特 集:有機デバイスの耐久性に関わる科学 解 説
有機色素材料の光励起状態と耐光性
Excited-states and Lightfastness of Organic Dyes and Pigments
宮 下 陽 介
*Yousuke M
IYASHITA*要 旨 有機色素材料は,銀塩カラー写真,インクジェットインクなどの画像形成材料やCD-R,DVD-Rの光ディスク用材料とし て幅広く利用されている.これらの材料には高い耐光性や耐熱性が求められるが,特に耐光性の支配因子に関しては不明 な点が多かった.本稿では,我々が取り組んできた時間分解分光法による有機色素材料の光励起状態の解析結果と耐光性 の関係について紹介する.
Abstract Organic dyes and pigments have been widely used as functional materials for silver halide photographic systems, ink-jet prints, and optical disks. For such applications, high lightfastness and good thermal properties are essential, but to date there have only been a small number of studies of these characteristics. In this paper we report our results concerning excited- states and lightfastness of these materials elucidated by a combination of several time-resolved spectroscopic measurements.
キーワード:有機色素,有機顔料,光励起状態,耐光性,エネルギーダイヤグラム Key words: organic dyes and pigments, excited-states, lightfastness, energy diagram
1. はじめに
有機色素材料は,溶剤に易溶であり分子状態で使用される ことが多い色素(染料と呼ぶこともある)と,溶剤に難溶で 粒子として使用されることが多い顔料に分類できる.色素
(染料)の色は,分子構造固有の吸収で決まるのに対して,顔 料の色は,分子固有の吸収だけでなく分子間相互作用の影響 を受けることが知られている 1).本稿では,上記の定義に従っ て顔料と色素という用語を用いる.用途から有機色素材料を 分類すると,着色(染色)や画像形成を目的とする場合と,
いわゆる機能性色素として有機感光体(
OPC
),光ディスク,有機
EL
素子や有機太陽電池などの材料として用いる場合に 大別できる 2).いずれの用途においても,実用化するために は色再現性に優れることのみならず,高い耐光性や耐熱性が 求められるが,それらの支配因子―特に耐光性の支配因子―に関しては不明な点が多く,試行錯誤によって開発が行われ ることが多かった.
我々はこれまでの検討から,有機色素材料の耐光性と光励 起状態に関して以下のように考えている.すなわち,有機色 素材料が太陽光や室内光を吸収すると,光励起状態にある分
子あるいは分子集合体が生成する.光励起状態にある色素材 料は,吸収した光エネルギーに相当するエネルギー量だけ活 性化されており,たとえば
450 nm
のブルー光を吸収した場合,
265 kJ/mol
程度活性化されることになる.このエネルギーは,
C-C
の結合エネルギーが350 kJ/mol
程度であることを考 慮するとかなり大きな値であることがわかる.このように光 励起状態は,望ましくない光褪色反応を引き起こす活性化状 態と考えることができる.従って,有機色素材料の耐光性向 上という観点からは,「いかにして光励起状態を速やかに基底 状態に失活させるか」が重要なポイントとなる.本稿では,まず,代表的な有機顔料であるキナクリドンを 題材にして,光励起状態の解析手法と有機顔料の耐光性に関 する我々の知見を述べる.次に,銀塩カラー写真用色素を例 にして,高濃度凝集体の分光測定モデルの構築と耐光性改良 の試みについて紹介する.最後に,光ディスク用色素の耐光 性を消光剤によって向上させた実例とそのメカニズムについ て解説する.本稿を通して,有機色素材料の光励起状態と耐 光性について考察したい.
