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リンゴを利用した発酵酵素シロップによるがん細胞増殖抑制,抗酸化,α-グルコシダーゼ阻害作用に関する研究

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Academic year: 2021

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65Functional Food Research Vol.16 2020. リンゴを利用した発酵酵素シロップによる がん細胞増殖抑制,抗酸化,α-グルコシダーゼ 阻害作用に関する研究 Cancer cell growth inhibitory, anti-oxidant, and α-glucosi- dase inhibitory effects of enzyme syrup obtained from apple fermentation. 中谷美咲,関 洋子 * Misaki Nakatani, Hiroko Seki. Fukagawa Fukagawa. 野菜や果物は長時間の保存が難しく,一般的には野菜はピクルスや漬物,果物はジャムに加工して保存さ れてきた.しかし,加工の際の酸処理や加熱によって,野菜・果物に含まれる酵素を不活性化してしまう, 加熱により総ビタミン C 量が低下するという問題があった.そこで最近では果物や野菜を生のまま砂糖漬け にして発酵させることで,有用な物質の破損なしに加工・保存する方法がある.果物や野菜を砂糖漬けにす ることで,数日で野菜や果物から出てきた水分で砂糖が溶け,シロップ漬けの状態となる.このシロップは 酵素シロップと呼ばれ,発酵による有用成分の増加および機能性の向上,がん細胞増殖抑制作用が期待でき る.そこで,本研究ではりんごを利用した酵素シロップに着目し,発酵によるがん細胞増殖抑制作用,抗酸 化作用,α-グルコシダーゼ阻害作用を調査した.また,発酵に関与している微生物の同定を行った. りんごは青森県の早生ふじりんごを用い,16 分割にした後,1.1 倍の砂糖と共にガラスの容器で 2 週間室 温に保存し,発酵 7 日目と 14 日目のシロップを用いてマウス白血病細胞株 P388 の細胞増殖への影響,抗 酸化活性,α-グルコシダーゼ阻害活性を測定した. がん細胞増殖抑制作用を評価するため,細胞数を調整したマウス白血病細胞株 P388 に発酵 7 日目と 14 日目の酵素シロップまたは滅菌水を添加し,37°C で 7 日間 5.0% CO2 環境で培養し,p388 の細胞数を比較 した.酵素シロップの抗酸化作用は DPPH ラジカル消去活性を,α-グルコシダーゼ阻害作用はα-グルコシ ターゼ阻害活性を測定した.発酵に関与している微生物を同定するため,酵素シロップを適宜希釈し標準寒 天培地に塗抹し,35℃で 2 日間培養した.2 日後,出現したコロニーの微生物同定を行った. その結果,がん細胞増殖抑制作用の評価では,発酵 7 日目および 14 日目の酵素シロップで p388 細胞 の増殖抑制効果が確認された.抗酸化作用の評価では,酵素シロップの抗酸化活性と比較してリンゴ自体 の抗酸化活性で高い値が確認された.α-グルコシダーゼ阻害作用の評価では,発酵 7 日目および 14 日目 の酵素シロップで高いα-グルコシダーゼ阻害活性が確認された.また,発酵に関与した微生物を同定し た結果,相同値 97%で Metschnikowia pulcherrima であった.以上のことからリンゴを利用した酵素シ ロップはがん細胞増殖抑制作用,α-グルコシダーゼ阻害作用が確認され,発酵に関与している微生物は Metschnikowia pulcherrima であることがわかった.. Functional Food Research 16:65︲74,2020. keywords りんご,発酵,がん細胞増殖抑制,α-グルコシダーゼ阻害. 要 旨. 受付日 2020 年 4 月 9 日 受理日 2020 年 5 月 28 日 原著 玉川大学農学部生命化学科 Department of Life Science, Faculty of Agriculture, Tamagawa University 〒 194-8610 東京都町田市玉川学 園 6-1-1 * [email protected]. 66. はじめに. 野菜や果物は劣化が早く,比較的長時間の保存が難 しいため,一般的には野菜はピクルス(酢漬け)や漬 物(塩漬け),果物はジャムに加工して保存されてき た.野菜の品質低下は,微生物の繁殖による汚染と腐 敗であり 1),これらの保存法は微生物の増殖を抑え, 野菜や果物の品質の低下を抑える効果がある 2).ピク ルスは pH を下げることで細菌の増殖を抑えることが でき 2),酢に漬ける前に茹でる場合は,加熱により微 生物を減らすことができる.漬物は塩分濃度を上げる ことで,タンパク質や澱粉の分解に関する酵素活性を 下げたり 3),微生物の繁殖を抑えたりできる 3).