博 士 ( 理 学 ) 梅 津 喜 崇 学位 論文題 名
Study on the Functional and Structural Characteristics of Growth − blocking Peptide
(昆虫由来成長阻害因子Growth ―blocking peptide の活性と 立体構造に関する研究)
学 位 論 文 内 容 の 要旨
昆虫由来成長阻害因子Growth‑blocking peptide (GBP)は、寄生バチであるカリヤコマユ バチCotesia kariyaiに寄生された鱗翅日昆虫のアワヨトウPseudaletia sepa.mfロの幼虫から、
幼虫の成長や蛹化変態を阻害する因子として発見された25残基からなるペプチドである。
ま た、多種 類の昆 虫からGBPと相同性の極めて高いペプチドが発見され、その活性が幼虫 に対する麻痺、心臓拍動の制御、異物を排除する血球細胞の活性化など多岐にわたること か ら、GBPファミ リーは多 機能のサイトカインであることが明らかになっている。興味深 い ことに、GBPは アワヨト ウの遺伝子由来産物であり、未寄生の幼虫では全長23残基から な る23GBPが発現し ているこ とが明らかになっている。きらに、寄生を受けた幼虫では寄 生の過程で感染するポリドナウイルスの影響で、終止コドンがチロシンに翻訳されること によりC末端残基の長い28残基からなるペプチド(28GBP)として合成されること、28残基 として発現されたこのペプチドが血清中のプロテアーゼなどによって25残基(25GBP)まで 分 解を受け ること が示唆さ れてい る。この ように 、GBPは寄生を受けることによってC末 端 残基が伸 長する ことが知 られているが、GBP受容体が完全には同定されていないため、
それぞれのペプチドがどのように幼虫の成長阻害活性に影響を与えているかは明らかにな っ ていたい 。そこ で本研究 では、 長さの異 なる3種類のGBPが幼虫の成長阻害にどのよう に 寄 与 して い る かを 明らか にするた め、活 性及ぴ立 体構造に ついて の解析を 行った 。 初 めに、C末端 の長さの 異なる3種類 のGBPが 幼虫の 成長阻害 にどの ように影 響してい るかを調べるため、それぞれのペプチドの活性を幼虫の体重変化により評価した。その結 果、それぞれのGBPはすべて濃度依存的に幼虫の成長を阻害することが分かった。さらに、
3種類のGBPの 活性の比 較を行うと、幼虫の血清中で非常に早く分解を受けるはずの28GBP が最も強い活性を示すという興味深い結果が得られた。次に、C末端残基の立体構造への寄 与 を調べる ために23,28GBPの水溶液 中での立 体構造をNMR法により決定し、以前に報告 さ れている25GBPの 立体構造 との比較を行った。その結果、それぞれのペプチドの二次構 造を形成するコア領域の立体構造にはほとんど差異は認められなかった。また、伸長したC 末 端残基部 分はフ レキシブ ルな構造をしており、得られた立体構造から28GBPがなぜ強い 活性を有するかについての知見を得ることはできなかった。
そ こで、28GBPの伸 長したC末端 残基が、 何らか の生体分子と相互作用することにより 活性や構造に影響を与える可能性について検討を行った。一般的に、生体膜結合能をもっ たベプチドは膜結合時にプロテアーゼによる分解の影響を非常に受けにくいことが知られ ている。そこで、GBPが生体膜と結合する可能性を調べるため、表面プラズモン共鳴(SPR) 及 ぴ限外濾 過膜を 用いたモ ルカット法による検討を行った。生体膜モデルとして、SPR法 では中性脂質のdimリistoylphosph甜dylcholinepMPC)からなる二重膜を、モルカット法では
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NMR法で生体膜モデルとして用いられ る界面活性剤dodecylphosphocholine (DPC)からなる ミ セル を使 用し た 。そ の結 果、23,25GBPと比較して28GBPは生体膜 と強く相互作用する こ とが 明らかになった。そこで、28GBPが生体膜とどのように相互作 用しているかを明ら か に す る た め 、NMR法 を 用 い てDPCミセ ル中 に おけ る解 析を 行っ た。 まず 、DPCミセ ル 存 在下 、非 存在 下 にお ける28GBPの1H‑15N HSQCスペクトルを比較し たところ、フレキシ ブ ルなN末端 部分及ぴコア領域のシグナルについてはほとんど変化が 見られぬかった。一 方、C末端部分のシグナルは大きくシ フトし、C末端部分の立体構 造の変化を示唆する結果 が得られ た。この結果を受け、.28GBPのDPCミセル中での立体構 造解析を行った。その結 果 、DPCミセ ル結 合時 にはN末端 部分、コア領域の構造はほとんど変 化を受けないが、伸 長 し たC末 端 部 分 は 両 親 媒 性 のqヘ リ ッ ク ス 構 造 を と る こ と が 明 ら か に な っ た 。 生体 膜モ デル 結 合時 の立 体構 造解 析に より28GBPの構 造を決定す ることができたが、