平成21年10月1日受付・受理 Received and accepted 1st, October 2009
*
富士フイルム株式会社R&D統括本部 解析技術センター 〒250-0193 神奈川県南足柄市中沼210Analysis Technology Center, Research & Development Management Headquarters, FUJIFILM Corporation, 210, Nakanuma, Minamiashigara-shi Kanagawa 250-0193, Japan
quinacridone
)の光励起状態の特徴を明らかにし,有機顔料の 耐光性について考察することを目的とした.光励起状態の解 析手法に関しても併せて簡単に説明する.2.2 進め方
一般に,有機顔料を微細化すると耐光性が悪化することが 知られている 4).有機顔料を微細化した究極の状態を分子と とらえ,希薄溶液(分子分散)と顔料分散液(粒子分散)の 耐光性と光励起状態を比較することによって,顔料の光励起 状態と耐光性の特徴を考察することとした.キナクリドンは,
N-
メチルピロリドン(NMP
)などの有機溶媒にわずかに溶解 することが報告されているので 5),希薄溶液としてキナクリ ドンのNMP
溶液を用い,顔料分散液には,サイズ20 nm
,α 型のキナクリドン粒子分散液を用いた.2.3 耐光性
キナクリドン顔料分散液(以下,粒子と呼ぶ)と希薄溶液
(以下,分子と呼ぶ)の耐光性をメリーゴーランド型耐光性試 験機により比較した.メリーゴーランド型耐光性試験機は,
光源から等距離に配置された試料が光源を中心にして回転す ることにより照射される光量が試料間で同じになるように工 夫されている.耐光性の比較結果を
Fig. 1
に示す.光照射前 の吸光度を基準とし,一定時間光照射した後の吸光度との比 を残存率とした.今回調べた光照射時間内に粒子はまったく分子からは吸収スペクトルと鏡像関係にある蛍光スペクトル が観測され,その量子収率は
0.76
であった.次に粒子と分子 のS
1状態のダイナミクスを比較した.S
1状態のダイナミク ス解析には,蛍光寿命を測定することが多いが,粒子の蛍光 は非常に微弱であるため,波長可変フェムト秒レーザーを励 起光源とした自作システムを用いて過渡吸収スペクトルを測Fig. 1 Lightfastness of linear trans-quinacridone nanoparticles (closed circle) and molecular dispersion (open circle). The light source was a 500 W xenon lamp and the illuminance at sample surface was 120,000 lx.
Fig. 2 Absorption- and fluorescence spectra of linear trans-quinacridone, (a) nanoparticles (dispersion liquid) and (b) molecules (dilute solution).
定した.過渡吸収スペクトルとは,パルスレーザーなどのポ ンプ光を試料に照射することで生成させた励起状態(この場 合
S
1状態)からさらに高位の励起状態(例えばS
n状態)へ の電子遷移による電子吸収スペクトルのことであり,波長を 固定して時間応答を測定したものを過渡応答と呼ぶ.過渡吸 収スペクトルは,励起状態の緩和に対応して減衰するので,今回のような発光しない励起状態の寿命などダイナミクスに 関する知見を得ることが出来る.粒子の過渡吸収スペクトル と過渡応答を
Fig. 3
に示す.光励起直後に電子吸収スペクト ル に 対 応 す る480–580 nm
付近 に ブ リ ーチが 観 測 さ れ,600–750 nm
と400–450 nm
付近に過渡吸収が観測された.過 渡応答から明らかなように,405–420 nm
付近の過渡吸収には時定数
0.3 ps
の立ち上がりが観測されるなど複雑なダイナミクスが観測された.詳細は割愛するが,過渡吸収測定より粒 子の
S
1状態は,約100 ps
の時定数で基底状態(S
0)に緩和 することがわかった.一方,分子は強い蛍光を発するので,蛍光寿命測定を行っ
た結果を
Fig. 4
に示す.蛍光の減衰は単一指数関数で回帰することが出来,その寿命は
21.4 ns
と比較的長寿命であること がわかった.この値は,すでに報告があるN
位をアルキル化 することにより可溶化したキナクリドン誘導体の蛍光寿命 6)とほぼ一致したことから,キナクリドンの分子構造を反映した 値と考えられる.上述した諸特性の比較から,粒子と分子で は,
S
1状態の電子状態が大きく異なることが明らかになった.次に,最低励起三重項状態(
T
1)に関する知見を得るため,粒子および分子状態の時間分解熱レンズ法(
TRTL
)による 解析を行った.時間分解熱レンズ法は,S
1からT
1への項間 交差など発光を伴わない過程を定量的に解析できる手法であ る.時間分解熱レンズ測定は,励起光(パルスレーザー)と モニター光を同軸で試料に入射し,ピンホールを通過したモ ニター光を検出することによって行う.励起光を吸収した試 料が無輻射遷移する際に発する熱により,試料溶液中に凹面 レンズに相当する屈折率分布が生じ(熱レンズ現象),発生し た熱量に対応してピンホールを通過するモニター光量が変化 する.この光量変化の程度(熱レンズシグナル)から,無輻 射遷移確率を定量化することが出来る.熱レンズシグナルを 時間分解測定することにより,最低励起一重項状態(S
1)か ら基底状態(S
0)への熱緩和や最低励起三重項(T
1)への項 間交差といった速い緩和過程U
f(数10 ns
程度)と最低励起 三重項状態(T
1)からの比較的遅い緩和過程U
sを切り分け,理論式
1
よりS
1からT
1への項間交差の量子収率を求めるこ とが出来る 7).式
1
粒子と分子の時間分解熱レンズ法の測定結果を
Fig. 5
に示 す.粒子からはナノ秒レーザーのパルス幅内で立ち上がる速 い成分(U
f)のみ観察され,遅い成分(U
s)が観測されなかっ たことから,粒子の場合,S
1状態からT
1状態へ項間交差し ないことがわかった.一方,分子からは,ナノ秒パルス幅内 Fig. 3 (a) Time-resolved transient absorption spectra of linear trans-quinacridone nanoparticles measured with our sub-picosecond dynamics measurement system. The Excitation wavelength was 520 nm (0.2 mW). Delay times are 0.2, 1.0, 10, 100, 600 ps respectively. (b) Transient response of S1 state of linear trans- quinacridone nanoparticles. 513–524 nm; open circle, 405–420 nm; closed circle.