ジャ ムは糖度を上げることで水分活性を下げ,微生物の繁 殖を抑えられる 4).これらの加工によって野菜や果物 を長期間保存することが可能となったが,一般的に低 い pH や高い塩濃度,加熱によって野菜や果物に含ま れる有用な酵素を不活性化してしまう 5),加熱により 総ビタミン C 量が低下する 6),などといった問題が あった.そこで最近では果物や野菜を生のまま砂糖漬 けにして,発酵させることで,加熱や酸による有用な 物質の破損なしに保存する方法がある.これは酵素シ ロップと呼ばれており,作り方は,洗って適度な大き さに切った野菜や果物とそれに対して 1.1 倍の量の 砂糖を滅菌したビンに詰めて数日から数週間保存する 7).すると,浸透圧により野菜や果物から水分が出て きてシロップ漬けの状態になり,野菜や果物に含まれ る常在菌によって発酵が進む 8).果物はシロップ漬け として食べられ,シロップは果物の甘さやフレーバー, 有効成分が溶け出しており,水や炭酸水などで割って 飲むことができる.. 常在菌による野菜や果物の発酵については,リン ゴ,ナシ,ニンジンを含む飲料を発酵させることでグ ルコースやフルクトースが増加し,抗酸化作用の増加 が報告されている 9).また,常在菌により発酵したタ マネギで強力な抗がん作用や抗菌作用も報告されてお り 10),常在菌がマウス結腸腫瘍形成を抑えるとも報 告されていることから 11),野菜や果物の発酵により 甘みが増し,健康に対する有効成分の増加および機能 性の向上,抗がん,抗菌作用が期待できる.. 一方,リンゴは中央アジアを原産地とするバラ科リ ンゴ属の落葉果樹で,世界各地で広く栽培されてお り,古くから食物として摂取されている 12).現在も 生産量は増加し,一般的に生食では皮を剥いて食べる ことが多く,加工品ではジュース,焼きりんご,ジャ. ム,果実酒などがあり,一年中口にすることができ る私たちに身近な果物である 12).西洋のことわざに. 「An apple a day keeps the doctor」とあるようにリ ンゴを摂取することは健康に寄与することは広く知ら れているように,リンゴ果肉にはビタミンやペクチン などの食物繊維やカリウムなどが豊富に含有されてい る 13).また,リンゴのポリフェノール摂取はがんへ の予防効果が高いとされ,他にも抗がん作用,メラニ ン生成抑制作用,抗酸化作用,血圧上昇抑制,脂質代 謝制御機能,アレルギー発症抑制,血中コレステロー ル低下など多くの機能が期待される 13).また,リン ゴ果肉の発酵により,ポリフェノールが増加すること で,抗酸化作用の向上が報告されている 14).このこ とから,リンゴを利用した酵素シロップは様々な機能 性の向上が期待できる.リンゴは果肉だけでなく皮や 芯の部分にも多くの機能性成分を含んでおり,リン ゴの皮や種にポリフェノールが果肉部より多く含まれ ていることが報告されている 13).このことから,現 在リンゴ果汁の生産の際に排出される残渣は機能性食 品素材として注目されている 15).実際,青森県では リンゴの搾汁残渣が年間を通じて 15,000 t 以上産出 されており 15),今後残渣をうまく利用してくことで, 廃棄物量の削減につながる.さらに近年では食生活の 質的な向上に伴い,不必要な加熱を避けたり,できる だけ化学的に合成された保存料を使わなかったりする など,素材の特徴を生かした食品が好まれており,こ の傾向に酵素シロップは適している 16).. そこで,本研究では廃棄される皮および芯を含んだ りんご全体を利用した酵素シロップに着目し,発酵に よるがん細胞増殖抑制作用,抗酸化作用,α-グルコ シダーゼ阻害作用を調査した.まず,がん細胞増殖抑 制作用についてはマウス白血病細胞 p388 の増殖に対 する影響を,α-グルコシダーゼ阻害作用については α-グルコシダーゼ阻害活性,抗酸化作用については DPPH ラジカル消去活性を調査した.さらに,酵素 シロップの発酵メカニズムについて,酵素シロップ作 成過程における pH 変化の調査および酵素シロップを 標準寒天培地と BCP 加プレート培地で培養した際に 出現したコロニーの微生物同定を行い,本研究の酵素 シロップ作成に大きく寄与している微生物種を特定し た.. 67Functional Food Research Vol.16 2020. Ⅰ.試料と方法. 1 試料. リンゴ(青森県産早生ふじりんご)はスーパーで購 入した.. 試薬. ERDF 培地は極東製薬工業株式会社製の「極東 E-RDF 培地」および炭酸水素ナトリウムをそれぞれ 超純水で終濃度 1.8%および 0.10%になるように調 製し,メンブランフィルター(0.22 µm)でろ過滅 菌を行った.. マルトース溶液は富士フイルム和光純薬株式会社の D(+)マルトース一水和物を超純水で終濃度 5.0% になるように調製した.. α-グルコシダーゼは天野エンザイム株式会社製 の「α-グ ル コ シ ダ ー ゼ「 ア マ ノ 」SD」 を 0.1 M KH2PO4/NaOH 緩衝液(pH 7.0)で終濃度 1.0%に なるように調製した.. 