28GBPのどの 部分で相互作用をしているかを明らかにすることは、そ の後のメカニズムを 考える上 で非常に重要である。そこで、15N緩和を用いた運動性の解析、H/D交換実験、常 磁 性物 質を 用い た スピ ンラ ベル 実験 など の各 種NMR実験 を用 いて28GBPと 生 体膜 モデ ル と の相 互作用のより詳細な解析を行った 。運動性の解析ではDPCミセ ルと結合することで C末端部分の運動性が大きく減少する ことが明らかになった。一方で、N末端部分は大きな 運動性の 変化は認められず、生体膜と結合した場合でも、高い運 動性を有していることが 分 かっ た。 また 、H/D交換 実験 、ス ピン ラベ ル 実験 によ り28GBPとDPCミセルとの相互作 用界面の推定を行ったところ、C末端両親媒性ヘリックスの疎水性残基(Phe23,Tyr24,Leu26, Ile2')に 加えて、1H‑15N HSQCスペク トルではシグナルの大きなシフトがみられなかったコ ア 領 域 の 残 基(Val8,Ala,Tyr11) で も 相 互 作 用 し て い る こ と が 明 ら か に な っ た 。 28GBPが生 体膜と結合をすることにより強い成長阻害活性を示すメ カニズムについては 以 下の ニっのことが推定される。ーつ目 は、28GBPの生体膜との相互 作用によルプロテア ー ゼな どによる分解の影響を受けにくく なることである。28GBPが強 く膜と結合すること で、23,25GBPよりも長い問、高濃度 で維持されるために強い活性を示している可能性があ る。二つ 目に、生体膜結合により生体膜上に存在すると予想され る受容体と結合しやすく な る可 能性が考えられる。膜結合により 三次元から二次元へとGBPの 受容体探索過程が変 化するこ と及び、受容体近傍の濃度上昇により受容体認識が容易 になることにより、活性 が上昇する可能性がある。
前述 した よう に 、GBPの 受容 体はいま だ同定されていないため、GBPの構造機能相関を より詳細 に解析しようと考えた場合の方法のーっにGBP変異体解析があげられる。しかし、
そのよう ナょ変異体実験を行う場合には大量かつ多種類のサンプルを短時間に、安価に調製 する必要 がある。一般的に、ペプチドサンプルを調製する際に用 いられる方法としては、
化学合成 法、大腸菌発現法のニっがあげられる。しかしながら、 化学合成法を用いた場合 にはぃ瓜 偲法などに用いられる安定同位体ラベル化には非常に高 いコストが必要になり現 実的では ない。また、大腸菌発現法の場合は、融合タンパク質と して発現させるため、プ ロテアー ゼなどを用いたタグタンパク質の除去など、精製過程が 長時間かつ複雑になって し まう 欠点があった。そこで、融合タン パク質の状態でもGBPとして の立体構造と活性を 保持し、 短時間に、安価にサンプルの調整を行うことのできる大 腸菌発現系の構築を試み た。
初め に、 これ ま での 変異 体解 析の 結果 からGBPのN末 端側 よりもC末端側にタグタンパ ク質を付 加した場合の方が活性を保持したままGBP分子を提示できる可能性が高いと考え、
C末端側にタグタンパク質としてチオ レドキシンを付加したベクターを構築した。次に、融 合 タン パク質状態でもGBPの構造、活性を保持しているかの検討を行 うために、大腸菌発 現 系で 発現、精製した融合タンパク質に 対して血球活性化活性測定、及ぴNMR法を用いた 解 析を 行った。その結果、融合タンパク 質の状態でも単独のGBPの場 合とほとんど変わら なぃ構造、活´陸を保持していることが明らかになった。
この 融合タンパク質発現系を用いるこ とで、より安価で短時間にGBPの立体構造、活性
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の解析を行うことが可能になった。特に、ランダムミューアーションなどの膨大な数のサ ン プ ル 数 に 対 し て 解 析 を 行 う 際 に は 非 常 に 有 効 な 方 法 で あ る と 考 え ら れ る 。
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学 位 論 文 審 査 の 要 旨 主査 教授 河野敬一
副査 客員教授津田 栄(連携分野)
副査 准教授 相沢智康
副査 教授 出村 誠(生命科学院)
学位論文題名
Study on th . eFunCtionalandStruCturalCharaCteriStiCS ofGrowth ―blockingPeptide
(昆虫由来成長阻害因子Growth ーblockingpeptide の活性と 立体構造に関する研究)