Fig. 4 Fluorescence decay of the linear trans-quinacridone molecules (dilute solution).
U
sU
t--- φT0
E
TE
ex φF0E
Fav ---–=
の速い成分(
U
f)だけでなく,遅い成分(U
s)も観測された.得られた熱レンズシグナルから,式
1
を用いて項間交差の量 子収率(Φst)を見積もったところ,Φst=0.23
であることがわ かった.以上より,粒子は項間交差せずほぼ定量的に基底状 態(S
0)に熱緩和するのに対し,分子はT
1に量子収率0.23
で項間交差するなど,T
1の電子状態に関しても,粒子と分子 で大きく異なることが明らかになった.有機色素材料の耐光性を議論する上で,一重項酸素(1
O
2*
) の影響を考慮することは非常に重要である.酸素は基底状態 では三重項状態で存在し,T
1状態にある色素とのエネルギー 移動反応により非常に反応性に富む一重項酸素(1O
2*
)を生 成する.1O
2*
は電子不足種であり,芳香環などのπ電子と反 応し色素の光退色反応を促進することが知られている.前述 したようにキナクリドンの分子は,S
1からT
1へ項間交差す ることから,分子のT
1から基底状態の酸素へエネルギー移 動反応することにより,1O
2*
が生成する可能性がある.これ を検証するため,近赤外域における一重項酸素(1270 nm
)の発光検出を試みた(
Fig. 6
).分子から一重項酸素由来の発光 が観測され,分子状態では自己増感反応により反応性が高い1
O
2*
を生成することが明確になった.一方,T
1に項間交差し ない粒子からは一重項酸素は検出されなかった.2.5 耐光性の支配因子
キナクリドンの光励起状態に関する解析結果を
Jablonski diagram
にまとめた(Fig. 7
).Jablonski diagram
はエネルギー ダイヤグラムと呼ばれることも多く,光励起状態の特徴をわ かりやすく図示したものである.粒子のS
1は約100 ps
の時 定数でほぼ定量的に基底状態に無輻射緩和するのに対し,分 子は,S
1寿命が21.4 ns
と比較的長寿命であり,量子収率0.76
で蛍光を発光し,収率0.23
でT
1状態へ項間交差することが 明らかになった.さらに,自己増感反応により一重項酸素を 生成することが判明した.分子と比較して粒子のS
1状態の寿 命が短い要因としては,格子振動緩和により無輻射遷移が促 進されていることが考えられる.2.6 小結
以上より,キナクリドン顔料の耐光性が高い要因は,分子 構造そのものに起因するのではなく,粒子化することにより 基底状態への緩和が促進されるためであると推定した 8). 3. 銀塩カラー写真用色素
3.1 背景と目的
銀塩カラー写真の画像形成に用いられているアゾメチン色 素は,モル濃度に換算すると
1 mol/L
以上の非常に濃厚な状 態で使用されている.写真用アゾメチン色素の耐光性は色素 濃度の影響を受けやすく,色素濃度が高くなるに従って低下 することが多い 9).我々が新たに開発したカラーペーパー用1,1-
ジオキソ-1,2,4-
ベン ゾチア ジ ア ジ ン型イ エ ロ ー 色 素 Fig. 5 Time-resolved thermal lens signal of linear trans-quinacridone,(a) nanoparticles (dispersion liquid) and (b) molecules (dilute solution). The Excitation wavelength was 520 nm and 524 nm respectively. Samples ware deaerated before analysis.
