水産庁委託 平成29年度鰻供給安定化事業のうち 「効果的な放流手法検討事業」 報告書 平成30年3月22日 水産研究・教育機構中央水産研究所 中央大学法学部 日本養鰻漁業協同組合連合会
目次 事業概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1 参画機関及び担当者 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2 各課題報告 1 国内外の放流に係る既往知見の整理・分析 ・・・・・・・・・・・・・ 3 2 放流用種苗の成長・成熟に影響を与える要因の検討 ・・・・・・・・・・ 8 3 効果的な放流手法の検討(1)日本養鰻漁業協同組合連合会 ・・・・・・・・・ 12 (2)中央大学法学部 ・・・・・・・・・ 15 平成29 年度計画検討会議事次第 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 28 平成29 年度計画検討会出席者名簿 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 29 平成29 年度成果報告会議事次第 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 30 平成29 年度成果報告会出席者名簿 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 31
事業概要 1.事業の位置づけ 近年、ニホンウナギの稚魚(シラスウナギ)の採捕量は低水準にあり、平成 26 年 6 月には国 際自然保護連合(IUCN)のレッドリストに絶滅危惧ⅠB 類として掲載されるなど、ウナギの資源の 増大が急務となっている。こうした中、各地で資源増大を目的とした放流が行われ、漁獲量の増 加及び漁業者の収入増加につながっている地域もある。しかしながら、ウナギの生態には不明な 点が多く、放流したウナギがどの程度生き残っているのか、生息場所や移動状況といった知見も ほとんどなく、一定の費用をかけて放流を行っている漁業者や養殖業者等からは、放流に適した 時期やウナギの大きさ、環境条件等、放流したウナギの生残率を高めるための効果的な放流手法 が求められている。また、この検討は、今後、産卵に寄与するウナギ資源の増大に資する放流手 法の開発にも役立つことが期待されている。 本事業では、放流後のウナギの生残状況を把握・比較することで、放流したニホンウナギの生 き残りを高め、産卵に寄与するウナギ資源の増大に資する放流手法の開発につなげ得る、効果的 な放流手法を検討することを目的とする。 2.課題構成と担当機関 本事業は、放流時期、大きさ、1回当たりの数量、環境条件を変えてニホンウナギの放流を 行い、その生き残り状況を把握・比較検討するとともに、有識者で構成される委員会において技 術的事項等に関する検討等を行うことにより、放流したウナギの生き残りを高めるために効果的 な放流手法の検討を行う。また、得られた成果は、内水面漁業者等が放流活動を行う際に参考と なる資料としてとりまとめる。 課題1 国内外の放流に係る既往知見の整理・分析 担当:中央大学法学部 課題2 放流用種苗の成長・成熟に影響を与える要因の検討 担当:水産研究・教育機構中央水産研究所,中央大学法学部 課題3 効果的な放流手法の検討 担当:日本養鰻漁業協同組合連合会,中央大学法学部 課題4 運営委員会・検討委員会の開催、研究成果の取りまとめ 担当:水産研究・教育機構中央水産研究所
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参画機関及び担当者 ・水産研究・教育機構中央水産研究所 鈴木俊哉、矢田 崇、中村智幸 ・中央大学法学部 海部健三、脇谷量子郎 ・日本養鰻漁業協同組合連合会 若林 稔 検討委員 望岡 典隆(九州大学大学院・准教授) 吉田 丈人(東京大学大学院・准教授)
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H29 年度 効果的な放流手法検討事業 報告 課 題 番 号 1 事業実施期間 平成29 年度 課 題 名 国内外の放流に係る既往知見の整理・分析 主 担 当 者 海部健三(中央大学) 分担者 脇谷量子郎(中央大学) 協力機関 背景:近年、ニホンウナギの稚魚(シラスウナギ)の採捕量は低水準にあり、平成 26 年 6 月には 国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストに絶滅危惧ⅠB 類として掲載されるなど、ウナギの資源 の増大が急務となっている。こうした中、各地で資源増大を目的とした放流が行われ、漁獲量の増 加及び漁業者の収入増加につながっている地域もある。しかしながら、ウナギの生態には不明な点 が多く、放流したウナギがどの程度生き残っているのか、生息場所や移動状況といった知見もほと んどなく、一定の費用をかけて放流を行っている漁業者や養殖業者等からは、放流に適した時期や ウナギの大きさ、環境条件等、放流したウナギの生残率を高めるための効果的な放流手法が求めら れている。また、この検討は、今後、産卵に寄与するウナギ資源の増大に資する放流手法の開発に も役立つことが期待されている。 目的:本課題では、国内外の既報の論文や報告をまとめ、産卵に寄与するウナギ資源の増大に資す る放流手法の開発につなげ得る、効果的な放流手法の開発に貢献することを目的とする。 全体計画:国内外の学術論文、事業報告、ガイドラインなどの文献の整理、および、現地での聞き 取り調査などによって、効果的な放流手法の開発に資する知見を集約する。 当該年度計画:国内外のウナギの放流に関する文献リストを更新する。また、ヨーロッパにおける ウナギ放流に関する情報を収集する。 結果: (1) 国内外のウナギの放流に関する最近の学術論文など、及びその概要
