Title
TGF-β1による肝細胞増殖抑制作用における細胞周期遺伝
子の関与( 内容の要旨(Summary) )
Author(s)
杉山, 昭彦
Report No.(Doctoral
Degree)
博士(医学)甲 第335号
Issue Date
1997-03-25
Type
博士論文
Version
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12099/14787
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氏名 (本籍) 学位の種類 学位授与番号 学位授与日付 学位授与の要件 学位論文題目 審 査 委 員 杉 山 昭
彦(岐阜県)
博 士(医学)甲第
335号
平成
9年
3月
25 日学位規則第4条第1項該当
TGF-β1による肝細胞増殖抑制作用における細胞周期遺伝子の関与
(主査)教授武
藤 泰敏
(副査)教授 野 澤 義 則 教授 岡 野 幸 雄 論 文 内 容 の 要 旨 通常,肝細胞は定常状態では,増殖よりは活発な分化機能を営んでいるが,ひとたび肝切除や壊死に陥れば速やかに再生する予備能力をもっている。肝再生を抑制するものとして,tranSforming growth factor β
(TGF-β)は最も普遍的,かつ強力なものとされ,肝細胞に対しても0.1ng/ml以下という低濃度で増殖抑制活 性を示す。これは肝再生の停止機構との関連で注目されているが.その詳細な機序はいまだ解明されていない。 一方,近年,細胞増殖の制御に種々のサイクリンとサイタリン依存性キナーゼ(CDK:CyClin-dependent kinase)が重要な役割を果たしていることが知られるようになった。細胞周期の進行は.CDKにより制御され ているが.活性化のためにほサイクリンと呼ばれる制御因子との結合が必要であり,これらの結合休(CDE-cyclincomplex)は,網膜芽細胞腫蛋白(pRb:retinoblastomaprotein)のリン酸化を引き起こし,続いて転 写因子E2Fの抑制を解除することにより細胞周期はS期へと進行する。一方,最近になって,このCDK-CyClin complexに結合し,その活性を抑制する因子として,CDKインヒビターが発見された。その代表的なものである p21は細胞の老化やp53によって誘導される遺伝子として同定され,細胞周期の進行を負に制御し,細胞が増殖 を停止する際に関与しうる因子として注目されている。このように細胞の増殖はこれら様々な細胞周期関連遺伝 子の影響下で制御されており,肝再生機構においても例外ではないと考えられる。臨床においても.劇症肝炎や 肝硬変患者において再生が全くみられないものや,再生が不十分なものにしばしば遭遇する。TGF-βによる細 胞周期遺伝子の発現を検討することはその肝再生抑制機序を解明する上で不可欠であり,肝再生不全患者の治療 においても極めて重責であると考えられるが,詳細な報告はみられない。 そこで申請者は,初代培養肝細胞にTGF-β1を加え,細胞周期遺伝子である,サイクリンA,サイクリンDl及
びCDKインヒビターの一種であるp21の遺伝子発現をreversetranscriptase-basedpolymerasechainreよction
(RT-PCR)法を用いて比較し,細胞周期という観点から肝再生抑制の機序について検討した。 対象及び方法 単離肝細胞はWistar系雄性ラットよりSeglenのinsiluコラゲナーゼ港流法に準じて採取した。得られた肝細 胞は,5%FCS,10 7Mインスリン,10-6Mデキサメサゾン,20ng/mlのEGF,30FEg/mlのカナマイシンを添 加したWilliams E(WE)培地に浮遊させ,2.5×105cells/mlの肝細胞懸濁液を作製した。TGF-β1を加える 群は0.5ng/ml,1.Ong/mlの濃度になるように作製し,それぞれ肝細胞懸濁液に加え,プラステイクディッシュ 上で培養を開始した。 1)DNA合成能の検討:肝細胞の培養開始10時間,20時間し 40時間,60時間後に3H-thymidineを添加し,2時 間の培養の間の3H-thymidineの取り込みを液体シンチレーションカウンターにて測定した。 2)形態の観察:TGF-β1添加および無添加の培養肝細胞を培養24時間後に位相差顕微鏡により観察した。 