236 (236〜239) 小児保健研究 第60園日本小児保健協会学術集会 シンポジウム4・
健やかな成育のための食育を考える
脂肪酸代謝からみた思春期栄養について
阿 部 百合子(日本大学医学部小児科学系小児科学分野)
1.はじめに
近年,小児の肥満は世界的な問題となっている。小 児肥満の増加は,将来の冠動脈疾患の増加や発症の早 期化に繋がると予想されており,深刻な問題である。
われわれが摂取する脂質のほとんどはトリグリセ ロールであり,これは1つのグリセロールに3つの脂 肪酸が結合することで形成されている。最近の肥満に 関する研究では,血中や組織中の脂肪酸組成が,メタ ボリックシンドロームや心血管疾患インスリン抵抗 性,2型糖尿病に関係すると報告されている。
皿.飽和脂肪酸と一価不飽和脂肪酸の動態
飽和脂肪酸で主なものはパルミチン酸とステアリン 酸であり,体内ではSCDという不飽和化酵素によっ て二重結合が導入され,パルミトレイン酸とオレイン 酸に生成される(図1)。このため,ステアリン酸と オレイン酸の比率,パルミチン酸とパルミトレイン酸 の比率は,SCD活性を示す指標とされている。近年,
飽和脂肪酸やパルミトレイン酸の増加は動脈硬化に影 響すると報告されているが,それだけではなく,SCD 活性が脂肪合成を高め,インスリン抵抗性に関与して いることがわかってきた。
ll.脂肪酸とは
脂肪酸は炭素と水素と酸素の3種類の元素で構成さ れ,炭素が鎖状に繋がった一方の端にカルボキシル基
(−COOH)が付いた構造である。この中で二重結合が ない脂肪酸は飽和脂肪酸,二重結合のある脂肪酸は不 飽和脂肪酸と呼ぶ。さらに,二重結合が1個の脂肪酸
を一価不飽和脂肪酸と呼び,2個以上有する脂肪酸を 多価不飽和脂肪酸と呼ぶ。組織中における脂肪酸の組 成は,食事の影響を受けることはもちろんだが,年齢 によっても変化している。さらにstearoyl−CoA desat−
urase (SCD)やdelta−6 desaturase(D 6 D), delta−5 desaturase(D 5 D)といった不飽和化酵素活性の影響 も受けている。脂肪酸は生体内では重要なエネルギー 源となり,また生体膜脂質の構成成分でもあるため生 命の維持に必須である。しかし,生体内における脂肪 酸組成の動態は未だ不明な点も多く,さらに小児肥満 に関する報告は限られているのが現状である。
炭水化物■⇒アセチルCoA 脂肪組織 食事
l ll
パルミチン酸一_________⇒ステアリン酸 C16:0 C18:0
1−−yLC罐一一1
パルミトレイン酸 オレイン酸 C16:1n−7 C18:1n−9
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図1 飽和脂肪酸と一価不飽和脂肪酸の動態 (文献2より抜粋一部改変)
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第73巻 第2号,2014 237
n−6系 n−3系
リノール酸 α一リノレン酸 c18:2n・6 c18:3n−3
t−一一∠唱榴1「ase−一⇒1
r・リノレン酸 ステアリドン酸 c183n−6 c18ニ4n・3
1 1
ジホモーγ・リノレン酸 エイコサチトラエン酸 c2o:3n.6 c2o:4n−3
1−一一一A.5d。、at.,a、e−一⇒1
アラキドン酸 (D5D> エイコサペンタエン酸
C20:4n−6 C205n・3
/1 t
・プ認㌶完1−一一∠唱漂1「ase−1
占7ごご芸㌫笛1
t
ドコサヘキサエン酸 c22 6n−3 t 図2 多価不飽和脂肪酸の動態 IV.多価不飽和脂肪酸の動態
多価不飽和脂肪酸は,2つ以上の二重結合を持つ脂 肪酸であり,生体内や食物に広く存在している。多価 不飽和脂肪酸の中で,鎖状に結合した3個目の炭素に 二重結合があるものをn−3系多価不飽和脂肪酸 6 個目の炭素に二重結合があるものをn−6系多価不飽 和脂肪酸という。n−3系多価不飽和脂肪酸は魚類に 多く含まれるが,近年,このn−3系多価不飽和脂肪 酸の摂取が動脈硬化性疾患の予防に有用であることが 明らかになってきた。また,n−6系多価不飽和脂肪 酸は,プロスタグランジン,ロイコトリエン,トロン
ボキサンなどの炎症を引き起こす化学物質の前駆体と なる。これら多価不飽和脂肪酸の動態は図2に示すよ うに,体内で二重結合を導入する不飽和化反応や炭素 鎖伸長反応の調整を受けている。この一連の反応の律
速酵素が,必須脂肪酸からエイコサノイドへの変換を 調整するD6D, D 5 Dという不飽和化酵素である。