炭酸ナトリウムは和光純薬製の炭酸ナトリウムを超 純水に終濃度 0.2 M になるように調製した.. DPPH 溶液は東京化成株式会社製の「1,1-Diphe- nyl-2-picrylhydrazyl Free Radical」 を 50 % エ タ ノールで終濃度 80 mg/L になるように調製した.. 標準寒天培地は栄研化学株式会社製の「パールコア 標準寒天培地」を超純水で 2.4%になるように調製し, オートクレーブで滅菌後,滅菌プレートに分注した.. BCP 加プレート培地は日水製薬株式会社製の「BCP 加プレートカウントアガール」を超純水で 2.5%にな るように調製し,オートクレーブ滅菌後,滅菌プレー トに分注した.. 酵素シロップの作成. 酵素シロップは,水道水約 1 L に重曹を小さじ約 1 杯溶かした重曹水にリンゴを 1 分浸し,残留農薬を 除去した.水分をふき取り後,16 等分に切断したリ ンゴと 1.1 倍の上白糖を滅菌した瓶に砂糖,リンゴ, 砂糖の順になるように詰め,蓋を完全に閉めずに日が 当たらない常温に置いた.2 週間毎日 1 回かき混ぜ, 酵素シロップを作成した.砂糖が完全に溶けきり,シ ロップとなるまでに 3 〜 5 日を要するため,本研究 では酵素シロップ作成時から 7 日目と 14 日目のシ ロップを評価した.なお,マウス白血病細胞 p388 細 胞への影響を調査する際は,これを 0.22 µm フィル. ターでフィルター滅菌したものを用いた.. 2 方法. がん細胞増殖抑制作用の評価. がん細胞増殖抑制作用は前培養したマウス白血病 細胞 p388 を遠心分離し(3500 rpm, 6 min, 25℃), ERDF 培 地 を 4 mL, ウ シ 胎 児 血 清 FBS(Fetal bovine serum)(biosera 社製)を 1 mL で再懸濁さ せた後,10 cm シャーレに細胞数を 5 × 10⁴ cell/mL になるように調整した.フィルター滅菌した酵素シ ロップまたは滅菌水を 0.5 mL 添加し,37℃,5.0% CO2,湿度 90%以上の条件の下 2 〜 7 日間インキュ ベートした.各培養日数において,培養液 10 µL 中 の細胞数を細胞計算盤(C-Chip)を用いて測定した.. α-グルコシダーゼ阻害作用の評価. α-グルコシダーゼ阻害活性の測定は太田ら(2011) 17),鈴木ら(1981)18),馬場(2009)19)を参考に 行った.. 酵素反応させる試験区分 A と,酵素反応させない 試験区分 B の 2 種類を作成した.A と B の試験管に 基質である 5.0%マルトース 0.05 mL,酵素シロッ プを 0.025 mL 加え,α-グルコシダーゼの至適温度 である 60℃で 5 分間保温した.保温後,試験区分 A には,酵素である 1.0%のα-グルコシターゼ 0.025 mL 加え,60℃で 20 分間保温し,酵素反応させた. 反応後,0.2 M 炭酸ナトリウム 0.4 mL 加え,反応 を停止させた.試験区分 は 0.2 M 炭酸ナトリウム 0.4 mL 加えてから 1.0%のα-グルコシターゼ 0.025 mL を添加し,60℃で 20 分間保温した.A, B それぞ れ 0.01 mL を別の試験管にとり,それぞれの試験管 にグルコース CⅡ・テストワコー(和光純薬製)の発 色液 3 mL を加え 20 分間室温に放置した後,プレー トリーダー(Bio-Rad 社製)で吸光度を測定した. (505 nm).また,ブランクとして,試験材料の代わ りに同量の脱イオン水を加えたものを A,B の試験区 においてそれぞれ用意した.そのうち,酵素反応あり の試験管を試験区分 C,酵素反応なしの試験管を試験 区分 D とした.. α-グルコシターゼ阻害活性は以下に示す式に吸光 値を代入して計算した.. α-グルコシターゼ阻害活性(%)= 100-(A-B)/ (C-D)× 100. 68. 抗酸化作用の評価. 80 mg/L の DPPH 溶液 3.6 mL にフィルター滅菌 した酵素シロップ 0.4 mL 加えて撹拌し,30 分室温 に放置した後,プレートリーダー(Bio-Rad 社製) で吸光度を測定した(540 nm)(B).また,コント ロールとして試料溶液の代わりに蒸留水を加えたも の(C)およびブランクとして DPPH の代わりにエタ ノールを加えたもの(A)について,それぞれの 30 分後の吸光度を測定した.. DPPH ラジカル消去能は以下に示す式に吸光値を 代入して計算した 20).. DPPH ラジカル消去能(%)= C-(B-A)/C×100 A:ブランクの吸光度 B:酵素シロップの吸光度 C:コントロールの吸光度. 発酵に関与している微生物種の同定. 発酵過程における pH 変化を調査するために,リン ゴはおろし器で擦りおろした液を,酵素シロップは 発酵 7 日目と 14 日目の原液をそれぞれ pH メーター. (株式会社堀場製作所社製)で測定した.