3)RNAの抽出及びRT-PCR:培養直後,12時間,36時間後に培養肝細胞よりAGPC法にてRNAを抽出した。 得られた総RNAIFLgを用いてRT-PCR法にてcyclin Dl、CyClin A,p21,P53,C-myC,GAPDHのmRNAの発 現量の変動を解析した。ー27-結果 l)DNA合成能の経時的検討:培養後10,20時間において,DNA合成は低値であったが,培養40時間後にお いて著明に上昇し,60時間後には中等度低下していた。 2)分離肝細胞の形態に及ばすTGF-β1の影響:TGF一β1非添加群では肝細胞は扁平に進展していたが,TGF-β1添加群では肝細胞の進展は抑制され培養48時間後にほより球状を呈していた0 3)RT-PCR法によるTGF-β1のサイクリンA,サイクリンDl遺伝子発現におよぼす影響:サイクリンAは TGF一β1非添加群では,培養36時間日において著明に上昇していたが,TGF-β1添加群では培養12,36時間目の いずれもTGF-β1非添加群に比して著明に低下しており.その発現の強さはTGF一β1の添加濃度に比例していた。 サイクリンDlmRNAはTGF-β1の添加の有鰍こ拘わらず,その発現に差異を認めなかった。 4)RT-PCR法によるTGF一β1のp21,p53遺伝子発現におよぼす影響:培養12,36時間目におけるp21mRNAの 発現はTGF-β1添加群ではTGF-β1非添加群に比して高値であった。P53mRNAはTGF-β1の添加の有無に拘わ らず,その発現に差異を認めなかった。 5)RT-PCR法によるTGF-β1のc-myC遺伝子発現におよぼす影響:TGF-β1非添加群では培養12,36時間目に その発現は著明に上昇していたが,TGF-β1添加群ではTGF-β1の添加濃度依存性に低下していた。 考察 サイクリンA mRNAは70%肝切除後の再生肝および培養肝細胞においてそのDNA合成に一致して周期性にそ の発現がみられ,その発現はS期の進行に必要でありS期の指標となりうるとされている。また,サイクリンDl の発現は一般的に増殖因子依存性であり,Gl期より上昇し,DNA合成のピークに先だってその発現がみられる。 今回のラット初代培養肝細胞を用いた検討ではTGF-βl非添加での培養40時間目のDNA合成は上昇しており, 肝細胞はS期に移行していたと考えられた。TGF-β1の添加によるサイクリンDlmRNAの発現には差異を認めな かったが,サイクリンA mRNAの発現はTGF-βlの添加濃度に比例して低下しており.TGF-β1の添加によっ てS期への進行が抑制されていた。このように,TGF-β1の添加によってGl期の進行に必要なサイクリンDlの 発現が誘導されているにも拘わらず,サイクリンAの発現が抑制され,かつS期への進行が妨げられていること より,TGF-β1による細胞周期の進行を妨げるなんらかの因子が誘導されるものと推定された。 p21は代表的なCDKインヒビターであるが.今回の検討では培養12.36時間において,TGF-β1添加群でp21の 発現は著明に誘導されており,TGF-β1の増殖抑制効果はp21の発現誘導によることが推測された。つまりt 肝 細胞においてTGF-β1はサイクリンDlの発現の誘導には影響を及ぼさなかったが,サイクリンDlの抑制因子で あるp21の発現を誘導することで,活性型のサイクリンDl-CDK複合体を減少させ.その結果として,Rb蛋白の リン酸化を抑制し,E2Fなどの転写因子が抑制されるため,Gl期からS期への進行が妨げられ.サイクリンAの 発現が低下していた可能性が考えられる。一般的にp21の発現はDNAの損傷時にp53の下流で誘導されると報告 されているが,細胞分化においてはp53非依存性であるとされている。今回のTGF-β1によるp53の発現の検討 では.TGF-β1の添加の有無による差異を認めず,TGF-β1によるp21の発現誘導はp53に依存しないと考えられ た。また増殖因子の添加によって早期に発現するc-myCも,サイクリンAと同様にTGF-β1によってその発現が 著明に抑制されていた。C-myCはそのプロモーター領域にE2F結合領域を持つことが報告されており,C-myCの 発現もTGF-β1によって細胞周期の進行が抑制された結果.抑制される機序が推測された。 以上より.TGF-β1による肝細胞増殖抑制にサイクリンおよびp21は深く関与しており,その作用機序の解明 に重要であると考えられた。