V.SCDと肥満の関係
SCDの研究はこれまで動物実験によるものが多 かったが,岡田ら1)は,SCD活性と肥満小児との関係 を検討した(図3)。一価不飽和脂肪酸であるパルミ トレイン酸は,非肥満小児と比較して肥満小児で上昇 を認めており,SCD活性も肥満小児において上昇を 認めた。また,肥満小児において,パルミトレイン酸 は,内臓脂肪蓄積の指標となる腹囲・腹囲身長比や肥 満度と正の相関を認めた。さらに,肥満小児において,
SCD活性と腹囲は正の相関を認めた。 SCD活性の充 進は肥満増悪因子の1つであり,内臓脂肪蓄積と相関 すると考えられた。
VI.タラ肝油投与の検討
近年の動物実験の結果では,SCD活性は食事・ホ ルモン・環境因子などさまざまな因子によって調節を 受けている2)。その中でも重要なSCD抑制因子と考 えられるのが,n−3系多価不飽和脂肪酸とレプチン である。そこでわれわれは,肥満の小児に対し,
n−3系多価不飽和脂肪酸であるDHAを豊富に含むタ ラ肝油を12週間投与し検討を行った(図4)。
投与前は,DHAが低値である程,肥満度と腹囲身 長比が上昇していた。投与前のDHAが低い群では,
タラ肝油投与後にDHAが増加し, SCD活性が低下 した。残念ながら肥満の改善までは認められなかった
De novo lipogenesis in obese children 非肥満(n=53) 肥満(n=59)
パルミチン酸(Cl6:0)#
パルミトレイン酸(C16:1 n−7)#
SCD活性
23.75±0.99 2.20±0.52 0.09±0.02
25.72±2.37★
3.00±α89t O.12±0.03t
パルミトレイン酸(C16:1)との関係
肥満度 腹囲身長比
r p
O.356 0.0080 0.272 0.0405
肥満小児ではSCD活性が元進している
#:%W/W ★:P<0,01
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SCD活性
図3 SCD活性と小児肥満(文献1より)
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238 小児保健研究
が,今後は,投与量あるいは投与期間について再検討 し,対象をDHA低値でSCDが充進し腹囲身長比が 大きい症例に限ればSCD活性がより低下して治療 効果が期待できる可能性が考えられた。
V皿.脂肪酸組成と体脂肪の縦断的変化の検討
われわれは,小学4年生の小児77人を対象に脂肪酸 組成と体脂肪の調査を行い,さらに同一者を対象とし て,3年後に2回目の調査を行った3)。男女ともに,
腹部肥満の指標となる腹囲身長比の変化は,D6D活 性の変化と正の相関を,D5D活性の変化と負の相関 を認めた(図5)。肥満度の変化では,男児では腹囲
身長比と同じようにD6D活性と正の相関を, D5D 活性と負の相関を認めたが,女児では相関は認めな かった。体格が変化する思春期では,肥満の中でも特 に腹部肥満が,血漿リン脂質中の脂肪酸組成や不飽和 化酵素活性を規定する因子となることが示唆された。
V皿.肥満小児における治療効果と多価不飽和脂肪酸と の検討
岡田らの研究では4),小児の肥満治療において,改 善しなかった群はDHAが低く,D6D活性が上昇し D5D活性が低下していた(表)。また,肥満小児の 血漿リン脂質中の多価不飽和脂肪酸は,体脂肪量や内
ンイ・:・::ザ象齢度量
デ 満与
対一年肥投
イデ
タ 果
ス 結
肥満小児10人 (男児9人,女児1人)
11〜16歳 (12.9±1.5)
37.O〜93.5% (52.0±17.3)
毎日4粒(5、4g, DHA 440mg, EPA 400mgを含む)を12週間投与
3臼2価150霜﹂価2
(≧\≧誤︶<エロ⊆Φ︒︒亀δ
3.544.555.566.577.588,59
DHA at baseline(%W/W)
.015 .Ol .oo5
』 〇
三一.・・5
8 −.01
・…・・°15
§一・°2 δ一・025 −.03
3.544.555.566.577.588,59
DHA at baseline(%W/W)
図4 肥満小児に対するタラ肝油投与の効果
投与前のDHAの濃度が,高値群は白色,低値群は黒色に分けて示す。
.07 .05 .02 0 0
§…
菖・°5
−.08
−,1
−.12
−.15
男児
●
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●
●
i・・
三.