Simon et al. "Comparison of growth and condition of European eels stocked as glass and farm sourced eels in lakes in the first 4 years after stocking." Journal of Applied Ichthyology 29.2 (2013): 323-330. ヨーロッパウナギのシラス期放流個体群は、畜養後放流した個体よりも成長および肥満度の
点において勝っていた。畜養後放流されたウナギは、人工飼料から野生下での摂餌に移行し 順応するのに、シラス放流期個体より多くの時間を擁することが示唆された。
Wickström and Sjöberg. "Traceability of stocked eels–the Swedish approach." Ecology of Freshwater
Fish 23.1 (2014): 33-39.
2009年以来、スウェーデンでは累計550万個体にSr標識が施され、またスウェーデン経由でフ ィンランドに輸入される放流用種苗60万個体に対しては、2輪のSr標識がなされている。 Westerberg et al. "Behaviour of stocked and naturally recruited European eels during migration."
Marine Ecology Progress Series 496 (2014): 145-157.
ヨーロッパウナギ資源の管理方策の1つとして移送放流された個体は,刷り込まれた回遊ルー トが混乱することによって,産卵場までの回帰能力が低下するといった説がある。しかし本 研究の結果は、サルガッソー海から加入した成育場までのルートの刷り込みが産卵回遊時の 妥当な配向性や行動のために必要であるといった仮説を支持しなかった。
Pedersen and Rasmussen. "Yield per recruit from stocking two different sizes of eel (Anguilla anguilla) in the brackish Roskilde Fjord." ICES Journal of Marine Science: Journal du Conseil (2015): fsv167. 3gと9gのサイズの異なる養殖個体の放流後の加入あたり漁獲量を推定。加入量あたりの漁獲 量は3g群と9g群それぞれで13gと9.2g(Bruttoの推定)、9.8gと0.31g(nettoの推定)となり、放 流ウナギのサイズ比較において、9g群より3g群が優れていると結論づけられた。
Dekker and Beaulaton. "Faire mieux que la nature? The History of Eel Restocking in Europe."
Environment and History 22.2 (2016): 255-300.
放流は地域レベルでは成功したかもしれないが、それによる資源や漁業全体の傾向や分布パ ターンの大きな変化または減少停止は見られなかった。
Josset et al. "Pre-release processes influencing short-term mortality of glass eels in the French eel (Anguilla anguilla, Linnaeus 1758) stocking programme." ICES Journal of Marine Science: Journal du
Conseil 73.1 (2016): 150-157. 異なる放流プロセスが短期的(放流後15 日)な死亡率に与える影響を評価したところ、構築 したモデルは死亡率を56.4%説明し、最も死亡率に影響を与える要因は“operation”(放流過程 における様々なハンドリングに関する要因を含む)であった。その他の要因としては、放流 年、シラスウナギを提供する魚屋、放流までの保管期間、肥満度、標識の有無、野外実験か 室内実験か、などが死亡率に影響した。
Kaifu, Kenzo, et al. "Discrimination of wild and cultured Japanese eels based on otolith stable isotope ratios." ICES Journal of Marine Science (2017).