Fig. 6 Emission of singlet oxygen generated by energy transfer from T1 state of linear trans-quinacridone.
(
New Dye-1
) 10)は,従来のアシルアセトアニリド型イエロー 色素(Conventional Dye-1
)と比較して色再現性に優れ,耐熱 性が高いという優れた特徴を有していたが,実用濃度域での 耐光性が著しく低いという欠点があった(Fig. 8
).1,1-
ジオキソ
-1,2,4-
ベンゾチアジアジン型イエロー色素の耐光性を改良し実用化するためには,高濃度凝集状態における色素の光 励起状態の解明が必須であった.本章では,写真用色素のよ うに高濃度凝集状態で使用される有機色素材料の分光測定に 有用なモデル化手法を紹介し,耐光性の支配因子とその改良 について述べる.
3.2 高濃度凝集体のモデル化
写真用色素のモル吸光係数(ε)は
20,000–50,000 cm
–1・M
–1 で あ る た め,銀 塩 感 光 材 料 の油 滴 中に 相 当 す る 濃 度(
0.5–5 mol/L
)で分光測定が可能な光学濃度を得るためには光路長
0.1–1
μm
程度のセルが必要となる.従来は,発色膜(発色させたカラーペーパー),色素分散膜(乳化分散した色素の 塗布膜)や濃厚オイル薄膜を用いて測定を行っていたが,発 色膜は発色現像反応由来の夾雑物の影響(現像反応由来の夾 雑物は,写真用色素と比較して非常に強い蛍光を発する)に より定量的な測定が困難であり,色素分散膜や濃厚オイル薄
膜は調製が煩雑なうえに,試料調製に数
g
の色素が必要なた め,企業における新規色素材料の開発研究に用いるのは現実 的に困難であった.このような理由から,カラー写真用色素 のような高濃度凝集体の光励起状態を詳細に解析した例は世 の中でも極めて少なかった.調査の結果,有機ナノ粒子調製法として東北大中西研究室
の
Kasai
らによって考案された再沈法 11)を用いて,写真用色素の分光解析モデルを構築することを検討した.再沈法と は,ナノ粒子化したい有機材料の溶液を温度や攪拌条件を制 御した貧溶媒中に注入することにより有機ナノ粒子を調製す る手法である.調製条件を最適化することにより,粒子サイ ズと色素濃度をそれぞれカラーペーパー中の油滴と同じにす ることに成功した.得られたナノ粒子分散液は光学的に透明 で分散剤などの添加剤無しで長期間安定であり,各種分光測 定に適したものであった(
Fig. 9
).構築したモデルを検証す るため,ナノ粒子分散液とカラーペーパー系で測定した吸収 スペクトルと蛍光スペクトルを比較したところ,両者がよく 一致した 12).以上より,再沈法を用いることにより銀塩カラー 写真の画像形成色素のように高濃度凝集状態で使用される有 Fig. 7 Jablonski diagrams of linear trans-quinacridone, (a) nanoparticles (dispersion liquid) and (b) molecules (dilute solution).Fig. 8 Concentration dependence of lightfastnes of New Dye-1 (open circle) and Conventional Dye-1 (closed circle).
Fig. 9 Photographs of dispersion liquid of the nano-particles comprising azomethine dyes and oils (plasticizer) prepared by the reprecipitation method.
機色素材料の分光解析モデルを構築できることがわかった.
3.3 光励起状態と耐光性支配因子
調製した写真用色素のナノ粒子分散液(以下,モデル系と 呼ぶ)を用いて,実用濃度域における吸収スペクトルと蛍光 スペクトルの濃度依存性を調べた.
Fig. 10
に示すように,耐 光性が低下する濃度領域で吸収スペクトルと蛍光スペクトル がともに長波化する現象が観測された.その程度は蛍光スペ クトルで顕著であり,希薄溶液と比較して実用濃度域では約60 nm
レッドシフトすることが明らかになった.観測されたレッドシフトは,例えば会合のような分子間相互作用による ものと考えられる.
