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古細菌型レチナール蛋白質の吸収波長制御機構 学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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博 士 ( 薬 学 ) 下 野 和 実

学 位 論 文 題 名

古細菌型レチナール蛋白質の吸収波長制御機構 学位論文内容の要旨

【緒言】  高度好塩菌には高等生物の視物質と同様にレチナールを発色団とする 光受容膜蛋白質が存在する。発色団であるレチナールの極大吸収波長(入max) は、蛋白質と結合することで大きく長波長にシフトする。この吸収波長変化はオ プシンシフトと呼ばれる。蛋白質部分による吸収波長制御によルレチナール蛋白 質はそれぞれ固有の吸収波長を持つこととなる。このオプシンシフトの程度の違 いにより高等生物の場合、色覚が実現している。オプシンシフトが、蛋白質内の レチナール近傍構造とレチナール分子との相互作用により引き起こされるのは明 らかであるがその詳細は解明されていない。古細菌型レチナール蛋白質であるバ クテルオロドプシン(BR)は、その高い安定性と発現量が多いことから最も良く機 能、構造が解明されている膜蛋白質の1つである。またファラオニスフォポロド プシン(ppR)は他の3種の古細菌型レチナール蛋白質と大きく異なり短波長側に 吸収波長を持つことが特徴の1っとして挙げられる。そこで本研究は、古細菌型 レチナール蛋白質をモデルとして選択し、BRとppRの吸収波長制御機構を解明 することを目的とした。

【研究成果】本研究の構成としては以下に示す4つに分けられる。それぞれの 結果をまとめる。

1)古細菌型レチナール蛋白質のアミノ酸配列の比較から見いだされるppRに特徴   的な3つの部位(Va1108.Gly130.Thr204)のみではレチナール蛋白質の吸収波長   の違いは説明できない。しかし極性が変化するGly130 (BR.Ser)、Thr204 (BR,   Ala)は若干ではあるが吸収波長制御に寄与している。また3重変異体の結果か   ら従来考えられていたオプシンシフトの相加性は必ずしも正しくないことが示   された。

2) BR様レチナール結合部位を持つ多重変異体ppR (BRlppR)を用いた解析では、

  BRlppRの極大吸収波長(524 nm)はBR (568 nm)とppR (499 nm)の中間に位置   し、吸収波長の差の40%程度のシフトしか示さなかったことから、アミノ酸   残基置換以外に構造の違いによる効果も関与していることが示された。また赤   外分光測定からこの構造的要因はシッフ塩基近傍に存在することがわかった。

  さらにppRに特徴的な性質である低温で安定なK中間体の存在は、このシッフ   塩基近傍構造がアミノ酸置換では変化させることが出来ない程、ppRではBR

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  と 異 なり 特徴 的で ある ため であ るこ とが 示唆 され た。また暗条件下においてBR   と異なりall‑ trans型レチナ ールのみ存在できる性質はロイオノン環付近の構造の   違いによる可能性が示唆され た。

3) ppRの プロ トン 化シ ッフ 塩基 の 対イ オン はBRのそれに対応するAsp75であるこ   と が わか った 。ま た ppRの 対イ オン 周辺 はBRに比 ベ疎水性であることが示唆さ   れ た 。強 酸性 下に おい てシ ッフ 塩基 近傍 のク ロラ イド イオ ン 結合 にはAsp75以   外 に も う1つ 解 離 性 残 基(Asp201が 最も 有カ であ る) が関 与す るこ とが わか っ   た 。D75E変異 体の 可視 吸収 スベ クト ルに 対す る影 響からプロトン化シッフ塩基   と 対 イ オ ン で あ るAspの 相 対 距 離 はppRとBRで は 異 な る こ と が 示 唆 さ れ た 。   ま たpR様 蛋白 質に 特徴 的な スベ クト ルの 肩の 有無 はプロトン化シッフ塩基と対   イオンの相対距離が決定して いることも示唆された。発色団異性体組成比の分析   か ら ppRでは レチ ナー ルが13‑ cis型をと った時にプ口トン化シッフ塩基に対す   る 対 イオ ンの 負電 荷はBRよ りも 遠く に配 置し 、効 果的な配置ではない可能性が 示唆 さ れた 。ま た13―cぱ型レチナールが安 定に存在するためには対イオンが負電   荷を持っていることが条件で あるがわかった。