耳石酸素・炭素安定同位体比を用いて、人為的標識を用いずにウナギの天然遡上個体と養殖 個体を識別する手法を開発した。
Sjöberg, Niklas B., et al. "Migration of eels tagged in the Baltic Sea and Lake Mälaren—in the context of the stocking question." Ecology of Freshwater Fish 26.4 (2017): 517-532.
スウェーデンのマラレン湖で行われた標識放流実験では、捕獲された個体のうち放流個体は 少なかった。地域の個体群に占める割合は 20−30%と推測されているが、捕獲された個体では 10%にとどまっていた。
Pedersen, Michael Ingemann, Niels Jepsen, and Gorm Rasmussen. "Survival and growth compared between wild and farmed eel stocked in freshwater ponds." Fisheries Research194 (2017): 112-116.
2-5gの天然個体と、3-6gの養殖個体を200m2の浅い池に放し、12ヶ月間生残及び成長を追った。 はじめの 5 ヶ月間の死亡率は異ならなかったが、成長は放流個体で有意に速かった。3-6g の 養殖個体は 2-5g の天然個体よりも歩留まりが高く、シラスウナギ来遊量の少ない地域では、 シラスウナギを購入し、そのまま、または飼育して放流することによって、個体数を増大さ せることが可能だろう。シラスウナギから 3g の間のどの段階が放流に適したサイズなのか、 今後の研究が望まれる。
Kullmann, B., et al. "Anthropogenic spreading of anguillid herpesvirus 1 by stocking of infected farmed European eels, Anguilla anguilla (L.), in the Schlei fjord in northern Germany." Journal of fish diseases 40.11 (2017): 1695-1706.
北ドイツで2015年、2016年に放流したウナギがヘルペス性鰓弁壊死症を引き起こすanguillid herpesvirus 1(AngHV-1)に感染していた可能性が示された。2016 年に捕獲された 100 個体 のうち、68%が陽性で、大型個体ほどら感染率が高かった。ウナギ放流計画において、人為的 な病原体の拡散を防ぐための対策が急務であることが示された。
Kullmann, B., R. Neukamm, and R. Thiel. "Mass‐marking of farmed European eels (Anguilla anguilla (Linnaeus, 1758)) with alizarin red S." Journal of Applied Ichthyology 33.5 (2017): 914-917.
150mg/l のトリス(ヒドロキシメタル)アミノメタン(Tris)を緩衝剤として加えた、150mg/l のアリザリンレッドS 溶液に 6.5-8g の養殖ウナギ、合計 3572kg を9時間薬浴させたところ、 標識成功率は100%だった。また、死亡率に影響はなかった。 鈴木邦弘ら「伊東市小河川における養殖ウナギの放流後の動向」月刊海洋 49 (2017): 560-567 秋季(10 月 24 日)に 24.3±17.2g の養殖ウナギ 200 個体を 2 つの小河川に放流し、再捕獲を 行なった。採捕率及び成長率はともに低く、漁場外への逸脱もあり、内水面漁業に貢献する ような十分な効果は得られないと考えられた。
Kullmann, B., M. Hempel, and R. Thiel. "Chemical marking of European glass eels Anguilla anguilla with alizarin red S and in combination with strontium: in situ evaluation of short‐term salinity effects on survival and efficient mass‐marking." Journal of fish biology 92.1 (2018): 203-213.