発酵過程に おける微生物数の変化を調査するために,酵素シロッ プおよびシロップ漬けのリンゴ 2.5 g に 0.9%滅菌食 塩水を添加し,25 mL に定容した.これらを適宜希 釈し,それぞれ標準寒天培地と BCP 加プレート寒天 培地に 100 µL ずつ塗抹し,標準寒天培地は 35℃で 48 時間,BCP 加プレート寒天培地は 50℃で 72 時間 培養した.. 標準寒天培地で出現した菌の同定は株式会社ファ スマックに依頼した.真菌については,GenCheck DNA Extraction Reagent を用いて抽出した DNA と LSU-F プライマー:GACCGATAGCGAACAAGTA お よび LSU-R プライマー:TTGGTCCGTGTTTCAA- GA を用いて 28S rDNA 遺伝子の一部(D2 領域)を PCR により増幅し,その塩基配列に基づいて同定し た.当該遺伝子の PCR による増幅は,95℃,10 分 の 前 処 理 の 後,95 ℃,30 秒,50 ℃ 30 秒,72 ℃, 1 分のサイクルを 38 回繰り返し,最後に 72℃,7 分保持することで行った.上記 PCR 産物に対し て,LSU-F および LSU-R primer を用いて Applied Biosystems 3730xl DNA Analyzer でシークエンス 解析を行い,得られた配列を Applied Biosystems 社 の「MicroSeq ID システムデータベース」で解析し, 一致率の最も高い菌種を同定菌種とした.. 統計分析. データはフィッシャーの 3 原則に基づき一元配置 の分散分析によって,平均値の差は t 検定で評価し, すべて有意水準 5%とした.. Ⅱ.結果. 1 がん細胞増殖抑制作用の評価. 図 1に発酵 7 日目の酵素シロップを添加したもの と滅菌水を添加したものの p388 細胞の経時変化を示 す.3.3 cell/mL(×10⁴)の p388 細胞に 7 日目の酵 素シロップと滅菌水を添加したところ,滅菌水添加 では 278 cell/mL(×10⁴)まで増加し(p < 0.05), 酵素シロップ添加では,0 cell/mL(×10⁴)から 3.9 cell/mL(×10⁴)の間で増減がみられた(p < 0.05). 培養 2 日目での滅菌水添加は 23 cell/mL(×10⁴)で シロップ添加は 1.4 cell/mL(×10⁴)であり有意な 差がみられた(p < 0.05).培養 5 日目での滅菌水 添加では 18 cell/mL(×10⁴)でシロップ添加は 2.0 cell/mL(×10⁴)であり有意な差がみられた(p < 0.05).培養 7 日目での滅菌水添加は 278 cell/mL で シロップ添加は 0 cell/mL(×10⁴)であり有意な差が みられた(p < 0.05).図 2に発酵日数 14 日目の酵 素シロップを添加したものと滅菌水を添加したものの p388 細胞の経時変化を示す.5.6 cell/mL(×10⁴) の p388 細胞に発酵 14 日目の酵素シロップと滅菌水 を添加したところ,滅菌水添加では 308 cell/mL(× 10⁴)まで増加し(p < 0.05),酵素シロップ添加で は,1.5 cell/mL(×10⁴) か ら 31 cell/mL (×10⁴) の間で増減がみられた(p < 0.05).培養 2 日目での 滅菌水添加は 21 cell/mL(×10⁴)でシロップ添加は 1.5 cell/mL(×10⁴)であり有意な差がみられた(p < 0.05).培養 5 日目での滅菌水添加は 183 cell/mL. (×10⁴)でシロップ添加は 31 cell/mL(×10⁴)であ り有意な差がみられた(p < 0.05).培養 7 日目での 滅菌水添加は 308 cell/mL(×10⁴)でシロップ添加 は 7.0 cell/mL(×10⁴)であり有意な差がみられた. (p < 0.05).. 2 α- グルコシダーゼ阻害作用の評価. 表 1に発酵によるα-グルコシダーゼ阻害活性の変 化を示す.. リンゴのα-グルコシダーゼ阻害活性は 31%で,酵. 69Functional Food Research Vol.16 2020. 素シロップは発酵 7 日目において 98%,14 日目にお いて 96%でリンゴ自体のα-グルコシダーゼ阻害活性 より酵素シロップの方が有意に高い値を示した(p < 0.05).酵素シロップでは 7 日目と 14 日目において 有意な差はみられなかった(p > 0.05).. 3 抗酸化作用の評価. 表 2に DPPH ラジカル消去活性の変化を示す.リ ンゴの DPPH ラジカル消去活性は 96%で,酵素シ ロップは発酵 7 日目において 71%,14 日目において 69%でリンゴ自体の DPPH ラジカル消去活性は酵素 シロップより有意に高い値を示した(p < 0.05).. 