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加齢に伴う脳内微量元素の変動に関する研究 学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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博 士 ( 医 学 ) 中 川 典 子

     学位論文題名

加齢に伴う脳内微量元素の変動に関する研究 学位論文内容の要旨

    はじめに

  微量元素 は,中枢 神経系に おいて神経伝達を含む多くの機能に関与し,生体の生理機構 の調節に 重要な働 きをして いること が解明されてきたが,微量元素と脳の老化との関連に つ い て は , 十 分 な 研 究 が 行 わ れ て い な い の が 現 状 で あ る . 老 化 促 進 モ デ ル マ ウ ス (Scncsccncc‑Accelcrated Mousc:SAM)は,老化研究の動物モデルとして確立されており,

老 化 促 進 を 示 すP(prone)系 と 通 常 の 老 化 過 程 を 示 すR(resistant)系 か ら な る ・   本研究で は微量元 素が,脳 の老化あるいは老化促進にどの様に関連するのか,また,加 齢に伴う 形態学的 変化とし ての脳萎 縮や脳機能の障害である学習・記憶障害にどの様に係 わっ て い るか を 明ら か に する こ と を目的とし て,SAMの脳 内におけ る微量元 素濃度お よ び海馬の アミノ酸 放出量の 加齢によ る変動に ついて検討 した,

    対象と方法

  実 験には, 脳萎縮と 学習・記 憶障害を 特徴とするSAMP10と対照と して通常 の老化過 程 を示すSAMR1の3,6,9および12力月齢の雄性マウスをそれぞれ7〜9匹(計66匹)を用いた.

各月齢の マウスを 断頭後脳 を摘出し ,Growinskiらの方 法で小脳,延髄と橘,視床下部,

中脳と視 床,線条 体,海馬 ,大脳皮 質,嗅球 の8部位に分 割した,脳の各部位をテフロン 製の分解 容器に移 し,68%高 純度硝酸0.5ml(大脳皮 質のみ1ml)を加え,約120℃で2時間 酸分 解し, 試料とし た.試料 を希釈後 ,誘導結合 プラズマ 質量分析(ICP‑MS)法により 亜 鉛,銅, マンガン ,モリブ デンおよ びルピジ ウムを測定 した.次に5および12カ月齢のマ ウス各4〜6匹(計20匹)の海馬(CA3領域)にマイクロダイアリシス用プ口ーブを装着し,高 カリウム刺激前後におけるアミノ酸(グルタミン酸,グリシン,グルタミン,夕ウリン,アラ ニン )放出 量を高速 液体クロ マ卜グラ フイーおよ び電気化 学的検出 器(HPLC‑ECD)を用い て測定した.

    結  果

1.加齢による脳内部位別微量元素濃度の変動

  亜 鉛濃度は ,通常の 老化を示 すR1群では 線条体,海 馬,大脳 皮質にお いて老化 が進行

(2)

した12力 月齢で有 意の低下 を示した .老化が 促進するPl0群 の亜鉛濃度は,各月齢を通じ て多く の部位でRl群に比較 して有意 に低下し ,特に海馬 では9力月齢と12力月齢に有意な 低下が 認められ た. Rl群の 銅濃度は,月齢が増すごとに増加を示した.P10群では,中脳 と 視床,大 脳皮質, および嗅 球の銅濃 度はR1群に比 較して有 意に低下 し,特に 大脳皮質 で はすべて の月齢に おいて顕 著な低下 が認められ た,マン ガン濃度 は,R1群で は月齢が 増 すごとに 減少を示 し,P10群で は9力月齢 以降でRl群に 比較して 低下を示 した.モ リブ デン濃 度は,R1群 では3力月 齢が最も 高く,そ の後一旦減 少した後,加齢とともに増加し た . Pl0群 で は , 多 く の 部 位 で R1群 に 比 較 し て 有 意 な 増 加 を 示 し た . 2.加齢 による海 馬のアミ ノ酸放出 量の変動

  老 化が促進 するPl0群の グルタミ ン酸放出 量は,対照 群に比較 して,5力 月齢では 有意 な変動 は認めら れなかっ たが,老 化が進行した12力月齢では,カリウム刺激終了20分後,

