博 士 ( 薬 学 ) 下 野 和 実
学 位 論 文 題 名
古細菌型レチナール蛋白質の吸収波長制御機構 学位論文内容の要旨
【緒言】 高度好塩菌には高等生物の視物質と同様にレチナールを発色団とする 光受容膜蛋白質が存在する。発色団であるレチナールの極大吸収波長(入max) は、蛋白質と結合することで大きく長波長にシフトする。この吸収波長変化はオ プシンシフトと呼ばれる。蛋白質部分による吸収波長制御によルレチナール蛋白 質はそれぞれ固有の吸収波長を持つこととなる。このオプシンシフトの程度の違 いにより高等生物の場合、色覚が実現している。オプシンシフトが、蛋白質内の レチナール近傍構造とレチナール分子との相互作用により引き起こされるのは明 らかであるがその詳細は解明されていない。古細菌型レチナール蛋白質であるバ クテルオロドプシン(BR)は、その高い安定性と発現量が多いことから最も良く機 能、構造が解明されている膜蛋白質の1つである。またファラオニスフォポロド プシン(ppR)は他の3種の古細菌型レチナール蛋白質と大きく異なり短波長側に 吸収波長を持つことが特徴の1っとして挙げられる。そこで本研究は、古細菌型 レチナール蛋白質をモデルとして選択し、BRとppRの吸収波長制御機構を解明 することを目的とした。
【研究成果】本研究の構成としては以下に示す4つに分けられる。それぞれの 結果をまとめる。
1)古細菌型レチナール蛋白質のアミノ酸配列の比較から見いだされるppRに特徴 的な3つの部位(Va1108.Gly130.Thr204)のみではレチナール蛋白質の吸収波長 の違いは説明できない。しかし極性が変化するGly130 (BR.Ser)、Thr204 (BR, Ala)は若干ではあるが吸収波長制御に寄与している。また3重変異体の結果か ら従来考えられていたオプシンシフトの相加性は必ずしも正しくないことが示 された。
2) BR様レチナール結合部位を持つ多重変異体ppR (BRlppR)を用いた解析では、
BRlppRの極大吸収波長(524 nm)はBR (568 nm)とppR (499 nm)の中間に位置 し、吸収波長の差の40%程度のシフトしか示さなかったことから、アミノ酸 残基置換以外に構造の違いによる効果も関与していることが示された。また赤 外分光測定からこの構造的要因はシッフ塩基近傍に存在することがわかった。
さらにppRに特徴的な性質である低温で安定なK中間体の存在は、このシッフ 塩基近傍構造がアミノ酸置換では変化させることが出来ない程、ppRではBR
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と 異 なり 特徴 的で ある ため であ るこ とが 示唆 され た。また暗条件下においてBR と異なりall‑ trans型レチナ ールのみ存在できる性質はロイオノン環付近の構造の 違いによる可能性が示唆され た。
3) ppRの プロ トン 化シ ッフ 塩基 の 対イ オン はBRのそれに対応するAsp75であるこ と が わか った 。ま た ppRの 対イ オン 周辺 はBRに比 ベ疎水性であることが示唆さ れ た 。強 酸性 下に おい てシ ッフ 塩基 近傍 のク ロラ イド イオ ン 結合 にはAsp75以 外 に も う1つ 解 離 性 残 基(Asp201が 最も 有カ であ る) が関 与す るこ とが わか っ た 。D75E変異 体の 可視 吸収 スベ クト ルに 対す る影 響からプロトン化シッフ塩基 と 対 イ オ ン で あ るAspの 相 対 距 離 はppRとBRで は 異 な る こ と が 示 唆 さ れ た 。 ま たpR様 蛋白 質に 特徴 的な スベ クト ルの 肩の 有無 はプロトン化シッフ塩基と対 イオンの相対距離が決定して いることも示唆された。発色団異性体組成比の分析 か ら ppRでは レチ ナー ルが13‑ cis型をと った時にプ口トン化シッフ塩基に対す る 対 イオ ンの 負電 荷はBRよ りも 遠く に配 置し 、効 果的な配置ではない可能性が 示唆 さ れた 。ま た13―cぱ型レチナールが安 定に存在するためには対イオンが負電 荷を持っていることが条件で あるがわかった。
4) PMM法 を用 いた 吸収 波長 計算 の結果、基底励起工ネ ルギー差は0.377 eVと算出 さ れ 、実 測のBRとppRの 吸収 波長 の差 を再 現し てい た 。こ のエ ネル ギー 差の 内 訳 は 以下 に示 す4つ の効 果と 同定 され た。1.レ チナ ール の構 造の 違し ゝ、C=N 結 合 の 長 さ に よ る 効 果(10% )2.アミ ノ酸 置換 によ る効 果(60%) この 効果 は 主 と して83番 目、105番 目、130番 目、204番目 のサ イ トの アミ ノ酸 置換 によ る も の で あ っ た 。3.構 造 の 違 い に よる 効果 (6% )こ れは83番 目、130番 目の サ イ トの 主鎖 の配 置 の違 いに よる 効果 が大 部分 を占 める 。4. Arg残基の側鎖の向 き の 効 果 が11% 認 め ら れ た 。 以 上 の 効 果 がBRとppRの 吸 収 波 長制 御機 構の 主 要因であると考えられる。