4 発酵に関与している微生物種の同定. 表 3に発酵過程における pH の変化を示す.リン ゴ自体の pH は pH 4.1,酵素シロップ発酵7日目で pH 4.3,発酵 14 日目で pH 4.2 で,発酵による pH の経時変化は確認されなかった(p > 0.05). 表 4に発酵 7 日目および 14 日目の微生物検査に. おけるコロニー数を示す.BCP 加プレート培地では 7 日目,14 日目とも検出されなかったが,標準寒天 培地では酵素シロップに漬かっているリンゴは発酵 7 日目で 8.6 × 106 CFU/g で,14 日目で 1.3 × 10⁷ CFU/g まで増加し(p < 0.05),酵素シロップは 7 日目で 4.3 × 107 CFU/ gで,14 日目で 1.5 × 10⁸. ●:滅菌水 ▲:酵素シロップ *; p<0.05 滅菌水と酵素シロップ添加で有意差あり. ●:滅菌水 ▲:酵素シロップ *; p<0.05 滅菌水と酵素シロップ添加で有意差あり. p3 88. ce lls. /m L( ×1. 0⁴ ). 0. 100. 200. 300. 400. days 0 2 4 5 7. p3 88. ce lls. /m L(. ×1 0⁴. ). 100. 200. 300. 400. days 0 2 4 5 7. 表1. 発酵によるα-グルコシダーゼ阻害活性の変化 試料 α-グルコシダーゼ阻害活性(%) p リンゴ 31 ± 1.2 -. *. *. *. *. *. *. ●:滅菌水 ▲:酵素シロップ *; p<0.05 滅菌水と酵素シロップ添加で有意差あり. ●:滅菌水 ▲:酵素シロップ *; p<0.05 滅菌水と酵素シロップ添加で有意差あり. p3 88. c el. ls /m. L( ×1. 0⁴ ). 0. 100. 200. 300. 400. days 0 2 4 5 7. p3 88. c el. ls /m. L( ×1. 0⁴ ). 100. 200. 300. 400. days 0 2 4 5 7. 表1. 発酵によるα-グルコシダーゼ阻害活性の変化 試料 α-グルコシダーゼ阻害活性(%) p リンゴ 31 ± 1.2 -. *. *. *. *. *. *. 図 1 発酵日数 7日目の酵素シロップ添加時の p388 細胞の経時変化 測定は n = 8 で行った. ●:滅菌水 ▲:酵素シロップ. *; p < 0.05 滅菌水と酵素シロップ添加で有意差あり.. 図 2 発酵日数 14日目の酵素シロップ添加時の p388 細胞の経時変化 測定は n = 8 で行った. ●:滅菌水 ▲:酵素シロップ. *; p < 0.05 滅菌水と酵素シロップ添加で有意差あり.. days. days. 70. CFU/g まで増加した(p < 0.05). 標準寒天培地で確認されたコロニーは性状,色がす. べて同じであったことから,標準寒天培地で出現した コロニーについて微生物同定を行った.. 表 5に サ ン プ ル か ら 得 ら れ た 塩 基 配 列 と 相 同 値(%Match) の 高 い 上 位 10 種 を 示 す. そ の 結 果,Metschnikowia pulcherrima が 相 同 値 97 % で 最も高かったことから,発酵に関与した微生物種. 試料 α-グルコシダーゼ阻害活性 (%) p リンゴ 31 ± 1.2 -. 発酵日数 7 日目 98 ± 2.6 p < 0.05*. 試料 DPPH ラジカル消去活性 (%) p リンゴ 96 ± 0.03 -. 発酵日数 7 日目 71 ± 0.01 p < 0.05* 発酵日数 14 日目 69 ± 0.01 p < 0.05*. 試料 pH. リンゴ 4.1 ± 0.01. 7 日目 4.3 ± 0.01. 14 日目 4.2 ± 0.004. BCP 加プレート培地 標準寒天培地. リンゴ シロップ リンゴ シロップ. 7 日目 0 0 (8.6 ± 0.25) × 106 (4.3 ± 0.060) × 107. 14 日目 0 0 (1.3 ± 0.015) × 107 (1.5 ± 0.014) × 108. p - - p < 0.05* p < 0.05*. %Match Sequence Entry 97.37 Metschnikowia pulcherrima(ATCC=18406) 83.68 Metschnikowia reukaufii(ATCC=18407) 82.63 Metschnikowia zobellii(ATCC=22302) 82.39 Metschnikowia bicuspidata var.bicuspidata(ATCC=22297) 78.33 Candida oregonensis(ATCC=42268) 77.92 Candida pseudointermedia(ATCC=60126) 77.88 Candida intermedia(ATCC=14439) 77.34 Candida melibiosica(ATCC=18738) 75.31 Candida fructus(ATCC=24122) 75.28 Candida musae(ATCC=24123). 