博 士 ( 医 学 ) 佐 久間 司 郎
学 位 論 文 題 名
Radiation Induction of the Receptor Tyrosine Kinase Gene Ptk ‑ 3 in Normal Rat Astrocytes
( 放射 線に よる 正常 ラッ 卜アス ト口サイトに お け る チ 口 シ ン キ ナ ー ゼPtk‑3の 誘 導 )
学位論文内容の要旨
放 射 線 に よる 中枢 神経 系の 障害 は脳 腫瘍の 放射 線治 療に とっ て重 大な 問題 であ る。 組織 学的 には 主に グリ ア系細 胞と 血管 内皮 細胞の障害が放射線障害の原因と考えられている。
しか し、 詳細 な病 態は依 然と して 明か にさ れて いな ぃ。
正 常 の 中 枢神 経系 の発 達、 機能 はそ れを構 成す る細 胞ど うし の相 互関 係に よっ て営 まれ てお り、 多く の成 長因子 やサ イト カイ ンが関与している。外傷、虚血あるいは薬剤などに よる 中枢 神経 系の 障害に は様 々な 分子 の発現が知られており、一般にこれらの分子は中枢 神経 系の 障害 から 細胞を 回復 させ るた めに重要な役割を果たしていると考えられている。
多く の実 験系 にお いて放 射線 もま た同 様に成長因子やサイトカインをコードする遺伝子の 発現 を誘 導す るこ とが知 られ てい る。 中枢神経系の放射線に対する反応にも遺伝子の発現 の変 化が 深く 関わ ってい る可 能性 があ り、今回我々はデイフんレンシャルデイスプレイと いうPCR( 遺伝 子増 幅法 )を もち いた 新し い方 法で放 射線 によ って 培養ラットアストロサ イト に誘 導さ れる 遺伝子 を同 定し た。
胎 生21日 の ラ ッ ト 脳 か ら ア ス ト ロ サ イ ト を 分 離 培 養 し 、10Gyの 放 射 線 照 射 後 メ ッ セ ン ジ ャ ーRNA(mRNA)を 分 離 し た 。O.lug mRNAをT12MCを プ ラ イ マ ー と し てcDNAを つ く り 、T12MCと10‑mer(5.‑GACCGCTTGT‑3. )に てPCRを 行な った 。PCR産物 は6%シー クエ ンス ゲル で電 気泳 動し、 オー トラ ジオ グラフイ後ゲルから目的のバンドを切り出しノーザ ン ブ ロ ッ ト と cDNAラ イ ブ ラ リ ー ス ク リ ー ニ ン グ の プ ロ ー ブ と し て 用 い た 。 デ イ フ んレ ン シ ャ ル デ イ ス プ レ イ に よ り2回 の独 立し た実 験に て得 られ たバ ンド は10 Gyの 放 射 線 照 射 後に1時 間 後 、24時 間 後 に み られ た も の で あ る 。 こ の バ ン ド を プ ロ ー ブ と し て 用い たノ ーザ ンブ ロッ トで は放射 線照 射後30分 で誘 導が みら れ、 さら に放 射線 量 と の 関 係 を み る と5Gy4時 間 で 最 大 の 誘 導 が み ら れ た 。 ラ ッ ト 脳 ア ス ト ロ サ イ ト の cDNAラ イ ブラ リ ー を ス ク リ ー ニ ン グ し 、BLASTServerに よる アミ ノ酸 ホモ ロジ 一解 析の 結果 、こ の遺 伝子 は新し いレ セプ ター チロシンキナーゼとして最近スペインの研究グルー プ に よ っ てク ロー ニン グさ れたptk‐3と呼 ばれ る遺 伝子 と同 一で ある こと が判 明し た。
こ のptk‐3とい う遺伝 子は910個の アミ ノ酸 からな る蛋 白質 をコ ードし、アミノ酸配列
の解析から細胞膜貫通型のレセプターチロシンキナーゼであることが予想された。近年多 くのレセプターチロシンキナーゼが次々とクローニングされているが、最もその構造上特 徴的な点は、細胞外に凝固因子である第八因子に似たアミノ酸配列をもち、細胞膜直下に は分子構造に柔軟性をもたらすとぃわれるグリシンやプロリンといったアミノ酸の多い点 である。この特異的な構造をもっチロシンキナーゼが放射線によって誘導されることの意 義は不明である。しかし、放射線によって細胞核内のシグナルが細胞膜上ヘレセプターの 誘導という.形で伝わるという非常に興味ある結果が得られた。さらにこの分子は細胞外に 凝固因子である第八因子に似たアミノ酸配列をもつことから、ほかの細胞との闇で細胞間 情報伝達、あるいは細胞どうしの接着に関わることが推測され、放射線照射後にみられる 放射線壊死あるいは組織修復の過程における様々な細胞の働きを解明するうえで意義ある 情報をもたらすと考えられる。
ptk‑3のもうーつの構造的特徴である細胞膜直下のグリシンやプロリンといったアミノ酸