Fig. 11
に,実用濃度域における蛍光スペ クトルの置換基依存性を調べた結果を示す.電子供与性の置 換基を導入すると蛍光の発光極大波長は変化しないが,蛍光 強度(強度を吸収したフォトン数で規格化してあるので,蛍 光の相対量子収率に相当)が低下することがわかった.また,蛍光強度の低下に対応して
S
1寿命も短くなることがわかった(
New Dye-2:
τ=119 ps, New Dye-4:
τ=45 ps
) 12).以上の実験結果から,
1,1-
ジオキソ-1,2,4-
ベンゾチアジアジ ン型イエロー色素の耐光性支配因子に関して,①高濃度凝集 状態で会合が進むと耐光性が悪化する,②会合体のS
1寿命が 長いほど耐光性が悪化することが示唆された.現象を定量的 に理解するため,会合の程度の指標としてレッドシフトの大 きさ(Δλ:実用濃度と希薄溶液状態での蛍光の発光極大波長 の差)を,S
1寿命に関しては測定が容易な蛍光強度(相対量 子収率:φF'
)を用いて耐光性との関係を調べた.約50
種類 の代表的な色素のモデル系で測定した蛍光挙動(ΔλとφF'
) と実感材系で評価した耐光性(光褪色速度)の関係を基準化 などの統計処理を行い重回帰分析した結果をFig. 12
に示す.重相関係数
r=0.949
と両者が非常に良く相関することがわ かった.寄与率(r
2)が0.902
であることから,色素の耐光 性の主な支配因子は,会合の程度と会合体のS
1寿命であると 結論した.また,標準偏回帰係数は,レッドシフトの大きさ(Δλ)に関する値が
0.71
,蛍光強度(相対量子収率φfl)に関 Fig. 10 Concentration dependence of absorption- and fluorescencespectra of New Dye-1 measured by the model system. From the shorter wavelength, dye concentrations are 0.05 mM (dilute solution), oil/dye=3.5:1, oil/dye=2.0:1, oil/dye=0.8:1, oil/dye=0.1:1, respectively.
Fig. 11 Fluorescence spectra of the new yellow dye aggregates measured in the model system. Structures of substituent R: Dye-1; -H, Dye-2; -Cl, Dye-3; -CH3, Dye-4; -OCH3, respectively.
Fig. 12 Multiple regression between red shift and fluorescence intensity on some 50 new yellow dyes.
する値が
0.51
であり,会合の程度が耐光性に与える影響が6
割程度,会合体のS
1寿命が耐光性に与える影響が4
割程度と 両因子が大差なく耐光性に影響していると推定した.3.4 耐光性改良
上記の結果から,耐光性の改良には立体効果による会合抑 制と電子効果による
S
1状態の消光が有効であると考え,色素 構造の改良を進めた.会合を効果的に抑制するため,発色に 関与する部分構造のみからなるモデル色素を合成し,そのX
線結晶構造解析から会合部位を推定した.解析の結果,モデ ル色素の現像主薬部とアニリド環部にπ-
πスタックがあるこ とが示唆された.π-
πスタックが観測された部位に,嵩高い 置換基を導入したところ,Fig. 13
に示すようにレッドシフト の程度が小さくなる様子が観測され,対応して耐光性が向上 することがわかった.S
1状態を消光するにはエネルギー移動 消光と電子移動消光が考えられるが,例えばフェルスタータ イプのような高効率なエネルギー移動を起こすためには,色 素の蛍光と重なる波長領域,すなわち可視域に強い吸収を持 つ化合物が必要となるため,カラーペーパー用途には適さな い.そこで,電子移動消光を念頭に改良を進めた.検討の結 果,Fig. 14
に示すように置換基R
をO
原子連結からS
原子 連結に変更すると,蛍光の極大波長はほとんど変化しないが蛍光強度が減少し,対応して
S
1寿命も短くなり,耐光性が向 上することがわかった.S
原子の効果に関しては,重原子効 果によるT
1状態を経由した励起状態の緩和促進や分子内電 子移動による消光が考えられる.詳細は明らかに出来ていな いが,色素のT
1状態は検出されていないこと,およびS
原 子は–2
,+4
,+6
価の状態をとりうることから,分子内電子 移動による色素会合体のS
1消光が起こっている可能性が高い と推測している.3.5 小結
モデル系での光励起状態解析から,耐光性支配因子を明ら かにすることができた.得られた知見をもとに立体効果によ る会合抑制と電子効果による
S
1消光を行い,1,1-
ジオキソ-
1,2,4-
ベンゾチアジアジン型イエロー色素の耐光性を従来使用されていたアシルアセトアニリド型色素同等以上に改 良することに成功した(
FUJICOLOR EVER-BEAUTY PAPER TYPE
Ⅱなどで実用化).4. 光ディスク用色素
4.1 背景と目的
一般家庭でもよく用いられている
CD-R
やDVD-R
の記録 Fig. 13 Steric effects caused by bulky substituent on fluorescence spectra.Fig. 14 Electronic effects caused by S atom on fluorescence spectra.
