100%の特異度をもって中皮腫と診断することが可能である.

Q2: 分子病理学的解析による診断精度向上が期待される中,今回あえて形態学的解析を 行った理由は?

A2: 特に FISH 法は高価な試薬,蛍光顕微鏡を必要とするため数多くの施設で実施でき る検査ではない.細胞形態の評価時において異型中皮細胞を確実に捕らえ,次の診断ス テップである ICC や FISH 法ならびに胸膜生検による確定診断まで導くことが胸水細胞診 の重要な役割である.この理由から今回,スクリーニング検査時における異型中皮細胞 を検出するための細胞形態解析を試みた.

Q3: 今回報告した 3 つの細胞所見を有する細胞について,中皮腫細胞であることを確認 するという目的で BAP1-ICC,9p21-FISH を行うこともあるか?

A3: 正常中皮細胞が数多く混在する中で,これらの形態を有する細胞を標的とした

BAP1-ICC,9p21-FISH により,MPM 細胞であることが確認できる.

(5)

Q4: BAP1 遺伝子と p16 遺伝子には関連があるのか? また何故今回この 2 つの遺伝子に 注目したのか?

A4: 互いの遺伝子変異に関する相互関係は報告されていない.悪性中皮腫に関連した遺 伝子変異について NF2 遺伝子など幾つかが報告されているが,現段階では,この 2 つの 遺伝子が世界的にコンセンサスを得られているため

Q5: BAP1 変異および p16 遺伝子変異は,年齢,性別や組織型による頻度の差はある か?

A5: 腹膜中皮腫においては,p16 遺伝子欠失の頻度は低く,BAP1 遺伝子変異の方が明ら かに高い.また胸膜中皮腫においては,BAP1 変異は,上皮型で頻度が高く,肉腫型では 頻度が低いことが知られている.一方で,肉腫型における p16 遺伝子欠失はほぼ 100%近 い症例で認められることも知られている.このように組織型による頻度差はあるが,年 齢や性別による差異は無い.

Q6: バーチャル顕微鏡システムを用いた解析法は,コンセンサスが得られた国際的にも 標準的な手法か?

A6: Cancer cytopathology(2013,121(8):415-422)で最初に報告したオリジナルの研究 手法で,分子病理学的な根拠が確保された細胞での解析を行うという形態解析における新 たな方法である.画像データとしてのパパニコロウ染色細胞像と BAP-ICC,9p21-FISH の 顕微鏡下での細胞は完全に 1 対1の対比可能であり,手技的に問題ないと考える.

Q7: BAP1 遺伝子,p16 遺伝子共に変異のない MPM 細胞における形態はどうなのか?

A7: 両遺伝子変異のない MPM 細胞を同定する上で根拠となる遺伝子学的,免疫学的指標 がないため,現段階ではこれらの細胞における形態評価は不可能である.しかし,本研 究で解析した遺伝子変異のない MPM 症例 8 例については,変異陽性の 35 例と比べて相互 封入像,多核細胞,集塊形成いずれも明らかな有意差は無かった.

Q8: 悪性中皮腫ではない癌性胸水中における反応性中皮細胞において,3 核以上の多核 細胞が多いという所見はないか?

A8: 今回対照とした反応性中皮細胞症例 45 例中にも,癌性胸水の症例は含まれてい

る.反応性症例における基礎疾患の相違による多核細胞の出現頻度等の比較検討は行っ

ていない.しかし,癌性胸水の方が肺炎等に起因する炎症性病変よりも中皮細胞が活性

化され,より異型性が強い可能性が高い.今後新たな研究課題として反応性中皮症例に

おける原因疾患の差異による細胞形態の比較検討を行いたい.

(6)

Q9: 今回の検討結果での BAP1 欠失の有無あるいは細胞所見の差異による中皮腫患者の 予後との関連はあるか?

A9: 今回,予後の追跡調査までは行なっていない.また BAP1 欠失と予後との関連に関 しても多くの臨床研究が報告されているが現段階で明確な見解は出ていない.しかし,

p16 遺伝子に関しては,福岡大学病院でのデータも同じ結果であるが,p16 遺伝子欠失の 無い症例では,欠失のある症例に比べて明らかに予後が良い事が知られている.

Q10: がん抑制遺伝子である両遺伝子の欠失がどう腫瘍発生に関与し,また形態形成と 関与しているのか?

A10: p16,BAP1 遺伝子はそれぞれ細胞周期や遺伝子発現調整に関与する遺伝子であり,

これらの機能喪失が細胞増殖の制御不全を引き起こし腫瘍発生に関与していると思われ る.また両遺伝子異常の有無に関わらず同一の細胞形態を示すという今回の検討結果か ら,両遺伝子は共に今回の 3 つの細胞形態形成には関与していないと考える.

Q11: 今回の検討結果を AI による病理診断に応用可能か?

A11: 病理診断領域にも AI(人工知能)と deep learning を応用した診断精度向上の研 究が増えてきている.今回の研究結果である細胞所見が,AI に利用され中皮腫診断精度 の向上に寄与できれば幸甚と考える.

Q12: 病理検体を用いた臨床研究における患者からの同意取得は?

A12: 本研究は,確定診断終了後の残余サンプルを用いた後ろ向き研究であり,福岡大 学病院での包括同意を得ており,オプトアウトも取り入れている.

その他,いくつかのコメントがあったが,発表者はいずれについても的確に応答した.

以上の審査結果により,本論文は今後の悪性胸膜中皮腫の診断に影響を及ぼす研究であり、

内容の斬新さ、重要性、研究方法の正確性、表現の明確さ、および質疑応答の結果を踏ま

え、審査員で討議の結果、学位論文に値すると評価された.

参照

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