表 1 発酵によるα -グルコシダーゼ阻害活性の変化. α-グルコシダーゼ阻害活性の結果は平均値と標準偏差を表す.測定は n = 4 で行った. * 発酵日数 7 日目および 14 日目はリンゴと比較して有意差あり.. 表 2 発酵によるDPPHラジカル消去活性の変化. 表 3 発酵過程による pHの変化. DPPH ラジカル消去活性の結果は平均値と標準偏差を表す.測定は n = 5 で行った. * 発酵日数 7 日目および 14 日目はリンゴと比較して有意差あり.. DpH の結果は平均値と標準偏差を示す.測定は n = 3 で行った. * pH は検討したすべての値で有意差なし.. 表 4 微生物検査におけるコロニー数 (CFU/g). 表 5 サンプルから得られた塩基配列と相同値 (%Match) の高い上位 10種. コロニー数の結果は平均値と標準偏差を示す.測定は n = 2 で行った * リンゴ,シロップとも 7 日目と 14 日目のコロニー数に有意差あり.. 71Functional Food Research Vol.16 2020. は Metschnikowia pulcherrima であると考えられ る.また,Metschnikowia reukaufii が相同値 84%, Metschnikowia zobellii が相同値 83%であった.. Ⅱ.考察. 1 がん細胞増殖抑制作用の評価. 図 1,図 2より,発酵日数 7 日目,14 日目の酵素 シロップはともに強いがん細胞増殖抑制作用を示し た.リンゴはリンゴポリフェノールによる抗がん作用 が報告されている.リンゴポリフェノールの一つであ るフロレチンは抗腫瘍活性が報告されており,様々な ヒトがん細胞を移植した無胸腺ヌードマウスのがんの 進行の抑制効果を示した 21).また,がん細胞のシグ ナル伝達を妨げる化合物の能力を示すなど抗がん剤開 発のための有望な候補となっている 21).また,リン ゴに最も多く含まれるプロシアニジンも抗腫瘍作用が 報告されており,T 細胞性免疫応答を増強することで マウスのがん細胞増殖を抑制した 22).これらポリフェ ノールは果実よりも果皮や種子に多く含まれており 23),ブドウを発酵させて作られる赤ワインに多くのポ リフェノールが含まれているのは主にブドウの果皮や 種子に含まれるポリフェノールが発酵により抽出され たためである 24,25).本研究においてもリンゴの果皮 や種子のポリフェノールが発酵により抽出され,酵素 シロップに多く含まれていた可能性が高い.これらか ら本実験の結果は,リンゴの元々持っているがん細胞 増殖抑制作用を持つ物質がシロップに溶け出し,がん 細胞増殖抑制作用を示したと考えられる.. 2 α - グルコシダーゼ阻害作用の評価. 表 1より,リンゴそのものに 30%のα-グルコシ ダーゼ阻害活性が確認された.リンゴにはプロシアニ ジンというポリフェノールの一種が含まれており,こ れは血糖値の上昇抑制が報告されていることから 26), リンゴ自体にα-グルコシダーゼ阻害活性があること がわかる.しかし,今回の実験においてリンゴ自体の α-グルコシダーゼ阻害活性よりも酵素シロップの方 が有意に高い値を示した.リンゴのポリフェノールは 果皮や種子に多く含まれており 23).発酵を開始する と果皮や種皮からプロシアニジンを含んだポリフェ ノールが抽出されると報告されていることから 24,25), 本研究においても,酵素シロップにリンゴ中のポリ. フェノールが多く抽出され,これらが高いα-グルコ シダーゼの阻害活性を示したと考えられる.. 3 抗酸化作用の評価. 表 2より,DPPH ラジカル消去活性はりんごが 96%で最も高い値を示した.リンゴには抗酸化成分 としてのポリフェノールを多く含有することが報告さ れている 27).また,リンゴポリフェノール中で最も 含有量の多いプロアントシアニジンはカテキン類より も高い抗酸化作用を有すると報告されていることから 28),リンゴのポリフェノールは抗酸化作用に大きく寄 与しているといえる.しかし,このポリフェノールは 果物や野菜の組織内に含まれているポリフェノール酸 化酵素と反応することにより褐色の物質に変化するた め 29),調理や加工段階で抗酸化作用の低下が起こる. 薗田ら(2016)は青森県産のジョナゴールドを用い て 50%リンゴ果汁溶液を作成し,60 分放置した結 果,約 40%の DPPH ラジカル消去活性の低下を報告 している 29).しかし,本実験においては,リンゴが 加工されているにも関わらず,約 25%の低下であっ た.りんごは発酵により抗酸化活性が上昇すると報告 されており,これはポリフェノールが水と比較して 10%アルコールによく溶け,発酵中に放出されるた めである 30).またリンゴの皮には,リンゴの果肉よ りも数倍高いポリフェノールが含まれており,また種 子にも多量のフロリジンやフロレチンが含まれている 30).