【 結 諭 】 本研 究で は以 上 のよ うにBRとppRの吸 収波 長 の違 いに つい ての 重要 な 知見 が得 られたが、その全容の解明にはさらなる検討ま たは量子化学論によって得 られ た仮 説の検証が必要であると考えられる。しかし、 本研究によって得られた知 見及 び方 法論は他のレチナール蛋白質の吸収波長制御機 構に応用できると考えられ る。 また 発色団と蛋白質の相互作用という面に注目する と、本研究のような分子機 構の 研究 は小分子(基質)と膜蛋白質(特に結晶構造が 報告されているロドプシン のようなGPCR (G protein coupled recepter))の相互作用解析にも応用が可能である と考えられる。
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学位論文 審査の要旨 主査
副査 副査 副査
教授 教授 教授 助教授
加 茂 直 樹 稲 垣 冬 彦 横 澤 英 良 三 宅 教 尚
学 位 論 文 題 名
古 細菌型レ チナー ル蛋白質 の吸収波長制御機構
レ チ ナ ー ル 蛋 白 質 と は , ピ タ ミ ンAの ア ル デ ヒ ド 型 で あ る レ チ ナ ー ル を 補 欠 分 子 と す る 色 素 蛋 白 質 で あ り , 我 々 高 等 動 物 の 網 膜 に 存 在 す る 光 感 覚 の セ ン サ ー と な っ て い る も の が そ の1つ で あ る . そ こ に は , 明 暗 を み る 口 ド プ シ ン と 色 覚 を 司 る3 種 の 色 素 蛋 白 質 が あ り , こ れ ら は す べ て レ チ ナ ー ル 蛋 白 質 で あ る , 色 覚 を 司 る 色 素 蛋 白 質 の 吸 収 波 長 は , 三 原 色 に 対 応 し て 赤 , 緑 , 青 色 の 光 を 吸 収 す る よ う に な っ て い る . ま た , 明 暗 を み る 口 ド プ シ ン は 青 一 緑 色 の 光 を吸 収 す る, ま た ,後 述 す る よう に , 高 度 好 塩 菌 の 細 胞 膜 に は レ チ ナ ー ル 蛋 白 質 が4種 存 在 す る が , そ れ ら の 色 素 蛋 白 質 の 色 は , 紫 か ら 青 色 , お よ び 赤 色 と な っ て い る . さ て , レ チ ナ ー ル 自 身 の 吸 収 は 約380 nm近 辺 に あ る . す な わ ち , レ チ ナ ー ル が タ ン バ ク と 結 合 す る と , 吸 収 波 長 が380か ら580 mm近 く ま で 移 動 す る こ と が 出 来 , レ チ ナ ー ル が 結 合 し た そ の ま わ り の タ ン バ ク の 環 境 に よ っ て , 種 々 の 吸 収 波 長 を と る , こ の 現 象 は オ プ シ ン シ フ ト と 呼 ば れ て い る . こ の こ と は 古 く か ら 不 思 議 な 現 象 と し て , 生 物 学 者 , 生 物 物 理 学 者 が 実 験 的 お よ び 量 子 力 学 を っ か っ た 理 論 的 研 究 を行 な っ てき た . その 結 果 , 種々 の 考 え が 提 案 さ れ て い る が , い ま だ , す べ て の 研 究 者 が 納 得 す る 考 え は な い . 高 度 好 塩 菌 の 細 胞 膜 に は4種 類 の レ チ ナ ー ル 蛋 白 質 が 発 現 し て い る . そ れ ら は , /ヾ ク テ リ オ 口 ド プ シ ン(bRと 略 す ) ,/丶 口 口 ド プ シ ン , セ ン ソ リ 口 ド プ シ ン , フ オ ボ 口 ド プ シ ン(pRと 略 す ) で あ る . 前 者3つ の 吸 収 極 大 波 長 は560'‑‑580nmに あ る が , 最 後 の も の は500nmで あ る .pRが 発 見 さ れ る 前 か ら , 極 め て 安 定 で 大 量 に 発 現 す るbRを 使 っ て 変 異 体 を 作 製 し , 種 々 の 性 質 を 調 べ ら れ て い た . そ の 中 に は 吸 収 波 長 の 研 究 も な さ れ て い た が , 上 述 の よ う に 統 一 的 な 理 解 は さ れ て い な い . 申 請 者 は 前 に 高 度 好 塩 好 ア ル カ リ 性 菌 で あ るNa tronobacとerium pharaonisの 細 胞 膜 に 存 在 す る フ エ ポ ロ ド プ シ ン 様 蛋 白 質phaエaonlsフ エ ポ 口 ド プ シ ン(ppRと 略 す ) の 大 腸 菌 で の 発 現 系 を 構 築 し た . そ こ でj申 請 者 は こ の 発 現 系 を 使 っ て ,bRの 研 究 結 果 と も 比 較 し な が ら ,ppRの 吸 収 極 大 波 長 がbRの そ れ と 比 べ て , な ぜ70nmも 短 波 長 シ フ ト す る の か を 実 験 的 ま た 理 論 的 に 明 ら か に し よ う と し た . 本 学 位 論 文 は ,4つ の バ ー ト に 分 け る こ と が 出 来 る , ま ず , 今 ま で に 報 告 さ れ て い る23種 の 高 度 好 塩 菌 の レ チ ナ ー ル タ ン バ ク の ア ミ ノ 酸 の 配 列 を 比 較 す る と ,