アリザリンレッドS とストロンチウムを用いて、同時に耳石標識を行なった。14 日間の薬浴
の期間中、240 個体のシラスウナギの死亡率は上昇しなかった。大量の標識が可能なため、大
スケールの放流計画の標識法として適している。
(2)国内外のウナギの放流に関するガイドラインや報告書など、及びその概要
Environment Agency (UK) “Stoking European Eels”
英国環境庁が発行しているウナギ放流ガイドライン。平成28 年度に仮訳を作成。
Pawson M (2012) D
oes translocation and restocking confer any benefit to the European eel population?放流による人為的移送によって産卵回遊に向かう銀ウナギの死亡率が低下するのか、また、 天然個体と放流個体の成長の相違が銀ウナギのバイオマスを増加させているのか、不明であ る。
Danish Report to be submitted in line with Article 9 of Council Regulation (EC) No 1100/2007 of 18 September 2007 establishing measures for the recovery of the stock of European eel
欧州委員会に対するデンマークの報告書。2010 年より放流量を増やし、2011 年は 1,361,000 個体を放流。サイズは2-5g。値段は 1 個体で約 0.3 ユーロ。
Report to the European Commission required in line with Article 9 of Regulation 1100/2007/EC 欧州委員会に対するオランダの報告書。年間375,000 ユーロをかけて、シラスウナギ及び養殖 場の小型ウナギの放流が行われている。2014 年はシラスウナギ 2341kg、小型ウナギ 3542kg を放流。標識は行なっていない。種苗はフランス、スペイン、イギリスから導入しているシ ラスウナギによってオランダのウナギ資源は増加しているが、ヨーロッパ全体の個体群に対 する効果は不明。
Experimental Stocking of Inoculated American eels in the Susquehanna River Watershed 2015 Annual Report
Susquehanna 川におけるアメリカウナギの実験的放流年次レポート。Conowingo ダムの建設に よってアメリカウナギが消滅した水域にウナギを放流し、追跡するとともに、ウナギに寄生 して分布を拡大する在来二枚貝の個体群に対する効果を検証。
ICES. Report of the Workshop on Eel Stocking (WKSTOCKEEL), 20–24 June 2016, Toomebridge, Northern Ireland, UK. ICES CM 2016/SSGEPD:21. 75 pp.
放流が個体群に与える影響を評価するための科学的知見は、限りなく弱い。 Outcome of Regional Workshop on Eel and the Baltic Sea (HELCOM FISH-M 5-2017)
参加国のほとんどが放流のモニタリングを行なっているが、個体群に対する影響はわかって いない。 脇谷量子郎ら「天然ウナギと放流ウナギの競合試験」鹿児島県鰻資源増殖対策協議会2016 年 度研究報告 大型(5p サイズ程度)のウナギが放流に適していないこと、また、天然個体の存在下におけ る放流個体の低生存率、低成長が関係する可能性を示した。 海部健三「河川における放流ウナギと天然ウナギの識別調査」鹿児島県鰻資源増殖対策協議 会2016 年度研究報告 鹿児島県の二つの河川において、天然個体が優先していることを明らかにした。これらの水
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域では、放流によってニホンウナギの個体数を飛躍的に増加させることは、困難であると考 えられる。 H28 年度、H29 年度に行なった文献調査の結果、以下の知見が得られていることが明らかにされた。 収集した情報には異なる種に関するものが混在しているが、以下の情報が種間で大きく異なるとは 想定しにくい。 (1) 放流効果:放流が個体群を回復する効果があるのか、不明。 (2) 放流に適したサイズ:3g 以下。さらに小さい可能性も考えられる。 (3) 飼育の影響:3g 程度までであれば、飼育下で成育させることによって、高い成長速度が見 込まれる可能性もある。 (4) 人為的な移動:放流個体が適切な産卵回遊ルートを見つけられるかどうかについて、専門 家の意見は一致していない。 (5) 病原体拡散のリスク:放流に伴う人為的な個体の移動によって、ウィルスなどの病原体が 拡散する。 (6) モニタリング:大量のシラスウナギまたは数 g の黄ウナギを大量に耳石標識することが可 能。ヨーロッパ及びアメリカでは、多くの場合ウナギ放流のモニタリングが行われている。 (7) 日本の放流:現行の放流、特に秋季に小河川で行った放流では、内水面漁業への十分な貢 献は期待できない。また、大型個体は放流に適していない。 課題と対応策: 特に問題なく順調に実施された。 次年度計画: 本年度に引き続き、文献調査および聞き取り調査を実施し、知見の蓄積をはかる。