リンゴ全体を利用して発酵することで,多くのポ リフェノールがジュースやワイン,またはその他の製 品に移行する 30).したがって,リンゴ果汁のみでは なく,果皮や種子からも多量のポリフェノールが抽出 されたことにより高い DPPH ラジカル消去活性を示 したと考えられる.. 4 発酵に関与している微生物種の同定. 表 3より,酵素シロップ作成において pH の経時 変化は確認できなかった.乳酸菌による発酵では pH が低下し,Lactobacillus plantarum はリンゴ酸を乳 酸と炭酸ガスに変換することにより pH を低下させ 31),豆乳ヨーグルトの発酵においては発酵 1 日目で pH 7.0 から pH 5.0 となり,その後 14 日目にかけ て pH 4.0 まで低下したと報告されている 32).しか し,本研究では発酵期間中に pH の低下はみられず, 表 4より BCP 加プレート培地でコロニーが確認でき. 72. なかったことから,本研究における酵素シロップは乳 酸菌による発酵ではないといえる.リンゴ果汁の自然 発酵において,発酵初期に Saccharomyces bayanus 種が,発酵後期に Saccharomyces cerevisiae 種の生 存が認められている 33).Saccharomyces 属は醸造に 関わる重要な酵母で 34),一部の酵母は標準寒天培地 で生育が確認されている 35).また,酵母は発酵期間 中の pH 変化がわずかであることも報告されているこ とから 36),本研究においても酵母菌が増殖したと考 えられる.. 微生物検査において Metschnikowia pulcherrima が 相 同 値 97 % で あ っ た.Metschnikowia pulcher︲ rima は主にリンゴやブドウなどの果物 37,38)や果樹 に隣接する土壌 39)に生息し,成長基質としては主に グルコースおよび他の糖とされている 40).ワイン製 造において芳香における重要な酵母であり 41),低ア ルコール濃度のワイン製造ができることで注目され ている 42).本研究では酵素シロップの材料がリンゴ で上白糖を使用していることから,Metschnikowia pulcherrima が働く条件を満たしている.また,リ ンゴで最も強い微生物種で 43),ワイン発酵におい ても発酵の最初の段階で優勢であると報告されてい る 44).このことから,本研究においても他の菌種の 増殖を抑え,この酵母のみにより発酵が進んだとい える.Metschnikowia pulcherrima のコロニーはク リーム色であり 45),一般生菌で確認されたコロニー の 色 と 一 致 し た.Metschnikowia pulcherrima は pH 3.6 から pH 5.2 で最大キラー効果を示すと報 告されており 46),本研究の酵素シロップの pH は発 酵期間を通してこの範囲内であった.これは表 4で 確認された一般生菌の培地において Metschnikowia pulcherrima のみ生育が確認されていることと一致す る結果であった.. まとめ. 本研究ではリンゴを砂糖漬けにして発酵させた酵 素シロップのがん細胞増殖抑制作用,α-グルコシ ダーゼ阻害活性作用,抗酸化作用,発酵に関与して いる微生物の同定を行った.がん細胞増殖抑制作用 では酵素シロップにおいてマウス白血病細胞 p388 の増殖抑制効果が確認された.α-グルコシダーゼ 阻害作用ではリンゴ果実よも酵素シロップで高い阻 害活性が確認された.抗酸化作用ではリンゴ果実自 体と比較すると酵素シロップで低い値となった.ま. た,発酵に関与している微生物を同定した結果,相 同率 97%で Metschnikowia pulcherrima であった. リンゴを砂糖漬けにして保存すると Metschnikowia pulcherrima によって発酵され,できあがった酵素シ ロップには高いがん細胞増殖抑制作用およびα-グル コシダーゼ阻害作用があることがわかった.これらの 作用にはポリフェノール成分が大きく関与していると 考えられることから,今後,シロップ中のポリフェ ノール成分を調査することで,酵素シロップのさらな る評価につながることが期待される.. ◆文献 1) 泉秀実.カット野菜の微生物学的品質と微生物制御.. 日本食品科学工学会誌.2005; 52: 5: 197-206. 2) 松田敏生,矢野俊博,丸山晶弘,熊谷英彦.有機. 酸類の抗菌作用 - 各種 pH における最小発育阻止濃 度の検討 -.日本食品工業学会誌.1994; 41: 687- 702.. 3) 宮尾茂雄.発酵漬物と塩.日本海水学会誌.2002; 57: 11-16.. 4) 横関源延.水分活性と微生物.食衛誌.1975; 16: 146-152.. 5) 田川彰男,小川幸春.青果物ブランチングおよび 乾燥へのマイクロ波の利用.浦上財団研究報告書. 2007; 15: 9-15.. 