材料として,有機色素材料が使用されている.吸収波長の制 約や耐久性の観点から
CD-R
では主にフタロシアニンや含金 属アゾ色素が使用されているが,DVD-R
では吸収を短波化 することが難しいフタロシアニンはほとんど使用されてお らず,含金属アゾ色素が用いられることが多い 13).弊社では,吸光係数が大きく,吸収波形がシャープで,紫外域から近赤 外域まで比較的容易に吸収極大波長を調整できるオキソノー ル色素に着目し,世界に先駆けて
1–16
倍速記録が可能なDVD-R
メディアの開発に成功した(オキソライフ色素 14)).オキソライフ色素開発上の最大の課題は,耐光性の改良で あった 15).弊社で以前に行った
CD-R
用シアニン色素の開発 において,耐光性向上に電子受容性であるTCNQ
誘導体が有 効であることを見出している 16).この知見をもとに探索を 行った結果,オキソノール色素のカウンターカチオンとして4,4'-
ビピリジニウムを用いると色素の耐光性が大幅に向上し,含金属アゾ色素同等以上に改良できることがわかった
17).本章では,
4,4'-
ビピリジニウムによるオキソノール色素 の耐光性向上機構について解説する.4.2 色素の励起状態と消光剤の選択
光ディス用有機色素材料は,基盤上にスピンコートされた 状態で使用される.実際の使用形態におけるオキソノール色 素(
O-1
)の光励起状態の特性を明らかにするため,石英ガ ラス上にO-1
をスピンコートすることにより作成した薄膜試 料を用いて光励起状態の解析を行った.O-1
の吸収極大波長は
580 nm
であり,吸収スペクトルと蛍光スペクトルの交点から求めた
S
0-S
1のバンドギャップは199 kJ/mol
であった(
Fig. 15
).蛍光の量子収率は0.001
程度と微弱であったため,過渡吸収法により励起状態のダイナミクスを解析したとこ
ろ,
S
1(τS=1.4 ns
)からT
1へ項間交差するパスと光異性化 するパスがあることがわかった.また,自己増感反応によっ て耐光性悪化の要因となる一重項酸素を生成することが判明 した.O-1
のS
1を電子移動消光するには,適切な電位を有する消 光剤の選択がポイントとなる.O-1
のS
1状態における酸化還 元電位は,サイクリックボルタンメトリー法などの電気化学 的手法で求めた基底状態の酸化還元電位と前述したS
0-S
1の バンドギャップから見積もることが出来る 18).算出したS
1 状態における酸化還元電位(–1.07 V vs SCE
)をもとに消光 剤の探索を行い,電子受容体としてより貴な酸化還元電位(
–0.33 V vs SCE
)を有する4,4'-
ビピリジニウム(4,4'-bpy
)を 選択した.4.3 耐光性改良機構
O-1
単独,およびO-1
と4,4'-bpy
からなるスピンコート膜 の電子吸収スペクトルと蛍光スペクトルをFig. 16
に示す.O-1
単独膜と4,4'-bpy
混合膜の可視領域の電子吸収スペクトFig. 15 (a) Absorption- and fluorescence spectra of the oxonol dye (O-1) and (b) the structure of O-1.
Fig. 16 (a) Absorption- and (b) fluorescence spectra of O-1 and 4,4'- bpy mixed film.