昆 虫由 来成長 阻害 因子 GBP は、 寄生 バチで あるカリヤコマユバチに寄生 された鱗翅目昆虫のアワヨトウの幼虫から、幼虫の成長や蛹化変態を阻害す る因 子と して発 見された25 残基からなるペプチドである。また、多種類の 昆虫 から GBP と相 同性の 極め て高 いペ プチド が発見され、その活性が幼虫 に対する麻痺、心臓拍動の制御、異物を排除する血球細胞の活性化など多岐 にわたることから、GBP ファミリーは多機能のサイトカインであることが明 らかになっている。GBP はアワヨトウの遺伝子由来産物であることが明らか とな って おり、 未寄 生の 幼虫で は全 長23 残基 からぬる23GBP が発現してい ることが確認されている。さらに、寄生を受けた幼虫では寄生の過程で感染 するポリドナウイルスの影響で、終止コドンがチロシンに翻訳されることに より C 末 端残 基伸 長型GBP(28GBP) とし て合成 されること、28 残基として発 現 さ れ た こ の ペ プ チ ド が 血 清 中 の プ ロ テ ア ー ゼ な ど に よ っ て 25 残 基 (25GBP) まで 分解 を受けることが示唆されている。このように、GBP は寄生 を 受 け ること によ って C 末 端残 基が 伸長す るこ とが 知られ てい るが 、GBP 受容体が完全には同定されていないため、それぞれのペプチドがどのように 幼虫の成長阻害活性に影響を与えているかは明らかになっていない。本研究 は 、 GBP の C 末 端残 基伸 長がア ワヨ トウ の成 長阻害 にど のよ うに 影響を 与 えているかを明らかとすることを目的としている。
本 論 文にお いて 、寄 生によ るGBP のC 末端 残基伸 長と その 成長 阻害活 性 との 関係 を、NMR 法を中 心と した 分光 法や生 化学的方法に基づぃた研究か ら明らかにすることを目的として研究を行っている。C 末端の長さの異なる 3 種 類の GBP では その 立体 構造に はほ とん ど違 いがないにもかかわらず、C 末端 残基 伸長型 GBP が最 も強 い成 長阻 害活性 を有していた。次に、成長阻 害 活 性 の強 い C 末 端 残 基 伸 長 型 GBP がそ の C 末端部 分で 生体 膜と 強く相 互
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作用することを明らかにし、生体膜モデル結合状態での詳細な立体構造の決 定、 さら に、 C 末 端残 基伸長 型GBP と 生体 膜モ デル との相 互作 用部 位の 特 定を行った。これらの知見をもとに、生体膜相互作用によるC 末端残基伸長 型 GBP の 成 長 阻 害 活 性 上 昇 メ カ ニ ズ ム を 提 案 し て い る 。 ま た、 筆者 は、よ り迅 速に GBP の構 造機能相関を解析することを目的と し、 GBP の大 腸菌 発現 系の改 良を 行っ ている。一般的に大腸菌発現法でペ プチドを生産する場合には、融合タンパク質として発現させるため、精製過 程が 長時 間か つ複雑 にな る。 そこで 、融 合タンパク質の状態でもGBP とし ての立体構造と活性を保持し、プロテアーゼなどを用いたタグタンパク質の 除去を必要とせず、短時間に、安価にサンプルの調整を行うことのできる大 腸菌発現系の構築を試みた。まず筆者は、これまでに報告されている変異体 解 析 の 結 果か ら GBP の N 末 端 側 よ りもC 末 端側に タグ タン パク 質を付 加し た場 合の 方が 活性を 保持 した ままGBP 分子を提示できる可能性が高いと考 え、C 末端側にタグタンパク質としてチオレドキシンを付加したベクターを 構築 した 。次 に、融 合タ ンパ ク質状 態で もGBP の構造、活性を保持してい るかの検討を行うために、大腸菌発現系で発現、精製した融合タンパク質に 対し て活 性測 定、及 びNMR 法 を用 いた 構造解析を行った。その結果、融合 タン パク 質の 状態で も単 独の GBP の場 合とほとんど変わらなぃ構造、活性 を保持していることを示した。この融合タンパク質発現系を用いることで、
より 安価 で迅 速にGBP の立体 構造 、活 性の解析を行うことが可能になり、
今後 さら に詳 細詮GBP の分子 メカ ニズ ムについての知見を得ることが可能 になると期待される。
これを要するに、著者は、アワヨトウ幼虫の寄生による成長阻害について GBP のC 末 端残 基伸長 によ る成 長阻害 活性 の上 昇に ついて の新 知見 を得 た ものであり、構造生物学や生化学等に対して貢献するところ大なるものがあ る。
よって著者は、北海道大学博士(理学〕の学位を授与される資格あるもの と認める。
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