電気化学クロマトグラフィーを用いたオンカラム酸化還元化学種変換による選択的分離
日大生産工(院)○小市 孔大 アリゾナ州立大 Marc D. Porter 日大生産工 齊藤 和憲 日大生産工 澁川 雅美
【緒言】
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)は,優 れた分離分析技術のとして評価されている。し かし,近年,分析対象となる物質の数は加速度 的に増加しており,複雑なマトリクスが共存す るサンプル中から極微量の目的物質を正確に 分離定量することが要求されている。この要求 に応えるべくこれまでに様々な分析手法の開 発がなされている。これまでにPorterらは,液 体クロマトグラフィーの分離場であるカラム に電気化学的作用場を導入し,固定相と試料成 分の静電的相互作用に基づいてイオン性化合 物の保持を制御する電気化学クロマトグラフ ィー(EMLC)を報告した1,2)。EMLCは,電気化 学と分離化学を融合したユニークな分析法で あり,イオン交換容量可変のイオン交換クロマ トグラフィーと考えることができる。しかし,
この方法では従来のイオン交換クロマグラフ ィーと同様な分離しか得られず,新たな分離選 択性の獲得は期待できない。
一方で,最近,Shibukawaらは,多孔質グラ ファイトカーボン(PGC)が,酸化還元作用を示 すことを明らかにし,これを利用して一般に反 応速度の小さい酸化還元反応を HPLC に導入 したシステムを報告した3)。本研究では,EMLC を用いて分析対象化合物の酸化還元反応を PGC 固定相で接触的に高速で引き起こし,印 加電位を制御することにより酸化還元反応を 二次的化学平衡(SCE)4)として利用するオンカ ラム酸化還元化学変換HPLCを構築すること
を目的としている。
【実験方法】
分離カラムは,BTR Carbon(3.5 m)を実験室 で充填した EMLC カラムを使用した。溶離液 は,pH6.0 に調整した 0.1 M リン酸緩衝溶液 /20 % (v/v)アセトニトリル−水混合溶媒を用い,
窒素ガスでバブリングしながら 0.4 ml/min で 通液した。外部電位の印加には,北斗電工製
HA-151ポテンショスタットを用いた。試料化
合物は,0.1 mMに調製したカテコール,レゾ ルシノール,ヒドロキノン,ドーパ,チロシン を用い,サンプルループ体積は 5 l とした。
検出は,UV検出器を用いて220 nmで測定し た。
【結果および考察】
印加電位に対する各モデル化合物のピーク 面積および保持係数の関係を Fig. 1 に示す。
チロシンを除く化合物は,それぞれ特定の電位 を印加した際にピーク面積および保持係数に 変化が生じた。これは,それぞれ対応する印加 電位で化学種の変換が生じ,それにともない保 持係数が変化したためと考えられる。チロシン については,EMLCにおける印加電位では,化 学種の変換が生じなかったため保持係数も変 化を示さなかったと考えられる。さらに,可逆 的な酸化還元反応を示す化合物として知られ るヒドロキノンについては,Eapp= 50,75,100 mV においてヒドロキノンとその酸化体であ
る p-ベンゾキノン両者の平衡混合物としてカ
ラム内を移動していることが明らかとなった。
On-Column Redox Derivatization Using Electrochemically Modulated Liquid
Chromatography: An Approach to Enhancement of Separation Selectivity
Kohta KOICHI, Kazunori SAITOH, Marc D. PORTER and Masami SHIBUKAWA
これは,各印加電位におけるヒドロキノンと p-ベンゾキノンの濃度分率をピーク面積およ び保持係数から算出した値が互いに良く一致 したことから支持される。さらに,カテコール についてもピーク面積より平衡混合物として 溶出していることが示唆されたが,化学種の変 換前後で保持係数にほとんど差が生じなかっ たため解析が困難であった。
そこで,両者について,より詳細な酸化還元 挙動の知見を得るために,サイクリックボルタ ンメトリーを用いて酸化還元挙動を検討した。
その結果をFig. 2に示す。ヒドロキノンでは,
明瞭な酸化還元ピークを観測することができ,
3 回連続して得られたボルタモグラムにほと んど変化がみられなかったことから可逆的な 酸化還元反応を示すことがわかる。得られたボ ルタモグラムより酸化還元電位は,0.142 Vで あり,EMLCにおいてヒドロキノンが,p-ベン ゾキノンとの平衡混合物として溶出する際の 印加電位と近接した値を示した。カテコールに ついては,明瞭な酸化還元ピークが観測された が,酸化ピークに対して還元ピークの強度が小 さく,測定を重ねるにつれてピーク電流が減少 傾向を示した。このことより,カテコールでは,
電位を印加することにより酸化還元反応は進 行するが,その反応は可逆的ではないと考えら れる。
最後に,本システムを用いて5種モデル化合 物の混合試料の分離を行ったクロマトグラム
をFig.3に示す。これより,印加電位0 mVの
ときには,ドーパとチロシン,カテコールとレ ゾルシノールにほとんど保持の差がないため 相互分離することは困難であったが,+300 mVの電位を印加すると,ドーパ,レゾルシノ ール,カテコールについては,不可逆的な酸化 反応により化学種を変換して,またヒドロキノ ンについては,p-ベンゾキノンとの平衡混合物 として保持時間を制御することで分離できる ことが明らかとなった。
【参考文献】
1) J. A. Harnisch, M. D. Porter, Analyst, 126 (2001) 1841
2) L. M. Ponton, M. D. Porter, Anal. Chem., 76 (2004) 5823
3) M.Shibukawa, A. Unno, T. Miura, A. Nagoya, K. Oguma, Anal. Chem., 75 (2003) 2775
4)
J. P. Foley, W. E. May, Anal. Chem., 59 (1987) 102Fig.2 Cyclic voltammogram of hydroquinone(a) and catechol(b). Scan rate; (a) 1 mV/s, (b) 10 mV/s
Fig.3 Separation of catechol(1), resorcinol(2), hydroquinone(3), DOPA(4) and L-tyrosine(5) by EMLC.