ルが一致することから,
O-1
と4,4'-bpy
は基底状態では相互 作用していないことがわかった.また,O-1
に4,4'-bpy
を添 加すると蛍光が消光されることから,4,4'-bpy
はO-1
のS
1状 態と相互作用していることが示唆された.O-1
のS
1状態から4,4'-bpy
への電子移動反応が起こってい るか明らかにするため,フェムト秒過渡吸収法を用いて光反 応初期過程の解析を行った.O-1
単独および4,4'-bpy
混合膜 の過渡吸収スペクトルをFig. 17
に示す.O-1
単独膜では460–540 nm
領域にブリーチが観測されたが,4,4'-bpy
混合膜 では同じ波長領域に過渡吸収が観測された.この波長領域には
4,4'-bpy
の1
電子還元体の吸収があることから(別途,分光電気化学測定で確認),観測された過渡吸収を
O-1
のS
1状 態から4,4'-bpy
への電子移動反応で生じた4,4'-bpy
の1
電子 還元体の吸収であると帰属した.また,過渡応答より,O-1
のS
1から4,4'-bpy
へ時定数4 ps
で高速電子移動が起こってい ることが明らかになった.電子移動消光で色素の耐光性を向上させるためには,
1
段 目の電子移動で生じた1
電子還元体(この場合,4,4'-bpy
の1
電子還元体)から1
電子酸化体(この場合,O-1
の1
電子酸 化体)へ速やかに逆電子移動反応が起こり,色素の基底状態 を生成する必要がある.そこで,1
段目の電子移動で生成し たO-1
の1
電子酸化体と4,4'-bpy
の1
電子還元体のダイナミ クスを調べた.Fig. 18
の過渡応答に示すように,O-1
の1
電 子酸化体と4,4'-bpy
の1
電子還元体ともに同じ時定数(4 ns
) で減衰することから,4,4'-bpy
の1
電子還元体からO-1
の1
電 子酸化体へ速やかに逆電子移動が起こり,O-1
と4,4'-bpy
が 基底状態に戻ることがわかった.このことから,狙い通り,O-1
のS
1状態が4,4'-bpy
によって電子移動消光されているこ とが明確になった 19).Fig. 17 Time-resolved transient absorption spectra of the oxonol dye (O-1) (a) without, (b) with 4,4'-bipyridinium (4,4'-bpy). (c) Transient response of S1 state of O-1 with 4,4'-bpy. The Excitation wavelength was 610 nm.
Fig. 18 Transient response of (a) one-electron reductant of 4,4'-bpy and (b) one-electron oxidant of O-1. The detection wavelength was 500 nm and 730 nm respectively.
4.4 小結
以上の知見をもとに作成した
O-1
と4,4'-bpy
のJablonsky diagram
をFig. 19
に示す.O-1
は,S
1状態からT
1へ項間交差 し反応活性に富む1O
2*
を生成するなどするが,4,4'-bpy
を共 存させるとO-1
から4,4'-bpy
への電子移動反応と逆電子移動 反応が速やかに進行し,O-1
のS
1状態を消光できることがわ かった.O-1
の励起状態を電子移動消光することにより耐光 性を向上させ,オキソノール色素をDVD-R
用記録材料とし て実用化することに成功した.5. まとめ
有機色素材料の耐光性と光励起状態に関する我々の知見を 紹介した.今回述べたキナクリドン顔料,写真用色素,およ び光ディスク用色素の共通点として,光励起状態を速やかに 失活させることにより耐光性が向上していることが挙げられ る.写真用色素は分子構造を最適化することにより,また,
光ディスク用色素は添加剤を用いて励起状態の消光と耐光性 向上を達成した例である.本稿が有機色素材料の耐光性改良 研究の参考になれば幸いである.
謝 辞
本稿は,富士フイルムの共同研究者とともに行った研究成 果をまとめたものである.特に,時間分解分光測定は,横山 裕研究員,森淳一研究員,田邊守研究員らが行った成果であ る.また,有機ナノ粒子の調製に関しては,東北大学多元物 質科学研究所の中西八郎客員教授,及川英俊教授,笠井均准 教授,増原陽人助教にご指導いただいた.さらに,この内容 をまとめるにあたり,東北大学多元物質科学研究所の宮下徳 治教授,三ツ石方也准教授,松井淳助教にご指導いただいた.
ここに感謝の意を表します.
参 考 文 献
1)水口 仁,日本写真学会誌,70, 268 (2007).
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Miyashita, J. Photochem. Photobiol. A: Chem., 201, 208 (2009).
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17)Y. Inagaki, S.Morishima, K.Wariishi, N.Saito, M.Akiba, J. Mater.
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18)小林 宏編訳,“光電子移動”,丸善株式会社,1997, p. 37.
19)(a)M. Tanabe, H. Yokoyama, Y. Miyashita, J. Photochem. Photobiol.
A: Chem., submitted.
(b)田邊 守,横山 裕,宮下陽介,2008年光化学討論会 講演要 旨集,p. 218.
Fig. 19 Jablonski diagrams of (a) the O-1 and 4,4'-bpy mixed film and (b) the O-1 film.