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H29 年度 効果的な放流手法検討事業 報告 課 題 番 号 2 事業実施期間 平成29 年度 課 題 名 放流用種苗の成長・成熟に影響を与える要因の検討 主 担 当 者 矢田 崇(中央水研) 分担者 阿部倫久(中央水研),海部健三・脇谷量子郎(中央大学) 協力機関 大隅地区養まん漁業協同組合
当該年度の成果の要約:養殖個体について、体外排出物中の代謝物の量と血液中の性ホ
ルモン濃度の測定を終え、統計解析の結果、両者の間に有意な相関を得た。また同位体分
析により、岡山県の河川及び沿岸域のニホンウナギ試料のうち、2 個体の銀ウナギは天然
と識別された
目的:放流を行っている漁業者や養殖業者等からは、放流用種苗の飼育環境、成長・成
熟等の生理状態を把握する要望が有る。本課題は放流用種苗の成長・成熟に影響を与える
要因を明らかにするための、簡便な手法の開発を目的とする。
全体計画:放流用種苗の飼育環境、成長・成熟等の生理状態の実態を明らかにする。
前年度までの成果の概要:黄・銀ウナギ大型個体の粘液の抽出物から、ウナギの主な性
ホルモンであるエストラジオール(E)・テストステロン(T)・11-ケトテストステロン
(11-KT)を検出することができた。
当該年度計画:放流用種苗の生理状態を把握するための、代謝物の定量的解析方法を試
行する。また放流種苗と天然種苗を判別する手法の高度化を目指す。
結果:
・生理状態
養殖個体について、合成生殖腺刺激ホルモンの投与によって、成熟段階の異なる試料を
得ることができた。この試料をもとに粘液中と血液中の性ホルモン濃度の測定したとこ
ろ、E,T,11-KT の全てにおいて、両濃度の間に有意な相関を得ることができた。一
方、解析個体の生殖腺を顕微鏡にて解析したところ、今年度は全て雄であった。
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図1.粘液採取の様子。 図2.養殖個体の生殖腺画像。 図3.各性ホルモンの粘液含量(縦軸)と血中濃度(横軸)の関係。
・耳石分析
Kaifu et al.(2017)に習い、ニホンウナギの耳石を処理した。取り出した耳石試料はエ
ポキシ樹脂(Epofix、Struers 社製)に包埋した後、鏡面になるまで琢磨し、核を露出させ
耳石薄層切片を作成した。耳石分析のための粉末試料の削り出しは、円錐のマイクロドリ
ル(電着ダイヤモンドバー AD1201、ドリル径 0.7mm、ミニター社製)によって顕微鏡
下で耳石を掘削した。耳石の掘削範囲は、河川生活期あるいは養殖場生活期部分とした。
シラスウナギが接岸した際に耳石の核から
150μm 付近に形成されるエルバーマークより
も内側は、全個体が共通して経験する海洋生活期に相当する。そのため、エルバーマーク
の外側から長径
650μm の範囲内を掘削し、50 から 250μg の耳石試料粉末を得た(図
4)
。得られた粉末をアルミ箔上に回収した後に、分析用ガラスバイアルに導入した。
同位体比分析は大気海洋研究所に設置された、自動前処理装置(GasBench II、 Thermo
Fisher Scientific)に接続された安定同位体質量分析装置(Delta V plus、Thermo Fisher
Scientific)により行った。同位体比は Pee Dee Belemnite (PDB)からの偏差を千分率(‰)
で表記した(下式)
。
Sample
値
= [(試料の同位体比 / PDB の同位体比)-1 ] x 1000
National Bureau of Standard から頒布されている同位体組成が既知の大理石標準試料である
NBS-19(
13C=+1.95‰、
18O=-2.20‰、VPDB)を標準試料として用いた。
天然加入個体と放流個体の判別では、水産庁の鰻供給安定化事業などで開発された非線
形判別モデル、及び
Kaifu et al.(2017)で使用している線形判別モデルを利用した。用い