有 意な 増 加 が認 め られ た ,P10群 の グリ シ ン 放出 量 は ,対 照 群に比較 して,5カ 月齢で は,カ リウム刺 激終了20分 後のみに有意な増加が認められたが,老化が進行した12力月齢 では, カリウム 刺激でPl0群 のグリシ ン放出量 が増加し, とくに,カリウム刺激直後およ び刺激 終了20分後 に有意な 増加が認 められた ,

    考

加齢による脳内微量元素の変動に関しては,

これま で加齢に 伴って亜鉛やルピジウム濃 度は 減少し, 銅濃度は 増加する こと,マンガンやモリブデン濃度は若齢期に高濃度である こと が人やラ ット脳内 において 報告されているが,本研究においても,マウス脳内では,

加齢 による各 微量元素 の変動は ほぽ同様な傾向を示すことが明らかとなった.脳内微量元 素と 加齢に伴 う脳萎縮 や学習・ 記憶障害との関連については,萎縮が顕著であると報告さ れて いるPl0の大 脳皮質に おいて, 若齢期から 銅濃度の 低下が認 められた.脳の発達段階 に銅 が欠乏す るとミエ リン合成 ,ドーパミン,ノルエピネフリン代謝が障害されることが 報告 されてお り,Pl0の大 脳皮質に おける銅濃 度の低下 は脳萎縮 と関連することが示唆さ れ た .亜 鉛 は海 馬 に おい て は ,ポ ス トシ ナ プ ス上 のNMDA受容 体 に作 用してグ ルタミン 酸の 神経伝達 を抑制し たり,プ レシナプスの神経伝達物質の放出を抑制していることが報 告さ れている .学習や 記憶障害 を呈するP10の 海馬にお いては, 老齢期に亜鉛濃度が低下 し , グル タ ミン 酸 や グリ シ ン の放 出 量の 増 加 が明 ら かと な っ た. グリシ ンは,NMDA受 容体 に作用し ,グルタ ミン酸の 神経伝達強度を増加させることが報告されている.これら のこ とより, 老化が促 進するP10に おいては, 老齢期の 海馬の亜 鉛濃度の低下が,グルタ ミ ン 酸 の 放 出 やNMDA受 容 体 へ の 亜 鉛 に よ る 神経 調 節 因子 と し ての 抑 制作 用 を 低下 さ せ , その 結 果, グ ル タミ ン 酸 の放 出 量お よ びNMDAレセ プ ター を 介し た過剰な 神経伝達 が起 き,海馬 の神経細 胞障害が 引き起こされ,学習や記憶障害をもたらすことが示唆され た,

(3)

    結  諭

  本研究の結果より,マウス脳内における微量元素(亜鉛,銅,マンガン,モリブデン,

ルビジウム)が加齢に伴って変動し,脳の老化機構や老化に伴う脳萎縮や学習・記憶障害 に関与する可能性が明らかとなった.

(4)