●
●●●●
●
一●一一一一一一一一一一一……一一一
●
;三隅、
.02 、04 .06
.06 .04 .02 ロ 0
‖一・・2一
善一・°4
−.06
−.08
−.1
−.12
−,1
女児
↓ 1 ] 1 1 1 1 1 1
一
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一
二
一 ︐ 一 一 一 − 一 一 一 ︐
●
8 ●8● ●
●
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WHtR:腹囲身長比
図5 脂肪酸組成と体脂肪の縦断的変化の検討(文献3より)
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表肥満小児における治療効果と多価不飽和脂肪酸との 検討(文献4より)
改善(n=27) 改善なし(n−12)
Cl8:2n−6 リノール酸 27.5±3.7 24.3±2.1*
C18:3n−6 γリノレン酸 0.30±0.16 0.50±0.12**
Cl8:3n−3 αリノレン酸 0.51±0.17 0.54±0。23 C20:3n−6 ジホモγリノレン酸 LO6±0.29 L39±0.25**
C20:4n−6 アラキドン酸 599±1、29 4.82±0.81*
C20:5n−3 エイコサペンタエン酸 1.73±1.21 1.14±0.16 C22:6n−3 ドコサヘキサエン酸 3.92±1.00 292±0.86**
D6D活性 0.05±0.02 0.08±0.02***
D5D活性 6.26±2。77 3.55±0.75**
%W/W p<0.05,**pくOOI, * p<0.001 対象:肥満小児35人(男児24人,女児11人),平均年齢:11.8±3.6歳 期間:3〜40週,改善:治療の前後で腹囲が3cm以上減少
臓脂肪量とも相関して変動していた。小児の肥満治療 において,n−3系多価不飽和脂肪酸の含有量, D6D 活性,D5D活性は治療効果に影響を与えていると考
えられた。
lX.ま と め
脂肪酸の不飽和化酵素の変化は腹部脂肪蓄積や肥満 による影響が強いと考えられる。また,魚類の摂取不 足が,肥満の増悪因子となる可能性が考えられた。18 歳以上では,1g/日以上のEPA+DHA摂取が望ま
しいとされており(日本人の食事摂取基準 [2010年 度版]),18歳未満の基準はないが,子どもの頃から魚 を食べる習慣を形成すること等は重要である。また,
思春期・小児期の健やかな成長のためには,その摂取 栄養を考えるうえで,脂肪酸の種類を考慮することは 重要である。
文 献
1)Okada T, Furuhashi N, Kuromori Y, et al. Plas−
ma palmitoleic acid content and obesity in children.
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2)Ntambi JM, Miyazaki M。 Regulation of stearoyl−
CoA desaturases and role in metabolism. Prog Lip−
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3)Abe Y, Okada T, Iguchi H, et al. Association of changes in body fatness and fatty acid composition of plasma phospholipids during early puberty in Jap−
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4)Okada T, Sato N, Kuromori Y, et al. Character一 istics of obese children with low content of arachi−
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