4) PMM法 を用 いた 吸収 波長 計算 の結果、基底励起工ネ ルギー差は0.377 eVと算出   さ れ 、実 測のBRとppRの 吸収 波長 の差 を再 現し てい た 。こ のエ ネル ギー 差の 内   訳 は 以下 に示 す4つ の効 果と 同定 され た。1.レ チナ ール の構 造の 違し ゝ、C=N   結 合 の 長 さ に よ る 効 果(10% )2.アミ ノ酸 置換 によ る効 果(60%) この 効果 は   主 と して83番 目、105番 目、130番 目、204番目 のサ イ トの アミ ノ酸 置換 によ る   も の で あ っ た 。3.構 造 の 違 い に よる 効果 (6% )こ れは83番 目、130番 目の サ   イ トの 主鎖 の配 置 の違 いに よる 効果 が大 部分 を占 める 。4. Arg残基の側鎖の向   き の 効 果 が11% 認 め ら れ た 。 以 上 の 効 果 がBRとppRの 吸 収 波 長制 御機 構の 主   要因であると考えられる。

【 結 諭 】  本研 究で は以 上 のよ うにBRとppRの吸 収波 長 の違 いに つい ての 重要 な 知見 が得 られたが、その全容の解明にはさらなる検討ま たは量子化学論によって得 られ た仮 説の検証が必要であると考えられる。しかし、 本研究によって得られた知 見及 び方 法論は他のレチナール蛋白質の吸収波長制御機 構に応用できると考えられ る。 また 発色団と蛋白質の相互作用という面に注目する と、本研究のような分子機 構の 研究 は小分子(基質)と膜蛋白質(特に結晶構造が 報告されているロドプシン のようなGPCR (G protein coupled recepter))の相互作用解析にも応用が可能である と考えられる。

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学位論文 審査の要旨 主査

副査 副査 副査

教授 教授 教授 助教授

加 茂 直 樹 稲 垣 冬 彦 横 澤 英 良 三 宅 教 尚

学 位 論 文 題 名

古 細菌型レ チナー ル蛋白質 の吸収波長制御機構

    レ チ ナ ー ル 蛋 白 質 と は , ピ タ ミ ンAの ア ル デ ヒ ド 型 で あ る レ チ ナ ー ル を 補 欠 分 子 と す る 色 素 蛋 白 質 で あ り , 我 々 高 等 動 物 の 網 膜 に 存 在 す る 光 感 覚 の セ ン サ ー と な っ て い る も の が そ の1つ で あ る . そ こ に は , 明 暗 を み る 口 ド プ シ ン と 色 覚 を 司 る3 種 の 色 素 蛋 白 質 が あ り , こ れ ら は す べ て レ チ ナ ー ル 蛋 白 質 で あ る , 色 覚 を 司 る 色 素 蛋 白 質 の 吸 収 波 長 は , 三 原 色 に 対 応 し て 赤 , 緑 , 青 色 の 光 を 吸 収 す る よ う に な っ て い る . ま た , 明 暗 を み る 口 ド プ シ ン は 青 一 緑 色 の 光 を吸 収 す る, ま た ,後 述 す る よう に , 高 度 好 塩 菌 の 細 胞 膜 に は レ チ ナ ー ル 蛋 白 質 が4種 存 在 す る が , そ れ ら の 色 素 蛋 白 質 の 色 は , 紫 か ら 青 色 , お よ び 赤 色 と な っ て い る . さ て , レ チ ナ ー ル 自 身 の 吸 収 は 約380 nm近 辺 に あ る . す な わ ち , レ チ ナ ー ル が タ ン バ ク と 結 合 す る と , 吸 収 波 長 が380か ら580 mm近 く ま で 移 動 す る こ と が 出 来 , レ チ ナ ー ル が 結 合 し た そ の ま わ り の タ ン バ ク の 環 境 に よ っ て , 種 々 の 吸 収 波 長 を と る , こ の 現 象 は オ プ シ ン シ フ ト と 呼 ば れ て い る . こ の こ と は 古 く か ら 不 思 議 な 現 象 と し て , 生 物 学 者 , 生 物 物 理 学 者 が 実 験 的 お よ び 量 子 力 学 を っ か っ た 理 論 的 研 究 を行 な っ てき た . その 結 果 , 種々 の 考 え が 提 案 さ れ て い る が , い ま だ , す べ て の 研 究 者 が 納 得 す る 考 え は な い .   高 度 好 塩 菌 の 細 胞 膜 に は4種 類 の レ チ ナ ー ル 蛋 白 質 が 発 現 し て い る . そ れ ら は , /ヾ ク テ リ オ 口 ド プ シ ン(bRと 略 す ) ,/丶 口 口 ド プ シ ン , セ ン ソ リ 口 ド プ シ ン , フ オ ボ 口 ド プ シ ン(pRと 略 す ) で あ る . 前 者3つ の 吸 収 極 大 波 長 は560'‑‑580nmに あ る が , 最 後 の も の は500nmで あ る .pRが 発 見 さ れ る 前 か ら , 極 め て 安 定 で 大 量 に 発 現 す るbRを 使 っ て 変 異 体 を 作 製 し , 種 々 の 性 質 を 調 べ ら れ て い た . そ の 中 に は 吸 収 波 長 の 研 究 も な さ れ て い た が , 上 述 の よ う に 統 一 的 な 理 解 は さ れ て い な い . 申 請 者 は 前 に 高 度 好 塩 好 ア ル カ リ 性 菌 で あ るNa tronobacとerium pharaonisの 細 胞 膜 に 存 在 す る フ エ ポ ロ ド プ シ ン 様 蛋 白 質phaエaonlsフ エ ポ 口 ド プ シ ン(ppRと 略 す ) の 大 腸 菌 で の 発 現 系 を 構 築 し た . そ こ でj申 請 者 は こ の 発 現 系 を 使 っ て ,bRの 研 究 結 果 と も 比 較 し な が ら ,ppRの 吸 収 極 大 波 長 がbRの そ れ と 比 べ て , な ぜ70nmも 短 波 長 シ フ ト す る の か を 実 験 的 ま た 理 論 的 に 明 ら か に し よ う と し た .     本 学 位 論 文 は ,4つ の バ ー ト に 分 け る こ と が 出 来 る , ま ず , 今 ま で に 報 告 さ れ て い る23種 の 高 度 好 塩 菌 の レ チ ナ ー ル タ ン バ ク の ア ミ ノ 酸 の 配 列 を 比 較 す る と ,