6) 分部麻希,村上千秋,丸山武紀,新谷いさお.野菜 ジュース調整時の還元型及び酸化型ビタミン C の変 化.日本調理科学会誌.2000; 33: 2: 221-228.. 7) Rietoi. じっくり時間をかけて作ろう!酵素シロッ プの作り方とアレンジレシピ.https://kinarino. jp/cat4-%E3%82%B0%E3%83%AB%E3%83 %A1/8523-, 2017; 2019.12.26 accessed.. 8) Dong AR, Thuy HVT, Lo R, Bansal N, Turner MS. 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The enzyme syrup extracted from fermented fruits and vegetables is presumed to have high concentrations of effective components. In this study, we investigated the cancer cell growth inhibitory, anti-oxidant, and α-glucosidase inhibitory effects of enzyme syrup obtained by fermenting apples. Moreover, we aimed to identify the microorganism responsible for fermentation.. Apples were sliced and stored with 1.1 times sugar in a glass container for 2 weeks. Enzyme syrup was extracted after 7 and 14 days.. To assess cancer cell growth inhibitory effects of the enzyme syrup, leukemia cell line P388 was grown in syrup or sterilized water at 37°C, 5.0% CO2 for 7 days, after which the amount of P388 in each medium was compared. To assess anti-oxidant effect, DPPH radical-scavenging activity was checked. Further, to test α-glucosidase inhibitory effects, α-glucosidase inhibiting activity was investigated. To identify the microorganism responsible for fermentation, enzyme syrup was spread onto a standard agar plate and incubated at 35°C for 2 days. The DNA of the resultant colonies was analyzed.. As observed, cell growth was suppressed with both 7 and 14 day fermented syrup. However, the anti-oxidant activity of the syrup was lower than that of apple extract. Furthermore, fermented syrup had high α-glucosidase inhibiting activity. The microorganism was identified as Metschnikowia pulcherrima in 97% of the colonies. To conclude, we found that apple fermented enzyme syrup has cancer cell growth inhibitory and α-glucosidase inhibitory activity.. Abstract. atile aroma composition of reduced alcohol Mer- lot wines fermented with Metschnikowia pulcher︲ rima and Saccharomyces uvarum. International Journal of Food Microbiology. 2017; 252: 1-9.. 43) Gross S, Kunz L, Mueller DC, Santos KA, Fre- imoser FM. 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