配列の多い部分にはライブラリーをスクリーニングする過程で111塩基程短いトランス クリプトが発見されptk‑3には少なくとも2種類のトランスクリプトが存在することが判明 した。これら2種類のトランスクリプトはオールタナテイブスプライスにより発現が調節 されているものと考えられる。111塩基欠く短いトランスクリプトは細胞内部のチロシ ンキナーゼドメインとその基質との空間的相互関係が長いトランスクリプトと異なること が推測され、2種類のトランスクリプトはチロシンリン酸化酵素としての機能上で異なる 活性をもっものと思われる。2種類のトランスクリプトの意義を解明する目的で、培養ア ストロサイト、成熟ラット脳、胎児ラット脳の各々から抽出したmRNAを用いスプライス をうける部分をRT‑PCR(Reverse Transcriptase‑Polymerase Chain Reaction)による解析を試 みた。短い型のトランスクリプトは細胞膜直下の37アミノ酸を欠き、主に胎児ラット脳 で発現がみられ、長い型のトランスクリプ卜は成熟ラット脳でより発現していた。このこ とより脳の発達の過程においてptk‑3のオールタナテイブスプライスによる調節が関与して いる可能性が示唆された。また、培養アストロサイトでは、さらに長い型のトランスクリ プトが優位に発現していたが、このRT‑PCRでは放射線によるスプライスパターンの変化 は見られなかった。
今後この蛋白質の放射線による中枢神経系細胞障害時における役割及びオールタナテイ ブスプライスの意義についてさらに検討することにより、放射線の生物学的影響に関して より詳細な知見が得られ、中枢神経系の放射線治療において基礎的な面での貢献をもたら すことが期待される。
学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
Radiation Induction of the Receptor Tyrosine Kinase Gene Ptk ‑ 3 in Normal Rat Astrocytes
( 放 射 線 に よ る 正 常 ラ ッ ト ア ス 卜 口 サ イ 卜 に お け る チ 口 シ ン キ ナ ー ゼPtk‑3の 誘 導 )
放 射 線 に よ る 中 枢 神 経 系 の 障 害 は 脳 腫 瘍 の 放 射 線 治 療 に と っ て 重 大 な 問 題 で あ る 。 組 織 学 的 に は 主 に グ リ ア 系 細 胞と 血管 内皮 細胞 の障 害・ カ§ 放射 線障 害 の原 因と 考え られ てい る。
し か し 、 詳 細 な 病 態 は 依 然 と し て 明 か に さ れ て い な ぃ 。
正 常 の 中 枢 神 経 系 の 発 達 、 機 能 は そ れ を 構 成 す る 細 胞 ど う し の 相 互 関 係 に よ っ て 営 ま れ て お り 、 多 く の 成 長 因 子 や サ イ ト カ イ ン が 関 与 し て い る 。 外 傷 、 虚 血 あ る い は 薬 剤 な ど に よ る 中 枢 神 経 系 の 障 害 に は 様 々 な 分 子 の 発 現 が 知 ら れ て お り 、 一 般 に こ れ ら の 分 子 は 中 枢 神 経 系 の 障 害 か ら 細 胞 を 回 復 さ せ る た め に 重 要 な 役 割 を 果 た し て い る と 考 え ら れ て い る 。 多 く の 実 験 系 に お い て 放 射 線 も ま た 同 様 に 成 長 因 子 や サ イ ト カ イ ン を コ ー ド す る 遺 伝 子 の 発 現 を 誘 導 す る こ と が 知 ら れ て い る 。 中 枢 神 経 系 の 放 射 線 に 対 す る 反 応 に も 遺 伝 子 の 発 現 の 変 化 が 深 く 関 わ っ て い る 可 能 性 が あ り 、 今 回 我 々 は デ イ フ ん レ ン シ ャ ル デ イ ス プ レ イ と い うPくR( 遺 伝 子 増 幅 法 ) を も ち ぃ た 新 し い 方 法 で 放 射 線 に よ っ て 培 養 ラ ッ ト ア ス ト ロ サ イ ト に 誘 導 さ れ る 遺 伝 子 を 同 定 し た 。