た判別モデルはどちらも教師データの判別率が
99%以上と信頼性が高いが、天然加入か
養殖か、履歴が不明の個体について判別を試みる応用においては、教師データによって得
られる誤判別率と比較して大きくなってしまう可能性がある。したがって、この非線形判
別モデルによって「天然加入と判別された個体」又は「放流と判別された個体」に分類さ
れることが、当該個体の天然加入、放流の履歴を
100%担保するものではないことに注意
が必要である。
岡山県の河川及び沿岸域より
40 個体のニホンウナギ試料を得た。うち 2 個体が銀ウナ
ギ、
27 個体が黄ウナギであり、11 個体はステージを判別することができなかった。2 個
体の銀ウナギは、線形、非線いずれの判別モデルでも天然と識別された(表1)
。高梁川
汽水域、四番川の試料については、線形モデルと非線形モデルとで判別結果が大きく異な
り、水域によっては判別結果がモデルに大きく依存することが示された。
エルバーマーク
耳石試料粉末
図4 ニホンウナギの耳石切片と試料を削り出した範囲 黒い矢印はエルバーマーク、破線は核から 650μm の範囲を示す。放流された個体 であれば、養殖場で生育している期間に形成されたと考えられるこの範囲を、マイ クロドリルで削り出して分析する(環境省「平成 27 年度ニホンウナギ保全方策委 託業務報告書」)10
表1:使用した個体の情報と判別結果
W は天然、C は放流と識別されたことを示す。
課題と対応策:計画通りに順調に実施されると共に、着実な成果を得た。
次年度計画:本年度に引き続きサンプル収集に努め、特に養殖個体の雌と、天然個体に
ついての実測例を増やし、成熟・未成熟の判別に必要なデータの蓄積をはかる。また放流
種苗と天然種苗を判別する手法についても、実証例を増やしてデータの蓄積をはかる。
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H29 年度 効果的な放流手法検討事業 報告 課題番号 3 事業実施期間 平成 29 年度 課題名 効果的な放流手法の検討 主担当者 若林 稔(日本養鰻漁業協同組合連合会) 協力機関 静岡うなぎ漁業協同組合、浜名湖養魚漁業協同組合、一色うなぎ漁業協 同組合、高知県淡水養殖漁業協同組合、熊本県養鰻漁業協同組合、宮崎 県養鰻漁業協同組合、大隅地区養まん漁業協同組合 当該年度の成果の要約 3P~20P/kg サイズの二ホンウナギ(以下、ウナギ)3,781 ㎏(約 31,180 尾)を河川、 海水域及び汽水域 13 地点に放流し、3 尾の採捕報告があった。また、平成 28 年度に放流し たウナギ 17 尾について採捕報告があった。 なお、放流ウナギ 331 尾をサンプリングし、雌雄を判定したところ雌が 38 尾(11%) 雄 が 293 尾(89%)であった。 目 的 ウナギの放流調査により、ウナギ資源の増大に資する放流手法の開発につなげ得る、効果 的な放流手法の検討を目的とした。 全体計画 ウナギ資源増大のための放流に適したウナギのサイズや放流時期、放流場所、養殖方法等 を検討する。 前年度までの成果の概要 ウナギ 3,227 ㎏(約 731,823 尾)を 15 地点で放流し、69 日後に 4 尾の採捕報告があっ た。また、平成 27 年度に放流したウナギ 2 尾の採捕報告があった。 ウナギ 276 尾をサンプリングし雌雄を判定した結果、雌が 47 尾(17%) 雄が 229 尾 (83%)であった。
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当年度計画 放流ウナギの一部あるいは全てに標識を取り付け、河川等に放流し、その後の移動を把握 し、放流場所や放流時期等を検討する。 また、産卵に寄与する可能性の高いウナギの養殖方法を検討するため、放流ウナギの一部 の全長、体重、雌雄等を測定・判定した。 結 果 (1)ウナギの放流実績 放流日 実施組合名 サイズ 放流重量 (㎏) 推定尾数 (尾) 放流場所 標識 平成 29 年 8 月 23 日 大隅養まん漁協 20P 473 9,460 肝属川 川内川 2 地点 青色イラストマータグ 8 月 30 日 静岡うなぎ漁協 10P 339 3,390 湯日川 〃 8 月 30 日 宮崎県養鰻漁協 9P・3P 240 1,270 耳川 3 地点 青色アンカータグ 9 月 5 日 浜名湖養魚漁協 10P 58 580 都田川 青色イラストマータグ 9 月 7 日 一色うなぎ漁協 6・5・ 4・3P 1,826 9,330 矢作川 2 地点 白色アンカータグ 10 月 5 日 熊本県養鰻漁協 10P 659 6,590 熊本新港・緑 川河口 青色アンカータグ 11 月 20 日 高知県養殖漁協 3P 186 560 物部川 〃 計 3,781 31,180 13 地点 (2)採捕報告