Applied potential; (a) 0 mV, (b) 300 mV
Fig.1 Dependence of peak area and retention factor of catechol, resorcinol, hydroquinone, DOPA and L-tyrosine on applied potential.
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
Retention time/min 3
0 1 2 4 5 6 7 8 9 10 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
Absorbance (-)
(a) (b)
4,5
3 1,2
5
1 4
2 3
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 00 11 22 33 44 55 66 77 88 99 1010
Retention time/min 3
0 1 22 3 4 5 6 7 8 9 10
0 1 4 5 6 7 8 9 10 00 11 22 33 44 55 66 77 88 9 109 10
Absorbance (-)
(a) (b)
4,5
3 1,2
5
1 4
2 3
Retention factor
0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4 4.5
-300 -200 -100 0 100 200 300 400 500
catechol resorcinol hydroquinone DOPA L-tyrosine
Eapp/mV Eapp/mV
Peak area/Vs
0 5 10 15 20 25
- 300 -20 0 -10 0 0 10 0 2 00 300 40 0 5 00
catechol resorcinol hydroquinone DOPA L-tyrosine
-300 -200-100 0 100 200300 400500 0
10 15 20 25
5
-300 -200-100 0 100 200300 400500 0
1.0 3.0 4.0 4.5
2.0 3.5
0.5 1.5 2.5
Retention factor
0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4 4.5
-300 -200 -100 0 100 200 300 400 500
catechol resorcinol hydroquinone DOPA L-tyrosine
Eapp/mV Eapp/mV
Peak area/Vs
0 5 10 15 20 25
- 300 -20 0 -10 0 0 10 0 2 00 300 40 0 5 00
catechol resorcinol hydroquinone DOPA L-tyrosine
-300 -200-100 0 100 200300 400500 0
10 15 20 25
5
0 5 10 15 20 25
- 300 -20 0 -10 0 0 10 0 2 00 300 40 0 5 00
catechol resorcinol hydroquinone DOPA L-tyrosine
-300 -200-100 0 100 200300 400500 -300 -200-100 0 100 200300 400500 0
10 15 20 25
5
-300 -200-100 0 100 200300 400500 -300 -200-100 0 100 200300 400500 0
1.0 3.0 4.0 4.5
2.0 3.5
0.5 1.5 2.5
0 1.0 3.0 4.0 4.5
2.0 3.5
0.5 1.5 2.5
-15 -10 -5 0 5 10 15
-1.5 -1 -0.5 0 0.5 1 1.5
-3 -2 -1 0 1 2 3
- 1.5 -1 - 0.5 0 0.5 1 1.5
Potential/V (vs. Ag/AgCl)
Current /mA
1st2nd 3rd --1.51.5 -1-1 --0.50.5 00 0.50.5 11 1.51.5 -
-1010 --55
0 0 10 10 5 5
- -1515
15 15
1st2nd 3rd -
-1.51.5 --11 --0.50.5 00 0.50.5 11 1.51.5 -
-22 --11 0 0 2 2 1 1
- -33
3 3
(a) (b)
-15 -10 -5 0 5 10 15
-1.5 -1 -0.5 0 0.5 1 1.5
-15 -10 -5 0 5 10 15
-1.5 -1 -0.5 0 0.5 1 1.5
-3 -2 -1 0 1 2 3
- 1.5 -1 - 0.5 0 0.5 1 1.5
Potential/V (vs. Ag/AgCl)
Current /mA
1st2nd 3rd 1st2nd 3rd --1.51.5 -1-1 --0.50.5 00 0.50.5 11 1.51.5 --1.51.5 -1-1 --0.50.5 00 0.50.5 11 1.51.5 -
-1010 --55
0 0 10 10 5 5
- -1515
15 15
- -1010 --55
0 0 10 10 5 5
- -1515
15 15
1st2nd 3rd 1st2nd 3rd -
-1.51.5 --11 --0.50.5 00 0.50.5 11 1.51.5 -
-1.51.5 --11 --0.50.5 00 0.50.5 11 1.51.5 -
-22 --11 0 0 2 2 1 1
- -33
3 3
- -22 --11 0 0 2 2 1 1
- -33
3 3
(a) (b)