胎 生21日 の ラ ッ ト 脳 か ら ア ス ト ロ サ イ ト を 分 離 培 養 し 、10Gyの 放 射 線 照 射 後 メ ッ セ ン ジ ャ ーRNA(mRNA)を 分 離 し た 。O.lug mRNAをT12MCを プ ラ イ マ ー と し てcDNAを つ く り 、T12MCと10‑mer(5'‑GACCGC冂GT‑3')に てPくRを 行 な っ た 。Pく ニR産 物 は6%シ ー ク エ ン ス ゲ ル で 電 気 泳 動 し 、 オ ー ト ラ ジ オ グ ラ フ イ 後 ゲ ル か ら 目 的 の バ ン ド を 切 り 出 し ノ ー ザ ン ブ ロ ッ ト とcDNAラ イ ブ ラ リ ー ス ク リ ー ニ ン グ の プ ロ ー ブ と し て 用 い た 。 デ イ フ ァ レ ン シ ャ ル デ イ ス プ レ イ に よ り2回 の 独 立 し た 実 験 に て 得 ら れ た バ ン ド は10 Gyの 放 射 線 照 射 後 に1時 間 後 、24時 間 後 に み ら れ た も の で あ る 。 こ の パ ン ド を プ ロ ー ブ と し て 用 い た ノ ー ザ ン ブ ロ ッ ト で は 放 射 線 照 射 後30分 で 誘 導 が み ら れ 、 さ ら に 放 射 線 量 と の 関 係 を み る と5くb4時 間 で 最 大 の 誘 導 が み ら れ た 。 ラ ッ ト 脳 ア ス ト ロ サ イ ト の cDNAラ イ ブ ラ リ ― を ス ク リ ー ニ ン グ し 、BLAST Serverに よ る ア ミ ノ 酸 ホ モ ロ ジ ー 解 析 の 結 果 、 こ の 遺 伝 子 は 新 し い レ セ プ タ ー チ ロ シ ン キ ナ ー ゼ と し て 最 近 ス ベ イ ン の 研 究 グ ル ー
弘 三男 澄 信 眞 部 川 阿西 細 授授 授 教教 教 査査 査 主副 副
プによってクローニングされたptk‑3と呼ばれる遺伝子と同一であることが判明した。
このptk‑3という遺伝子は910個のアミノ酸からなる蛋白質をコードし、アミノ酸配列 の解析から細胞膜貫通型のレセプターチロシンキナーゼであることが予想された。近年多 くのレセプターチロシンキナーゼが次々とクローニングされているが、最もその構造上特 徴的な点は、細胞外に凝固因子である第八因子に似たアミノ酸配列をもち、細胞膜直下に は分子構造に柔軟性をもたらすといわれるグリシンやプロリンといったアミノ酸の多い点 である。この特異的な構造をもっチロシンキナーゼが放射線によって誘導されることの意 義は不明である。しかし、放射線によって細胞核内のシグナルが細胞膜上ヘレセプターの 誘導という形で伝わるという非常に興味ある結果が得られた。さらにこの分子は細胞外に 凝固因子である第八因子に似たアミノ酸配列をもつことから、ほかの細胞との間で細胞間 情報伝達、ある、いは細胞どうしの接着に関わることが推測され、放射線照射後にみられる 放射線壊死あるいは組織修復の過程における様々な細胞の働きを解明するうえで意義ある 情報をもたらすと考えられる。
ptk‑3のもうーつの構造的特徴である細胞膜直下のグリシンやプロリンといったアミノ酸
配列の多い部分にはライブラリーをスクリーニングする過程で111塩基程短いトランス クリプトが発見されptk‑3には少なくとも2種類のトランスクリプトが存在することが判明 した。これら2種類のトランスクリプトはオールタナテイブスプライスにより発現が調節 されているものと考えられる。111塩基欠く短いトランスクリプトは細胞内部のチロシ ンキナーゼドメインとその基質との空間的相互関係が長いトランスクリプ卜と異なること が推測され、2種類のトランスクリプトはチロシンリン酸化酵素としての機能上で異なる 活性をもっものと思われる。2種類のトランスクリプトの意義を解明する目的で、培養ア ストロサイト、成熟ラット脳、胎児ラット脳の各々から抽出したmRNAを用いスプライス をうける部分をRT‑PCR(Reverse Transcriptase‑Polymerase Chain Reaction)による解析を試 みた。短い型のトランスクリプトは細胞膜直下の37アミノ酸を欠き、主に胎児ラット脳 で発現がみられ、長い型のトランスクリプトは成熟ラット脳でより発現していた。このこ とより脳の発達の過程においてptk‑3のオールタナテイブスプライスによる調節が関与して いる可能性が示唆された。また、培養アストロサイトでは、さらに長い型のトランスクリ プトが優位に発現していたが、このRT‑PCRでは放射線によるスプライスパターンの変化 は見られなかった。今後この蛋白質の放射線による中枢神経系細胞障害時における役割及 びオールタナテイブスプライスの意義についてさらに検討することにより、放射線の生物 学的影響に関してより詳細な知見が得られ、中枢神経系の放射線治療において基礎的な面 での貢献をもたらすことが期待される。
審査員一同は、これらの成果を高く評価し、また研究者として誠実かつ熱心であり、申 請 者 が博 士 (医 学 )の 学 位を 受 ける の に充 分 な資 格 を有 す る もの と 判定 し た。