学位論文審査の要旨

     学位論文題名

加齢に伴う脳内微量元素の変動に関する研究

  微量元素が,脳の老化あるいは老化促進にどの様に関連するのか,また,加齢に伴う脳 萎縮や学習・記憶障害にどの様に係わっているかを明らかにすることを目的に,老化促進 モデ ルマ ウス(SAM)を用いて脳内微量元素濃度および海馬のアミノ酸放出量の加齢による 変動について検討した,実験には,老化促進を示し,脳萎縮と学習・記憶障害を特徴とす るS´`MP10と対照として通常の老化過程を示すSAMR1の3,6,9および12力月齢の雄性マウ スを用いた.各月齢のマウスを断頭後脳を摘出し,小脳,延髄と橋,視床下部,中脳と視 床, 線条 体, 海馬 ,大脳皮質,嗅球の8部位に分割し、酸分解後,誘導結合プラズマ質量 分析(ICP.MS)法により亜鉛,銅,マンガン,モリブデンおよびルピジウムを測定した.さ らに,5および12カ月齢のマウスの海馬(CA3領域)にマイク口ダイアリシス用プ口ーブを 装着し,高カリウム刺激前後におけるアミノ酸放出量を高速液体ク□マトグラフイーおよ び電気化学的検出器(HPLC→ECD)を用いて測定した,その結果、亜鉛濃度は,R1では線条 体, 海馬 ,大 脳皮 質において12力月齢で有意の低下を示し,P10では各月齢を通じて多く の部 位でR1に 比較 して有意に低下し,特に海馬では9カ月齢と12力月齢に有意な低下が認 めら れた .銅 濃度 は,R1では月齢が増すごとに増加を示し,P10では中脳と視床,大脳皮 質, およ び嗅 球に おい てR1に比較 して 有意 に低 下し,特に大脳皮質ではすべての月齢に お い て 顕 著 な 低下 が 認 め られ た. マンガ ン濃 度は ,R1では 月齢 が増 すご とに 減少 を示 し,P10で は9力月 齢以降R1に比較して低下を示した.モリブデン濃度は,R1では3力月齢 が最 も高 くそ の後 一旦減少した後,加齢とともに増加し,P10では多くの部位でR1に比較 して 有意 な増 加を 示し た. また、 老化 が促 進す るP10の 海馬か らの グル タミ ン酸放出量 は,R1に 比較 して5力月齢では有意な変動は認められなかったが,12カ月齢では,カリウ ム刺 激終 了20分後 有意な増加が認められた.P10のグリシン放出量も12力月齢でR1に比較 してカリウム刺激終了後有意な増加が認められた.これまで加齢による脳内微量元素の変 動に関しては,加齢に伴って亜鉛やルピジウム濃度は減少し,銅濃度は増加し,マンガン やモリブデン濃度は若齢期に高濃度であることが人やラット脳内において報告されている

雄 雄子 和 邦玲 藤代 齋 田岸 授授 授 教教 教 査査 査 主副 副

(5)

が,マウス脳内においても,加齢による各微量元素の変動はほぼ同様な傾向を示すことが 明らかとなった.脳内微量元素と脳萎縮や学習・記憶障害との関連については,萎縮が顕 著であ ると 報告 され てい るP10の大 脳皮 質に おい て, 若齢 期か ら銅 濃度 の低 下が 認め ら れ,脳の発達段階に銅が欠乏するとミエリン合成,ドーバミン,ノルェピネフリン代謝が 障害さ れる こと が報 告さ れて いることより,P10の大脳皮質における銅濃度の低下は脳萎 縮と 関 連 す る こ と が 示 唆 さ れ た. 亜鉛 は海 馬に おい ては ,ポス トシ ナプ ス上 のNMDA受 容体に作用してグルタミン酸の神経伝達を抑制したり,プレシナプスの神経伝達物質の放 出を抑 制し てい るこ とが 報告 されており,学習や記憶障害を呈するP10の海馬において老 齢期に亜鉛濃度が低下し,グルタミン酸やグリシンの放出量の増加が明らかとなったこと より , 老 齢 期 の 海 馬 の 亜 鉛 濃 度の 低下 が, グル タミ ン酸 の放出 やNMDA受 容体 への 亜鉛 によ る 抑 制 作 用 を 低 下 さ せ , その 結果 ,グ ルタ ミン 酸の 放出量 およ びNMDAレ セプ ター を介した過剰な神経伝達が起き,海馬の神経細胞障害が引き起こされ,学習や記憶障害を もたらすことが示唆された.

  審査にあたって,副査の岸教授から・亜鉛と脳の萎縮との関係,S´`MP10以外のモデル動 物の脳内微量元素,ルピジウム,モリブデンと加齢との関係について,次いで副査の田代 教授から脳内に蓄積するアルミニウムの必須性,雄性マウスを使用した理由,ルピジウム および銅の動きと加齢との関係について質問があったが,申請者はこれら何れの質問に対 しても満足できる回答を行った.

  以上,本研究は脳内微量元素と加齢との関係を老化促進モデルマウスを用いて検討した もので,得られた知見は今後の老化および老化促進研究に有益なものであり,審査員一同 はこれらの成果を高く評価し,大学院課程における研鑽や取得単位などを併せ,申請者は 博 士 ( 医 学 ) の 学 位 を 受 け る の に 十 分 な 資 格 を 有 す る も の と 判 定 し た .

参照

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