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長波長側に吸収極大のあるものにはなく,500nm 近辺に吸収極大のあるpR または ppR には完全に保存されているアミノ酸残基が3 ケ所あることが分かった.従来,

オプシンシフトの起こる原因のーっとして,周囲のアミノ酸によってレチナールの 場所に作られる口ーカルな電場の寄与が上げられていた,または,もっと直接的な 相互作用(例えば,ファンデアワールス半径が互いに接触しあう等)も考えられる.

そこで,これらの3 ケ所をbR の残基に置換した変異蛋白を作製したが,吸収極大は 大きな変化を示さなかった.

     ついで,レチナール結合部位に存在するアミノ酸をすべてbR のものに変異させ た蛋白を作製した.変異させた部位は10 ケ所である.このように,レチナールの 近傍 のア ミノ 酸は 全くbR と同 じに も拘 わらず ,bR と ppR の吸収波長差の 40 %し か説明できなかった.この原因を明らかにするため,赤外分光法による検討を行な った.レチナールは蛋白の特定のりジン残基とシッフ塩基を作って結合しており,

ポリェンの鎖をへて他の端はロヨノン環となっている.赤外分光では,ロヨノン環 近傍はbR 型と変化していたが,シッフ塩基の近傍ではppR の特徴を,このような アミノ酸置換でも,残していた.

     吸収極大を支配する因子の1 っが,プ口トン化シッフ塩基の対イオンをなす負 に荷電する解離性残基である.これは75 番目のアスバラギン酸であることが判明 している,上で述べたように,シッフ塩基の近傍はアミノ酸置換にも拘らず,ppR 型であるので,このアスバラギン酸の吸収波長やレチナールの異性体組成におよぼ す影響を詳細に検討した.

     最後に,東京工業大学の櫻井助教授によって新しく開発された励起状態の蛋白 部分の電子分極を考慮に入れることのできる量子力学的計算を行ない,1 )シッフ 塩基 のC 二 ニ N 結合長のbR とppR の違い12 )アミノ酸の置換によるもの,3 )主鎖 の配置の違い,4 )あるアルギニン残基のグアニジン残基の方向の違い等の原因を 明らかにしている.

     このように,本研究は波長制御の問題を実験的および計算化学的に研究したも

の で あ り , 薬 学 博 士 の 称 号 を 授 与 す る に ふ さ わ し い と 判 定 し た . 、

参照

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図2に実験装置の概略を,表1に主な実験条件を示す.実