分散的流通システムにおけるフラクタイル 2 段階確率最適化
広島大学 *谷直道 TANI, Naomichi
01403975 広島大学 西崎一郎 NISHIZAKI, Ichiro 02502915 広島大学 林田智弘 HAYASHIDA, Tomohiro 05000335 広島大学 関崎真也 SEKIZAKI, Shinya
1.
はじめに
近年,複数の経済主体が独自性を維持しつつ,経 済主体間で協力することによって,自己の利益を増 大できるというモデルが考察されている.Anupindi
et al. (2001)は独立した小売業者が確率的需要のも
とで,同一の製品を販売する分散型流通システム を考察した.彼らのモデルでは,すべての小売業 者が協力による追加的な利益の割当て規則をあら かじめ合意したうえで,需要が実現する前に,独 立に小売業者がそれぞれ,中央倉庫と小売業者自 身の在庫水準を決定する.次に,需要が決定し,各 小売業者が製品を販売した後,残存需要をもつ小 売業者に在庫を輸送することによって得られた追 加的な利益を合意された割当て規則に従って分配 する.前半の非協力的意思決定を非協力ゲームの Nash均衡とし,後半の利益の分配を協力ゲームに よって定式化している.
Anupindi et al. (2001)における各小売業者の目的 は期待利益最大化であるが,本論文では,各小売 業者がそれぞれ異なるリスク態度を持つものと考 え,フラクタイルモデルを採用する.さらに,第2 段階の輸送問題では,確率変数をもつ制約条件に 違反した場合,違反に応じたペナルティを与える ことで,違反を抑制したうえで,利益を最大化す る単純リコース問題として定式化する.各小売業 者のフラクタイル値の最大化問題の最適性のため の必要条件であるKKT条件を制約条件とし,すべ ての小売業者の目的関数の和を最大化する問題を 解くことによって,Nash均衡点の候補を得る.こ の候補から均衡条件を満たすNash均衡点を計算 する.
2.
確率的需要下での二段階ゲームモデル
2.1.小売業者のモデル
異なる地域にそれぞれ小売業者が同一の製品を 販売していると状況を考え,小売業者の集合をN=
{1, . . . ,n}とする.小売業者i∈Nの地域における 製品1単位当たりの売価をri,仕入価格をci,売 却できない場合の残存価値をviとし,小売業者i の地域での製品の需要を確率変数d˜iと表す.とく に,確率変数には∼を付して区別する.小売業者 iの決定変数は仕入れ量であり,xiと表す.このと き,販売量s˜i,余剰製品(在庫)h˜i,余剰(残存)
需要e˜iはそれぞれ
˜
si=min{xi,d˜i} h˜i=max{xi−d˜i,0}
˜
ei=max{d˜i−xi,0}
と表現できる.第2段の輸送問題を考慮しない場 合の小売業者iの利益p˜i(x)は
˜
pi(x) =ris˜i+vih˜i−cixi
となる.
余剰製品を残存需要のある地域へ輸送すること によって追加的な利益を最大化する問題は,小売 業者kから jへの製品の単位当たり輸送費をtk jと し,決定変数としての輸送量をzk jとすると,次の ように表現できる.
max
∑
n k=1∑
n j=1(rj−vk−tk j)zk j
s. t.
∑
n j=1zk j≤h˜k, k=1, . . . ,n
∑
n j=1zjk≤e˜k, k=1, . . . ,n
zk j≥0,k=1, . . . ,n, j=1, . . . ,n.
この問題の最適値をϕ˜とすると,第2段の輸送問 題を考慮した小売業者iの利益p˜i(x)の最大値問題
2-E-9
日本オペレーションズ・リサーチ学会2019年 秋季研究発表会
は次のように定式化される.
maxxi
˜
pi(x) =ris˜i+vih˜i−cixi+αi(ϕ(x))˜ s. t. xi≥0
ϕ(x) =˜ max
∑
n k=1∑
n j=1(rj−vk−tk j)zk j
s. t.
∑
n j=1zk j≤h˜k,k=1, . . . ,n
∑
n j=1zjk≤e˜k, k=1, . . . ,n
zjk≥0,k=1, . . . ,n, j=1, . . . ,n ここで,αi(ϕ(x))˜ は追加的な利益の小売業者iへの 割当て分である.
2.2.
フラクタイルモデル
各小売業者のリスク態度を考慮に入れるためフ ラクタイルモデルの考え方を用いる.フラクタイ ルモデルでは,本来の目的関数を目標変数以上に する確率を与えられた保障水準以上にするという 条件のもと,目標変数を最大化する.フラクタイ ルモデルにおける小売業者iの目的関数は次のよ うに表現される.
fi subject to P(p˜i(x)≥ fi)≥θi (1) ここで,p˜i(x)は確率変数となる本来の目的関数で ある利益であり,fiが目的関数に対する目標変数 であり,θiは利益を目標変数以上にする確率とし て与えられた保障水準である.目標変数 fiはパラ メータではなく,変数であり,フラクタイルモデ ルでの目的関数となる.θiの値を各小売業者に対 して異なる値を設定することによって,リスク態 度の異なる小売業者を取扱うことができる.
需要の確率変数d˜iを離散的確率変数{(dis,πis)| s∈Ωi},i=1, . . . ,nであると仮定する.ここで,Ωi
は事象の集合である.
次に示す単純リコース問題を含む小売業者iの フラクタイル値の最大化問題の最適性のための必 要条件であるKKT条件を制約条件とし,すべての 小売業者目的関数の和を最大化する問題を解くこ とによって,Nash均衡点の候補を得て,これから
均衡条件を満たすNash均衡点を計算する.
max fi
s. t. fi−Ris≤Meis, ∀s∈Ωi s
∑
∈Ωieis≤ ⌊(1−θi)|Ωi|⌋
eis∈ {0,1},∀s∈Ωi
Ris=ri(xi−yis−) +viyis−−cixi+αi(ϕ(x)),∀s∈Ωi
xi+yis+−yis−=dis,s∈Ωi
yis+yis−=0, s∈Ωi
xi≥0, yis+≥0, yis−≥0,s∈Ωi
ϕ(x) =max
∑
n k=1∑
n j=1(rj−vk−tk j)zk j +
∑
nk=1
∑
s∈Ωk
(πkspkδks−+πksqkσks−)
s. t.
∑
n j=1zk j+δks+−δks−=yks−, k=1, . . . ,n,s∈Ωk
∑
n j=1zjk+σks+−σks−=yks+, k=1, . . . ,n,s∈Ωk
zk j≥0,k=1, . . . ,n, j=1, . . . ,n δks+≥0,δks−≥0,σks+≥0,σks−≥0,
k=1, . . . ,n,s∈Ωk
ここで,Mは十分大きな正数であり,制約内の輸 送問題において,δ˜k−>0, ˜σk−>0のとき,輸送問題 の制約条件に違反するので,それらのペナルティ をpk,qkとし,輸送問題を単純リコース問題とし て表現している.単純リコースを含む目的関数の 形から,相補条件δ˜k+δ˜k−=0, ˜σk+σ˜k−=0は制約条 件から除いている.なお,小売業者iの余剰在庫 yis−,残存需要yis+の価値を双対最適解λ−∗is ,λ+is∗と 解釈し,次のように定義する.
αi(ϕ∗(x)) =
mi
∑
s (λ−∗is yis−+λ+is∗yis+)参考文献
R. Anupindi, Y. Bassok, and E. Zemel, “A general framework for the study of decentralized distribu- tion systems,” Manufacturing & Service Opera- tions Management, 3, 349–368, 2001.